ゴールデンウィーク前後から流行が騒がれている「はしか」。3月の沖縄での感染報告を中心に患者が急増したのち、現在は愛知県や東京都などで感染例が報告されている。はしかは、子どもに比べて大人のほうが重症化しやすいといわれ、特に妊娠中の発症は流産などのさまざまなリスクがあるという。そこで、大人の「はしか」が重症化しやすい理由や、その予防策などについて医師に聞いた。
■例年の5倍超え! 2018年に猛威をふるう「はしか」
各地ではしかの感染報告が寄せられている今、なぜ全国的に流行しているのだろうか。
「今回の大流行のはじまりは、沖縄に来た台湾人旅行者でした。それを皮切りに、沖縄県内で感染が広まってしまった理由のひとつは、春休みと時期が重なった点にあります。はしかウイルスは、インフルエンザウイルスの約10倍の感染力があるので、最初の感染者が観光客として巡った先々で拡散していった可能性も高いです」
そう話すのは、MYメディカルクリニック院長・笹倉渉氏。また、笹倉氏によれば、はしかの初期症状は風邪と酷似しているため、診断が遅れた可能性もあるという。
先日、沖縄では新たな感染報告がなく終息に向かっているという発表があったが、ゴールデンウィーク前後に流行のピークを迎えた同県では、旅行のキャンセルが相次ぎ、多額の損害が出た。
「沖縄の場合、一極に人が集中する場所があまりなかったことが不幸中の幸いです。やはり、空気感染が広がりやすい環境は人混みなので、東京のように人がたくさん集まる場所や電車利用者が多い地域の場合は、さらに感染が広がる可能性があります」(同)
■39度以上の高熱で命の危険も
国立感染症研究所の報告によれば、もっとも多く感染しているのは30〜39歳の32%、次いで20〜29歳で24%(2018年5月16日現在)。いわゆる成人層が多く発症していることがわかっている。北青山Dクリニック院長・阿保義久氏によると、大人のはしかは重症化しやすく、入院するケースも少なくないという。
「この年齢層の人がはしかに感染すると、10日前後で発熱や咳、鼻水など風邪に似た症状があり、その状態が2〜3日続いたのち38〜39度以上の高熱と発疹があらわれます。はしかの高熱による苦痛は命の危険を感じるほど重症化することがあり、そのうち40%ほどの患者が入院を余儀なくされます」
高齢者など、免疫力が低下している場合は中耳炎や肺炎、脳炎に進展して1000人に1人が死に至るとても怖い病なのだ。また、妊娠中の女性は流産のリスクもあるため、さらに注意が必要になるという。
「妊娠中にかかると、流産や早産をきたす可能性があります。妊娠中は予防接種を受けることができないので、ワクチン接種を受けたことがなかったり、はしかにかかった経験がないという妊婦さんは、現在のような流行時には外出を控え、人混みを避けるようにしてください」(同)
はしかは非常に感染力が強く、免疫がない場合は100%発症する、と阿保氏。感染者のくしゃみや咳で飛び散ったウイルスによって感染する飛沫感染や、空気中にあるはしかウイルスを吸い込んでの感染など、人から人へと難なく感染していくという。
では、重症化しやすい大人と比べて、子どもの場合は軽い症状で済むのだろうか。
「たしかに、一般的には大人のほうが重症化しやすいといわれています。仮説ではありますが、子どもと大人の免疫システムの違いが症状の重さに影響しているのではないか、と推測されます。ただし、子どもが発症した場合も、高熱が出て命にかかわることがあるので、油断は禁物です」(同)
患者の年齢にかかわらず、重症化を防ぐには発症後の対応や治療がポイントとなるそう。はしかには、特異的な治療薬がないため、症状が出てからは解熱剤の適正利用が基本的な治療法となるようだ。
「はしかの感染が疑われる場合は、病院に行き、速やかに免疫グロブリン製剤を投与すれば症状を抑えられる可能性がありますが、免疫力が極めて低い患者が対象となるので、あまり現実的とはいえない治療法です。医療機関では症状に応じた対処療法薬を利用します。38度以上の高熱時には解熱剤を処方されることが多いのですが、解熱剤で熱を下げすぎると、免疫力が低下し回復が遅れてしまいます。免疫力を高めるためには、解熱剤の適正利用を心がけてください」(同)
