「単純所持の禁止の導入を検討」でも、やっぱり復興優先 宮城県「児童ポルノ」規制のゆくえ

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 先月18日、宮城県で震災以来中断していた「児童ポルノ」の単純所持禁止などを検討する「女性と子どもの安全・安心社会づくり懇談会」が2年ぶりに再開された。懇談会では、2年前に検討されていた性犯罪前歴者のGPS監視を断念する一方で、単純所持の禁止は引き続き検討することが決められた。 「児童ポルノ」を規制する条例は、奈良・京都をはじめとした自治体でも導入されている。そうした中で、この懇談会では単純所持の禁止と性犯罪前歴者へのGPS装着などをテーマとして盛り込んでおり、注目を集めた。当初、宮城県は2011年度中にも懇談会の結果を受けて、児童ポルノに関する条例制定を目指すとしていたが、東日本大震災もあり、懇談会は休止されていた。  今回、2年ぶりに懇談会が再開された理由を、環境生活部共同参画社会推進課の担当者は次のように語る。 「村井嘉浩知事は、検討したかったが手をつけられないでいました。宮城県の震災復興計画では、今後の10年間を復旧期(3年)、再生期(4年)、発展期(3年)と考えています。今後の復興をにらんで、安全で安心して暮らせる街づくりは必要だろうという意識で、再開することになったんです」  再開された懇親会でまず村井知事は、性犯罪前歴者のGPS監視は震災からの復旧・復興が最優先課題になる中で、人手も財源もかかるとして、断念する旨を表明した。もう一つの重要なテーマである児童ポルノの単純所持禁止については、今後も懇談会で検討していく方針だ。ここでは、すでに導入されている奈良・京都などの条例を参考にしながら有識者らの意見を聞いて、条例の必要性を検討する予定だ。ただ、現時点では、まったく白紙の部分が多い。 「(奈良・京都などの条例と)同じような内容になるかも含めて、検討していく予定です」 と、前述の県の担当者は話す。それらを検討する場である懇談会だが、次回開催の予定は「まったく決まっていない」(同)という。  そもそも、宮城県でも、この問題への関心度は限りなく低いようだ。 「マスコミの方から問い合わせはあるのですが、県民の方からはありません。マスコミからの問い合わせも、もう少しあると思ったのですが……」(同)  宮城県としても10年がかりの復興計画など現実的な問題が山積みの中で、効果に疑問のある単純所持の禁止を今すぐやる必要があるのか? ということは当然考えているようだ。 (取材・文=昼間たかし)

開店したばかりの店は要注意!? 中国で毒食品から身を守る方法

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 下水から採取した油を精製した食用油「地溝油」をはじめ、羊肉と称するネズミやキツネの肉、カドミウム汚染米などなど、日本では考えられないような毒食品が流通する中国。くれぐれも日本の食卓に流入しないことを祈るばかりだ。一方では、中国を訪れる日本人は毎年約400万人。両国の経済的結びつきがより密接なものとなる中、好むと好まざるとにかかわらず、商用や出張で中国を訪れる日本人も少なくない。  日本であれば、中国産食品を避けることで毒食品から身を守ることはある程度可能だが 、中国で“チャイナフリー”は不可能な話。では、食品衛生上、危険地帯といえる中国に行くことになったら、現地でどう身を守るべきか?  中国取材を続けるルポライターで、『忍びよる中国汚染食材・食品』(宝島社)にも寄稿している奥窪優木氏は、「完全な防御策はない」としながらも、リスクを低減させるポイントを以下のように挙げる。 ■地元客がたくさんいる店を選ぶ  駅やバス停の近くでよそ者相手に営業しているような店は、そもそもリピーターを当てにしていないため、得てして味も悪いし衛生レベルも低い。客の身なりや、店員とのやりとりなどから判断し、地元民が多そうな店を選ぶべし。 ■屋台を利用する時は決死の覚悟で  地元民に混ざってローカルフードを食べるというのは、旅の楽しみのひとつだが、地溝油をはじめとする偽装食品の宝庫なので、覚悟の上で。ちなみに一定以上の所得層にある中国人は、毒食品を恐れ、決して屋台を利用しない。利用しているのは低所得者と旅行者が大半。 ■開店したばかりの新しい店で食べない  中国には、店を潰しては場所や名前を変えて新規オープンを繰り返す、騎馬民族的な営業を続ける飲食業者も多い。そうした店の中には、潰れるまでの短期決戦で利益を出そうとするため、安全性を度外視した食品のコスト削減を行っているところもある。看板が真新しいような店は要注意。 ■飲食店が密集しているエリアで食べる  中国では、飲食店の営業許可が取れるエリアは限定されている。ほかに飲食店がないような住宅地やオフィス街にぽつんとある店は、不法営業の疑いがあり、食品に関するモラルも低いと考えられる。新規オープンの店と同様、摘発されるまで精いっぱい儲けようと毒食品を利用している可能性アリ。 ■新聞販売スタンドでミネラルウォーターを買わない  都市の路上には至るところに「郵政報刊亭」と呼ばれるスタンドがあり、切手や新聞に並んで飲み物やスナックも売られている。しかし、省にもよるが、こうしたスタンドには、食品を販売する許可は与えられていない。かくいう私も、郵政報刊亭で購入したミネラルウォーターで 腹を下した経験がある。あとで思い返せば、キャップの締まりが甘かったので、中身は水道水だったよう……。 * * *  さらに慎重になりたい場合は、日本から携行食を持っていくしかなさそうだ……。 (文=牧野源)

