『ザ・ノンフィクション』日本最高齢ストリッパーとファンたちの日々「私が踊り続けるわけ ~53歳のストリッパー物語~」

日曜昼のドキュメント『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)。2月7日は「私が踊り続けるわけ ~53歳のストリッパー物語~」というテーマで放送された。

あらすじ

 星愛美、53歳。年間を通して全国のストリップ劇場を巡業しているストリッパーの中では国内最高齢と言われている。愛美のファンは「星組」と自分たちを呼び、全国の巡業に遠征するだけでなく、愛美の誕生日や周年イベントでは音源を用意したり、劇場の従業員にまで差し入れを用意するなど、「親衛隊」とも呼べるような熱の入れようだ。愛美の踊りについて星組の面々は「何も言えない」「何かある、ただきれいとか踊りが上手とかでない」「なぜか涙が出てくる」と話す。なお、星組には男性だけでなく、亡くなった夫が愛美の大ファンだった人など、女性もいる。

 愛美は穏やかで、初舞台がうまくいかず楽屋で泣いている後輩ストリッパーを静かに抱きしめ慰めるなど、面倒見もよい。後輩のストリッパー・浜崎るりは、愛美を「後光がさしている」「魂こもりすぎいてエネルギーがすごい」と語る。そんな今の姿からは想像ができないが、かつての愛美は相当な非行少女で、暴走族に入り、15歳までに2度の中絶をし、なんとか入れた高校も3カ月で退学してしまう。

 その後、愛美は歌手になれるといわれ15歳で芸能事務所に入るが、最初に来た仕事はセミヌードのグラビアだった。19歳で結婚するも、妊娠したおなかを夫に蹴られ死産し、21歳で離婚。AV女優として働いたあと、23歳でストリッパーとしてデビューする。その後も信じた人に騙され続け、借金を背負い、水商売、風俗など職を転々とする波乱の人生を送る。

 愛美は、当時を「社会に対し落ちこぼれたというか、きっちりとした生きていく土台ができていない。だからどんどん世の中に背を向けるようになってくるのは自分でもわかった」と話す。その後、37歳で子宮がんが発覚。7年の闘病後、45歳でストリッパーとして再出発する。子宮がんの手術をした影響で自力で排尿ができず、カテーテルや消毒液を持参して巡業を行っている。

 星組の一人、長崎在住のスーさんは3年前に大腸がんの大手術をしたが、その後全身への転移が発覚。抗がん剤を打ちながら愛美の巡業に足を運び、薬の影響で荒れた手で愛美のステージに大きな手拍子を送る。スーさんの誕生日に、愛美はスーさんにプレゼントとメッセージカードを送る。カードにはなんと書いてあったのか、という番組スタッフの問いかけにスーさんは「教えない」と笑って目尻を拭っていた。

 以前、浅草ロック座でストリップを見たことがある。見たことがない人は退廃的な雰囲気を想像してしまうかもしれないが、実際は全く異なり「仏像や、古刹を見る時」の感覚に近かった。

 歴史ある荘厳な寺を訪ねると自然と湧いてしまう「ありがたい」という言葉にとても近い。「エロい」という感覚には、驚くほどならない。ロック座の化粧室には踊り子さんへのメッセージノートが置かれていて、それは「ありがたい」状態になっているファンの熱い言葉で占められていた。

 番組内でストリップ劇場は女性客も今は多い、と伝えられていたが、私がロック座を訪ねた時も1~2割は女性客だったし、女性客が不快な思いをするような言動をするような男性客もいなかった。ロック座を訪ねたのは取材で、2020年3月だったのだが、当時は新型コロナウイルスによるトイレットペーパーの買い占めが社会問題になっていた。

 そのため、観客の中年男性は「差し入れに」と、当時は入手が困難であったトイレットペーパー12ロールパックを渡していたが、そんな姿は愛美だけでなく劇場スタッフにも差し入れを持参する星組と重なった。

 もちろん、ストリップファン全員がそうではないだろうが、しかし私が浅草ロック座で見たファンや、今回番組に出ていた星組の男性たちは、「ハァハァ」でも「ニヤニヤ」でもなく、それどころかとても紳士的であろうと心がけているのがよくわかったし、星組の愛美に対する思いは健気なほどだった。

 初めて行ったロック座は、ストリップそのものも感動したが、この客層もカルチャーショックに近い感動があった。今までの人生において「行ってみて印象が大きく変わった場所」断トツ1位だ。何かちょっと日常に活を入れたい、という人には迷わずお勧めしたい。ちょっとした海外旅行より発見と驚きがあると思う。

 愛美はとてもアイドルとしての力が強いと思った。まず表現力の高さだ。愛美の踊りについて星組の複数の人が「何も言えない」「言葉にならない」と言葉にできない思いを話していたが、これは愛美の表現力が凄まじく高いことの表れだと思う。

 言葉にすると安っぽくなる、言葉にするとこぼれ落ちてしまうようなものを受け取れるから、ファンは何度も劇場に足を運ぶのだろう。よくオタクは「尊い」と言い、この言葉は少々安売りされている気もしなくもないが、愛美の踊りはまさに「尊い」のだろう。

 そしてさらに、愛美の踊りの表現力だけでなく、愛美という人自体にも、強いアイドル性を感じる。後輩の「後光がさしてる」という言葉は大げさではないのは番組を見ていて伝わった。

 愛美は、かつて荒んだ生活をしていたのが信じられないくらい、どこか神々しい。愛美は荒れていた過去について「きっちりとした生きていく土台ができていない、どんどん世の中に背を向けているのは自分でもわかった」と話していたが、今の愛美は「きっちり生きている」どころか、星組の人たちに生きる喜びを与え、「救って」さえいる。

 どう生きればこんな人になれるのだろうと人を立ち止まらせ、魅了するところにも、アイドルとしての強さを感じる。

 そして愛美のこんな「超人的」なところも、アイドルとしてとても強いと思う。愛美はファンに自分の愛飲するコーヒーを宅配便で送ったり、ファンの誕生日にはお祝いのメッセージカードを贈ったりなど、細やかなファンサービスをしているのだが、それで調子に乗って「痛ファン」になるような厄介なファンは、愛美の周囲には出てこないように思える。

 星組の面々は愛美のことを尊敬していて、愛美にいい意味で一線を引いているのがよくわかる。愛美の迷惑になりそうなことを星組はしないだろうと信じられるのだ。「ファンの民度が高い(良識的なファンの存在感が強い)」というのはそのアイドルの力を測る大きな指標になると思う。

 アイドルという存在は、時にファンから過剰な思いまで背負わされる。さまざまなオタク業界で「痛いファン」「変なファン」「空気の読めないファン」に悩まされているアイドルや表現者は少なくないと思う。なので、「自然とファンをひざまずかせる(そして、ひざまずくファンはきっとこの上ない幸せを感じている)」愛美の能力はアイドルとしてかなりのものだと思った。しかし、これは愛美の53年で培った人生が醸し出すものであり、一朝一夕でマネできるものではないだろうとも思った。

 次週の『ザ・ノンフィクション』は、「ボクらの丁稚物語 ~泣き虫同期 4年の記録~ 前編」。このご時世で、入社すればケータイも恋愛も、酒もタバコも禁止。さらに男女の区別なく、みんな丸刈り、という丁稚制度を貫く家具製作会社「秋山木工」。同社に入った若者たちの記録。

