自民党と女性ファッション誌「ViVi」(講談社)のコラボキャンペーンに対しネット上で批判が殺到している。
10日夜、「ViVi」は公式ツイッターアカウントを通じて、<みんなはどんな世の中にしたい?自分の想いを #自民党2019 #メッセージTシャツプレゼント のハッシュタグ2つをつけてツイートすると、メッセージTシャツがもらえるよ!>と投稿。「ViVi」および「ViVi girl」と呼ばれる専属モデルと自民党のコラボキャンペーンの告知を行った。
これがツイートされるやいなや、<自民党のおじさんは女性差別が大好きで、嫌韓ばかりだけど、VIVIのみんなは仲良くできるの?><ファッション雑誌からファッショ雑誌になったんですか?><vivi世代を自民党に取り込みたいんだろうけどTシャツより年金欲しいですよね>といったリプライが大量についた。11日13時の時点で1500以上のコメントがつく事態となっている。
これはクリエイターとのコラボによって若者世代に向かってアピールすることを目的とした「#自民党2019」というプロジェクトの一環で行われたもの。「#自民党2019」に関連するものとしては今年5月にも、『ファイナルファンタジー』のキャラクターデザインで知られる天野喜孝氏によるイラストが発表されている。
このイラストではスマートでハンサムな野武士が描かれているのだが、そこには「第二十一代・第二十五代 自由民主党総裁 安倍晋三」とのクレジットが。美化しすぎた首相像に反発と失笑が相次いでいた。
ViVi girlのメッセージと自民党の理念が真逆
「#自民党2019」とコラボした「ViVi」だが、キャンペーンを通じて「ViVi girl」たちが発しているメッセージは、至極真っ当だ。
今回のキャンペーンでプレゼントされるTシャツには「ViVi girl」が考えたスローガンと自民党のシンボルマークがプリントされている。スローガンは「Open Hearts」「Open Mind」「Face Your Fears」など英語で書かれているもので、それらのフレーズは「ViVi girl」が考えたものだという。
「ViVi」のサイトや各モデルのインスタグラムでは、それらの言葉を考えた理由が書かれているのだが、そこには「ダイバーシティ」「他人の価値観をお互い尊重し合う」といった発想が連なっていた。
「Diversity」をキャッチフレーズに選んだ山田ひかるは<グローバル化のおかげで、いろんな文化を知ることができるようになった反面、差別は一向になくならない。差別するのではなく、他の文化を認めて、いろんな文化が共存できるようにしたいです>と書いている。
似た考えで言葉を選んだ人は多い。「Look At The Bigger Picture」を考えたJONAは<ネット社会で情報もたくさん入ってくるし、海外との関わりも増えていくと思うから、凝り固まっていたら疲れちゃうだけ。もっと視野を広げて、日本人が世界で活躍していけるような社会にしたいです>と説明。
「Open Heart」を選んだ石川晶子も<どんどんグローバル化していく社会に向けて、より、お年寄りや、外国人に親切で優しい温かい国にしたい!平和で仲良しであって!>としている。
また、「Open Doors To Arts」の標語を考えた高木栞は<様々な国の音楽や芸術をもっと取り入れて、偏見のない国になって欲しいという思いを込めて、この言葉を選びました>と、その思いを語っている。
「ViVi」はこれまでも、東方神起、TWICE、EXOといった人気K-POPアイドルが表紙を飾り、最近でもNCT 127を連載コーナーで起用している。「ViVi」がピックアップしてきたのは韓国のアイドルだけではなく、2015年には、ワン・ダイレクションが表紙を飾ったこともある。こういった背景を踏まえれば、海外の文化を積極的に吸収したうえで、多様な価値観を尊重しようとする彼女らの姿勢は「ViVi girl」としてあるべき姿なのだろう。
しかし皮肉なことに、自民党とその支持者の行動は、彼女らの思想とは正反対ではないか。中国や韓国の人々に対するヘイト感情を隠そうともせず、排外主義を煽り立ててきたのだから。
「多様性」をめぐるViVi girlと自民党の違い
杉田水脈衆議院議員による差別発言が端的に示すように、多様性を尊重しようという考えも自民党内で成熟しているかは甚だ疑問である。
「ViVi girl」たちの言葉は政治家たちにどう響くだろうか。
「Be Real」を掲げた福本沙織は、その言葉に込めた思いを<私はいろんな人の意見が尊重される世の中になって欲しいなと思ってその事をお話しさせて頂きました>と説明している。
「Express Yourself」というフレーズを選んだ照井和希はもっと直接的だ。彼女は<「男っぽいね!」って言われる度に、「男っぽいってなに?なにがダメなの?」と思ってきたんです。自分らしくあることの何がだめなんだろうって。他人の価値観を理解し、尊敬し合えることができたらどんなにいいだろうって思います>と、理想的な社会のあり方を語った。
桜田義孝前五輪担当相による<子供を3人くらい産むようお願いしてもらいたい>や、麻生太郎副総理による<(年を)取ったやつが悪いみたいなことを言っている変なのがいっぱいいるが、それは間違っている。子どもを産まなかった方が問題なんだ>などの発言が象徴的だが、国民ひとりひとりの人生の多様性よりも、国益ばかりを重視する価値観が目立つ。自民党内で“人生の多様性”について議論がなされたことはあるのだろうか。
どのような人生を歩もうとも、人として尊重される社会を築くことこそ、政治家の役割のはずだ。政治家の考える「普通」の人生からはみ出した人間を、「無責任」と糾弾するような社会であってはならない。
芸能人やカルチャーを利用する自民党のプロパガンダ戦略
「ViVi girl」の政治的なメッセージは、自民党が政治家たちが発信してきた“多様性よりも国益”のメッセージとは裏腹だ。その皮肉な構図はなんとも哀れであると同時に、危険でもある。
同誌の版元である講談社は、「HUFFPOST」において<このたびの自民党との広告企画につきましては、ViViの読者世代のような若い女性が現代の社会的な関心事について自由な意見を表明する場を提供したいと考えました。政治的な背景や意図はまったくございません>と説明しているが、自民党のPR記事に<政治的な背景や意図はまったくございません>との言い訳はふざけているだろう。まさかノーギャラなのだろうか。
しかし政治的な背景や意図が明確でないにもかかわらず、なんとなく安倍政権のPRに協力する著名人は実際、多い。安倍政権および自民党は統計不正や年金の問題から逃げるため、予算委員会の集中審議を100日あまり拒み続けた一方、TOKIO、大泉洋、高畑充希、吉本新喜劇といった芸能人たちと戯れてきた。
芸能人との交流で「親しみやすさ」をアピールした選挙対策の成果は確実に出ている。NHKの調査によれば、安倍内閣の支持率は5割近くを堅持しているという。
もう安倍政権ではどう転んでも景気回復はないどころか、消費増税で悪化することは確実視されている。また外交成果の薄さもはっきりしている状況で、この支持率を維持できているのは、プロパガンダ戦略の成功といっていいだろう。
このようなプロパガンダの勢いは、選挙、改憲と重要なポイントを迎え、どんどん増していくだろう。その意味を私たち受け手はしっかり認識しておく必要がある。