『ザ・ノンフィクション』42歳ホスト・伯爵、売り上げランキングに返り咲くまで――「もう一度、輝きたくて」

 NHKの金曜夜の人気ドキュメント番組『ドキュメント72時間』に対し、こちらも根強いファンを持つフジテレビ日曜昼のドキュメント『ザ・ノンフィクション』。5月5日放送のテーマは「もう一度、輝きたくて」。42歳のホスト・伯爵が、売り上げランキングに返り咲くための奮闘の日々を追ったものだ。

あらすじ:42歳、崖っぷちホストが起死回生の一手に選んだ「TikTok」

 今回の主人公は歌舞伎町のホストクラブ「ROMEO」で働く42歳ホスト、伯爵だ。番組は、特定の場所や人物を定期的に追い続けており、ROMEOや伯爵もその「定点観測」の対象になっている。ROMEOが舞台の回では、ほぼ毎度登場するイケメン社長・ナイトの姿も確認でき、元気でいたのだとうれしくなった。ナイトのように「会ったことがないのになじみ」な人たちができるのも、『ザ・ノンフィクション』の醍醐味だ。

 10年前の2009年、伯爵は一世を風靡したホストだった。しかし、客層が20~30代前半の女性で占められるホストクラブにおいて、現在の伯爵は客からも疎んじられている。月給は5万円まで落ち、平成生まれの後輩ホストに濃い酒を無理やり飲ますなど「昭和ホストの体育界系の洗礼」も反発を呼ぶなど、破れかぶれの日々が続く。

 伯爵の絶頂期を知るナイトからは経営に移ってみてはと諭されるが、売り上げランキングに返り咲いたら飲もう、と誓いつつ急逝した友のためにも、伯爵は現場にこだわり続ける。後輩に教えを請い、その中で起死回生の一手として伯爵が選んだのはSNS。ショート動画投稿アプリ「TikTok」を使いこなし集客につなげている後輩売れっ子ホスト、しゅんPのアシストもあり、月間売り上げナンバー4へと返り咲く。

女性客に「ホストとしてヤバい」とやり込められる

 伯爵は、ホストなのに会話がヘタだ。たとえるなら、大学の飲みサークルで自分は“ウェイウェイ系”だと本人だけが思っているような感じで、これは男子大学生がやっていても痛々しいのに、42歳でやられるとただひたすらに厳しい。女性客に「(伯爵といても)発散できる気がしない」とキツイ言葉を浴びせられ、さらに「言い返せないなんてホストとしてヤバい」とまでやり込められるが、大金を払っているのに、このノリをやられ自分のボトルの酒を飲まれれば、腹が立つ気持ちもなんとなくわかる。

 一方、昨年、歌舞伎町の超有名ホストクラブ・愛本店の、売れっ子ホスト・壱氏を取材したことがある。壱氏は取材中思わず頬が緩んでしまうようなイケメンだったのだが、その美しい顔やスタイルよりも驚いたのが「聞き上手」ぶりだった。インタビューの仕事で来ているのに、話していてこちらが楽しくなってしまうという壮絶スキル。相手に気持ちよく話をさせることで魅了させる。これが一流ホストの技なのかと感銘を受けた。

 容貌はやはり加齢で衰えてしまう。伯爵は今42歳だが、35歳くらいでトークスキルを鍛えねばこの先マズいと、危機感を抱かなかったのだろうかと思う。しかし一方で、伯爵のこのあまりあれこれ戦略を考えない天真爛漫さが、10年前の、ナイトも憧れた一時代を築いた伯爵の魅力だったのかもしれない。

 そして、伯爵が10年前に成功を収めたのは、当時の時代背景とマッチしていたのもあったのではないだろうか。08年には、島田紳助が司会を務めていたクイズ番組『ヘキサゴンII』(日本テレビ系)から、珍回答でおバカタレントとして人気を博したつるの剛士、野久保直樹、上地雄輔によるユニット「羞恥心」が結成されている。10年前は「アホっぽさ」に時代の追い風が吹いていたのだ。さらに、当時の伯爵は、メンズナックラー(ミリオン出版「メンズナックル」に掲載されるような、オラオラ系ギャル男ファッションの男性)を煮詰めたような風貌をしている。その時代に抱かれた男であったことは間違いないだろう。

 しかし時代の空気は薄情なまでに移ろいやすい。10年後の19年はSNSの普及により、一般人であろうが「見せる自分」と無関係でいられなくなった。動画で集客にもつなげている後輩ホストのしゅんPは、動画に上げる自分と実際の自分は別だと話していた。今は「おバカ」でなく「自己プロデュースができ、空気を読めるしたたかさと賢さ」に時代の追い風は吹いている。そしてきっと、10年後はまたまったく違ったものが求められるのだ。

アラサー以降の10年は人生屈指の難所

 今、日本の都市部で暮らすなら、男女ともに、我が世の春は「アラサー」くらいなのではないだろうか。働きだした頃より経済的に余裕ができ、自信もついて、容貌もまだ衰えが見えず体力もある。感性も腐らずそれでいながら青臭さも抜け、一番冴えている年代なのではないかと思う。

 だからこそ、アラサー以降の10年は人生でも相当険しい山になる。かつてより、さまざまなことが衰えたことに嫌でも気づかされる“終わりの始まり”で、現に「中年クライシス」という言葉もある。私自身もアラサーの頃、自分が40歳になるイメージがまったくつかなかった。上から見た滝は落ちている先が見えない。そんなように年を取った自分なんて絶頂期の自分には想像もつかず、そもそも想像すらしなかった。

 しかしながら生きていれば年を取る。滝の先にも川が続いていることに気がつくのが、「アフター・アラサー」の世界だ。そこにだって、前には気づかなかった良いものがあると、その世代の中にいる一人として本当に思うが、やはり姿かたちはわかりやすく若い方がいいのだ。気を抜くとすぐ腹につくようになった肉。「あーあ」という中で、それでも日々を生きていく。外見を商売にしているホストとなれば、なおさら「あーあ」感は日々積み重ねられるのだろう。

 42歳の伯爵は、不慣れな手つきでTikTokの動画を作り投稿する。作った動画も若者ノリで、それがかえって伯爵が若者じゃないことを浮き彫りにしており、もしかして伯爵は自分のことをいまだに24歳くらいに思っているのでは、とうすら寒い気持ちにもなった。しかし、滝の先にある人生を伯爵は奮闘し生きているのだと思うと、もう、それだけで同世代としては頑張れとしか言えない。伯爵は確かに42歳にしては、いろいろ足りないところもあるが、一方でそれゆえの「作った」感のない天真爛漫さや愛嬌があるのだ。欠点は魅力なんだとつくづく思う。

 TikTok効果と愛嬌もあってか、伯爵のもとにはボトルを入れてくれる男性客や、高い酒でなく焼酎のボトルしか入れられないことを詫びる21歳の女子が来店する。その女子に対し「(月末の売り上げランキング発表を)一緒に見てくれるだけでいい」とキザでいながら女心をくすぐるセリフが自然と出ていた伯爵はさすが見事にホストだった。