「勃起力やダイエットへの効果も……」アンジー乳房切除手術で見えてきた、遺伝子ビジネスの未来

jori-jori-.jpg  人気女優のアンジェリーナ・ジョリーが乳房切除手術を受けていた話が、意外な方向で注目を浴びている。 「彼女が行った遺伝子検査は、がんの発見だけでなく、勃起力が衰える年齢も分かるという試験データがあって、研究機関には多くの企業や男性から問い合わせが殺到したそうです」  こう話すのは、遺伝子研究をしている医師の安部寛氏。 「日本と違ってアメリカは遺伝子検査が進んでいて、あらゆることを診断しているんです。例えば、あまり知られていないことですが、加齢による精子の劣化があって、これは実は女性の卵子より衰えが激しいんです。当然、人によって劣化する年齢が違うわけですが、遺伝子検査の進歩でこれが分かれば、不妊治療の方面でも画期的な話になります」  アンジーは遺伝子検査の結果、87%の確率で乳がんになると医師に診断され、その予防のため切除。また、50%の確率で卵巣がんになることも明らかになったという。アメリカでは、この遺伝子検査の精度が高いとされ、受診者を増やしており「例えば、生まれてくる子どもがダウン症になる確率が、妊娠していない段階から分かったりするので、研究者の中には“いずれは、おおよその寿命まで分かる”と断言する人もいるほど」と安部氏。  ただ、日本の医学界は遺伝子検査についてはかなり慎重で、アンジーの手術にも否定的な見解を出す医師が多い。それでも、安部氏は「勃起力診断が可能なら受診したい男性は急増するはずで、もうひとつ決定的なのがダイエットとのリンク」と話す。 「アメリカでは遺伝子検査をもとに、それぞれの患者に適したダイエット法を伝授するという医師が増えていて、生活習慣の改善に役立っている」(安部氏)  勃起力やダイエットへの効果がハッキリするとなれば、それこそ人々のライフスタイルにも大きな影響を与えることになり、遺伝子検査への待望論も高まるというのが安部氏の予測だ。 「少子化の今、子どもを産むことに関わる遺伝子検査については、モラル的にどうか議論の余地がたくさんあるので、煮詰めていくのはこれからですが、検査の受診者が増えることは医学界にとっても悪い話ではない。賛同者が増えていくと思いますよ」と安部氏。  アンジーの乳房切除については、その手のビジネスを推進したい企業がバックについているというウワサもあるが、有名女優ならずとも、気になる話だ。 (文=鈴木雅久)

ロリ漫画規制に国民の58.9%が賛成している!「政府が調査研究したら、こうなった」

jipoposter0531.jpg  いよいよ国会に提出された児童ポルノ法改定案。その問題点として挙げられているのが、児童ポルノの単純所持の禁止と、附則で触れられた、漫画などが実際の事件に影響を及ぼすのか3年後を目途に調査研究する、という2つの項目だ。  この2つの項目が、共に「表現の自由」の規制を目指すものであるのは、ほぼ間違いない。ところが、この後者の部分を「調査研究を行うのであれば、いいではないか」という見方をする意見も存在する。調査の結果、漫画が影響を及ぼさない、という結果が出ればいいではないかというわけである。  だが、そのような「表現の自由」を守る側にとって都合のよい結果が出ることは、おおよそ考えにくい。その裏付けになるのが、2007年に内閣府が行った「有害情報に関する特別世論調査」だ。  この調査では「実在しない子どもの性行為等を描いた漫画や絵の規制について」規制の「対象とすべきである」と回答した人が58.9%、「どちらかといえば対象とすべきである」と回答した人が27.6%と、調査対象者の9割近くが漫画などを規制してもよいと回答しているのだ。  また、児童ポルノの単純所持についても、「規制すべきである」が59.5%、「どちらかといえば規制すべきである」が21%となっている。  いったい、なぜこのような結果が出たのか? それは、調査の方法にある。  この調査は、調査員による面接形式で行われた。そして内閣府が公開した資料では、回答をしてもらう前に次のような手順であったことが資料から明らかになっている。この資料を引用してみよう。 (資料5を提示して、対象者によく読んでもらってから質問する。) 【資料5】 近年、子どもたちに悪影響を与える恐れのある以下に示すような情報(「有害情報」と言います。)が多くなっています。 (1) わいせつ画像などの性的な情報 (2) 暴力的な描写や残虐な情報 (3) 自殺や犯罪を誘発する情報 (4) 薬物や危険物の使用を誘発する情報 など 雑誌、DVD、ビデオ、ゲームソフトなどの有害情報に対しては、現在、ほとんどの都道府県で条例により、有害図書類等の指定や青少年への販売禁止などの制限がありますが、罰則が弱い、各都道府県により規制がばらばらであるなどの指摘があります。また、インターネットの世界でも通信事業者やネットカフェ業者による自主規制などが行われていますが、業界団体に属していない業者は規制の対象外となっています。子どもがインターネット上の有害情報に携帯電話等でアクセスして被害にあうケースも増えています。 一方、表現の自由等に配慮して、どのような情報であっても規制すべきでないという意見もあります。 政府では、こうした状況を踏まえ、様々な取組を行ってきたとともに、平成19年7月に「有害情報から子どもを守るための検討会」を立ち上げ、 1 国の姿勢を示す 2 社会全体として取り組む 3 有害情報を適切に把握する 4 有害情報の特性等に応じた対応策を講ずる 5 表現の自由等に配慮する の5原則を掲げて検討を進めているところです。  つまり資料からうかがえるのは「表現の自由」の問題など、規制によって起こり得る問題点を説明することなく、あたかも「有害情報」が蔓延している先入観を植え付けて回答を誘導したという疑念である。  国民の中で「有害情報」や「児童ポルノ」と聞いた時に、それがどういう問題なのかを明確に知る人は限られている。そうした「無知」を利用して作られたのが、前述の調査結果なのである。  そして、この調査結果は09年に児童ポルノ法改定が論議された際にも法務委員会に資料として提出されている。すなわち、調査研究を行うことが附則に含まれれば、3年後には、規制を進める側にとって都合のよい証拠を突き付けながら、漫画などの規制が正当化される可能性が極めて高い。「調査研究ならば、いいではないか」と考えている人々は、あまりにも楽観的すぎる。 (文=昼間たかし)

