根強いファンを持つ日曜昼のドキュメント『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)。11月24日の放送は「娘がシングルマザーになりまして… ~29歳の出張料理人 彩乃~」。シングルマザーの出張料理人と、娘を支える祖父の日々の模様だ。
あらすじ
自宅や職場などに出向き料理を振る舞う出張料理人の仕事を東京でしていた新羅彩乃29歳。子どもができるも、相手の男性から堕ろしてほしいと言われシングルマザーを選ぶ。しかし、仕事の時間が読みにくい出張料理人とシングルマザーの両立は厳しく、借金をして事業拠点となる自分のキッチンを構えることに。キッチンが完成してからも、気の強い彩乃とスタッフとの関係はうまくいかない。
娘の現状を見て石川県から父・孝志(62歳)が会社を辞め上京。当初は孫の育児だけを担当していたが、プログラマーだった経験を生かし会計ソフトを作ったり、彩乃の作った弁当を売るリアカーを設計、製造するなど活躍を見せる。番組の最後に父についてスタッフから尋ねられた彩乃は「支えしかないですね。感謝忘れず頑張ります」と涙する。
今回の主役は娘でなく父・孝志62歳
今回のタイトルは『娘がシングルマザーになりまして』の通り、真の主役は娘・彩乃でなく父・孝志だったように思えた。孝志の成長物語といってもいいくらい孝志が輝いていた。
孝志は地元石川県で30年プログラミングの仕事に就いており、出張料理人という、道なき道を突き歩む娘に自分が何かできる立場ではないと、上京後も仕事ぶりを遠巻きに見守るだけだった。孝志は取材で「自分の思いとやりたい事と実際にできる事のバランスがよくわかっていなかった」と当時の自分を振り返るが、これが「わかった」途端、飛躍する。
孝志はその後、プログラマーだった経験を生かし会計ソフトを作り、趣味の木工細工の腕を生かして彩乃の作った弁当を売るリアカーを一人で手掛ける。完成したリアカーは屋根や広告までついていて「素人の素朴な手作りリアカー」とは一線を画していた。
リアカーを作る際、孝志は慣れた様子で木にノミで凹みを入れながら、「人件費を安く抑えるためには親父を安く使うしかないよね」と笑っていた。楽しそうに働く人がいる職場はうまく回る。彩乃にとって孝志がサポートしてくれること自体ありがたかっただろうが、「いやいややってる」感がなく、楽しそうに働く父の姿自体は大きな支えになっただろう。
「自分の思いとやりたい事と実際にできる事のバランス」が取れていると、働いていて楽しいし、やりがいもある。一方、ここがちぐはぐであったり、ちぐはぐなことに対して自分は何も言える立場でないときは、無力さを感じてきつい。
そして「自分の思いとやりたい事と実際にできる事のバランス」は、会社組織で働くよりも、彩乃のような個人事業主の方が実現しやすいように思える。会社は組織である以上、効率化のため大なり小なり分業化がある程度進んでいるため、やりたいことやできることは自分の管轄外、ということが起きてしまうこともある。
一方個人事業主はすべて自分でこなさないといけない。確定申告など、本業と関係のないこともすべて自前で行う必要がある。私自身一個人事業主として、この「なんでも自分でやる」は、うんざりすることもあるが、なんだかんだで結構好きだ。本業以外もなんでも全部自分でやることを通じて、自分の可能性や進化に気づき自信になったことは、個人事業主になって得られた大きなことだったと思っている。60歳を過ぎ簿記検定に挑む孝志は輝いていて、そこに「老後」感は皆無で、かっこよかった。
ただ今回は好条件が重なった「奇跡」だとも思った。
まず、彩乃と孝志の相性がいい。気が強くそれゆえにさまざまなことに挑める彩乃と、そんな娘のガッツを尊敬しつつ、穏やかに見守る孝志。孝志が彩乃のすることにいちいち口を出すタイプだったら衝突の末、孝志が“お里に帰る”ことになっていただろう。それぞれの領分に余計な口を出さないでいるのは簡単ではない。だから今日もさまざまな職場や家庭で火種が爆発しているのだ。
さらに「孝志が子育てに積極的」なのも幸福だった。孝志自身自分の子ども(彩乃にとっての兄)を死産で失っており、子どもを思う気持ちが強かったのはあるのかもしれない。一方、孫は年に数日やってくるから可愛いのであり、子育てまでは勘弁してほしいという祖父母だって少なくないはずだ。祖父母にだって、当然彼らの人生や都合がある。
何より、孝志がまだ62歳と若い祖父であることが大きい。以前産婦人科医師を取材した際に、高齢出産の弊害として、高齢である妊婦の妊娠や出産のリスクだけでなく、高齢出産はおおむね「高齢祖父母の誕生」につながることを話していた。60歳の祖父母は育児を手伝う戦力足り得るが、70歳の祖父母だとそれが体力的に難しくなってくる。自身が介護を必要とする側になる可能性だってあるのだ。若く見える中高年は増えたが、体力や体の中まで若返ったわけではない。高齢出産が進むということはそれだけ「手伝いたいんだけど体がついていけない」祖父母も増えている、ということなのだろう。
今回はうまくいってよかったが「祖父母と協力した子育て」はかなりの難関だな、と思ってしまった。12月1日のザ・ノンフィクションも「娘と父」がテーマになる。『女32歳 きょうからプロレスラー ~父への告白~』。
石徹白未亜(いとしろ・みあ)
ライター。専門分野はネット依存、同人文化(二次創作)。著書に『節ネット、はじめました。』(CCCメディアハウス)。
HP:いとしろ堂