 次回、5月12日のザ・ノンフィクションも舞台は歌舞伎町。「歌舞伎町で生きる~その後の沙世子~」、26歳沙世子ママの日々を追う。

石徹白未亜(いとしろ・みあ)
ライター。専門分野はネット依存、同人文化(二次創作)。著書に『節ネット、はじめました。』(CCCメディアハウス)。
HP:いとしろ堂

『ザ・ノンフィクション』カタギを志した元ヤクザ・タカシが覚せい剤で挫折するまで――「その後の母の涙と罪と罰」

 NHKの金曜夜の人気ドキュメント番組『ドキュメント72時間』に対し、こちらも根強いファンを持つフジテレビ日曜昼のドキュメント『ザ・ノンフィクション』。4月21日放送は『その後の母の涙と罪と罰』。更生しようとした元ヤクザのタカシ(仮名)が挫折し、覚せい剤に手を染めていくまでの過程を追ったものだ。

あらすじ:出所後、覚せい剤の使用で逮捕されるまで

 今回の主人公・タカシ(28)は顔にぼかしが入っていたが、人との会話や接し方を見ると屈託がなくノリも軽い。親の離婚後以降、母親に会っておらず、中学から不良仲間とつるみ学校にはほとんど行かなくなり、漢字の「奮闘」が読めないほど勉強は苦手。17歳のとき、所持金2万円で岩手から歌舞伎町に上京する。歌舞伎町でホストになったものの、「かっこいいから」という理由でヤクザになり、薬物売買で逮捕された。

 出所後、立ち直りたいと思い、ネットで偶然知った「罪人の友・主イエスキリスト教会」に身を寄せる。母親が経営していたスナックを改装、現在、教会として運営する進藤牧師やサポートスタッフの学さん(両氏とも元ヤクザで、薬物依存を乗り越えた)からも可愛がられ、屈託のないタカシは、パッと見、「ダメさ」が見えにくい。

 タカシは、介護の仕事を志し職業訓練学校に通い、元ヤクザの経歴を知りつつ受け入れてくれる施設も見つけ、最初は茶目っ気も生かしつつ真面目に働き「(これで自分は)ニートじゃないからね」と笑っていた。しかし、3カ月で仕事に行かなくなり、無断欠勤が続く。同じアパートに暮らす牧師の母親や教会スタッフも気にかけて連絡をとるが、昼夜が逆転していき、鬱になり、ますます一日中横になるように。そして、2018年11月に覚せい剤の使用で捕まってしまう。

 しかし、なぜタカシは仕事に「介護」を選んだのだろう。したことがない人間でも、非常に大変な仕事だというのはよくわかる。常に人手不足で「なりやすい」点はあったのかもしれない。

 ナレーションでさらっと「通勤は4時間」と言っていたが、ただでさえハードな仕事に加え、通勤4時間は相当きつい。タカシは居心地が良く、家族のようだと話す教会の目の前にアパートを借りていた。職場に近いところに引っ越したら、教会という拠り所をなくしてしまう。家の近所で、雇ってくれるところがなかったのだろうかとも思うが、それまでの経歴が尾を引き、見つからなかったのかもしれない。

 また、タカシの就労条件については「夜勤がある」としか触れられていなかったものの、これが週5~6日のフルタイム勤務だとしたら、“カタギデビュー”にしては、最初から飛ばしすぎに思える。金銭的な余裕もおそらくないことから、「いきなりフルタイム」だった可能性が高いが、時短勤務だったり週2~3勤務から始められなかったのだろうか。

 無断欠勤を続け、最終的には介護施設から解雇されてしまい、タカシは昼夜が逆転し、鬱になり、いつも「だるい」と口走り、態度はどんどん投げやりになっていく。欠勤を続けている間も施設に連絡すら入れず、「辞めたい」と言うことさえできないタカシは、確かにだらしない。しかし、せっかくの立ち直りの第一歩で挫折してしまったことが、タカシ自身も相当ショックだったのだろう。

社会人デビューで挫折するのは、誰でもきつい

 私も二度の正社員退職経験があるが、どちらも理由は「嫌でツラかったから」だ。いまだに、退職時に「今の会社には、なんら不満がなく、ステップアップとしての前向きな退職」と、キラキラした理由を挙げる人には嫌悪感を覚える。そのくらい、「ほかの皆ができている、我慢できていることを、なぜ自分だけできないんだろう」という自問を抱えることの後ろめたさを理由に退職するのは、心をえぐるような挫折経験として残る。

 しかし嫌でつらくて会社をやめる辞める人などゴマンといるし、たいていの人がそれで会社を辞めるのだ。「やりたいと思ってやってみたけどダメだった」なんて普通だ。カタギの社会人デビューの復帰初回で挫折するのはきつかっただろうが、だからこそ、立ち直るときに「これ一本」に賭けるのは、リスクが伴うのではないかと思う。

「奮闘」という漢字をタカシが読めないシーンを入れたのは、タカシに必要なのは、ここが正念場だとしゃにむに頑張る「奮闘」なのだという、制作サイドのメッセージ……と、受け取るのは穿ちすぎ深読みしすぎかもしれない。しかし、3カ月で折れたタカシを見ると、奮闘よりも大切なのは、むしろ「頑張りすぎない、でも折れない」と、ゆっくりと行く姿勢だったのではないかとも感じる。経済的な状況がそれを許さなかったのかもしれないが。

 誰しも、ここは奮闘せねばならない正念場はあるが、それは、自分に「イケる」というある程度の自信がないと、乗り越えるのはキツいはずだ。「イケる」手ごたえを体得するには、家庭環境が大きく関係するのではないかと、正直思う。不遇な環境をバネにし立ち上がる人もいるが、それはよほど心が強いケースだろう。タカシは「奮闘」が読めないのだから勉強に自信がなく、そして介護施設を無断欠勤の末に解雇されたことで、また自信の芽は摘まれてしまった。

 タカシは両親の離婚後以降、母親に会えていないが、その詳細はドキュメントでは触れられていない。「母親に本当に会いたくなかった」のであれば、まだいいが、タカシが意地を張ってそう言っていたり、また、母親の方に会う気がなかったり、お互い会いたかったものの周囲がそうさせてくれなかった、またあるいは、タカシが周囲を察して会うのを諦めていたのであれば、子どもだったタカシにはきつい“諦め”の経験だろう。

 そして、タカシ自身も過去に交際女性との間に子どもをもうけた父親であるが、妻に去られて以降、子どもに会えていないという。母親に会えない子どもだったタカシが、父親に会えない子どもをつくっている。

 つらい家庭で育った人が、なぜか似たようなつらい家庭をつくり、時にタカシのケースよりもずっと悲惨な結末を迎えるケースは後を絶たない。なぜこういった連鎖が起きるのか、以前カウンセラーの南波実穂子氏を取材した際に、「人間の無意識は変わらないことをよしとするので、よくない状況であっても繰り返してしまう傾向はある」と伺った。

 人は意識せず、幼少期からの行動パターンを繰り返す。タカシにとっては未経験の “カタギとしての日々の幸せ”というあやふやなものよりも、すでに身に覚えのある“(教会に入り変えたいと思った前の)自堕落な生活”の到来にほっとしてしまうのかもしれない。