コミケも児童ポルノ法改正案に反対を決定! 全国同人誌即売会連絡会が反対声明を発表

FLEWIURFT4WEO.jpg  同人誌業界も児童ポルノ法改“悪”案に「NO」を突き付けた。  29日、自民、公明、日本維新の会の3党によって提出された児童ポルノ禁止法改“悪”案。これを受け日本雑誌協会、日本書籍出版協会は連名で反対声明を発表。日本漫画家協会も反対声明を発表し、30日には、ちばてつや氏、松本零士氏が自民党と民主党に陳情を行う予定になっている。また、日本図書館協会も反対声明を準備中とのことで、表現の自由と国民の知る権利を守る戦いが、瞬く間に広がっている。  そうした中、コミックマーケット準備会やコミティア実行委員会など各地の同人誌即売会主催者で構成される「全国同人誌即売会連絡会」も、反対声明を発表した。声明では、単純所持違法化に対する冤罪の発生を懸念するとともに、附則に記された漫画などへの関連性に関する調査研究に対して「すでに結論ありき」と真っ向から非難し、「日本のコンテンツ文化に与えるダメージは深く、ましてや法律による規制が実際に行われた場合の影響は計り知れません」とし、会としての反対を打ち出している。  全国同人誌即売会連絡会は発足以来、継続して「表現の自由」の問題と深く関わってきた。しかし、あくまで連絡会であるとの立場から、組織として明確に「反対」を打ち出すことは避けてきた。もちろん、2008年に行われた「創作物の規制/単純所持規制に反対する請願署名」では全面的な協力は惜しまなかった。また、10年の東京都青少年健全育成育成条例改正問題でも、大規模集会に協賛するなど常に表現規制反対にコミットしてきたが、「あくまで第三者として」のスタンスを取るなど一歩引いた形での支援を主としてきた。  今回、以前よりも旗手を鮮明にしているところに、同人誌業界の児童ポルノ法改正案に対する危機感が表れている。  今回、同会が明確に「反対」の二文字を打ち出したことはコミックマーケットをはじめ、児童ポルノ法が改“悪”が、多様な表現の場である同人誌即売会を滅ぼす可能性が極めて高いことを示唆している。  いわゆるオタクの間でも、規制されるのは「COMIC LO」(茜新社)のようなロリだけだろうといった、他人事の意識は極めて高い。だが、ロリだろうがBLだろうが、すべてが消滅してしまう可能性もあるのだ。  名だたる即売会主催者が参加した声明を契機に、危機感は怒濤の勢いで広がっていくと考えられる。 (取材・文=昼間たかし) 全国同人誌即売会連絡会 <http://sokubaikairenrakukai.com/index.html> 「児童ポルノ禁止法」改正案への反対声明 <http://sokubaikairenrakukai.com/news1305.html

河川で怖いのは溺死より中毒! 末期的な中国水質汚染事情

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 中国で、ある警察官による救出劇が話題となっている。5月23日付の香港英字紙「南華早報」によると、浙江省のある河川で14歳の少女が入水自殺を図った。しかし、駆け付けた51歳の男性警察官が川に飛び込み、少女を救出。少女は病院に搬送され、一命を取り留めた。  一方、身体の異変を訴えたのは、少女を救出した警察官のほうだった。彼はこの日の夜から咳や嘔吐、皮膚のかゆみ、焼けるような目の痛みなどの症状を訴えて医師の診察を受けたところ、即入院という事態に。さらに、肺が重度の感染症に侵されていることも判明したという。  今年2月には、同省のある企業経営者が、工業排水による汚染が深刻化している省内の川の名を挙げ、「環境保護局長が20分泳ぐことができたら、20万元(約320万円)を進呈する」と、ネット上で挑戦状を叩き付けたばかり。もちろん、環境保護局長がこの誘いに乗ることはなかった。  そんな中、少女の命を救うため、危険を顧みずに汚染された川に飛び込んだ警察官は、「勲章ものだ」「特進させるべき」などと、ネット市民から惜しみない称賛を受けている。事実、ネット市民の反応は、大げさなものではない。 「昨年末、市内の川に小学生の女の子が落ちて死亡する事故が起きたんですが、死因は溺死ではなく汚染水を大量に飲み込んだことによる急性中毒だったそうです。その川には、近くのメッキ工場が盗排(不法排水)していて、毎年夏になると乳緑色になることで有名でした」(広東省仏山市在住の日本人男性)  どんなに泳ぎの腕前に自信があったとしても、中国の河川には近づかないほうが賢明である。 (文=牧野源)

児ポ法改“悪”が提出! 出版業界団体、図書館も改“悪”案反対声明を発表へ 反対運動が本格化

grafkugh.jpg  29日、自民、公明、日本維新の会の3党は児童ポルノ禁止法改“悪”案を衆議院に提出した。今国会での成立を目指す方針だ。  これに対して、出版社各社で構成される日本雑誌協会、日本書籍出版協会は連名で反対声明を発表する方針。「表現の自由」をめぐる戦いは、新たな展開を迎えることになる。  児童ポルノ法改“悪”案が国会に提出される可能性の強まった4月以降、日本雑誌協会などは、水面下で与野党の議員に対して表現規制を懸念する訴えを続けてきた。  出版業界団体が本格的に、改“悪”に反対する声を上げることで、2010年の東京都青少年健全育成条例改正反対運動以来の、広範な反対運動が始まると予測される。  声明は、内部での確認作業が終わり次第、一両日中には両協会のサイトなどで公表し、日本雑誌協会加盟社の雑誌などにも掲載される予定だ。  また、日本図書館協会でも、改“悪”案に反対する声明を準備している。  提出後の審議予定だが、国会の残された会期と夏の参議院選挙を踏まえ、提出はしたものの審議はできないのではないかとの観測もある。  本サイトでは引き続き、情報が入り次第、報じていく。 (取材・文=昼間たかし) 日本雑誌協会 <http://www.j-magazine.or.jp/> 日本書籍出版協会 <http://www.jbpa.or.jp/

