「遠藤憲一が俳優を引退する決意のもと、温泉で人知れず派遣の仲居(中井田健一と名乗っている)として働いている」
そんな設定のフェイクドキュメンタリー風人情ドラマ『さすらい温泉 遠藤憲一』(テレビ東京系)。
最終回を目前に控えた今回(第11話)は、ファンタジー要素がありつつも、ガッツリした人間ドラマ。振り返ります。
(前回までのレビューはこちらから)
冒頭、すでに恋に落ちている健さん
今回、健さんが訪れたのは都心からやや近い千葉・養老温泉。海のイメージが強い千葉にあって、渓谷や洞窟など、地味ながら味わい深い山間部スポットが並ぶ。千葉は全国一平均標高が低い県とのことで、手軽な低めの山を味わえるのも魅力。
しかも、内房~外房をつなぐローカル線(小湊鉄道~いすみ鉄道)は、この時期、菜の花と桜の両方が咲き乱れる中をひた走り、黄色と淡いピンクに包まれた童話のような景色が車窓いっぱいに見せてくれる。
撮影時期的にそのようなシーンはなかったものの、ドラマ開始と同時に美人宿泊客に惹かれ、愛想を振りまいている健さんは今日も春満開。
いつもはマドンナと出会うシーンから物語がスタートするのだが、今回はすでに知り合っていて、しかもとっとと恋に落ちているというロケットスタートぶり。
さらに、この美人客・並野真歩(野波麻帆)が川べりに立ってるだけで自殺志願だと思い込み、助けようとして驚かせてしまうという勘違いも披露。この川べりに美女がいるとすぐ「自殺するんじゃないか?」との思い込むのは、第3話でも見せてくれた健さんの特技。
真歩の「こんな浅い川で?」の一言で「早とちりでした!」と平身低頭謝る素直さもいい。水量の少ない養老渓谷は全体に浅い。彼女は対岸にいたイノシシの子どもを見ようとしただけなのだが、健さんの方がイノシシよりよっぽど猪突猛進。
だが、両親と早くに生き別れ、この宿(もちの木)のそばで祖父に育てられたという真歩には、確かにどこか陰がある。
ちなみに居酒屋『養老乃瀧』は岐阜県養老郡養老町にある「養老の滝」にちなんで名付けられており、この養老温泉や養老渓谷とは無関係。ずっと千葉発祥の居酒屋かと思ってました、すみません。
真歩の陰の理由は?
今回のキーを握っていたのは、不破万作演じる謎の老人。アロハにサングラスに麦わら帽にツナギで長靴という、盆と正月と農繁期が一緒に来たような着こなしのこの老人は、健さんの前に神出鬼没で現れ、幼い子どもを亡くしてることなど真歩の情報を与えてくる。
実は今回「まさか自殺なんかせんよな……?」と健さんを焚きつけたのも、この老人。着火しやすい健さんには効果てきめん。
しかし、一度目は勘違い(?)だったものの、夜になって結局、彼女は自殺しようと失踪する。ちょうど一年前に幼い我が子を亡くしたのを苦に、思い出の地・粟又の滝に飛び込もうとしたところを、間一髪駆けつけた健さんに押さえられ、ことなきを得たが、彼女の悲しみは収まらない。
子どものことを思い出すのがつらく、そのため夫の元からも離れているという真歩が叫ぶ。
「あの子は私の全てだったのに」
「こんなことだったら家族なんて作らなければよかった!」
失うことで地獄の苦しみを味わうくらいなら、最初から家族がいる喜びなんか知りたくなかった。両親を早くに亡くしている真歩の言葉は重い。
自身の過去のこともあり、家庭を持つこと自体そもそも悩んだのかもしれない。
健さんは、失意の真歩に生きる気力を取り戻させるため、猟師だったという真歩の祖父に扮し思い出の猪鍋を振る舞う。
無口だったという祖父を模しているのだろう、「子どもは真歩の心の中にいるよ」という励ましメッセージを「心臓付近を手で叩く」という選抜サッカー選手のようなジェスチャーで表現する健さん。
昔から食べていた猪鍋で、固まった心が解きほぐされた瞬間、真歩の夫からの着信。そして、どこからともなく大きな声が。
「早く電話に出ろおおお! お前は、一人じゃねーぞ!」
遠くで叫ぶ例のアロハの老人を見ながら、泣きそうになっている真歩。失踪以来、何度も無視している、今や唯一の家族となってしまった夫からの電話に出る。
老人は真歩の亡くなった祖父だったのだ。
真歩の持っていた御守りの力なのか、ずっと孫のピンチを見守っていたのだろう。
剥ぎたてのような生々しい毛皮を着込み、まるでマタギのようなイカツイいでたちで祖父に成りきってたつもりの健さんだが、本物はアロハに麦わら、なんならサングラスという亀仙人の如きラフスタイル。
だが、その飄々とした雰囲気が、余計に孫を思う真剣な気持ちを濃く映し出す。
夫の電話に出た真歩を確認すると、老人はうれしそうにダブル親指立てのポーズをキメて煙と共に消えた。まるで往年の浪越徳治郎のように。
ウルトラマンガイアの伝説の回で「主役」を演じた不破
不破万作の得体の知れない雰囲気が、この謎の老人役によくあっていた。
さすが30年前、40になるかならないかの年で実写版・鬼太郎にて子泣き爺を演じたほどのオーラの持ち主。
思い出すのは1999年に放送された『ウルトラマンガイア』(TBS系)29話「遠い町・ウクバール」の回。
空想特撮シリーズへの原点回帰を目指し、ただのヒーローものとは違うシリアスな雰囲気の『ウルトラマンガイア』の中でも、この回は異色な話だった。
この中で不破は、自分が空中都市ウクバールから来た宇宙人だと頑なに信じ、それを吹聴することで周りから疎まれて小馬鹿にされている配送員を演じた。
開始15分を過ぎても怪獣どころか事件も起きず、寺島進演じる新人配送員と不破演じるベテラン配送員永田との配送コンビの日常が淡々と描かれる。
最後にウクバールから来たと思われる怪獣ルクーが現れるのだが、なんの悪さもしないし、ガイアと戦うこともない、ただ現れてすぐに消えた。永田と共に。
永田は本当に宇宙人だったのか? ウクバールは存在したのか? 怪獣は何しに来たのか? 永田はどこへ消えたのか?
全ての謎を放置したまま物語は終わる。
まるで短編映画を見てるような、これがウルトラマンだと忘れてしまうような独特な回だった。
こういう浮世離れした役に不破はハマる。第2話のかんべちゃん(神戸浩)もそうだが、要所要所に感じるこだわりのキャスティングがドラマに厚みを持たせている。
いよいよ健さんのさすらいもラスト1回。
できることならどこかの温泉に浸かりながら、健さんとシンクロしつつ最後の「至福」を楽しみたい。
(文=柿田太郎)