BL(ボーイズラブ)をこよなく愛する女子たちの日常を描いて大ヒットとなったコミックエッセイ『腐女子のつづ井さん』(KADOKAWA)の著者・つづ井さんが、文藝春秋のウェブサイト「CREA WEBコミックエッセイルーム」で連載している『裸一貫! つづ井さん』。『腐女子のつづ井さん』は、腐女子であるつづ井さんと友人たちの豊かな妄想や「腐女子あるある」をメインに彼女たちの愉快な日常を描いた作品で、一方『裸一貫! つづ井さん』は「とにかく明るいオタク女子たちの日常」という前作のテーマを引き継ぎつつ、“アラサー”になってさらにパワーアップしたつづ井さんたちの姿が活写されているという。そんな『裸一貫! つづ井さん』の第1巻が9月11日に発売され、いま多くの“つづ井さんファン”が盛り上がっている。
『裸一貫! つづ井さん』しかり、コミックエッセイ界では、「腐女子」「オタク女子」をテーマにした作品が多数出版されている状況にあるようだ。『腐女医の医者道!』(さーたり氏、KADOKAWA、2016年)『舞台追っかけ女子 推しが元気でごはんがおいしい』(畑ヶ中あいこ氏、双葉社、18年)『腐女子になって四半世紀経つとこうなる~底~懐古編』(御手洗直子氏、一迅社、19年)などなど、さまざまな作品が世に出ているが、なぜ「腐女子」「オタク女子」のコミックエッセイは読者にウケるのか。その魅力とは一体――今回、『裸一貫! つづ井さん』の担当編集者である文藝春秋 クレア局 ライフスタイル出版部の白川恵吾さんにお話を聞いた。
最初の大ヒットは『となりの801ちゃん』
つづ井さんによる白川恵吾さんの似顔絵
コミックエッセイ界において、「腐女子」「オタク女子」の作品が人気を博しているのは、白川さんも「以前から実感している」ところのよう。中でも印象深い作品が、06年の『となりの801ちゃん』(小鳥アジコ氏、宙出版)だという。同作は、のちにシリーズ化され、映像作品にもなるなど大ヒットし、世間に「ボーイズラブが好きな女子=腐女子」の存在を知らしめた作品と言えるだろう。
「その後の流れで言うと、13年に発表された、肉子さんの『100回お見合いしたヲタ女子の婚活記』(同)と、御手洗直子さんの『31歳BLマンガ家が婚活するとこうなる』(新書館)も印象的でしたね。『1人でも充実している』『特に恋愛の必要性がない』という人も多い『腐女子』や『オタク女子』が、“婚活”に挑戦するという内容で、こうした体験ルポものが人気を集めました」
そして、16年には『腐女子のつづ井さん』、『だからオタクはやめられない。』(パカチャン氏、KADOKAWA)が話題を呼んだが、「この2作品は、“オタク生活を謳歌する”という内容。かつて『801ちゃん』において、彼氏目線で描かれていた腐女子の日常生活を、今度は彼女たち本人が語りだしたというのが、近年の流れなのかなと思っています」という。
「CREA WEB」アクセスランキングで第1位に輝くなど、多くのファンを抱えている『裸一貫! つづ井さん』。白川さんいわく、オタクでない読者の方も多い「CREA WEB」で連載を始めるにあたり、「つづ井さんが今、『腐女子(BL)』という一ジャンルにとどまらず、オタク女子特有の“明るさ”で日々をたくましく生きている姿、また、オタク気質で意気投合した仲間たちと工夫して遊んでいる様子が、より伝わるようなタイトルを、つづ井さんとご相談させていただいた」そうだ。
「そんな“魂がオタク”なアラサー女子の生き方をつづる『裸一貫! つづ井さん』は、オタクではない方々にも多く読んでいただけているようです。本作の“アラサー”“おひとりさま”というテーマに共感を抱き、『どのように日々を楽しんでいるのだろう?』という視点で楽しんでくださっているのかもしれません。また、やはりご友人たちと仲良く遊んでいる姿に癒やされるという声も多く、『「つづ井さん」はオタク界のSATC※』なんて言われることもあります(笑)。読者層は広がっていると感じています」
※『Sex and the City』ニューヨークを舞台に、30代独身女性4人が自由に生きる姿をコミカルに描いた海外ドラマ。
確かに、作中でつづ井さんと友人たちは、お金をかけずに日々の生活を楽しむさまざまな“遊び”を披露している。例えば、「何かをお世話したい 育てたい…」という欲求を持て余した際、今まで特に気にしてこなかった自分の「尻」のお世話をすることを決意。スクラブを塗り込んだり、保湿を心掛けたりしているうち、愛おしさを抱くようになり、ある日、尻がプリプリになったことに気づいた時には「尻が私のお世話に応えてくれたんだ」と感動を噛みしめる。また、友人たちとのお泊まり会では、ふと思い立って深夜の公園を訪れてはしゃぎ倒したり、お風呂に入る順番を決めるために相撲を取ったりするなど、さまざまな楽しみを見つけ出していく。
「私個人の感覚として、腐女子やオタク女子の方って、好きなものに素直でひたむきだと思います。それに自分で自分を楽しませることにすごく長けていらっしゃる。『結婚しろ』『出産しろ』といった社会からの圧力に囚われないで、『“私”が“今”好きなこと』にまじめで一直線な方が多い印象もあります。そしてつづ井さんとご友人たちとの様子を見ていて実感するのが、自分とはジャンル違いな仲間に対しても否定せずに尊重したり、逆に自分のジャンルを布教したりする姿。『腐女子』や『オタク女子』って、自分や他者の“好き”を大切にする、やさしい世界なのではないかなと思うんです。そこから生まれる自己肯定感が“明るさ”につながり、彼女たちの魅力になっているのではないでしょうか」
『裸一貫! つづ井さん』のプロローグには、こんな一説がある。「そんな私も気づけば20代後半…同級生の結婚&出産ラッシュ…職場などでは日々『いつまでそんな感じなの?』『ちゃんと将来考えなよ~』と言われ…私は…私は…特にな~んとも思ってませ~ん ピッピロピ~」。こうした、あっけらかんとした明るさに心をつかまれる人は、確かに「腐女子」「オタク女子」以外にも少なくないのではないだろうか。
かつては、腐女子であること、オタク女子であることは「隠さなければいけない」といった風潮もあった。しかし、最近ではSNSの普及により、同志の存在を認識しやすくなったこともあってか、「『自分の“好き”は正しい』と感じる『腐女子』『オタク女子』の方が増えたのでは」と白川さん。彼女たちにスポットライトを当てたコミックエッセイは、さらに発展していくようにも思えるが、今後はどのような作品が生まれると予想できるのだろうか。
「今は、“腐女子あるある”がメインテーマになっている作品も多いですが、これからは、彼女たちのオタク精神がどう生活や人生に“生かされているか”を描く作品がより増えるように思います。シリーズ化されている『腐女医の医者道!』も、オタク女子のエネルギーを持ってお仕事や子育てに奮闘するお医者さんのエッセイですよね。また『社会の圧力に囚われない面がある』と言いましたが、オタク女子が『”自分”の好きなもの』を大事にして、自立する姿は、女性の多様な生き方をエンパワーメントしていくことにもつながると感じるんです。『裸一貫! つづ井さん』は、その先駆けになるといいなと思っています」
そんな『裸一貫! つづ井さん』のサブタイトルは『INDEPENDENT WOMAN TSUDUI』。コミックエッセイ界における「腐女子」「オタク女子」作品の今後の快進撃に期待したい。