
アメリカンスラングを連発する宇宙人ポール。
ボイスキャストは、『50/50』が公開中の米国俳優セス・ローゲン。
(c)2010 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED
もしも、ドラえもんがタケコプターやタイムマシンを使うたびにリベートを要求する守銭奴ロボットだったら。もしも、オバケのQ太郎が下ネタばかり連発するセクハラお化けだったら。きっと多分、のび太も正太も、もっとずっと人間臭くてタフな大人に成長したんじゃないだろうか。SFコメディ『宇宙人ポール』は、観る者にさまざまなイマジネーションを掻き立ててくれる。少年向けの藤子不二雄ワールドに対し、『宇宙人ポール』はホモネタ、宗教ネタが盛りだくさん。英国産コメディ『ショーン・オブ・ザ・デッド』(04)、『ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!』(07)の主演コンビであるサイモン・ペッグとニック・フロストを米国に招き、青春コメディの傑作『スーパーバッド 童貞ウォーズ』(07)のグレッグ・モットーラ監督が70~80年代のSF映画をモチーフに、バディもの、ロードムービー、カーアクションといった米国映画の伝統的ジャンルの枠組みの中で、最後にホロリとさせる大人向けのコメディに仕立てている。新しくて、どこか懐かしい映画だ。
本作のアイデアは、『ショーン・オブ・ザ・デッド』の撮影の合間に生まれたもの。「次はどんなのやる?」とプロデューサーに尋ねられ、脚本家でもあるサイモンとニックは飲み屋のヨタ話的に「漫画オタクのイギリス人が、米国横断中に宇宙人に遭遇するってどうよ」と答えて盛り上がったそうだ。その後、続く『ホット・ファズ』の撮影も終わりが見えてきた段階で、「前に話したネタ、行けるんじゃねぇの」とプロデューサーに勧められ、実際にサイモンとニックはシナリオハンティングがてら米国大陸横断の旅に出た。男ふたりの西部旅行中、ホモに間違えられることもあったらしい。いつもなら、『ショーン・オブ・ザ・デッド』『ホット・ファズ』で組んだ盟友エドガー・ライト監督が映画化するところだが、エドガー監督は『スコット・ピルグリムvs.邪悪な元カレ軍団』(10)の製作で多忙だったため、『スーパーバッド』のヒットで知られるグレッグ監督が演出することに。エドガー&サイモン&ニックの定番英国トリオなら、もっとマニアックな笑い満載になったかもしれないけど、米国人のグレッグ監督を入れたことで神経質な英国風の笑いとは違った米国っぽいゆったりした構えになったように思う。"ちょっとした冒険"に挑んでみようは、本作のテーマでもある。

SF作家のクライヴ(サイモン・ペッグ)と
メタボなイラストレーターのグレアム(ニック
・フロスト)。ホモ達と間違えられるほど
仲良し。
世界中のオタクたちの憧れであるサンディエゴのコミコンから物語はスタート。イギリスのSF作家クライヴ(サイモン・ペッグ)と相棒であるイラストレーターのグレアム(ニック・フロスト)はコミコンを楽しんだ後、長年の夢だったアメリカ西部の旅に出る。レンタカーに乗った2人は、『スタートレック/宇宙大作戦』のロケに使われたヴァスケス・ロックス、ロズウェル事件で有名なエリア51、UFOが頻繁に出没することで知られるETハイウェイのメールボックスなどを巡る。SF好き、UFO愛好家にとっては堪らないルートだ。イギリスとはまるで異なる荒野のハイウェイを東進していた2人は、暴走カーの炎上事故を目撃する。恐る恐る2人が事故現場を覗き込むと、そこに現われたのは「ポール」と名乗る小型の宇宙人。いわゆるリトル・グレイと呼ばれるタイプである。ボーイ・ミーツ・ガールならぬ、オタク・ミーツ・エイリアン。ポールによると、60年にわたって米国の秘密施設に拘束され続け、解剖手術が間近に迫ったために逃げ出してきたという。