 知っている不幸に自ら進んでいかないためには「奮闘」と「頑張りすぎない、でも折れない」の二つで乗り越えていくしかないのだろうが、これは年を追うごとに、相当難しく、厳しくなっていくようにも思える。

 次回の『ザ・ノンフィクション』(5月5日放送)は、番組ザ・ノンフィクションファンにはおなじみの42歳現役ホスト「伯爵」による『ザ・ノンフィクション もう一度、輝きたくて(仮)』と、子どもの日にウズウズするような一本だ。

石徹白 未亜(いとしろ・みあ)
ライター。専門分野はネット依存、同人文化(二次創作)。著書に『節ネット、はじめました。』(CCCメディアハウス)。
HP:いとしろ堂

クドカンドラマにおける“ジャニーズ代表”の役割を果たした、『いだてん』生田斗真

 大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』(NHK)は、1964年の東京オリンピック開催に向けて尽力した人々の姿を描いた群像劇だ。第1章となるこの3カ月(1~13話)は、明治後期を舞台に、金栗四三(中村勘九郎)と三島弥彦(生田斗真)がストックホルム五輪に日本人として初出場する姿が描かれた。

 後に「日本マラソンの父」と呼ばれる金栗四三は、オリンピック出場者を決める予選会でマラソンの世界記録を更新して優勝し、日本初のオリンピック選手に選ばれる。一方、三島弥彦は財閥の御曹司。数々のスポーツ選手権に参加しては華やかな記録を残し“痛快男子”と呼ばれていた。スポーツの勝敗にこだわらない三島は、オリンピックにも興味はなかったが、アジア初のIOC委員で選手団団長を務める嘉納治五郎(役所広司)の推薦で金栗と共にオリンピックに出場することになる。

 脚本は「クドカン」こと宮藤官九郎。2013年に大ヒットした連続テレビ小説『あまちゃん』(同)のチームが再結集した本作は、宮藤にとってキャリアの総決算となる作品だ。  そのため、阿部サダヲ、星野源、松尾スズキといった宮藤が所属する劇団・大人計画の面々はもちろんのこと、勝地涼、峯田和伸、神木隆之介、橋本愛、小泉今日子といった過去のクドカンドラマ出演者が総出演している。

 中でも、注目すべきは三島を演じる生田である。

 生田はジャニーズ事務所に所属する俳優だ。宮藤の脚本では連続ドラマ『うぬぼれ刑事』(TBS系)、三池崇史監督の映画『土竜の唄』シリーズ、劇団☆新感線の舞台『Vamp Bamboo Burn~ヴァン!バン!バーン!~』に出演。宮藤は気心の知れた盟友だと言える。

 そもそも、宮藤はTOKIO・長瀬智也主演の『池袋ウエストゲートパーク』(TBS系)やV6・岡田准一と嵐・櫻井翔が主演を務めた『木更津キャッツアイ』(同)といったジャニーズアイドルの主演ドラマを多数執筆している。華やかなジャニーズアイドルを、バカでエッチな年相応の男子として描くことで、宮藤は俳優としてのポテンシャルを引き出し、宮藤自身も脚本家としてのキャリアを重ねてきた。

 その意味で、『いだてん』における生田の役割は、本人の魅力もさることながら、クドカンドラマに参加してきた“ジャニーズアイドル代表”という側面が大きい。

 それを強く感じたのは、生田が初登場した第1話。生田演じる三島は、天狗倶楽部というスポーツ同好会を結成したメンバーの一人だが、その天狗倶楽部は「現代のパリピ」とでも言うような男集団で、すぐに上半身裸になってビールを飲んではバカ騒ぎする。この天狗倶楽部、実在した集団らしいが、彼らの姿を見た時、『木更津キャッツアイ』に出てくる、地元で草野球をしてはビールばかり飲んでいる、おバカな男の子たちを思い出した。

 三島は、ドヤ顔でやけにもったいぶった“タメの利いた”しゃべり方をするが、その姿は『木更津キャッツアイ』で岡田が演じた主人公・ぶっさんと重なる。カッコよくて繊細なのに、自己愛が強すぎてどこかユーモラス。だからこそ、男から見ても好感が持てる。そんな男の子を、宮藤はジャニーズアイドルに演じさせてきたが、三島もまた、カッコよくておもしろい男だ。

 そして生田は、痛快男子の三島を華やかなスターとして演じると同時に、育ちのいいお坊ちゃんゆえの弱さを演じきった。

 日本人初のオリンピック参加のため、シベリア鉄道でストックホルムに向かう三島たち。国を離れたことで愛国心を自覚して意欲を高める金栗に対して、三島は長旅によって疲弊していく。

 現地に到着してからも、外国人選手との身体能力の差、監督の大森兵蔵(竹野内豊)が体調不良で練習に付き添えないこと、世界新記録を出した金栗ばかりがマスコミから注目されることに対する嫉妬など、さまざまなプレッシャーでストレスを感じ、やがてホテルの窓から飛び降りようとしてしまう。今まで自信満々の姿を見せていただけに、弱っていく三島の姿はとてもショックだ。

 「ぼくは勝ち負けにはこだわらない。むしろ、ぼくは一度くらいは負けてみたいと思っている」と得意げに語っていた三島は、世界の壁に直面し自信を失う。それでも、金栗や大森たちに支えられて、なんとか100メートルの予選に参加。結果こそ最下位だったものの自己新記録を記録し、さわやかな笑顔を見せる。ここで生田の見せた笑顔が、実に素晴らしい。

 劇中で、やたらと脱いでは肉体美を披露する三島を見て、生田を脱がせたくて役に起用したのかと思っていたが、おそらく、この笑顔を一番見せたかったのだろう。自分の限界に直面して、それを受け入れた人間だけが持つ清々しさと寂しさが垣間見える、なんとも言えない表情だ。

 三島は予選敗退。金栗もマラソンを途中退場してしまうが、勝敗を超えたところにあるスポーツに挑む選手たちの美しさが描かれていた。まだまだ続いていく『いだてん』だが、クドカンドラマにおけるジャニーズアイドル代表として、生田は見事、その役割を果たしたと言えよう。
(成馬零一)

『I”s』『ゆうべはお楽しみでしたね』岡山天音、情けない若者を演じる独自の存在感

 今クールの連続ドラマを見ていると、岡山天音が出演する作品が3本もある。1本はすでに終了している『ゆうべはお楽しみでしたね』(MBS系)。オンラインRPG「ドラゴンクエストX」を楽しんでいた男女が、同棲することになるラブコメディだ。

 岡山が演じたのはアニメショップで働く、さつきたくみ。ゲーム内では「パウダー」というかわいいキャラクターを使っている。そんなたくみにルームシェアを持ちかけたのは、ゲーム内ではマッチョで男らしいキャラのゴロー。実は、ゴローを操作しているのはネイルサロンで働くおかもとみやこ(本田翼)というおしゃれな女性だ。学生時代に好きな人から振られたトラウマを抱えるたくみは女性が苦手だったが、サバサバしたみやこと暮らすことで、少しずつ変化していく。ドラマは淡々と2人の日常を描いているが、結果的にたくみの成長物語となっているのが見どころだろう。

