今、お笑い第7世代といわれる人たちを中心にお笑いブームが盛り上がる中、それに伴い「学生お笑い」界隈もにわかに注目されつつある。各大学の落研(落語研究会)やお笑いサークルに所属し、大学の垣根を越えてイベントを開催したり、賞レースのような催し物を開いたりしている団体もある。にゃんこスター・アンゴラ村長やひょっこりはん、今年の『M-1グランプリ』準決勝進出者にアマチュアながら名を連ねた「ラランド」なども、学生お笑い出身だ。
そんな中、「賞レース」や「大学お笑いサークル」には目もくれず、自分たちで定期的にコントライブを開催している大学生のユニットがある。「煩悩教会」だ。主宰の青木宏樹さんは上智大学の3年生。「青木」というアカウント名でTwitterをやっており、
などのつぶやきも話題となった。
なぜ彼らはお笑いをやるのか? イマドキの大学生にとって、「お笑い」とはどういう存在なのか、どんなことに楽しさや面白さを見いだしているのか? 青木さんに話を聞いた。
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――煩悩教会は現役大学生4人のユニットで、これまでに4回単独ライブを行っています。コントを始めようと思ったきっかけは、なんだったんですか?
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青木 高校生の頃からバナナマンやラーメンズのコントが好きで、漠然とお笑いの世界に憧れがありました。大学に入ってすぐ、知り合いのイケメン2人に「劇団を立ち上げたい」と誘われて、「それぞれ友達に声かけてみよう」ということになったんです。でも、学生のそういうノリって、だいたい頓挫するじゃないですか。だから、どうせなら自分が面白いと思ってるヤツを呼ぼうと考えて、高校の友達を軽い気持ちで誘って、それぞれの仲間を紹介し合ってみんなで集まったりしてました。で、案の定、立ち上げのイケメン2人が恋愛関係でモメて仲悪くなって(笑)。
――学生っぽいです(笑)。
青木 それで、集まった人たちがどんどん抜けていっちゃって。結局残ったのが俺と、俺が高校時代一番面白いと思ってたヤツ2人、それから新しく仲良くなったヤツの合計4人でした。別に劇団に対する熱意はないけど、なんかやってみようかと、煩悩教会を結成してネタを作ることになりました。
――それで会場を借りてライブをやったんですね。
青木 メンバーの一人の実家が軽井沢に別荘を持ってて(笑)。そこで合宿じゃないけど、遊んだりしゃべったりしながら、その延長で10個くらいネタを作ってライブをやりました。お客さんは30人ぐらいですかね。でも、割とうまくいったような手応えがありました。ただ、俺以外の3人はコントに興味はなかったし、みんな就活とか留学とかそれぞれの学生生活があるんで、それから4回単独ライブは続いてるんですけど、毎回俺が一人ひとり説得して参加してもらってる感じです。
――煩悩教会のメンバーは、特定の大学のお笑いサークルや落研には所属していないんですよね。今は大学お笑いサークル出身で活躍している芸人さんも多いですが、どこかに入ろうと思わなかったんですか?
青木 一度、メンバーの一人と、ある大学のお笑いサークルに見学に行ったことがあるんですけど、会話の中でかる~くボケっぽいことを言ったら「君たち、そういう感じのボケをするんだね」って言われて。「うわっ」て思って、「やめよやめよ、逃げよう」って(笑)。大学サークル内のNo.1とか、“大学お笑いのトップ”とかじゃなく、自由にネタを発表できる場を、自分たちで作ってやっていったほうがいいんじゃないかって思いました。
――それで、単独ライブだけを続けることにした、と。
青木 お客さんは知り合いも多いですけど、顔見知りじゃないTwitterのフォロワーの方も来てくれてますね。口コミで、ちょっとずつ広がっていってる感じはあります。
――『キングオブコント』や『M−1』などの賞レースも、お笑いの活動をする上では避けて通れないものだと思うのですが、そういったものに出場したことはありますか?
青木 「何かの賞レースに出て一番になりたい」と思ったことはあります。ただ、いま自分が目指しているものって、「面白さ」の精度を上げて誰かと競うようなものじゃなくて、もっと普通に「友達と何かやってて楽しい」みたいなことを形にしたり、「俺の友達、こんなにアホで最高だから、みんなも見てよ!」っていう感覚の延長なんじゃないかって思うようになりました。
――ひとつのネタを練って練って、勝負するのではなく。
青木 『キングオブコント』も『M-1』も大好きだし、出場してる芸人さんたちのことはめちゃくちゃリスペクトしてます。プロの芸人さんたちが賞レースを目指すのは、「スポーツ/競技」のようなものなのかなって思います。大会のためにコンディションを整えて、トップを獲るためにいろんなことを考えてネタを作っていく。それで言うと、俺たちのやってることは「運動」に近いのかなと思ってます。みんなで集まって楽しいことをやってて、せっかくだから観てもらおうって「運動会」を開くみたいな。
――「伸び伸びと体動かしてるから、よかったら見て」というような。
青木 でも、「運動会だから真剣じゃない」ってことではないじゃないですか。スポーツ競技とは見せる側のスタンスや見せ方が違うだけで、ちゃんと笑ってもらおうと思って考えるし、練習もしているし。ただ、「誰か」とか「何かの評価」とかに合わせるんじゃなくて、自分たちのホームグラウンドを作って、それを大きくする作業のほうをやっていきたい。もちろん、そんなに甘くないって絶対言われるとは思うんですけど、そこはもう、自分たちで責任を取ってやるんで、っていう。
――青木さんはTwitterのフォロワー数も多くて、発信力もあると思うのですが、普段そこは意識してSNSを使っていますか?