『ザ・ノンフィクション』プロ野球に固執する野球少年の両親「母さん、もう一度 闘うよ ~高校中退…息子たちの再起~

日曜昼のドキュメント『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)。1月24日は「母さん、もう一度 闘うよ ~高校中退…息子たちの再起~」というテーマで放送された。

あらすじ 

 2014年に創設された神奈川県大和市にある社会人硬式野球クラブチーム、BBCスカイホークス。甲子園常連の強豪校に入学したものの、いじめやトラブルなどで中退した人や、一度別の道に就職したものの野球への夢を諦めきれない人たちの受け皿となっている。

 BBCスカイホークスでは野球の練習だけでなく、大学進学を目指す人のため、勉強も教えるなど多様な支援を続けている。創設から7年でBBCスカイホークスは独立リーグや社会人クラブ、大学野球の強豪校に人材を輩出しているが、セ・パ12球団のいわゆる「プロ野球選手」となった人はまだいない。番組では、甲子園強豪校を中退し、BBCスカイホークスで未来を模索する2人の青年を取り上げる。

 1人目は恭平、18歳。真面目な性格で実直に野球にも取り組む。両親の決めた他県の野球強豪校に進学するも、高校で待っていたのは部内の陰湿ないじめだった。野球の練習すらさせてもらえない日々が続き、恭平は高校を退学する。

 恭平の父親は「いじめられても野球ができる環境なら(恭平は)野球を辞めなかったと思うんです」と、当時の悔しい思いを話す。恭平はプロ野球選手を目指し2019年に巨人の入団試験を受けたが不合格。スカイホークスで野球を続けながらプロへの道を模索し続ける。恭平と中学生の頃から交際を続けており、すでに働いている彼女の瑠奈も、「(恭平が)野球でお金を稼げなくても自分が支える覚悟はできている」と口にする。

 2人目は、群馬からスカイホークスに入団した成覇(じょうは)、17歳。甲子園常連の強豪校に進学し、2年生でレギュラーになりながらも、校内でトラブルを起こし、高校中退を余儀なくされた。成覇の両親は「こうなった原因は親の責任」「育て方間違えたのかな」と悔やむも「突き放すのは簡単。好きなことを失えばもっともっとドロップアウトしてしまう」と息子を支える。成覇の目標は、通信制で高卒資格を取り大学で野球を続けながらスポーツトレーナーを目指すこと。しかし勉強は大の苦手で、国語の長文問題を前に頭を抱える状況だ。

 それぞれの目標に向かって練習を続ける二人だったが、2020年の新型コロナウイルスにより激変した社会は二人の進路にも影響を及ぼす。緊急事態宣言によりチーム練習ができなくなるだけでなく、プロ野球においてはスカウト活動やプロテストも例年より規模が縮小されてしまう。大学への門も、例年各大学の硬式野球部が行うセレクション(野球推薦の実技試験)は軒並み中止となってしまった。

 恭平は自主練習を続けるものの調子が上がらず、結局、オリックス・バッファローズは書類落ち、巨人については監督からも望みは薄いといわれ、テストを受けず断念する。その後恭平は独立リーグ「神奈川フューチャードリームズ」へ入団。一方の成覇も無事大学進学を決める。

 番組では、二人のほかにも甲子園強豪校に進学し、その後自衛隊に入隊するものの、野球への夢を諦めきれずに、BBCスカイホークスに入った先輩が出てくる。入団後に修練を続けたが、プロには行けず22歳で就職を選び「卒業」していく姿が放送された。

 成覇は大学で野球を続けるのだろうが、将来の夢はスポーツトレーナーとのことで、「プロ野球選手」になるのは無理だという見通しがあるのだろう。この二人の進路を、プロ野球を目指す恭平はどう見ていたのだろう。

 プロ野球において、1チームに所属できる選手は各球団70名まで(1、2軍の合計)。そのほかが「育成選手」枠になり、育成選手の人数は各球団でまちまちだが、10人にも満たない球団もある。30代で活躍を続けるスター選手も多く、簡単には空かない。すさまじく狭い門だ。

 プロ野球選手の「進路」を追った毎年恒例の番組がある。年末に放送される『プロ野球戦力外通告』(TBS系)だ。プロ野球選手の夢を叶えたものの、ケガや、芽が出なかったなどの事情で球団をクビになった選手たちが、再起の試験=トライアウトにかける様子を追ったものだ。そこには、20代前半の若い選手も出てくる。

 トライアウトによって「再びプロから声がかかった」ケースは稀で、「声がかからなかった」「独立リーグに入ることになった」「海外の球団に行くことになった」というケースが多い。「独立リーグ」「海外」へ進路がつながった人も、いずれは「プロへ」と、決まったように同じ抱負を語る。

 『ザ・ノンフィクション』では、独立リーグの年収は100万と伝えられ、確かにこれでは食べていけない。だからとプロを目指しても、なれるかなどわからないし、プロになったところで、その後どうなるかわからないのだ。

 恭平自身が「プロ野球しかない!」というモードになってしまうのは、若いせいもありしょうがないかもしれない。しかし、恭平の両親も「プロ野球だ!」と一心になっていることが気がかりだ。進路は何も一つではない、と示すのも大人の役割ではないだろうか。

 野球に限らずスポーツをしてきた人を、“脳筋”といった言葉で小バカにする人もいる。しかし、スポーツでもなんでも一定の成果を上げた人というのは、「成果の出る努力の仕方」を知っている人であり、そのやり方は、ほかにも応用が利くのではないだろうか。

 恭平親子が「野球をもっと続けたい(続けてほしい)」ならいいが、「野球しかない」と思っているのなら、それは違うように思う。恭平はまだ18歳。その年なら、なれるものはまだいくらでもある。恭平がプロ野球にこだわり続けるのはもったいないことに思えた。

「やんちゃ」で言い換えて見落としてるもの

 また、番組を見ていて気になったのは、成覇がスカイホークスでチームメイトの携帯電話をレンジにかけ壊した、というエピソードだ。成覇にしてみたら、おそらく「絶対ウケる」と思っての行為だろうが、全く笑えないどころか不愉快だった。番組はこのエピソードを「やんちゃ」という言葉を使って伝えていたが、こういった被害者のいるまったく笑えない行動を「やんちゃ」という言葉で片づける風潮もよくない。

 こういった男子の行動を笑う人というのは、その行動が面白いからではなく、その男子の権力に忖度していたり、「わかってないやつ」扱いされることを恐れていたり、もしくは「そういう悪いことを笑える自分は世間のルールにとらわれてなくてカッコイイ」と自分に酔った振る舞いとして笑っているだけのように思う。

『ザ・ノンフィクション』うつ病を抱える夫、支える妻の生活「シフォンケーキを売るふたり ~リヤカーを引く夫と妻の10年~」

 日曜昼のドキュメント『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)。1月17日は「シフォンケーキを売るふたり ~リヤカーを引く夫と妻の10年~」というテーマで放送された。

あらすじ

 久保田哲49歳。東京、青梅市でシフォンケーキを販売している。焼き芋屋のようなリヤカーにシフォンケーキを積み、日々気ままなルートで地元を行商して回っているが、その姿を見て駆けつけてくる常連もいる人気ぶりだ。通常のシフォンケーキより焼き時間が短く、しっとりした口当たりが特徴で、リヤカーでの販売以外にも工房やイベントでの直販、通信販売を行っている。