 たくみのような繊細な内面を抱えた情けない青年を演じさせると、岡山は抜群にうまい。昨年12月末にBSスカパー!でスタートして、3月8日より後半話が放送され『I”s』で演じている主人公の少年・瀬戸一貴もそういう存在だ。本作は「週刊少年ジャンプ」(集英社)で1997から2000年に連載されていた桂正和の同名漫画をドラマ化したもの。『電影少女』(同)などで知られる桂の漫画は、思春期の男の子がドキドキする少女を色っぽく描くことに定評がある作家で、ドラマ版でも白石聖が演じるヒロイン・葦月伊織を筆頭に、かわいい女の子が次々と登場し、ウブな一貴は翻弄される。

 岡山が演じる一貴は、“逆走くん”と劇中では言われており、自分の気持ちを素直に出せず好きな女の子にキツくあたってしまう。でも、根っこは優しい少年で、そういう思春期の男の子が持つ、ちぐはぐな感情を、岡山は丁寧に演じている。また、一貴の中には繊細な優しさと、キレると何をやらかすかわからない暴力性が同居しているが、特徴的なタレ目と離れ目が、そのときは不気味に見え、迫力と転じることがある。今は優しい青年役が多いが、変質者や殺人犯の役を演じたら、さぞかしハマることだろう。

 この2作では、やや自意識をこじらせためんどくさい内面を抱えた男を演じているが、『デザイナー 渋井直人の休日』(テレビ東京系)で演じる杉浦ヒロシは人当たりのいい好青年だ。

 本作は、光石研が演じるデザイナー・渋井直人を主人公としたドラマで、ヒロシは渋井のアシスタント。今時の若者らしく、失礼なことをズケズケと言うこともあるが、渋井のことを尊敬しており、渋井も大事な仲間だと思っている。つまりおっさんから見た、愛すべき若者とでも言うような存在で、第6話では渋井と杉浦の仲が深まるシーンも描かれており、3作の中では一番ハートウォーミングで見やすい作品だ。

 これら作品での描かれ方を見ると、どこか頼りないが繊細で優しい10代後半〜20代前半の若者といえば岡山天音というイメージが定着しつつあるのがわかる。

 岡山は現在24歳。安藤サクラや門脇麦といった若手実力派俳優を有する芸能事務所・ユマニテに所属している。09年に『中学生日記』(Eテレ)で俳優デビューし、数々のドラマや映画に出演しているが、大きく注目されたのは、17年の連続テレビ小説(以下、朝ドラ)『ひよっこ』(NHK総合)だろう。

 本作は1960年代を舞台にした朝ドラで、岡山が演じたのはコンビの漫画家・つぼ田ちぼ助として、相棒の坪内祐ニ(浅香航大)と共に漫画家を目指す新田啓輔。なかなかデビューできずにいる情けない青年だが、素朴な姿に可愛げがあり、作中ではムードメーカー的な存在だった。

 主演の有村架純を筆頭に、『ひよっこ』は女性陣の活躍が目立つドラマで、登場する男性は、竹内涼真が演じた慶応ボーイの島谷を除くと、どこか頼りない人ばかり。そのため、本編では縁の下の力持ちに甘んじていたのだが、『ひよっこ』終了後には他作品に立て続けに出演し、独自の存在感を見せつつある。

 すでにブレークしている竹内は別格として、『ひよっこ』男性陣の泉澤祐希、浅香航大、古舘佑太郎、磯村勇斗、そして岡山の5人は今年もっとも期待できる若手だと言えよう。中でも岡山の強みは、かっこ悪くて情けない青年役を愛嬌のある形で演じられることにある。

 5月からはメ~テレ(名古屋テレビ)制作の深夜ドラマ『ヴィレヴァン!』で、ヴィレッジヴァンガードで働く大学生役で主演を務めることが決まっている。まだ深夜枠の小さい作品が多いが、プライムタイムのドラマで主演を務める日も、そう遠くはないだろう。

 その時はぜひ、『ふぞろいの林檎たち』(TBS系)のような泥臭い青春群像劇に出演してほしい。今の岡山ならば若者の心を掴むような情けない青年を演じられるはずだ。
(成馬零一)

『I”s』『ゆうべはお楽しみでしたね』岡山天音、情けない若者を演じる独自の存在感

 今クールの連続ドラマを見ていると、岡山天音が出演する作品が3本もある。1本はすでに終了している『ゆうべはお楽しみでしたね』(MBS系)。オンラインRPG「ドラゴンクエストX」を楽しんでいた男女が、同棲することになるラブコメディだ。

 岡山が演じたのはアニメショップで働く、さつきたくみ。ゲーム内では「パウダー」というかわいいキャラクターを使っている。そんなたくみにルームシェアを持ちかけたのは、ゲーム内ではマッチョで男らしいキャラのゴロー。実は、ゴローを操作しているのはネイルサロンで働くおかもとみやこ(本田翼)というおしゃれな女性だ。学生時代に好きな人から振られたトラウマを抱えるたくみは女性が苦手だったが、サバサバしたみやこと暮らすことで、少しずつ変化していく。ドラマは淡々と2人の日常を描いているが、結果的にたくみの成長物語となっているのが見どころだろう。

 たくみのような繊細な内面を抱えた情けない青年を演じさせると、岡山は抜群にうまい。昨年12月末にBSスカパー!でスタートして、3月8日より後半話が放送され『I”s』で演じている主人公の少年・瀬戸一貴もそういう存在だ。本作は「週刊少年ジャンプ」(集英社)で1997から2000年に連載されていた桂正和の同名漫画をドラマ化したもの。『電影少女』(同)などで知られる桂の漫画は、思春期の男の子がドキドキする少女を色っぽく描くことに定評がある作家で、ドラマ版でも白石聖が演じるヒロイン・葦月伊織を筆頭に、かわいい女の子が次々と登場し、ウブな一貴は翻弄される。

 岡山が演じる一貴は、“逆走くん”と劇中では言われており、自分の気持ちを素直に出せず好きな女の子にキツくあたってしまう。でも、根っこは優しい少年で、そういう思春期の男の子が持つ、ちぐはぐな感情を、岡山は丁寧に演じている。また、一貴の中には繊細な優しさと、キレると何をやらかすかわからない暴力性が同居しているが、特徴的なタレ目と離れ目が、そのときは不気味に見え、迫力と転じることがある。今は優しい青年役が多いが、変質者や殺人犯の役を演じたら、さぞかしハマることだろう。

 この2作では、やや自意識をこじらせためんどくさい内面を抱えた男を演じているが、『デザイナー 渋井直人の休日』(テレビ東京系)で演じる杉浦ヒロシは人当たりのいい好青年だ。

 本作は、光石研が演じるデザイナー・渋井直人を主人公としたドラマで、ヒロシは渋井のアシスタント。今時の若者らしく、失礼なことをズケズケと言うこともあるが、渋井のことを尊敬しており、渋井も大事な仲間だと思っている。つまりおっさんから見た、愛すべき若者とでも言うような存在で、第6話では渋井と杉浦の仲が深まるシーンも描かれており、3作の中では一番ハートウォーミングで見やすい作品だ。

