
「金髪の工場長に怒られながらとか仕事してました(笑)」(Phantao)
――今回のアルバム『TWiLiGHT』は、前作と比べてより開けた印象の作品で、ポップミュージックとして秀逸な仕上がりと感じました。まずは初登場ということで、どういうきっかけでこのユニットが生まれたのかを教えてください。 Yuqi:僕は、2007年くらいに前のバンドを解散していて。その後、スピーカー製造を行っている老舗のスピーカーの会社に就職しました。僕は音響一筋で、大学でも音響工学の修士課程を卒業していたので、この会社でエンジニア開発などを担当していました。Phantaoはその会社の同僚で、製造技術を担当している人間だったんです。はじめは社内でお互いに音楽をやっているということを知っていたので、ちょっと意識をしつつ、なんか不気味な笑いを浮かべるやつだなあと思っていました(笑)。 Phantao:気持ち悪いなと思ってたんでしょ(笑)。 Yuqi:就職して何年か経ったとき、会社主催の忘年会で社内にある軽音楽部の一員として、James Bluntの「You’re beautiful」をカバーしたんですよ。僕は風邪を引いてしまって、鼻声で咳が出る中でなんとか一生懸命歌ったんですが、ひどいもんだったんですよね。そしたら終わったあとに彼が歩いてきて、一言「がんばれ」って。 Phantao:上からね。 Yuqi:かなり上から言われてました。その時は少しムカついただけで終わったんですけど、数年後に軽音部内で結成したバンドメンバーの中にPhantaoがいて、そこでじっくりお互いのパフォーマンスを見て、尊敬し合えるようになりました。そんなタイミングで、彼は「ジャズ一本で食っていく。専門学校に入り直す」と言って会社を辞めたんです。 Phantao:すげえバカですよね(笑)。 Yuqi:会社に一回入って、やっぱり音楽で食っていくって、なかなか思えないですよ。その時は「頑張って!」って感じだったんですけど、他の機会で生バンド演奏をやってもらったのを期に、だんだん一緒に音合わせなどをするようになって。 ――スピーカーの会社というと、音にうるさい先輩とかもいそうな熱い環境ですね。 Yuqi:そうですね。もともとその会社っていうのは、体育会系のノリで「おい、気合でこのスピーカーを作るんだ!」くらいの感じだったんですけど、世代が若くなればなるほど、ちょっとインテリっぽい人たちが増えてきた。なので、理論でこれまでやってきた自分にとって、職人的な音の捉え方としての面白い意見もたくさんあって、良い刺激になりました。 Phantao:僕は現場に近い仕事をしていたんで、金髪の工場長にちょっと怒られながらとか仕事してました(笑)。 ――そうした環境で仕事をしていたことは、現在の音作りにどう影響していますか。 Yuqi:僕は、エンジニアをしながら、Hi-Fiスピーカーにも携わっていました。もちろんスピーカーもいっぱい作って聴いていましたし、エンジニアなので毎年秋に開かれている「東京インターナショナルオーディオショウ」で最高級のセットを体感していたりするわけでして。この世界を体感した以上、そういったセットで聴いてもらえるような音楽でありたいと思います。Music Video "Twilight" | UQiYO ウキヨ
「音と出会う体験がすごく重要になってくる」(Yuqi)
――今の二人を形成している音楽は、それぞれどんなものでしょうか。 Yuqi:僕の場合は、北欧やノルウェー、ロンドンやフランスなどに行った経験があったり、90年代の音響系がバックボーンにあって、そこからは北欧の優しくて温かくてちょっと寂しいようなものへと流れ、今に至ります。具体的にアーティスト名を挙げると、Sigur RosやBon Iver、It's A Musicalとかですかね。特にBon Iverなどの、アメリカ系の土臭さや激しさを持った、それでいて優しい音楽にはズキュンときますね。 Phantao:僕は高校くらいからずっとジャズしか聴いていなかったんですが、大学に入ったくらいから色んなバンドをやるようになって、最初にやったのはBrian Switzerのコピーバンドですね。その後はアシッド・ジャズにハマったりという経緯があって、全くロックを通ってないんですよ。バンドもそもそもロックが全然よくわからない状態で始めましたし、今だによくわかっていない。だけど、確認しながらやっているので、今のスタイルは何とか編み出したものという感じです(笑)。 Yuqi:面白いんですよね。ロックじゃないのに、ロックをやろうとしてる感じが逆に。 ――今回のアルバムについては、あまりロックという意識では聴かなかったんですが、二人はロックバンドであるという意識はあるのでしょうか。 Yuqi:制作物ではそうでもないんですが、ライブをしているときにはロックっぽさは出ると思います。 ――Phantaoさんは現行のジャズも聴くんですか? Phantao:最近のものよりも古いもの中心です。大学時代にラテンジャズにのめりこんだ時代があって、その時は、ブラジルとかカリブ系のジャズピアニストを思いっきり聴きあさっていたんですけどね…。 ――そんな音楽的教養のある二人が今回作った作品は、すごくポップで、開かれた良質な音楽です。どのようなリスナーに聴かれることを想定して作ったのでしょうか。 Yuqi:最終的にこうなっちゃった、みたいな感じが強いですね。というのも、僕らはこの二年間かけていろいろなプロジェクトに関わっており、「どういうアプローチで音楽を作っていくが面白いのか」ということは考えていたんです。その結果、「これで稼いで金持ちになってやるぞ」というものを幸せの着地点にすると、おそらく不幸せになるんじゃないかなと思って。どういうところへ行こうかと考えた時に、音楽業界と深くは関わっていないけど、面白いものを作っているクリエイターが沢山いることは知っていたので、その人たちに知ってもらうために、レコードレーベルではなく、デザインスタジオやコワーキングスペースにデモ音源を送っていました。