大震災の被害に遭ったのは人間だけじゃない! 被災地に取り残されたペットと家畜の過酷な現状

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『犬と猫と人間と2』の飯田プロデューサー(画面右)。『犬と猫と人間と』(09)の続編と
発表され、全国から多くのカンパが寄せられた。
■前編はこちらから  『犬と猫と人間と2』の後半は、福島第一原発事故の警戒区域に残された牛たちの世話をするボランティアスタッフたちがクローズアップされる。その中心となっているのが岡田久子さん。2011年3月下旬から避難指示区域に残された犬や猫たちに水や餌を与えに、宮城から片道2時間かけて通っていた岡田さんは、同年6月からは牛たちの世話もするようになった。20km区域内の家畜たちは区域外への持ち出しを国から禁じられ、鶏と豚はほぼ全てが餓死もしくは殺処分に。牛も2,600頭が死に追いやられた。殺処分に踏み切れなかった牧場主もいるが、牧舎の中には餓死した牛が倒れ、その横では糞尿まみれで痩せ細った牛たちに死が迫っている。ボランティアの手が足りず、どうにもならない。区域内では獣医を呼ぶこともままならない。人間の都合によって命を左右される動物たちの過酷な現実をカメラは記録していく。 宍戸 実のことを言うと、今回はタイトルにある通り、犬や猫たちのドキュメンタリーにするつもりだったので、岡田さんから牛たちの話を聞いたときは、「取材しても、作品に盛り込めないしなぁ」と消極的でした。牛たちの取材は見送ろうとしたんですが、「農水省や県に牛の惨状を訴えても、なしのつぶて状態。せめて、この状況をweb上で訴えたいので、動画撮影をしてほしい」と頼まれて、「動画撮影だけなら」と協力することにしたんです。牧舎を訪ねたところ、もう驚きました。「これが現実なのか……」と。無関心を決め込もうとしていた自分自身への怒りが湧いてきました。 飯田 僕も追加取材の段階で、宍戸くんの取材に同行しました。宍戸くんの現場に口を挟みたくないので、なるべく行かないようにしていたんです。浪江町の「希望の牧場」と「やまゆりファーム」をもう一度撮影するので一緒に訪ねたのですが、情けないことに僕は牛たちの遺体置き場に近づけなかった。死んだ牛の腐敗臭がすごく、吐き気を催してしまったんです。映像には臭いまでは映りませんが、近づいただけで服に臭いが移るほど強烈でした。夏場の牧舎の中での撮影は、本当にきつかったと思います。 ──国は全頭殺処分の方針を、震災から1年後には「区域内で生かすだけならよい」と方向転換。300頭以上の牛を生かしてきた「希望の牧場」に、岡田さんらが世話をする「やまゆりファーム」の65頭の牛たちが迎え入れられていくことに。牛たちが大移動していく様子は、まるで神話「ノアの方舟」を思わせる感動的なシーンです。しかし、感動だけでは済まないシビアな現実が……。 宍戸 岡田さんが「牛の面倒は自分たちでやるから」という条件付きでお願いして、「希望の牧場」の牧場主である吉沢正巳さんが引き受けることになったんです。ですが、吉沢さんとボランティアである岡田さんたち2~3人で、400頭近い牛たちの世話をするのは不可能なこと。生き延びた牛たちの間で生存競争が起き、餌にありつけない牛はどんどん弱っていくんです。 飯田 厳しい状況なんだけど、宮城から片道2時間かけて浪江町まで週5日通い続ける岡田さんに対して、吉沢さんが「なんでそんなに頑張れるの? これって何かの宗教?」って冗談っぽくツッコミを入れるよね。あのシーンが良かった。しんどい状況の中で、ふっと人間味が感じられる。ああいうやりとりをカメラが拾うことで、ドキュメンタリーの雰囲気ってずいぶん変わってくるよね。
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福島第一原発の20km圏内に残された牛たち。行政は商品価値のない
経済動物として殺処分を求めたが、踏み切れなかった牧場主も少なくなかった。
──確かに動物ボランティアのスタッフたちの献身ぶりは、一種の宗教のようにも感じさせます。岡田さんは笑って「宗教じゃない」と首を振っていますが、どうしてあそこまで熱心に活動できるんでしょうか? 宍戸 岡田さんに限らず、ボランティアのみなさんの声を公約数にすると「動物たちの現状を知ってしまったから。自分が行かないと、動物たちが死んでしまうことが分かっているから」ということです。岡田さんは、ご主人が神奈川に単身赴任していて、休日にはご主人も一緒にボランティア活動を手伝っているんです。岡田さんからは「人手が足りないので、牛の世話を手伝ってくれないか」と、取材していた僕も頼まれました。現場を見てしまうと、やはり断れないんです。「やまゆりファームが軌道に乗るまででいいから」と言われたんですが、なかなか軌道に乗らずに、その後も手伝い続けています(苦笑)。 ──『犬と猫と人間と2』は宍戸監督がいろんな状況に遭遇していく、巻き込まれ型サスペンスならぬ“巻き込まれ型ドキュメンタリー”。各取材先で手伝いもしていたそうですが、実際のところ、カメラを回していた時間と手伝いをしていた時間は、どちらが長かったんでしょうか? 飯田 鋭い質問だ!(笑) 宍戸 それはですね……正直なことを言うと、ボランティア作業を手伝っていた時間のほうが、カメラを回していた時間よりも長かったと思います(笑)。「アニマルクラブ石巻」でも手伝い、原発事故で飼い主とはぐれた犬や猫たちを保護している福島市の動物シェルター「SORA」でも手伝い、「やまゆりファーム」でも牛の世話を手伝っていました。どこも人手が足りていない状態でしたから。 飯田 岡田さんも「この人なら、口説き落とせる」と踏んで、宍戸くんに頼んだんじゃないかな(笑)。でも、撮影を忘れなかっただけ、エライよ。最初、「ボランティアをしながら撮影をしたい」と相談してきた宍戸くんに対して、僕は「どちらかにしたほうがいい」とアドバイスしたんです。どっちを取れとは言いませんでした。それは本人が決めればいいことですから。このとき宍戸くんは「撮ります」と答えたんだよね。はっきり言うと、“撮る”ことのほうが難しい。ボランティアとして手伝うほうが、役に立っていることを自分も実感できて、その場での満足度は高い。カメラなんて、その場では何も役に立たないですから。だから両方をやろうとすると、ボランティアのほうに走ってしまうんじゃないかと思った。