硬直した映画興行に一石を投じる!? 河崎実監督が9人の美女を従えて帰還

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日本を明るくする男・河崎実監督。最新作『地球防衛ガールズP9』
では現代人は何と戦うべきかを明確に描いている。
 "バカ映画"の巨匠・河崎実監督が帰ってきた! 不謹慎で、スチャラカで、でも特撮映画への限りなき愛情が詰まった超低予算映画の数々を放ってきた河崎監督。全国公開されたSF大作『ギララの逆襲/洞爺湖サミット危機一発』(08)をど~んと打ち上げた後はしばらく表舞台から遠ざかっていたが、いちばんの好物である"地球防衛軍"もので日本映画界に帰還を果たしたのだ。しかも、とっておきのサプライズを用意して。最新作のタイトルは『地球防衛ガールズP9』。P9とはパラノーマル9の略。尋常ならざる特殊能力を持つ9人の美女たちが地球平和のために奔走する、河崎監督版ガールズムービーとなっている。P9のメンバーには国民的アイドルグループAKB48の"隠れ実力派"片山陽加、SDN48のキャプテン・野呂佳代らを起用。そして本作のとっておきのセールスポイントは、クライマックスでP9のメンバー本人が登場するというもの。ブームの3Dを上回る仕掛けではないか。明るい話題の少ない日本映画界を元気にするため、スクリーンから飛び出すP9のメンバーたちの活躍を劇場で体感するべし! ──3年ぶりの新作劇場映画。河崎監督の明るいバカ映画を首を長くして待っていました。
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特殊な能力を持つ9人の女性隊員たちで結成された
パラノーマル9。予算削減なんかに負けるもんか。
(c)P9プロジェクト2011
河崎実監督(以下、河崎) 『ギララの逆襲』の後、『猫ラーメン大将』(08)もあったんで、正確には2年半ぶりなんだけどね。まぁ、『地球防衛ガールズP9』は1年前から企画準備を進めていたこともあって、ボクとしてはあっという間でした。河崎実がまた相変わらずバカ映画をやるということです。よろしくね。 ──本作はキャストが飛び出すというドッキリ仕掛け。従来の映画とも舞台とも異なるユニークな試みですね。 河崎 フツーの監督は、こんなバカなことやらないよね(笑)。そこはね、この映画はフツーではないんでね。油断してると、本人がスクリーンから出てきちゃうから。AKB48も最初は売れてなかったんだけど、秋元康プロデューサーの"会いに行けるアイドル"という触れ込みが広まって人気に火が点いたわけでしょ。それを映画館でやっちゃおうという企画です。映画興行としては、ウィリアム・キャッスルが元ネタですよ。1950年代に活躍した映画プロデューサー兼監督なんだけど、彼はお客さんを楽しませるために作品ごとにいろんな興行アイデアを実践したんです。 ──あぁ、ショッキングなシーンに合わせて、客席を振動させるなどのギミックを仕掛けた伝説の映画人ですね。
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テレパス能力を持つパラノーマル9のメンバー、
土浦真八(片山陽加)。「宇宙友朋会」の集会
で不審な声をキャッチする。
河崎 そうそう。ショッカーといってお化けの格好をしたスタッフが客席を驚かせて回ったり、失神者が出たときのために看護士を待機させたり、映画館を遊園地に変えてしまったB級映画の奇才です。『いかレスラー』(04)や『日本以外全部沈没』(06)のプロデューサーだった叶井俊太郎と「ウィリアム・キャッスルみたいなことやりたいね」と前々から話していたんです。でも、叶井の会社トルネード・フィルムが倒産しちゃったからね(苦笑)。ようやく今回、そのアイデアを実際にやることになったんです。今日の完成披露試写で初めて試したんだけど、客席が沸いてくれてホッとしました。公開中はP9のメンバーが連日日替わりで登場して、台詞もアドリブで変わります。まぁ茶番と言っちゃ茶番なんだけど、お客さんには喜んでもらえるんじゃないかな(笑)。 ──地球防衛軍ものは、やはり河崎監督にとって腕の鳴るジャンルですね。 河崎 そうだね、地球防衛軍ものはボクの原点でもあるしね。もともと『ウルトラ』シリーズの大ファンであるボクは、アンヌ隊員を主人公にした『ウルトラセブン』(67)を作りたいという願望があったわけです。でも『ウルトラ』シリーズの本編を作るのはなかなか難しい。なら、女性隊員をメーンにした自分の作品を作っちゃおうと考えて始めたのが、ボクの商業デビュー作『地球防衛少女イコちゃん』(87)だったんです。それを21世紀型にヴァージョンアップさせたのが今回の『地球防衛ガールズP9』。時代に合わせてヒロインを集団に変え、AKB48やSDN48からメンバーを集めてチームを結成したわけですよ。 ──P9のメンバーが着るコスチュームのこだわりを聞かせてください。 河崎 今回もかなり限られた予算だったんだけど、彼女たちのコスチュームは1着あたり10万円近くかかっているからね。女性隊員だけで9人いるから、コスチューム代だけですぐに100万円飛んじゃって大変(苦笑)。ピンクとブルーは『イコちゃん』のときのイメージカラーであり、今回も基本カラーにしています。布地はアンヌ隊員のウルトラ警備隊みたいに厚めの質感を出したかったんだけど、撮影が7月なことを配慮して薄くしました。ちょっとチープになってしまったかなぁと反省しています。でも本格怪獣も登場させたし、かなりの予算をつぎ込んだので、『P9-2』『P9-3』とシリーズ化して、『P9-10』までやりますよ!
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出てくるのはゆるキャラな小怪獣ばかり。「高山
怪獣と戦いたい」「できれば成田デザインでね」
というP9の期待に応える本格怪獣は現われるか?
──P9のメンバーでテレパス少女・土浦隊員役の片山陽加は、独特な雰囲気の持ち主。前半はあまり目立たないけど、後半からぐいぐいと不思議な魅力を放っていますね。 河崎 そうだね、あの娘は芝居がうまいんだよね。我ながら、いい感じで配役できたなと思っています。後半は超能力者同士の心理劇になるわけなんだけど、SF映画って『スター・ウォーズ』シリーズにしても『ねらわれた学園』(81)にしても最後は超能力者同士の観念的な演技合戦になっちゃう。でも、彼女は神秘的な雰囲気を出して、うまく演じてくれましたね。 ──謎の女性を演じるのは『ウルトラマンA』(72)で南夕子隊員を演じた星光子。土浦隊員(片山陽加)との会話のやりとりは、三島由紀夫のSF小説『美しい星』を連想しました。 河崎 えぇ、三島由紀夫からインスパイアされたんです(笑)。実は『美しい星』を映画化できないかと動いていたこともあったんですが、なかなかそちらはうまく行かなくてね。あっ、これはあんまり触れないでよ(苦笑)。星光子さんは劇団四季出身だけあって、演技がかっちりしています。星さんとは『ウルトラマンA』以来の共演となる沖田駿一さん、『ウルトラセブン』のアマギ隊員役で知られる古谷敏さんにも重要な役を演じてもらっています。ただカメオ出演させるだけじゃつまんない。そこはね、歴代の『ウルトラ』シリーズに名前を連ねてきた方たちへのボクからの愛なんです。
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P9のメンバーを率いるクムタキ隊長(写真左)。
演じるのは、木村拓哉のそっくり芸人もっぷん。
お笑い芸人が続々登場。
──相変わらずスチャラカな内容なんだけど、今回はこれまでの河崎作品とはひと味違った深遠さも感じられますね。企画そのものは2010年から動いていたということですが、3.11後に撮影されたということが何かしら影響しているんでしょうか? 河崎 ひとつ映画の企画が決まって、その作品が公開にまで辿り着くということは、社会がその作品を待ち望んでいたという一面があるとボクは考えています。企画そのものは昨年から考えていたこともあって、事業仕分け問題などを取り入れたわけです。平和な時代に地球防衛軍の存在意義はどこに見出せばいいのかというね。3.11があって企画は一時中断したんだけど、内容そのものは変えていません。それは純粋にボクの映画を観て、みんなに笑ってほしいからですよ。「バカだなぁ、下らないなぁ」とね。ちょっと観念的な部分もあるけれど、P9のメンバーが歌う劇中曲「まだ見ぬ怪獣」で盛り上がってほしい。「夢に見るミサイル発射♪」なんて不謹慎な歌詞をアイドルに歌わせているんでね。それに『P9』は海外マーケットも意識しているんです。エスパー伊東をはじめ"宇宙芸人"たちが披露する宇宙ギャグは、外国人に大受けするはずですよ。ボクの映画はゆるギャグ、美少女、オヤジ俳優、それに怪獣の4本柱でできているんです。
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「"パラノーマル9"の9という数字は"気学"に
基づいたもの。人間は9つのタイプに分かれるん
です」と河崎監督はうんちく披露。