青木 半年くらい前までは、「ちゃんとTwitterやらなきゃ」「面白いことつぶやいていかなきゃ」っていう気持ちでいたんですけど、そんなに気にしなくてもいいかな、と思ってきました。
――Twitterの何万「いいね」より、目の前のお客さんを笑わせるほうが喜びは大きいですか?
青木 それはもう断然。Twitterでバズることへの快感は、ほんと全然ないです。自分たちのコントの映像やラジオの音源に反応があるのはうれしいですけど、それ以外の日常のつぶやきに対する反応についてはほとんど思わないです。
――「Twitterでバズりたい」「面白いと思われたい」と考えている人もいっぱいいると思うのですが、その感覚はない?
青木 俺の場合は、日記みたいに使ってるだけなので。自分の身の周りの人がどれだけ面白かったかを、淡々とつぶやいてる感じです。「自分の考えた渾身のネタツイート」みたいなものとは違うんですよね。俺自身がこの楽しかったことを忘れたくないんだっていうものを、記録として書いてます。
――じゃあ、実際の活動とSNS上の自分は切り離して考えたいですか?
青木 いや、窓口としては大事にしていきたいと思っています。ラジオの仕事とか、映像の仕事とか、たまにいただけるようになってきたので。
――青木さんは現在大学3年生ですよね。卒業後の進路については、どう考えていますか?
青木 ずっとお笑い芸人になりたかったけど、煩悩教会でライブをやってみて、その欲は満たされてきたような気がします。このまま定期的にコントライブを続けていって、ちょっとずつでも大きくしていきたい。「芸人」という職業より、煩悩教会を頑張っていきたいという気持ちが強いです。
それとは別に放送作家をやってみたい気持ちもあるし、少し前にコピーライターの仕事も頼まれたんですけど、そんな感じで、いろんなことをやっていけたらいいですね。そういうのって、なんていうんですか? フリーランスってことでいいんですかね。
――どこかの企業に勤めて、副業としてやっていくというやり方もありますが。
青木 今、毎日朝9時から12時に家の近くのでっかいドトールに行って、そこにこもって読書したり映画観たりコント見たり書いたりっていう作業をしてるんですけど、その時間が最高すぎるんですよ。それなくなっちゃうのが嫌だなって(笑)。
――周りから「ちゃんと就職したほうがいいんじゃない?」とは言われませんか?
青木 そういうちゃんとした考えをする人が、周りにいないです(笑)。これはわがままだとは思うんですけど、嫌いなことをやってお金持ちになるなら、好きなことだけでギリギリで生きる方がいいっていう思いが、めっちゃ強いんですよ。作家の坂口恭平さんの暮らしほうとか、すごく理想です。
――お金を稼ぎたい、あるいは有名になりたいという欲は、そんなにないのでしょうか?
青木 もちろんお金は欲しいですし、有名にもなれたらうれしいですけど、何を幸せの第一に置くかって考えた時に、「周りにいる人たちと楽しく生きたい」っていうのが一番だったんですよね。自分の大学生活3年間を通して、だんだんそれがわかってきました。「面白いことをやりたい」ってことは「芸人になりたい」ってことか? と思ってコントをやってみたり、その結果、芸人になりたいというよりは「楽しい」ということ自体が大事だったんだって気付いたり。
「面白いと思ったことを残しておきたい」と思ってTwitterを始めて、フォロワーが増えたけど、それ自体には喜びは感じない。それよりも、ツイートを読んで面白がってくれた人たちと、仕事やプライベートで関わり合って生きていくことのほうに価値があるかもって思えてきたのもそうですね。卒業するまでに、なんとなくこの先どうやって生きていくかの基盤を整えたいと思ってたんですけど、いろいろやってみて、今はそんなふうに思うようになってきました。
――学生の時点で、そこまで考えが固まってるのはすごいです。
青木 でも数カ月後には、また考えががらっと変わってるかもしれないです。だって俺、数カ月前までパイロットになりたいって思ってたんで(笑)。
(取材・構成:田中春香/編集:斎藤岬)
●青木宏樹(あおき・ひろき)
1999年生まれ、東京都出身。上智大学3年生。
@aokiaokiaoki111