 これら作品での描かれ方を見ると、どこか頼りないが繊細で優しい10代後半〜20代前半の若者といえば岡山天音というイメージが定着しつつあるのがわかる。

 岡山は現在24歳。安藤サクラや門脇麦といった若手実力派俳優を有する芸能事務所・ユマニテに所属している。09年に『中学生日記』(Eテレ)で俳優デビューし、数々のドラマや映画に出演しているが、大きく注目されたのは、17年の連続テレビ小説(以下、朝ドラ)『ひよっこ』(NHK総合)だろう。

 本作は1960年代を舞台にした朝ドラで、岡山が演じたのはコンビの漫画家・つぼ田ちぼ助として、相棒の坪内祐ニ(浅香航大)と共に漫画家を目指す新田啓輔。なかなかデビューできずにいる情けない青年だが、素朴な姿に可愛げがあり、作中ではムードメーカー的な存在だった。

 主演の有村架純を筆頭に、『ひよっこ』は女性陣の活躍が目立つドラマで、登場する男性は、竹内涼真が演じた慶応ボーイの島谷を除くと、どこか頼りない人ばかり。そのため、本編では縁の下の力持ちに甘んじていたのだが、『ひよっこ』終了後には他作品に立て続けに出演し、独自の存在感を見せつつある。

 すでにブレークしている竹内は別格として、『ひよっこ』男性陣の泉澤祐希、浅香航大、古舘佑太郎、磯村勇斗、そして岡山の5人は今年もっとも期待できる若手だと言えよう。中でも岡山の強みは、かっこ悪くて情けない青年役を愛嬌のある形で演じられることにある。

 5月からはメ~テレ(名古屋テレビ)制作の深夜ドラマ『ヴィレヴァン!』で、ヴィレッジヴァンガードで働く大学生役で主演を務めることが決まっている。まだ深夜枠の小さい作品が多いが、プライムタイムのドラマで主演を務める日も、そう遠くはないだろう。

 その時はぜひ、『ふぞろいの林檎たち』(TBS系)のような泥臭い青春群像劇に出演してほしい。今の岡山ならば若者の心を掴むような情けない青年を演じられるはずだ。
(成馬零一)

『レ・ミゼ』『モンテ・クリスト伯』をまっとうした、ディーン・フジオカの“異物感”

 1月5日、ディーン・フジオカと井浦新がダブル主演を務めたスペシャルドラマ『レ・ミゼラブル 終わりなき旅路』(フジテレビ系)が放送された。

 本作は1862年に執筆されたヴィクトル・ユーゴーの大河小説を、現在の日本に置き換えた物語だ。原作は1枚のパンを盗んだことで19年間の監獄生活を送ることになったジャン・ヴェルジャンの生涯を描いたもの。そこにフランス革命を筆頭とするフランスの政治状況が重ねられるが、本作では、平成という時代の始まりから終わりにかけての日本の状況が重ねられている。

 主人公の馬場純(ディーン・フジオカ、若年期は吉沢亮)は、母親を詐欺でハメた男を事故死させたことで逮捕される。2年後、死期間近の弟に一目会うために脱獄。しかし、弟はすでに亡くなっていて、失意の馬場は自殺を図ろうとするが、すんでのところで徳田浩章(奥田瑛二)に救われる。彼の経営する自立支援施設「徳田育成園」で正体を隠して暮らしていると、そこで渡辺巧海(村上虹郎)と出会う。渡辺は馬場の正体に気づくが、彼のことを受け入れ、2人は親友となる。

 そんな中、1995年、阪神・淡路大震災で建物の下敷きになった渡辺は、死の間際、馬場に「渡辺拓海として生きろ」と告げる。9年後、馬場は渡辺巧海として暮らしていた。渡辺の夢だった弁護士となった馬場は、貧しい人々のために働いていたが、ある日、馬場の行方を探している斎藤涼介(井浦新)という男が現れる。斎藤は、馬場が殺した男の息子だった――。

 正体を隠して逃亡する男という役は、ディーンが自ら監督・主演を務めた映画『I am ICHIHASHI 逮捕されるまで』で演じた、殺人逃亡犯・市橋達也役を彷彿とさせるものがあり、ディーンのポテンシャルが発揮されていた。馬場を追う刑事を演じるのが、昨年『アンナチュラル』(TBS系)で再ブレークした井浦新というのも見事な配役で、とても見応えのあるヒューマン・ドラマだった。

 『レ・ミゼラブル』は、昨年放送された同じくディーン・フジオカ主演の『モンテ・クリスト伯―華麗なる復讐―』(同)の成功を引き継ぐ形で作られた作品だ。こちらは、1844~46年にかけてフランスの新聞で連載された人気小説が原作。政治犯の容疑をかけられ軟禁された、船乗りのエドモン・ダンテスが14年後に脱獄し、自分を罠に嵌めた3人の人間に復讐するという復讐譚で、日本では『巌窟王』としても知られる。ドラマは、時代設定を現代の日本に置き換え、冤罪で異国の監獄に8年間監禁された柴門暖(ディーン)が、監獄で知り合ったラデル共和国の元大統領・ファリア真海(田中泯)の財産を受け継ぎ、モンテ・クリスト・真海と名前を変えて自分を嵌めた犯人を倒そうとする復讐譚となっていた。

 物語のトーンはシリアスで重厚だが、18世紀のフランス小説を現代日本に当てはめたためか滑稽なところもあり、放送当時は、“半分シリアス半分ギャグ”として受け入れられた。傑作というよりは怪作とでもいうような作品で、印象としては『真珠夫人』や『牡丹と薔薇』(ともにフジテレビ系)といった、東海テレビの昼ドラに近い。特に、役者の演技にそれが現れていて、稲森いずみや山口沙也加が演じる悪女は明らかにやりすぎなのだが、それがやみつきになる。そんな、浮世離れした世界に説得力を与えていたのが、ディーンの“異物感”だ。

思わせぶりな芝居が醸す「異物感」の使い方
 連続テレビ小説『あさが来た』(NHK)で、明治時代に日本のために尽力した実業家・五代友厚役を演じて以降、ディーンは人気俳優となった。しかし、ディーンの芝居は思わせぶりすぎて、何をやっても含みがあるように見えてしまう。そのため、ドラマ『ダメな私に恋してください』(TBS系)でヒロインを支える元上司役や、映画『空飛ぶタイヤ』の会社員など、普通の人を演じると妙に浮き上がって感じた。

 一方、映画『結婚』で演じた結婚詐欺師や『I am ICHIHASHI 逮捕されるまで』の殺人逃亡犯のような、“謎の男”となると、ポテンシャルが発揮される。とはいえ、素性を隠した犯罪者役ばかりを演じるわけにもいかないだろうし、ディーンは今後は難しいのではないかと感じていた。

 そんな中、『モンテ・クリスト伯』はハマった。それは、過去の海外小説を現代日本に置き換えることで生じた“違和感”が、ディーンの“異物感”とうまくフィットしたからだろう。