──なるほど、4枚のカードの組み合わせで河崎監督は現代社会を描いてしまうわけですね。 河崎 それ、いいなぁ。ぜひ、そこは強調してくださいよ(笑)。まずは、東京での公開を盛り上げますよ。映画興行って初日は満席になるんだけど、翌日からガタッと落ちて、平日はガラガラになってしまうんです。そこで今回は初日だけでなく、平日の上映も含めて連日、P9のメンバーたちが日替わりで登場するわけです。週7日のローテーションをどうメンバーに割り振るか、今考えています。東京での反響次第で、大阪以降の公開形式も変わってくると思うんで、お客さんは一緒に楽しんで、盛り上げてほしいですね。P9のメンバーがスクリーン脇でこそこそと待機している様子は、客席から見てもおかしいと思いますよ(笑)。 ──河崎監督は、日刊サイゾーで『小明の副作用』が絶賛配信中のアイドルライター・小明ちゃんの新曲のPVも撮るとのこと。PVの撮影に4日間も掛けるとは気合いが入ってますね。 河崎 あぁ、それはね、実は予算がないんでお昼ご飯を食べてから撮影しましょうということなんです。毎日午後1時から撮って、夕方5時には撮影終了。実労4時間×4日間。そうすることでお弁当代がかからなくて済むわけです。キャストやスタッフのお弁当代って、けっこーバカにならないからね。『P9』も同じ方法で撮っていたんで、撮影日数は20日間も掛かりましたよ。それまでのボクの作品は10日間程度で撮っていたんだけどね、早朝集合で深夜まで撮影を続けて。まぁ、『P9』はお弁当代は節約しているわけだけど、撮影日数はじっくり掛けているから、ぜいたくな作品ですよ。最近のインディペンデント映画はこのパターンで作られているんです。メジャーとは違うんで、試行錯誤の繰り返し。でも、それがインディペンデント映画なんですよ。  * * *  大好きな映画を作り続けるために、従来の常識に囚われずさまざまなアイデアを注入する河崎監督。"生アイドルに会える映画"という発想自体は誰でも考えつくものだが、企画を実現させてしまったのは河崎監督しかいない。河崎作品には、世知辛い社会で生きていくための"夢のあるヒント"の数々が隠されているのだ。映画ファン以外の人も、ぜひ劇場に足を運んでみてほしい。 (取材・文=長野辰次) 『地球防衛ガールズP9』 プロデューサー&脚本&監督/河崎実 脚本協力/中野貴雄 音楽/黒澤直也 出演/片山陽加(AKB48)、野呂佳代(SDN48)、浅倉結希、小桃音まい、伊倉愛美、高城樹衣、山本麻貴、阿衣華、巴奎依、エスパー伊東、星野卓也、なべやかん、リカヤ・スプナー、レイパー佐藤、高円寺ジャックスパロウ、萩原佐代子、紫子、サン・ジュナ、もっぷん、沖田駿一、古谷敏、モト冬樹 配給/ファイヤークラッカー 11月26日(土)より渋谷シネクイントにて2週間限定レイトショー 12月10日(土)よりテアトル梅田ほか全国順次公開予定 <http://girls-p9.com> ●かわさき・みのる 1958年東京都生まれ。明治大学在学中より特撮怪獣映画『フウト』などの自主映画で注目を集める。オリジナルビデオ作品『地球防衛少女イコちゃん』(87)は話題を呼び、文部省選定ビデオ映画になるなどシリーズ化された。主な劇場公開作品に三枝実央、桜庭あつこがセクシー競演した『美乳大作戦メスパイ』(97)、叶井俊太郎と初タッグを組んだ『いかレスラー』(04)、中川翔子をヒロインに起用した『兜王ビートル』(05)、筒井康隆原作&出演作『日本以外全部沈没』(06)、フジテレビ系で続編が作られた『ヅラ刑事』(06)、夏木マリ主演による『髪がかり』(08)、水野晴郎先生の遺作となった『ギララの逆襲/洞爺湖サミット危機一発』(08)など。2010年より中野でバー「ルナベース」の経営を始め、今回の『地球防衛ガールズP9』の作戦司令室の撮影に使用されている。また、実相寺昭雄監督と長年にわたって交友関係にあり、実相寺監督が生前集めていたピンクちらしのコレクションを遺族から託されたことでも知られる。 <http://luna-base.net>
ギララの逆襲 洞爺湖サミット危機一発 こっちもよろしくね。 amazon_associate_logo.jpg
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「復興支援は新たなステージに」これからの被災地支援のカギとは?

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震災3カ月後の宮城県南三陸町の様子(※記事参照)。
現在、ガレキは片付いたものの、大きく変わっていない。
前編中編はこちらから ■よりベターな方法を考案できるリテラシーが必要 ――8カ月に渡る活動の中で一番強く感じていること、教訓などはありますか? 西條 まずは被害の規模ですよね。知れば知るほど、本当にひどいことが起こったんだと痛感しています。最初に支援したからそれでいいという災害ではないですよ。行政のシステムに関していえば、今回の震災を踏まえ、変えた方がいいことはたくさんありますよね。  たとえば、姉妹都市は今回かなりうまく機能していたので、"臨時姉妹都市"をつくっちゃえばいいと思うんですよ。宮城県石巻市と全国の40くらいの市町村をつなげて、「今日から姉妹都市です、助けましょう」と。「勝手に動いていいです」と。いまの枠組みというのは、国も県も「何かあったら言ってください。そしたら動きますよ」という「要請主義」なんです。けれど、すべてが壊滅している中で要請なんてできない。そんなの、死にそうになって倒れている人に、「どこか悪いところがあったら言ってくれれば手当てしますよ」と言っているようなもので、そんな無茶な話はないんですよ。駆け寄って手当てしてあげなきゃいけないわけで、それをやったのがボランティアだった。  赤十字も以前は要請主義だったようなのですが、それではダメだということで最近は「能動主義」に移行していたため、今回は"とにかく北へ向かえ"と、震災直後から数十のチームが現地入りし、かなり機能しました。それを市町村レベルでもやるべきですよね。これは今からでも遅くはないですし、むしろ平時からそうした提携を結んでおく"緊急時援助姉妹都市"といった制度として成立させておけばよいと思います。
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――今回、赤十字を通した義援金がなかなか被災者のもとに渡らなかった問題についてはどのようにお考えですか? 西條 おそらく、すべての人にとって想定外の有事だったので今回は仕方がないとは思うのですが、物資支援の仕組みにしても、県に上げてそこから自治体に下げていくという仕組みはどこか詰まったら終わりで、実際、県や自治体の倉庫がいっぱいになったので、「要りません」となってしまったわけです。被災地の行政が壊滅的な打撃を受けたこれだけの規模の被害になると、従来のやり方では通用しないわけですから、僕らは新たな仕組みを考えたわけです。  それと同じで、赤十字の義援金が渡らなかったのも、上から下ろしていく構造上の問題だと思っています。地元自治体は壊滅的な打撃を受けて本当に大変な状況ですから、そこを介さずに直接義援金を渡す仕組みを考えるべきです。僕だったらNHKや地元新聞紙を使って、ここに連絡くださいとアナウンスします。罹災証明書のコピーとその他必要な書類を送れば直接振り込みます、と。そういうやり方ひとつで、地元の行政を介さないで必要としている人に直接義援金を送る事もできるわけですよね。  家電にしても、赤十字は仮設住宅に入った人には6点セットを渡しますが、屋根まで津波にやられて重要な家電はすべて失っている個人避難宅の人にはひとつも配布しないわけです。なぜかといえば、おそらくどこに住んでいるのか確認できずに、管理することができないためだと思います。しかし先に述べたように、とにかく広く周知して、罹災証明書のコピーとその他必要な書類を直接赤十字に送ってもらうようにすれば十分対応できるはずです。
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 最も何をしても5%ぐらいのミスや批判はあるかもしれませんが、そういう些細な過誤を気にして、必要なときに全員に届かないといった致命的な失敗をしてしまっては本末転倒です。5%をゼロにしようとすると、そこに膨大なエネルギーを注がなければならなくなるので、とたんにパフォーマンスが下がります。ですから、特に有事においては5%以内のミスはよしとして進める方が機能的なんです。行政による支援も、そうしたスタンスを明示して、何かあったら国が責任を取りますといってどんどん押し進めればいいと思うんですよ。それがリーダーシップというものだと思います。  あと一番大事なのは、やっぱり「方法の原理」のような、どんな状況になっても自分たちで考えて柔軟に対応できる方法を考案していくようなリテラシーを広げていくことですね。どんなに想定したって、それ以上が起こるというのが自然現象であり、そのことはみんな痛感したはずなので、想定外の事態に陥っても、それぞれが状況と目的を見定めて自律的に動けるような訓練こそが、原理的に重要になってくると思います。 ――「ふんばろう」の今後のビジョンについては? 西條 最終目標としては「ふんばろう」自体が必要なくなるのが一番いいですが、まだまだ支援は必要ですから、現地の状況を見て判断したいと思っています。ただ、完全なボランティアって、持続可能性という観点からするとやっぱり限界があるんですよ。ボランティアは「被災した方々のために何かしたい」という"気持ち"だけをエネルギーに動いています。ほとんどの人は、日中は会社で働きながらプラスαで作業していたり、中には完全無償のボランティアに専念している人もいるので、持続可能な形にしていく必要があるんですね。その意味では、各プロジェクトの体制を整えて、無理のない形で、独立的に、最小限のエネルギーで動けるような形にしていくことが必要と思っています。  またこれからは特に、いかに企業活動と矛盾しないかたちで被災地のためにもなる事業を作っていくか、ということがポイントになりますね。ですから今後、より一層、企業とのつながりをつくっていきたいと思っています。実際、PCプロジェクトや就労支援プロジェクトなど、僕らが「ふんばろう東日本企業連合」というプラットフォームになることで、様々な企業に参加していただき大きく進めているところです。持続可能な形にするためには、できるだけ現地に、企業を、と心がけていくのがよいと思います。
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PCプロジェクトの様子。
