石原裕次郎、小林旭、渡哲也、60年代の映画黄金時代に活躍したスター俳優たちの多くは歌手活動を行なっていた。時は流れ、吉田栄作、織田裕二、江口洋介、反町隆史ら90年代のトレンディ俳優のブームを最後に、00年代に入ると俳優の歌手活動はすっかり廃れてしまった。 だが、2020年代を迎えたいま、菅田将暉、ディーンフジオカ、新田真剣佑といった若手俳優たちが彗星のように現れ、俳優の歌手活動路線をふたたびアップデートしはじめている。
この背景にはどのような事情があるのだろうか、音楽とジェンダー論に明るい著述家の湯山玲子さんに分析してもらった。(前編はコチラ)
――俳優さんの歌手活動に話を戻すと、やはり福山雅治さんの存在は避けて通れません。90年代に大ブレイクした福山さんの登場以降、玉木宏さん、藤木直人さん、藤重政孝さん、大浦龍宇一さんなど、俳優兼歌手として活動した方は少なくありませんが、同じように成功をしたとは言い難いです。
湯山玲子(以下、湯山) これはひとつの回答があって、ギターを持って歌うフォークシンガーって、ライブで鍛えているから、みんな幕間の語りがうまいんですよ。ご存じのように、さだまさしなんか、年末にNHKで見るラジオのような特番をやっているけれど、トークが達者です。福山もずっとラジオやっていたから、自分の言葉でしゃべれるわけ。そうしたフォークのDNAがあるかないかだと思います。泉谷しげるも、なぎら健壱も、語って弾いて語って弾いて、それが反戦歌だったり、社会運動につながっていったわけ。だからあのスタイルというのは、自分の言葉を持っている人じゃないと成立しないんだね。ちょっと顔のいい俳優が形だけマネしても難しいと思う。
——一方で、俳優の歌手活動にはリスクってないんでしょうか? たとえば、97年に自身のテレビドラマの主題歌でデビューした反町隆史さんなんかは、曲はヒットしたんですが、ちょっとネタっぽく消費された感じも否めません。
湯山 自己表現として歌手活動をするようになると、やっぱり歌詞の世界観をどう展開させるかは考えどころだよね。例えば映画に付随したようなものなら、映画の世界観で通せばいいと思うけど、そこから切り離して裸になったときに、何を歌うのかが大事。特に男性の歌詞は難しいと思うんですよ。女の子だったら、カフェでのときめきデートだったり小さな日常をモノローグで歌ったりできるけど、男を主体とした恋愛の歌詞ってちょっと思いつかない。
——それは根本的な問題ですね。
湯山 そうそう、これはJ-POP全体の問題でもあるけど、男のaikoがいないんだよね。
——共感できる男心を書ける男性アーティストが少ないと。
湯山 そうそう。だから、応援ソングばっかりでしょ。HIPHOPの歌う男らしさは共感するようなものじゃないし。「男心」と「男らしさ」がセットだった昔は、河島英五みたいなフォークや演歌の一部のシンガーがそれをやっていたと思うんだけど、いまは男の人がそういった男らしさの議案から、どんどん逃げようとしてるじゃないですか。そもそも「男らしさ」なんてものが廃れてきている中で、「男心」の輪郭がおぼつかなくなっているというか、語れる言葉がなくなってきている。
——菅田将暉さんの「まちがいさがし」の歌詞は、共感性が高いと言われていて、作詞作曲を手がけた米津玄師さんの詞はネット上でよく考察されていたりもします。
湯山「まちがいさがしの間違いの方に生まれてきたような気でいたけど」って、確かにパンチライン効いてますね。マッチョではなく、男の心の複雑さや弱さをセクシーに書ける人がもっと出てきてもいい。そして、そういう作詞の歌を俳優が演じるように歌ったら、最高に盛り上がりそう。
——そういう意味では、菅田将暉さんの歌手活動はかなり完成形に近いのかもしれませんね。今ある「男心」を精一杯表現できているというか。
湯山 女性から見られて「弱い」と思われることを本当に男性は無意識に遠ざけるところがあるでしょ。性的な部分で女性にイニシアチブを取られることも、サービスプレイ以外は大嫌い。舞台『娼年』を見にいったとき、演出はポツドールの三浦大輔だし、松坂桃李も体当たり演技だしで、もう客席は女性わんさかでスタンディングオベーションしていたんですよ。でも、私の隣に座っていた招待客らしいおっさんは、何かというと舌打ちしていた。女が男を買う、ストーリーが気にくわないんだろうね。あからさまに不快を示してて。
——同作の映画公開時も、濡れ場の評判を聞いて観にいったら「思ってたのと違う!」となった男性も少なくなかったとか。
湯山 そりゃ「桃李演じる主人公と違って、自分は絶対に女に買われない存在だ」ということに無意識に腹が立つんでしょうねぇ(笑)。だから、なかなか男のaikoが出てこれないんだよね。でも、弱いことは“悪”ではぜんぜんなくて、それを発信することで救われる人はいると思うんだよね。
——若い世代になると、もっと柔軟にものごとを考えるようになっているんじゃないかという気はします。
湯山 そうなんだよね。例えば、俳優が歌ってもいいし、踊ってもいいし、インスタやってもいい。SNSのバッシング環境は過酷で、恥をかいて傷つくことは怖いけど、その恐怖を織込み済みで、なおかつ表現しようとする強さ、いい意味の鈍感さが若い世代にはありますよね。炎上も自分への一票にできるような、てらいのなさは羨ましいですよ。
——「てらいがない」という印象は確かに、今歌手活動をする若い俳優たちに当てはまる気がします。
湯山 菅田くんにせよ、真剣佑にせよ、最近の若手俳優たちは、てらいもなく自然に歌っていると思うんだけど、それはやっぱり若い世代の価値観がいい方向に変化しているってことを示しているんだと思います。そういういいものを持ってる俳優たちに、作家が何を歌わせるか……アップデートされた「男心」を描ける作家が出てきたらいいなと思いますね。
湯山玲子(ゆやま・れいこ)
映画、音楽、食、ファッション、クラブ・カルチャーなど文化全般を横断しながら執筆を展開。『ごごナマ』(NHK)をはじめ、テレビ番組にコメンテーターとしても出演している。著書に『女ひとり寿司』(幻冬舎文庫)、『女装する女』(新潮新書)、『男をこじらせる前に』(角川文庫)など多数ある。