カルト村出身者が語る、清水富美加「出家騒動」と宗教に対する社会の偏見

 先日、女優の清水富美加が突然芸能界を引退。その理由が宗教団体・幸福の科学に出家をするということで、世間を騒がせた。コミックエッセイ『カルト村で生まれました。』『さよなら、カルト村。思春期から村を出るまで』(文藝春秋)の著者・高田かやさんは、「所有のない社会」を目指す「カルト村」で生まれ、19歳のとき自分の意志で村を出るまで、両親と離され、労働、空腹、体罰が当たり前の暮らしを送った体験を淡々と描いている。今回の騒動から改めて見えてきた、現代における宗教や信仰、社会の偏見について高田さんに伺った。

■カルト村にいることに、疑問を持ったことはなかった

――清水富美加の出家騒動が大きく報道されましたが、高田さんは今回の騒動について、どう思われますか?

高田かやさん(以下、高田) 清水さんは知り合いでもなんでもないので、特に何も思いません。夫の“ふさおさん”が、テレビに出ている人に対して、まるで知り合いのように語ることがよくありますが、「知らない人のことなのに、よくそんなに盛り上がれるな」と、むしろ感心します(笑)。

――高田さんは生まれたときからカルトが生活の一部だったと思いますが、小さい頃に「自分は、なぜカルト村で生活をしているのだろう?」と疑問に思ったことはありませんでしたか? 

高田 なぜ自分が両親の子どもなのかを考えたことがなかったように、親がいる場所が自分のいる場所だと思っていたので、疑問に思ったことはありませんでしたね。

――親がいる場所が自分のいる場所……言われてみればそうですよね。村の外部の人が「村の子」と呼ぶ存在であることで、小学校や中学校の頃に、いじめの対象になった経験はありますか?

高田 どの時代にも私を毛嫌いする子はいましたし、「村の子」だとわかった上で、何も問題なく仲良くしている子もいました。ただ、私を嫌っている子が、私が「村の子」だから嫌っているのか、それとも村は関係なく、個人的に嫌いだったのかは、私にはわかりません。

――「村の子」たちは朝ご飯を食べられなかったり、ほとんどの部活動が禁止されていたり、何かと「一般の子」と違う部分があったようですね。

高田 私の通った学校では、大部分の学校の子たちには「なんとなく少し変わった暮らしをしているところの子どもたち」くらいに受け取られている雰囲気で、別段特別視はされていなかったように思います。

――勝手なイメージで大変申し訳ないのですが、カルトにハマっている人たちは周りの意見を聞かず、自分が良いと信じているものに突進していっているように思えます。やはり、カルト村で生活をしていた人たちも、自分が良いと信じたものは疑わないような人たちだったのでしょうか?

高田 私は子どもだったので大人のことは全然わからないのですが、村の理念に共感して集まった人たちで、きっと村の考えが良いと信じている部分はあったのだと思います。村人の中にも村の考えにどっぷりで「村は良い!」と声高に言う人もあれば、ただ穏やかに村で暮らしているだけの村人もいたので、同じところで生活していても実際にはいろんな人がいて、各個人でみんなそれぞれ思っていることは違ったのではないかと思います。

――著書の中では、マインドコントロールされているという意識はなかったように読み取れましたが、カルト村での生活を振り返ってみて、マインドコントロールが行われていたと思いますか?

高田 思います。

――では、そのマインドコントロールに気づき、「こういう点はおかしい!」と声を上げる村人はいなかったのでしょうか?

高田 村では、子どもは子どもだけで集められて暮らしていたので、世話係を除けば大人の村人とほとんど接触がなかったため、村人がどうだったかはまったくわかりません。でも、子ども同士では普通に、村の批判や、おかしいところを話すことはありましたね。

――当時、村の子たちは高校に進学できなかったとありました。さすがに中卒は少ない時代です。進学できないことに関して、反抗的な気持ちは起こりませんでしたか?

高田 正直なところ、中学生の頃は勉強が苦手だったので「(村の)高等部に行けば高校に行かなくてもいいから、もうテスト勉強しなくていいんだー、ラッキー!」くらいに思っていました。

――しかし、将来、職業の選択肢は限られてしまいますよね。

高田 子どもの頃から、自分はずっと村にいるだろうと思っていたし、高等部に入ることも特に疑問に思わず、「仕事に困る」といった発想をしたこともなかったです。村では自分の役割さえこなしていれば、あとは何も心配いらない暮らしだったので、学歴が仕事に結びつくような発想自体、思いつかなかったです。

 ただ、「中卒」という響きは気に入らなかったので、もし高等部で通常の高校に通えるコースがあったなら、そちらを選んだんだろうなとは思います。数学は苦手でしたが、古文や美術は、もっといろいろ教わりたかったですね。

■普通の人が感じる、よくわからない団体に対しての拒否感も理解できた

――19歳でカルト村を出て、ふさおさんに出会ったとのことですが、カルト村出身であることに関して、勇気を振り絞ってふさおさんに告白したように感じられました。やはり、カルト村出身であることへの羞恥心や、距離を置かれてしまうかもしれないといった不安があったのでしょうか?

高田 もちろん、どう思われるだろうという不安はありました。村が一般的にどう思われているのかは、なんとなくわかっていましたし、普通の人が感じる、よくわからない団体に対しての拒否感というものも理解できたので。

 ふさおさんとメールのやりとりをしているときも打ち明けられず、どうしようかと悩みました。でも、実際に会っていろいろ話をするようになると、どうしても過去が現在につながっているため、はっきり言っておいたほうが伝わりやすく、自分がすっきりしたかったこともあり、村出身だと話しました。

 ふさおさんは、私が村で生まれて暮らしていたということをまったく気にしない人で、普通に受け入れてくれました。そういう人と長く一緒にいたから、この本が描けたというのは、実際のところあると思います。

――村では自分の所有物はないということですが、特にお金を所有できないのは、一般の人には想像できないと思います。自由にお金を使えるようになった今、高田さんは、お金をどのようなものだと考えていますか?

高田 お金が存在しなかった子ども時代だったからこそ得た、「お金はすごい、お金はお守り!」といったお金自体に対するリスペクトは、相変わらずありますね(笑)。ただ今は、お金が必要な社会で暮らしていますし、子ども時代のように隠し持って眺めてうっとりというようなことはしていません(笑)。必要なものは買って、おいしいものを食べてあちこち旅行して、家のローンも払っています(笑)。

 お金は大事ですが、あくまでもお金で、軽んじることはこれからも決してないけれど、「お金、お金!」とがんじがらめにならないように、気楽に暮らせればいいなぁくらいに思っています。

――お金を見慣れていないと「こんな大金、どう使えばいいのかわからない!」と、就職後、初任給の使い道に悩みそうです。

高田 初任給の使い道に困ることは、特になかったです。村では誰かのお古ばかりでおしゃれができなかったので、最初は「しまむら」とかに通って服をたくさん買いましたし、貯金もしたかったですし。それでお金が貯まったら自動車の免許取得! 次は一人暮らし! ……という感じで、お金を貯めてはどんどん使っていました。暮らしていく上でお金は、いくらあっても困りませんからね(笑)。

――お金と、うまく付き合っていけているんですね。村では自分の成長のために仕事をしますが、一般社会で仕事をする主な理由は、お金をもらうためです。この、仕事をしてお金をもらう行為について、高田さんはどんな印象を受けましたか?

高田 いいですね! お金大好きなので、最高です! 子どもの頃に自分の労力をお金に換算して手に入れることが可能だったなら、お菓子や本も買えたし、友達の誕生日プレゼントも買えたし……と、つい空想してしまいます。

■個人の人格は無視されて、「信仰」に対するイメージで判断される世の中

――日本では、とかく宗教や信仰について公にしづらい雰囲気がありますが、それについてどう思いますか?

高田 特に考えたこともありませんが……確か海外でも「どんなに親しい間柄でも、宗教と政治と野球の話には気をつけろ」って言いませんでしたっけ? 私の場合、「村にいた」と言った途端に、「カルト村出身者」「元村の子」とひとくくりにされてしまうことがよくあります。実際は、それぞれ別人格を持った個人の集まりですし、村ではちょっと変わっていると言われていた私が今、村の話をすることも、まったく個人的な思い出なのに“元村の子代表”みたいになっていて「なんかスミマセン」という感じです。村にいた子それぞれに、100人いたら100通りの捉え方があると思うし、村に対して思うことも人それぞれだと思います。

 「何かを信仰している」と言いづらい空気があるとすれば、言った途端にその人個人の歴史や人格は無視されて、聞いた人が持つ「信仰」に対してのイメージのみですべてを判断される今の世の中の傾向が関係しているのではないだろうかと思います。

――カルト村で小さい頃に世話係さんから虐待を受けたり、ひもじい思いをしたりと、いまだに何かトラウマが残っているのではないかと感じられました。村で生活したことで、今でも日常生活に染み付いている習慣はありますか?