そのことが僕は心配だった。勘違いしてほしくないけど、僕も取材のときは、最低限の撮影が済んだら相手を手伝ったりすることはあります。取材で相手の時間を奪うわけですし、長期間の取材になると、かなりの精神的な負担も掛けてしまいます。手伝うことで相手とコミュニケーションを図るという一面もあるんです。「撮影だけしろ、手伝いはしなくてもいい」と言ったわけじゃないからね(笑)。 ■義援金で購入したペットを手放す、悲しいスパイラル ──終盤、カメラは再び石巻へ。被災者たちは仮設住宅で新生活をスタートさせますが、義援金や給付金で新たにペットを購入。そのペットたちを早々に手放すはめに陥るという悩ましい問題が生まれているんですね。 宍戸 震災で家族や住まいを失った寂しさを紛らわすためにペットを衝動買いしてしまうんですが、結局ペットの世話ができなくなるというケースが生じています。僕が取材したペットショップのペット購入率は、震災後、通常の1.5倍に伸びたそうです。 飯田 失ったものをもう一度手に入れたい、という被災者の心情は理解できる。被災地では車や家電製品も売れていると思います。でも、ペットの場合は生活必需品ではないわけですよね。身近に動物がいてくれることで救われる人もいれば、やっぱり動物と一緒に暮らすのは無理だったと手放してしまう人もいる。 宍戸 そうですね。今回の取材を通して、やっぱり人間は犬や猫や牛たちに対して、緊急時でも責任を持って面倒を見なくちゃいけないということを強く感じました。また、災害によって日常を奪われてしまった人たちに接することで、人生は突然に変わってしまうこともある、それだけに人であれ動物であれ、命と命との出会いは大切にしよう、と今まで以上に考えるようになりましたね。
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社会の弱者へ眼差しを向ける飯田プロデューサー。「問題点が浮かび上がり、また問題が解消されて
いない今、公開する意味があると思うんです」
──取材先で「飯田さんの弟子」を名乗った宍戸監督の成長ぶりを、師匠の飯田プロデューサーはどう感じていますか? 飯田 今回、編集は僕がかなり主になってやってしまったけど、撮影に関して本当に頑張った。特に牛たちの様子は、密着してよく撮影したなと思います。取材を始めた最初の頃とは全然違っている。ひとりのドキュメンタリー監督の成長記としても観ることのできる作品になったんじゃないかな。今日みたいに取材に答えることで、監督自身が気づかされることって多い。今はドキュメンタリーの監督って、ひとりでカメラを回していることが多く、取材中は頭を下げてばっかり。監督という自覚が持てない(苦笑)。だから、ある意味、ドキュメンタリー監督は作品の公開が決まり、取材を受け、舞台あいさつを重ねていくことで監督らしくなっていく部分があると思います。宍戸くんには、これからも取材を続けてほしいですね。特に牛たちがどうなるのか、最後まで見届けてほしい。 宍戸 もちろん、今回の取材で出会った人たちのその後は、これからも追っていきたいです。実家のある名取市から離れていることもあって、頻繁には行けてないんですが、「やまゆりファーム」には月1~2度は手伝いに行っています。 ──最後にもうひとつ。前作『犬と猫と人間と』の公開から4年。ペットの殺処分をめぐる問題は、かなり状況が変わってきたように思います。飯田さんは、どのように現状を見ていますか? 飯田 『犬と猫と人間と』では年間30万頭以上の犬や猫たちが殺処分されているという2006年度のデータに触れましたが、2011年度は17万頭に減っています。これまでは10年間かかって半減していたのが、5年間でほぼ半減している。改善されてきていると評価していいでしょうね。野良猫の不妊手術や棄てられた犬や猫の譲渡先を探す、民間のボランティアスタッフや動物愛護団体、各自治体の職員のそれぞれの努力が実ってきているということだと思います。僕が思っていたよりも速いスピードで、社会が変化しましたね。 ──人間の意識が変わることで、殺処分に遭わずに済む動物たちも多いわけですね。 飯田 そうですね。ただし、現場の努力だけでは限界がある。これからは殺処分数を減らしていくことが難しくなるでしょう。制度そのものを見直すことが求められる。ペットを販売している業者などを含め、ペット産業そのものを規制しないと、数字は減らないように思います。17万頭という数字は、まだまだ多いです。より多くの人に動物たちの置かれている状況を知ってもらう必要があるでしょうね。  * * *  『犬と猫と人間と』、そして『犬と猫と人間と2』は動物たちを主題にしたドキュメンタリーだが、動物たちを必要とする人間社会そのものを描いた作品でもある。8年前、“猫おばあちゃん”こと稲葉さんが飯田さんに託した願いが、徐々にだが静かに広まりつつある。 (取材・構成=長野辰次) greqghg.jpg 『犬と猫と人間と2 動物たちの大震災』 監督・撮影・ナレーション/宍戸大裕 構成・編集・プロデューサー/飯田基晴 音楽/末森樹 製作/映像グループ ローポジション 配給/東風 6月1日(土)より渋谷ユーロスペースほか全国順次ロードショー (c)宍戸大裕 http://inunekoningen2.com ●ししど・だいすけ 1982年宮城県仙台市生まれ、名取市在住。学生時代に飯田基晴主宰の映像サークル「風の集い」に参加し、映像製作を学ぶ。学生時代のドキュメンタリー作品に『高尾山 二十四年目の記憶』がある。福祉関係のNPO勤務を経て、現在は映像製作に携わる。本作で劇場デビューを果たす他、飯田監督の『逃げ遅れる人々 東日本大震災と障害者』(12)を共同取材した。 ●いいだ・もとはる 1973年神奈川県横浜市生まれ。新宿で野宿生活する“あしがらさん”の日常を追った『あしがらさん』(02)で劇場デビューを飾った。2006年に「映像グループ ローポジション」を仲間と共に設立。地域猫の世話をしていた稲葉恵子さんから依頼を受けた『犬と猫と人間と』(09)が反響を呼び、ダイジェスト版DVD『いぬとねことにんげんと』(11)も製作した。大震災時に東北沿岸部で犠牲になった障害者の割合が健常者の2.5倍だったことを伝える『逃げ遅れる人々 東日本大震災と障害者』(12)が現在DVDとしてリリース中。