 哲はもともとIT企業で働いており、30代ながら赤字事業を次々と黒字化させ、会社ではナンバーツーとも呼ばれたやり手だった。妻のかおりは会社員時代の部下になる。しかし結婚から4年後、2009年に哲は職場の人間関係の悩みからうつ病を発症し退職する。哲は当時の自分を「マイナスの思考の連鎖が勝手にぐるぐるぐるぐる回って」「こんな状態で生きている価値があるのか」と振り返り、「自分の足で生きている」実感がある仕事に憧れを抱く。

 そのような中で、哲はかおりの母親が焼いたシフォンケーキに出会い「これだというより、これでいいや」と、シフォンケーキ屋を始める。リヤカーによる行商も、元手がかからないことや、車の運転は哲の精神的に負担になること、そして外を歩くことでのうつの改善を狙ったものだという。

 うつ病を患う哲の決断を、否定するわけにもいかないかおりは会社勤めを続けながら見守るだけだったが、行商を始めて哲が元気になっていくのを見て、かおりも仕事を辞め、2人でシフォンケーキ店を切り盛りするように。

 しかし、新型コロナウイルスの影響が直撃。地域、および店の活性化のため、哲は地元の映画上映イベントを立ち上げ、その準備に奔走する。この状況について哲は、「マイナスの状態に手を打ち続けていかないといけない感じが、(会社で)うつになったころと似ている」と語り、かおりも気が気でない。

 2020年11月、池袋で開催されるイベントでの直販において、かおりは先に現地でシフォンケーキを販売し、哲は自宅のある青梅から池袋までリヤカーで丸1日かけてたどり着く。シフォンケーキは無事完売した。

 この放送は賛否両論が出そうな回だったが、考えさせられるという点では良い放送だったと思う。賛否の内容とは、「いい夫婦だった」という肯定的なものと「かおりがかわいそう」といったものだ。

 哲は池袋で行われるイベントの際、自宅の青梅から池袋までを、車や電車で行けばいいのに、普段と同じようにリヤカーを引いていくなど、融通が利かない。そのしわ寄せは、池袋の寒空の下で、到着時間を過ぎても姿を見せない哲を待つかおりにきている。リヤカーを引き、ようやく池袋に着いた哲は、「ビールが飲みたい」と呑気なことを話していて、私がかおりならこれはたまらないなと思った。哲の生活は、こうしたさまざまなかおりの献身の下で成り立っている。

 一方、番組で見る哲の表情は、穏やかな笑顔なのだが顔のどこかが硬くこわばっているのがわかる。表情一つ見ても、哲は精神的に今も際どいバランスの上にいて、その中でやれることをして、生計を立てているのだろうと思う。そしてかおりが誰よりもそれを理解していることも伝わるのだ。

 番組の途中で、哲との生活について、スタッフがかおりに「幸せか」「楽しいか」「満足しているか」と、さまざまな言葉で問いかけていた。それらの言葉には、どれもうなずくことのなかったかおりは、哲との生活を「面白い」と回答していた。哲に比べ、表情が随分疲れていたかおりが、日々を「面白がれる」のはいいことだと思うが、個人的にはかおりに少しでも「ラク」になってほしい。

 今回の番組を見ていて心配に思ったのが、哲のように精神的に苦しい状況下にある人が、彼の言動に影響され「自分も……」と、起業など大胆な手段を考えてしまわないだろうか、ということだ。

 まず、哲には献身的に支えてくれるかおりがいる。それに哲自身も、もともとやり手のビジネスマンで、切れ者だ。

 今、コンビニやスーパーで買えるたいていのスイーツは、ほぼおいしいと言っていい。そのような中で、高くもないが安くもない値段で、「またあの店のシフォンケーキが食べたい」と思わせるのは、相当な力量が必要で、哲の努力によるものだろう。“多産多死”の業界である飲食で、シフォンケーキ一本で10年商売を続ける、というのは凄まじいことだ。リヤカーのキャラ立ちといい、『ザ・ノンフィクション』のスタッフに取り上げよう、と思わせるところまでも含め、“力量”だと思う。

 精神的に厳しい状況にある人ほど、「起死回生の画期的な大改革」にすがりたくなるのではないか。その気持ちはわかる。だが、そのような状況下では「決断」も良いものになりにくいのではないだろうか。

 哲の場合は「かなり例外的な幸運ケース」にも思える。かといって、つらい状況がただ過ぎるのを待つというのも、地獄なのだろう。

 過去の『ザ・ノンフィクション』で、大阪の精神科診療所「アウルクリニックの活動を取り上げた回で、精神科医の片上は患者に対し「(心の問題を)ゼロにせんでもいいかもしれん。ゼロにせんでも(心と体の状態が)エエわを目指す」と話していた。つらい時ほど劇的解決ではなく、ちょっとだけラクになる「ま、エエわ」の思考が大切に思える。

 次週のザ・ノンフィクションは『母さん、もう一度 闘うよ ~高校中退…息子たちの再起~』。甲子園、プロを目指すような野球エリートの少年たちが、いじめやトラブルにより高校を中退した「その後」の話。

『ザ・ノンフィクション』うつ病を抱える夫、支える妻の生活「シフォンケーキを売るふたり ~リヤカーを引く夫と妻の10年~」

 日曜昼のドキュメント『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)。1月17日は「シフォンケーキを売るふたり ~リヤカーを引く夫と妻の10年~」というテーマで放送された。

あらすじ

 久保田哲49歳。東京、青梅市でシフォンケーキを販売している。焼き芋屋のようなリヤカーにシフォンケーキを積み、日々気ままなルートで地元を行商して回っているが、その姿を見て駆けつけてくる常連もいる人気ぶりだ。通常のシフォンケーキより焼き時間が短く、しっとりした口当たりが特徴で、リヤカーでの販売以外にも工房やイベントでの直販、通信販売を行っている。

 哲はもともとIT企業で働いており、30代ながら赤字事業を次々と黒字化させ、会社ではナンバーツーとも呼ばれたやり手だった。妻のかおりは会社員時代の部下になる。しかし結婚から4年後、2009年に哲は職場の人間関係の悩みからうつ病を発症し退職する。哲は当時の自分を「マイナスの思考の連鎖が勝手にぐるぐるぐるぐる回って」「こんな状態で生きている価値があるのか」と振り返り、「自分の足で生きている」実感がある仕事に憧れを抱く。

 そのような中で、哲はかおりの母親が焼いたシフォンケーキに出会い「これだというより、これでいいや」と、シフォンケーキ屋を始める。リヤカーによる行商も、元手がかからないことや、車の運転は哲の精神的に負担になること、そして外を歩くことでのうつの改善を狙ったものだという。

 うつ病を患う哲の決断を、否定するわけにもいかないかおりは会社勤めを続けながら見守るだけだったが、行商を始めて哲が元気になっていくのを見て、かおりも仕事を辞め、2人でシフォンケーキ店を切り盛りするように。

 しかし、新型コロナウイルスの影響が直撃。地域、および店の活性化のため、哲は地元の映画上映イベントを立ち上げ、その準備に奔走する。この状況について哲は、「マイナスの状態に手を打ち続けていかないといけない感じが、(会社で)うつになったころと似ている」と語り、かおりも気が気でない。

 2020年11月、池袋で開催されるイベントでの直販において、かおりは先に現地でシフォンケーキを販売し、哲は自宅のある青梅から池袋までリヤカーで丸1日かけてたどり着く。シフォンケーキは無事完売した。