高田 習慣ではないですが、うれしいことが続くと不機嫌になるという、変な癖があります。村にいた頃、両親とは離れて暮らしていて、たまにしか会えなかったんです。会っても必ず別れる日が来たので、今でもあまり良いことが続くと、訳もなく不安になってしまいます。良いことを喜ぶより、良いことを怖れる気持ちのほうが強いのは、「幸せは長くは続かない」と、記憶に刷り込まれているからだろうと思います。

 あと自分では無自覚で、最近ふさおさんに指摘されて気づいたのですが……。子どもの頃、おなかをすかせたときの自衛手段として食べ物を隠してこっそり食べていたので、今でもふさおさんが買ってきてくれたお菓子などを、すぐ食べないでしまい込む癖があります(笑)。「今よりもっとおなかがすいたときのため」という理由なのですが、あちこちにしまい込んで忘れてしまって、結局、賞味期限が切れてしまったりすることも多く、ふさおさんに「犬かよ! 悪くしてから食べるんじゃなくて、おいしいうちに食べなよ、また買ってきてあげるから!」と怒られるのですが、やはりもったいなくて好きなものはしまい込んで、後からちびちび食べています。おなかをすかせてから大事に食べると、おいしくないですか?(笑)
(姫野ケイ)

高田かや(たかだ・かや)takadakaya2
東京都在住、射手座、B型。生まれてから19歳まで、カルト村で共同生活を送る。村を出てから、一般社会で知り合った男性“ふさおさん”と結婚。村での実体験を回想して描いた作品を「クレアコミックエッセイルーム」に投稿したことがきっかけでデビュー。今、一番幸せを感じるのは、ベッドで寝転びながら本を読みつつ、何か食べているとき。

カルト村出身者が語る、清水富美加「出家騒動」と宗教に対する社会の偏見

 先日、女優の清水富美加が突然芸能界を引退。その理由が宗教団体・幸福の科学に出家をするということで、世間を騒がせた。コミックエッセイ『カルト村で生まれました。』『さよなら、カルト村。思春期から村を出るまで』(文藝春秋)の著者・高田かやさんは、「所有のない社会」を目指す「カルト村」で生まれ、19歳のとき自分の意志で村を出るまで、両親と離され、労働、空腹、体罰が当たり前の暮らしを送った体験を淡々と描いている。今回の騒動から改めて見えてきた、現代における宗教や信仰、社会の偏見について高田さんに伺った。

■カルト村にいることに、疑問を持ったことはなかった

――清水富美加の出家騒動が大きく報道されましたが、高田さんは今回の騒動について、どう思われますか?

高田かやさん(以下、高田) 清水さんは知り合いでもなんでもないので、特に何も思いません。夫の“ふさおさん”が、テレビに出ている人に対して、まるで知り合いのように語ることがよくありますが、「知らない人のことなのに、よくそんなに盛り上がれるな」と、むしろ感心します(笑)。

――高田さんは生まれたときからカルトが生活の一部だったと思いますが、小さい頃に「自分は、なぜカルト村で生活をしているのだろう?」と疑問に思ったことはありませんでしたか? 

高田 なぜ自分が両親の子どもなのかを考えたことがなかったように、親がいる場所が自分のいる場所だと思っていたので、疑問に思ったことはありませんでしたね。

――親がいる場所が自分のいる場所……言われてみればそうですよね。村の外部の人が「村の子」と呼ぶ存在であることで、小学校や中学校の頃に、いじめの対象になった経験はありますか?

高田 どの時代にも私を毛嫌いする子はいましたし、「村の子」だとわかった上で、何も問題なく仲良くしている子もいました。ただ、私を嫌っている子が、私が「村の子」だから嫌っているのか、それとも村は関係なく、個人的に嫌いだったのかは、私にはわかりません。

――「村の子」たちは朝ご飯を食べられなかったり、ほとんどの部活動が禁止されていたり、何かと「一般の子」と違う部分があったようですね。

高田 私の通った学校では、大部分の学校の子たちには「なんとなく少し変わった暮らしをしているところの子どもたち」くらいに受け取られている雰囲気で、別段特別視はされていなかったように思います。

――勝手なイメージで大変申し訳ないのですが、カルトにハマっている人たちは周りの意見を聞かず、自分が良いと信じているものに突進していっているように思えます。やはり、カルト村で生活をしていた人たちも、自分が良いと信じたものは疑わないような人たちだったのでしょうか?

高田 私は子どもだったので大人のことは全然わからないのですが、村の理念に共感して集まった人たちで、きっと村の考えが良いと信じている部分はあったのだと思います。村人の中にも村の考えにどっぷりで「村は良い!」と声高に言う人もあれば、ただ穏やかに村で暮らしているだけの村人もいたので、同じところで生活していても実際にはいろんな人がいて、各個人でみんなそれぞれ思っていることは違ったのではないかと思います。

――著書の中では、マインドコントロールされているという意識はなかったように読み取れましたが、カルト村での生活を振り返ってみて、マインドコントロールが行われていたと思いますか?

高田 思います。

――では、そのマインドコントロールに気づき、「こういう点はおかしい!」と声を上げる村人はいなかったのでしょうか?

高田 村では、子どもは子どもだけで集められて暮らしていたので、世話係を除けば大人の村人とほとんど接触がなかったため、村人がどうだったかはまったくわかりません。でも、子ども同士では普通に、村の批判や、おかしいところを話すことはありましたね。

――当時、村の子たちは高校に進学できなかったとありました。さすがに中卒は少ない時代です。進学できないことに関して、反抗的な気持ちは起こりませんでしたか?

高田 正直なところ、中学生の頃は勉強が苦手だったので「(村の)高等部に行けば高校に行かなくてもいいから、もうテスト勉強しなくていいんだー、ラッキー!」くらいに思っていました。

――しかし、将来、職業の選択肢は限られてしまいますよね。

高田 子どもの頃から、自分はずっと村にいるだろうと思っていたし、高等部に入ることも特に疑問に思わず、「仕事に困る」といった発想をしたこともなかったです。村では自分の役割さえこなしていれば、あとは何も心配いらない暮らしだったので、学歴が仕事に結びつくような発想自体、思いつかなかったです。

 ただ、「中卒」という響きは気に入らなかったので、もし高等部で通常の高校に通えるコースがあったなら、そちらを選んだんだろうなとは思います。数学は苦手でしたが、古文や美術は、もっといろいろ教わりたかったですね。

■普通の人が感じる、よくわからない団体に対しての拒否感も理解できた

――19歳でカルト村を出て、ふさおさんに出会ったとのことですが、カルト村出身であることに関して、勇気を振り絞ってふさおさんに告白したように感じられました。やはり、カルト村出身であることへの羞恥心や、距離を置かれてしまうかもしれないといった不安があったのでしょうか?

高田 もちろん、どう思われるだろうという不安はありました。村が一般的にどう思われているのかは、なんとなくわかっていましたし、普通の人が感じる、よくわからない団体に対しての拒否感というものも理解できたので。

 ふさおさんとメールのやりとりをしているときも打ち明けられず、どうしようかと悩みました。でも、実際に会っていろいろ話をするようになると、どうしても過去が現在につながっているため、はっきり言っておいたほうが伝わりやすく、自分がすっきりしたかったこともあり、村出身だと話しました。

 ふさおさんは、私が村で生まれて暮らしていたということをまったく気にしない人で、普通に受け入れてくれました。そういう人と長く一緒にいたから、この本が描けたというのは、実際のところあると思います。

――村では自分の所有物はないということですが、特にお金を所有できないのは、一般の人には想像できないと思います。自由にお金を使えるようになった今、高田さんは、お金をどのようなものだと考えていますか?

高田 お金が存在しなかった子ども時代だったからこそ得た、「お金はすごい、お金はお守り!」といったお金自体に対するリスペクトは、相変わらずありますね(笑)。ただ今は、お金が必要な社会で暮らしていますし、子ども時代のように隠し持って眺めてうっとりというようなことはしていません(笑)。必要なものは買って、おいしいものを食べてあちこち旅行して、家のローンも払っています(笑)。

 お金は大事ですが、あくまでもお金で、軽んじることはこれからも決してないけれど、「お金、お金!」とがんじがらめにならないように、気楽に暮らせればいいなぁくらいに思っています。

――お金を見慣れていないと「こんな大金、どう使えばいいのかわからない!」と、就職後、初任給の使い道に悩みそうです。

高田 初任給の使い道に困ることは、特になかったです。村では誰かのお古ばかりでおしゃれができなかったので、最初は「しまむら」とかに通って服をたくさん買いましたし、貯金もしたかったですし。それでお金が貯まったら自動車の免許取得! 次は一人暮らし! ……という感じで、お金を貯めてはどんどん使っていました。暮らしていく上でお金は、いくらあっても困りませんからね(笑)。

――お金と、うまく付き合っていけているんですね。村では自分の成長のために仕事をしますが、一般社会で仕事をする主な理由は、お金をもらうためです。この、仕事をしてお金をもらう行為について、高田さんはどんな印象を受けましたか?

高田 いいですね! お金大好きなので、最高です! 子どもの頃に自分の労力をお金に換算して手に入れることが可能だったなら、お菓子や本も買えたし、友達の誕生日プレゼントも買えたし……と、つい空想してしまいます。

■個人の人格は無視されて、「信仰」に対するイメージで判断される世の中

――日本では、とかく宗教や信仰について公にしづらい雰囲気がありますが、それについてどう思いますか?