大震災の被害に遭ったのは人間だけじゃない! 被災地に取り残されたペットと家畜の過酷な現状

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『犬と猫と人間と2』の宍戸大裕監督(画像左)と飯田基晴プロデューサー。
物いわぬ被災動物たちの現状を取材して回った。
 動物たちの命の大切さを知ってもらえる映画を作ってほしい。ドキュメンタリー映画を撮る飯田基晴監督は“猫おばあちゃん”こと稲葉恵子さんから頼まれ、ペットブームに沸く日本で犬や猫たちがどのような状況に置かれているのかを取材し、4年がかりで『犬と猫と人間と』(09)を完成させた。飼い主が手放した犬や猫たちの多くは各自治体が設けた保護施設で殺処分に遭い、その数は年間30万頭以上にも及ぶことに言及した同作は、単館上映ながら大きな反響を呼んだ。前作から4年、第2弾となる『犬と猫と人間と2 動物たちの大震災』が公開される。サブタイトルにあるように、2011年3月に起きた東日本大震災によって被災地で暮らしていたペットたちはどのような状況に陥ったのか、さらには福島第一原発事故によって警戒区域に残されたペットや家畜たちはどうなったのかを追っている。今回、飯田監督はプロデュースに回り、宮城県在住の若手映像作家・宍戸大裕監督がカメラを手に1年8カ月にわたって被災地を訪ね歩いた。宮城から上京した宍戸監督には『犬と猫と人間と2』の撮影の裏側を、そして飯田プロデューサーには前作で取り上げたペットの殺処分問題がその後どうなったかについても語ってもらった。 ──前作『犬と猫と人間と』は、当サイトでも大変な反響がありました。飯田さんは中学校で動物たちの命の大切さを考える授業を行うなど、映画の公開後も様々な活動を続けていますね。 飯田 映画の作り手がそこまでやる必要があるのか分かりませんが、子どもたちと一緒に考えることは自分にとっても大切だと思うんです。最初に稲葉さんに頼まれたときに「大人にも子どもにも命の大切さを教えてほしい」と言われました。『犬と猫と人間と』は各地で上映会が開かれましたが、上映時間が118分ということもあり、子どもたちに気軽に観てもらうのは難しかった。そこで再構成した20分のダイジェスト版を作り、学校の授業などで活用してもらっています。学校で「犬や猫の命について考えてみよう」と問い掛けると、自分で考えることができる子は「じゃあ、犬や猫以外の動物はどうなの?」と思うかもしれません。ペットとして飼う犬や猫の命と、牛や豚の命はどこが違うの? と。僕が授業をするときは、そんなことも子どもたちと話し合っていますが、大人でも答えられない問いです。また結果として、今回は犬と猫だけではなく、福島の警戒区域に残された牛たちについても触れています。
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福島市にある動物シェルター「SORA」の代表・菅野利枝さん。
警戒区域で保護された犬30匹、猫20匹前後の世話をしている。
──宍戸監督は学生時代に飯田さんからドキュメンタリー製作のレクチャーを受けたそうですが、最初から『犬と猫と人間と』の続編を作ろうという意識でカメラを回し始めたわけではなかった? 宍戸 そうですね、最初から映画にしようと考えていたわけではないですね。震災までは東京の北千住で暮らしていたんですが、実家のある宮城がどんな状況なのか心配で2011年3月19日に帰郷し、そのときからカメラを回し始めました。地元の人たちが生きている姿をとにかく映像として記録しようと思ったんです。でも、被災した方たちにカメラを向けることができなかった。カメラを向けたら、何か言葉を掛けなくちゃいけない。『犬と猫と人間と2』の冒頭で全壊した家の前に佇んでいた男性に「ご実家ですか?」と僕が話し掛けて無視される様子が映っていますが、被災地の真っただ中で、まともに取材することができなかったんです。 飯田 被災地の現実に、自分なりに向き合おうとしたわけだよね。意気込みはあっても、実際に被災した人にカメラはそうそう向けられない。 宍戸 被災地を回って3日間は何も撮れませんでしたが、石巻で一匹の猫が瓦礫だらけになった商店街を横切るのに気づいて、慌ててカメラで追ったんです。そのとき「いい画が撮れた?」と声を掛けてきたのが、お好み焼き屋のご主人・小暮榮一さん。震災前から野良猫に餌をあげていた小暮さんから話し掛けられたことで、ようやく落ち着いてカメラを回せるようになったんです。その後、飯田さんから動物愛護団体「アニマルクラブ石巻」の様子を見てきてほしいと電話で頼まれ、アニマルクラブを通して被災動物たちの実情を知りました。そこで被災地が復興していく様子、震災を生き延びた動物たち、それに復興に大きな影響をもたらしている原発事故問題を、ひとつの作品にできないか考えるようになったんです。 飯田 僕も最初は宍戸くんの撮った映像が、映画になるとまでは考えてなかった。被災地の動物たちの状況が分かればいいなくらいに思っていた。ドキュメンタリー作品は、実際にどんな人に出会っていくか次第で全然変わってくるもの。アニマルクラブ石巻の代表・阿部智子さんに会うことは僕から頼んだわけだけど、宍戸くんは「飯田監督の弟子ですが……」なんて自己紹介しながら取材してたよね。僕は弟子なんか取った覚えは全然ないのに(笑)。 宍戸 すみません。阿部さんが施設内の片付けで忙しそうにしていたので、「何か言わなきゃ」と、咄嗟に出てしまった言葉なんです(苦笑)。
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宮城県名取市在住の宍戸監督。「幸いにも自分の実家は無事でしたが、自分の故郷が
