ファッション誌「ViVi」(講談社)が自民党の“PR記事”をウェブで公開し、大きな議論を呼んだことが記憶に新しい。ネットでは、「ファッション誌が特定政党の宣伝をするのはおかしい」などと大炎上していたが、「ViVi」世代であり、ファッションを学んでいる学生たちは、これをどう捉えていたのだろうか。リアルな声を聞くべく、文化服装学院・グローバルビジネスデザイン科4年の学生さん5名と、文化服装学院の非常勤講師である、国際政治学者・五野井郁夫氏を交えて話を聞いた。その中で見えてきた、「『ViVi』×自民党の問題点」そして「“PR広告”が雑誌にもたらした弊害」とは。
ファッションが政治の“宣伝”をすることで待ち受ける未来
――今回の「ViVi」の広告に何を思ったか、率直な意見を聞かせてください。
学生Aさん ファッション誌が政治広告を出すことに“違和感”がありました。今までこういったものを、見たことがなかったので。
学生Bさん グロテスク、ですね。まずファッションって、「表現をする」っていう側面があるので、仕事として政治と関わっちゃうと、音楽や芸術にも影響が出るんじゃないかと思います。
五野井氏 表現を自粛しちゃう、みたいなことかな。「この広告に出ちゃったから、もう自民党の悪口は言えない」とか。別に今のところ、自民党がファッションを脅かすようなことはしてないんだけど、「ViVi」はこれから「言えないメディア」になる可能性はありますよね。
学生Bさん それってエンターテインメントからすると、脅威ですよね。批判的な表現ができなくなるって、すごく怖いことだと思う。ここを取っ掛かりに、例えば『東京ガールズコレクション』とかに政治家が出てきそうだと思って……。そうなったら、もうファッションの危機ですよ。でも、あり得ない話じゃないからグロテスクだな、と。
学生Aさん ファッション誌が政治について何かを言うことは悪いことじゃないけど、“自民党”に限ってしまってるから、違和感があります。“自発性”の問題じゃないですかね。誰かから頼まれた“PR”だから、変な感じがするんです。
学生Cさん 自発的に政治を取り上げるなら、内容は批判的でも肯定的でも問題ないと思います。ダサいかカッコいいかは別として。特定政党の要望に応じて記事を出したことが、モヤモヤするポイントなんだと思います。
――ファッションと政治が関わることについては、肯定的ですか。
学生Bさん 政治的なメッセージを伝えるのは、ファッションの役割のひとつだと思います。ファッションは、政治的な主張を抽象的に表現できる力があるじゃないですか。それって、政治にとってはある意味“脅威”だと思うんですよね。
五野井氏 ディオールが2017年の春夏コレクションで発表した「We Should All Be Feminists(私たちはみなフェミニストであるべき)」みたいなメッセージとか。同年には、ミッソーニのショーでプッシーハット(編注:全米各地で行われた反トランプデモ「ウィメンズ・マーチ」で女性たちが身につけていた帽子)をかぶったモデルも登場していました。これらは極めて抽象化されたメッセージとして、政治へ意見を伝えられている。「みんなフェミニストであるべき」というだけで、だから何をしろということではない。そういうメッセージを伝える機能が、ファッションにはありますよね。そう考えると、今回の「ViVi」広告もファッション業界にとっては“脅威”だったのだろうか。
学生Aさん 私たちが唯一表現できる世界に踏み込まれたという点では、危機感を覚えましたね。これが進んでいくと、ランウェイはつまらなくなると思う。言われたものだけを作るみたいな。すでに『東京コレクション』がそんな感じになってるけど。
五野井氏 たしかに、リトゥンアフターワーズが18年春夏コレクションで「戦争反対」的なことを表現してたじゃないですか。棺桶引っ張ったりとか、焼かれた服が使われていたりとか。我々は「すごいな」と思うんだけど、基本的に日本のメディアは黙殺していく。たぶんこういった政治的メッセージを歓迎してないよね、『東京コレクション』自体が。
1980年代以降のモードの服は、単なる服である以上に「メッセージを伝えたい」とか「コンセプトを伝えたい」といった目的があって、それが当たり前。けれども、今の状態のままだとファッションは「とりあえず服を作っておけ」「文化服装学院は洋裁学校のままでいろ」という旧態依然としたことにもなりかねない。ファッションとそれを扱う雑誌自体の意思ではなく、ファッション雑誌が政権与党の“宣伝”をするような状況が続くと「ファッションで主張するなら、我々に従え」と言われる未来が来るかもしれない。
――みなさんが「ViVi」の編集者だったとして、今回ような広告の依頼が来たらどうしますか。
学生Dさん 私はファッションに関わる人間として、プライドを持って「受けない」という選択をしたいけど……。やるとしたら、広告を掲載した次号で自民党以外の政党について取り上げるとか、一つの政党に偏らないようにします。
学生Bさん 依頼を受けざるを得ない状況だったら、すでに「自民党2019」キャンペーンに参加している人たちをモデルに使えば、「ViVi」としてのダメージは少なそう。芸能人でも自民党を支持してる人はいるし、そういう人を使えば、雑誌が自民党に加担したとはイメージされないのかな。
学生Dさん でも、「ViVi」読者に政治への関心を持ってもらうことが目的だとしたら、「ViVi」のモデルを使わなきゃ意味ないよね。となるとやっぱり、“三方よし”にすることは無理なんだと思う(笑)。そもそも私は、この広告、100%失敗だったと思います。
学生Aさん 話題になったからいいんじゃない?
