ジャニーズ不在! ドラマ評論家が選出、「2020年ブレークしそうな若手俳優」ベスト3

――『キャラクタードラマの誕生』(河出書房新社)『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ』(宝島新書)などの著書で知られるドラマ評論家・成馬零一氏が、2020年に活躍が期待される若手イケメン俳優を選出。EBiDANやEXILEなどから要注目の3名が選ばれた。

1位 須藤蓮(スターダストプロモーション)

 とにかく作品に恵まれていて、おいしい役が続いている須藤蓮。特にNHKに愛されているのだが、注目されるきっかけとなったのは、2018年にNHK京都放送局で作られた単発ドラマ『ワンダーウォール~京都発地域ドラマ~』(渡辺あや脚本)。ある大学の学生寮をめぐって大学と学生の間で起きた反対運動の内幕を描いた作品だが、須藤は争いが苦手な記録係の大学生・キューピーを演じた。何だか頼りない男の子だなぁ、と気になっていたら、今年は映画5本、ドラマ5本に出演。

 中でも注目すべきは朝ドラの『なつぞら』と大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』というNHKを代表する大作に出演していることだ。どれだけNHKに愛されてるんだ? 線の細いインテリ風の男を演じることが多く、この2作も出番こそ少なかったが、確実に存在感を示していた。

 一方、FODで先行配信されたドラマ『JOKER×FACE』(フジテレビ系)では、口は立派だが全く面白くない動画配信者のレンを演じた。見た目はイケメンなのにイマイチぱっとしない男で、須藤はこういう“小綺麗だけど中身がない男”を演じさせるとピカイチの若手と言えるだろう。突出した個性があるわけではないが、これだけ話題作にオファーされるということは、俳優として何かを持っているのだと思う。小さい役が続いているものの、2020年は一気にブレークするかもしれない。

2位 森崎ウィン(スターダストプロモーション)

 2位の森崎ウィンは、須藤と同じスターダストプロモーション所属。同事務所の男性アーティスト集団「EBiDAN」のダンス&ボーカルユニット「PRIZMAX」のメンバーとして活躍する傍ら、俳優としてはスティーブン・スピルバーグ監督の映画『レディ・プレイヤー1』でハリウッドデビューを果たしている。

 今年は、『淵に立つ』や『よこがお』といった映画で知られる深田晃司監督が手掛けたドラマ『本気のしるし』(メ~テレ)で主演の辻一路を演じ、この辻から漂う虚無感が実に素晴らしかった。おもちゃと花火を取り扱う会社に勤めている辻は、同僚の女性社員二人と付き合っている二股状態。仕事もできて、同僚からは「仕事抜きで今度飲みましょう」みたいなことを言われて愛想よくしているが、一人になると「めんどくさい」とつぶやく。物語冒頭にそんなシーンが描かれ、その姿を見た瞬間、辻の抱えている虚無を感じてゾワッとした。

 そんな辻が、葉山浮世(土村芳)という謎の女性と出会ったことで、おかしな方向へと転がっていく。主体性のない無自覚な態度ゆえに男を惑わし、次から次へとトラブルを呼び込む浮世のおかしさに序盤は目が行くが、ずっと見ていると、一見まともに見える辻の抱える虚無感や、浮世にイラっと来た瞬間に露呈する暴力性の方が、実は何倍もヤバいのではないかと、目が離せなくなる。

 監督の深田は、「辻も浮世も自分が何をやっているかをすべて理解して行動しているわけではない。そもそも人間は自分が何をやっているかわからないものだ」という演出方針で演技指導をしたとインタビューでこたえていた。わからない人間を演じるという難しいオーダーに見事に応えた結果、原作の同名漫画(小学館刊)とは異なる不気味で生々しい辻が出来上がったのだろう。『本気のしるし』以降、どんな役を演じるのか楽しみである。

 3位の小林直己はLDH所属の三代目J Soul Brothersのリーダー兼パフォーマーとして知られているが、俳優としては『HiGH&LOW』シリーズに登場するプロの殺し屋・九鬼源治役で注目された。卓越した身体能力で、日本刀を振り回すアクションはもちろんのこと、何度倒しても表情を変えずに襲いかかってくる姿はターミネーターのようで、シリーズの中でも屈指の人気キャラとなった。

 今年の11月にNetflixで配信されたリドリー・スコット製作総指揮の単発ドラマ『アースクエイクバード』ではミステリアスなカメラマン・禎司に大抜てきされた。80年代の東京を舞台にイギリス人女性の主人公が友人の死の真相を追う物語だが禎司は二人のイギリス人女性を惑わすという“魔性の男”で、外国人から見た“東京”をそのまま具現化したかのような存在感を見せている。

 近年のLDH勢は岩田剛典、町田啓太、鈴木伸之といった演技力に定評のある俳優も現れ、片寄涼太たちから下の世代には線の細いイケメン俳優も増えているのだが、そうなるとAKIRAやMATSU(松本利夫)が担っていた男臭さが恋しくなる。小林は今のLDHでは減りつつある男臭さを漂わせたパフォーマーで、立っているだけで絵になる男らしい俳優だ。

 来年1月にNetflixで配信される平岳大、窪塚洋介、本木雅弘が出演するBBC制作のドラマ『Giri/Haji』など、『アースクエイクバード』のほかにも海外制作のドラマに日本人が抜てきされる機会は増えている。パフォーマー出身でアクションもできて、“東洋人”を演じられる小林のような俳優が活躍する契機は、今後も増えていくのではないかと思う。
(成馬零一)

【テラスハウスレビュー】ビビの「ブラ紐モロ見せ」に衝撃! 凌へのお色気作戦に見る強靭メンタル

 見ず知らずの男女6人が、シェアハウスで共同生活する様子を記録したリアリティ番組『テラスハウス』。現在、Netflixにて「TOKYO 2019-2020」が配信中で、ファンは個性豊かな面々の恋愛模様を、一喜一憂しながら、固唾を呑んで見守っている。そんな『テラハ』を愛する“テラハウォッチャー”が、12月後半の配信分から、グッときた“名(珍)シーン”をピックアップし、思いのままにレビューする。

愛華、アンチを気にしてひよる(テラスハウス第26話)

 イタリア人漫画家のペッペの卒業前、メンバーで集合写真を撮ることに。そこで現役大学生(休学中)の愛華は、ペッペの初連載が掲載された「週刊スピリッツ」(小学館)の上に飲み物が入ったグラスを置き、スマホを立てかけてカメラスタンドに仕立て上げた。

 ペッペにとって思い入れある人生初の掲載誌をぞんざいに扱った愛華だが、「ヤバイ、ヤバイ、『スピリッツ』の上でやっちゃった(笑)」と笑うだけで、本気で悪いと思っている様子はない。プロバスケットボール選手の凌が、「最悪じゃない?」と指摘してもそのままだった。

 しかし愛華、ネットで叩かれていることを気にし始めたらしく、この後から急におとなしくなる。凌をめぐって花と繰り広げていたバトルもいつの間にか収束していて、とても寂しい。愛華にはアンチを気にしてひよったりせず、ヒールに徹して盛り上げてほしかった……。