どう復興していくのか記録しなくてはと思ったんです」
──最初はなかなか取材が覚束なかった新人監督が、ペットたちを介することで被災者たちの心情に寄り添っていくようになる。動物たちを題材にしたドキュメンタリーですが、宍戸監督自身が成長していくセルフドキュメンタリー的な側面もありますね。 宍戸 自分ではセルフドキュメンタリーを作ろうなんて意識はなかったんですが、結果的にはそうなったかもしれません。僕としては取材先で出会った人たちの人柄に魅了されて、カメラで追い続けたという感じなんです。取材を続ける中で、足りない部分を少しずつ自分で考えて取材していくうちに、作品にまとまったという感じですね。 ■原発事故が招いた惨状。無言で語る動物たちの記録 ──津波被害の大きかった石巻で動物たちはどうなったのか、宍戸監督はペットを飼っていた被災者たちを取材するように。避難所や仮設住宅は、ペットの持ち込み禁止だったところが多かったと聞いています。 宍戸 避難所での生活が長引くようになり、話し合いによって棟ごとにペットOK、ペットNGと棲み分けがされるようになったんです。でも、避難所の中にはペットが認められず、仕方なく車の中でペットと一緒に寝泊まりしている方もいました。映画に登場する小野夫妻は、3,000人くらいの被災者が滞在した中学校で避難者のリーダーを務めていたんですが、ご自身が犬を飼っていたこともあり、早くから話し合いでペット持ち込みOKな教室を設けていました。ただ、教室の中で猫を放し飼いにしていたところ、夜中に猫が眠っている人たちの布団の上を走り回るので、夜間はケージに入れるなど、避難所ごとにルールが作られていったんです。話し合いで改善されていったように思います。 飯田 でも、ペットの持ち込みが認められるようになるまで、数カ月を要した避難所もあるわけだよね。避難所ごとに異なるのではなく、ペットと一緒に暮らしている社会として事前に考えておくべきだと思うよ。避難所が早くから受け入れることを決めていれば、救うこともできた命もあるわけだし、飼い主も苦しまずに済んだはず。福島の避難指示区域でもペットの避難を認めるか認めないかが地域によって異なり、多くのペットたちが取り残されることになってしまった。2013年になってから環境省がそれぞれの自治体に、ペットとの同行避難を原則とすると言い渡しました。中越地震が起きた新潟ではペットに対応できる避難所が作られた一方、いまだにペットを認めない自治体もある。震災を経験した地域だけ改善されるのではダメだと思う。被災地では何が起きたのか、きちんと見つめ、それを他人事にするのではなく、教訓として自分たちのもの、社会の共通認識にしていくことが大事でしょう。 ──自宅を失った上に、可愛がっていたペットたちを死なせてしまったことで、より深い傷を負った愛犬家、愛猫家たちが少なくなかったようですね。続いて宍戸監督は福島第一原発事故の避難指示区域へ。無人化した街に犬や猫たちの死骸が散在する光景は胸が痛みます。事故死、衰弱死した動物たちの痛ましさに加え、その動物たちを飼っていた家族も離散し、生活が営まれていた街そのものが崩壊してしまった恐ろしさを感じさせます。 宍戸 撮っていて自分も辛かったです。避難指示区域に残された犬や猫たちに水や餌を与えていたボランティアの岡田久子さんは、街の中心まで何度も入っていたので、もっと悲惨な光景を目撃していると思います。鎖でつながれた状態の犬の亡きがらに僕も触れたんですが、とても冷たく硬くなっていました。辛かったんだろうな、苦しかったんだろうなと、そのときは当たり前のことしか想像できませんでした。でもその後、残された牛たちが段々と弱って死んでいく様子を見たことで、より具体的にそのことを感じるようになりましたし、怒りも込み上げてきました。 ──その怒りは、誰に対するものでしょうか? 宍戸 原発事故を招いた東電や国の責任者への怒りですね。飼い主への怒りではないです。同時に自分への憤りも感じたんです。岡田さんから避難指示区域がどんな状況かは話してもらっていたんですが、実際に自分の目で見るまでは想像できなかった。動物たちの死体を見て、「なかったことにはできない」「彼らが存在した証しを残そう」と強く思いましたね。 (後編につづく/取材・構成=長野辰次) greqghg.jpg 『犬と猫と人間と2 動物たちの大震災』 監督・撮影・ナレーション/宍戸大裕 構成・編集・プロデューサー/飯田基晴 音楽/末森樹 製作/映像グループ ローポジション配給/東風 6月1日(土)より渋谷ユーロスペースほか全国順次ロードショー (c)宍戸大裕 http://inunekoningen2.com ●ししど・だいすけ 1982年宮城県仙台市生まれ、名取市在住。学生時代に飯田基晴主宰の映像サークル「風の集い」に参加し、映像製作を学ぶ。学生時代のドキュメンタリー作品に『高尾山 二十四年目の記憶』がある。福祉関係のNPO勤務を経て、現在は映像製作に携わる。本作で劇場デビューを果たす他、飯田監督の『逃げ遅れる人々 東日本大震災と障害者』(12)を共同取材した。 ●いいだ・もとはる 1973年神奈川県横浜市生まれ。新宿で野宿生活する“あしがらさん”の日常を追った『あしがらさん』(02)で劇場デビューを飾った。2006年に「映像グループ ローポジション」を仲間と共に設立。地域猫の世話をしていた稲葉恵子さんから依頼を受けた『犬と猫と人間と』(09)が反響を呼び、ダイジェスト版DVD『いぬとねことにんげんと』(11)も製作した。大震災時に東北沿岸部で犠牲になった障害者の割合が健常者の2.5倍だったことを伝える『逃げ遅れる人々 東日本大震災と障害者』(12)が現在DVDとしてリリース中。

