今回ご紹介する『どるから』、単行本の表紙とこのタイトルから、「ああ、アイドルみたいな美少女が格闘技に目覚めるマンガなのかな? ありがちな設定だよねー!」なんて思うかもしれません。確かに当たらずといえども遠からずなのですが、この『どるから』が普通の格闘技マンガとは根本的に違う部分が1点あります。それは……
本作のヒロインとなる女子高生が元K-1プロデューサーの石井館長が転生した姿だということです! 今なぜ、還暦をとうに過ぎたオッサンをJKにする必要があったのか、そのコンセプトも謎ですが、驚くべきことにアイドル格闘技マンガなのは仮の姿。実は、ゼニの匂いがプンプンする興行ビジネスマンガなのです。
『どるから』は「WEBコミックガンマ」で連載中の作品。1990~2000年代にかけて、アンディ・フグ、マイク・ベルナルド、ミルコ・クロコップ等々のK-1ファイターを生み出し、K-1ブームの立役者となった石井和義・正道会館館長が主人公です。K-1ブームが去ってからは脱税容疑での逮捕など、何かとドス黒いイメージがあり、最近では「あの人は今」状態だったはずですが……。
ストーリーはまさしく、その石井館長が刑期を終えて出所するシーンから始まります。脱税と証拠隠滅教唆容疑により懲役1年10カ月、ようやっとシャバに出られ、本業である空手家に立ち戻って第二の人生を歩もうとしたその矢先に……
トラックにはねられ、即死してしまいます。なんという不運。しかし、その魂は同じ時期に自殺したJK・一ノ瀬ケイの体に乗り移っていたのでした。いわゆる石井館長(66)、「転生したら女子高生だった件」です。いま流行りの転生モノを無理やり取り入れた感満載の、ぶっ飛んだ設定ですね。
病院で目覚めたら自分の体がJKになっていて、乳もデカくなっていた石井館長。とりま、揉みますよね、やっぱり。何がなんだか状況がわからないまま、病院を脱出。しかし……
石井館長が転生したケイには、次から次へとヤンキーやら暴漢やらが襲ってきます。どうやら、生前のケイも相当なワケありな存在だった模様。ワケもわからず、持ち前の空手で暴漢たちをなぎ倒します。さすが正道会館館長、転生してもめっちゃ強いです!
さて、ここからが本作の面白いところ。実は、ケイの父親の経営する空手道場が父の死とともに経営難に陥り、ケイが道場再建に奮闘するものの、借金苦により自殺してしまった……という経緯だったのです。くしくも日本屈指の空手道場の経営者である石井館長の魂が乗り移ったのですから、なんという偶然でしょうか。
刑務所に入っていたとはいえ、石井館長はバブル時代に億単位の金を動かした元K-1プロデューサー。その経営手腕は人並み外れています。ケイの生前の記憶がフラッシュバックし、やっと事情を理解した石井館長はケイの姿を借りて道場再建に乗りだすのです。
美少女空手家の背後にチラチラ見えるコテコテ関西弁のオッサン(石井館長)の姿が、いい感じに萎えさせてくれますね。もしかして『どるから』の“どる”って、アイドルの“ドル”ではなく、金のほうの“ドル”の話なのか……? このあたりから読者はこのマンガが単なる美少女格闘マンガではないことに気がつくはずです。
石井館長の頭脳を持ったJKから次々あふれ出す道場再建のアイデア。「月謝袋から自動引落に変えるだけで退会者は三割減る!」「空手道場の経営はストック型ビジネスいうんや!」などなど、実に生々しいビジネスライクなセリフが飛び出します。見た目はJKですが、セリフが完全に商人(あきんど)です。
リスティング広告だのSEO対策だの、Facebook、Googleなどのキーワードも飛び出します。どうやら、WEBマーケティングの知識にも精通している模様。石井館長……本当に刑務所に入ってたんでしょうか? 四六時中ネットやってる人にしか見えません。
まだまだビジネスの話は続きます。石井館長の目指す新しい道場スタイルは、女子をターゲットにしたキレイでおしゃれな道場、その名も「スタバ空手」。経営コンサルタント顔負けのうさんくさ……斬新な発想ですね。これが元K-1プロデューサーの実力。しかも、サラッとレッドオーシャンとか言ってるし。刑務所から出所したてな割に、意識高すぎでしょ。
そんな感じでドップリとビジネスの話に行くのかと思いきや、突然展開が変わって道場再建話そっちのけ、AKBみたいなアイドルグループで研究生をやることになります。文字通り『どるから』な展開になっていくのか?
さらに話が変わって、女子格闘技イベントのプロデューサーを任されることになったりと、次々ストーリーが展開。結局、このマンガはどこへ向かっているのかわからなくなってきています。目の離せない混沌っぷりというか、いい意味での迷走っぷりも魅力。
それにしても、ひとたびイベント興行の話になると、めちゃくちゃリアルなビジネス話になります。チケットの売れ行きの悪いイベントでいかに盛り上がってるかのように見せる方法とか、実践的すぎます。イベント関係者にはめちゃくちゃお役立ち知識なんでしょうけど……これが読者のニーズに合っているかどうかは、まったく不明。
というわけで、美少女格闘マンガの皮をかぶったゴリゴリのビジネスマンガ、ただし、今後また全然違う方向性になる可能性も秘めている『どるから』を紹介しました。格闘技に興味がない人も楽しめる要注目マンガです。
(文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん <http://ablackleaf.com/>)
●『どるから』
https://webcomicgamma.takeshobo.co.jp/manga/dorukara/