発熱時の体温は37〜38度程度の適度な高熱を維持するのが理想とのこと。ツラいからといって、やみくもに熱を下げてはならないようだ。また、高熱で汗をかいたときの水分補給や、おかゆ、うどんなど消化によい食事をする、といった通常の発熱時と同じ対応のほかに、部屋の温度や湿度にも気を配る必要があるそう。
「室温は20〜25度、湿度50〜60%が適切な環境です。また、発汗後の衣服はこまめに交換しましょう。もちろん、外出はせず、はしかにかかったことのない人や予防接種を受けていない人との接触は避けてください。感染を広げない工夫が必要です」(同)
周囲に感染する期間は、症状が発生する1日前(発疹出現の3〜5日前)から、発疹消失後4日前後まで(解熱後3日程度)とされている。症状発生前は難しいかもしれないが、少なくとも発熱後の外出は避ける必要がありそうだ。
「発疹が消失して4日ほど経過し、かつ解熱後3日がたてば完治といえるでしょう。ちなみに、発熱、発疹などの主症状は7〜10日で回復しますが、免疫力が回復するには1カ月ほど要すると考えられています」(同)
笹倉氏によれば、医療機関によっては待合室感染を防ぐために、はしかの疑いがある患者の診察を受け付けていないケースもあるそうなので、事前の連絡は必須だ。
■はしかのワクチン接種が、沈静化のカギ
感染力が強く、つらい症状に悩まされるはしか。未然に防ぐには、2回のワクチン接種による免疫強化が有効な対策になるという。
「はしかの予防接種によって95%以上の人には免疫がつき、発症を抑えることができます。はしか流行時には人混みを避け、日頃から十分な睡眠や適度な運動、バランスのとれた食事を摂るなどの免疫力を下げない習慣をつけることも大切ですが、現実的に難しい人も多いはず。はしか対策はワクチン接種が最善策といえます」(阿保氏)
平成2年4月2日以降に生まれた人は、小学校入学前までに合計2回のワクチン接種を受けるように勧められているが、それよりも前に生まれた人が受けた、はしかの定期接種は1回のみ。
現在、日本ではしかにかかっている20代後半〜30代は、はしかに感染した経験がなく、ワクチンの定期接種も1回のみという人がほとんど。流行している年齢層の傾向とも合致しているようだ。
「成人でも予防接種を受けることは可能です。ワクチン接種の回数が少なければ、はしかに対する免疫は弱くなるので、一度もはしかにかかったことがない人は、予防接種を受ける必要があります。はしか対策は、まず発症の予防をすることが重要です」(同)
予防接種をしても、10年ほどたつとはしかの免疫が低下するともいわれているので、自分に免疫があるかどうかわからない場合は、医療機関ではしかの血液検査を受けることもできるとのこと。
「実は、妊娠可能女性の場合は、各自治体によって風疹とはしかの混合ワクチンを指すMRワクチンを無料、もしくは助成金の補助を受けられる制度があります。ぜひそうした制度をうまく活用して、はしかに備えましょう」(前出・笹倉氏)
また、多くの人が予防接種を受けることで、日本でのはしかの大流行は防げる、と笹倉氏。今後、はしかの流行はさらに拡大するのか、沈静化に向かうのか……大人たちの“予防意識”がそのカギを握っている。
(真島加代/清談社)
阿保義久(あぼ・よしひさ)
1993年東京大学医学部卒業。その後東京大学医学部附属病院第一外科、腫瘍外科、血管外科などの勤務を経て、2000年に北青山Dクリニックを開設。『尊厳あるがん治療 CDC6 RNAi療法』(医学舎)、『下肢静脈瘤が消えていく食事』(マキノ出版)など著書多数。
・北青山Dクリニック
笹倉渉(ささくら・わたる)
私立藤田保険衛生大学医学部を卒業後、東京慈恵会医科大学付属病院麻酔科助教、北部地区医師会病院麻酔科科長などの勤務を経て、2016年9月にMYメディカルクリニックを開設。クリニックでは内科・外科を担当し「安心・癒し・快適」なクリニックづくりを目指す。
・MYメディカルクリニック