習志野の大型パチンコ店「マルハン」隣接出店問題で児童デイサービス施設に存続危機

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 住民を揺るがす千葉県習志野市屋敷のパチンコ店建設問題で、すぐそばにある障害児童の福祉施設が存続の危機に瀕している。 「こちらの要望をいくら伝えても、行政からも企業からも明確な回答はなく“検討します”という返答しかしてくれないのです」  悲痛に訴えているのは、放課後等児童デイサービスを運営する「一般社団法人たからばこ」の緒方栄美代表(35)。パチンコ店が施設の目の前に建設されることで生じる諸問題について今年3月から市長とパチンコ業者に要望書を出しているが、いまだひとつも回答を得られていないというのだ。 「このあたりで例のない大規模工事の騒音だけでなく、大型パチンコ店が開店すれば交通量や人の出入りも何倍にも増えるでしょうし、これは障害児童のケアをしている側にとっては致命的になりかねない問題」(緒方代表)  同地に建設予定なのは、大手「マルハン」が出店する敷地面積約2万平米、777台の駐車場を擁する大型パチンコ店だ。2月下旬に突如「4月には着工予定」と告知され、地元住民の知るところとなったが、周囲には高校や複数の福祉施設がある静かな住宅地とあって、交通量の増加や騒音など環境悪化の懸念から反対運動が起こっている。  しかし、予定地は工業用地として区分されており、市側は「風営法条例に該当しない」と住民の訴えを却下。これには「かつて工場だった場所は現在マンションが建っていて、実質、住宅地という状況なのに」と住民男性が憤る。 「本来は市の条例に“教育施設の敷地の周囲200メートルの区域内は市長の許可がないと建てられない”というルールがあって、この敷地は高校から130メートルしかないのでアウトだったのに、このタイミングで市がその条例を撤廃するという信じられない暴挙に出た。行政がまるでパチンコ店を誘致したよう」(同)  緒方代表が平成21年に「たからばこ」を設立したのも、同地が実質的に閑静な住宅街だったからだ。 「障害児童の施設は環境選びが非常に難しく、自閉症などの児童は光や音に敏感に反応して、最悪パニックを起こしてしまう。そうした児童を社会生活に慣れさせていくためには、ほどよい人や車の通行量のある場所が必要なんです。また地域住民から反対されることも多く、ここがやっと理解が得られて設立できた場所だった」(緒方代表)  意外なことに同種の施設がそれまで習志野市には存在せず、現在でも重い障害のある児童を引き受けられるのは「たからばこ」しかない。少ない収益による運営とあって古い民家を利用した小さな施設だが、小学生から高校生まで約30名の子どもたちを学校や自宅に送迎してケアする貴重な存在となっている。 「摂食の指導にしても、お菓子の袋を開ける練習から始めることが多いような子どもたち。そんな子たちを周辺に散歩させるとき、目の前が大型パチンコ店というのは不安だらけ。そこで工事の時間や照明、騒音などに対する要望を書面で出したんですが、マルハンさんからは回答なし。いまだに説明ひとつ受けていないんです」(同)  これまで隣接するマンション住民には2度の説明会が開かれたが、住民以外は立ち入り禁止だった。その説明会でも担当者が肝心なことは企業秘密として答えず、撮影すら禁止、パチンコの素晴らしさを説くなどして住民感情を逆なでしていた。  「たからばこ」に4月、ファックスを返してきたマルハンの担当者も同じ人物だが、その内容は、問い合わせの窓口を開店前が大阪、着工後が現場、開店後が店舗責任者だとする数行の文章で曖昧に書かれているだけで、要望に対する回答もなかった。とても年間2兆5,000億円の売上高を誇る大企業とは思えない逃げ姿勢だが「地元の方々からは近日中にもマルハンが工事を強行する様子だという話を聞かされた。パチンコが悪いとは言いませんし、ケンカしたいわけではありませんが、企業責任が見られず、あまりに無責任ではないでしょうか」と緒方代表。  別の福祉関係者からは「おそらく、たからばこさんが第2種の社会福祉事業だから、パチンコ業者も見下しているのだろう」という話が聞かれる。 「入所施設なら第1種ですが、たからばこさんは通所施設なので、守られる基準が甘い第2種。やっていることは同じでも、そんな区分で風営法などから配慮されない事情がある」(同)  「たからばこ」を第1種に格上げするには数百万円するスプリンクラーなど大型の機器設置なども条件となっており、「細々とやっている民間の施設では、まず不可能」と関係者。  この、行政からも業者からも無視されている現状には「たからばこ」の児童たちの保護者の間にも動揺が広がっており、退所の申し出こそないが、今後、新しく入ってくる子どもが減ることも予想される。緒方代表は「子どもたちを預かる立場として、保護者に何も安心させてあげられないのはつらい」と深刻な表情を見せた。障害児童のケアは大人になってからでは難しくなる社会適応訓練とあって、大きな補助もないギリギリの採算でやっている民間福祉施設ともども、児童たちの行く末が不安視されている。