ジョン・カーペンター監督の出世作となった『ハロウィン』(78)は製作費30万ドルという低予算映画ながら、映画史に残るマスターピースとして今なお人気が高い。ハロウィンの夜、お面を被った大男が包丁を片手に襲ってくるというシンプルな恐怖譚だが、『ハロウィン』の世界的大ヒットを受けて、『ハロウィンII』(81)や『13日の金曜日』(80)などの続編や類似作が続々と生み出されていった。全米で2018年に公開された新作『ハロウィン』は、オリジナル版の40年後の人間模様を描いた注目作となっている。
ハロウィンはもともとはケルト文化圏のもので、収穫を祝う非キリスト教徒たちのお祭りだった。そんなお祭りの夜に、精神病院から逃げ出してきた男マイケル・マイヤーズが平凡な住宅街に出没する。テレビで懐かしい恐怖映画を見ながら夜更かししていた子どもたちは、白い不気味なお面を被ったマイケル・マイヤーズを、伝説上の怪物“ブギーマン”として恐れおののく。幼少期に殺人を犯したマイケル・マイヤーズの心の闇と、子どもたちが妄想する悪夢の世界がシンクロしたかのような幻想性のあるホラー映画だった。
オリジナル第1作で描かれたマイケル・マイヤーズの経歴を簡単に振り返ってみよう。マイケル・マイヤーズは米国イリノイ州ハドンフィールド育ち。マイヤーズ家の息子マイケル(当時6歳)はハロウィンの夜、両親の不在中にボーイフレンドとイチャイチャしていた姉ジュディスを刺殺してしまう。未成年であることから精神病院に送られたマイケルは、彼の反社会的性質に気づいたルーミス医師によって隔離病棟に幽閉されることに。やがて21歳になったマイケルは、病院から脱走。故郷ハドンフィールドに戻った彼は、ハロウィンの夜に再び殺戮を始める。そんなマイケルに執拗に狙われるのが、ベビーシッター中の女子高生ローリー(ジェイミー・リー・カーティス)だった。マイケルとローリーとの長きにわたる戦いの始まりである。
なぜマイケル・マイヤーズは、地味めの女子高生ローリーを狙い続けるようになったのか。シリーズ第2作『ハロウィンII』では、ローリーはマイケルの生き別れた実の妹であることが説明された。また、ロブ・ゾンビ監督によるリメイク版『ハロウィン』(07)では幼いマイケルが内包していた反社会的性質は、母親の溺愛と酒びたりの継父の無理解という歪んだ家庭環境によって誘発されたという心理学的な解釈が与えられた。幻想性豊かなオリジナル第1作は、多くの人たちのイマジネーションを刺激し、深読みしたくなる面白さがあった。
新作『ハロウィン』は、シリーズ第2作以降の後づけ的な説明や解釈はいっさいなかったものとしている。実録犯罪映画『コンプライアンス 服従の心理』(12)を製作総指揮したデヴィッド・ゴードン・グリーン監督は、オリジナル第1作を原典としてリスペクトし、新シリーズとして本作を撮り上げた。あたかもオリジナル第1作で起きた凶悪事件は、実在するものであるかのように。40年前にハドンフィールドを震撼させたマイケル・マイヤーズは精神病院で厳重に隔離されていたものの、折からの福祉予算の大幅なカットにより大病院へ統合されることに。案の定、マイケルは移送の際に警備員を殺害して脱走。この知らせを聞いて、笑顔を浮かべるひとりの女性がいた。
マイケルが脱走したことを喜んだのは、40年前に彼に襲われたローリー(ジェイミー・リー・カーティス)だった。かつての事件がトラウマとなり、ローリーはすっかり変人となっていた。自分の手でマイケルを仕留めるチャンスが訪れたと舌なめずりするローリー。この日がいつか訪れることを予感し、あらゆる武器を備え、森の中の一軒家を要塞のようにリフォームして待っていた。19世紀の哲学者フリードリヒ・ニーチェの有名な言葉に「怪物と闘う者は、その過程でおのれも怪物化せぬよう心せよ」(『善悪の彼岸』より)とあるが、まさに元女子高生ローリーは、怪物と対峙するために自分も怪物となったのだった。