――行政との連携も視野に入れていますか? 西條 もちろん連携できるところはしていきたいと思っています。これまではスピードが重要でしたが、これからは雇用創出などが重要課題になるので、地元行政との連携は重要になってきます。実際、これまでも仙台市・大阪市・横浜市・山形県庁・岐阜県庁・愛知県庁・宮城県庁といった自治体において行き場をなくした膨大な物資をマッチングして、必要としている被災者のもとに届けてきましたし、PCプロジェクトでは、宮城県東松島市といった行政と組んで進めていっている地域もあります。あとは、全国の行政が「方法の原理」といった考え方を普段から身に付けておいて、有事のときは既存の枠組みにとらわれず、柔軟に対応していく訓練をしていくことも重要になると思います。 ――最後に読者のみなさんに伝えたいことは何かありますか? 西條 中には「少しぐらい支援しても何も変わらない」という人もいるのですが、僕はそうは思いません。たとえば、「ミシンプロジェクト」では、ミシンという物を支援しているのではないのです。そうではなく、一台のミシンをきっかけに、仕事に就けて、ひとつの家族の生活を支え、その貯金で、子どもたちが望む進路にいけるようになる「可能性」を生むわけです。そうした家庭の中から将来、先生になりたいといって、教育学部に進み、震災の辛い経験を乗り越えて立派な教師になり、何千人という子どもたちを育てる人だって出てくるかもしれません。みなさん一人一人の支援は、そういう「可能性」を生むことにつながっています。時間を止めて固定的に見ると、何も変えられないように思うかもしれません。でも、未来は小さなことをきっかけに大きく変わります。小さな力が集まることで、被災地の方々が前を向いて生活していくことにつながり、子どもたちの明るい未来を作る「可能性」になっていきます。僕らは「可能性を生む力」、すなわち「未来を変える力」を持っているんです。「ふんばろう東日本支援プロジェクト」は、距離と関係なく、誰でも参加できるプロジェクトです。これを読んでいる方全員に必ずできることがあります。ぜひ、「ふんばろう」のHP(http://fumbaro.org/)を見て、自分にできることを行動してみていただければと思います。 (取材・文=編集部) ●さいじょう・たけお 1974年、宮城県仙台市生まれ。早稲田大学大学院(MBA)専任講師。専門は心理学や(科学)哲学。「構造構成主義」というメタ理論を体系化。2011年4月に「ふんばろう東日本支援プロジェクト」を立ち上げ、代表を務めている。Twitter→@saijotakeo●ふんばろう東日本支援プロジェクトhttp://fumbaro.org/
河北新報特別縮刷版 3.11東日本大震災1ヵ月の記録 みんなでふんばろう。 amazon_associate_logo.jpg
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「世間の関心が低くなる前に何ができるかが勝負」支援プロジェクトがうまく機能したワケ

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前編はこちらから ■世間の"支援疲れ"にどう対処するのか ――日が経つにつれ、被災地のニュースは目に見えて減ってきています。"支援疲れ"という言葉もたびたび耳にしますが......。 西條 やっぱりみんな、"日常"に戻りたいんですよね。普段の生活に戻りたいという気持ちが誰にでもあって、被災地の現状があれから何も変わってないなんて思いたくないんだと思います。そんなこと知ってしまったら、何もしない自分への罪悪感に苛まれてしまう。だから見たくない。どこまで自覚的にやっているかは別として、メディアはそういうことに敏感なので、その"空気"を察知してニュースを流さなくなりますよね。 ――それは仕方がないことなのでしょうか? 西條 仕方がない、とは思いませんが、ただ、"実際そういうこと"なんだということですね。僕でも、「もう大丈夫になっているんじゃないかな」と思いたくなる瞬間がありますから、その気持ちもまったく分からないではないんです。でも、被災地の現実は今なお厳しいんです。それを見て見ぬふりをして、自分だけ日常に戻るわけにはいきません。ですから、マスコミのみなさんにも、視聴率などに振り回されず、もう少し頑張って放送して欲しいと思っています。また、企業も支援金を出すのが厳しければ、自分たちの得意な分野のリソースを提供するという方法もあるので、「最初にお金出したからもうよいでしょう」ではなく、企業活動と矛盾しない復興支援のあり方を考えてみていただきたいですね。これからは、事業を通して社会に貢献するというあり方こそが、企業の持続可能性にもつながってくると思います。 ――世間の"支援疲れ"に対して、「ふんばろう」としてはどのようなアクションをしているのでしょうか?
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西條 現状、物資はまだ足りていないんです。現在掲載されている支援先の件数は2,300ほどですが、物資を送る側(支援する側)は当初の10分の1くらいになってきています。そのため、物資支援についていえば、「ふんばろう」のサイトに掲載する支援先の基準を少し厳しくしていこうと考えています。生きていく上で本当に必要なものに絞り、いまある支援力に合わせていくことで、本当に困っている人に届けたい、ということですね。  それから、やはり支援者を増やすことですね。まだまだ「ふんばろう」のことを知らない人が多いので、海外も含め、まだ動いていない人に活動を広げていくという努力もしています。いまも被災地の現状は変わっていない、ということをネットなどを通じて発信し、それぞれのプロジェクトの意義や、被災地の人の顔をちゃんと伝えていくことで、「支援しよう」と思ってもらえるように心がけています。  そうした状況だからこそ今、より多くの人に知ってもらいたい。誰でも参加できる仕組みになっていますから、知ってさえもらえれば一定の割合の人は協力してくれると思っています。たとえば、「ふんばろう」では当初からAmazonの「ほしい物リスト」を応用するシステムにより、これまで総数1万7,000個、約29,00万円にのぼる支援を行ってきました。国内はもちろん海外からでも、200円程度から、被災された方々が必要としている物資をワンクリックで届けることができます。ぜひ活用していただき、またご家族や会社の方などに広く知らせてもらえればと思いますね(http://fumbaro.org/shelter/list/amazon.html)。 ■「ふんばろう」のプロジェクトがうまく機能したワケ ――「ふんばろう」のプロジェクトはすべて、"人と人をつなぐ"というのが基本となっていますが、この構想は立ち上げ当初からあったんですか? 西條 はい。プロジェクトを立ち上げたのは4月に入ったときだったので、そのときはみんな「大変なことが起こった」と関心が高かったけれど、人は忘れる動物なので、必ずその意識は低下していく。それは目に見えていたので、低下していく前に何ができるかが勝負だと思っていたんです。そのために、人と人のつながりが必要だと。つながりというのは一度つくってしまえば、僕らの仕組みを通さずとも、直接やりとりがはじまりますし、関係性ができれば人間は忘れないんです。
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――確かに、被災地全体に目を向け続けることはなかなか難しいですが、「家電を送った気仙沼の●●さん」というつながりができれば、もう人ごとではなくなりますね。 西條 "遠い親戚"みたいな関係です。そういう個人のつながりを何百、何万とつくっているんです。 ――西條さんはもともと、心理学や哲学などがご専門で、構造構成主義という学問、何にでも通用する"方法の原理"を研究していらっしゃるそうですが、震災前、この原理が社会に対してどのような役に立つと思われていましたか? 西條 構造構成主義が一番広がっているのは医療や教育の現場なのですが、時代や文化を超えて通用する普遍性を備えた原理なので、本当にいろんな分野にプラットフォームとして広がっています。言ってみれば、従来の理論や方法論をバージョンアップさせるOSのようなものなんです。たとえば、方法とは、(1)ある特定の「状況」において、(2)特定の「目的」を達成するための手段です。これはすべての方法に当てはまる。この「方法の原理」を視点とすれば、状況と目的の2つを軸にすることで、特定の方法が役立つのかどうかを判断することができますし、より機能的な方法を作り出していくこともできるわけです。 ――それは、災害時においてもあてはまるのでしょうか? 西條 もちろんです。今回の震災は未曽有の災害で、誰も経験したことがなかった。ゼロベースで考えていかなければならない状況において、この原理はすごく有効です。特定のコンテンツを持たず、すべてそのとき・その場の状況と目的を見定めて考えるというスキームなので、目的からぶれることなく状況の変化に合わせて柔軟に対応していけるんです。 ――実際に「ふんばろう」では、この原理を使って次々とプロジェクトを立ち上げ、スピーディーで無駄のない支援を行ってきたわけですが、物事がどんどんうまく回っていく快感のようなものはあったのでしょうか? 西條 こんなに役に立つんだな、というのはすごく感じました。原理としては汎用性があるし、導入しさえすればかなり役に立つだろうな、とは以前から思っていましたが、ここまで急速に広まるとは思っていなかったですね。 ■被災者の心の傷は深く、入りにくい ――西條さんは仙台ご出身で津波の被害に遭われたご親族もいたそうですが、プロジェクトを進める上で、どのように気持ちのバランスを取っていたんですか? 西條 大好きな伯父さんも津波で行方不明になってしまいました。多くの人がテレビで仙台空港に津波が押し寄せるシーンを見たと思うのですが、後に発見された場所から、その空港から一本道を挟んだ倉庫にいたことが分かりました。初めて南三陸町に入ったときもテレビではまったく伝わらない被災地の惨状を目の当たりにして、言葉を失いました。多かれ少なかれ、特に被災地出身の人は、そういう経験をしているので「故郷が大変なんだからなんとかしたい」という気持ちが自然と湧いてくるものですが、ただそういう"気持ち"の部分と、プロジェクトの合理性の部分は分けて考えています。