高田 特に考えたこともありませんが……確か海外でも「どんなに親しい間柄でも、宗教と政治と野球の話には気をつけろ」って言いませんでしたっけ? 私の場合、「村にいた」と言った途端に、「カルト村出身者」「元村の子」とひとくくりにされてしまうことがよくあります。実際は、それぞれ別人格を持った個人の集まりですし、村ではちょっと変わっていると言われていた私が今、村の話をすることも、まったく個人的な思い出なのに“元村の子代表”みたいになっていて「なんかスミマセン」という感じです。村にいた子それぞれに、100人いたら100通りの捉え方があると思うし、村に対して思うことも人それぞれだと思います。

 「何かを信仰している」と言いづらい空気があるとすれば、言った途端にその人個人の歴史や人格は無視されて、聞いた人が持つ「信仰」に対してのイメージのみですべてを判断される今の世の中の傾向が関係しているのではないだろうかと思います。

――カルト村で小さい頃に世話係さんから虐待を受けたり、ひもじい思いをしたりと、いまだに何かトラウマが残っているのではないかと感じられました。村で生活したことで、今でも日常生活に染み付いている習慣はありますか?

高田 習慣ではないですが、うれしいことが続くと不機嫌になるという、変な癖があります。村にいた頃、両親とは離れて暮らしていて、たまにしか会えなかったんです。会っても必ず別れる日が来たので、今でもあまり良いことが続くと、訳もなく不安になってしまいます。良いことを喜ぶより、良いことを怖れる気持ちのほうが強いのは、「幸せは長くは続かない」と、記憶に刷り込まれているからだろうと思います。

 あと自分では無自覚で、最近ふさおさんに指摘されて気づいたのですが……。子どもの頃、おなかをすかせたときの自衛手段として食べ物を隠してこっそり食べていたので、今でもふさおさんが買ってきてくれたお菓子などを、すぐ食べないでしまい込む癖があります(笑)。「今よりもっとおなかがすいたときのため」という理由なのですが、あちこちにしまい込んで忘れてしまって、結局、賞味期限が切れてしまったりすることも多く、ふさおさんに「犬かよ! 悪くしてから食べるんじゃなくて、おいしいうちに食べなよ、また買ってきてあげるから!」と怒られるのですが、やはりもったいなくて好きなものはしまい込んで、後からちびちび食べています。おなかをすかせてから大事に食べると、おいしくないですか?(笑)
(姫野ケイ)

高田かや(たかだ・かや)takadakaya2
東京都在住、射手座、B型。生まれてから19歳まで、カルト村で共同生活を送る。村を出てから、一般社会で知り合った男性“ふさおさん”と結婚。村での実体験を回想して描いた作品を「クレアコミックエッセイルーム」に投稿したことがきっかけでデビュー。今、一番幸せを感じるのは、ベッドで寝転びながら本を読みつつ、何か食べているとき。

栄養ドリンクに「疲労を取る成分は一切入っていない」! 疲労医学の権威がぶった斬り

 疲労回復効果を求めて、疲れや眠気を感じたときに思わず手にする栄養ドリンクやエナジードリンク。しかし、大阪市立大学大学院医学研究科疲労医学講座の特任教授で「東京疲労・睡眠クリニック」院長の梶本修身先生は、ビタミンB1やタウリンを主成分とする一般的な栄養ドリンクには「疲労を取る成分は一切入っていない」と断言する。前編では疲労と栄養ドリンク、エナジードリンクにまつわる真相をお話いただいたが、後編では、栄養ドリンクに多量に含まれるカフェインや、疲労に本当に効果的な成分についてお聞きした。

◆死を招くカフェイン中毒とは?

――栄養ドリンクは疲労回復に効果がないとのことですが、それにもかかわらず1日の摂取量が決められているのはなぜですか?

梶本修身先生(以下、梶本) 栄養ドリンクの大半にはコーヒー2杯分以上のカフェインが含まれているので、過剰摂取による中毒化や死亡事故を防ぐ意味合いが大きいでしょう。栄養ドリンクやエナジードリンクの過剰摂取による死亡事故は最近でも起きていて、アメリカでは13件の死亡事故が報告されています。そのためFDA(アメリカ食品医薬品局)や小児学会は注意喚起もしています。でも、日本では、今のところ「自主規制」という形で各社の自主判断で上限摂取量を決めさせているのが実情です。

――カフェインは摂り過ぎると危険なんですね。

梶本 カフェインは眠気を覚ますので、一時的に疲労感を麻痺させるには効果的です。しかし、実際には自律神経の興奮を高めることでさらに疲労を悪化させるため、必ず“ぶり返し”が起こります。そのぶり返しを消すためにカフェインがほしくなり、効果が切れるとより強いぶり返しに襲われるのでまた摂取する……と繰り返していくうちに、依存的になり、カフェイン中毒を引き起こします。日本疲労学会も「カフェインは抗疲労物質ではない」と明確に抗疲労効果を否定しています。

 また、カフェインを摂取すると、交感神経優位となって心臓の脈拍が速くなります。ですから、過剰摂取はもちろん、疲労がたまっているときや運動中、飲酒時など脈拍が速まっている状態で摂ると、死に至るリスクもあります。

――カフェインが強いコーヒーは、栄養ドリンクやエナジードリンクと効果は同じですか?

梶本 コーヒーにもカフェインが含まれているので、飲みすぎには注意が必要です。ただ、クロロゲン酸という非常に優れた抗酸化物質も含まれているので、自律神経の細胞に発生する活性酸素の蓄積を防いでくれる作用があります。そのため、コーヒーは、疲れを軽減させる効果が期待できます。クロロゲン酸はノンカフェインのコーヒーにも含まれています。同じカフェインを摂取するなら、栄養ドリンクよりコーヒーを飲んだ方が絶対にいいですよ。

◆疲れにくい体が手に入る成分「イミダペプチド」

――栄養ドリンクに頼れないとなると、何に頼ればいいのでしょうか?

梶本 疲労を起こしにくくするという点では、2つのアミノ酸が結合したたんぱく質の一種で、抗酸化作用のある「イミダペプチド」がベストだと思いますよ。先に話したように、疲労は活性酸素により自律神経中枢の神経細胞にサビがついた状態ですから、抗酸化物質でサビ付きを防げばいいのです。イミダペプチドは消化管ですぐにアミノ酸に分解されるので、血管から脳血管関門(脳を守るフィルターのようなもの)を通過して、自律神経の活性酸素の発生場所まで到達できます。自律神経中枢に到達したアミノ酸は、細胞内のイミダペプチド合成酵素により再結合されてイミダペプチドになるので、活性酸素による細胞のサビ付きを防いでくれるんです。

――抗酸化作用といえば、ポリフェノールの名前もよく挙がりますよね。

梶本 例えば8時間集中して作業したとすると、活性酸素は8時間ずっと発生し続けることになります。ほとんどのポリフェノールは代謝されやすく、抗酸化作用はせいぜい2時間以内ですから、残りの6時間は活性酸素にさらされてしまうんですね。だから、ポリフェノールで抗疲労効果を得るには、こまめな摂取が必要になります。その点、イミダペプチドは、アミノ酸がある間は常に合成され続けるので、持続的に抗酸化作用を発揮することができるんです。

――イミダペプチドはどうすれば摂取できますか?

梶本 イミダペプチドは、鳥であれば羽の付け根、回遊魚であれば尾の筋肉など、消耗の激しい部位に多く含まれています。そのため、鶏の胸肉や、マグロ、カツオを食べるのがおすすめです。ただ、即効性は乏しいので毎日摂取することが肝要です。毎日食べるのが面倒な方は、合間にサプリメントを利用するのもよいでしょう。効果が臨床試験で実証されているイミダペプチド量は、1日200ミリグラム。鶏の胸肉なら70~100グラムくらいに含まれる量です。ローソンの「からあげクン」なら2パックくらいですかね。ただし、揚げ物なので食べすぎたら太りますけど(笑)。ちなみに、セブンイレブンの唐揚げにはモモ肉も入っているので、胸肉のみを使用したローソンの方がイミダペプチドを多く摂取できますよ。

◆健康のための運動が自殺行為になることも

――すでにたまっている疲労には何が有効ですか?

梶本 やはり睡眠が一番です。睡眠は疲れを取るための手段であり、眠気は体からの警告なんです。だから無視してはいけません。眠たいときは、栄養ドリンクなどでごまかさずに寝るべきです。ただ、寝ても疲れが抜けない場合は、前日の疲労が睡眠で回復できるキャパシティをオーバーしているか、睡眠中も寝汗やいびき・無呼吸で交感神経が働き続けて眠りの質が悪くなっているかのどちらか。疲労が回復せずに蓄積すると、老化が進行して寿命を縮めることになるので、まずは睡眠環境を整え、毎朝寝起きの疲れ具合をチェックして、行動量を調整することが望ましいです。

――健康維持の運動も、翌朝疲れが残るようなら、かえって寿命を縮めているということですか?