学生Dさん でも本来の目的は、「ViVi」読者のような若い世代の女性に政治に関心を持ってもらうことだよ? これだけ炎上したら、いい印象ないんじゃない?
学生Cさん 炎上したことで目に留まって、自民党に疑問を持ったり肯定したりしたなら、それは政治参加なんじゃないかな。“宣伝”としてはどうなのかと思うけど、「興味を持ってもらう」という点では、失敗だったと言い切れないような気もする。
――今回、選挙の時にこの広告が頭をよぎったりすると思いますか。
学生Bさん 多分、忘れてると思います(笑)。ネットでは炎上してたけど、自民党が伝えたいメッセージとかは、何も印象に残らなかったし。
学生Eさん でも、「ViVi」を読む世代である高校生から大学に入りたての子たちにとっては、“自民党”って言葉はすごく印象に残ったと思います。親と一緒に投票に行ったときに、「あ、『ViVi』で見たな」って思い出すのは自民党だと思う。政策の中身ではなくて、名前を覚えさせるための広告だったら、ある意味成功してしまってるんじゃないかな。
五野井氏 “AKB選抜総選挙”とか、「ViVi」が主催している“タピオカドリンク総選挙”とか、それくらいしか”選挙”なるものに触れていない子たちにとっては、“自民党”というだけでもインパクトがあったかもしれない。
学生Dさん でもこの“タピオカドリンク総選挙”もさ、お金払って1位にしてもらったんじゃない? って思う(笑)。
学生Aさん 確かに、今回の「ViVi」広告があると、見方が変わっちゃうよね。このランキングも広告なんじゃないかな? とか。
学生Dさん 雑誌の信頼を落としただけじゃなく、政治の知識がまだ浅い自分たちの読者に向けて特定政党の広告を出すって、「『ViVi』は読者をどう思ってるんだろう?」と疑問ですね。
五野井氏 ある種の“擦り込み”ですよね。そういう「ViVi」の見識を疑うきっかけにもなってしまった。
学生Dさん そういえば“コスメランキング”とか、「ViVi」の世代が選ぶようなブランドじゃなくない!?
学生Bさん うわ、どんどん怪しく見えてきた(笑)。
学生Eさん 自分たちの意思じゃなく、サポートしてもらったから真実じゃないことを伝えてるとしたなら、何のために雑誌を作ってるかわからないよね。雑誌としての意義は何なんだろう、って感じ。
学生Bさん そういうふうに広告ばっかりやってるから、雑誌はつまらなくなるんだよ。「恥を知れ!」と言いたいです。
五野井氏 となると、自民党的には名前を覚えてもらっておいしかったけど、「ViVi」は信頼を落としているし、たとえお金をもらっていたとしても、ダメージの方がデカいだろうとも言えますね。
学生Eさん 私、高校生の時「ViVi」を読んでたんですけど、ただファッションを見せるだけじゃなくて、知識を与えるような読み物ページが結構多かったんですよね。周りでも読んでる子が多かったし、「これ『ViVi』に載ってたよね」って話題になることもあったなって、今振り返ると思います。
そういう大事な雑誌のはずだったのに、今回の件があってから、雑誌に書いてあることを鵜呑みにしていたことが怖いなって……。「ViVi」編集部の人たちには、ネットの炎上以上に、自分たちが作る雑誌の読者に大きなショックを与えたことを、重く受け止めてほしいです。