ローリー役で一躍“スクリーミング・クイーン”として人気を得たジェイミー・リー・カーティス。そんな彼女がリアルに40年の歳月を経た初老のローリー役を熱演しているのが、新作『ハロウィン』、いや新約『ハロウィン』の大きな見どころだ。ローリーは“闘うヒロイン”の先駆者でもある。
ホラーファンタジーだった旧約『ハロウィン』の世界が、ファンから長く愛され続けたことで、伝説の巨大クジラとエイハブ船長との宿命の戦いを綴ったメルヴィルの長編小説『白鯨』のような文学的深淵さを漂わせるものとなった。ローリーには娘カレン(ジュディ・グリア)がいるが、強迫観念にとらわれた母親に育てられたせいで、つらい日々を過ごしてきた。物心がついた頃から射撃の訓練をさせられ、今では母娘関係は最悪なものに。再び大きな災いが街を襲うことを訴える母親に、カレンは呆れ返ってしまう。そして今回、マイケル・マイヤーズが狙うのは、カレンの娘アリソン(アンディ・マティチャック)。つまりローリーの孫娘が、ハロウィンの夜に追い掛け回される。なんという因果だろう。マイケル・マイヤーズという不死身の怪物と、ローリー家の女三代にわたる40年戦争が新約『ハロウィン』のメインストーリーだ。
マイケル・マイヤーズは6歳のときに姉ジュディスを殺害し、成人後はローリーを執拗に襲い続ける。『ハロウィン』の大ヒットにより、イチャイチャしているカップルは殺人鬼から真っ先に標的にされるというホラー映画の不文律が確立されることになった。そんなことから、マイケル・マイヤーズは女性嫌い(ミソジニスト)かと思われがちだが、新約『ハロウィン』のマイケル・マイヤーズは、性的格差を設けることなく男女平等に殺戮を重ねていく。ミソジニーだとか、セックス恐怖症だとか、そういったカテゴライズから、ブギーマンことマイケル・マイヤーズはするりと抜け出してしまう。澤村伊知のホラー小説『ぼぎわんが、来る』(KADOKAWA)では室町時代に南蛮文化と共に“ブギーマン”の概念が日本にも伝わり、“ぼぎわん”として土着化したというユニークな説が語られている。神出鬼没で、いつの間にかあなたの後ろに立っている怪物、それがブギーマンだ。
ベテラン女優ジェイミー・リー・カーティスが40年間にわたって演じてきたローリーは、ブギーマンことマイケル・マイヤーズを自分の手で倒すことでトラウマを克服しようとする。もはや、マイケル・マイヤーズという負の存在と向き合うことが、彼女の人生の大半を占めることになった。マイケル・マイヤーズを葬り去れば、ローリーとその家族には幸せが訪れるのだろうか。
哲学者ニーチェはこんな言葉も残している。「なんじが平和を求めるならば、それは新しい戦いの準備としてのそれでなければならない。永い平和よりも短い平和を求めよ」(『ツァラトゥストラ、かく語りき』より)。
(文=長野辰次)

『ハロウィン』
監督・脚本/デヴィッド・ゴードン・グリーン
音楽/ジョン・カーペンター、コディ・カーペンター
出演/ジェイミー・リー・カーティス、ジュディ・グリア、アンディ・マティスチャック、ニック・キャッスル
配給/パルコ R15+ 4月12日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開
C)2018 UNIVERSAL STUDIOS
https://halloween-movie.jp
『パンドラ映画館』電子書籍発売中!
日刊サイゾーの人気連載『パンドラ映画館』
が電子書籍になりました。
詳細はこちらから!