
こんな美女が作るカレーなら、毎日でも通いたい。『庖丁人味平』のブラックカレーに匹敵する病み付きになる味に違いない。
人は誰かを愛するとき、その人は変態になる。愛を知った人は、常識や世間体という拘束着を脱ぎ捨て、すっぽんぽんの変態となる。社会生活を営む頭でっかちな人間から、本能まるだしな野生動物へと変態を遂げる。野生の力を取り戻した変態は、拘束着を脱ぐことができない人間よりも圧倒的に魅力的だ。黒川芽以主演のコメディ映画『愛を語れば変態ですか』は、平凡な人妻あさこが自分は変態であることを受け入れ、無敵の存在へと覚醒していく姿を描く。CGなどを使うことなく黒川芽以は、怪作『LUCY/ルーシー』(14)のスカーレット・ヨハンソンばりに変身することになる。
黒川芽以は、宮崎あおい、堀北真希、夏帆らを輩出した深夜ドラマ『ケータイ刑事 銭形』シリーズで3代目・銭形泪を演じるなど、ルックスと演技力を兼ねそろえた若手女優として早くから注目された存在だった。『グミ・チョコレート・パイン』(07)と『ボーイズ・オン・ザ・ラン』(10)では、主人公の運命を左右するファムファタールを熱演している。『横道世之介』(13)や『福福荘の福ちゃん』(14)での助演ぶりもよかったが、やはり主演女優としてスポットライトを浴びることで輝きが増すタイプのようだ。ふだんは清楚な人妻ながら、とんでもない素顔を持ち合わせるという二面性のあるキャラクターを楽しげに演じている。
本作の舞台は住宅街にある一軒のカレー屋。明日の開業を控え、あさこ(黒川芽以)と店長である夫(野間口徹)は準備で忙しい。夫が以前勤めていた職場の後輩・ボン(川合正悟)が手伝いにきているが、この男はまるで役に立たない。そんなボンに対しても、あさこはニコニコと明るい笑顔で接する。誰に対しても優しく振る舞う性格らしい。チャツネのような甘ったるさが漂うカレー屋に、おかしな男たちが次々と現われる。アルバイトの面接を受けにきただけなのに、店を仕切ろうとするフリーター(今野浩喜)、カレー屋の開店祝いにレトルトカレーを持参する空気がまるで読めない若者(栩原楽人)、血まみれ姿で大金入りのカバンを手にした不動産屋(永島敏行)。みんな、店長がどんなカレー屋を開こうとしているかには興味がない。厨房に篭っていても、その妖艶さを隠し切れない人妻あさこに男たちは夢中だった。

一見すると清楚な人妻と思われていたあさこ(黒川芽以)だが、実はとんでもない性癖の持ち主だった。そのギャップがまたいいんです。
招かれざる訪問者たちによって、あさこの意外な素顔が暴かれていく。若者はあさこにストーカー行為を重ねていた盗聴魔であり、あさこと過去に関係を持っていたことが分かる。あさこは、かなり年上の不動産屋ともただならぬ関係らしい。不動産屋はあさこと駆け落ちするために大金を強奪してきたのだ。不動産屋の「お前らは法律の範囲内で愛しているのか。俺は無制限にあさこを愛している」という言葉に、あさこはウルウルする。いいムードになるとついつい下半身を開いてしまう、超尻軽女だったのだ。関係を持った男たちはあさこに夢中になり、常規を逸した行動をとるようになる。マジメな夫はあさこのそんな性癖が心配で会社を辞め、カレー屋を夫婦でやることにしたのだ。誰があさこをいちばん幸せにできるのか。男たちは店内で死闘を繰り広げる。
本作でデビューを果たした福原充則監督は、劇団「ピチチ5」を主宰するなど演劇界で活躍する人物。カレー屋を舞台にした本作は、2006年に上演した「キング・オブ・心中」を映画用にアレンジしたもの。カレー屋を掻き乱すフリーターの今野浩喜(キングオブコメディ)は、主演映画『くそガキの告白』(12)で田代さやかを相手に窒息死寸前のエンドレスキスを決めている。2005年にオンエアされた『仮面ライダー響鬼』(テレビ朝日系)の少年役で注目された栩原楽人はSM映画『ナナとカオル』(11)で緊縛マニアの童貞に扮し、すっかり変態役もOKな俳優に成長した。大ベテランの永島敏行だが、若手時代には『遠雷』(81)で汗だくになりながらビニールハウス内で半青姦に励んでいた。変態について語り合うのに、なかなかの顔ぶれが集まったと言えそうだ。

あさこが愛に目覚めた後半は予測不能な展開に。黒川芽以がブチ切れ演技を見せ、ストーリーも既成のセックス観も崩壊させていく。
1960年代に北欧を発祥とする“フリーセックス運動”が起き、世界各国へと広まっていった。本来のフリーセックスは男女間の性差別を撤廃しようというジェンダーフリーを意味する言葉だったが、日本ではフリーセックス=誰とでもエッチするエロ革命だと誤解されてしまった。まるでギャグのようなエピソードだが、あさこと夫との間にもフリーセックス運動と同じくらい大きな誤解が横たわっている。夫はあさこに貞淑で明るい奥さんという理想の嫁像を押しつけようとするが、あさこは夫のそんな考え方が窮屈で堪らない。夫はあさこのことを誰とでも寝るフリーセックスな女と思っているが、あさこは女であるとか既婚であるとかに囚われずに自由に生きてみたいだけだ。夫との暮らしには不満はない、むしろ幸せを感じている。だから、その幸せをより多くの人に還元したい。夫はそれが理解できず、あさことあさこが感じている幸せを狭い店の中に閉じ込めようとする。これでは利益を独占する悪の資本家と同じではないか。愛は社会に還元することで、もっと大きな愛に育つ(かもしれない)。
あさこはみんなが愛をぞんざいに扱い、さらにはひとり占めしようとすることを憂う。両親が愛し合うことでみんな生まれてきたはずなのに、愛を交歓することを破廉恥なものと考えている。カレーの付け合わせはラッキョウと福神漬けのどちらにするかも大事だが、気持ちいいエッチをすることもとても大事ではないか。男たちが死闘を繰り広げたその日の夜更け、ずっとおとなしかったボンが「事故に遭ったと思って、僕に抱かれてください」とズボンを脱いであさこの上にのしかかる。性欲と支配欲を満たすことしか考えない男どもに対し、あさこの怒りが頂点に達し、そのときウルトラミラクルキスが炸裂する。この世には運命を一変させるような至高のエッチが存在するのだ。あさこは“愛の戦士”へと覚醒を果たす。新しい朝がきた。変態に目覚める朝がきた!
(文=長野辰次)

『愛を語れば変態ですか』
監督・脚本/福原充則 出演/黒川芽以、野間口徹、今野浩喜、栩原楽人、川合正悟、永島敏行
配給/松竹メディア事業部 11月28日(土)より新宿ピカデリーほかロードショー公開
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