 このシリーズ、是非、ディーン主演で今後も続けてほしい。正月に楽しむにはもってこいの、こってりとしたドラマである。
(成馬零一)

『アンナチュラル』『宇宙を駆けるよだか』……2018年ドラマ名シーンベスト3を選出

――『キャラクタードラマの誕生』(河出書房新社)『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ』(宝島新書)などの著書で知られるドラマ評論家・成馬零一氏が、2018年放送のドラマから名シーンベスト3をピックアップ。

1位 『アンナチュラル』第5話

 『アンナチュラル』(TBS系)は不自然死の理由を解明する架空の研究機関・UDIラボを舞台にした作品で、法医解剖医の三澄ミコト(石原さとみ)たちUDIのメンバーが魅力的だった。中でも、妻を殺した犯人を探す法医解剖医の中堂系(井浦新)が素晴らしかったが、そんな中堂の哀しさが炸裂したのが第5話。

 物語は、溺死した妻の死因を調べる鈴木巧(泉澤祐希)が、妻の遺体を葬儀場から盗み出し、UDIラボに調査依頼するところから始まる。やがて、死因は自殺ではなく他殺だとわかるが、自殺を偽装した何者かがいるという推理を中堂は鈴木に伝える。

 鈴木は、知人の女性が妻を殺したと確信し、葬儀場に来ていた犯人をその場で刺してしまう。映像はスローモーションになり、米津玄師の挿入歌「Lemon」が流れる。粉雪が舞い散る中、あぜんとするミコトたち。そんな中、中堂だけは虚ろな目で宙を見上げている。自分と同じ境遇の鈴木が復讐を遂げたことに納得しながらも、同時に哀しんでいるようにも見える複雑な表情である。

 ここから物語は折返し地点に入り、妻を何者かに殺された中堂が、鈴木のように犯人を殺すのか? というクライマックスへ向かっていくことになるが、この場面は哀しさと美しさが備わった名シーンだった。

 『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)は、天空不動産という会社に務める33歳の春田創一(田中圭)が、ある日、部長・黒澤武蔵(吉田鋼太郎)と、ルームシェア中の後輩・牧凌太(林遣都)から告白され、三角関係に思い悩む物語だ。漫画では定番化しているBL(ボーイズラブ)の構造を持ち込むことで、新しい恋愛ドラマに仕上がっていた。

 個人的に面白かったのは黒澤部長の描写。吉田鋼太郎の演技もあってか、チャーミングなおじさんの一面も見えるのだが、一方で、春田への振る舞いは、上司という立場で部下に交際を迫るパワハラではないか? という批判も多かった。確かに仕事中に春田を盗撮したり、仕事にかこつけて会おうとする行為は職権乱用で、もしも男性上司が女性社員に同じことをやったら、もっとグロテスクに感じていただろう。おそらく、作り手サイドもそこは自覚していたのではないかと思う。

 第4話で部長の告白に対して春田が断る場面は、その回答に見えた。

 「ごめんなさい」と謝る春田に対して「駄目なのは俺が上司だから? それとも男だから?」と尋ねる部長。この台詞だけでもすごいのだが、春田の「理想の上司だと心から思ってます」と言った後で、でも、この気持ちは「恋愛感情じゃないんです」と言い、「純粋な上司と部長の関係に戻りたいんです」と伝えるのが素晴らしい。優柔不断な春田が、彼なりに一生懸命考えて、誠実に答えたのが見ていて伝わってくる。

 春田の言葉を聞いて、自分がパワハラに等しいことをして、春田を困らせていたことに気づいた部長は毅然とした態度に戻り、春田の元から去っていく。遠くに見えるネオン街の光が割れたハートになっている芸の細かさも含めて、名シーンである。この後、物語は二転三転するのだが、この場面があったことで『おっさんずラブ』に対する信頼が、自分の中で高まった。

3位 『宇宙を駆けるよだか』第1話

 『宇宙を駆けるよだか』(Netflix)は、容姿の美醜という題材を扱っているため、見ていて苦しい。そのため、視聴を続けるか最初は迷うのだが、あるシーンを見て、このドラマは「大丈夫」だと思った。

 物語は容姿がかわいくて明るい女子高生・小日向あゆみ(清原果耶)が、幼馴染で彼氏の水本公史郎(神山智洋 ジャニーズWEST)と初デートをしている時に、クラスメイトの、太っていて陰気な女子高生・海根然子(富田望生)が飛び降り自殺するところを目撃してしまうところからはじまる。飛び降りを目撃したことで、なぜか、海根と容姿が入れ替わってしまったあゆみ。そのことを誰にも信じてもらえず、あゆみは学校でどんどん孤立していくのだが、もう一人の幼馴染・火賀俊平(ジャニーズWEST・重岡大毅)だけは、あゆみだと気づいてくれる。

 あゆみの絶望が伝わってきて、序盤はとても苦しいのだが、30分前後から始まる火賀とのやりとりと「どんな姿しててもわかるよ。あゆみは、あゆみなんやから」という言葉に救われる。重岡の話す気さくな関西弁はとても心地よく、劇中の役割を超えて「彼がいるなら安心できる」という気持ちにさせてくれた。

名シーンはクライマックスには生まれない

 これら名シーンは、それぞれのドラマにおける大きな転換点に配置されている。劇場で結末まで見終わる映画と違い、連続ドラマは複数の話を見せて、最後まで完走させないといけない。『宇宙を駆けるよだか』のようなハードな作品は特にそうだが、視聴者は不安を抱えながら見ているため、早く「このドラマは見ても大丈夫」という確信が欲しい。そんな中で、作り手の「大丈夫」というサインが成功すると、今までの不安は安心と信頼へと変わる。だからこそ、ドラマの名シーンはクライマックスではなく、転換点に生まれるのだ。

神尾楓珠、伊藤健太郎、ジャニーズWEST・重岡大毅――今年ブレークしそうな若手俳優8人

――『キャラクタードラマの誕生』(河出書房新社)『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ』(宝島新書)などの著書で知られるドラマ評論家・成馬零一氏が、2019年に活躍が期待される若手イケメン俳優を選出。正統派からジャニーズやEXILEまで、幅広い8人に要注目だ。

 昨今のテレビドラマは主要キャストが高齢化しており、30代後半~50代の役者が主役を張ることが当たり前となっている。それと同時に、10~20代の若手俳優の席は年々少なくなってきている。

 EXILE HIROがプロデュースするドラマ『PRINCE OF LEGEND』(日本テレビ系)の「王子様が大渋滞」というキャッチコピーが象徴的だが、男性アイドルや若手イケメン俳優の数は年々増加しており、少ない席を奪い合っているのだから、イケメン受難の時代である。しかし、そんな状況でも、若手俳優は育っている。

一気にブレークしそうな神尾楓珠

 『中学聖日記』(TBS系)で俳優デビューとなった岡田健史(19)は、有村架純が演じる女性教師に恋心を抱く中学生男子の役を好演した。演技経験がないため、ぎこちない芝居となったが、それが思春期男子の悶々とした、もどかしい気持ちに説得力を与え、初々しい輝きを放った。今後が楽しみな若手だ。