 この放送は賛否両論が出そうな回だったが、考えさせられるという点では良い放送だったと思う。賛否の内容とは、「いい夫婦だった」という肯定的なものと「かおりがかわいそう」といったものだ。

 哲は池袋で行われるイベントの際、自宅の青梅から池袋までを、車や電車で行けばいいのに、普段と同じようにリヤカーを引いていくなど、融通が利かない。そのしわ寄せは、池袋の寒空の下で、到着時間を過ぎても姿を見せない哲を待つかおりにきている。リヤカーを引き、ようやく池袋に着いた哲は、「ビールが飲みたい」と呑気なことを話していて、私がかおりならこれはたまらないなと思った。哲の生活は、こうしたさまざまなかおりの献身の下で成り立っている。

 一方、番組で見る哲の表情は、穏やかな笑顔なのだが顔のどこかが硬くこわばっているのがわかる。表情一つ見ても、哲は精神的に今も際どいバランスの上にいて、その中でやれることをして、生計を立てているのだろうと思う。そしてかおりが誰よりもそれを理解していることも伝わるのだ。

 番組の途中で、哲との生活について、スタッフがかおりに「幸せか」「楽しいか」「満足しているか」と、さまざまな言葉で問いかけていた。それらの言葉には、どれもうなずくことのなかったかおりは、哲との生活を「面白い」と回答していた。哲に比べ、表情が随分疲れていたかおりが、日々を「面白がれる」のはいいことだと思うが、個人的にはかおりに少しでも「ラク」になってほしい。

 今回の番組を見ていて心配に思ったのが、哲のように精神的に苦しい状況下にある人が、彼の言動に影響され「自分も……」と、起業など大胆な手段を考えてしまわないだろうか、ということだ。

 まず、哲には献身的に支えてくれるかおりがいる。それに哲自身も、もともとやり手のビジネスマンで、切れ者だ。

 今、コンビニやスーパーで買えるたいていのスイーツは、ほぼおいしいと言っていい。そのような中で、高くもないが安くもない値段で、「またあの店のシフォンケーキが食べたい」と思わせるのは、相当な力量が必要で、哲の努力によるものだろう。“多産多死”の業界である飲食で、シフォンケーキ一本で10年商売を続ける、というのは凄まじいことだ。リヤカーのキャラ立ちといい、『ザ・ノンフィクション』のスタッフに取り上げよう、と思わせるところまでも含め、“力量”だと思う。

 精神的に厳しい状況にある人ほど、「起死回生の画期的な大改革」にすがりたくなるのではないか。その気持ちはわかる。だが、そのような状況下では「決断」も良いものになりにくいのではないだろうか。

 哲の場合は「かなり例外的な幸運ケース」にも思える。かといって、つらい状況がただ過ぎるのを待つというのも、地獄なのだろう。

 過去の『ザ・ノンフィクション』で、大阪の精神科診療所「アウルクリニックの活動を取り上げた回で、精神科医の片上は患者に対し「(心の問題を)ゼロにせんでもいいかもしれん。ゼロにせんでも(心と体の状態が)エエわを目指す」と話していた。つらい時ほど劇的解決ではなく、ちょっとだけラクになる「ま、エエわ」の思考が大切に思える。

 次週のザ・ノンフィクションは『母さん、もう一度 闘うよ ~高校中退…息子たちの再起~』。甲子園、プロを目指すような野球エリートの少年たちが、いじめやトラブルにより高校を中退した「その後」の話。

『ザ・ノンフィクション』2020年ベスト・セレクションレビュー「お父さんと13人の子ども 」「シングルマザーの大家族 ~パパが遺してくれたもの~」ほか

 フジテレビで土曜午後2時から放送されている人気ドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』。サイゾーウーマンでは、本番組のレビュー記事を掲載している。毎週さまざまな人物や事象が取り上げられる本番組だが、2020年の放送回で世間の感心を最も集めた内容は何だったのか? サイゾーウーマンのレビュー記事から閲覧数の多かった記事ベスト10から、番組のハイライトを振り返る。

1位:「お父さんと13人の子ども 前編~7男6女 闘う大家族~」7月12日放送

 大阪の7男6女の大家族・澤井家。一家は、梅田のビル地下街で居酒屋を経営している。父の淳一郎は居酒屋を経営しながら家事、育児にも協力的で、休日は子どもたちの空手の応援にも駆けつける。しかし3年前、淳一郎が跡継ぎにと決めていた長男が何も言わず突然家を出ていってしまう。また、進学校に通い成績優秀の三男も、家の事情に鑑みて大学進学を諦めるが、居酒屋で仕事をすることに迷いを感じている。それを察した淳一郎は三男を叱責、100万円を渡し「旅させたほうがええんちゃうか」と突き放す。そんな中、新型コロナウイルスの影響が、澤井家の店も直撃してしまう。

 

2位:「シングルマザーの大家族 ~パパが遺してくれたもの~」6月28日放送

 千葉で暮らす續(つづき)家は4男6女合わせて10人の子どものいる大家族。3年前の7月、ダンプ運転手で一家を支えていた父・浩一が、突然くも膜下出血で42歳の若さで亡くなり、母・夕美子は一人で子どもたちを育てていくことになった。しかし次男(23)は定職につかず、三女(17)は高校を中退し、引きこもりになってしまう。節約をしても食費だけで10万を超えてしまうため、卵1パックを買うのもためらう生活が続き、1月には電気代を支払えず電気を止められてしまう。

 新型コロナによる休校も重なり、家庭内の雰囲気はすさんでいくか、散らかった家を長女夫婦の協力を得て片付けたところ、浩一が残した家族のビデオテープが見つかる。そこには家族全員の映像が残されていた。

3位:「最終学歴は中卒だけど… ~ボクの働く場所~」8月30日放送

 原宿のベンチャー企業「ハッシャダイ」は17~24歳の若者に向けた半年間のインターンプログラム「ヤンキーインターン」事業を4年前から始め、350人以上の若者を社会に送り出している。今回の放送では、そこに集った4人の中卒男性にフォーカスを当てる。

 古河は母子家庭で育ち、生活保護を受けているため、働いて得たアルバイト代を差し引かれる生活を送ってきた。親孝行がしたいと話すも、ギラギラと上昇志向の強いほかの参加者とのギャップに苦しみ、リタイアしたいと申し出る。一度は説得されるが、結局インターンから離脱してしまう。安藤はビジネス書や自己啓発書を愛読しており、要約ノートまで作る勉強家だ。病弱な母と多忙な父親という家庭に育ち、妹の世話も安藤がしていたためレベルの低い高校へ進学することになり、結局中退してしまったという。インターンの電話営業では優秀な成績を残すも、「次」を目指し2カ月でヤンキーインターンから離脱する。

 次期に参加した浅見は明るく、輪の中心にいるムードメーカーだ。国立大の付属小学校に通うほど優秀だったが、両親の離婚で生活が荒れ高校を中退する。しかしもともとの頭の良さを生かし電話営業の成績も優秀だ。しかし、その浅見の倍以上の営業成績をたたき出すのが伊藤。遠慮のなさで、ぐいぐい営業先に食い込んでいく伊藤だが、貧しい母子家庭で育ち、母親が精神病を患い小学3年生から不登校だったという。

 浅見は伊藤をライバル視しており、一方伊藤は大胆な営業スタイルとは裏腹に、皆の輪に入りたいものの食事も一人で取るなど人付き合いに苦手意識がある。ハッシャダイの講師で、ヤンキーインターンの一期生でもある前田は気を利かせ二人を焼肉に誘う。

4〜10位

4位「家族のカタチ ~ふたりのお母さんがいる家~」5月30日放送

5位「花子と先生の18年 ~人生を変えた犬~ 前編」5月10日放送

6位「銀座の夜は いま・・・菜々江ママの天国と地獄」5月4日放送

7位「19歳の漂流 ~妊娠…出産…家族を求めて~」

8位「父と息子とはぐれた心 ~引きこもった僕の1年~」7月26日放送

9位「東京でビッグになりたい ~所持金10万円の上京ホームレス~」9月13日放送

10位「真夜中の洋菓子店 ~ケーキよりも大切なもの~」7月5日放送

 

韓流に負けた蜷川実花『Followers』、『今際の国のアリス』の可能性ーーNetflix国内ドラマの課題とは?