付き人すぎる新メンバー(テラスハウス第26話)

 第26話では、一気に3人の新メンバーが登場した。ドイツとロシアのハーフでハリウッド女優を目指すビビ、アメリカと日本のハーフでスタンドアップコメディアン志望の快、両親ともにフィリピン人でリリー・フランキーの付き人をしているトパス。

 何となく闇を抱えていそうなトパスは、硬い表情で「夜分遅くすみません。初めまして。よろしくお願いいたします」と礼儀正しくあいさつ。「つまらないものですが」と手土産のお菓子まで用意しており、「このテラスハウスを通して、いろんなライフスタイルを持つ人と生活を共にして、いい刺激になればなと思います」と折り目正しく語った。ベッドを決めるときも「年功序列ですから……」と快に選択権を譲る。

 スタジオの山ちゃん(南海キャンディーズ・山里亮太)が、「何か大きな失敗をやらかしそう」と言った通り、礼儀正しさの裏に底知れぬ危なさを秘めていることを感じさせる登場だった。

 プロレスラーの花は、思いを寄せる凌が試合で足をケガしたため、昼食を作ることに。ただ、凌に「これからスーパーに行って作るね」と告げたのが午前11時半で、スーパーからの帰宅が午後1時15分。そこからさらに、豆腐ハンバーグという手の込んだものを作り始める。

 待ちきれなかったらしい凌は、足を引きずって「おなか空いたからオレも作っていい?」とキッチンに登場。ようやく出来上がって食べている最中にも、花は「凌さんが頑張ってるところを見て勇気もらってる人いっぱいいるだろうし、私もその1人だし。凌さんはバスケットボールを持ったスーパーヒーロー。だから、『情けない』とか言ってると、悲しくなっちゃう」と励ます。

 花は、凌がケガにより、テンションが落ちていることに気づかないようで、さらに「ペッペとか流佳くんには何も思わないことを凌さんには思う。モヤモヤする、凌さんに対して。このモヤモヤを解析したいから、手伝ってほしい」と好意を匂わせて追い込む。苦笑いで「わかりました」としか言えない凌……。

 花の“片思いで暴走しがちな女子中高生”感は、見ている側に自らの過去の黒歴史を思い出させる効果が絶大で、とにかく胸が痛くなるシーンだった。

ビビのお色気作戦(テラスハウス第27話)

 花の凌への思いを知りながら、女優志望のビビも凌にアプローチをしかけ始める。「すごい私の元カレに似てる! めっちゃ思い出すんだけど」と言ってみたり、ピンクのバスローブで朝食を食べたり、ニットをずらして肩とブラ紐をモロ見せして接近したりと、お色気作戦もいとわない。

 「肩、めっちゃセクシーになってるけど。大丈夫?」と凌が指摘しても、「ありがとう!」と言うだけで直さないところには、あざとさを超えた強靭なメンタルを感じる。

花、『人生パンク道場』片手に泣く(テラスハウス第27話)

 花は、楽しそうに話す凌とビビを見て、こらえきれず泣き出してしまう。気づいた快が優しく「どうしたの?」と声をかけるが、涙が止まらない。そのとき、花が手に持っていた本は作家・町田康氏の『人生パンク道場』(角川文庫)であった。

 公式サイトによれば、同書は老若男女のお悩みを町田氏がパンクに斬りまくるというお悩み解決エッセー。掲載されている悩みには、「顔がきれいだけれど、心がどす黒い女に、簡単に騙される男が許せない」という項目も。花は、そこが読みたくて『人生パンク道場』を買ったのだろうか……と思わずにはいられない。

ジャニーズの俳優情勢2019――木村拓哉の圧倒的「面白さ」、ジャニーズWEST・重岡への「期待」

――『キャラクタードラマの誕生』(河出書房新社)『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ』(宝島新書)などの著書で知られるドラマ評論家・成馬零一氏が、2019年のジャニーズ俳優事情を振り返る。

 今さら言うのもなんだが、ジャニーズ俳優としてはもちろんのこと日本の俳優で一番面白いのは木村拓哉ではないかと思う。それは彼が俳優・アイドルとして背負っているものが圧倒的に面白く、何を演じても、戦後最大のスター俳優であるキムタクの物語が、作品ににじみ出てしまうからだ。特にSMAP解散騒動以降に公開された3本の映画はどれも面白い。

 仲間を粛清した罪で“死ねない体”となってしまった剣士・万次を演じた三池崇史の映画『無限の住人』は、SMAP解散騒動でボロボロに傷つきながらもアイドルとして生きていかざるを得ない木村の孤独と苦悩が伝わってきた。映画自体は剣戟(けんげき)に特化しすぎてグダグダなところもあるが、画面の向こうに透けて見える彼の物語に圧倒された。

 嵐・二宮和也と共演した原田眞人監督映画『検察側の罪人』は、自分の正義を貫くために不正に手を染めてしまう検事を演じたが、その姿は、ヒットドラマ『HERO』(フジテレビ系)の主人公・久利生公平の“その後”を見ているようだった。『HERO』のチーフ演出だった鈴木雅之が監督した映画『マスカレード・ホテル』では、ホテルマンに扮して潜入捜査をする刑事を演じた。『HERO』の時は、ラフな服装で型破りな男だったキムタクが、客からの理不尽なクレームに丁寧語で対応しているのを見ていると、時代が変わったのだと感じた。

 3作に共通するのは、組織の中でがんじがらめになりながら自分の正義を貫こうとする姿と、時代に取り残された古い男という役どころだ。それは今年ドラマで演じた『グランメゾン東京』(TBS系)の主人公・尾花夏樹にも受け継がれている。

 パリで二つ星レストランを経営していた尾花は、ある事件をきっかけに逮捕され店が倒産。仲間と離れ離れになるが、3年後、日本で再スタートした尾花の元に、かつての仲間たちが集まるという物語で、どうしてもSMAP独立騒動の際にジャニーズ事務所の側に付き、結果的にSMAP解散の戦犯として扱われた木村拓哉の現状をなぞっているように思わされる。同時に、本作では時代遅れになった“キムタク”の姿をこれでもかと強調しており、まるで高倉健かクリント・イーストウッドかというヒーローになっている。つまり、時代の最先端を走っていた男が、時代に取り残された男を演じているのだが、それが「木村拓哉」という俳優にかつてない物語性と色気を与えている。

 かつての仲間が「新しい地図」として再スタートし、WEBを拠点にのして来ている一方で、旧メディアの“王様”として木村がドラマに出演し、中居正広はバラエティを主戦場にしている状況を見ていると、むしろ解散してバラバラになったことでSMAPの存在感が更に増したように感じる。ジャニーズに残った「木村拓哉」VS外に出た「新しい地図」という対立軸、何を考えているのかわからない「中居正広」という構図が際立つことで SMAPという物語が今も続いているように見えてくるのだ