年上女性に恋する男子高校生役という意味では、『恋のツキ』(テレビ東京系)の神尾楓珠(19)も素晴らしかった。神尾は『監獄のお姫さま』(TBS系)など、これまでドラマや映画とさまざまな作品に脇役で出ていたが、今作では切れ長の目が印象的な少年を好演している。『中学聖日記』と違い、本作のカップルは性欲全開でエッチなシーンもたくさんあったが、激しい性欲がそのまま恋愛の渇望感につながっている姿が好感を持てた。来年一気にブレークしそうである。

 岡田と神尾が正統派だとすれば、演技派として要注目なのが志尊淳(23)。外見は女性だが実は男性で、恋愛対象も女性というトランスジェンダーのみきを演じた『女子的生活』(NHK)、漫画家を目指すゲイの青年・ボクテを演じた『半分、青い。』(同)と、難しい役柄に挑戦し、どちらも高い評価を得ている。『トドメの接吻』(日本テレビ系)で山崎賢人が演じた主人公のホストに屈折した愛憎を抱き、殺そうとするホストのカズマも素晴らしかった。

 もう1人『半分、青い。』で注目されたのが矢本悠馬(28)だろう。濱田岳の独壇場と思われた渥美清、西田敏行、阿部サダヲのラインを狙える喜劇俳優として今後は引っ張りだことなるはずだ。同作はほかにも佐藤健(29)、中村倫也(32)、間宮祥太朗(25)といった俳優が次々と登場して注目されたが、キャストが一部かぶっていた『今日から俺は!!』(日本テレビ系)も俳優を魅せるコメディドラマだった。

 脚本と演出を担当した福田雄一はコメディドラマの名手だが、柳楽優弥や山田孝之、山崎賢人といった二枚目俳優を、面白く魅せる手腕に長けている。福田ドラマでコメディを経験したことで、大きく飛躍したイケメン俳優はとても多い。

 『今日から俺は!!』も、主演の賀来賢人(29)を筆頭に、イイ男のオンパレードだったが、中でも注目なのが伊藤健太郎(21)だろう。以前は健太郎名義で活動しており、今年、本名の伊藤健太郎に改名して以降、勢いに乗っており、『アシガール』(NHK)で若殿様を演じた時から気になってはいたが、肩の力が抜けた軟らかい演技が見ていて心地よい。現在も『この恋はツミなのか!?』(MBS)で主演を務めている。

 EXILEは演技ができないと揶揄されてきたが、『HiGH&LOW』(以下、ハイロー)や『PRINCE OF LEGEND』のようなEXILE HIROがプロデュースする作品が増えたこともあってか役者が育っている。

  中でも『ハイロー』で山王連合会に所属していた岩田剛典(29)、鈴木伸之(26)、町田啓太(28)の3人は、いまやテレビドラマで引っ張りだこだ。特に岩田は、『崖っぷちホテル!』(日本テレビ系)と単発ドラマ『炎上弁護人』(NHK)の両作で、性格や振る舞いが軽いキャラを演じたことで、役者としてなにかをつかんだように見える。

ジャニーズ裏エースは重岡大毅

 ジャニーズ事務所はSMAPの解散以降、受難が続いており、若手が育ってない印象だったが、今年は最終兵器ともいえるKing&Prince(以下、キンプリ)がデビューし、その1stシングル「シンデレラガール」が主題歌となった『花のち晴れ~花男Next Season』(TBS系)で平野紫耀(21)が主演を務めた。

 先輩の嵐・松本潤が主演を務めた究極のイケメンドラマ『花より男子』(TBS系)の続編ということもあってか、このドラマ自体が王位継承セレモニーのように感じられた。また前作と同舞台の学園が寂れている状況は、ジャニーズの置かれている苦境を浮かび上がらせているようだった。しかし、この劣勢こそが平野たちKing&Princeに物語を与えていることは確かで、ジャニーズの未来を占う意味でも平野の動きには注目だろう。

 また、同じジャニーズで裏エースとでも言うような活躍を見せたのがジャニーズWESTの重岡大毅(26)。同グループの神山智洋(25)とダブル主演となった『宇宙を駆けるよだか』(ネットフリックス)では、絶望的な状況に陥ったヒロインを支える幼なじみの高校生を演じ、彼の気さくな関西弁に何度も救われる思いをした。

 映画『溺れるナイフ』も素晴らしかったが、役に恵まれるのも俳優の才能の1つ。年を重ねるほど、面白い俳優になるのではないかと思う。
(成馬零一)

田中圭、『獣になれない私たち』『おっさんずラブ』の根底にある“無自覚な色気”の正体

 水曜夜10時から放送されている『獣になれない私たち』(日本テレビ系、以下『けもなれ』)が最終回を迎える。

 物語の主人公は、IT企業で営業アシスタントとして働く30歳の女性・深海晶(新垣結衣)。晶の勤める会社はブラック企業で、ワンマン社長に仕事を押し付けられ疲弊している。交際4年目になる恋人の花井京谷(田中圭)は、仕事を辞めて引きこもりになった元恋人の長門朱里(黒木華)を心配して同居しているため、結婚できない。仕事でも恋愛でも行き詰まっていた晶は、ある日、行きつけのクラフトビールバーで、ミステリアスな会計士・根元恒星(松田龍平)と知り合う。

脚本は『けもなれ』と同じ新垣主演で人気作となった『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)の野木亜紀子。物語は大人の群像劇で、主要人物はみんな、仕事や恋愛の悩みを抱えている。最終話は、友達以上恋人未満である晶と恒星の関係がどうなるのか見どころだが、本作で一番おもしろかったのは、田中演じる京谷を中心とした三角関係の物語だ。

 京谷は晶のことを大事にしているものの、元恋人の朱里を見捨てることはできなかった。真面目で優しい男だが、それは優柔不断なだらしなさと表裏一体であり、その優しさゆえに晶のことを傷つけてしまう。しかも京谷は、恒星の元恋人の橘呉羽(菊地凛子)とも一夜を共にしてしまう。クールで危険な匂いがする恒星を演じる松田と対峙すると、京谷を演じる田中は野暮ったく「何でこいつがここまでモテるのだ?」と思ってしまうが、田中の無防備で誠実な笑顔を前にすると、ついついガードが甘くなってしまうのだろう。そして、いつの間にか心を許してしまい、離れられなくなってしまう。

 わかりやすいイケメンじゃないからこそタチが悪いのだろう。自分を飾らない自然な優しさゆえに周囲を翻弄してしまう京谷は、愛すべきクズ野郎である。そんな、どこにでもいそうだが絶対にいない男を、田中は屈託のない笑顔で難なく演じている。

田中は野木の脚本家デビュー作となったヤングシナリオ対象受賞作『さよならロビンソンクルーソー』(フジテレビ系、2010年)で主演を務めた。田中演じる主人公が心を病んだ恋人との関係に悩む姿を描いたドラマで、呉羽を演じる菊地もまた、恋人との関係に苦悩する女性として出演しており、本作のリメイク的なドラマが『けもなれ』だと言えるだろう。

