
(c)車田正美先生/集英社・東映アニメーション
みなさん、こんにちは。だいぶご無沙汰してしまいました。
日頃より、『聖闘士星矢』ファンであることを公言している私。拙書『実録・北の三叉路』(双葉社)のあとがきでも書いた通り、北朝鮮にも『聖闘士星矢』ファンがいるという情報を聞き、一度深く語り合ってみたいと思っていたのですが、このたびついに対面が実現しました。
6月18日からは秋葉原UDXで『聖闘士星矢生誕30周年記念展』も開催されるとあり、タイミングも最高! まさかファンが北朝鮮にまで存在するとは、原作者も東映アニメーションさんも想像もつかなかったでありましょう。
実は、北朝鮮人民のアニヲタというのは少ないながらもおりまして、海外勤務中に動画を目にしてファンになるというケースがあるようです。また13年ほど前、北朝鮮で『ドラゴンボール』が放映(吹き替え)されていたという証言もあります。年配の男女の声優2人が、すべてのキャラを演じ分けていたそうで……。

こちらが、アニヲタ北朝鮮代表(?)の趙さん(仮名 32歳)です。北朝鮮で生まれ育ち、兵役を経て、現在は仕事の関係で中国に滞在中(諸事情により、背景加工)。
「兵役時代は、暇ができたら日本語の勉強も時々していました。わが国は先軍政治といって、兵士が軍事だけでなく、さまざまな要所で社会奉仕活動を行うのですが、幹部の息子ばかりが平壌に配属される事例が相次いだんです。地方での任務は、都市より過酷な面が多いので。そこで将軍様が『そういう差別はしないように』とのお触れを出され、改善されたことがありましたね」(趙さん)
そんなバリバリの北朝鮮人民である趙さんが、以降アニヲタモードに切り替わり、ノンストップで日本のアニメと『聖闘士星矢』について語ってくれたのであります。
表現や言い回しなどは、趙さんの言葉になるべく忠実に再現しました。日本語として不自然な部分もあるかと思いますが、趙さんの熱い思いが伝わればと思います。ファン以外には理解できない表現が多々あり、また趙さん独自の解釈もありますが、何卒ご了承ください。
――お会いできて光栄です。趙さんは日本のアニメがお好きだということで、お話を伺いにきました。特に聖闘士星矢がお好きだとか。
趙さん 日本のアニメは全部、中国で見ました。昔から国内外問わずアニメが好きだったんですが、僕は最近のものよりちょっと古いのが好きでして、『聖闘士星矢』もそのうちのひとつです。ギリシャ神話が好きで大学時代もよく研究していたので、『聖闘士星矢』には格別な思い入れがあります。何より、小宇宙(コスモ)という概念が、私にはしっくりきます。私も人体の中には小宇宙があると考えていて、それは中医学でいう「気」の概念と通ずるものがあります。
――今日はお土産に、お好きだとおっしゃっていた乙女座のシャカの神聖衣フィギュアをお持ちしました。
趙さん うわー! うれしい! 中国ではフィギュアが売っていても、なぜかアンドロメダ瞬しか残ってないんですよ。乙女座のシャカはインド人なんですが、仏教をベースにした彼の技は本当に素晴らしい。中国語の吹き替えでは中国語で技の名前を言っているんですが、やはりオリジナルの日本語のほうがしっくりきます。シャカの技の「天舞宝輪」は、中国語の「ティエンムーパオリン」よりも「テンブホーリン」のほうが、かっこよく聞こえますよ。
――この見た目でインド人って、おかしくないですか?
趙さん そんなこと言ったら、ほかのキャラだってそうでしょう!
――昨年出たスピンオフ『聖闘士星矢 黄金魂』も、ご覧になられたとか?
趙さん 黄金魂だけでなく、『THE LOST CANVAS 冥王神話』(※原作の前の時代を描いたスピンオフ。以下、LC)も見ましたよ。「黄金魂」では、シャカの出番があまりに少なかったと思います。しかし、原作での解釈がだいぶ発展、改善されたと思います。シャカは原作では洞察力がそれほどなく、教皇が偽物であることも見抜けず、たいして慈悲深くもないキャラクターでしたが、黄金魂ではようやく正しく描かれていました。対戦相手となった不死身の男が臨終の際、これまで虐げた者の痛みを一身に浴び苦悶するのですが、そこでシャカは彼の痛覚を剥奪することで死後の安寧を与える。これが、本来の慈悲深いシャカの姿です。
――乙女座のシャカが大好きなんですね。
趙さん はい。日本でも12星座で誰が最強か、話したりしませんか? 僕としては、シャカが最強、これは譲れません。ほかの聖闘士は攻め一辺倒だけど、彼は攻防一体ですから。最弱? 最弱は牡牛座でしょう。牡牛座はLCでもそうだった。しかも、強い相手じゃなくて、雑魚に倒されてしまうじゃないですか。聖域十二宮編で倒された黄金聖闘士というのは結局、作者から見てそこまで重要なキャラクターではなかったんですよ。必要なキャラだけ残した。それだけです。
――でも、性格が一番いいのは牡牛座じゃないですか?
