
開催日には市が立つ、広い駐車場。左側が常設の犬肉、犬料理屋。
(前号、
ミアリから続く)
ソウル3日目の朝、窓のないゲストハウスの二段ベッドの上段で目が覚めた(いきさつはvol.02
永登浦参照)。
真っ暗な中、手探りでハシゴを降りると足が痛い。筋肉もそうだが、右の足裏に水ぶくれができていて、そこが一番痛い。本日がソウル取材最終日なので、なんとかあと1日持ってくれればいいのだが……。
昼近くに宿を出て向かったのは、韓国名物の市場である。といっても、ファッションの発信基地・東大門市場でも、メガネと激安革ジャンの南大門市場でもなく、地下鉄「牡丹(モラン)」駅近くにあるモラン市場である。その市場で売られているもの、それは「犬」だ。
犬市場といっても、ペットショップではない。ご存このように朝鮮半島には犬食文化があり、「ポシンタン(補身湯)」と呼ばれる鍋料理が有名だが、その具となる食肉用の「犬」が売られているのだ。本来、市が立つのは毎月4日と9日だが、常設の犬屋さんもあるというので行ってみることにした。
牡丹駅でピョ氏と落ち合い、地上に出ると、その途端、麦焦がしのような甘く香ばしい匂いが漂ってきた。
「香辛料の匂いですね。犬肉の臭いを消すために使うんです」
犬肉の臭いとは、羊みたいな獣臭ということか? ピョ氏が言うように、駅から市場までの路地に並ぶ店では香辛料を売っているのだが、束ねたムカデのような虫も売っているのが気になった。

店の前にある檻は、単なる犬小屋ではない。そして、右の冷蔵ケースの中にある肉は……。
車がポツポツ停まっている大きな駐車場があり、開催日にはそこにテントが張られて市場になるらしい。その隣には常設の店があり、店前の檻の中には柴犬のような茶色い毛並みの犬が数頭入れられている。近くを通ると吠える犬もいて、それは近い将来、自分の身に起こることを知って助けを乞うているかのように聞こえた。カメラを向けたら店のオヤジに大声で怒鳴られたが、それは、韓国文化の闇の部分と認識しているからに違いない。
「ソウル五輪の頃から世界的に非難されるのを恐れて、隠れて食べるようになったんですけど、最近また食べる人が増えています。ボクも食べたことあります。でも、好んでは食べないです。チワワ飼ってますから(笑)」
ピョ氏が言うとおり、食うか食わないかは自分が決めればいい。日本のクジラやイルカと同じで、風土も文化も違うんだから、欧米諸国が文句を言う筋合いなんて、まるでないのだ。

ヤギやウサギはわかるが、このネコも食用らしい。
犬以外にも白ヤギに黒ヤギ、ウサギにネコも檻に入れられているが、シーズーのような小型犬がリードにつながれていて、そっちはペットとして飼われているようだが、そのへんの線引きはどうしているのだろうか。
かと思えば、すでに丸焼きにされ冷蔵のショーケースに入れられているおぞましい姿の犬もいて、そんな光景を目にした後で食堂に入っても、肝心のポシンタンは全然おいしく感じなかった。
魚屋で魚を買い、自宅で調理して食べるのと何も変わらないはずなのに、なぜ? せめて、最後の1日を乗り切る精力になることだけを祈って口に運んだが、それが、最後の取材に役に立つとは、そのときは知る由もなかった。
続く……。

ポシンタン。犬肉は精力がつくと言われている。食感は固めで脂身は少ない。香辛料とコチュジャンのおかげで臭みはないが、あまりおいしいとも思わない。最後のおじやが一番うまかった。
(写真・文=松本雷太)