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 大変な苦境に立たされた人が目の前にいて手を差し伸べたいというのは最初の出発点ですが、ではそれをどうしたらいいのか、というのはまた別の話です。たとえば「家電プロジェクト」では、僕らが被災地に家電を配ることで、地元の小売店の人が家電が思うように売れないと嘆いているという話も一部で耳にしましたが、だから支援をやめようとなってしまうのは話が違うわけです。こんなかたちで家電を送られることは今年だけでずっと続くことではないし、お店どころかすべてを失った人がいるんだから、まったく優先順位が違うでしょう、と。もともと困っているのに行政の手が入らないところをサポートしようということで始めたプロジェクトです。目の前の人を助けたいという気持ちはとても大事ですが、それだけでもカラまわってしまうので、全体の状況を冷静に見る視点も必要だと思います。たとえば、僕たちは家電を支援者に購入してもらって被災地に届ける際に、地元企業から購入する形のマッチングサイトを構築しています(http://kauloco.com/)。 ――被災者同士ではなかなか津波の体験を話せず、自分の心の中に溜めてしまう人が多いと聞きます。他のプロジェクトと比べ、やはり心のケアというのは難しいですか? 西條 実際、被災された方の傷は本当に深いですし、何十万人もいる。そう簡単にはいかない、というのは事実です。また東北の被災地ではカウンセリングに対する抵抗感が、都市部よりも高いんです。おかしくなった人がかかる、みたいに思われる方も多いので、それも心のケアを難しくしている一因かもしれません。ただ心のケアといっても様々なアプローチがあって、仕事がないことによる不安なども大きいので、就労支援などはやはり必要になってきます。したがって、こればかりは大きくこれをやれば万事解決するということはないと思いますので、いまは少し被災地の状況も落ち着いてきていますから、今後それぞれのチームごとに動いていき、ご縁があったところから手を差し伸べていくという形でやっていければと考えています。 ――具体的にいま動いているプロジェクトはあるんですか? 西條 現地の口コミでどんどん評判が広まっていくような、天才的な臨床家がいるんですね。そういう人に定期的に現地に入ってもらって、心に大きな傷を負っている方からどんどんセッションを受けてもらっています。また臨床系の人に現地に行ってもらってつながりを持ってもらい、その後PCプロジェクトと連動しながらスカイプなどでやりとりしてもらうという方法もはじめています。あとは、冬物家電をこれから配布するんですが、そこに僕らがやっている「命の健康プロジェクト」がまとめている資料の一つである「セルフケアの方法」(http://wallpaper.fumbaro.org/rinsyou/work/pdf/wh1e0p)や、いつでも連絡できるよう、福岡大学の長江信和講師がやっている「ユビキタス・カウンセリング」(http://www.ubiquitous-counseling.com/)という電話やネットで対応するカウンセリングにつなげています。 ――「ふんばろう」は組織を構えず、それぞれのチームをFacebook上に立ちあげるという形態を取っています。やはり、SNSの存在は大きかったですか? 西條  TwitterやFacebookがなければ、このプロジェクトはここまで拡散しなかったと思います。きっと、震災前は個人のコミュニケーションツールや、宣伝媒体、情報収集ツールだったと思うんですが、今回の震災で初めて"社会をよくするインフラ"として機能したんじゃないかなと。中東の革命もそうですし、日本においては震災がそうだったわけで。初めてみんなが少しでも社会をよくしようと真剣に使い始めたきっかけだったと思いますね。 (取材・文=編集部/後編に続く●さいじょう・たけお 1974年、宮城県仙台市生まれ。早稲田大学大学院(MBA)専任講師。専門は心理学や(科学)哲学。「構造構成主義」というメタ理論を体系化。2011年4月に「ふんばろう東日本支援プロジェクト」を立ち上げ、代表を務めている。Twitter→@saijotakeo●ふんばろう東日本支援プロジェクトhttp://fumbaro.org/
河北新報特別縮刷版 3.11東日本大震災1ヵ月の記録 まだまだ足りないよ。 amazon_associate_logo.jpg
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「ただ物資を送っているだけではない」被災地の未来をつくる新しい支援のかたち

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「僕らは特定のNPOではなく、それぞれの
生活の範囲で参加できるプロジェクトなので、
『被災された方々のために自分も何かしたい』
と思われる方は気軽に参加してほしい」
と語る、西條剛央氏。
 東日本大震災から8カ月。原発問題を除き、被災地の現状がニュースとして伝えられる機会はめっきり減っているが、8カ月経ったいまも被災地の生活はそれほど大きくは変わっていない。被災地支援は、緊急物資から雇用の創出や心のケアへと徐々に移ってきている中、わたしたちは何ができるのか――。震災直後の4月から被災地に対する幅広い支援活動を行っているボランティア団体「ふんばろう東日本支援プロジェクト」(以下、ふんばろう)代表で、早稲田大学大学院MBA専任講師の西條剛央氏に話を聞いた。 ――4月に立ち上がった「ふんばろう」ですが、現在までに(2011年10月末時点)約3,000カ所以上の避難所・仮設住宅・個人避難宅を対象として3万5,000回以上、15万5,000品目に及ぶ物資支援を成立させてきたと聞いています。 西條剛央氏(以下、西條) 立ち上げのころは、大きな避難所には支援物資が山積みになっているのに、本当に必要としている人の元には届いていないという状況でした。ですから、行政の手が回らない小さな避難所で必要な物資を直接聞き取り、それを「ふんばろう」のサイトにアップしてTwitterで拡散させ、全国の人が直接、物資を被災者に送るという仕組みで支援を始めました。それが瞬く間に広がって、現在までのボランティア登録数は1,600名を超え、ある程度継続的に活動している人だけで数百名はいると思います。最初はふたりで立ち上げたプロジェクトでしたが、現在では被災地3県(宮城県・岩手県・福島県)のほか全国各地に支部があります。 ――運営はどのようにされているんですか? 西條 たまにミーティングを行うこともありますが、基本的に通常の運営はFacebook上で行っています。 ――緊急物資支援のほか、一般家庭から中古家電を届ける「家電プロジェクト」や、ガイガーカウンターを無料で貸し出す「ガイガーカウンタープロジェクト」、重機免許が無料で取得できるよう支援する「重機免許取得プロジェクト」など、本当にたくさんの活動を行っていらっしゃいますね。それぞれのプロジェクトに対して、西條さんはどれくらいイニシアチブを持っているんですか? 西條 Facebook上に立ち上がっているグループは、チームやプロジェクト単位で全部で50くらいあります。立ち上げたばかりのプロジェクトについては、いろいろな人をつなげたり、体制が整うまでは僕が中心となってやっていますが、ある程度軌道に乗ったら、各プロジェクトのリーダーに任せて、何か重要な局面では相談を受けて舵取りしていくという形を取っています。ひとつのプロジェクトが軌道に乗るまでは、だいたい1カ月くらいでしょうか。 ■仕事がなければ自立することは不可能 ――震災から8カ月が経ちましたが、被災地の現状を教えてください。 西條 場所にもよりますが、生活機能的には大きく変わっていないように思います。避難所から仮設住宅に移ってプライベート空間を手に入れただけで、復興ということでいえば、ようやく始まったばかりだと思います。たとえば、宮城県南三陸町では信号3機しか残らないくらい壊滅してしまって、ガレキも当初よりはなくなっていますが、震災後新しく建ったのは5軒ほどのプレハブのコンビニほか数件に過ぎず、そういう意味では何も変わっていないんです。 ――いま現地で一番求められている支援はどのようなものなんですか?
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「重機免許取得プロジェクト」の様子。
西條 僕は雇用創出と就労支援という「仕事」、「心のケア」、そして「教育」の3本柱だと思っています。仕事がなければ不安にもなりストレスも増大しますし、子どもの教育環境も整えることもできないので、「仕事」は根本的に重要ですよね。震災直後は物を買う店も何もないので物資を送るしかなかったんですが、現地に仕事があれば自分で好きなものを買えるわけですからね。 ――現在は、先に触れた「重機免許取得プロジェクト」や、被災地の女性たちにミシンを贈って仕事にしてもらう「ミシンプロジェクト」など、雇用創出・就労支援を特に積極的に行っているのでしょうか。 西條 重機免許については、かなり初期の段階から考えていたんです。これだけガレキだらけになってしまったら、重機はどう考えても必要になるだろうと。いまは仮設住宅ができただけで、本格的な町をつくるのはこれからです。マイナスからすべてつくらなければならないわけで、建築系の仕事は今後長期にわたって需要がある。それは間違いないことなのだから、重機免許を取ってもらえれば仕事につながるだろうと思ってスタートさせました。このプロジェクトが動き出したのは4月末くらいだったんですが、みんな避難所にいて何もやることがない状況で、それは精神的にもよくないし、自分たちの手で町が復興できればそれは希望にもつながる。申し込み者が殺到し、岩手県陸前高田市で計121人が免許を取得しました。いま第2弾が、宮城県岩沼市で100名規模で始動しています。重機免許は数万円で取得できるんです。生活費の数万円はすぐになくなってしまいますが、重機免許を取得して仕事に就ければ年に数百万稼ぐことも可能になります(http://wallpaper.fumbaro.org/licence/)。
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「ミシンプロジェクト」の講習会の様子。