むしろバラバラになったことでSMAPという神話はより強化されたように感じる。この物語性が機能している間は何を演じても面白いと言えるだろう。

 とは言え、ジャニーズ事務所で一番面白いのが木村というのは、やはり寂しいものがある。その意味で後進に期待したいのだが、どうにも新味がない。

 例えば風間俊介は倉本聰脚本の『やすらぎの刻~道~』(テレビ朝日系)で、生田斗真は『俺の話は長い』(日本テレビ系)で主演を務め、俳優としてV6 ・岡田准一、TOKIO・長瀬智也、山下智久に続く人気を獲得しているが、すでに彼らもベテランの域に達しつつあり、若々しさに欠ける。

 そんな中、あえて新鋭として期待できるのは『これは経費で落ちません!』(NHK)で誠実な営業マン・山田太陽を演じたジャニーズWESTの重岡大毅だが、彼自身、2016年の映画『溺れるナイフ』、18年のNetflixドラマ『宇宙を駆けるよだか』ですでに鮮烈な印象を残しており、新鋭とは言い難い。

 本来ならここで、これからのジャニーズを背負うニューカマーとしてKing&Princeの平野紫耀の名前を挙げることができれば、話の座りはいいのだろうが、今年の主演は映画『かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~』だけで、今作が彼の魅力を存分に表していたかというと評価は難しい。個人的には、平野はキラキラの王子様ではなく、かつてKinKi Kids・堂本剛が演じていたようなナイーブな青年の方がハマるのではないかと思う。

 今のジャニーズに必要なのはLDHにおける『HiGH&LOW』や『PRINCE OF LEGEND』のような自社の若手俳優を生かすための大型コンテンツではないだろうか。KinKi Kids・堂本光一主演のミュージカル『Endless SHOCK』シリーズがコアなジャニーズファンの間で、その役割を果たしているのかもしれないが、もっと開かれた場所、例えば深夜ドラマやNetflixで展開できれば、若手をめぐる状況は一気に覆るはずだ。

 平野たち若手が、LDHや2.5次元アイドルにどう立ち向かうかが、今後、問われるのではないかと思う。
(成馬零一)

『スカーレット』がほかの朝ドラと一線を画すワケ――父・常治と娘・喜美子の関係性の妙

――現在放送中のNHK朝ドラ『スカーレット』。視聴者の間で好評を博す本作について、『ぼくらが愛した「カーネーション」』(高文研)、『連続テレビ小説読本』(洋泉社)などの編著者である佐野華英氏は、「ほかの朝ドラと一線を画す」と述べる。今回、その真意をつづってもらった。

 

喜美子の父・常治、死す――二分した視聴者の反応

 滋賀県・信楽の地で女性陶芸家の草分け的存在となる川原喜美子(戸田恵梨香)の人生を描いた連続テレビ小説『スカーレット』(NHK)が好評だ。「ものづくり」というテーマを追求した丁寧な作劇で、ドラマ好きから厚い支持を受けている。毎話わずか15分のなかに息を呑むような心情描写と人間の「生」がみっしりと詰まっていて、泣かせにきたと思えば、不意に笑える台詞でサッとかわすユーモアに、思わずクスリとさせられる。説明台詞やあざとい扇情を極力排除し、見る者にいろいろと想像させてくれるという豊かな行間を置く“大人の演出”も見事だ。

 そんな本作品もいよいよ折り返し地点に達し、年内最後の週「愛いっぱいの器」(12月23〜28日放送)では、喜美子の父・常治(北村一輝)が不治の病で他界する。SNSでは多くのファンが常治の死を悲しむ一方、「死んで今までの蛮行がチャラになると思ったら大間違い」といった厳しい意見も見受けられた。つまりこの常治は、実に視聴者の反応を二分するキャラクターだった。

 亭主関白の頑固親父で飲んだくれ。山っ気が強いのに商才がなく、いつまでたっても金が身につかない。頭に血が上れば怒鳴る、手が出る、ちゃぶ台をひっくり返す。おまけに娘たちの進路を独断で決めてしまう。「ふわごこち」重視の傾向をたどる近年の朝ドラとは一線を画し、「The 昭和の親父」を豪速球でぶち込んできたな、といった印象だ(とは言っても、向田邦子やジェームス三木が描いたハードコアな「昭和の頑固親父」に比べれば、まだまだソフトな方なのだが……)。それだけに「家族への愛情は揺るがない、愛すべき不器用親父」と見るか、「娘を抑圧し束縛する狭量親父」と見るか、常治という人物をどの視点から眺めるかで、その反応は両極に分かれたのではないだろうか。

 『スカーレット』の登場人物は、とにかく造形がリアルで、脚本家の水橋文美江氏と、制作統括の内田ゆきプロデューサーはこの部分に相当力を入れたと思われる。そのリアルさは、人物が抱え持つ「欠け」の部分もあるがままに存在させているからこそ、生まれるものだろう。登場人物が、実際にその世界のなかで「生きている」と感じさせるゆえんもここにある。焼き物の凹凸や色合いが光の当て方によってさまざまな表情を見せるように、背中合わせで併存しながら反転を繰り返す人間の「美点」と「欠点」。どこをどちらととらえるかは見る側が決めることで、作り手側が見方を誘導したりしない。バッシングも覚悟のうえだろう。「精魂込めて作りました。感じるままに、自由に受け取ってもらえたら」という制作陣の矜持と視聴者への敬意が感じられる。まさしく常治というキャラクターは、そういった本作品の「真面目な作劇」の産物であり、視聴者の反応が両極化したのも自然な成り行きと言えるだろう。

 また、登場人物の「過去」と「行動原理」に矛盾がないのも、登場人物にリアルさを与えている。常治は、大正の時代に生まれ、早くに両親を亡くした過去を持つ。学校もろくに行けずに丁稚奉公で叩き上げ、独立して商売を興すもうまくいかず、愛する家族を残して徴兵された。2人の兄は戦死し、復員しても仕事に恵まれず、借金ばかりが膨らんだ。生まれ育った境遇に、戦争が追い打ちをかけた。登場人物それぞれに残る「戦争の爪痕」をきっちりと描くこのドラマの中でも、ことさら戦争に翻弄された人生を送ったのが常治だ。

 そんな過去を持つ常治は、「氏素性は争われぬ」の価値観が色濃い戦前派のいちモデルであり、一方の喜美子は「奮闘努力さえすれば望む道に進める」戦後派のいちモデルだ。この父娘の世代間ギャップと衝突、そして「それぞれの言い分」は、昭和30年代に限ったことではなく、現代に連綿と受け継がれる光景ではないか。

 広い世界を知らず、「金なし・学なし・教養なし」が生む負の連鎖から抜け出せない父と、外に出て人生の師と出会い世界が開けていく娘との対比が痛烈だった。信楽に戻り、絵付けの師匠・深野心仙(イッセー尾形)に心酔する喜美子に、常治が放った言葉が今も重石のようにずしりと響く。