趙さん 性格といっても、牡牛座は性格描写が豊富ではないじゃないですか。アイオリアのように、兄の件で苦労したというようなバックストーリーがないし。ファンがキャラクターについてイメージするのは自由ですが、ちょっと頭が回らないんじゃないかな、彼は……。まあ、ほかの聖闘士の道を切り開く礎にはなりましたね。恵体である点もいいと思いますし。性格が一番いいのは、牡羊座ムウだと思います。見た目もいい。あのシールを貼ったみたいなちょこんとした眉毛が、頭がよさそうに見えますよ。
人として仲良くなれないのは断然、蟹座デスマスク。彼はありえない。ただ、どうして彼が黄金聖闘士になれたのか興味が尽きない部分はありますし、黄金魂では改心したような描写もありますが、それでも他のキャラクターが魅力的なので霞んでしまいますね。
――部門別に秀でている能力が違うから、一概には言えませんよ。パンチだけなら獅子座だし、パワーだけなら牡牛座だったり……。
趙さん いや、彼らは弱点があるでしょ。牡牛座アルデバランは居合い抜きをしたら隙ができてしまうし、獅子座アイオリアも光速拳が使えるけど、敵が光の速さを超えてきたら苦しいし、直線攻撃しかできないでしょ。しかし、シャカは四方八方に攻防一体の陣形を作るわけです。これを最強と言わないで、なんというのですか!?
ただ、アイオリアは後に出てきた漫画で、ひとりでアテナエクスクラメーション(※黄金聖闘士が三位一体で放つ禁じ手の最終奥義)をやったらしいじゃないですか(※LCにて、先代の獅子座レグルスが放ったゾディアックエクスクラメーションのことを言っていると思われる)?
え? それはアイオリアじゃないって? まあ、とにかく動画で見た時は、私はアイオリアだと思っていたので、全身鳥肌が立ちましたよ。僕はよく座禅を組んで瞑想するんですが、そのときに感じる高揚感と同じく、全身が震えてエネルギーがブワーっと吹き出して実に気分がよかった。そんなアニメは星矢だけです。『ドラゴンボール』も若干、その傾向がありますが、あれは大声を上げるのがどうも苦手で。「オアアアアアアアアー!」とか、1カ月くらい便秘してたのかと。
――黄金聖闘士で誰が最強であるかは、星矢ファンの間で長年論争になっていますが、論争自体が無意味なのではないかと。一応、全員互角という設定になっていますし、勝敗が決まるのはジャンケンの組み合わせみたいなものですから。
趙さん 無意味ではありませんよ。なぜなら、黄金で誰が最強であるかは、論点や視点が無限にある。たとえば最近、中国で言われているのは、アテナエクスクラメーションで中央の人間が最強だという説。だって、原理としてはそうでなければならないでしょ。黄金魂では童虎でしたね。作家が考える最強の人物がセンターなんですよ、きっと。聖闘士星矢Ωでは紫龍がセンターだったし。
――作家が、解釈の余地をファンに与えているということですね。
趙さん そうです! 読者にイマジネーションの余地を与えてくれたからこそ、こんなに長く世界的に人気が続いているんだと思います。私も、『星矢』のキャラクターと世界観に関しては時間が許す限り、ずっと語ることができますよ。たとえば魚座アフロディーテも、彼は同性愛的なものを暗示していると思います。顔は紛れもなく女だし、技も女っぽいのに体は男。あと、彼には愛する女性がいない。これは作者が、同性愛者を子どもに見せるにはあまりによろしくないから、あえてそこで留めておいたのだと思っています。
――現在、原作者の車田正美先生は指の骨に問題があり、手術が必要な状態だということですが、あえて手術はせず描き続けたいとおっしゃっているようです。
趙さん それは素晴らしい、芸術家の鑑です。ただ、お体は心配です。
(後編に続く)
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次回は、聖闘士星矢の世界観と北朝鮮の政治思想は相入れるのかについて語って頂きます。
●やす・やどろく
ライター、編集者。元朝鮮青年同盟中央委員。政治や民族問題に疲れ、その狭間にある人間模様の観察に主眼を置く。しばしば3重スパイ扱いされるのが悩み。日朝和平、北朝鮮のGDP向上、南北平和統一を願う一市民。ペンネームは実家が経営していたラブホテルの屋号(※とっくに倒産)。<http://blog.livedoor.jp/yasgreen/>