 「ミシンプロジェクト」は、被災地の女性たちにミシンを贈ることで元気になってもらい、将来的にミシンでの作品づくりを仕事につなげていただこうというプロジェクトです。「ミシンがあったらサイズのあわない服などの支援物資を調整したりできるから便利なのに」という被災地の声がきっかけで立ち上がりました。ただミシンを贈るだけではなく、特定の商品を作っていただけるようになるための講習会を開催し、帰りにミシンをお渡しして、その後、商品を納めていただいた方には制作費をお支払いするというかたちを取っています。また様々な会社からお声掛けいただいています。2万円のミシンが、これから200万円をつくる道具になる。僕らはただ物資を送っているのではなく、被災地の人たちがまた前を向いて生きる希望が持てるようになるための支援を行っているんです。これからは全国の関連企業さんのお力も必要になります。商品受注や販路確保のお話はもちろん、中古の工業用ミシンや裁断機を提供できるという方もぜひご連絡いただきたいですね(http://wallpaper.fumbaro.org/machine)。 ■win-winの社会的事業の構想 ――現在は、企業の協力を得た雇用創出・就労支援も進んでいるそうですね。 西條 「ふんばろう東日本企業連合」というプラットフォームに各企業さんに参加してもらい、就労支援プロジェクトを進めています。おおまかにいえば、現場ではお金が必要で、地元自治体にはさまざまな補助金が落ちていますが、それをもとに事業をつくるという作業が追いついておらずギャップが生じているので、そこを埋めることで地元に雇用を創出していこうというwin-winの社会的事業の構想です。これからも関心のある企業や自治体の方からご連絡いただければ前向きに対応していきたいと思っています。 ――すべてにおいて無駄がなく、すごくうまくいっているように見えるのですが、今までの失敗談などはあるんですか? 西條 肝心なところはうまくいっていると思うのですが、ひとつひとつのプロジェクトをかたちにしていき、それら全体をマネジメントしていくのは簡単なことではないですよね。立ち消えになってしまった企画もあります。「モバイルトップス」という、被災地で求められる機能性とおしゃれさを兼ね備えた「被災地専用Tシャツ」を作ろうという話になってユニクロさんに持ち掛けたんですが、そのまま夏が過ぎて消えていった(笑)。  もっとも、重要なプロジェクトは確実に成果を上げていますが、それは意識の高いボランティアのみなさんのご尽力の賜物ですね。表には見えないのですが、みなさん仕事が終わってからミーティングに来たり、夜中まで作業されたりと本当にすごいんですよ。「ふんばろう」は、そうした素晴らしい人たちの"気持ち"と"行動"によって成り立っています。 (取材・文=編集部/中編につづく●さいじょう・たけお 1974年、宮城県仙台市生まれ。早稲田大学大学院(MBA)専任講師。専門は心理学や(科学)哲学。「構造構成主義」というメタ理論を体系化。2011年4月に「ふんばろう東日本支援プロジェクト」を立ち上げ、代表を務めている。Twitter→@saijotakeo●ふんばろう東日本支援プロジェクトhttp://fumbaro.org/
河北新報特別縮刷版 3.11東日本大震災1ヵ月の記録 まだまだこれから。 amazon_associate_logo.jpg
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あのわいせつ事件の名も! 世田谷区が「恫喝訴訟」防止に無関心な理由

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「恫喝訴訟防止法案」の請願に対して、担当
課長が「必要性がない」との意思表明をした
世田谷区。
 本サイトでたびたび報じてきた、いわゆる「野村総研強制わいせつ事件」(※記事参照)が、ここにきて新たな動きを見せている。同事件は、野村総研の上海副支社長(当時)が取引先企業の女性営業担当者に強制わいせつ行為を働きながら、野村総研側が、同問題を告発してきた被害者の支援者だけでなく、被害者女性に対して1,000万円の損害賠償を求める"逆ギレ訴訟"を起こしたというもの。  公判は18日に第4回目を迎えるが、これに先立つ11月14日、東京都の世田谷区議会に提出された「恫喝訴訟防止法案」の成立を求める請願が、この野村総研の"逆ギレ訴訟"を恫喝的な訴訟の象徴的な事例として挙げているのだ。区議会に請願を提出したのは、大手法律事務所と連携しながら各種案件の調査を専門に行っている証拠調査士の平塚俊樹氏。『LAW(ロウ)より証拠』(総合法令出版)などの著書や情報番組のコメンテーターとしても知られる人物である。  一般に恫喝訴訟とは、資本力のある大企業などが自社に不都合な事実を隠ぺいするため、社会的立場の弱い個人への「嫌がらせ」を目的に起こす高額な損害賠償訴訟を指す。被告とされた個人は莫大な訴訟費用や精神的苦痛を強いられるため、企業側は裁判の勝ち負けに関わらず、訴訟を起こすことで個人を追いつめ、結果的に事実の隠蔽を図ることが可能となる。  アメリカではSLAPP(Strategic Lawsuit Against Public Participation=スラップ)とも呼ばれ、80年代以降に横行。主に環境破壊などを訴える市民団体らに対し、企業側が「営業妨害」などを建前上の理由として多額の損賠賠償を請求する民事訴訟が頻発した。これが司法制度の精神を本質的に歪めるものとして社会的に問題視され、現在では多くの州で反SLAPP法が制定されている。  ところが、こうした恫喝訴訟が野放し状態の日本では、資金力のある大企業や団体がその気になればやりたい放題というのが現状だ。これに一定の歯止めをかけるべく、区議会へ提出されたのが今回の請願。その悪しき事例の筆頭に、野村総研が被害者女性に1,000万円の損害賠償を求めた"逆ギレ訴訟"を挙げたのである。「恫喝訴訟」防止の法案成立へ向け、まずは区議会の請願審査を経た上で、区を通して国会へ意見書を提出してもらうのが請願の目的とみられる。  ところが、請願審査が行われた区議会の企画総務常任委員会で説明を求められた世田谷区の淺野康・区政情報課長は、「国内でこの問題の議論は成熟していない」とした上で、「説明」を超えた異例とも言える断定的な答弁を概要以下の通り行っている。 「憲法で認められている訴訟の自由が犯される恐れがある。今の段階で国に"やみくもに"働きかける必要はない」 「区にそうした(恫喝訴訟に関連する性被害者等の)声は一件も届いていない。この時点で"むやみに"国へ提出する必要はない」(" "は筆者註)  こうした淺野課長の答弁に対し、今回の請願の「紹介議員」となった田中優子議員(みんなの党会派)は、「強い違和感を覚える」として次のように疑問を呈する。 「意見書を国に出すかどうかをこれから議会が審議しようというのに、なんで行政側が『必要ない』と言い切ってしまうのか。あの場で課長に求められているのは、あくまで行政の立場を説明すること。その意味で、説明を超えた過剰介入の発言との印象を受けます。法案内容も含めて国で検討をしてほしいというのが請願の趣旨なのに、『やみくもに』とか『むやみに』などという表現を使ってまで阻止を図るのも疑問です。少なくとも、今まではあんな答弁の仕方を行政はしてこなかったはずです。何か圧力でもあるんでしょうか。今回は非常に不自然な流れを感じています」  こうした世田谷区の反応について、請願者である平塚氏が次のように推測する。 「実はつい最近、世田谷区の課税課にいたある女性職員(編注:すでに退職)が、自らの相続問題に絡んで区民の納税証明書を勝手に取るなどの違法行為を繰り返していたとの告発があり、私から区の担当課長宛てに事実確認の内容証明を出すという一件がありました。淺野課長は同じ世田谷区の管理職として、一連の顛末と私の名前をご存じのはずですから、今回の請願に対して一定の警戒心を抱かれたのではないでしょうか」  結局、委員会に出席した他の区議会議員からも「時期尚早」「訴訟の自由を侵害する」「日本とアメリカは違う」などの意見が出され、多数決で「継続審議」というあいまいな決着に。建前上は「今後も時世を勘案しながら継続して審議していく」(企画総務委員長)としながら、事実上の"お蔵入り"との見方も強い。結果的に世田谷区役所と区議会は、性犯罪被害者の人権より、大企業による恫喝的な「訴訟の自由」を優先したとも受けとれる。  今回の請願の紹介議員の所属政党「みんなの党」の、衆議院東京都第6区の落合貴之支部長は、この問題について次にように語る。 「こういった問題は、企業や業界団体とのしがらみのない我々が関心を持たなければならないと考えています。今回の請願にあたり、(野村総研強制わいせつ事件などの)具体的な事例の存在を知り、問題の根深さを再認識しました。今回は継続扱いとなりましたが、今後も区議会議員と協力しながら、地域で問題提起をしていくとともに、立法機関である国会にも声を届けていきたいと考えています」  世田谷区役所については本サイトでも、NPO法人へ2,000万円の補助金が消えた一件で保坂区長や副区長、担当部長らの虚偽答弁の可能性について指摘したところだ(※記事参照)。実は、違法行為を繰り返していたと平塚氏が指摘する元課税課の女性職員についても、筆者のもとへ複数の内部リークが届いている。その中には女性職員が世田谷区役所OBの弁護士と共謀し、区民に対して恫喝まがいの訴訟を在職中に起こしていたという信じ難いものまで含まれている。現在、関係者を通して聴取を進めており、内容が確認でき次第、本サイトを通してお知らせしていきたい。 (文=浮島さとし)
はい・まっぷ 世田谷区住宅地図 けっこうブラック......。 amazon_associate_logo.jpg
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千葉・バス立てこもり「マスコミを呼べ!」容疑者・荘司の知人が告白するその"主張"とは

「マスコミを呼べ! これを渡すんだ!」 「分かった、要求があれば聞くから」  16日朝、千葉市中央区のバス立てこもり事件で、ナイフを持って運転手と女性を人質にとった男は、片手にマスコミ宛の封書を持っていた。「緊急事態発生中」の表示を点灯させて繁華街の道路脇に停車された路線バスの中で、警察による約1時間の説得の末、警察がバス内に突入し、男は現行犯逮捕された。  幸い人質にケガはなかったが、捜査関係者によると犯人の荘司政彦容疑者(65)は、「前に服役したときひどい扱いを受けた。何度も警察に訴えたけど、取り合ってもらえなかった」と動機を語ったという。所持していた封書には数十枚の分厚い資料が入っていた。  荘司容疑者は2000年に大阪市で内縁関係の女性を絞殺したとして殺人罪で実刑判決を受け服役。"ひどい扱い"というのはこのときのものだというが、出所直後の08年12月にも、千葉大医学部の駐車場で通行人の女性の首を8分間も絞めて逮捕されており、再び服役している。当時も「刑務官からのひどい扱いを警察に訴えたが受理してもらえなかったから騒ぎを起こした」と話していたことが分かっており、つまり"服役中の不当な扱い"を主張するために2度の事件を起こしたというわけだ。  そこまでして荘司容疑者が訴えたかった"ひどい扱い"とは一体どういうものだろうか。荘司容疑者は昨年春ごろに出所していたが、実は昨秋アルバイト先で2週間ほど一緒に働いたという男性(49)が、荘司容疑者の主張の一部を聞いていたと告白している。 「私も過去に2度目のスリで服役したことがありまして、彼とは刑務所内の話で盛り上がったんです。すると彼は『俺は何も悪くないのに何度も懲罰房に入れられた』と興奮し始めました。所内では刑務官に点検用意と言われたら正座して待たなければならないんですが『ヒザが悪くて少し動作が遅れただけで厳しくされた』とか、『何もしていないのに不正連絡をしたと懲罰を受けた』とか語っていました。また、それを抗議すると『あとで行進中に背後から蹴られたり、刑務官がストレス解消のために自分に嫌がらせを続けた』とも言っていました」  この話になると荘司容疑者は「絶対に不正は許されない」と一方的にまくしたてていたというが、男性は「そうですね、と話を合わせると『一緒に警察に訴えよう』と誘われたこともあった」という。  もしかすると刑務官の不当な行ないは事実だったかもしれないが、どんな主張であっても犯罪行為を伴っての訴えが聞き入れられるはずもなく、今回の事件で適用される人質強要罪で起訴された場合、6カ月以上10年以下の懲役刑で実刑判決が予想される。荘司容疑者の持っていた封書が表になることはなさそうだ。 (文=鈴木雅久)