「世間のどんだけの人間がやりたいことやってると思っとんねん。好きなこと追っかけて、それで食える人間がどんだけおる思とんねん」

 夢を叶えられないどころか、夢を持つことさえできない側の人間の悲哀が、喜美子と、そして視聴者にこれでもかと迫ってくる。だからこそ、その一握りの「好きなこと追っかけ」る人になれた喜美子は、これから命がけで陶芸と向き合っていかねばならないのだろう。

 北村一輝の魂の芝居が胸を貫く。『土曜スタジオパーク』(NHK)に出演した際、常治役への取り組みについて聞かれた彼は、「朝ドラは毎日見られるもの。だから嘘やごまかしはすぐバレてしまう」と、その覚悟を語った。スタッフの気概と役者の本気が呼応しあって作りあげた唯一無二の「ヒロインの父」が、そして戦後日本のどこかにいたであろう「市井のお父ちゃん」が、確かに『スカーレット』の世界で「生きていた」。常治が事切れる寸前のシーンの臨場感と壮絶さは、朝ドラの新たな地平が切り開かれた瞬間であった。

 ところで「朝ドラあるある」の一つとして、「太陽と月のキャラクター配置」というのがある。ヒロインを「太陽」に喩えるなら、映し鏡として相対する「月」にあたる人物が登場する。たいがい「月」は「太陽」の親友、ライバル、同性の家族のいずれかで、ときに見守り、ときにツッコミ役にまわり、ときにヒロインの発奮材料となる。また「月」は、ヒロインにとっての「もしかしたらこっちだったかもしれない」姿を体現する存在とも言え、つまりヒロインの物語の陰に隠れた裏面史でもあるのだ。

 『ちゅらさん』(2001年)ならえりぃ(国仲涼子)に対しての真理亜(菅野美穂)、『ちりとてちん』(07年)なら喜代美(貫地谷しほり)に対しての清海(佐藤めぐみ)だ。『カーネーション』(11年)では糸子(尾野真千子)と奈津(栗山千明)が、『あさが来た』(15年)ではあさ(波瑠)とはつ(宮崎あおい)がその関係性と言える。

 では『スカーレット』で、「太陽(喜美子)」に対しての「月」は誰か。ヒロインを見守り、ツッコみ、発奮剤になり、裏面史でもある……これ、常治ではないか? ヒロインの「月」が父親。これは、それだけ父娘の関係が密であるということだろうし、ほかの朝ドラとは違うこのドラマの重要なポイントとも言える。

 「太陽と月」の構図を考えたとき、喜美子に不器用な愛情を注ぎながらも、いつも娘の前に立ちはだかり、めんどくさい存在である常治の「勝手」が、実は事を動かしていることに気づかされる。

 常治が勝手に“拾ってきた”草間宗一郎(佐藤隆太)は、喜美子の最初の「師」となる。「大阪行きたない」と泣く喜美子への「夕焼け見てこい」という禅問答のような言いつけは、喜美子に「緋色の原風景」とお守りとなる焼き物の欠片をもたらした。常治の独断で決めてきた働き口、大阪の荒木荘では、2人目の師匠・大久保のぶ子(三林京子)や、その後の人生で重要なメンターとなる庵堂ちや子(水野美紀)と出会う。さらに、常治の都合で喜美子を信楽に呼び戻したことで、絵付けの仕事とその師匠・深野心仙に出会わせ、やがてのちの夫となる十代田八郎(松下洸平)、そして陶芸の道に引き合わせる。

 娘を手の内に留めようとする常治の思いとは裏腹に、無自覚のまま喜美子を外の世界に羽ばたかせるきっかけを与えるのが、なんとも皮肉であり、このドラマの面白さだ。「金なし・学なし・教養なし」の常治の不器用な親心が、結果として喜美子に「技術」や「学」や「教養」を授ける、「知らぬ間のギフト」に涙を禁じ得ない。亡くなった常治の戒名は「常光良道信士」。欠けたり満ちたりしながら常に喜美子を月の「光」で照らし「良い道」に導いていたのは、まぎれもなく常治だった。

 喜美子にとって大好きなお父ちゃんであり、同時に枷でもあった常治が逝った。増築費用の月賦と、めんどくさい重石と、大きなギフトを残して逝った。これからがまさに喜美子の人生の第2章というわけだ。あれだけ「腹の足し」になるものしか信じなかった常治が、家族から贈られた絵皿を前に今際の際、「(ものづくりとは)心を伝えるいうことやな」と発した。その言葉を抱いて、喜美子はこの後、どんな陶芸家になっていくのか。月を失い、これから彼女は自力で「赤い太陽のように」光らなければならない。年明けから始まる新たな物語を見守りたい。

佐野華英(さの・かえ)
ライター/編集者/タンブリング・ダイス代表。エンタメ全般。『ぼくらが愛した「カーネーション」』(高文研)、『連続テレビ小説読本』(洋泉社)など、朝ドラ関連の本も多く手がける。

『ザ・ノンフィクション』思い出がもたらす生きる力「父を殺した母へ あれからの日々~無理心中から17年目の旅~」

日曜昼のドキュメント『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)。12月22日の放送は「父を殺した母へ あれからの日々~無理心中から17年目の旅~」。同作は北米最大級のメディアコンクール「ニューヨーク・フェスティバル2019」のドキュメンタリー・人物・伝記部門で銅賞を受賞。今回の『ザ・ノンフィクション』では受賞作品を再編集した「特別編」が放送された。

あらすじ

 前田勝は台湾人の父と韓国人の母、ヒュンスクとの間に生まれる。両親の離婚の後、母が日本に出稼ぎに行ったことから、韓国で親戚の間をたらい回しにされ幼少期を過ごす。その後、父と台湾で暮らすが13歳の時に母の再婚に伴い呼びよせられる形で、日本で暮らし始める。しかし勝が高校を卒業した直後、浮気をしていた勝の継父をヒュンスクは撲殺し直後に投身自殺、無理心中を図る。勝は喪失感の中、大学を中退。仕事を転々とし、現在はアルバイトをしながら自分の母親の事件をテーマとした舞台に、勝が「自分役」として出演している。

自分を棄てた母親を憎んでいた勝だったが、韓国の親戚、台湾にいる実父に会い、母の思い出を話すことで前向きに生きる力を取り戻していく。

「里帰り」の効能とは

 勝の母、ヒュンスクはきっと「とんでもなくパワフル」な人だったのだろうと思う。勝の実父や、韓国の親戚たちが「男っぽい」「情熱的」と懐かしんだヒュンスクの性格は、近くにいたら疲れる人ともいえそうだ。心中事件を起こし子どもの心に傷を植え付けないわけがない。離婚という選択肢もある中で、自分の憎しみを優先させたヒュンスクはとても自分勝手な人だと思う。

