女性の未婚率が年々上昇している。なぜ結婚しないのか、理由は人の数だけある。しかし、ライフスタイルが多様化する中で、積極的に結婚しない人生を選択している女性が増えていることは確かだろう。その背景にある社会や個人の価値観の変遷を追いかけているのが、ジャーナリストの佐々木俊尚氏と白河桃子氏だ。
ITから政治・経済・社会・文化・食に至るまで、幅広いジャンルにおける深い考察と提言が支持されている佐々木氏は、これからの「暮らし」をテーマにした『そして、暮らしは共同体になる。』(アノニマ・スタジオ)を刊行。グローバル化によって揺れ動く日本の生活者の変化と、これからの暮らしの可能性をひもといている。
また、少子化ジャーナリストとしても活躍する白河氏は、『「専業主夫」になりたい男たち』(ポプラ新書)や、『進化する男子アイドル – なぜ大人の女性たちはアイドルを「家族」として選んだのか?』(ヨシモトブックス)などの著書で、家族観や女性のライフスタイルについて、鋭く分析している。
目まぐるしく変化する日本社会の中で、自分のこれからに迷い、不安を抱えるすべての女性たちにとって羅針盤となる“生き方のヒント”を、論客としても著名なお2人に語っていただいた。前編は、女性にとっての結婚の意味について。
――お2人とも切り口は異なるものの、ライフスタイルや家族をテーマに、講演や執筆をされているかと思います。まずは、近著を手掛けられたきっかけについて教えてください。
佐々木俊尚氏(以下、佐々木) 私は「グローバリゼーションと近代の終わり」や「テクノロジーの進化」などをライフワークとしていますが、この2つの変化が我々の生活に徐々に侵食し、人間社会に何をもたらすのかを考察し続けています。特に、東日本大震災以降の5年は、「新しいライフスタイルって何なのか」ということについて考えるようになり、その集大成として『そして、暮らしは共同体になる。』を書きました。
白河桃子氏(以下、白河) 私は、これまで家族が担ってきたセーフティネットとしての機能が「核家族化」「未婚化」「男性大黒柱型機能の喪失」によって限界が来ていることを感じています。しかし「共働き共育て」の夫婦への移行もすすまない。気になっていた「アイドルと女性たち」、そして「そこから派生するライフスタイルと家族の絡み」について書きたいと思いました。
――「家族」という装置に求められてきたものが、徐々にアイドルへと転化していっている点を突かれていて、とても興味深かったです。
白河 アイドルを追いかける“大人の女性”がいるのは、日本だけの現象なんですよね。そもそもアイドルの機能のひとつには、「癒やし」があります。お母さんって、いつも家族を応援しているのに、自分を応援してくれる人は誰もいないんですよね。そこをケアしてくれるのがアイドルという存在。女性たちはアイドルを家族の中に取り込むことによって、逆にそれが「安全弁」の役割をして、家族の機能を維持していることに気がつきました。取材をさせていただくと、アイドルの写真を家族写真に紛れ込ませて飾っている方もいました。こうした例からも、アイドルがアイドルの枠を超えて、家族と同化しているのは、日本ならではかもしれません。
佐々木 一見すると「AKB48と男性ファン」の図式に似ていますが、男性と女性ではアイドルに対する向き合い方が違いますよね。宗教に置き換えると、男性は「神と自分の一対一」、女性は「教会に集まる人たちとの共同体」を重視しているように感じます。女性は神を中心に据えた横のつながりを大事にするんですよね。追いかけているアイドルを中心に、新しい共同体みたいなものがつながっていくのかな。
白河 男性はファン同士でも競争関係、女性たちは共感関係でした。「SMAPがなくなると、コミュニティがなくなる」という話を耳にしましたが、今のお話を聞いて、なるほどと思いました。
佐々木 もともと、宗教って自然に共同体ができるんですよ。共同体が希薄になってきている現代では、宗教的なものを拠り所にしようとする感覚は理解できます。どちらかというと、“ふわっとした宗教感覚”、たとえばパワースポットとか神社仏閣巡りとか、そういうものが新しい共同体の核になるんじゃないかと思うんです。これって、アイドルの話と、どこかで重なるような感じがします。
――「夫婦」は共同体の最小単位ですが、それでは満たされないものがある、ということでしょうか?
