頭のいい子に育てるには、毎日の読み聞かせが必要――そんな情報が子育て世代に飛び交って久しい。親子で読み聞かせを楽しんでいるという人も多いようだが、一方で、「頭のいい子を育てる」という情報に縛られ、疲れてしまう人たちもいるようだ。読み聞かせをするにしても「どのように読めばいいのか」「子どもの集中力が続かない」と悩みを抱く親も少なくない様子。そんな絵本をめぐって憂鬱になってしまっている親に向けて、今回、絵本関係者の座談会を開催する。参加者は、絵本コーディネーターの東條知美さん、図書館司書の神保和子さん、絵本の編集者である北尾知子さん、そして「絵本好き」であるワーキングマザーの大内めぐみさん。皆さん、本当に読み聞かせは必要なんですか?
――「読み聞かせが学力の基礎になる」という話をよく耳にし、実践している親御さんも多いと思うのですが、いつ頃から、そのような話が広まったのでしょうか。
東條知美(以下、東條) 調べたところによると、1970年代後半から子どもの言語力を伸ばすことに影響があると言われ始めたようです。
北尾知子(以下、北尾) その少し前に、絵本がたくさん出版されるようになり、機が熟したんでしょうね。
東條 そうですね。80~90年代には、読み聞かせのスタイルが着目されるようになりました。その後2000年代にかけて、愛着形成・脳の発達と読み聞かせの相互関係が謳われるようになり、教育現場での読み聞かせも定着していきました。司書の神保さんは読み聞かせについて講演していますよね。「読み聞かせ」は必ずしなければならないと思いますか。
神保和子(以下、神保) 「しなければいけない」ということはないと思っています。ただ、絵本を読んであげる行為は親子のコミュニケーションですから、子どもの情緒が落ち着きますし、読み聞かせをしてもらった子とそうでない子の語彙数の差は大きいのかなと感じます。小児人工内耳移植に取り組む外科医の著書『3000万語の格差 : 赤ちゃんの脳をつくる、親と保育者の話しかけ』(ダナ・サスキンド/明石書店)によると、2歳までの間にどれだけの言葉を浴びたかが言葉の発達に大きく影響するそうです。ただ、今の忙しいお母さんに「たくさん言葉をかけてあげて」と言っても、どんな言葉をかけていいかわからないでしょうから、絵本をツールとすればいいのではないかと思っています。また、読み聞かせをたくさんした子どもは、その後、厚い本にも入っていきやすいとも言われています。
東條 神保さんの言っていることに間違いはないと思います。私も読み聞かせを肯定的に捉えている人が集まる講演会では、「“絵本の時間”が宝物となる7つの理由」として、「1:豊かな感情、安定した感情を育む」「2:自己肯定感を育む」「3:言葉の発達に役立つ」「4:さまざまな場面で活動のきっかけとなる」「5:好奇心への入り口となる」「6:多様性を知り、自分自身を知るきっかけとなる」「7:“愛”を知る」と解説しています。ただ「2歳までにどれだけ言葉を浴びたか」と言われると、「2歳以降に読み聞かせをしても手遅れなんだ」と誤解してしまう人もいる。そのフォローはしたいですよね。正しいことに窮屈さを感じたり、そのプレシャーから子育てに苦しんでいるお母さんもいるので。
大内めぐみ(以下、大内) 私は2歳違いの子どもを2人育てているのですが、以前から絵本とは接点を持っていたので、自分自身は、読み聞かせ自体にプレッシャーを感じたことはないです。ただ、うちは0歳から保育園に通わせていて、お迎え後から寝かしつけるまでは本当に大変だったので、「読み聞かせと言われても、いつ読めばいいんだろう? そんな時間はない」というお母さんの気持ちはよくわかります。私もそういうときがありました。
北尾 「賢い子に育てるためには本を読ませればいいの?」とよく質問されますが、本を「これが役に立つ」「ためになる」といやいや読んだら、親も子も両方楽しめないですよね。頭のいい子に育てるには読書が必要、そのための素地として読み聞かせをしなければ……とゴールに向けて前のめりになってる。
東條 『頭のいい子を育てるおはなし366』(主婦の友社)という本などが売れていることが象徴的ですよね。
北尾 冒頭で神保さんも言われたように、絵本は言葉を育む方法の一つに過ぎないのではないでしょうか。絵本でなくても、広告などを一緒に見て、「このリンゴ、おいしそうだね」という会話をしたっていい。絵本はそこにストーリーがあるので会話しやすいということだと思います。
神保 ある図書館で、「子どもと向き合ってたくさん遊びましょう。絵本は遊びの中の一つとして捉えて」と話したときに、若いお母さんが「安心しました」と言ってきたんです。「絵本を読むのは義務だと思って読んでいるけれど、子どもが最後まで聞いてくれなくて悩んでいた」と。そのお子さんはまだ1歳になったばかり。しかも赤ちゃん向けの本ではなく『ぐりとぐら』(福音館書店)などのロングセラーを読み聞かせしていたんです。「いくらいい本でも1歳の子にはそれは無理よ。赤ちゃんは途中で飽きるのが当たり前」と伝えました。真面目なお母さんほど「そんなに必死に読まなくてもいいよ」と声をかけてあげないといけないかもしれない。