 番組は、勝がヒュンスクから自分が愛されていた事実を知り、生きる力を取り戻していく、という構成になっていたものの、一視聴者の私の心には、ヒュンスクの勝手さは、引っかかり続けた。ヒュンスクが勝を韓国に置いて日本に出稼ぎしていたのは、勝の大学進学を願っていたから、とあったが、「勝が大学に進学したい」ではなく「勝を大学に進学させたい」というヒュンスクの希望だ。置き去りにされ、親戚間でたらい回しにされた勝の韓国の幼年時代は、いまだ暗い影を落としている。ヒュンスクの愛情は自分本位だったように思えてならない。

 また、ヒュンスクだけでなく、韓国のヒュンスクの親戚も台湾の父親にも違和感を覚えた。幼少期の勝をないがしろにした親戚は、会いに来た勝に「許してほしい」と酒席の一言だけで、過去を水に流そうとしていた。父親は、ヒュンスクが亡くなってからも勝に連絡することはなく、勝が会いに行った際には、「ヒュンスクが夢の中で自分に会いに来てくれた」という話を最後に通訳へ残して去った。通訳ナシでも会話ができる2人なのに、通訳をわざわざ介して伝えるのは、なぜだろうか。「ちょっといい話」を、もったいぶった素振りで披露し、それで話をまとめようとしているように見えた。

 しかし何より勝自身が、自分の縁者に会うことで生きていく力が得られたのならば、これでよかったのだとも思う。事件以降、勝は心中事件を舞台にし、勝が自分役で出演するといった大胆な公開を続ける一方で、韓国にも台湾にも「帰省」をしていなかった。自分の心の中でだけ“発酵”してきて、舞台で演じても演じても消化しきれないどころか、かえって膨らむどうしようもない母への思いを、里帰りをして、親類縁者の話を聞き、かつて過ごした町を見ることでガス抜きができ、それで前に進む力を得たのではないかと思えた。

 勝にとって、親類縁者に会うことだけでなく「かつて自分の暮らした町や家を見ること」自体が果たした役割も大きいように思う。勝は台湾でかつて暮らした家を探すとき、途中まではスマホの地図アプリを頼って半信半疑で町を歩いていたものの、一つ道を曲がって、見覚えのある道や果物屋が見えた途端、表情がぱっと明るくなった。幼少期を過ごした韓国の家も、外壁は変わっていたものの記憶がよみがえり、近くの海で遊んだことも次々に思い出していて、その表情も明るかった。「親族をたらい回しにされ、ないがしろにされた韓国時代」も事実だったのだろうが、それ以外の幸福な記憶もよみがえったことで、過去の色合いが変わったのだろう。

 私は引っ越しが好きだ。引っ越し魔といえるほど転々としているが、それで得られる財産というと、思い出のある町がたくさんできたことだ。旅行した町を再訪し「前にもこの道を通った、この電車に乗った」と思い出すことはうれしいもので、それがかつて住んでいた町となると格別だ。当時よく行っていたスーパーやファストフード店が相変わらずそこにあることだけでうれしくなり、気分が上がるのだ。勝ほど壮絶な過去がなくても、思い出は、思いがけないほどに自分を支えている。

【テラスハウスレビュー】流佳、テラハ卒業のウラで……どうしても気になった愛華の“あざと泣き”

 見ず知らずの男女6人が、シェアハウスで共同生活する様子を記録したリアリティ番組『テラスハウス』。現在、Netflixにて「TOKYO 2019-2020」が配信中で、ファンは個性豊かな面々の恋愛模様を、一喜一憂しながら、固唾を呑んで見守っている。そんな『テラハ』を愛する“テラハウォッチャー”が、12月前半の配信分から、グッときた“名(珍)シーン”をピックアップし、思いのままにレビューする。

春花、ペッペを振る(テラスハウス第25話)

 前回、テラスハウス卒業を控える女優・春花に告白したイタリア人漫画家・ペッペ。今回は春花がペッペを呼び出し、「すごいよく考えて、付き合おうとは思わなかった」と断るシーンからスタートした。ポケモンGO、箱根、品川プリンスのバーなどデートを重ね、キス寸前の雰囲気になるなど、距離を縮めていたかに見えた2人だったが、春花いわく「ペッペと私が2人で話したことはあんまりなかった。私はそこがすごい決め手っていうか、違うかなって思っちゃった」とのことだった。ペッペにだけかなり前から卒業を打ち明け、告白を促すような行動をしていたのは、ただただ自分の去り際を華やかにするためだったのか!? という疑念も生まれる。

 また春花が振ったタイミングも謎であった。週刊誌連載の初回直前の締め切り前日、帰宅したペッペが「明日、締め切り。緊張で夕食を半分食べられなかった」と話しながら、仕事道具を広げ始めたところを「ねえねえ、1回話したい」と中断させ、振ったのだった。春花と付き合っていたら、どんどんボロボロになっていくペッペが想像できた。振られてよかったと思うペッペファンもいるかもしれない。

流佳、ついに卒業(テラスハウス第25話)

 おバカさでテラハを賑わせたアルバイトの流佳も、ついに卒業を決めた。最終日、以前作って失笑された「味のないブロッコリーパスタ」のリベンジをするため、料理教室で習った「トロフィエパスタ」を麺から手作り。さらにNOVAで習い立ての英語で、「前に比べて、自立することができてきたと思います」「みんなのために手料理を振る舞う楽しさも知りました」「僕はこれからもベストを尽くします。これからも僕を見ていてください」などとスピーチしてみせた。

 これまで、流佳の頼りない姿や笑えないおバカ発言の数々を見てきたからか、親戚の子の卒園式を見ているようで、心から「成長できてよかったね」と言える気持ちに。最後に「この環境がなかったら、もっとヤバイ人間だったよ。ありがとう」と言っていた流佳。どんなにヤバくておバカでも素直であれば前進できると教えてくれた。

 春花と流佳の卒業する朝。大学生(休学中)の愛華は涙と鼻水をふいたティッシュを、これ見よがしに(?)テーブルの上に積み上げて号泣。「涙は昨日に置いてきた」と気丈に振る舞うプロレスラーの花へ、しなだれかかるようにして泣くのも、女子ならわかる絶妙な“あざとさ”ではないだろうか。プロバスケットボール選手の凌は、そんな愛華を慰めるように、座っている愛華の膝を手でポンポンしてみせる。

 これでイケると感じたのか、後日、 愛華は花に「私も凌くんのことが気になってる」とついに宣戦布告した。凌が、チームメイトに「俺はアドバイスしてくれるような大人の女性が好きだけど、それは2人(花と愛華)にはできないと思う。友達かな」と、“どっちもナシ”宣言をしていたことは2人とも知らない。今後の展開が気になる。

ペッペ、すてきなおばちゃんに出会う(テラスハウス第25話)

 ペッペ初連載の初回が掲載される「週刊スピリッツ」(小学館)発売日。ペッペは、ヤマザキYショップ代田サンカツ店に並ぶスピリッツを大量買い。すると、レジのかわいらしいおばちゃんが、「みんな同じことが書いてあってもいいの?」と優しく声を掛ける。ペッペが描いたページを見せて説明すると「えっ描いたの? あとで私もゆっくり見るわ。ファンになるからね。一生懸命みんなに宣伝するわね」と温かく激励してくれ、ペッペの目から涙がこぼれた。