梶本 その通り。運動が推奨されるのは、肥満による生活習慣病などのリスクを減らすためです。日常生活で体重と筋肉を維持できるのであれば、歩く以上の運動をあえてする必要はありません。健康のためにと、運動やトレーニングを取り入れている人は多いですが、疲労が蓄積するようなやり方は逆効果。動物を使った実験でも、幼児期にたらふく食べさせて運動させた個体ほど早死にするとの結果が出ていますし、実際、健康のためにと始めたランニングやゴルフの最中に命を落とす人もたくさんいるのも事実です。

――疲労をため込まないことが大事なんですね。

梶本 ライオンを見てください。獲物を狩るとき以外はほとんど動かない。そもそも体力づくりに自主トレしている動物なんて見たことないでしょ? 狩りの途中でさえ、疲れたら諦めるんですから。動物は疲労感に忠実なんです。だから「ライオンが過労死した!」なんてことは絶対にありません。疲労感を意欲や達成感で消し去れるのは「欲」の中枢である前頭葉が発達した人間だけです。人間は貪欲ゆえに進歩しましたが、その代償として疲労蓄積による過労死を招いてしまっているんですね。

梶本修身(かじもと・おさみ)
1962年生まれ。大阪大学大学院医学研究科修了。医師・医学博士。現在、大阪市立大学大学院医学研究科疲労医学講座の特任教授で「東京疲労・睡眠クリニック」の院長を兼任。著書『すべての疲労は脳が原因I』『同II』(集英社)は15万部を突破するベストセラー。『たけしの健康エンターテインメント!みんなの家庭の医学』(テレビ朝日系)、『ためしてガッテン』(NHK)、『ホンマでっか!?TV』(フジテレビ系)など出演多数。

栄養ドリンクに「疲労を取る成分は一切入っていない」! 疲労医学の権威がぶった斬り

 疲労回復効果を求めて、疲れや眠気を感じたときに思わず手にする栄養ドリンクやエナジードリンク。しかし、大阪市立大学大学院医学研究科疲労医学講座の特任教授で「東京疲労・睡眠クリニック」院長の梶本修身先生は、ビタミンB1やタウリンを主成分とする一般的な栄養ドリンクには「疲労を取る成分は一切入っていない」と断言する。前編では疲労と栄養ドリンク、エナジードリンクにまつわる真相をお話いただいたが、後編では、栄養ドリンクに多量に含まれるカフェインや、疲労に本当に効果的な成分についてお聞きした。

◆死を招くカフェイン中毒とは?

――栄養ドリンクは疲労回復に効果がないとのことですが、それにもかかわらず1日の摂取量が決められているのはなぜですか?

梶本修身先生(以下、梶本) 栄養ドリンクの大半にはコーヒー2杯分以上のカフェインが含まれているので、過剰摂取による中毒化や死亡事故を防ぐ意味合いが大きいでしょう。栄養ドリンクやエナジードリンクの過剰摂取による死亡事故は最近でも起きていて、アメリカでは13件の死亡事故が報告されています。そのためFDA(アメリカ食品医薬品局)や小児学会は注意喚起もしています。でも、日本では、今のところ「自主規制」という形で各社の自主判断で上限摂取量を決めさせているのが実情です。

――カフェインは摂り過ぎると危険なんですね。

梶本 カフェインは眠気を覚ますので、一時的に疲労感を麻痺させるには効果的です。しかし、実際には自律神経の興奮を高めることでさらに疲労を悪化させるため、必ず“ぶり返し”が起こります。そのぶり返しを消すためにカフェインがほしくなり、効果が切れるとより強いぶり返しに襲われるのでまた摂取する……と繰り返していくうちに、依存的になり、カフェイン中毒を引き起こします。日本疲労学会も「カフェインは抗疲労物質ではない」と明確に抗疲労効果を否定しています。

 また、カフェインを摂取すると、交感神経優位となって心臓の脈拍が速くなります。ですから、過剰摂取はもちろん、疲労がたまっているときや運動中、飲酒時など脈拍が速まっている状態で摂ると、死に至るリスクもあります。

――カフェインが強いコーヒーは、栄養ドリンクやエナジードリンクと効果は同じですか?

梶本 コーヒーにもカフェインが含まれているので、飲みすぎには注意が必要です。ただ、クロロゲン酸という非常に優れた抗酸化物質も含まれているので、自律神経の細胞に発生する活性酸素の蓄積を防いでくれる作用があります。そのため、コーヒーは、疲れを軽減させる効果が期待できます。クロロゲン酸はノンカフェインのコーヒーにも含まれています。同じカフェインを摂取するなら、栄養ドリンクよりコーヒーを飲んだ方が絶対にいいですよ。

◆疲れにくい体が手に入る成分「イミダペプチド」

――栄養ドリンクに頼れないとなると、何に頼ればいいのでしょうか?

梶本 疲労を起こしにくくするという点では、2つのアミノ酸が結合したたんぱく質の一種で、抗酸化作用のある「イミダペプチド」がベストだと思いますよ。先に話したように、疲労は活性酸素により自律神経中枢の神経細胞にサビがついた状態ですから、抗酸化物質でサビ付きを防げばいいのです。イミダペプチドは消化管ですぐにアミノ酸に分解されるので、血管から脳血管関門(脳を守るフィルターのようなもの)を通過して、自律神経の活性酸素の発生場所まで到達できます。自律神経中枢に到達したアミノ酸は、細胞内のイミダペプチド合成酵素により再結合されてイミダペプチドになるので、活性酸素による細胞のサビ付きを防いでくれるんです。

――抗酸化作用といえば、ポリフェノールの名前もよく挙がりますよね。

梶本 例えば8時間集中して作業したとすると、活性酸素は8時間ずっと発生し続けることになります。ほとんどのポリフェノールは代謝されやすく、抗酸化作用はせいぜい2時間以内ですから、残りの6時間は活性酸素にさらされてしまうんですね。だから、ポリフェノールで抗疲労効果を得るには、こまめな摂取が必要になります。その点、イミダペプチドは、アミノ酸がある間は常に合成され続けるので、持続的に抗酸化作用を発揮することができるんです。

――イミダペプチドはどうすれば摂取できますか?

梶本 イミダペプチドは、鳥であれば羽の付け根、回遊魚であれば尾の筋肉など、消耗の激しい部位に多く含まれています。そのため、鶏の胸肉や、マグロ、カツオを食べるのがおすすめです。ただ、即効性は乏しいので毎日摂取することが肝要です。毎日食べるのが面倒な方は、合間にサプリメントを利用するのもよいでしょう。効果が臨床試験で実証されているイミダペプチド量は、1日200ミリグラム。鶏の胸肉なら70~100グラムくらいに含まれる量です。ローソンの「からあげクン」なら2パックくらいですかね。ただし、揚げ物なので食べすぎたら太りますけど(笑)。ちなみに、セブンイレブンの唐揚げにはモモ肉も入っているので、胸肉のみを使用したローソンの方がイミダペプチドを多く摂取できますよ。

◆健康のための運動が自殺行為になることも

――すでにたまっている疲労には何が有効ですか?

梶本 やはり睡眠が一番です。睡眠は疲れを取るための手段であり、眠気は体からの警告なんです。だから無視してはいけません。眠たいときは、栄養ドリンクなどでごまかさずに寝るべきです。ただ、寝ても疲れが抜けない場合は、前日の疲労が睡眠で回復できるキャパシティをオーバーしているか、睡眠中も寝汗やいびき・無呼吸で交感神経が働き続けて眠りの質が悪くなっているかのどちらか。疲労が回復せずに蓄積すると、老化が進行して寿命を縮めることになるので、まずは睡眠環境を整え、毎朝寝起きの疲れ具合をチェックして、行動量を調整することが望ましいです。

――健康維持の運動も、翌朝疲れが残るようなら、かえって寿命を縮めているということですか?

梶本 その通り。運動が推奨されるのは、肥満による生活習慣病などのリスクを減らすためです。日常生活で体重と筋肉を維持できるのであれば、歩く以上の運動をあえてする必要はありません。健康のためにと、運動やトレーニングを取り入れている人は多いですが、疲労が蓄積するようなやり方は逆効果。動物を使った実験でも、幼児期にたらふく食べさせて運動させた個体ほど早死にするとの結果が出ていますし、実際、健康のためにと始めたランニングやゴルフの最中に命を落とす人もたくさんいるのも事実です。

――疲労をため込まないことが大事なんですね。

梶本 ライオンを見てください。獲物を狩るとき以外はほとんど動かない。そもそも体力づくりに自主トレしている動物なんて見たことないでしょ? 狩りの途中でさえ、疲れたら諦めるんですから。動物は疲労感に忠実なんです。だから「ライオンが過労死した!」なんてことは絶対にありません。疲労感を意欲や達成感で消し去れるのは「欲」の中枢である前頭葉が発達した人間だけです。人間は貪欲ゆえに進歩しましたが、その代償として疲労蓄積による過労死を招いてしまっているんですね。

梶本修身(かじもと・おさみ)
1962年生まれ。大阪大学大学院医学研究科修了。医師・医学博士。現在、大阪市立大学大学院医学研究科疲労医学講座の特任教授で「東京疲労・睡眠クリニック」の院長を兼任。著書『すべての疲労は脳が原因I』『同II』(集英社)は15万部を突破するベストセラー。『たけしの健康エンターテインメント!みんなの家庭の医学』(テレビ朝日系)、『ためしてガッテン』(NHK)、『ホンマでっか!?TV』(フジテレビ系)など出演多数。

「タウリン配合」はまったく意味ナシ!? 栄養ドリンクはホントに効くのか医師に直撃

 疲労や睡魔がピークに達しても休めないとき、最強の助っ人のように感じる「栄養ドリンク」。最近は「エナジードリンク」なるものも一般的になり、毎日のようにお世話になっている女性も少なくないだろう。でも、毎日飲み続けて平気なのか、本当に効果があるのかなど、気になる点もなくはない。そこで、大阪市立大学大学院医学研究科疲労医学講座の特任教授で、「東京疲労・睡眠クリニック」院長の梶本修身先生に、栄養ドリンク、エナジードリンクの本当のトコロを伺った。

◆栄養ドリンクで得られる「疲労回復」は、全てまやかし

――栄養ドリンクは疲労回復に効果的だと思うのですが、どんな成分が入っているのでしょうか?

