大手企業の公式Twitterアカウントらしからぬ“ゆるい”ツイートが話題を集め、2019年11月末現在で62万以上のフォロワー数を誇るシャープ株式会社。SNS上で「シャープさん」と呼ばれている同アカウントは、時に一般ユーザーとシャープ製品についてざっくばらんにやりとりをしたり、自社に対する赤裸々な本音を漏らしたり、時事に絡めた笑えるネタ投稿をしたり、はたまた他社の企業公式アカウントとの絡みも見せるなど、活発なTwitter活動を展開している。
「デジタルマーケティング戦略」情報サイト「DIGIDAY」に掲載された記事「中の人が語る、『 シャープさん 』が受け入れられる理由:公式 Twitter アカウント運営の極意」では、同アカウントを運営するシャープマーケティングジャパンのマーケティング統括部・デジタルマーケティング部主任、山本隆博氏が、「シャープさん」を、「企業アカウントでありながらできるだけ生活者から承認され、友人・知人になれないか、というTwitter上での試み」と、説明しており、事実、「シャープさん」を身近な存在に感じ、ファンになった一般ユーザーは多いものとみられる。
しかし、そんな「シャープさん」に、先ごろTwitter上で、一般ユーザーから“苦言”が呈される一幕があった。これまでも、一般ユーザーと積極的に交流を図ってきた「シャープさん」だが、ある特定の女性ユーザーと以前から特に懇意にやりとりをしていることに、「企業公式アカウントとして、いかがなものか?」「ノリが寒いし、気持ち悪い」「マイナスイメージにしかならない」などの声が上がったのだ。この女性ユーザーも、「シャープさん」を上回る67万人超のフォロワーを抱える人物だけに、ネットユーザーの注目が否が応でも集まる中、両者のやりとりは続けられてきたのだが、「シャープさん」の振る舞いは、企業にとって「リスク」になってしまうのではないか――そこで今回、『ネットで勝つ情報リテラシー』(筑摩書房)の著者であり、講演活動などを通して「ネットで絶対に失敗しない方法」を伝えている、ネットリテラシー専門家の小木曽健氏に取材を行い、「シャープさん」の一件を踏まえ、企業公式アカウントが“炎上しないために気をつけるべきこと”を聞いた。
「シャープさん」はインフルエンサー
まず、小木曽氏は、「シャープさん」について、ゆるいツイートをするさまざまな企業公式アカウントの中でも「別格」の存在であり、「人気No.1企業公式アカウント」と言っても過言ではないと、評価する。
「『シャープさん』は、企業公式アカウントでありながら、もはやインフルエンサーと同レベルの影響力を持っています。例えば冷蔵庫を購入する際、『特にこだわりはない。だったら「シャープさん」のところの製品を買おう』というケースもあり得るレベルです。『この人の意見を聞こう』と思わせることも、インフルエンサーの特徴ですから、もう十分その定義に当てはまるでしょう」
インフルエンサーレベルにまで登り詰めた企業公式アカウントは、小木曽氏いわく「ほかに思い当たらない」とのこと。「近いところで言えば、防衛大臣の河野太郎さんの公式アカウントくらいでしょうか。河野さんはTwitter上で、自分を攻撃してくる敵までも巻き込んで、“笑い”を作り出し、味方にしてしまうという、ずば抜けたコミュニケーション能力を持っています」。
「同様に『シャープさん』も、ツイートの視点は斬新だし、言い回しも巧み、また投稿タイミングが的確であるなど、コミュニケーション能力がずば抜けて高い。“中の人”である山本さんは、ご自身を『現実では途端に喋らなくなる人』と評しているそうですが、きっと現実でもコミュニケーション能力が高いはずです。『現実世界でだけ、ネットの世界でだけ、コミュニケーション能力が高い人』というのは、普通いないですからね。もし山本さんが個人でSNSアカウントを開設したら、『シャープさん』ほどではないにせよ、人気のアカウントになると思います」
そんな「シャープさん」が企業にとってリスクになり得るとすれば、「もちろんそれは、山本さんが会社を辞めた時。『シャープさん』の代わりなんて誰もできません。『アニメ声優の交代』以上のインパクトがあるでしょうね」と小木曽氏。ほかの企業でも、公式アカウントが、ある程度の人気を博したものの、“中の人”がプレッシャーに耐え切れなくなって辞めてしまう例は決して珍しくないそうだ。そんな中、「山本さんは2011年からの長期間、公式アカウントを運営されています。その点もまたすごいなと感じます」という。
では、そんな「シャープさん」が、特定の女性ユーザーと懇意にやりとりをしていることに対し、苦言が出ている今回の騒動についてはどうだろう。企業公式アカウントとしては、炎上を招きかねない行為のようにも思うが……。