その中から何人か反応があり、一緒に映像作品を作ったことから様々なクリエイターと関わることになりました。 ――そこからUQiYOの特徴でもある、ボトルシップに入れた楽曲やバレンタインソングなどの「一味違った音楽の届け方」が生まれていくわけですね。 Yuqi:音楽という枠に囚われず、何をやるかから考えて、それをやるために最終的に音に落とし込めればいいという考え方になってきたんでしょうね。例えば、今挙げてもらったバレンタインソングは、二ヶ月間かけて、毎週金曜日に男の子の歌と女の子の歌をアップしていって、バレンタイン当日に二つの歌を組みあわせると、一つの楽曲になるというものです。それをきっかけに注目していただいたこともあり、様々なコラボを続けながら曲を作っていって、最終的にできたアルバムの曲がポップになっていたというような感覚なんですよね。 ――現在のように届け方を工夫している背景とは? Yuqi:例えば、今海外でリスニングスタイルのメインになりつつあるSpotifyというものがありますよね。このツールが登場したことにより、全体の4%くらいしかいないメジャーの人だけが、音楽業界における90%ほどの利益を得ている状況になりえるわけです。もしかしたら日本も近いうちにそうなるかもしれない。そうなってくるのであれば、音と出会う体験がすごく重要になってくる気がするんです。もちろん、Spotifyは便利なツールですが、世界では「便利じゃない方がいいものって世の中いっぱいあるよね」という考え方が徐々に広まってきているし、音楽も大量生産大量消費ではなく、一人一人が自分たちにとって“パーソナルな体験としての音楽”を聴くだけではなく経験として受容するというのが、あり方として自然なんですよね。「ポップミュージック」という言葉は、英語で「ポピュラー」、つまり大衆という意味合いになってくるわけですが、近年の音楽は大衆というより公衆のものになりつつあります。公衆って基本的にはお金払わないことが多いじゃないですか。公衆トイレが分かりやすい例だと思うんですけど、音楽もそういう感覚になっているのかもしれない。 ――音楽が公共=パブリックなものになりつつあると。 Yuqi:そうなると、ユーザーはお金を払う感覚がなくなってくると思いますし、現に罪の意識も持たずに「ダウンロードすればいいんじゃないの?」という若者も多い。僕らはそんな中で、「ひとりの人に届けるパーソナルな音楽」であるべきなのかなって思いました。だって、みんなそれぞれ、個人的なストライクゾーンに入ってきた音や作品は、全く躊躇せずにお金を払う気がしていて。たとえばジブリ映画。彼らの作品は興行収入も良いため、ポップだと思う方も多いですが、実際はすごくパーソナルな映画だと思うんですよ。宮崎駿の個人的な趣味趣向や哲学が盛り込まれまくっているものの、トータルクオリティーで全部持って行く感じも含めて。ただ、彼らの映画って、見る人見る人で感想は全然違うし。それぞれの人がパーソナルな感想を抱いているわけです。
「みんながハッピーでいられるような形を目指したい」(Yuqi)
――では、さまざまな趣向を凝らした届け方も、パーソナルな体験を生み出すためのきっかけ作りだと。 Yuqi:そうだと思います。例えばボトルを使った届け方に関しては、秋口に注文してくれた方の手元に届くように、柑橘系の香水とQRコード付きの手紙を入れました。香りを柑橘系にしたのは、「夏に作って、秋に届くように海に投げました」という設定で作っていたからです。実物に関しては、ボトルを開けたら少し夏の香りがして、手紙を取ると、中にQRコードが入っていて音楽が聴ける。その体験っていうのが、音楽には大事なのかなと思い、やってみた企画ではあります。ボトルは買ってきたものをエイジング加工したり、コンクリートに擦り付けたりして、百本限定で作ったものは、ありがたいことにすぐ売り切れました。 ――かつては、「音源が全てを支える」という考え方が音楽ビジネスの根本にありましたが、今はそうとは言い切れない状況があります。そんな中、改めてアルバムと向き合って「作品を作る意味」についてどう考えますか。 Yuqi:僕らは、やはりまだポピュラリティーとしての力が弱いので、どれだけ面白いことをやろうとも、それを知ってもらうことが難しい。ただ、これをみんなに伝えるのが僕らの仕事であり、なにより一緒に僕らとやってくれている方にも申し訳がない。なので、そのためには気合を入れて、見つけてもらう数を増やしたい。そういったことが今回のアルバムの位置づけなんです。 Phantao:今回のアルバムは音楽的にも開放されているものなので、そういう意味でいろんな人に聴いてほしいです。 Yuqi:こんな音楽もあるんだよ、こんな映像もあるんだよっていういろんな人への投げかけという意味もありますね。あと、音源って僕らにとって広告の一つでもあると思うんです。僕らのファンクラブには、『ウキヨノヲト』というサービスがあって、加入すれば僕らの音源を過去作から聴き放題ができる。ただ、今作をいきなりタダで配信しちゃうかといえばそうではなく、次のアルバムが出た時に前のアルバムのやつをタダで出すとか、そういう仕組みをちょっと作って、みんながハッピーでいられるような形を目指したいですね。 ――それがまたファンクラブ加入のきっかけになってくると。Spotify をはじめとしたサブスクリプションサービスは大変便利ですが、あれは公衆=パブリック的な意味合いを持つサービスという捉え方でしょうか? Yuqi:まさに、まさに。かといってね、不便にすればいいっていうものではないじゃないですか。なので、携帯端末でアクセスすれば聴けるというものなどにしていくと良い落としどころになるのかもしれません。 Phantao:何でも簡単に聞けちゃうと、そんな聞かなくなりますよね。(後編に続く) (取材・文=神谷弘一、中村拓海)
UQiYO『TWiLiGHT』