梶本修身先生(以下、梶本) 一般の栄養ドリンクに含まれる成分は、カフェイン、タウリン、ビタミンB1がメインで、アルコールも微量に含まれていることが多いです。カフェインが眠気を覚まし、アルコールが気分を高揚させることで疲労感は消しますが、どちらも疲労そのものを取ってくれるわけではありません。ビタミンB1に関しても、日本人では一般的な食生活で所要量の116%以上を摂取していますから、食事だけで十分足りているんですよ。そこへ栄養ドリンクで補給しても、余剰物質として尿中に排出されるだけ。その際、尿のビタミン濃度が高くなることで色が濃くなったり匂いがしたりするため、“効いている”ように感じてしまうのですが、もし必要な物質として体内に吸収されていれば、尿で出てこないはずですよね(笑)。

 タウリンに至っては、効果どころか、逆に、摂取すればするほど自発的な行動量が落ちていくことがラットで示されています。つまり、ビタミンB1やタウリンを主成分とする栄養ドリンクは実はカフェインで疲労感を消すだけで、疲労自体を取る成分は一切入っていないんです。

――「疲労」と「疲労感」は違うんですか?

梶本 「疲労」は、登山やボクシングなど筋肉を特別に痛めつけない限り、「自律神経中枢の疲れ」といえます。例えば、3キロを走る場合でも、猛暑の8月と涼しい4月なら運動量は同じなのに疲労度がまったく違うでしょ。その差は、発汗など体温調整を司る自律神経中枢にかかる負担の差。つまり、運動時には、自律神経が呼吸、心拍や体温を秒単位で調節し、身体全体をコントロールしているんです。また、デスクワークなどによる緊張や集中の持続も自律神経の働きです。ただ、自律神経中枢の細胞は、働くときに酸素の消費とともに「活性酸素」を発生させるので、使いすぎると細胞にサビが生じて、本来の働きができなくなっていってしまうんです。それが「疲労」の正体。

 それに対し「疲労感」というのは、“疲れた”と感じる感覚的で曖昧なもの。激しい運動でも、楽しければ疲れは感じにくいでしょ。逆に、会議などつまらないことをしていると座っているだけですぐに疲れた気がしますよね。つまり、実際の疲労度合いと疲労感は大きく異なります。そのため「疲労感」だけ取ってしまえば、「疲れが取れた」と錯覚させることができてしまうんです。

――タウリンに疲労回復の効果はまったくないんですか?

梶本 タウリンは肝機能を改善する効果は報告されていますが、元来は神経を鎮める作用がある抑制物質ですから、そもそも元気になるはずがないんです。実際、CMでも「タウリン○ミリグラム配合」と謳っているだけで、「タウリンが疲労に効く」とは一言も言ってません。もし、製薬会社が「タウリンが疲労に効果がある」と宣伝すると薬機法違反です。もし「タウリンが疲労に効く」という印象を持たせているなら、巧妙なイメージ操作です。

――風邪薬と栄養ドリンクを一緒に飲むと回復が早いといわれていますが、併用で効果的になるということはないんですか?

梶本 風邪薬には抗ヒスタミン剤が入っているので、眠気を誘います。カフェインを同時に摂取すると一時的にその眠気を覚ましてくれるので、感覚としてなんとなく元気になった気がするだけのこと。風邪薬の効果が増すわけではありません。

◆栄養ドリンクをめぐる大人の事情

――では、なぜ効果のない栄養ドリンクが、長年、疲労回復薬のように扱われているのでしょうか?

梶本 リポビタンDなどが発売された1962年頃は、脚気という疾患が問題となるほどビタミンB1が不足した時代です。だから、当時はビタミンB1を補給することに意味があったと思います。しかし、栄養ドリンクはこれまで一度たりとも偽薬を対照としたヒト臨床試験で抗疲労効果が実証されたことはなく、人に対して抗疲労効果が実証された医学論文もありません。ビタミンが不足してるから「補給したら効くであろう」という発想だけで承認された、55年前の既得権益であり、飽食時代の今となっては時代錯誤ともいえます。

 日本には、残念ながらそのような既得権だけで発売されているものの、実際には効果が疑わしい医薬品がたくさんあります。ただ、日本の製薬会社が出している栄養ドリンクを例に挙げると、年間2,500億円といわれる売上高のかなりの部分が広告料として使われています。だから恩恵を受けているマスコミは、事実を書くことができないんでしょうね。今までその科学的事実を放送してくれたのはNHKだけ。事実、民放局や雑誌で私がそのことを語っても、全てカットされてしまいます(笑)。

――最近、いくつもの種類が出回っているエナジードリンクはどうなのでしょうか?

梶本 栄養ドリンクは医薬部外品なのですが、エナジードリンクは清涼飲料水の扱いです。そのため、成分内容量の表示が義務づけられておらず、公表されていないんです。おそらくカフェインが大半だとは思いますが、公表されていない以上、検証もできないのでなんとも言えません。ただ、アメリカの小児学会で最も権威ある雑誌では「有用性がないだけでなく子どもに飲ませるのは危険」と注意喚起されていて、米国医師会も「エナジードリンクは子どもに与えるべきではない」とはっきり書いています。しかし、それも日本の大手マスコミでは報道されていません。

(後編につづく)

梶本修身(かじもと・おさみ)
1962年生まれ。大阪大学大学院医学研究科修了。医師・医学博士。現在、大阪市立大学大学院医学研究科疲労医学講座の特任教授で「東京疲労・睡眠クリニック」の院長を兼任。著書『すべての疲労は脳が原因I』『同II』(集英社)は15万部を突破するベストセラー。『たけしの健康エンターテインメント!みんなの家庭の医学』(テレビ朝日系)、『ためしてガッテン』(NHK)、『ホンマでっか!?TV』(フジテレビ系)など出演多数。

「タウリン配合」はまったく意味ナシ!? 栄養ドリンクはホントに効くのか医師に直撃

 疲労や睡魔がピークに達しても休めないとき、最強の助っ人のように感じる「栄養ドリンク」。最近は「エナジードリンク」なるものも一般的になり、毎日のようにお世話になっている女性も少なくないだろう。でも、毎日飲み続けて平気なのか、本当に効果があるのかなど、気になる点もなくはない。そこで、大阪市立大学大学院医学研究科疲労医学講座の特任教授で、「東京疲労・睡眠クリニック」院長の梶本修身先生に、栄養ドリンク、エナジードリンクの本当のトコロを伺った。

◆栄養ドリンクで得られる「疲労回復」は、全てまやかし

――栄養ドリンクは疲労回復に効果的だと思うのですが、どんな成分が入っているのでしょうか?

梶本修身先生(以下、梶本) 一般の栄養ドリンクに含まれる成分は、カフェイン、タウリン、ビタミンB1がメインで、アルコールも微量に含まれていることが多いです。カフェインが眠気を覚まし、アルコールが気分を高揚させることで疲労感は消しますが、どちらも疲労そのものを取ってくれるわけではありません。ビタミンB1に関しても、日本人では一般的な食生活で所要量の116%以上を摂取していますから、食事だけで十分足りているんですよ。そこへ栄養ドリンクで補給しても、余剰物質として尿中に排出されるだけ。その際、尿のビタミン濃度が高くなることで色が濃くなったり匂いがしたりするため、“効いている”ように感じてしまうのですが、もし必要な物質として体内に吸収されていれば、尿で出てこないはずですよね(笑)。

 タウリンに至っては、効果どころか、逆に、摂取すればするほど自発的な行動量が落ちていくことがラットで示されています。つまり、ビタミンB1やタウリンを主成分とする栄養ドリンクは実はカフェインで疲労感を消すだけで、疲労自体を取る成分は一切入っていないんです。

――「疲労」と「疲労感」は違うんですか?

梶本 「疲労」は、登山やボクシングなど筋肉を特別に痛めつけない限り、「自律神経中枢の疲れ」といえます。例えば、3キロを走る場合でも、猛暑の8月と涼しい4月なら運動量は同じなのに疲労度がまったく違うでしょ。その差は、発汗など体温調整を司る自律神経中枢にかかる負担の差。つまり、運動時には、自律神経が呼吸、心拍や体温を秒単位で調節し、身体全体をコントロールしているんです。また、デスクワークなどによる緊張や集中の持続も自律神経の働きです。ただ、自律神経中枢の細胞は、働くときに酸素の消費とともに「活性酸素」を発生させるので、使いすぎると細胞にサビが生じて、本来の働きができなくなっていってしまうんです。それが「疲労」の正体。

 それに対し「疲労感」というのは、“疲れた”と感じる感覚的で曖昧なもの。激しい運動でも、楽しければ疲れは感じにくいでしょ。逆に、会議などつまらないことをしていると座っているだけですぐに疲れた気がしますよね。つまり、実際の疲労度合いと疲労感は大きく異なります。そのため「疲労感」だけ取ってしまえば、「疲れが取れた」と錯覚させることができてしまうんです。

――タウリンに疲労回復の効果はまったくないんですか?