 筆者が田中を初めて意識したのは、このドラマだった。彼の演じた、ゴミ清掃作業員の青年が、静かに鬱屈していくナイーブな姿は今でも鮮明に覚えている。

 田中は現在34歳。2000年から活動しているキャリアの長い俳優とはいえ、主演作は少なく、脇で印象に残る仕事をする存在だった。しかし今年、連続ドラマ『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)に出演したことで、大ブレークを果たす。33歳の会社員・春田創一(田中圭)が、上司の黒沢武蔵(吉田鋼太郎)と、ルームシェア中の後輩・牧凌太(林遣都)から告白され、男同士の三角関係に頭を悩ませる話だ。

 春田は、少し幼くて優柔不断なところがあるものの、基本的にはどこにでもいる30代の男だ。よく言えば無垢、悪くいえば鈍感な春田の行動に周囲の人々が振り回されることになり、個性豊かな面々の中心に無自覚で鈍感な春田がいるという人物相関図が、ドラマを面白くしていた。

 『東京タラレバ娘』(日本テレビ系)で演じた不倫するサラリーマンなど、田中は一見、ぱっとしないが、なぜかモテる男性を演じることが多い。『おっさんずラブ』の春田も『けもなれ』の京谷も、本人は無自覚なまま、周囲の人々の気持ちを吸い寄せて呑み込んでいく“愛情のブラックホール”とでも言うような存在だ。

 この無自覚な色気のようなものが、演技の枠を超えてタレント人気となっているのが、今の“田中圭ブーム”なのだろう。12月15日にはAbemaTVで『田中圭24時間テレビ』という番組まで放送される。

 高橋一生やムロツヨシなど、脇で堅実な仕事をしていた俳優が注目される傾向が近年強まっている。田中のブレークはその最たるものだが、『おっさんずラブ』の映画化も決まった今、この盛り上がりは、しばらく収まることはなさそうである。
(成馬零一)

ムロツヨシ『大恋愛~僕を忘れる君と』、“押し”だけじゃない引き算の演技の実力

 金曜午後10時から放送されている『大恋愛~僕を忘れる君と』(TBS系)が盛り上がっている。

 本作は34歳のエリート女医・北澤尚(戸田恵梨香)と、引っ越し屋のアルバイトをする41歳の中年男性・間宮真司(ムロツヨシ)の恋愛ドラマだ。マンションの引っ越し作業に来た真司が元小説家で、大好きだった小説『砂にまみれたアンジェリカ』の作者だと知った尚は真司に惹かれていき、エリート医師の井原侑市(TOKIO・松岡昌宏)との婚約も解消する。その後、尚が若年性アルツハイマー病の前段階の軽度認知障害(MCI)を患っていることが明らかになる。

 尚は、アルツハイマーの最先端医療の研究を行っている井原の下で治療を受ける中、真司と同棲。少しずつ病気が進行していく中、真司は何もできない自分に劣等感を抱くようになり、やがて自ら別れを告げる……。脚本は大石静。『セカンドバージン』(NHK)のようなメロドラマを得意とする脚本家だ。

 『大恋愛』は、お話自体は格差恋愛に難病モノを組み合わせたベタなものである。しかし、ストーリーの展開が絶妙で、どんどんと引き込まれていく。中でも折返し地点となる第5話には驚かされた。真司と尚が別れてから9カ月後、真司は小説家として復帰し、尚のことを書いた小説『脳みそとアップルパイ』を出版。なんとそれがベストセラーになる。

 主人公が恋人のことを小説にするという展開はよくあるが、それはヒロインが病死した後、過去を回想する形で最終回に登場する、大抵そのようなものだ。しかし本作は、中間地点に持ってくることで、格差恋愛を解消してしまったのだ。

 おそらく、大石にとって格差恋愛は前振りで、難病モノこそ書きたかったテーマなのだろうが、それを差し引いても予想外の展開である。ストーリーも驚かされるが、一番の見どころは、やはりキャスティングだろう。何より戸田恵梨香の恋人役にムロツヨシを持ってきたのが見事である。

 ムロは現在42歳。もともと、小劇場を中心に活躍する俳優だったが、2005年に本広克行の映画『サマータイムマシーン・ブルース』に出演して以降、映像作品の出演が増えていく。中でも『勇者ヨシヒコ』シリーズ(テレビ東京系)等で知られる福田雄一監督のコメディドラマの常連で、佐藤二朗と共に、福田ドラマの看板とでも言うべき存在だ。

 現在も『大恋愛』と同時に、福田雄一脚本・演出のドラマ『今日から俺は!!』(日本テレビ系)に出演中。この作品でのムロは『3年B組金八先生』 (TBS系)の金八先生の格好をした教師を演じており、こちらでは脱力感のある笑いを見せている。ムロツヨシ=コメディ俳優というイメージが強いため、『大恋愛』のようなシリアスなドラマ、ましてや、戸田恵梨香という人気女優の恋人役を演じると知った時はとても驚いた。

 真司という役柄も面白い。武田鉄矢が浅野温子の恋人役を演じた『101回目のプロポーズ』(フジテレビ系)のような「美女と野獣」路線を狙ったコミカルな役になるのかと思っていたが、ムロが演じる真司はどこか影のある男で、劇中では捨て子だったという暗い過去も明らかになる。つまり、“かっこいい男”としてムロを見せているのだ。お笑い芸人・サンドイッチマンの富澤たけしが演じる、アルバイト先の引っ越し屋の先輩もかっこよく描かれる。この2人がかっこいい男として描かれ、松岡昌宏が恋敵として登場する配役の絶妙さが、本作を面白くしている。

 基本的にコメディができる俳優はシリアスもうまい。古くは渥美清や西田敏行。最近なら阿部サダヲ、若手なら濱田岳や矢本悠馬がそうだが、コメディを得意とする俳優に、シリアスな芝居をさせると、魅力的な演技をすることが多い。それはムロも同様である。例えばマンガ業界を舞台にしたドラマ『重版出来!!』(TBS系)で演じた、漫画家のベテランアシスタント・沼田の苦悩を演じた芝居はとても印象深かった。

 その意味でムロがシリアスな芝居もうまいことは、すでにわかっていたことだが、恋愛ドラマの主人公に持ってくるという大胆な采配は誰にも思いつかなかったことだろう。

 現在、物語は折返し地点に入っている。今後は、記憶をなくしていく尚を、真司がどのような気持ちで受け止めるのかが、見せ場となる。今後、ムロに求められるのは、悲しみをぐっとこらえる泣きの芝居だが、この“受け”の芝居もこれまたうまいのだ。

 『大恋愛』で印象的なのは、台詞をしゃべらずに表情だけで見せる場面だ。中でも第5話の本心を隠して尚と別れようとする時の表情は素晴らしかった。コメディの時は、細かいギャグをいれて足し算の演技で押してくるムロだが、シリアスの時は引き算の演技で、ぐっとこらえる姿を見せることで、真司の心情を視聴者に想像させる。この引き算ができるからこそ、シリアスな恋愛ドラマでも成功したのだろう。
(成馬零一)