――『キャラクタードラマの誕生』(河出書房新社)『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ』(宝島新書)などの著書で知られるドラマ評論家・成馬零一氏が、2020年のNetflix配信の国内ドラマを振り返る。

 2020年の2月から、Netflixの視聴画面で「国内視聴ランキング」トップ10が表示されるようになった。上位を独占しているのは『鬼滅の刃』『呪術廻戦』といった「週刊少年ジャンプ」(集英社)の人気漫画をアニメ化したものと、『愛の不時着』や『梨泰院クラス』といった韓流ドラマだ。

 特に『愛の不時着』は大ヒットし、Netflixの日本法人が12月14日に発表した「2020年、日本で最も話題になった作品TOP10」の1位となった。ポン・ジュノの映画『パラサイト』がアメリカのアカデミー賞の作品賞を受賞し、BTS(防弾少年団)を筆頭とするK-POPが世界中を席巻している今、韓流はブームを超えて日本でも完全に定着したと言える。『愛の不時着』のヒットもそんな流れの中に起こった出来事だが、人気の着火点がテレビでなくNetflixだったことに、時代の変化を感じる。

 国内でサービスをスタートした2015年当初は、映画監督のデビッド・フィンチャーと俳優のケビン・スペイシーが製作総指揮を務めた『ハウス・オブ・カード 野望の階段』のような豪華な海外ドラマが観られることが、最大の売りとなっていたNetflixだが、国内加入者数が500万人を超えた現在は、話題のアニメと韓流ドラマをいち早く見るためのプラットフォームとして定着しつつある。

 これは国内の需要に適応した結果だが、 ショックだったのは、かつて月9で放送していたドラマのような、女性の憧れを喚起する映像が、韓流ドラマで展開されていたこと。SFやファンタジーの超大作なら日本のドラマと別モノと割り切れるが、韓流ドラマの展開は、かつて日本が得意としたトレンディドラマ的なものである。今はその役割を韓流ドラマが担っているのだろう。

蜷川実花『Followers』と韓流ドラマ『スタートアップ:夢の扉』

 写真家で映画監督として知られる蜷川実花が今年監督したNetflixドラマ『Followers』と比べると、その変化がよくわかる。

 女性カメラマン・奈良リミ(中谷美紀)と女優の卵の百田なつめ(池田イライザ)を中心に、東京で生きる女たちを描いた本作は、蜷川が監督した岡崎京子原作の映画『ヘルタースケルター』のように、おしゃれでポップな東京の風俗が散りばめられているが、80~90年代のサブカルチャーで“おしゃれ感”が止まっているため、豪華だが古臭く見える。

 SNS等、現在の風俗も一応描かれているのだが、東京で夢を叶えようと悪戦苦闘する若者を見せるパートにあまり魅力がない。これは作り手の責任というよりは、今の東京に「憧れ」を喚起する力がないからだろう。

 Netflixで配信されている韓流ドラマと比較すると、それがよくわかる。たとえば『スタートアップ:夢の扉』は、現在の韓国に生きる若者たちの物語を描いているが、やっていることは80~90年代のトレンディドラマと同じように見える。だからこそ、 韓国という国の持つ勢いを思い知らされ、このジャンルで勝負するのは無理だと感じた。

 では他ジャンルならどうか? 『呪怨:呪いの家』は、ホラー映画『呪怨』の前日譚を、三宅唱監督がドラマ化したものだ。80年代末から90年代にかけて起こった猟奇殺人の背後に、ある家で起こった惨劇があるのではないか? という描き方は、海外ドラマ『ウォッチメン』(HBO)にも通じるアプローチで、ホラー映画を歴史的な事件とつなげるというアプローチ自体は悪くなかった。

 しかし、残虐な描写がひたすら連鎖するという展開は単調で、良くも悪くも「投げっぱなし」の終わり方なので、散りばめられた伏線が回収されるミステリー的な面白さを期待していると、肩透かしを食らう。昨年に作られた園子温監督の単発ドラマ『愛なき森で叫べ』と同じく、エロ・グロ・ナンセンスの見世物小屋でしかない。

 『Followers』も『呪怨:呪いの家』も、昨年話題になったアダルトビデオ業界の黎明期を描いた『全裸監督』のヒットを受けて作られていることは間違いないだろう。

 どの作品も80〜90年代に対するノスタルジーが強く感じられると同時に、過激な暴力やエロがウリとなっているが、即物的な刺激だけで終わっているというのが正直な印象だ。

『今際の国のアリス』に期待

 『Followers』『呪怨:呪いの家』に比べると12月10日に配信された『今際の国のアリス』には可能性を感じる。

 本作は、無人の街となった東京に閉じ込められた青年たちが謎の「げぇむ」に巻き込まれる物語。00年代に国内ではやったデス・ゲームもので、漫画やアニメでは手垢のついた題材だが、『GANTZ』や『キングダム』等のアクション大作映画を撮った佐藤信介が監督なだけに、東京を舞台にしたアクションドラマとしてクオリティの高い作品となっている。

 実写ドラマでありながら国内ランキングの上位にも食い込んでおり、シーズン2の制作も決定した。この映像が作れるのなら、アニメの専売特許となっている『鬼滅の刃』や『呪術廻戦』といったジャンプ漫画を、実写ドラマで見られるのではないかと期待してしまう。

 すでにNetflixでは、90年代に大ヒットした「ジャンプ」のバトル漫画『幽☆遊☆白書』(冨樫義博)の実写ドラマ化が発表されている。制作は『今際の国のアリス』と同じROBOTであるため、クオリティは問題ないだろう。

 今後、Netflixの国内ドラマに可能性があるとすれば、ジャンプ系バトル漫画の映像化かもしれない。 
(成馬零一)

ドラマ評論家が選出「2021年ブレークしそうな若手俳優」ベスト3! 松下洸平、岡田建史ランクイン

――『キャラクタードラマの誕生』(河出書房新社)『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ』(宝島新書)などの著書で知られるドラマ評論家・成馬零一氏が、2021年にブレークが期待される若手イケメン俳優を選出。名バイプレイヤーから大ブレーク間近の顔まで、3名が選ばれた。

1位 仲野太賀

 仲野太賀は、13歳の頃から「太賀」という名前で芸能活動をしていた芸歴の長い俳優。ドラマ『愛という名のもとに』(フジテレビ系)でチョロ役を演じた中野英雄の息子としても知られている。