梶本 タウリンは肝機能を改善する効果は報告されていますが、元来は神経を鎮める作用がある抑制物質ですから、そもそも元気になるはずがないんです。実際、CMでも「タウリン○ミリグラム配合」と謳っているだけで、「タウリンが疲労に効く」とは一言も言ってません。もし、製薬会社が「タウリンが疲労に効果がある」と宣伝すると薬機法違反です。もし「タウリンが疲労に効く」という印象を持たせているなら、巧妙なイメージ操作です。

――風邪薬と栄養ドリンクを一緒に飲むと回復が早いといわれていますが、併用で効果的になるということはないんですか?

梶本 風邪薬には抗ヒスタミン剤が入っているので、眠気を誘います。カフェインを同時に摂取すると一時的にその眠気を覚ましてくれるので、感覚としてなんとなく元気になった気がするだけのこと。風邪薬の効果が増すわけではありません。

◆栄養ドリンクをめぐる大人の事情

――では、なぜ効果のない栄養ドリンクが、長年、疲労回復薬のように扱われているのでしょうか?

梶本 リポビタンDなどが発売された1962年頃は、脚気という疾患が問題となるほどビタミンB1が不足した時代です。だから、当時はビタミンB1を補給することに意味があったと思います。しかし、栄養ドリンクはこれまで一度たりとも偽薬を対照としたヒト臨床試験で抗疲労効果が実証されたことはなく、人に対して抗疲労効果が実証された医学論文もありません。ビタミンが不足してるから「補給したら効くであろう」という発想だけで承認された、55年前の既得権益であり、飽食時代の今となっては時代錯誤ともいえます。

 日本には、残念ながらそのような既得権だけで発売されているものの、実際には効果が疑わしい医薬品がたくさんあります。ただ、日本の製薬会社が出している栄養ドリンクを例に挙げると、年間2,500億円といわれる売上高のかなりの部分が広告料として使われています。だから恩恵を受けているマスコミは、事実を書くことができないんでしょうね。今までその科学的事実を放送してくれたのはNHKだけ。事実、民放局や雑誌で私がそのことを語っても、全てカットされてしまいます(笑)。

――最近、いくつもの種類が出回っているエナジードリンクはどうなのでしょうか?

梶本 栄養ドリンクは医薬部外品なのですが、エナジードリンクは清涼飲料水の扱いです。そのため、成分内容量の表示が義務づけられておらず、公表されていないんです。おそらくカフェインが大半だとは思いますが、公表されていない以上、検証もできないのでなんとも言えません。ただ、アメリカの小児学会で最も権威ある雑誌では「有用性がないだけでなく子どもに飲ませるのは危険」と注意喚起されていて、米国医師会も「エナジードリンクは子どもに与えるべきではない」とはっきり書いています。しかし、それも日本の大手マスコミでは報道されていません。

(後編につづく)

梶本修身(かじもと・おさみ)
1962年生まれ。大阪大学大学院医学研究科修了。医師・医学博士。現在、大阪市立大学大学院医学研究科疲労医学講座の特任教授で「東京疲労・睡眠クリニック」の院長を兼任。著書『すべての疲労は脳が原因I』『同II』(集英社)は15万部を突破するベストセラー。『たけしの健康エンターテインメント!みんなの家庭の医学』(テレビ朝日系)、『ためしてガッテン』(NHK)、『ホンマでっか!?TV』(フジテレビ系)など出演多数。

「日本がつらかったら、外に出てみればいい」ユルいペースで働けるタイで、ジムつきマンションに暮らす女性

 近年、東南アジアに移住し、現地で仕事や生きがいを求める日本人女性が急増している。アジアで活躍し、日本にいるときよりも、はるかに生き生きと暮らす女性たちを紹介していくシリーズ。

○第2回
中山舞子さん(仮名・39)タイ・バンコク在住
会計事務所勤務

■日本しか知らないと、違う価値観があることにも気づけない

「女だったら化粧しなきゃとか、眉毛整えてとか、ちゃんとした格好してないと日本ではダメ扱いじゃないですか」

 そう語る彼女のそばを、ラフなTシャツとサンダル履きの女性が歩いていく。向かう先はタイの首都バンコク屈指の高級ショッピングモール「エムクオーティエ」だ。

「タイの暮らしには気取りがないんです。日本のようにきっちりしている必要はないし、適当で生きていける。日本は社会の目が厳しすぎるし、日本人はまじめすぎますよ」

 日本のストレスフルな、世間とやらをいつも気にする横並び社会。

「自分では気がついていないまま『パブリック・プレッシャー』にやられている日本人はたくさんいると思うんです。でも、日本しか知らないと、ほかに行き場がないし、違う価値観があることにも気づけない」

 中山舞子さんも、タイに来て初めて、日本がいかに世界的に見て「きつい」社会であるかを知った。

「『まあいっか!』で生きていけるのがタイなんです」

■未経験の分野なのに採用された

 大学を出て、ごく普通に就職をした。引越し業者のデータ管理だった。

「一日中ずっと終電までキーボードを打つだけの仕事。つまらなかった。ほかの友人たちが仕事にやりがいを感じているのがうらやましかった。でも、じゃあ何がやりたいのか、と言われると、それもわからなくて……」

 そんなとき、ふと大学時代に旅行に行ったタイのことを思い出した。海外かあ。外国で暮らせるのだろうか?

「調べてみると、生活費は安いし、ビザはとりあえず現地の語学学校に入れば取れる。行けるじゃん、って思ったその日に会社を辞めちゃった」

 半年くらい気ままに海外で過ごすか。そのくらいの気持ちだった。

「でも実際に来てみたら、パスポートひとつでアパートは借りられるし、タイ人は細かいこと気にしないし、日本よりずっとイイカゲンで、居心地いいんです」

 語学学校ではタイ語を学んでいたが、半年ほどでけっこう上達。仕事に生かせないかと思うようになった。誰しも渡タイ後、数カ月経つと、日本人やタイ人の知り合いが増え、仕事を紹介されたり、日本語フリーペーパーやネットの求人などを見て、なんとなく就職が決まってくるものだ。中山さんも世界遺産の街アユタヤ郊外の工業団地にある、日系メーカーで働き始めた。タイは日本の製造業にとって一大集積地だ。「現地採用」といわれる働き口も多く、タイ語がわかり、日本での職務経験があれば就職しやすいのだが、彼女もそれに期待して志望した。

「日本から赴任してくる駐在員と、タイ人との橋渡し的な仕事です。現場のタイ人と日本人の通訳をはじめ、タイ人の職務管理など、なんでもこなしてました」

 アジア各地に進出している日系企業は、日本の会社とはいえ、だいぶユルいという。

「未経験の分野なのに採用されたことがそもそも驚き。こっちは年齢制限も、新卒の縛りもありません。ほかの業種や職種への転職も珍しくないし、仕事の方向性、選択肢が豊富なんです。デスクではタイ人女子が緊張感もなく、パクパクお菓子食べながら仕事してるし」

 そんなタイのユルさは、長所でもあり短所でもある。

「私もずぼらだけど、タイ人はひどすぎ(笑)。あまりにも非効率的だし、もう少しちゃんとしてほしいと思う。タイ人のやり方では、たぶん日本には追いつけない。でも、そのぶん気楽でストレスがない」

 だから、日本と同じペースで働こう、生きようと思っている人がタイに来たら、逆にストレスになるだろう。それでも、「日本で現状に行き詰まっていたり、生活がつまらないと感じているなら、一度こっちに来ればいい」と感じている。

■日本がつらかったら、とりあえず外に出てみればいい

 転職社会のタイを渡り歩き9年目、今は堪能な語学力を武器に日系の会計事務所で働いている。日本人の会計士や弁護士も籍を置く。タイへの日系企業の進出は増える一方で、さまざまな業種で人が求められている。

「最近は忙しくて、夜8時くらいまで仕事することもありますが、できるだけ早く帰ります。『そんなに会社に時間は捧げないぜ』と思っているし、タイではそういう働き方が許されるので」

 プライベートでは日本人やタイ人の友人と食事に行ったり、ときには引きこもってゲームに没頭したり。

「タイに来たばかりの頃はよくクラブにも行ったけど、最近はボリウッドダンスの教室にハマってます」

住んでいるのはバンコク都心から高架鉄道で15分ほどの下町。

「大きなベッドルームと広々としたリビングが気に入っていて、1カ月1万2,000バーツ(約3万9,000円)。掃除や洗濯をしてくれるマンション共有のお手伝いさんも住み込んでいるし、ジムもあります。部屋は8階なんですが、眺めが良くて、バンコクの夜景をいつもぼんやり見ています」

仕事も大事だが、そうしたゆるやかな時間も大切にしたい。実際、タイ社会では残業は一般的ではない。タイ人の人生の中で、仕事の優先順位は低い。

「苦しんで働くより、人生は楽しんだ者勝ち。日本がつらかったら、とりあえず外に出てみればいい。合わないと思ったら帰ればいい。それだけ気軽に世界を行き来できる時代なんだから」

 日本では一生懸命がんばっていても、空回りしたり、報われないと感じている人も多い。

「だったらそのがんばりを、外に向けてみたらどうでしょうか。でも、いったん出てみたらもう、帰りたくなくなるかもしれませんが」
(室橋裕和)