 ペッペも連載で忙しくなるため、卒業を宣言。春花への失恋で傷ついた心を癒やす、このおばちゃんのような温かい女性と巡り会ってほしい。

『ザ・ノンフィクション』同い年の女性と結婚したくない中年男性の“無自覚”『結婚したい男と女 ~婚活クルーズ それから~』

 日曜昼のドキュメント『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)。12月15日の放送は「結婚したい男と女 ~婚活クルーズ それから~」。結婚相談所「ノッツェ」が開催する婚活クルーズは、『ザ・ノンフィクション』の人気シリーズの一つだ。今回は、中年男性二人の奮闘や、前回参加者のその後を追う。

前回の「婚活クルーズ」記事はこちら

あらすじ

 今回の主人公は男性二人。一人は秋本智仁、43歳。 不動産屋のアルバイトをしつつお笑い芸人として活動を続けている。かつて彼女と同棲していたものの、自身の収入面の不安から結婚には踏み切れなかった。周囲も結婚しだし、寂しさから婚活クルーズへの参加を決意する。

 二人目の主人公は村瀬裕二、51歳。 地元の工場に30年勤務する、手堅い「いい人」だが、40歳をすぎて真剣に婚活を始めたところ、交際相手の親に反対されるといった壁が立ちふさがった。婚活クルーズへの参加は4回目となるベテランで、本人も「背水の陣」と語る。二人とも紆余曲折の末、告白した女性から「お友達から」ながらもカップル成立となる。

男40歳「そろそろ結婚しようかな、28歳の女の子と」

 主人公・智仁、裕二のほかに、今回はもうひとりの男性が登場した。過去に同クルーズへ参加した舞台役者・賢茂エイジ、45歳だ 。この三人の結婚観には共通点がある。そしてそれは、都市部で暮らす男性にとってスタンダードなものにも思える。

 その結婚観とは、かなり底意地の悪い感じで言ってしまうと、「30代は気楽に自由に生きたいし、結婚なんて考えられなかったけど、40歳になったし、人目も気になるし寂しくなってきたから、そろそろ結婚したい。28歳の女の子と」となる。というのも、三人とも、自分と同い年の女性は眼中にないらしく、告白相手の年齢は自身よりかなり年下だった(裕二のお相手女性の年齢は表示されていなかったが、見た限りは裕二よりかなり若いように見えた)。

 断っておくが、この三人の男性たちは悪人ではなく感じはいい。番組を見る限り、参加していた中高年の女性参加者に対して差別的な反応をしていたわけでは決してない。なのだが、「自分と同世代の女性」は選択肢としてそもそもすっぽり抜けている、視界にハナから入っていない感じがする。

 この婚活クルーズは女性側の費用は1万円 ほどだが、男性側の費用は16.8万円から。 「高い金払ったんだから若い子に行かせてよ」という気持ちは重々理解できる。だが、若い女性とて、中高年男性と付き合うならば、自分の若さを差し出す分の見返りがほしいところだろう。

 今回ナレーションを務めたのは、女優の剛力彩芽。その元カレ・前澤友作氏は以前、紗栄子とも付き合っていたが、前澤氏は資産家であるため「金=女性の若さと美しさ」という等価交換が成り立っているように思う。しかし、金があるわけでもない中高年男性は、自分の何が等価交換できると思っているのだろう。まさか、「大人の人間性で勝負」とでも思っているのだろうか。

 繰り返しになるが、今回の主人公二人もエイジも皆悪い人ではない。そんな「普通の男性」とて「同い年の女性はそもそも視界に入らない」という無自覚な高望みがある。おじさんである自分を棚に上げていて、さらに、そのことに気がついていない。これは非婚社会が進むなと思った。

 過去に同クルーズに参加し、カップルが成立した人々も今回登場した。このクルーズで披露宴を挙げたのだ。そこには前回のクルーズで、通常は男性による告白タイム中に、あえて女性側から「初日からいろいろな話をして将来のことも話した。これからも歩んでいけたら」「結婚を前提にお付き合いさせていただきたい」と力強く告白し、見事カップル成就となったサヨの姿もあった。

 しかしカップルが成立しても、その後成婚に至らないカップルも当然いる。年下の女性とのカップルが成立したエイジは、その後、舞い上がってしまったのだろうか。彼女から、LINEで「一回り年下に浮かれてないで、芸磨くなり、働くなり、営業するなりしてください。一生懸命さがいいなと思ったのに」 と手厳しい指摘を受け、そのまま振られる形で終わってしまっていた。

 エイジや、そして智仁のクルーズ参加理由は「年も年だし、寂しいし……」といった、自分の都合によるものだ。サヨの「これからも歩んでいけたら」という、この人と二人でやっていこうという意志を見ていてあまり感じなかった。

 一方、裕二は結婚したいという強い意志を感じる。しかし、クルーズ中に疲れたのか酔っ払ったのか、椅子にぐったりと腰掛けている姿は“終電で寝過ごし高尾駅まで行ってしまったサラリーマン”といった趣で、旅をしながら一日中一緒に過ごすという体力勝負のクルーズは、51歳にはそもそも合っていない気がした。普通のお見合いではなく、クルーズを選ぶというセンスがズレているように思う。

 裕二のズレはそれだけでない。告白時に男性は女性にプレゼントを用意するが、ほかの人がぬいぐるみなど手頃なものを選んでいる中、裕二は6万円のダイヤのネックレスを持参し、「それは重すぎる」とスタッフに止められていた。裕二のような「いい人なんだけど……」タイプは、こうした“ズレ”を醸していることが多い。やる気はあるのに、方向がズレているのだ。智仁も裕二もカップル成立となったとはいえ、先行きは大丈夫だろうかと他人事ながら心配だ。

『ザ・ノンフィクション』同い年の女性と結婚したくない中年男性の“無自覚”『結婚したい男と女 ~婚活クルーズ それから~』

 日曜昼のドキュメント『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)。12月15日の放送は「結婚したい男と女 ~婚活クルーズ それから~」。結婚相談所「ノッツェ」が開催する婚活クルーズは、『ザ・ノンフィクション』の人気シリーズの一つだ。今回は、中年男性二人の奮闘や、前回参加者のその後を追う。

前回の「婚活クルーズ」記事はこちら

あらすじ

 今回の主人公は男性二人。一人は秋本智仁、43歳。 不動産屋のアルバイトをしつつお笑い芸人として活動を続けている。かつて彼女と同棲していたものの、自身の収入面の不安から結婚には踏み切れなかった。周囲も結婚しだし、寂しさから婚活クルーズへの参加を決意する。

 二人目の主人公は村瀬裕二、51歳。 地元の工場に30年勤務する、手堅い「いい人」だが、40歳をすぎて真剣に婚活を始めたところ、交際相手の親に反対されるといった壁が立ちふさがった。婚活クルーズへの参加は4回目となるベテランで、本人も「背水の陣」と語る。二人とも紆余曲折の末、告白した女性から「お友達から」ながらもカップル成立となる。