 映画では、深田晃司監督の『淵に立つ』(2016)等の作品で高く評価され、テレビドラマでは宮藤官九郎脚本『ゆとりですがなにか』(日本テレビ系)で、ゆとり世代のモンスター社員・山岸を演じ、注目された。すでに名バイプレイヤーとしては盤石の地位を確立していたが、19年に「仲野太賀」に改名したことで、俳優として新たなステージに突入。20年には『あのコの夢を見たんです。』(テレビ東京系)でドラマ初主演を果たした。

 本作は、芸人の南海キャンディーズ ・山里亮太がアイドルや女優をモデルに執筆した同名小説(東京ニュース通信社)の映像化。中条あやみ、芳根京子、森七菜といった若手女優が主演を務めたオムニバスドラマで、仲野は山里の“分身”として、毎話違う役で出演、芸達者ぶりを印象付けた。

 同時期には、森七菜主演のドラマ『この恋あたためますか』(TBS系)にも出演し、コンビニのスイーツづくりに燃える主人公を支える、スイーツ開発の相棒・新谷誠を好演。

 物語は森演じるヒロインと中村倫也演じるクールな若社長のラブストーリーだったので、仲野が演じた男性は、恋の鞘当て役だったが、ヒロインを支える誠実なキャラクターが好評で、本作で恋愛モノもイケることが証明されたといえるだろう。

 『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)以降、誠実で優しい男を演じることができる、一見、地味な俳優に人気が出る傾向はある。すでに演技力に定評があることを考えると次にブレークするのは、仲野太賀かもしれない。

2位 松下洸平

 NHK朝の連続テレビ小説(以下、朝ドラ)『スカーレット』でヒロインの夫・八郎を演じたことで注目された松下洸平は、すでに20年に大ブレークを果たしたともいえるのだが、実は本当の意味で人気が爆発するのは、21年ではないかと思う。

 松下は、歌手活動の傍ら、俳優として舞台を中心に活動。『スカーレット』に出演したことで一気に注目が集まり、久しぶりに朝ドラから生まれたシンデレラボーイとなった。『スカーレット』の後も、コロナ禍の緊急事態宣言中の日常を描いたリモートドラマ『ホーム・ノット・アローン』(NHK)で、在宅勤務中の女性と心を通わせる居酒屋の店長役を好演。ゲスト出演した『MIU404』(TBS系)では、殺人事件の容疑者となった、ある事情を抱える逃亡犯を演じ話題となった。

 その後も『世にも奇妙な物語』(フジテレビ系)『東京タラレバ娘2020』(日本テレビ系)と立て続けにドラマ出演し、10月には『スカーレット』と同じ水橋文美江脚本の恋愛ドラマ『#リモラブ~普通の恋は邪道~』(日本テレビ系)で、波瑠演じるヒロインの恋人・青林風一役に抜てきされた。

 短期間でこれだけドラマ出演が増えたのは、松下の佇まいが多くの視聴者に求められているからだろう。松下は、真面目で優しいが、どこか頼りなくて情けない青年を演じることが多い。こういった男性は、一昔前なら「退屈でつまらない男」と一笑に付されたのかもしれないが、イケメン俳優が氾濫するテレビドラマの世界では、逆にレアで、この「普通っぽさ」を備えたカッコいい男性俳優が常に求められている。

 松下はその難しい条件を奇跡的にクリアしている俳優で、ドラマの作り手が一番求めている俳優である。21年は、松下を主演にしたドラマが作られるに違いない。

 岡田建史は、18年の『中学聖日記』(TBS系)でデビューし、有村架純が演じる女性教師に恋心を抱く男子中学生を演じて大きく注目された。その後も、順調にキャリアを重ねており、20年は『MIU404』でキャリア組の新人警部補・九重世人を演じ、時代劇の『大江戸もののけ物語』(NHK BSプレミアム)と、青春ドラマの『いとしのニーナ』(フジテレビ系)では主演を務めた。

 近年の若手俳優はみんな器用で、演技がうまいと感心するのだが、その小器用さにどこか物足りなさを感じることが多い。対して、岡田はいい意味で不器用で、演技にぎこちなさがある。その不器用な佇まいゆえに、まっすぐで純粋な若者を演じると見事にハマる。こういう俳優はとても貴重である。
 木皿泉脚本の『これっきりサマー』(NHK)は、コロナ禍の影響で甲子園出場ができなかった野球部員の高校生と音楽フェスに行けなかった女子高生の交流を描いたミニドラマだが、岡田が演じた高校生・藤井薫は、彼の持つ不器用な魅力が強く出ていた作品だった。まだ21歳で、これからどんどんうまくなるかもしれないが、この不器用さは保ち続けてほしい。

 この3人の魅力は、良い意味での“普通っぽさ”だろう。不安定で先が見えないコロナ禍の時代だからこそ、失われつつある“普通”を体現する男性俳優が、ドラマの中で求められているのかもしれない。
(成馬零一)

『ザ・ノンフィクション』「親に悪い」が浮かばない子ども「『おじさん、ありがとう』~ショウとタクマと熱血和尚が遺したもの~」

 日曜昼のドキュメント『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)。12月27日は「『おじさん、ありがとう』~熱血和尚が遺したもの~」というテーマで放送された。当番組は民放連賞・テレビ教養番組最優秀賞を受賞している。

あらすじ

 愛知県岡崎市にある「平成の駆け込み寺」こと西居院の住職・廣中邦充さんは非行、虐待、引きこもり、薬物依存といったさまざまな事情から親の元で暮らせない子どもを、無償で引き取り、更生させてきた。

 2008年、西居院に九州からやってきた特攻服を着こなす古典的なヤンキー・タクマは、もともと将来を期待されたサッカー少年だった。しかし、母親が薬物依存で逮捕されたことで「九州の中学生ヤクザ」と呼ばれるまでに荒れ、西居院に預けられる。しかし西居院の中でのタクマは、兄貴分で面倒見がいい。

 同時期に西居院にやってきたショウは、「見るからにヤンキー」感はなく、生気のない少年だ。母親の再婚で生活が荒れだし、バイクを30秒で盗める腕を持つ。警察から矯正施設に預けられる前に、西居院へ引き取られた。

 しかし、ショウは不良グループの縄張りでバイクを盗んだことから目を付けられ、集団で暴行される。地域の不良グループは暴力団が背景にいることもあり、一度、暴力団と関係ができると手を切るのは困難になる。廣中さんは不良グループとショウのつながりを絶つため、金属バットを持った不良グループの集団に夜、話をつけに行く。

 感謝したショウは改心したのかと思いきや、その後も寺を飛び出し、西居院の子どもたちが冬の夜の街を探し回っても見つからない。その後、ようやく見つかったショウをタクマをはじめ、寺の子どもたちが本気で怒り、そこでショウはようやく改心する。

 廣中さん自身もかつては荒れた子どもだった。高校時代に退学を迫られたとき、校長に土下座して退学を回避しようとした担任の姿を見て改心したという。献身的に子どもを支え続けた廣中氏は、子どもたちに「逃げるな」と呼びかけ続けた。

 子どもたちの支援を続けてきた廣中さんだったが、12年に肺がんが発覚し、のちに脳にも転移する。寺を中学卒業とともに「卒業」したタクマは、18年に11年ぶりに、寝たきりとなった廣中さんを訪ねる。その後、19年4月、廣中さんは多くの西居院卒業生に見送られ69歳の生涯を終える。