刑務所の中 シャバが一番。 amazon_associate_logo.jpg
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大王製紙100億円使途不明金事件 井川氏を操った"闇のジャンケット"の存在とは――

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大王製紙コーポレートサイトより
 大王製紙3代目の井川意高氏が100億円もの使途不明金で会社に損害を与えた特別背任事件は、闇のカジノ人脈を浮上させつつある。  すでに井川氏がカジノで散財していたとされることは各所で報じられているが、東京地検特捜部の関係者も「金の使途は大半がラスベガス、マカオ、シンガポールなどのカジノだろう」と言及している。 「カジノで使ったと自ら明かせなかったのは、違法カジノに関与していたか、もしくは闇の人脈と絡んでいた疑いがある。カジノ遊びを仲介するジャンケット人脈には暴力団関係者も多いから、もし井川氏がそういう連中に取り込まれていたなら、この件はさらに広がりを見せるかもしれない」(同関係者)  ジャンケット業者とはカジノ顧客の旅の手配や身の回りの世話を行なうホスト役だが、中には掛け金の貸付金利で稼いだり、負け分を取り立てることまで請け負う者もいて、金持ち客を散財させることにも長けているといわれる。  実際、井川氏が派手に遊んでいた都内の繁華街では、高級クラブのホステスらから「井川さんがカジノにハマったのは、あのクラブに出入りするジャンケットと知り合いになってから」と、井川氏が常連だった六本木のクラブを名指しした話も聞かれる。 「そのクラブは、元アイドルの美人ママが親しい女優や女性タレントを政財界の大物に紹介する場所として有名でした。井川さんもそこでたくさんの女性と知り合ったんですが、知り合ったジャンケット業者はあまり行儀の良くない方だといううわさがありました」(同ホステス)  前出捜査関係者によると、井川氏のカジノ遊びに群がった人間たちは俳優や金融業者など、いずれも暴力団関係者ではなかったというが「その延長線上には暴力団構成員がいて、巧妙に井川氏から金を引き出す構図があった疑いがある」という。 「実際、井川氏と遊んだ人物の中には、父親が山口組直参の大幹部だという者もいて、この息子の方は若いころから企業舎弟のように暴力団の看板を表向き使わず稼ぐタイプだった。こういう厄介な者と付き合ったのは井川氏にとって地雷になった」(同)  事実、井川氏の人脈からは別件で暴力団がらみの刑事事件に関与した者が次々に出てきている。そのひとつは、静岡の岡本ホテルグループが運営した会員制温泉リゾートクラブをめぐる預託金詐欺事件だ。暴力団が深く関与したことがすでに報じられていた同ホテルでは、前出の美人ママの夫が資金運用の面で役立ったことが分かっている。 「井川氏が大株主の証券会社が傘下に入っている神戸の医療法人グループにもキナ臭いうわさが聞こえているし、もし井川氏の事件の背景に反社会的な連中がいたとすれば、この件は父親に金を弁済してもらって終わるような話ではない」(捜査関係者)  芸能界とも派手に交遊してきた井川氏。都暴力団排除条例の施行後だけに、この背任事件の波紋から親交あるタレントの名前が表になることがあるかもしれない。 (文=鈴木雅久)
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大学職員自殺の"容疑"はやはり新宿署の捏造!? なぜ警察は証拠VTRを提出しないのか

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警視庁が置かれている中央合同庁舎
第2号館(Wikipediaより)。
 ひとりの青年がJR新宿駅で通りすがりの大学生らに痴漢の容疑をかけられ、激しい暴行を受けた後、警察からの違法な取調べなどが原因で自らの命を絶った2009年12月の「新宿署違法捜査憤死事件」。自殺の背景に新宿警察署によるずさんな捜査や、JR東日本の不適切な対応があったことが徐々に明らかになりつつある(※記事参照)。  青年の母・原田尚美さんの求めに応じて昨年12月に開示された警察の取り調べ調書によれば、痴漢の「被害者」を名乗っていた女子大生が青年を犯人と「見間違えた」と証言していることも判明。新宿警察が、証言もないまま痴漢事件を組織的に捏造し、でっちあげの書類送検をした疑いが極めて濃くなっている。  そんな中、母・尚美さんは警視庁を相手取り、今年4月に国家賠償請求を提訴(※記事参照)。その第3回口頭弁論が11月8日、東京地方裁判所で行われた。  公判のポイントのひとつは、原告である尚美さん側が前回公判で求めた、青年を犯人と断定した根拠となる駅の防犯カメラの映像記録の提出を、被告である警視庁がどのような形で応じるかというもの。警察側は、青年を犯罪者と断定しているすべての根拠を、その一点に依存しているからだ。前回公判で原告が提出した書面の中から該当箇所を以下に抜粋する。 「被告(注:警視庁)は(略)防犯カメラ3つの映像によって事件を確認することができた、としており、更にそのカメラの映像によって判明したとされる事実を主張している。(略)ついては、これら3つのカメラの映像内容及び、各カメラが設置されていた配置や当時の新宿駅構内の様子が分かる実況見分調書その他の参考となる図面を提出されたい」
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公判後の報告会で裁判のポイントを説
明する清水勉弁護士(弁護士会館にて)。
 ところが、警察からは証拠となる映像は提出されず、それどころか、なぜ提出しないかについても書面には一切触れられていなかったのだ。原告の代理人を務める清水勉弁護士があきれながら言う。 「警察側が青年を犯人とする主張の内容があまりにこちらの見解と異なるので、そんなに言うなら証拠を出しなさいよと言ったのが(第2回公判の)8月です。で、3カ月待った今日の被告の返答が、『あるかどうかも含めて検討します』ですからね。冗談じゃないですよ。3カ月間何をしていたのか。もし証拠がないならこれまでの主張を撤回しろという話です。しかも、こうしたふざけた対応を裁判長が注意することもなく、『じゃあ被告は検討してよ』という態度ですからね」  これについて、今回の事件を見続けているある弁護士が次のように説明する。 「裁判官が公正中立なんて話は幻想であって、基本的には裁判長も"向こう側"の人間ですから。しかも、一般的な行政事件と比べて、警察が絡む場合は特に裁判所が"向こう寄り"になるので最悪です。検察と警察、裁判官がグルになって冤罪を量産している組織が裁判所だと思えば間違いありませんよ」  また、今回の事件は新宿警察の捜査過程に違法性の疑いがあることが重要なポイントになるわけだが、「裁判所は基本的に、警察の言い分を100%信用して進めてしまう」と、この弁護士は指摘する。 「警察が提出する供述調書などの内容を、裁判所が疑うことはまずありません。警察がウソの書類なんか作るはずないという大前提で公判を進めてしまう。でも実際は、警察なんて捏造集団なんですよ。ノルマ達成のために事件をでっちげるなんて日常茶飯事。しかも、裁判官も事実の究明なんて二の次だから、とにかく警察の味方をする。日本の司法制度なんてそれくらい脆弱でいい加減なんです。国民はもっとそのことを知らないといけない。決して他人事ではありませんよ」  警察にはびこるノルマ達成のための"でっちあげ体質"については、先の清水弁護士も今回の事件と絡めて次のように説明する。 「警察と一般人の社会常識があまりに違いすぎるんですよ。彼らの頭の中にあるのは、とにかくノルマ。今回だって、事件があった夜の宿直の職員がたまたま条例違反を主に取り扱う生安(せいあん=生活安全課)だったから『じゃあ、迷惑防止条例違反で片付けようぜ』と。それだけのことですからね。もし宿直が傷害事件を専門にする捜査一課だったら、扱いはまるで違っていたはずです。それくらいいい加減だということなんですよ」  自分の成績を上げるために一般人を犯罪者に仕立て上げる警察組織と、その言い分をそのまま引き受けてしまう裁判官たち。母・尚美さんの「この国の司法に正義はあるのでしょうか」(Twitterより)との言葉が重く胸にのしかかる。清水弁護士は、支援者を対象にした公判後の報告会で次のようにコメントした。 「当初の予測では、この裁判ってもっと淡々と進んでいくのかなと思っていたのですが、予想以上というか、予想通りというか(苦笑)、被告(=警視庁)の対応があまりにひどい。今後も公判を重ねるごとに警察のひどさが一層明らかになっていくことになるでしょう」 (文=浮島さとし) ●新宿署違法捜査憤死事件(支援者によるまとめ) http://harada1210.blogspot.com/ ●【短期集中連載】発生から1年「新宿駅痴漢冤罪暴行事件」の闇 http://www.cyzo.com/2010/12/post_6078.html
それでもボクはやってない スタンダード・エディション 冤罪被害の可能性は、誰にでもある。 amazon_associate_logo.jpg
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「地震は克服」「原発で所得倍増」――そんなセリフ満載の「原発PR映画」上映会が開催