この宇宙人ポール、すっかりアメリカでの生活に馴染んでしまっており、アメリカンスラングをバンバン使う。まるで日本人以上に日本語のダジャレを連射するデーブ・スペクターみたい。見た目はおっかないけど、憎めないエイリアンなのだ。まぁ、すぐにズボンを下ろしたがるお下劣ギャグはやめてほしいけど。ポールの能天気な言動を見る限り、全然切迫しているように思えないが、実は施設を脱走したことから非情なる捜索隊に追われているらしい。旅は道連れということで、クライヴはポールを気前よく車に同乗させる。グレアムはちょっと迷惑そうだけど。

ETハイウェイを走ってたら、モノホンの宇宙人に
遭遇。『未知との遭遇』『E.T.』など
スピルバーグねた、盛りだくさん。
宇宙人ポールがアメリカの西部に不時着したのは1947年という設定。第二次世界大戦が2年前に終結し、もう少しでソ連と核戦争になるところだったキューバ危機(62年)まで、ちょっと間のあった平和な時代。そんな平穏なときの米国に着陸できたのが、ポールにとっては幸いだった。元々から好奇心旺盛で地球にやって来たポールには、陽気でフランクで冒険好きという古き善き時代の米国人の気質が刷り込まれている。夜空を仰ぎながらの焚き火を愛し、女性や子どもに対しては親切。ジョン・ウェインが演じた映画の中の騎兵隊のようでもある。収容施設では友好的な職員の計らいで、西部劇を見ながら地球の文化を吸収していったに違いない。
かつて西部劇の舞台となった雄大なランドスケープを眺めつつ、2人のオタクと下ネタ好きな宇宙人との旅は続く。途中、キリスト教原理主義者の家庭で育った片目の美女ルース(クリステン・ウィグ)を連れ出したことから騒ぎが大きくなるが、クライヴとルースはいいムードに。そんな様子を見て、グレアムはルースに対してジェラシーを覚える。グレアムとクライヴはホモ達ではないが、グレアムは唯一無二の親友であるクライヴのことをずっと想い続けていたのだ。今回の米国旅行は、子どものまま大人になったグレアムとクライヴにとって、かなり遅めの卒業旅行でもあった。グレアムはこの旅を通して、クライヴへの想いにケジメをつける覚悟でいたのだ。人間ってバカだし、残酷なことをヘーキでやる。この広い西部の荒野でネイティブアメリカンたちを虐殺し、核実験を繰り返してきた。でも、人間は物すごくナイーブで、いじらしかったりもする。60年前にポールは地上に落ちてきたとき、優しい少女に看病してもらった記憶がある。遠い星からやって来たポールは、そんな矛盾だらけの人間のことが大好きなのだ。ポールとの旅を通して、クライヴ、グレアム、ルースたちの心の目が開かれていく。やがて、スピルバーグ監督の若き日の代表作『未知との遭遇』(77)でマザーシップが降りてきたワイオミング州のデビルズタワーが近づいてくる。彼らの卒業旅行も、もうそろそろ終わりだ。
5年ほど前だが、UFO特番のプロデューサーとして有名な矢追純一氏に話を聞く機会があった。人間は大人になるに従って、子どもの頃に見えていたさまざまなものが見えなくなってしまうそうだ。空飛ぶ円盤とかお化けとか妖精とか。それは大人が"社会常識"という名前のメガネを掛けることで、社会生活を営む上で役に立たないものを意識の外に追いやるということらしい。社会常識という名のメガネさえ外せれば、クライヴやグレアム、そしてルースのように宇宙人ポールに出会えるのかもしれない。下世話でお下劣ギャグを連発するポールが愛おしく思えてくる。
(文=長野辰次)
『宇宙人ポール』
監督/グレッグ・モットーラ 脚本/サイモン・ペッグ、ニック・フロスト 出演/サイモン・ペッグ、ニック・フロスト、ジェイソン・ベイトマン、クリステン・ウィグ、ビル・ヘイダー、ブライス・ダナー、ジョン・キャロル・リンチ、シガニー・ウィーヴァー、セス・ローゲン
ユニバーサル映画作品 配給協力/アステア+パルコ PG12 12月17日より渋谷シネクイント、シネ・リーブル池袋、ユナイテッド・シネマ豊洲、立川シネシティにて先行ロードショー中 12月23日(金)より全国ロードショー <http://paulthemovie.jp>







