 番組の最後のナレーションで、「この先、またつまずくことがあるかもしれないけれど、いつも心の中に笑顔のあの人(廣中さん)がいる」と語られていた。

「善悪を判断し、悪いことはしない」という、当たり前に思える倫理観は人にもともと備わっているものではなく、心の中に「(悪いことをすると)この人が悲しむ」という人物がいるからこそ善悪を判断できる、という話を聞いたことがある。その場合、浮かぶ顔の多くは親だろう。「親が悲しむ」「親に迷惑かけたくない」「親を心配させたくない」という思いが、人を踏みとどませる。

 しかし、「こんなことをしたら親が悲しむ」という感覚が育たなかった子どもや、家庭や学校の環境が過酷なあまり、その感覚をなくしてしまった子どもが、思春期を迎えて大人並みの腕力や体になるというのは恐ろしい状況だ。ある人にとっては、当たり前のように心に存在している「悪いことをしてはいけない」が通じないのだ。

 廣中さんは「こんなことをしたら親が悲しむ」の意識が希薄な子どもたちに対して、「廣中さんを悲しませてはいけない」という思いを植え付けたのだと思う。これは一朝一夕でできるようなものではなく、途方もない時間と献身が必要な行為だ。

 また、この行為はネットなど「言葉」の分野の弱いところで、限界があるように思う。いくら気の利いた言葉を遠くから重ねたところで、届きにくいように思うのだ。廣中さんのように、目の前に存在する生身の人間が「ここまでしてくれる」という、体温や手触りといった「リアルなもの」が力を持つように思える。

不登校が増えている現在、廣中さんはどうしただろうか

 令和2年版の法務省「犯罪白書」を見ると、少年による刑法犯・危険運転致死傷・過失運転致死傷等の検挙人員は近年減少を続けている。なお、これは「少年の人口比」を見ても減少傾向が続いており「単に子どもが減ったから」だけではなく、「罪を犯す」子どもの比率自体も減っていることがわかる。

 一方で増えているのは不登校だ。令和元年度の文科省資料「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について」を見ると、子どもの数が減っているのにもかかわらず、不登校の子どもは「実数」として増えている。

 学校に行けない事情は個々にあり、学校でなくても勉強を進めることはできるだろう。しかし、もし時間を持て余しているとしたら心配だ。今は、時間を潰すツールも充実しているが、ネットやSNS、動画やゲームができて楽しいという気持ちは、そう長くは続かないだろう。そして「暇」な時間は、考えがネガティブに陥りやすい。やることがあれば考えずに済むことも、思い煩いかねない。

 また、「暇」という意識は「寂しさ」とくっつきやすいのも危険だ。座間9人殺害事件の白石隆浩被告は、毎日新聞の記事「SNSに助け求める人を救うには… 女性は座間事件の白石被告に質問を重ねた」において、記者の取材に対し「女の子はさみしいと思った瞬間に話をしたくなる。24時間の相談受け付け体制ができたら犯罪に巻き込まれないかも」と答えている。寂しさは、SNS上にいる危険な人物にすらすがってしまう危険性もはらんでいる。

 罪は犯さないが、不登校の子どもが増加している現代。廣中さんだったら、子どもや親になんと言うのだろう。

令和二年犯罪白書

令和元年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果

『ザ・ノンフィクション』女たちの献身を当然として受け取る”息子“「母さん ごめん ダメ息子の涙 ~六本木キャバクラボーイ物語~」

 日曜昼のドキュメント『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)。12月20日は「母さん ごめん ダメ息子の涙 ~六本木キャバクラボーイ物語~」というテーマで放送された。

あらすじ

 六本木でキャバクラのボーイをしているゆうせい、26歳。店の掃除は適当、ボーイなのに席に座って客と一緒に酒を飲むなど、好き放題にやっている。だが怒られてもへこたれず、座を盛り上げるなど愛嬌もある。

 ゆうせいはもともと真面目な野球少年で、区の大会で優勝しプロ野球選手を目指していたという。しかし、進学した甲子園常連の強豪校で、野球エリートに囲まれ挫折。その後、大手企業に就職するも3日で辞めてしまい、その後は女性の家を転々とするような日々を続ける。女性とのデートでも、先々で支払いは相手持ちだ。

 しかし、ゆうせいにもっとも「課金」しているのはゆうせいの母親だ。役所で堅い仕事をしてきた母親は、ゆうせいの暮らしぶりに業を煮やし、実家のカギを渡していないのだが、一方で、ゆうせいが家に入れるように窓のカギを一つ開けたままにしている。さらにゆうせいの小遣いになればと、家のわかりやすい場所に小銭を貯めておいている。

 そのうえ、家族カードだというクレジットカードを、ゆうせいに持たせてしまう。ゆうせいはそれをいいことに、10万円以上するスーツや3万円以上するスニーカーや旅行などに好き勝手カードを使いまくる。そして、その尻拭いは母親が自身の給料とボーナスで支払っているのだ。

 番組終盤で、母親はようやくゆうせいに渡していたクレジットカードを解約。ゆうせいは実家を訪ね2万円だけ返し、母親に手料理を振る舞う。しかし、その後もその日暮らしを続けるゆうせいに、母親から手紙と実家のカギが届く。「本当に困ることがあれば助けます。本当に困ることのないように考えて歩んでいってほしいと思います」と書かれた手紙に、能天気なゆうせいが珍しく涙する。

 今回の主人公、ゆうせいはいわゆる「ヒモ」としての力がある。番組内でも2人の女性の家を転々とし、食事も洗濯も女性任せ、友人との飲み会に参加するときには小遣いすらもらっていた。

 しかし、ゆうせいに使ってきた金額でいえば、そのトップは母親だろう。母親はすでに成人した息子になぜかクレジットカードを渡しており、番組の最後でついにカードを解約するまで、数年間、自分の給料でゆうせいの買ったものの支払いを続けてきた。

 ゆうせいが女性の前で金を出さずにいられるのは、この母親による教育の“賜物”だろう。もちろん、ゆうせいのもともとの性格も、かなりヒモの適性が高いように見える。そして『ザ・ノンフィクション』では、過去にゆうせいによく似た男が出てきていた。

 半年ほど前、『ザ・ノンフィクション』では、ワハハ本舗を破門になり、ギャラ飲みで生計を立てている52歳、小堀敏夫の生活について紹介していた(参照)。ともにヒモ気質なゆうせいと小堀には共通点がある。2人とも「反省」という感覚を知らないのでは、と思うくらい己を顧みないのだ。「反省しない」のではなく「反省できない」のかもしれない。

 反省という行動は成長につながるための重要なプロセスだが、一方で、反省は自分を責めることになるため、気持ちが暗くなりがちでもある。反省ができないゆうせいや小堀に、暗さはまったくなく、明るく能天気だ。「ヒモ」で生きるなら、明るいほうがいいだろう。うじうじしていて雰囲気を暗くさせるヒモなど、家にいてほしくない。

 小さなことをいつまでもくよくよ気にしてしまう人がいるように、ゆうせいや小堀のように、「反省できない人」もいるのだろう。そういうタイプの人間にいまさら「反省しろ」というのも、無茶な気がする。反省できないゆえの明るさを生かし、ヒモとして生きていくのは一つの道ではないかと思えた。

 一方で、ゆうせいは女性が食事の会計をしているとき、スマホに目を落とすなど気まずさを感じている様子がにじんでいた。もしかしたら、反省に近い感情はあるのかもしれない。