「日本がつらかったら、外に出てみればいい」ユルいペースで働けるタイで、ジムつきマンションに暮らす女性

 近年、東南アジアに移住し、現地で仕事や生きがいを求める日本人女性が急増している。アジアで活躍し、日本にいるときよりも、はるかに生き生きと暮らす女性たちを紹介していくシリーズ。

○第2回
中山舞子さん(仮名・39)タイ・バンコク在住
会計事務所勤務

■日本しか知らないと、違う価値観があることにも気づけない

「女だったら化粧しなきゃとか、眉毛整えてとか、ちゃんとした格好してないと日本ではダメ扱いじゃないですか」

 そう語る彼女のそばを、ラフなTシャツとサンダル履きの女性が歩いていく。向かう先はタイの首都バンコク屈指の高級ショッピングモール「エムクオーティエ」だ。

「タイの暮らしには気取りがないんです。日本のようにきっちりしている必要はないし、適当で生きていける。日本は社会の目が厳しすぎるし、日本人はまじめすぎますよ」

 日本のストレスフルな、世間とやらをいつも気にする横並び社会。

「自分では気がついていないまま『パブリック・プレッシャー』にやられている日本人はたくさんいると思うんです。でも、日本しか知らないと、ほかに行き場がないし、違う価値観があることにも気づけない」

 中山舞子さんも、タイに来て初めて、日本がいかに世界的に見て「きつい」社会であるかを知った。

「『まあいっか!』で生きていけるのがタイなんです」

■未経験の分野なのに採用された

 大学を出て、ごく普通に就職をした。引越し業者のデータ管理だった。

「一日中ずっと終電までキーボードを打つだけの仕事。つまらなかった。ほかの友人たちが仕事にやりがいを感じているのがうらやましかった。でも、じゃあ何がやりたいのか、と言われると、それもわからなくて……」

 そんなとき、ふと大学時代に旅行に行ったタイのことを思い出した。海外かあ。外国で暮らせるのだろうか?

「調べてみると、生活費は安いし、ビザはとりあえず現地の語学学校に入れば取れる。行けるじゃん、って思ったその日に会社を辞めちゃった」

 半年くらい気ままに海外で過ごすか。そのくらいの気持ちだった。

「でも実際に来てみたら、パスポートひとつでアパートは借りられるし、タイ人は細かいこと気にしないし、日本よりずっとイイカゲンで、居心地いいんです」

 語学学校ではタイ語を学んでいたが、半年ほどでけっこう上達。仕事に生かせないかと思うようになった。誰しも渡タイ後、数カ月経つと、日本人やタイ人の知り合いが増え、仕事を紹介されたり、日本語フリーペーパーやネットの求人などを見て、なんとなく就職が決まってくるものだ。中山さんも世界遺産の街アユタヤ郊外の工業団地にある、日系メーカーで働き始めた。タイは日本の製造業にとって一大集積地だ。「現地採用」といわれる働き口も多く、タイ語がわかり、日本での職務経験があれば就職しやすいのだが、彼女もそれに期待して志望した。

「日本から赴任してくる駐在員と、タイ人との橋渡し的な仕事です。現場のタイ人と日本人の通訳をはじめ、タイ人の職務管理など、なんでもこなしてました」

 アジア各地に進出している日系企業は、日本の会社とはいえ、だいぶユルいという。

「未経験の分野なのに採用されたことがそもそも驚き。こっちは年齢制限も、新卒の縛りもありません。ほかの業種や職種への転職も珍しくないし、仕事の方向性、選択肢が豊富なんです。デスクではタイ人女子が緊張感もなく、パクパクお菓子食べながら仕事してるし」

 そんなタイのユルさは、長所でもあり短所でもある。

「私もずぼらだけど、タイ人はひどすぎ(笑)。あまりにも非効率的だし、もう少しちゃんとしてほしいと思う。タイ人のやり方では、たぶん日本には追いつけない。でも、そのぶん気楽でストレスがない」

 だから、日本と同じペースで働こう、生きようと思っている人がタイに来たら、逆にストレスになるだろう。それでも、「日本で現状に行き詰まっていたり、生活がつまらないと感じているなら、一度こっちに来ればいい」と感じている。

■日本がつらかったら、とりあえず外に出てみればいい

 転職社会のタイを渡り歩き9年目、今は堪能な語学力を武器に日系の会計事務所で働いている。日本人の会計士や弁護士も籍を置く。タイへの日系企業の進出は増える一方で、さまざまな業種で人が求められている。

「最近は忙しくて、夜8時くらいまで仕事することもありますが、できるだけ早く帰ります。『そんなに会社に時間は捧げないぜ』と思っているし、タイではそういう働き方が許されるので」

 プライベートでは日本人やタイ人の友人と食事に行ったり、ときには引きこもってゲームに没頭したり。

「タイに来たばかりの頃はよくクラブにも行ったけど、最近はボリウッドダンスの教室にハマってます」

住んでいるのはバンコク都心から高架鉄道で15分ほどの下町。

「大きなベッドルームと広々としたリビングが気に入っていて、1カ月1万2,000バーツ(約3万9,000円)。掃除や洗濯をしてくれるマンション共有のお手伝いさんも住み込んでいるし、ジムもあります。部屋は8階なんですが、眺めが良くて、バンコクの夜景をいつもぼんやり見ています」

仕事も大事だが、そうしたゆるやかな時間も大切にしたい。実際、タイ社会では残業は一般的ではない。タイ人の人生の中で、仕事の優先順位は低い。

「苦しんで働くより、人生は楽しんだ者勝ち。日本がつらかったら、とりあえず外に出てみればいい。合わないと思ったら帰ればいい。それだけ気軽に世界を行き来できる時代なんだから」

 日本では一生懸命がんばっていても、空回りしたり、報われないと感じている人も多い。

「だったらそのがんばりを、外に向けてみたらどうでしょうか。でも、いったん出てみたらもう、帰りたくなくなるかもしれませんが」
(室橋裕和)

AV女優が親公認で働く意味とは? アダルトの仕事をめぐる環境と意識の変化

 表紙に写る2人の女性に惹かれるものを覚えて、その本を手に取った。目鼻立ちがそっくりで、一目で母娘とわかる。美人親子というにふさわしい、華やかなツーショットだ。その上に載せられたタイトルは『うちの娘はAV女優です』(幻冬舎)。この2人は、本書に登場する“親公認”AV女優のひとり、桜井あゆさん(2016年に引退)と、その母親なのだ。

 著者のアケミンさんは表紙に改めて目をやり、

「桜井あゆさんがお母さんと並んでスマホで自撮りしたのを、送ってくれたんです。素敵ですよね。私は自分の母親と、こんなふうにツーショットで撮ったことないなぁ」

という。AVメーカーに広報として勤めた後、フリーライターに転身したアケミンさんだが、AVのレビューやAV女優へのインタビューを主なフィールドとする中で、「親も応援してくれています!」と話すAV女優が増えてきたことに気がついた。AV女優は親に内緒でする仕事ーーそう思っていたアケミンさんがこれまでに訪ね歩き、インタビューした“親公認”AV女優10人のエピソードが本書に収められている。

■親バレせずに売れたい、というのが難しい時代

「この仕事をする中で女性たちが恐れているのが、友だちバレ、彼氏バレ、熟女女優さんだと旦那バレや子バレ……数ある“バレ”の中でも“親”は最もハードルが高いもの、と私は思います。大多数の女優がバレてはいけないと思い、バレないように細心の注意を払っている親に、仕事を認めてもらう……AV女優にとってある意味、究極の環境を手にした女性たちについて知りたくて、取材を重ねました」

 そもそも、親にバレるリスクは高いのだろうか?

「ネットで手軽にAVを視聴できるようになったり、アイドル的な活動をするAV女優が増えて、地上波に出る機会が増えたりといった具合に、活動の幅が広がるとそれだけ目にする人も増えるので、リスクは高まります。人気商売ですから、売れるためにはパブリシティ(広報活動)に力を入れ、多くの人に見てもらって知名度を高めないといけない……でも親だけには見てほしくない。これはそもそも矛盾していますよね。親バレせずに売れたい、というのが難しい時代になりました」

 と同時に、バレるか否かは、その環境にもよるという。

「仕事のことを親には一言も告げず、ゆるっと引退して次の人生を歩んでいる女優さんも大勢いますよ。すごく売れっ子で長く活動している女優さんが、まったく親バレしていないという話も聞きます。親がネットと無縁だったり、周囲に書店やコンビニがない地域に暮らしていて、成人雑誌が目に入らなかったり、女性が多い職場だったりして、生活圏内にアダルトの要素がない環境だとバレにくい。反対に、男きょうだいなど日常的にAVを観る人が身近にいると、バレる可能性は高くなります」

 親と同居していると、隠し通すのは難しい、とアケミンさんは付け加える。本書で紹介されている女性のほとんどは地方出身者で、親元を離れて暮らしている。しかし、熟女女優・一条綺美香さんのように、同居する父親が高齢でインターネットと縁がなく、隠そうと思えば隠せたのではないかと思えるケースもある。それでも自分から打ち明ける背景には、どんな想いがあるのだろう?

