
実録ドラマ『スポットライト 世紀のスクープ』。地方新聞が発した記事をきっかけに、カトリック教会の不祥事が次々と噴出する。
カトリック教会は子どもたちを性的虐待する変態神父たちの温床であり、教会はその事実を組織ぐるみで隠蔽してきた。世界で12億人もの信者数を誇るカトリック教会の衝撃的な内幕を暴いた地方新聞の記者たちの奔走を描いたのが、実録ドラマ『スポットライト 世紀のスクープ』だ。多くの予想に反し、今年のアカデミー賞作品賞と脚本賞を獲得し、カトリック教会の本部であるバチカンのローマ法王庁を今も大きく揺さぶっている。
この物語は米国の古い街・ボストンにひとりのアウトサイダーが赴任してきたことから動き始める。2001年7月、ボストン・グローブ紙はインターネットの普及で売り上げ部数が低迷し、そのテコ入れとして親会社から新しい編集局長のマーティ(リーヴ・シュレイバー)が就任する。マーティはまず「読者がもっと読みたくなる紙面にしよう」と社員に求める。そんな努力はずっとやってきたと同紙に勤めるベテラン記者たちはうんざり顔だが、マーティは容赦なく改革を断行する。ユダヤ人であり、地元とのしがらみがないマーティの目に止まったのは、地元カトリック教会のジョン・ゲーガン神父が子どもたちに悪戯をした疑いで裁判沙汰になったスキャンダル。ボストン・グローブ紙は小さな囲み記事で扱っていたが、マーティは「事件の真相をさらに掘り下げろ」と命じる。「すでに記事にした」「うちの読者の半分はカトリック信者だぞ」という反対の声が上がる一方、特ダネ班“スポットライト”のデスク、ロビー(マイケル・キートン)がこの事件を担当することになる。

デスクのロビー(マイケル・キートン)は教会全体を訴えようとするが、現場記者のマイク(マーク・ラファロ)は即記事にすべきだと意見が対立。
元タクシー運転手で、一度取材相手に喰らい付いたら離さないスッポン記者のマイク(マーク・ラファロ)、祖母が敬虔なカトリック信者であることから複雑な想いを抱く女性記者のサーシャ(レイチェル・マクアダムス)らがロビーの指揮のもと取材を始める。しかし、裁判所はこの件に関する資料をいっさい公開しようとしない。弁護士たちも固く口を閉ざしたまま。カトリック教会のスキャンダルに触れることは、保守的な市民の多いこの街では大タブーなのだ。ニクソン大統領失脚の顛末を描いた『大統領の陰謀』(76)では、盗聴事件を追うワシントン・ポスト紙の記者に大きなヒントをもたらす“ディープ・スロート”が現われたが、本作でも特ダネ班に有力な電話が掛かる。その電話を掛けてきたのは心理療養士で、30年間にわたってカトリック教会の聖職者たちが関係してきた性犯罪を調べ上げたという。彼の調査によると、独身であることを義務づけられているカトリック教会の神父たちの6%がペドフィル(小児性愛者)であるという。子どもたちへの性的虐待事件はボストンだけでなく、全米中、いや世界中で大昔から繰り返されてきたのだ。自分たちが追っていた事件は巨大な氷山の一角に過ぎないことを知り、ロビーたちは愕然とする。
被害者たちを半年がかりで調べた結果、身の毛のよだつ実態が明るみになっていく。カトリック教会の変態神父たちは教会に祈りを捧げに通う子どもたちの中から、片親で経済的に恵まれない家庭の子やホモっけのある口数の少ない男の子に狙いを定めて、自分たちの性欲の餌食にしていた。神父から性的行為を強要された子どもたちは到底逆らえない。もし親にバレても、示談金を渡すことでうやむやにすることができる。やがてトラウマを抱えた子どもたちの多くはドラッグ依存かアルコール依存に走り、自殺するか廃人化してしまう。辛うじて生き残った被害者が訴訟を起こそうとしても、カトリック教会と結びつきの深い警察や司法関係者によって巧みにもみ消されてしまう。しかも、問題を起こした神父はカトリック教会内で処罰されることなく、別の教区へと転任し、さらに被害者を増やし続けていた。カトリック教会は神への信仰と同時に、子どもたちを食い物にする悪魔も世界中にまき散らしていたのだ。

少年期にカトリック教会の神父に性的虐待を受けた被害者。多くの被害者は誰にも相談できずに自殺し、すでにこの世を去ったと告げる。
カトリック教会の司教たちは、自分が治める教区内の神父たちが起こした不祥事をなかったことにしてローマ法王庁への出世を遂げてきた。警察も司法関係者たちも見せかけの平穏を保つことで、それぞれの安定した生活を守ってきた。古い伝統を誇るカトリック教会、そしてボストンという街の腐った暗部に、ロビーたちはメスを入れることになる。当然ながら取材記者たちも無事では済まず、吹き出す膿を全身に浴びることになる。カトリック教会の神父による性犯罪は1970年代からすでに問題になっていたが、地元でいちばんの権威を誇っていたボストン・グローブ紙はそのことを90年代になってから目立たない小さなベタ記事でしか扱っていなかったことが明らかになる。
記者の心がこもっていないベタ記事は、記者や新聞社が「我々はちゃんと事実を記事にした」という自己弁護のためのアリバイづくりでしかない。ボストン・グローブ紙は、以前から性的虐待に苦しんでいる子どもたちがいることを知りながら、ずっとスルーし続けてきたのだ。被害者たちの痛みを受け止め、声を発することができない人たちの声を拾い集め、さらに裏付け調査することで、ようやく血の通った記事が生まれる。新聞が売れなくなった理由は、インターネットの普及や若者の活字離れだけではなかった。『スポットライト』は巨大宗教組織の闇だけでなく、メディアに関わる人間の足元も照らしてみせる。神なき時代に迷える人々の指針となるのは、真実以外のなにものでもない。
(文=長野辰次)

『スポットライト 世紀のスクープ』
監督/トム・マッカーシー 脚本/トム・マッカーシー、ジョシュ・シュガー 撮影/マサノブ・タカヤナギ 出演/マーク・ラファロ、マイケル・キートン、レイチェル・マクアダムス、リーヴ・シュレイバー、スタンリー・トゥッチ
配給/ロングライド 4月15日(金)よりTOHOシネマズ日劇ほか全国ロードショー
Kerry Hayes(c)2015SPOTLIGHT FILM,LLC
http://spotlight-scoop.com

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