9月14日放送『ゴッドタン』(テレビ東京系)にて、名物企画「芸能界ストイック暗記王」が行われた。あるテーマ(森山直太朗の人気楽曲10曲、関東近郊の人気サバゲーフィールド10選など)を制限時間内に暗記し、全問正解すると10万円獲得。しかし、眼前で展開するミニコントに無理やり参加させられるなど、挑戦者にはさまざまな妨害が襲う。それらに打ち勝って暗記するのが、同企画成功の鉄則だ。
今回、暗記に挑戦したのはEXITの兼近大樹。机に向かった彼めがけて繰り広げられるのは寸劇である。相方・りんたろー。がマスコミの仕掛けるハニートラップに引っ掛かるというストーリーだ。
バーでEXITファンの女性たちが飲んでいると、そこにりんたろー。が現れた。パブリックイメージそのままチャラさ満点でファンと接しつつ、老人ホームでアルバイトする私生活を下敷きに「お年寄り、大好きぃ~!」と真面目な面もチラ見せするソツのなさ。EXITは「チャラいけど、本当は真面目」というキャラが世にウケているのだ。
ファンがいなくなるや、りんたろー。の様子は一変した。ため息をつき、思いつめたようにテキーラを飲み干すのはなぜか? バーのマスター役を演じる劇団ひとりが話しかけた。
ひとり「一見チャラそうに見えて実は真面目。人気も出るはずだ」
りんたろー。「僕はそんな人間じゃないんです! 俺たちはお互い、過去にいろいろあった者同士がコンビ組んでて、だから、2人で“これからだぞ”って頑張ってきたんです」
EXITの『ゴッドタン』初登場は2018年7月7日。「東京の遊びはやり尽くしたが、漫才が一番楽しかった」と豪語する2人に対し、MC陣は「チャラい割に漫才の構成がしっかりしてる」と指摘。さらに、兼近が「お酒は飲めない」と口を滑らせ、彼女の有無を聞かれると「恋愛してないとバレたくないから、その手の質問はやめてくれとスタッフに頼み込んでいた」と告白し、いきなり「チャラく見えて本当は真面目」という彼らのキャラは出来上がった。
寸劇でりんたろー。は、人気者ゆえの悩みを吐露する。
「違うんです。俺の相方の兼近は、本当にいい奴なんです。その点、俺は、あいつほど真面目でもいい奴でもない。ただのチャラ男なんです。だから、あいつと一緒にいると、あいつを裏切ってるようで、世間にウソついてるようで、心が苦しいんです」
りんたろー。が飲んだテキーラには薬が盛られており、すぐに彼は気を失った。その隙にりんたろー。は既婚女性とホテルで寝ている捏造写真を撮られてしまう。バーのマスターを演じる劇団ひとりの正体は、写真週刊誌の記者だった。ハニトラ写真の掲載は間近。りんたろー。は「兼近にだけは迷惑をかけたくない」と引退を決意した。
そんなりんたろー。に、劇団ひとりは罵声を浴びせる。
「キレイごと言ってんじゃねえぞ。お前はあいつを裏切ったんだよ。あいつはまた地獄に落ちるんだよ。そして、お前はその十字架を背負っていくんだよ!」
目の前のミニコントを、不自然なほど真顔で見続ける兼近。
兼近「オーイ! 許すに決まってんじゃん。俺がいなきゃ、お前輝けねえだろ!」
りんたろー。「俺を見捨てればよかったんだよ!」
兼近「見捨てられるわけなくね!? 俺たちは求められるなら、いつだってチャラ男にも真面目にもなる。俺たちは国民のマリオネットだ!」
「週刊文春」9月12日号(文藝春秋)の報道で、兼近は未成年時の逮捕歴( 11年に少女売春あっせん)を明かされた。その事実を踏まえて「ストイック暗記王」を振り返ると、ミニコントの内容には驚くばかりである。
りんたろー。や劇団ひとりが発したセリフは、まさに兼近の心の内にある葛藤を代弁していたかのよう。
タレントにスキャンダラスな出来事が起きた場合、以前と同じように露出させてよいものか逡巡するテレビ局はきっと出てくる。こういうときに機能する独特の“ろ過装置”が、かつての芸能界には存在した。
真っ先に思い浮かぶのは、1996年まで放送されていたバラエティ番組『ビートたけしのお笑いウルトラクイズ!! 』(日本テレビ系)だ。飯星景子や山本モナ、新藤恵美など“何か”のおかげで十字架を背負ってしまった面々を率先して出演させるのが、この番組の手法だった。統一教会に入信しワイドショーをにぎわせた飯星が脱会するや、彼女をアシスタントの立場に据え「優勝者には飯星さんから特別に壺が贈られます」と発言するたけし。スキャンダルを笑いにしてタブーをタブーでないものにし、すねに傷持つ者の芸能界復帰を後押しする。しかし、世の中全体の締め付けが厳しくなるにつれ、この手のろ過装置は受け入れられなくなっていった。
「QUIZ JAPAN」(ほるぷ出版)vol.6に、『お笑いウルトラクイズ』で構成作家を務めたダンカンのインタビューが掲載されている。
「極楽(とんぼ)の山本(圭壱)君だとか、もしかしたらあそこぐらいから世の中変わったのかな? お笑いの人って、みんなバカで悪くて当たり前なのに」
「キングオブコメディの高橋(健一)君なんか、あの当時だったら“しめた!”って言われてたのかな。彼はおそらく、もうこの世界では無理だけど、あの時代だったら1年ぐらいの謹慎程度で戻ってきてたと思うんだよ。だって、人を殺 めてるわけじゃないしね。間違いなく引っ張り出して『女子校侵入クイズ』をやってますよね(笑)」
なぜ、十字架を背負うタレントを引っ張り出し、ネタにして笑おうとするのか? 死屍に鞭打つ行為だと受け取られかねない。いや、違うのだ。真意はまるで異なる。
「日景(忠男)さんなんて実際はつらいんだもん、愛する人(1983年に自殺した、俳優・沖雅也のこと)が自ら命を絶って、自分もホモだって報道されて。それを腫れ物みたいに、みんなからそういう目で見られるとさらにつらくなるから。でも、開き直って“ホモなんですよ、この人”ってやると、妙に市民権得ちゃって“そうなんですよ私は”って開き直れてね。一度失敗しちゃったからって突き放してたら、その人たちはこれからどうやって生きていくかっていうことでね。人生長いんだから、そんなに冷たくしないでもいいのに。そういう意味では、たけしさんがみんなを救ったところはあるな」(同)
80~90年代とは社会のありようが変わった現在。当時のろ過装置をそのまま起動させたら、おそらく賛否出るだろう。兼近の葛藤を他者に吐かせ、立場を逆転させることで失敗をネタにした今回の『ゴッドタン』は、そういう意味で塩梅がちょうどよかった。時代にチャンネルを合わせた、見事なろ過っぷりだったと思う。
ここで気になるのは、今回の「ストイック暗記王」は文春報道よりも前に収録が行われたものなのか? ということ。同番組の佐久間宣行プロデューサーは『ゴッドタン』放送中の15日午前2時6分に、以下のツイートを発信している。
「2ヶ月前に撮ってるから、全部偶然です。」
現代と歩調を合わせた令和バージョンのろ過装置は、なんの計算もなく無邪気に起動されていた。
それにしてもEXIT、すごいものを背負うコンビになった。十字架のことを言っているのではない。2人の過去を知った上でコンビ名「EXIT」の意味を深読みしてみると、なかなかにグッとくる。
(文=寺西ジャジューカ)