 ゆうせいは元野球少年で、母親は大会の日は一日中河川敷で砂まみれになりながらゆうせいを応援していたという。

 リトルリーグ所属など、本気の「野球少年」の世界は、保護者も大変だ。泥だらけのユニフォームの洗濯、炎天下で行われる試合の応援や送迎などのサポートと苦労も多いが、ゆうせいの母親はそれが楽しかったのだろう。実家のゆうせいの部屋には、ボロボロになった野球帽が大切に保管されていた。

こうした保護者の献身も、野球少年にしてみれば、「通常運転」なのだろう。保護者(実質的には母親)が、早起きして自分のために弁当を用意し、炎天下の中自分の試合をかいがいしく応援し、自分が汚したユニフォームを洗濯するのは当たり前だと思っている。

「母親のサポートはとてもありがたいことだ」と感謝の心を忘れない野球少年のほうが多いと信じたいが、中には「母親(=女性)はかいがいしく自分の世話をみてくれるものだ」と勘違いしたまま育つ野球少年も出てきてしまうように思う。

 母親側も、白球を追いかける息子がかわいいあまり、面倒を見すぎてしまうケースもあるだろう。そして、その果てが、ゆうせい親子に思えた。仲の良い母親と息子という関係の中で困っている分には自由だが、こういう男と結婚する「妻」は大変だ。

 次週は『「おじさん、ありがとう」~熱血和尚が遺したもの~』。熱血和尚と傷ついた子どもたちの触れ合いを追い続けた11年間の映像記録。今作は民放連賞・テレビ教養部門最優秀賞、ATP賞グランプリなど国内外で数々の放送賞を受賞している。

『ザ・ノンフィクション』女たちの献身を当然として受け取る”息子“「母さん ごめん ダメ息子の涙 ~六本木キャバクラボーイ物語~」

 日曜昼のドキュメント『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)。12月20日は「母さん ごめん ダメ息子の涙 ~六本木キャバクラボーイ物語~」というテーマで放送された。

あらすじ

 六本木でキャバクラのボーイをしているゆうせい、26歳。店の掃除は適当、ボーイなのに席に座って客と一緒に酒を飲むなど、好き放題にやっている。だが怒られてもへこたれず、座を盛り上げるなど愛嬌もある。

 ゆうせいはもともと真面目な野球少年で、区の大会で優勝しプロ野球選手を目指していたという。しかし、進学した甲子園常連の強豪校で、野球エリートに囲まれ挫折。その後、大手企業に就職するも3日で辞めてしまい、その後は女性の家を転々とするような日々を続ける。女性とのデートでも、先々で支払いは相手持ちだ。

 しかし、ゆうせいにもっとも「課金」しているのはゆうせいの母親だ。役所で堅い仕事をしてきた母親は、ゆうせいの暮らしぶりに業を煮やし、実家のカギを渡していないのだが、一方で、ゆうせいが家に入れるように窓のカギを一つ開けたままにしている。さらにゆうせいの小遣いになればと、家のわかりやすい場所に小銭を貯めておいている。

 そのうえ、家族カードだというクレジットカードを、ゆうせいに持たせてしまう。ゆうせいはそれをいいことに、10万円以上するスーツや3万円以上するスニーカーや旅行などに好き勝手カードを使いまくる。そして、その尻拭いは母親が自身の給料とボーナスで支払っているのだ。

 番組終盤で、母親はようやくゆうせいに渡していたクレジットカードを解約。ゆうせいは実家を訪ね2万円だけ返し、母親に手料理を振る舞う。しかし、その後もその日暮らしを続けるゆうせいに、母親から手紙と実家のカギが届く。「本当に困ることがあれば助けます。本当に困ることのないように考えて歩んでいってほしいと思います」と書かれた手紙に、能天気なゆうせいが珍しく涙する。

 今回の主人公、ゆうせいはいわゆる「ヒモ」としての力がある。番組内でも2人の女性の家を転々とし、食事も洗濯も女性任せ、友人との飲み会に参加するときには小遣いすらもらっていた。

 しかし、ゆうせいに使ってきた金額でいえば、そのトップは母親だろう。母親はすでに成人した息子になぜかクレジットカードを渡しており、番組の最後でついにカードを解約するまで、数年間、自分の給料でゆうせいの買ったものの支払いを続けてきた。

 ゆうせいが女性の前で金を出さずにいられるのは、この母親による教育の“賜物”だろう。もちろん、ゆうせいのもともとの性格も、かなりヒモの適性が高いように見える。そして『ザ・ノンフィクション』では、過去にゆうせいによく似た男が出てきていた。

 半年ほど前、『ザ・ノンフィクション』では、ワハハ本舗を破門になり、ギャラ飲みで生計を立てている52歳、小堀敏夫の生活について紹介していた(参照)。ともにヒモ気質なゆうせいと小堀には共通点がある。2人とも「反省」という感覚を知らないのでは、と思うくらい己を顧みないのだ。「反省しない」のではなく「反省できない」のかもしれない。

 反省という行動は成長につながるための重要なプロセスだが、一方で、反省は自分を責めることになるため、気持ちが暗くなりがちでもある。反省ができないゆうせいや小堀に、暗さはまったくなく、明るく能天気だ。「ヒモ」で生きるなら、明るいほうがいいだろう。うじうじしていて雰囲気を暗くさせるヒモなど、家にいてほしくない。

 小さなことをいつまでもくよくよ気にしてしまう人がいるように、ゆうせいや小堀のように、「反省できない人」もいるのだろう。そういうタイプの人間にいまさら「反省しろ」というのも、無茶な気がする。反省できないゆえの明るさを生かし、ヒモとして生きていくのは一つの道ではないかと思えた。

 一方で、ゆうせいは女性が食事の会計をしているとき、スマホに目を落とすなど気まずさを感じている様子がにじんでいた。もしかしたら、反省に近い感情はあるのかもしれない。

 ゆうせいは元野球少年で、母親は大会の日は一日中河川敷で砂まみれになりながらゆうせいを応援していたという。

 リトルリーグ所属など、本気の「野球少年」の世界は、保護者も大変だ。泥だらけのユニフォームの洗濯、炎天下で行われる試合の応援や送迎などのサポートと苦労も多いが、ゆうせいの母親はそれが楽しかったのだろう。実家のゆうせいの部屋には、ボロボロになった野球帽が大切に保管されていた。

こうした保護者の献身も、野球少年にしてみれば、「通常運転」なのだろう。保護者(実質的には母親)が、早起きして自分のために弁当を用意し、炎天下の中自分の試合をかいがいしく応援し、自分が汚したユニフォームを洗濯するのは当たり前だと思っている。

「母親のサポートはとてもありがたいことだ」と感謝の心を忘れない野球少年のほうが多いと信じたいが、中には「母親(=女性)はかいがいしく自分の世話をみてくれるものだ」と勘違いしたまま育つ野球少年も出てきてしまうように思う。

 母親側も、白球を追いかける息子がかわいいあまり、面倒を見すぎてしまうケースもあるだろう。そして、その果てが、ゆうせい親子に思えた。仲の良い母親と息子という関係の中で困っている分には自由だが、こういう男と結婚する「妻」は大変だ。

 次週は『「おじさん、ありがとう」~熱血和尚が遺したもの~』。熱血和尚と傷ついた子どもたちの触れ合いを追い続けた11年間の映像記録。今作は民放連賞・テレビ教養部門最優秀賞、ATP賞グランプリなど国内外で数々の放送賞を受賞している。