「みなさん『反対されたら辞めてもいい』と思っているわけではなく、多かれ少なかれ、AV女優という仕事への前向きな意志をもって親に打ち明けていると感じました。出演した作品の発売日が迫ってきて、『ここまできたら後に引けないし、言っちゃえ!』と腹を決める女性もいましたね。最初はなんとなく始めたけど、自分自身の中でAVをひとつの“仕事”として認識するようになったことで、『いくら親にダメと言われようと、私は続けよう』という意地が芽生えるようです」

■隠し事をしていないっていうのは、とても健全なこと

 親から反対されても、周りになんと思われても、私はAV女優として売れたい、ナンバーワンになりたい。そうすることで、親にもこの仕事を認めてもらいたい……本書に出てくる女性たちからは、まっすぐなパワーを感じる。

「今回、登場してもらった女性たちの共通点を挙げるとしたら、プロ意識ですね。私が見てきた印象だと、最初は『なんとなく』AV女優になった女性のほうが、後々にプロ意識が芽生えて大成しています。『人気女優の●●さんみたいになりたいんです!』といって業界に入ってくる例も増えていますが、目標が明確すぎると、現実が少しでもそれとズレてしまったときに自分を全否定して、自滅する傾向にあると思います。いまはその気になれば誰でもAVに出演できる時代ですが、それだけでAV女優になれるわけではない。ひとつの仕事として続けていくのは、簡単なことではありません」

 仕事であれ生き方であれ、「親に認めてもらう」がその人の中でひとつの支えとなることは少なくない。親公認が、AV女優としての活動に影響を与えることはあるのだろうか?

「心のバランスが保たれますね。いつバレるだろうとビクビクしながら仕事をしている女性は、その精神状態が作品にも表れます。不思議なもので、裸の肉体って、そうした心の状態が如実に映し出されるんですよ。隠し事をしていないっていうのは、とても健全なことなんだと、彼女たちを見て思いました」

 親に認められながらAV女優を仕事とする10人の女性たちのエピソードを読むのは、「自分と親」の関係を見直すきっかけにもなる。たとえば筆者が育った家庭では、親の前ではセックスどころか、恋愛についての話題も一切NGだった。プライベートな行為や気持ちについて話す機会がない環境では、なかなか自分をさらけ出せず、また親の人間的な面に触れる機会もまれだった。

 だからといって「恋愛でもセックスでも、なんでも親と話す」「AV女優の仕事を打ち明ける」が正解だというわけではない。それは家庭によって異なる。が、自分の意志でそれを実現している女性と、究極の部分を共有している両親たちのありようが、ひとつの理想的な家族のような気もしてくるのである。
(三浦ゆえ)

認知症介護の終末に「幸せな死=ハッピーエンディング」はあるのか?

 認知症の母親との日々をユーモラスに綴ったドキュメンタリー映画『毎日がアルツハイマー』(以下、『毎アル』)の関口祐加監督は、続く『毎アル』第2弾である『毎日がアルツハイマー2 関口監督、イギリスへ行く編』で、イギリスの認知症ケア施設の「パーソン・センタード・ケア」を取材し、認知症ケアの究極の形を見せてくれました。そして、今、関口監督は『毎アル』シリーズの最終章『毎日がアルツハイマー ザ・ファイナル』を製作中。お母さんとの日々とともに、日本だけでなく、オーストラリア、オランダ、イギリス、スイスでも撮影を行った最新作。この新作のお話と認知症ケアの在り方などについて、関口監督に伺いました。

■介護の終末、「看取り」「死」が最新作のテーマ

――『毎日がアルツハイマー』シリーズの3作目を製作中とのことですが、今回のテーマは「看取り」だそうですね。これは以前から考えられていたことなのでしょうか?

関口祐加監督(以下、関口) まったく予想もしていませんでした。『毎アル』1作目で、認知症の母をオープンに見せるドキュメンタリーを作り、2作目はそんな母の認知症ケアをどうすればいいのかを考える映画にしようと、イギリスの「パーソン・センタード・ケア」を実践している施設を見学に行きました。ここはまさに認知症ケアの究極の形であり、自分でも『毎アル3』は、これを突き詰めて描いていくことになるのではないかと思っていました。

 でも『毎アル2』から3年の間、いろいろなドラマが起こったんですよ。まず、母が虚血症の発作で4回倒れました。虚血症の発作は突然に意識不明になり倒れるんです。特に3回目に倒れたとき、私がそばにいたので母を支えることができましたが、母が独居だったら頭を打って死に至ったかもしれない。母の認知症が進むにつれ、母の命を預かるのは介護をしている私なんだと改めて思い、介護の終末を考えるようになったのです。

――認知症ケアの先の「介護の終末」、これが看取りにつながっているのですね。

関口 母が4回目に倒れたときに初めてカメラを回しました。発作がどういう状況で起こり、ある程度どうなるかがわかっていたので撮影できたんだと思います。それと私自身、2年前に両股関節全置換の手術をしまして、地獄のリハビリを経て歩けるようになりました。ですが、骨は年々劣化していくので、いつかは車椅子になるかもしれない。自分の体も老いていく中、介護の先にあるものは何かと考え始めたのです。また入院中に病院で知り合い、親しくしくなった女性が亡くなったり、オーストラリア人の友人の女性から膀胱がんであることを打ち明けられたり、この3年間で「死」について考えさせられる出来事が続いたのです。

――「死」についてはあまり考えたくないというか、それと向き合うのは難しいと感じますが、監督はいかがでしたか?

関口 死について考えるのは難しいことかもしれませんが、誰でも必ず死にますよね。どんなに偉い人でも、お金持ちでも、貧乏人でも、誰にでも「死」は平等に訪れる。最近は、尊厳死、平穏死などいろいろ言われているし、脚本家の橋田壽賀子さんも安楽死について語っているのを聞くにつけ、ここで死についてオープンに考えてみようと思いました。自分でも『毎アル』最新作のテーマが「死」になるなんて想像もしていませんでしたよ。でも、よしと決めたら、扉がどんどん開いていき、わくわくしながら扉の向こうに行くと、今まで知らなかったことに驚いたり、素敵な人に出会ったりして、本当に素晴らしい旅路になったと思います。

 その旅の果てにたどり着いたのが「死にハッピーエンディングはあるのか」ということで、これが最新作のテーマです。

■「安楽死」が認められているスイスでは自分で死ぬ時期を選べる

――スイスに行かれたのは、どのような目的だったのでしょうか?

関口 今回「ハッピーエンディングな死」をテーマにするにあたり、スイスの医師にどうしても会ってお話が聞きたくて、初めてスイスまで行きました。今回撮影させていただいた医師のお父さんは脳梗塞を3度起こして絶望し、不自由になった身体で何度も自殺未遂を試みたそうです。そんなときにスイスの法律で安楽死ができるようになり、お父さんたっての希望で安楽死という選択をされ、家族みんなに感謝しながら安らかに逝かれたそうです。

 重い病気の患者さんが、苦しい治療をやめて緩和ケアだけの尊厳死を決めても、医療や薬の事情で、必ずしも緩和ケアに効果があるとは限らないということです。これは、西洋では盛んに議論されていることなんですね。ですから病気の状態によっては患者さんを心身ともに追い込むこともある。そんなときに死に方や、死ぬ時期を自分自身で決めてもいいのではないかということです。つまり、安楽死の発想は必ず緩和ケアの延長線上にあるということです。また、安楽死できる条件も厳しく決められています。当然ですよね。

――今回ついに最終章ですが、監督は『毎アル』の1と2を経て、思うことはありますか?

関口 いまだに各地で上映会が開かれ、講演もさせていただいて、もう見に来てくださるだけでもうれしいです。映画を見てくださった後に「目からウロコです」と言われると、よりうれしかったですし、私自身の最新作への励みにもなります。何回も言っていますが、介護している人たちはひとりで介護を背負わないで、オープンにして、つらいときは助けを求めてほしい。できないことを恥じたり悪いことだと思ったりしない心が大事です。それと、やはり私自身、介護者であるということでしょうか。介護の話を見て聞いてきたのではなく、実体験を落とし込んで映画化しているので、映画そのものがみなさんと同じ目線になっているのだと思います。ぜひこれからも『毎アル』シリーズを見続けていただきたいですね。

関口祐加(せきぐち・ゆか)
映画監督。1989年『戦場の女たち』で監督デビュー。認知症の母を被写体にしたドキュメンタリー映画『毎日がアルツハイマー』(2012年) 『毎日がアルツハイマー 2 関口監督、イギリスヘ行く編』(2014年)を監督し、現在は3作目『毎日がアルツハイマー ザ・ファイナル』を製作中(2018年公開予定)。

■『毎アル ザ・ファイナル』クラウドファンディングがスタート
『毎日がアルツハイマー ザ・ファイナル』のクラウドファンディングが2月1日よりスタート。「現在、編集・仕上げの大詰めを迎えています。特に今回は、海外での公開・配給も視野に入れ、オーストラリア人の編集者に入ってもらうこととなりました。完成にはまだまだ費用が必要なので、ご支援をどうぞよろしくお願いします」(関口監督)
※クラウドファンディングの詳細はこちら

■『毎日がアルツハイマー』『毎日がアルツハイマー2関口監督、イギリスへ行く』の再上映決定!
『毎アル ファイナル』特別映像の上映と関口監督によるトークイベントも開催。
公開スケジュール:東京・ポレポレ東中野2/4(土)~10(金)の1週間限定、大阪・シアターセブン2/25(土)〜3/3(金)の1週間限定
・『毎アル』シリーズ公式サイト