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 終わらない福島第一原子力発電所をめぐる混乱の中で開催が告知され、注目を集めていた原発PR映画上映会が10月30日、東京大学本郷キャンパスで開催された。多くの人が駆け付けたが、そこで上映されたのはPRどころか、「プロパガンダ」と呼んだ方が適切な、衝撃的な映像の連発だった。  この上映会は、前回の記事で記した通り、東京大学大学院情報学環などが行っている「記録映画アーカイブ・プロジェクト」の一環として開催されたもの。参加申込みが殺到し、告知から3日ほどで満員御礼になったという。冒頭、あいさつに立った東京大学大学院情報学環の丹羽美之准教授は、プロジェクトの概要を説明した上で、今回の企画意図を次のように語った。 「3.11以降、原発に批判的な映像作品が上映される機会は多いが、推進側の映像作品は、あまり注目されておらず、忘れ去られようとしている。そこで、推進側では原発がどう記録されているか考えてみようと思った」  ちなみに丹羽教授によれば、原発を扱った記録映画は岩波映画製作所の手によるものだけで数十本存在し、そのほかを合わせると数百本にも数千本になるかもしれないとのこと。「(財)日本原子力文化振興財団(http://www.jaero.or.jp/)」では、現在も原発PR映像の無料貸し出しをしており、一般の人でも見ることができるという。  さて、この日上映されたのは原発PR映画3本と、完成直後の福島第一原発を取材したテレビ番組の合計4本。  最初に上映された『東海発電所の建設記録』は、タイトルの通り1966年に制作された日本初の商用原子力発電所の計画から完成までを描いた作品である。建設記録なので『プロジェクトX』(NHK)のような展開が想像されるが、そんな要素は一切ない。昭和のドキュメンタリー特有の、怪獣映画のような、おどろおどろしい音楽で原子炉と原子炉建屋を映し出し、何もなかった海岸に一つ一つ施設ができていく様子が描かれる。ここで建設されたのは、イギリスから輸入した「黒鉛減速炭酸ガス冷却型原子炉(チェルノブイリと同じタイプ)」。技術も輸入品で、ナレーションでも「先進国では~」という表現が出るあたり、日本が経済的にまだ貧しく、原子力に何かしらの夢を持っていたことを感じさせる。この作品では、そもそも原子炉ではどうやって核分裂を発生させ、エネルギーを発電まで導くのかが丁寧に説明される。あくまでノリは科学教育映画で、プロパガンダ色は薄い。東京都教育映画コンクール金賞、科学技術映画祭入選、日本産業映画コンクール 日本産業映画賞など受賞歴が多いのも納得できる作品だ。 R0022003.jpg  ところが、次に上映された『原子力発電所と地震』(1975年作品。企画:資源エネルギー庁 製作:鹿島映画)あたりから様子がおかしくなる。タイトル通り、内容は「原発は地震がきても壊れないようになっています」と解説するものだ。映像では、繰り返し行われる耐震設計のための実験、建設にあたっての地質調査が描かれている。実際の建設にあたっては、岩盤まで掘り下げてから鉄骨とコンクリートによって、原子炉自体を岩盤と一体化させて揺れに耐えられるようになっていることを解説していく。そして、ナレーションは「(原発は)宿命といわれる地震を克服した」と自画自賛する。3.11以降の状況の中で見ると、なぜ誰も津波が押し寄せてくることを想定しなかったのか、という疑問がわき上がるばかりの作品である。  続いての『海岸線に立つ日本の原子力発電所』(1987年作品。企画:日本立地センター 製作:岩波映画製作所)は「鳥の見た島国のエネルギー」という副題で、各地の原発を空から眺めながら、原発が地域社会の発展に役立っていることを示すものだ。この映画、冒頭で映し出されるのは、当時、福島第一原発で開催された「エネルギーフェア」なるイベントだ。原発の安全性をPRするためのイベントなのだが、今見ると悪い冗談としか思えない。しかも、ナレーションは「原発が建設されたことで"浜通りのチベット"と呼ばれた、この地域では所得も増え生活が豊かになった」と解説するのだ。さらに、映像は四国電力の伊方原発、九州電力の玄海原発へと移り、風光明媚な土地に原発が溶け込み、地域社会とも共存していることを語っていく。もちろん、まったくそのようには感じられない。むしろ「どこの原発も海岸線ギリギリ。ほかの原発も危ないんじゃないのか......」と余計な不安に駆られてしまいそうな作品である。  最後に上映された『いま原子力は...』(1976年。企画:放送番組センター 製作:岩波映画製作所)は打って変わって、原発は本当に大丈夫なのかという疑問を投げかける作品。当時、3号機までが運転中の福島第一原発で取材に応じた担当者が「アメリカの学者が計算したところ大事故の起こる可能性は50億分の1」と力説している。  上映後の討論では、『いま原子力は...』を製作した記録映画監督の羽田澄子氏が当時の思い出を語った。 「3.11まで自分がどんな映画をつくったかすっかり忘れていたので、急いで取り寄せた。取材の時に、説明してくれる人が一生懸命話してくれるうちに"これはウソだ"と思った」  また、東京大学大学院情報学環教授の吉見俊哉氏は、かつて盛んに行われた「原子力平和利用博覧会」について触れ、いかに原子力の平和利用がPRされてきたかを力説。 「日本製の原発PR映画、広報では何がなされて、社会的に意味を持ってきたかは研究が行われていない」  なお、本日の上映会は、僅かな期間で予約が満員になってしまったため「記録映画アーカイブ・プロジェクト」に参加している「一般社団法人 記録映画保存センター(http://kirokueiga-hozon.jp/index.html)」では、改めて上映を検討中とのこと。  これらのPR映画を通じて感じるのは、日本ではこれまで原発がもたらす豊かな未来が広く信じられていたことだ。3.11以降の世界で、原発に託した夢は完全に断たれてしまったのか。PR映画を通して、もう一度考えてみてはいかがだろうか。
原子力戦争 Lost Love これも封印映画。 amazon_associate_logo.jpg
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新自由主義否定はナンセンス! やっぱり「小泉改革」は日本に必要だった

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八代尚宏教授。
 小泉内閣の象徴ともいえる"郵政民営化"。しかし、いま国会では郵政民営化を見直す動きが活発化している。またメディアでも、小泉内閣の新自由主義的政策により格差が広がったことは自明の理のように語られている。まさに、小泉構造改革はすべて間違いであったかのように。そんな流れに異を唱えるのが、国際基督教大学の八代尚宏教授だ。八代教授は今年8月、『新自由主義の復権―日本経済はなぜ停滞しているのか』(中公新書)を上梓し、話題を呼んでいる。今回、八代教授に小泉改革と新自由主義について話を聞いた。 ――本書を書いたキッカケとは? 八代尚宏教授(以下、八代) 特にテレビなどのインタビューを受ける際、聞き手は「小泉改革によって格差が広がった」ということを前提に話を進めますが、私が「違います」と言うと一様に驚かれる。経済学者と一般の人との間での認識が、あまりにも違うんですね。そこに中公新書から、私の考えを1冊にまとめないかという依頼があったので、新書ならたくさんの人に読んでもらえると思い書きました。 ――経済学者と一般の人の認識の違いとは? 八代 いま日本経済が停滞していることは、誰もが分かっている。それを受けて、一番単純な発想は「誰かが失敗したから」、あるいは「誰か悪い人間がいたから日本経済は停滞してしまった」という犯人説的な発想が一般的です。しかし、誰かが変えたから悪くなったのではなく、逆に誰も変えなかったから悪くなったというのが我々の認識です。つまり、世の中が急速に変化している。特に1990年代以降、旧社会主義国が崩壊し、世界経済が一挙にグローバル化したにもかかわらず、日本はそれに対処しようとしなかった。そして、中国やインドのような人口大国が急速に経済発展し、日本を追い詰めているわけです。一方、日本国内においては高齢化が進み、労働市場や財政面で大きな影響を与えている。そういった大きな変化の中で、日本の企業や政府は、80年代までの"ジャパン・アズ・ナンバーワン"というサクセスストーリーからいまだに逃れられない。そして、失われた10年という90年代の不況と停滞を迎えた後に小泉純一郎首相が出てきた。小泉首相は国民の支持を得て、この国を変えていこうとしたが、その途中の5年で辞めてしまった。5年は早いですね。80年代にイギリスを変革したサッチャー元首相でも10年はかかりましたから。 ――本書の帯には、「新自由主義は市場原理主義にあらず」と書かれています。両者の違いについて教えてください。 八代 市場原理主義という言葉は、そもそも経済学にはありません。これは、政府はいらない、市場に任せておけば自由放任でよいという夜警国家のような考え方です。しかし、社会資本の形成、景気の安定、所得再分配や公害の防止が政府の役割であることは、経済学のどの入門書にも書かれていることです。それにもかかわらず、あたかも「夜警国家にすべき」というようなことを小泉改革で言ったかのような幻想がつくり上げられています。新自由主義も同じように理解されているのですが、新自由主義はケインズ(イギリスの経済学者。世界恐慌の際、アメリカではニューディール政策による公共投資で景気を刺激したように、積極的に政府が経済に介入することを主張)のように政府が病人を診る医者にように、経済をコントロールしなければいけないということに対するアンチテーゼです。本書では、政府が適切な役割を果たす健全な市場経済という意味での新自由主義を再定義しています。 ――政府が適切な役割を果たす市場経済とは、具体的にはどういうことでしょうか? 八代 サッカーの試合にたとえれば、政府は審判なんです。サッカーの試合は選手だけではできません。公平にプレーするように審判が笛を吹かなければいけない。しかし日本の政府は、権威を笠にかけてやたらに笛を吹き、レッドカードを出すような審判なんです。一流の審判はめったに試合を止めないで、上手く試合をコントロールする。ファウルがあっても、ファウルをされた側に都合がよければ、アドバンテージルールを使うわけです。そういう巧みな審判が必要だということです。