男40歳「そろそろ結婚しようかな、28歳の女の子と」

 主人公・智仁、裕二のほかに、今回はもうひとりの男性が登場した。過去に同クルーズへ参加した舞台役者・賢茂エイジ、45歳だ 。この三人の結婚観には共通点がある。そしてそれは、都市部で暮らす男性にとってスタンダードなものにも思える。

 その結婚観とは、かなり底意地の悪い感じで言ってしまうと、「30代は気楽に自由に生きたいし、結婚なんて考えられなかったけど、40歳になったし、人目も気になるし寂しくなってきたから、そろそろ結婚したい。28歳の女の子と」となる。というのも、三人とも、自分と同い年の女性は眼中にないらしく、告白相手の年齢は自身よりかなり年下だった(裕二のお相手女性の年齢は表示されていなかったが、見た限りは裕二よりかなり若いように見えた)。

 断っておくが、この三人の男性たちは悪人ではなく感じはいい。番組を見る限り、参加していた中高年の女性参加者に対して差別的な反応をしていたわけでは決してない。なのだが、「自分と同世代の女性」は選択肢としてそもそもすっぽり抜けている、視界にハナから入っていない感じがする。

 この婚活クルーズは女性側の費用は1万円 ほどだが、男性側の費用は16.8万円から。 「高い金払ったんだから若い子に行かせてよ」という気持ちは重々理解できる。だが、若い女性とて、中高年男性と付き合うならば、自分の若さを差し出す分の見返りがほしいところだろう。

 今回ナレーションを務めたのは、女優の剛力彩芽。その元カレ・前澤友作氏は以前、紗栄子とも付き合っていたが、前澤氏は資産家であるため「金=女性の若さと美しさ」という等価交換が成り立っているように思う。しかし、金があるわけでもない中高年男性は、自分の何が等価交換できると思っているのだろう。まさか、「大人の人間性で勝負」とでも思っているのだろうか。

 繰り返しになるが、今回の主人公二人もエイジも皆悪い人ではない。そんな「普通の男性」とて「同い年の女性はそもそも視界に入らない」という無自覚な高望みがある。おじさんである自分を棚に上げていて、さらに、そのことに気がついていない。これは非婚社会が進むなと思った。

 過去に同クルーズに参加し、カップルが成立した人々も今回登場した。このクルーズで披露宴を挙げたのだ。そこには前回のクルーズで、通常は男性による告白タイム中に、あえて女性側から「初日からいろいろな話をして将来のことも話した。これからも歩んでいけたら」「結婚を前提にお付き合いさせていただきたい」と力強く告白し、見事カップル成就となったサヨの姿もあった。

 しかしカップルが成立しても、その後成婚に至らないカップルも当然いる。年下の女性とのカップルが成立したエイジは、その後、舞い上がってしまったのだろうか。彼女から、LINEで「一回り年下に浮かれてないで、芸磨くなり、働くなり、営業するなりしてください。一生懸命さがいいなと思ったのに」 と手厳しい指摘を受け、そのまま振られる形で終わってしまっていた。

 エイジや、そして智仁のクルーズ参加理由は「年も年だし、寂しいし……」といった、自分の都合によるものだ。サヨの「これからも歩んでいけたら」という、この人と二人でやっていこうという意志を見ていてあまり感じなかった。

 一方、裕二は結婚したいという強い意志を感じる。しかし、クルーズ中に疲れたのか酔っ払ったのか、椅子にぐったりと腰掛けている姿は“終電で寝過ごし高尾駅まで行ってしまったサラリーマン”といった趣で、旅をしながら一日中一緒に過ごすという体力勝負のクルーズは、51歳にはそもそも合っていない気がした。普通のお見合いではなく、クルーズを選ぶというセンスがズレているように思う。

 裕二のズレはそれだけでない。告白時に男性は女性にプレゼントを用意するが、ほかの人がぬいぐるみなど手頃なものを選んでいる中、裕二は6万円のダイヤのネックレスを持参し、「それは重すぎる」とスタッフに止められていた。裕二のような「いい人なんだけど……」タイプは、こうした“ズレ”を醸していることが多い。やる気はあるのに、方向がズレているのだ。智仁も裕二もカップル成立となったとはいえ、先行きは大丈夫だろうかと他人事ながら心配だ。

『ザ・ノンフィクション』87歳認知症の母を介護する95歳の父「ぼけますから、よろしくお願いします。 ~特別編~」

日曜昼のドキュメント『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)。12月8日の放送は「ぼけますから、よろしくお願いします。 ~特別編~」。認知症になった87歳の母と初めての家事をこなしながら介護を続ける95歳の父を、映像ディレクターの娘が撮影し続けた1200日の記録。同作は2018年に映画公開されており、文化庁映画賞「文化記録映画部門」大賞を受賞。ザ・ノンフィクションでは再編集版が放送された。

あらすじ

 東京で映像ディレクターの仕事をしている信友直子は広島・呉市への帰省のたびに両親の様子を撮影していた。母、文子の様子がおかしいと感じ始めたのは7年ほど前。アルツハイマー型の認知症と診断された文子は、当初、家にリンゴがあるのにまた買ってきてしまう程度で、バス停まで直子を一人見送ることもできたが、年々、その症状は重くなっていく。

 かつて直子が乳がんになったときは、70代後半で上京し、涙に暮れる直子をユーモアを交え励まし、家事をこなしていた文子だが、その姿は見る影もなく、洗っていない洗濯物の上で寝転がったり、小さい子どものような癇癪を起こし、またそんな自分への失望で「死にたい」と口にするようにもなる。だが、老老介護をする父・良則、ヘルパー・道本さんのもと、自宅で生活を続けている。タイトルの「ぼけますからよろしくお願いします。」はすでに認知症の進む文子が、17年の正月に直子へかけた言葉だ。

ヘルパー道本さんの偉大さ――介護における「家族」と「他人」の役割

 認知症の文子と、認知には問題がないものの腰が曲がり、近所のスーパーへの買い物も休み休みでないとできない良則。そんな二人だが、ヘルパーに介護へ来てもらうことに抵抗する。

直子「介護保険はかけよるんじゃけん、要るときはしてもらえばいいんよ」
良則「男の美学があるんじゃ」
文子「それで私が忙しゅうなる」

 この世代の人たちには、「人様に迷惑をかけたくない」という気持ちが特に強いのだろう。しかし、そんなところへ来たヘルパーが道本さんだったことが、落合家の幸福だったように思える。映画版『ぼけますから、よろしくお願いします』は文化庁映画賞受賞作だが、助演女優賞を贈るとしたら道本さんだ。

 信友家に入った道本さんは洗濯にこだわりのある文子を立てて、自分ひとりでやった方がよほど早いであろうに、助手に徹する。終わった後は「お母さんのやり方見せてもろうたわ、勉強になるわ 」とうなずき、横の文子は得意げだった。道本さん、かなりのやり手だ。