大内 私は、読み聞かせの楽しさって、子どもの反応がどうかということより、親である自分が「この絵本、面白いなぁ」と感じることだと思っています。「教育」は専門家に任せる部分でもあると思うので、読み聞かせは「自分が楽しむもの」でいいのかなって。それに子どもは、親が楽しそうにしてるのが好きですよね。あと、「大人一人、赤ちゃん一人で家にいると間が持たないから絵本を読む」ということもあると思います。まだしゃべらない赤ちゃんに話しかけるって、特に初めての育児だと難しいので……絵本を介してだと語りかけるのも自然にできますよね。
北尾 読み聞かせにプレッシャーを感じている人は、「失敗しちゃいけない」と思っているんでしょうね。
東條 特に1人目だと責任重大と思ってしまう気持ちは、私も身に覚えがあります。ここで離乳食をやめて大丈夫なのか、将来、健康に問題が出るのではないか……と。今は「こうでなければ危ない」という情報があふれているので、余計に視野が狭くなるのかもしれないですね。「こうでなければならない」が多すぎると子育ては苦しい。加えて自分がいいと思ったことを他人に躊躇なく言う先輩ママが多い。ありがたいこともあるけど、うまく流す能力を身につけ、「こうでなければならない」ではなく「どっちでもいい」という視点を持っておいた方がラク。母乳神話と読み聞かせは似ているかもしれないですね。
――「読み聞かせをしないと、感情に乏しくなる」などと追い詰められている人もいるような気がします。
北尾 読み聞かせをしていたとしても、お母さんが無表情で棒読みのように読んだり、子どもが質問しても無視して読んでいたらいい影響はないと思いますけどね。
大内 親が「私は子どもを変えられる」「私の思うようにできる」と思ってしまっている部分もあるのかもしれません。読み聞かせというタスクをこなせばいい子に育つ、みたいな。でも、子どもって本当に、どうにもできない。親の思うようにはならないものですよね(笑)。
――読み方にコツはありますか。「あまり表情がにぎやかすぎたり、抑揚をつけすぎたりすると子どもの想像力を育まない」という話を聞いたことがあるのですが。
神保 確かに、「読み聞かせのときは黒子に徹しなさい」と言って、黒い服しか着ないボランティアグループもあります。でも、今の子はある程度パフォーマンスがないと入っていけない。アメリカの子ども図書館で、読み聞かせの様子を見ましたが、身振り手振りを大げさにつけていました。「いろいろな国籍の子がいるので、淡々と読んだだけでは伝わらない。絵本の楽しさを伝えたい。そのためには抑揚や、身振り手振りも必要なこともある」という話でしたね。
東條 自治体主宰の高齢者による読み聞かせグループに講演に行った際、「抑揚をつけちゃいけないと聞きました」とすごく悩んだ顔で質問されました。「程度にもよります。あまり大げさに読んで、子どもたちが絵本ではなく読み手を見てしまうなら意味がない。物語を伝えるために読み聞かせがあるので、子どもたちが楽しく聞ける範囲ならいい」とお答えしました。
神保 作品によって静かに読んだ方が伝わるものもあれば、静かに読んではつまらない本もあるし。
東條 みなさん真面目すぎるんです。例えば、声を張りすぎて、目の前の子どもが怯えた様子であれば、微調整すればいいだけ。子どもとコミュニケーションすることを忘れてしまっているんですよ。
北尾 『ちきばんにゃー』(きくちちき/学研プラス)の「ちきばん ちきばん」といった掛け声などを「どう読んでいいかわからない」というお母さんもいました。
東條 わからないなら無理に読まなくてもいいと思います。例えば、ナンセンスな作風で知られる長新太さんの『キャベツくん』シリーズ(文研出版)という作品があるのですが、「面白さがわからない」というお母さんも多い。でもそれは、相性だと思うんですよね。相性はあってあたりまえですから。
大内 読解力も人それぞれ。専門家の解説が入ることで「こういう見方があるんだ」という発見があることもあれば、やっぱりわからないこともある。ただ、一生わからないかというと、そうではなくて、時期によっても変わってくるのかもしれません。自分に響くキーワードがあれば、ある時「面白い」と感じるようになることもあると思います。
――幼児に読んであげるとおとなしく聞いてくれず、「心がつかめなかった」とがっかりするケースも多いようです。
神保 小さな子はなかなかおとなしく聞いてくれないですよ。
東條 その絵本がその子の発達段階に合ってないという場合もありますし。
――何歳まで読み聞かせればいいのでしょう?
北尾 求められるなら何歳まででもいいと思います。
東條 息子は高校1年ですが、誕生日に読み聞かせしました。私が読みたいから(笑)。
北尾 “効果”を期待すると、何歳から何歳までという話になりますが、効果はどんな形で出るかわからない。
東條 そうですね。どういうわけか幼稚園までは「読み聞かせをしよう」とよく言われるのに、年齢が上がるにつれて軽視されるようになり、もっと目に見える効果が出るもの、わかりやすく「役に立ちそうなもの」に関心が移ってしまう。
大内 読み聞かせは自己肯定感を育むといわれますが、絵本を読んでるときに感じられる“ハッピー”な気持ちが大事だと思うんです。読み聞かせによって「頭が良くなる」など、“どうなるか”という効果に固執するのは違うのではないかなと感じますね。
神保 うちの子は成人しているのですが、一緒に飲むときに、絵本が肴になるんです。それぞれ好きな本は1~2冊程度は記憶しているけど、内容よりも「読んでもらった」という記憶が支えになっていると言っていましたよ。
(後編につづく)