経済学では当たり前なのですが、市場をベースにして賢明な政府と組み合わせることが重要です。残念ながら、こうした経済学の考え方が日本では普及していない。特に、財界・マスコミ・官僚に普及していない。官僚の多くは法学部出身ですから、経済学を軽視しているのかもしれません。 ――日本は戦後、市場経済の恩恵を受け、ここまで成長しました。にもかかわらず、大竹文雄・大阪大学教授著『競争と公平感』(中公新書)で触れられているデータ(「貧富の格差が生じるとしても、自由な市場経済で多くの人々はより良くなる、という考えに賛成するか?」という質問を各国国民に聞いた、2007年のアメリカのピュー研究所の調査によると、主要国の中で日本の市場経済への信頼は最も低く、49%の人しか賛成していない。これは旧社会主義国であるロシアや中国よりも低い数値)の通り、一般の日本人の多くが市場経済を嫌うのはどうしてでしょうか? 八代 実際に市場経済を利用しているにもかかわらず、経済学を体系的に勉強していない。市場を使って利益を得て、市場競争に勝ち残ることに後ろめたさを感じるビジネスマンも多いのではないかと思います。市場での公平な競争を通じて利益を得ることは、人々が必要とするモノやサービスを提供しないとできないことですから、それ自体、立派に社会に貢献しているのだという自信をもってもらいたいです。たとえば、コンビニエンスストアは高い収益を上げています。しかし、人々を搾取しているわけではありません。人々が欲しいものを狭い店内に置き、24時間営業し、多様なサービスを提供することで人々の生活を著しく便利にしています。いま医療・介護・保育には需要がたくさんあるにもかかわらず、それに見合ったサービスを提供できず、お客に長い行列をつくらせています。私は、コンビニ業界がノウハウを活かして、介護や保育サービスに乗り出せば、どれだけ効率的になるだろうと思います。 ――確かに、保育所の待機児童問題は大きいですね。 八代 これこそ民間の知恵を使うべきだと思います。従来、そうした保育などは、福祉として政府がやらなければいけないという考えが多数でしたが、政府にはお金がないので、いつまでたっても供給は増えません。なぜ、政府が監督する公益的なサービスとして、知恵を出すところから民間にやらせないのかということです。旧ソビエト連邦などの社会主義国が90年代に放棄したことをいまだに続けています。これが、昔から日本は世界最大の社会主義国などといわれているゆえんです。これまでは民間部門が頑張ってきたので、なんとか90年代までやってこれた。でも、もうそれも限界に来ていて、民間企業はどんどん国外へ逃げ出します。あとは、効率の悪い農業とサービス部門が残されています。目に見えない「ベルリンの壁」を壊さないといけない、真の市場主義国になる時期に来ています。 ――本書の中でも、小泉改革により格差が広がったというのは間違っていると書かれていますが。 八代 競争を激しくすると勝つ人と負ける人がいるので、格差が広がるという考え方があります。しかし、規制緩和をすれば、逆に規制によって保護されている人と保護されていない人の格差は縮まり、新たに職を得る人もいるわけです。 ――たとえば、小泉改革により、タクシー業界では02年に規制緩和が行われ、車両が増え、タクシー運転手が増え過ぎたことで他の職種との所得格差が広がったと言われています。 八代 規制緩和によって格差が広がったというのは、元々運転手をしていた人の言い分です。タクシーの参入規制を撤廃したことにより、約1万人の新しい雇用が生まれた。タクシー運転手の人数が増えれば運転手の所得は減りますが、だからといってタクシー運転手が貧しくなって格差が広がったというのはあまりに一面的です。多くの失業をしている人が運転手になれたわけですし、また消費者にもとっても便利になった。たとえば、タクシー会社に競争意識を芽生えさせ、「空港から都市中心部への固定料金」「高齢者や子どもの送迎」などのサービスが生まれた。日本の世論はアンバランスで、組織されたタクシー会社や運転手の声は聞こえますが、規制緩和によって利益を得た人々の声はほとんど反映されていない。また、供給が増えたのに価格がまったく下がらず、消費者の需要が増えなかった、中途半端な規制緩和であったことも、所得が減った一因です。 ――若年層の間でも、正社員と非正規社員のように格差が広がったと言われています。 八代 若年層に非正規社員が増えたということについては、規制改革のせいというより、経済の長期停滞の影響が非常に大きく、そもそも雇用自体が減ってしまっている。日本には厳格な雇用保障慣行があり、中高年労働者の雇用を維持したために、新卒採用を抑制した。雇用調整のしわ寄せを受けた点も重要だと思います。そして正規社員の雇用や賃金を厳格に守るために、必要以上に非正規社員が増えてしまった面があると思います。いまの日本経済の大きな背景には長期停滞があって、それを打破し、雇用を増やすためにどうしたらよいかを考えたのが小泉改革だったと思いますが、セフティーネットが不十分であったなど、やはり中途半端で終わってしまった。 ■TPPを通じて、日本は市場を拡大させられる ――ここ数年、「日本は経済的に豊かになったのだから、もう経済成長なんてしなくていいんだ」というような意見が聞かれますが、経済学者の立場からどう考えられますか? 八代 無責任な考え方ですね。経済成長をしなければ新規雇用は生まれません。いま雇われている人々は、経済成長をしなくてもよいと思うかもしれませんが、一番の被害者は若年層です。これから雇われる人、子育てを終えて働こうとする人、それから定年退職後に働きたい高齢者、雇用が必要な人はたくさんいるわけです。そういう雇用を作り出すためには、経済成長をしなくてはならない。 ――そんな経済成長はしなくていいんだという雰囲気の中、GDPが中国に抜かれましたが。 八代 「中国はGDPが日本より大きくなったけど、空気は悪いし、国内での格差が大きい」と言う人がいますが、そんなことは中国の問題です。日本がなぜ抜かれたか? それは、日本が過去15年間停滞していたからです。あとは、「日本は大人で、中国は子ども、子どもが成長するのは当たり前だ」とか、そういうひどい議論をしている。そんな議論が正しければ、日本より成熟したアメリカはなぜ成長しているのか。日本にも成長できる余地はいくらでもあるわけです。それをしないのは、"人災"です。 ――失われた20年を取り戻し、経済停滞を打破していくにはどうしたらよいのでしょうか? 八代 過去の経済環境に合うようにつくられた諸制度の改革ですね。制度改革は、現在の先進国では当たり前に行われていることです。日本は世界が変わっている中で、ひとり過去の成功の夢を貪り、昔のままでいいと思っている。これを問題と思わないことこそが、最大の問題です。 ――規制緩和をすると外資系企業が入ってきて、日本が乗っ取られるというようなことを言う人がいますが。 八代 外資系企業が入ってきてくれれば、雇用の創出という面からみたら、明らかにプラスです。いまの日本の問題は外資系企業がどんどん撤退していることです。TPPの反対論者などが主張する「外資系企業が日本の資本を食い尽くす」という意見は、現に日本がアメリカに対してやってきたことなのです。かつて、日本の資本がアメリカに進出し、工場を作り、雇用を生み出した。初めはロックフェラーセンタービルを買収したことで反発もありましたが、雇用を生み出したことにより歓迎されたのです。 ――現在、中国資本が入ってくることについては? 八代 現在、かろうじて日本に直接投資をしてくれているのは中国です。かつて、アメリカ人が日本の資本が入ってくることに抱いたのと同じ警戒心を、日本人は中国に対して抱いている。私は、中国が日本に対して投資してくれることはいいことだと思います。それで日本の雇用は増えるわけですから。世界的な自由貿易体制では、日本もアメリカに輸出するし、アメリカも日本に輸出する。そして、日本もアメリカや中国に投資するし、中国やアメリカも日本に投資する。それがなぜ悪いのかということです。 ――TPPに反対する人は、その辺が分かっていないのでしょうか? 八代 TPPというのは、アメリカも日本もお互いにもっと自由貿易や投資を増やしましょうということで、NAFTA(北米自由貿易協定)でやったことを環太平洋に広げるということです。NAFTAについても、それでカナダの企業がアメリカの企業に買収されたとか言われているのですが、NAFTAで最大の利益を得たのはカナダ経済です。それは広大なアメリカの市場に対して、カナダからどんどん輸出ができたからです。カナダの90年代は、日本と同じように財政赤字で経済も停滞していた。けれども、NAFTAを通じた輸出の拡大によって、大幅な財政再建のデフレ効果を相殺し、経済も良くなった。同じようなことは、日本もTPPを通じてできる可能性があるわけです。 ――野田総理に変わり、いまの政局に期待することはありますか? 八代 ひとついい兆候は、野田さんが国家戦略会議を使うと言っていることです。やはりTPPにしてもそうですが、改革を行うためには密室の中で決めるのではなく、きちっと反対派の意見を聞いて議論する場が必要だと思います。賛成派も、反対派もお互いが資料を出して、それを全部公開して議論を尽くせば、自ずから世論はできていくわけで、そこで首相が決断して方向を決める。野田さんは実務家の総理ということで、粛々とやっていくことに期待しています。先日参加した国際会議で、意外と外国人の評判は良く、驚きました。民主党で初めてノーマルな総理が出てきたと。もっとも、実際は未知数で、今度のTPPへの参加という大きな課題をどう実現するかが試金石となります。 (構成=本多カツヒロ) ●やしろ・なおひろ 1946年大阪府生まれ。68年国際基督教大学教養学部、70年東京大学経済学部卒業、経済企画庁(現内閣府)、OECD事務局、上智大学国際関係研究所教授、日本経済研究センター理事長等を経て、現在、国際基督教大学客員教授、安倍・福田内閣で経済財政諮問会議議員、メリーランド大学博士(経済学)、労働経済学、日本経済論専攻。 主な著書に、『日本的雇用慣行の経済学』(日本経済新聞社)、『少子・高齢化の経済学』(東洋経済新報社)、『雇用改革の時代』(中公新書)、『健全な市場社会への戦略』(東洋経済新報社)、『労働市場改革の経済学』(東洋経済新報社)、『成長産業としての医療・介護(共編著)』(日本経済新聞社)などがある。
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