 信友家にとっては、道本さんの家事手伝いや介護支援という“実務”は大いに助かったと思うが、何より、道本さんという「他人」が家に来ること自体が、信友家の空気を和らげていたと思う。道本さんが来るときに母は髪を梳いていた。他人が来ることでちゃんとしなくては、という張り合いができたのだろう。

 さらに番組後半、文子が癇癪を起こしたことがあったが、来訪した道本さんは文子の背中をよしよしとさすり、文子は落ち着きを取り戻していた。その後、仕事を終え帰る道本さんに、文子は「また来てね」と、良則は「大ごとじゃねえ、あんたも」と声を掛ける 。これは最大級の「ありがとう」に思えた。あの場で、家族三人だけだったら重たい空気が続いただろうが、道本さんという他人がいたおかげで風穴が開いたように見えた。

 家族だからできることもあれば、逆に他人だからできることもある。介護職従事者は家族にとっていい意味で「他人」であり、かつ認知症など難しい症状を持った人の扱いに長けた「プロ」なのだと感じた。こんな偉大な人たちなのだから、彼女・彼らが「働いていて良かった」と思えるような社会であってほしい。

初めて見る老人が「両親」――『ぼけますから、よろしくお願いします。』が持つ役割

 都市部に核家族で暮らしていると、祖父母との関係が希薄なまま大人になる人も多いだろう。そうなると、初めて目の当たりにする老人が「自分の年老いた両親」になる。もしきょうだいがいれば老いた両親に関する悩みを分かち合う相手が増えただろうに、一人というのはなかなかヘビーだ。(介護方針をめぐり双方の配偶者まで加わっていがみ合い、押し付け合い、冷戦状態になるきょうだいもいるだろうから、一概にいたほうがいいとは決して言えないが)。

 そういう人にとって、『ぼけますから、よろしくお願いします。』の映像が伝えてくれることは計り知れない。淡々と認知症の現実を伝えており、明るい話ではないのだが、現実を知ること自体が救いになるのだと感じた。

『ザ・ノンフィクション』30歳で老後が始まる切なさ「女32歳 きょうからプロレスラー ~父への告白~」

日曜昼のドキュメント『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)。12月1日の放送は「女32歳 きょうからプロレスラー ~父への告白~」。運動音痴の女性が32歳から女子プロレスラーを目指す理由を追う。

あらすじ

 長谷川美子32歳。高校卒業後、地下アイドルとして12年活動してきたが思うような結果が得られず、このままでは終われないという思いから女子プロレスラーの練習生に転身する。しかし持久走は学年ビリ、スキップもできないという運動音痴。さらに、芸能活動に反対していた父親に転身を言い出せずにいた。このままではよくないという友人の助言もあり、半年ぶりに実家に帰り父親に伝える。父親は個人的には反対と告げるが、美子のデビュー戦である後楽園ホールの試合を見に来て、美子のグッズを買ったファンの女性に頭を下げる。

父親への報告は「逃げ出したい」とまで言うが……

 美子は父親に対し負い目がある。芸能活動も反対されていたし、結婚しないのか聞いてくると美子は話していた。レスラーになったことを報告するため帰省した際、家が近づくにつれ「逃げ出したい気持ちが……」とまで話す美子の緊張ぶりに、てっきり父親はものすごく頭が固く、前時代的な「女は家庭に」思考が強い、話がまったく通じない人なのかと思っていた。

 しかし、父親本人は至って常識的に美子を心配しているだけで、拍子抜けしてしまった。子ども相手に「親」を振りかざして、頭ごなしに「俺は反対だ」と言うのではなく、レスラーを目指す周りの人は20代から体を鍛えているだろうから、今からやって間に合うものなのか? と美子に問いかけるなど、きちんと話そうとする人に見えた。

 一方の美子はボロボロ泣いてしまっており、その後は会話らしい会話になっていなかった。番組の出演シーンの3分の1は泣いていたんじゃないかと思うくらい美子は涙もろい。女子プロレスの先輩からの、別に怒鳴りつけているわけでもない、至極当然な指摘に対してもすぐボロボロ泣いてしまっていた。父親の「結婚どうするの?」発言も、何も女の幸せは結婚だといった押しつけでなく、美子のこういった性格を心配し、支えてくれるパートナーが必要と思っての発言なのかもしれない。

 美子と父親のやりとりで、二人の感じ方の違いが印象的だった部分がある。

美子「もう(芸能活動が)12年たってるけど、結局何もなかったなと思って」
父親「何もなかった? あれだけ一生懸命打ち込んで……」
美子「大きなものを伝えられたことがなかったと。テレビに出るとか」

 父親は美子の芸能活動にも反対だったようだが、「あれだけ一生懸命打ち込んで……」という発言から、娘の努力をきちんと見ていたことがわかる。それまでしてきた自分の頑張りを評価していないのは、むしろ美子自身だろう。

 美子は地下アイドル時代にセンターポジションを務めていたのだ。もっと自分のやってきたことに自信を持てばいいのにとも思うが、一方で、これは自信が折れるだろうな、と思えるようなエピソードも番組内で放送されていた。

 女子プロレスの練習生で自由に使えるお金がほぼない美子は、Twitterを娯楽にしているといい、しかしアイドル時代のお客さんから届くコメントが減っているという。心が弱っている時ならば、自分がこれまで積み上げてきたものはなんだったのだろう、と思いかねないだろう。

 30歳は、実際の社会では「若い」と言える年齢だ。しかしアイドルにとっての30歳はもう「老境」なのだろう。これまで積み重ねてきた知見より、新しく出てくる人たちの容貌や若さがモノを言う世界は、精神的にこたえるものがあると思う。人生の前半にピークがやってくる職業を選ぶということは、老後が長い人生になるということだ。30歳で老後がスタートするのはきつい。ただ、美子が次に選んだプロレスラーという仕事も「アスリート」という若さと体力がモノを言う職種であり、そのチョイスでいいのかとは思う。

『ザ・ノンフィクション』は、「夢を追う中高年たち」をテーマにしたものがよく放送されている。「いい年なんだからもう落ち着け」は「いい年なんだからいろいろ諦めろ」と同義であり、さらにそこには「自分も諦めたのだから、お前も諦めて仲間に入れ」という同調圧力すら滲んでいる。それに対して「そんなの冗談じゃない」「このままじゃ嫌だ」「まだまだ私はやってやる」とあがく姿こそが「若さ」なのだと思う。美子をはじめ、諦めの悪い中高年の「若さ」を私は応援したい。

 12月8日のザ・ノンフィクションは『ぼけますから、よろしくお願いします。 ~特別編~』。認知症になった87歳の母と初めての家事をこなしながら介護を続ける95歳の父を、映像ディレクターの娘が撮影し続けた1200日の記録。同作は2018年に映画公開されており、文化庁映画賞「文化記録映画部門」大賞を受賞。ザ・ノンフィクションでは再編集版を放送する。