白河 日本の夫婦は、愛情はアイドルで代替というカップルもいる。ただ、「結婚なんて馬鹿らしいよね」「アホらしいよね」と、家族からの脱却を主張していた女性たちも「婚活」をする時代です。婚活ブームでびっくりしたのは、やっぱりみんな結婚したかったのかと。それは、結婚に代わる新しい共同体や男女の形が、まだまだ見つかっていないからだと思いますが。
佐々木 景気の減速もあるんじゃないですかね。
白河 それも大いに関係していますね。リーマンショックと婚活ブームって重なったんですよ。経済的な不安を持った人が、経済的に頼れるものを求めて婚活に走ったんです。
佐々木 「結婚しない」「子どもを産まない」という自由主義的で、多様性のある生き方の追求が少しずつ広がってきていたはずですが、結局、リーマンショックや東日本大震災があってから、すごい勢いで景気が減速して、やっぱり「結婚した方が安心だよね」となった。また、生き方の選択肢は増えれば増えるほど、公務員志望者が増えるともいわれますよね。でも全員が公務員にはなれないので、多様な生き方を引き受けざるを得ないのが今の状況ですよ。
――女性にとっては、自由なことが、逆に不自由だということでしょうか?
佐々木 自由ってつらいですよ。たとえば、誰の命令でもなく自分で相手を選んだとして、失敗すると自分で責任を取らなきゃいけないですよね。一方で、お見合い結婚って、今ほとんどなくなっちゃいましたけど、結婚した相手の出来がよくなくても、これは私が選んだ相手じゃないからって諦められる。自由はないけれども、気が楽だという考え方もありますよね。
白河 日本だと、まだまだ夫に経済を頼る結婚が多い。女性は子育てをすることが主流で、夫はお金を持ってくる役割を担っている。片や、フランスだと保障があって、シングルマザーでも仕事をしながら子育てできる体制が整っているんです。最悪、仕事を失っても子育てだけはちゃんと国が支えるというメッセージを発信しているので、出生率が上がっています。それに比べると、日本はまだまだ多様な家族のあり方を受け入れられていないと思います。
――あと、結婚後に問題になりがちなのが、相手の家族との関係がこじれてしまうケースですよね。
佐々木 男女間の恋愛で結婚して、親は関係ないと言いながらも、結局は相手の親に引きずられるんです。結婚した瞬間に“家問題”が生じてしまう。そこのジレンマは結構あるんじゃないですかね。同時に夫婦って一対一の狭い関係ですから、あまりに夫婦の関係が強すぎると息苦しい。そうじゃない、もう少し自由な選択ができるような関係性を求める人もいると思います。「出入り自由な共同体」「束縛されないけど安心感がある共同体」、二律背反したものを求める人が実際増えてきている。“無縁の共同体”が、いい関係性を作れるんじゃないかと期待しています。
白河 ただ、いまの社会では、多くの女性は、まだそこまでの新しい生き方を求められないんじゃないかと思います。結婚しないままの関係でいいかというと、女性の方がそんな保障のない関係にメリットを見いだせていない。そこは、やっぱり子どもを持っても女性の経済力が失われないという安心がないと、なかなか無縁の共同体を選ぶまでには、至らないんじゃないでしょうか。
佐々木 確かに結婚を「保障」とする考えは根強いです。とはいえ、いまや結婚適齢期世代でも非正規雇用が増えていて、安定と結婚がイコールにならないという残念な状況。もはや経済的なセーフティネットとして結婚を捉えきれないんですよ。でも、たった1人で社会に立ち向かうってのは大変じゃないですか。というか、そんなの不可能です。それができる人って、10人に1人くらいじゃないかな。だからこそ、僕はやっぱり結婚よりも仲間が重要だと思うんです。
僕の新聞記者時代を振り返ってみても、よく手柄を横取りされるとか、ひどい目に遭ったんですよ。でも、そのときに必ず親しい先輩がすっとそばに来て、「佐々木、見ている人は見ているからな」って声を掛けてくれる。こういう感じの共同体って、大事だと思うんですよね。よく仲間っていうとコミュニケーション能力が必要といわれますが、コミュ力がなくても、目立っていなくても、それをちゃんとカバーしてくれて、かつ居心地がいい仲間って、どこかにいると思うんです。
(末吉陽子)
(後編へつづく)