11月6日・13日に前後編で放送されたNHK Eテレ『ねほりんぱほりん』が話題となっている。「インフルエンサー」というテーマで、前編「驚きの『いいね』テクニック大公開!」後編「光と闇!マウントを取り合う女たち」と2回にわたり放送された内容について、ITジャーナリストで10代のSNS利用や情報リテラシー教育を専門とし、『ソーシャルメディア中毒』(幻冬舎)を刊行した高橋暁子氏が考察する。
『ねほりんぱほりん』は、山里亮太さんとYOUさんが声を務めるモグラのぬいぐるみ「ねほりん」と「はぽりん」が聞き手となり、ブタのぬいぐるみに扮したゲストが赤裸々トークを繰り広げる番組だ。
インフルエンサーとは、SNS内で影響力を持ち、企業から依頼を受けて商品などを写真に撮ってSNSに投稿する人のことで、紹介料や商品などをもらうことで仕事として成り立っている。「普通の生活をしている人が、1枚の写真をSNSに投稿するだけで10万円稼ぐ」こともできるわけだ。インフルエンサーとして番組に登場したゲストは、Instagram中心の20代と30代の女性がそれぞれ1名、Twitter中心の20代女性1名の計3人。彼女たちのインフルエンサーの実態や作戦をバラす、あけすけなトークが面白くも怖い。
替えがきく自覚によるマウンティング
番組を見た素直な感想は、「マウント怖い」「闇が深い」。特に後編は、ゲストに登場した3人の女性たちによるリアルなマウンティングが生々しく、今にもつかみかかりそうな一触即発の雰囲気だった。では、なぜ彼女たちはマウントを取ろうとしており、「自分以外はすべて敵」と言い切るのだろうか。
それは、彼女たち自身が今の地位が安泰とはまったく感じていないからではないだろうか。人の心をつかむことには多少秀でているけれど、芸能人ほどではなく、あくまで計算とか努力でつかんだ地位であり、運の要素が大きいことも自覚している。
つらいことがあっても必死に頑張れるのは、高い報酬のためだけではなく、ちやほやされて特別扱いされることで得る満足感が高いからだ。美容系のイベントで配られるお土産の量でフォロワー数がわかるため、ほかの人より多くもらえると優越感があると話していた。けれど、「インフルエンサーは誰でもなれる」と当人も言っている通り、自分が非常に中途半端な存在であり、いつでも替えがきく存在ということがわかっている。だからこそ必死だし、他人を押しのけて少しでも上に行こうとしているのだろう。
自分もフリーランスだから、彼女たちの心情は多少なりとも理解はできる。選ばれなくては仕事がこなくなり、こなくなれば廃業となる。ただしインフルエンサーとフリーランスが大きく異なるのは、彼女たちにとっては自分以外すべて敵だが、フリーランスでは同業者はむしろ協力者という点だ。フリーランスにも将来への不安はあるが、彼女たちの抱く不安はその比ではないだろう。
インフルエンサーはフォロワーそれぞれにコメントを返したりできるため、自らの努力次第で信用度が高くなる。つまり、エンゲージメント(※SNSの投稿に対するフォロワーの反応)が高く、口コミの拡散力が高いのだ。「全米が泣いた」よりも「インフルエンサー◯◯ちゃんのオススメ」のほうが効果があり、それ故にインフルエンサーが仕事として成り立つというわけだ。
彼女たちは「ケーキを紹介して」と依頼された場合、いくらまずくてもけなすことはできない。そこで、「盛り付けが斬新」「内装がかわいかった」などと取り繕うという。また、「『子どもにも食べられる辛さ』と言って」という依頼がきた場合も、実際に辛すぎると思っても「辛すぎる」「マズい」は一切書けないので、「お子さんでもいける子はいけるかも」などと書くそうだ。
10代の子たちに聞くと、口々に「広告は信じられないから、買い物の前には絶対にSNSで口コミを調べる。はずしたくないから、口コミで評判がいいものを買う」と言う。その子たちがこれを聞いても、本当にSNSの口コミは信じられると言えるだろうか。いくらコメントを返してくれていい人に見えても、彼女たちはインフルエンサーであり一般人ではないのだ。
以前、ある口コミサイトで、評価がお金で買えるということが話題となった。お金の影響が一切ない純粋な評判を知ることなんて不可能かもしれないと感じてしまった。
インフルエンサービジネスは時代のあだ花か
英王立公衆衛生協会(RSPH)によると、若者の心の健康に一番悪影響を与えるSNSはInstagram とされている。
Instagramのインフルエンサー二人は、何をしていても「(投稿するための)写真撮らなきゃ」と思うという。プライベートがなくなり、感動もなくなるそうだ。まさに、Instagramを使うのではなくてInstagramに使われている。
Twitterのインフルエンサーも、「フォロワーが増えるにつれてエゴサーチと悪意が増える」という。自分の名前で検索して悪口をずっと見てしまうそうだ。どちらもまったく精神衛生上よくないことは明らかだ。
インフルエンサーになるためには、計算と努力をすればなんとかなりそうだ。しかし、今回の放送を見て、「インフルエンサーにはなりたくない」と思った方も多いのではないか。もちろん、インフルエンサーにも素晴らしい人はいる。しかし、インフルエンサービジネスは時代のあだ花なのかもしれない。
高橋暁子(たかはし・あかつきこ)
ITジャーナリスト。LINE、Instagram、Twitter等のSNS、10代のSNS利用、情報リテラシー教育が専門。『ソーシャルメディア中毒』(幻冬舎)『Facebook×Twitterで儲かる会社に変わる本』(日本実業出版社)等著書、メディア出演多数。
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・Yahoo!個人「ソーシャル時代の歩き方」