NHKの金曜夜の人気ドキュメント番組『ドキュメント72時間』に対し、こちらも根強いファンを持つ日曜昼のドキュメント『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)。10月13日の放送は「好きなことだけして生きていく 後編~伝説のシェアハウス解散~」。日本一有名なニート・pha(ファ)が、11年運営してきたシェアハウスを解散したその後の生活と、phaに影響を受けた、新しい働き方を模索する「後継者」が紹介された。
あらすじ
日本一有名なニート、phaは11年間運営してきたシェアハウスを解散し、猫二匹を連れて一人暮らしを始める。一方で、phaに触発された若き「後継者」として、19歳で東京と京都でシェアハウス運営を行う今井ホツマと、開業資金を極力抑えた喫茶店を夫婦で営む25歳の池田達也の働き方が紹介される。
phaの若き後継者二人が結婚に求めたもの
phaの意志を継ぐ、今井と池田には共通点がある。まず、ほかの就業経験を持たずに最初から事業を始めていることと、そして今井には東京で一緒に暮らす婚約者がいて、池田は妻と子がいるという、今どきの都市部に暮らす男性にしてはずいぶん結婚が早い点だ。
結婚の理由として、今井は「 身ぐらいは固めとかないとヤバい。土着していかないといけない。あまり(シェアハウス運営に)振れ過ぎるとエネルギーが高くなってしまう。よりしろ(よりどころ)みたいなものが欲しい」と、池田は「 自分のために働きたくなかった。結婚してだれか人のためなら、家族のためなら苦じゃないなと」と話す。
二人は一見、反対のことを言っているように見えるが、「不安がある」という点は似ている。そんな二人を見ていると、数年間と割り切って、興味がある方面の会社でまず働いてみたら、少し不安は薄まったのではないかとも思ってしまった。
「旧来型の働き方や生き方はもう無理」という危機感は、若い人の方が身に染みているだろう。しかし、「旧来型」を試さず、いきなり「新しい方」を始めるのでは、比較対象を自分の中に持てないために、将来不安がますます強くなってしまうのではないだろうか。
「新しい働き方」を実践する若い二人は、それで生じた不安を「旧来型の生き方」ともいえる結婚で埋めようとしたともいえる。これは皮肉でも悪口でもない。一人の人間の中に、窮屈だが歴史も長く、実践している人も多い、安心感のある「旧来型のやり方」と、自由だが歴史が浅く実践者も少なく、不安のある「新しいやり方」が混在していて、日々それは変化しているのだろう。そして、今井や池田が早くに結婚したように、どこかが新しく突き抜けている人ほど、案外ほかの分野では保守的になるのかもしれない(ただしphaはそういったところも超越していて、あらためて超人だ)。
一方、シェアハウスからいったん手を引き、一人暮らしを始めたphaはこう話す。
「 シェアハウス疲れる。年齢的なものもあるかもしれないですね。若いころは劣悪な環境で暮らしてること自体楽しかったりするけれど、だんだんただなんかキツくなってくる。飽きてくるというかしんどくなってくるみたいな」
若いころの貧乏はまだ楽しめるけど、年いってからの貧乏はしみじみきつい――そんな身も蓋もない現実を、11年シェアハウスを運営してきた40歳のphaが言うと重い。
しかし若いころ貧乏だった人が、年を取ったらそれなり暮らしは安定するなんて、今の社会ではなかなか思えない。ぜひ、中高年を撮らせれば右に出るものなしの『ザ・ノンフィクション』で、「中高年シェアハウス」をテーマにした番組を放送してほしい。「経済的に困った状況にある人のセーフティーネット」としてだけでもシェアハウスの意義は十分あるが、一方で、シェアハウスが一時の宿り木でなく、そこが「住まい」となっている、もしくはならざるを得ない現実はすでにある。
「若くもなく、金もないと悲惨だ」という絶望や恐怖は、「若くなく、金もなく、でも暮らせている」という人たちの日々の営みを知ることでしか、薄まらないのではないだろうか。
次週の『ザ・ノンフィクション』は『ここがわたしの居場所~海を渡った熱血教師と教え子の涙~』。いま中国で一番人気のある日本語教師・中村紀子49歳。これまでの教え子は約22万人で、インターネットを使ったライブ授業ではパソコンの向こう側に約5千人の生徒がいる。彼女と彼女のもとで働く中国人スタッフの日々を追う。
石徹白未亜(いとしろ・みあ)
ライター。専門分野はネット依存、同人文化(二次創作)。著書に『節ネット、はじめました。』(CCCメディアハウス)。
HP:いとしろ堂