「そもそもこんなネタが話題になるのは、『シャープさん』が人気者で、好かれているからでしょう。『シャープさん』と女性ユーザーとのやりとり内容は、違法性も反社会性もなく、Twitterの利用規約にも違反していない、つまり“炎上の文脈”がないんです。相手の女性ユーザーは、時にセクシャラスなツイートも投稿するので、そんなアカウントに絡む『シャープさん』を不快に感じる人がいてもおかしくはないのですが、でも、それは単に『好き嫌い』の問題です。『企業公式アカウントとして、羽目を外しすぎている』と不快に思う向きもあるかもしれませんが、もともと『羽目を外したアカウント』で人気を得たわけですし、なにより『好き嫌い』は『良し悪し』ではありません。この件は『嫌なら見なければ良い』というたぐいの話でしょう。今後もし、この話題が拡大しても、大して炎上しないと思います」
企業公式アカウントが、一般ユーザーと絡むことが珍しい中、「シャープさん」はそれを積極的に行っており、「中には『自分も絡んでほしい』と思っている人もいるのでは」と、小木曽氏。ある種、アイドル的存在となった「シャープさん」だけに、特定のユーザーと絡むことに批判が出るのは、「アイドルが恋愛したら怒るファンの気持ちに通ずるように思う」そうだ。
「『シャープさん』は、人間ではないけど人格はあるという『ゆるキャラ』に近い存在なのではないか。もともと『シャープさん』は、中性的で落ち着いており、安心感を与えるキャラクターです。そんなアカウントが、きわどい投稿もする特定ユーザーと絡む姿は、ファンにとって『着ぐるみを脱ぎかけている』ように映るのかもしれません」
“中の人”の個性が見えるのが面白い、けれど見えすぎるのも嫌――ということかもしれないが、何をもって「見えすぎ」とするかは、人それぞれの感覚なのだろう。
なお、小木曽氏いわく、一般的に企業公式アカウントの炎上事例では、圧倒的に「誤爆」が多いという。2016年、フォロワー数100万人のマクドナルド公式Twitterアカウントが、会社への愚痴をツイートし、即座に削除する一件もあった。
「中の人の個性を活かしている『シャープさん』とは違い、マクドナルドの公式アカウントはインフォメーションに特化したものでした。なのに突然、社内会議の愚痴がツイートされたのですから、大騒ぎ。ある意味、非常に面白かったのですが、“中の人”は泣きたかったでしょうね。こうした“誤爆”が起こるのは、併用しているプライベートアカウントの切り替えミスが原因です」
また、人気アカウントになると、“中の人”が「個人的な主義・主張」を発信して炎上するケースもあるそうで、政治や外交に関する持論を展開して大炎上、アカウント閉鎖に追い込まれるケースもあるそうだ。
「おそらく『シャープさん』は、公式アカウント専用の端末を使うなど、誤爆を防ぐ対策をちゃんとしていると思います。また“中の人”が、『シャープさん』という人格を、ちゃんと定義して、継続的に演じられているようにも感じますね。だからこそ、大きな事故もなく長年続けてこられたのではないでしょうか」
さらに、小木曽氏は、最近ネット上に増えている「お気持ちヤクザ」についても言及。「今回の騒動とはちょっと異なりますが、最近は『自分が不快だから』とか『私が傷つくから』という理由だけで、気に食わないポスターや広告などの『表現』を撤回させようとする人たち、いわゆる『お気持ちヤクザ』が増えています。その表現が『嫌いだと主張する』のと、『存在することを認めない』のは全く別。前者は表現の自由だし、後者はその否定ですから。情報リテラシーを理解している人から見れば、彼らの主張は『表現の自由』の全否定で、自らの首を絞める行為でしかありません」と苦言を呈する。一方、そういった人たちからの言いがかりを避けるためにも、「企業のアカウントなら『政治』『外交』『宗教』『下ネタ』の投稿は避けた方が無難でしょうね」という。
もし企業が「公式アカウントは作りたいが、一切のリスク、批判は避けたい」というスタンスであれば、「そもそもアカウントを作らない方がいい」と小木曽氏はピシャリと指摘。ネット時代を迎え、日本の企業は“批判されること”を極端に恐れ、批判回避を最重視する傾向が、以前にも増して強くなったそうだ。しかし、それでは、「多くの人に突き刺さる情報発信はできないし、ファンになってもらうことも難しいでしょうね」という。
「絶大な人気を誇る『シャープさん』だって、今回のように、一部から『不快』『嫌い』と言われるのです。情報発信には必ずレスポンスがあり、その中には批判や雑音も存在します。これは避けられない。その事実を認め、それを前提にどう備えるのか、どんな社内体制を整備するのか、そういった議論ができる企業こそが、今後SNSの時代で強みを発揮できるのだと思います」
批判があるのは「大前提」と腹を据えることが大事だと、小木曽氏は言う。「シャープさん」は、さまざまな批判をどう受け止め、また対応しているのか、ぜひ聞いてみたいところだ。
小木曽健(おぎそ・けん)
IT企業でCSR部門の責任者を務める傍ら、書籍執筆や連載、メディア出演などを通じて、情報リテラシーに関する情報発信を幅広くおこなっている。著書に『ネットで勝つ情報リテラシー』(筑摩書房)、『11歳からの正しく怖がるインターネット: 大人もネットで失敗しなくなる本』(晶文社)など。