昨年春に放送されたドラマ『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)が、今年の夏に映画化する。2016年に“単発深夜ドラマ”として放送されたあと、好評を受け18年に深夜枠で連続ドラマ化。視聴率こそ振るわなかったが、最終話が近づくにつれネット上で人気が高まり、ドラマ放送中は「#おっさんずラブ」がTwitterのトレンドワード上位に浮上し、世界トレンド1位にもなった。深夜の単発ドラマが映画化まで飛躍した同作は、“平成最後の大ヒットドラマ”と言っても過言ではないだろう。
また、現在放送中の西島秀俊と内野聖陽によるW主演ドラマ『きのう何食べた?』(テレビ東京系)も、ネット上を中心に好評を博している。第1話の見逃し配信は120万回を突破し、これは動画配信サービス「ネットもテレ東」の過去最高再生回数だといい、数字でも結果を残した。20年公開の、関ジャニ∞・大倉忠義と、若手きっての実力派俳優・成田凌が主演によるW主演映画『窮鼠はチーズの夢を見る』も、ネットで早くも注目を集めている。これらに共通するのは、すべて男性同士の恋愛を扱った作品、いわゆる“BL作品”であることだ。
かつてBLは「影でコソコソ楽しむ」ものだったが、そんな話は今や昔。ついにジャニーズにまで波及、かつてない盛り上がりを見せている。そこで、06~11年に映画『タクミくんシリーズ』を大ヒットさせた、BL映像化のパイオニア的存在であるビデオプランニングのプロデューサー・三木和史氏に、昨今のBL映像作品を取り巻く状況について語っていただいた。
BL企画が通らないのは「男同士でキスする」からじゃない!?
――近年、BLの映像作品が増えていますが、“先駆者”として、この状況に思うことはありますか。
三木和史氏(以下、三木) 実は僕も、3年前に『窮鼠はチーズの夢を見る』の原作を映像化しようと、版権を取りにいったんですよ。原作、めちゃくちゃ傑作じゃないですか。だから映画化したかったんですが、「上映規模が小さいと、ちょっと……」と難色を示されて。まあ、僕らがやるとすると低予算で、上映館数は全国でも10カ所ほどになってしまいます。ジャニーズの大倉くんと、人気若手俳優の成田くんが演じて、行定勲監督ときたら、そりゃあ上映規模は大きいでしょう。「やられたー!」と思いましたね。
――ほかにも、NHKでは現在『腐女子、うっかりゲイに告る。』という、ゲイの主人公が登場するドラマが放送されています。
三木 NHKだからやれることに限界はありそうですが、チャレンジ精神は感じますね。要は、“BL”に終始しなければいいんですよ。“BL”になると、おのずと規模が小さくなり、キャスティング時にプロダクションが難色を示すから、企画自体通りにくいんです。
――「“BL”に終始しなければいい」といいますと……?
三木 例えば、俳優を作品に出すかどうか決めるとき、プロダクションが重要視しているのは“規模”なんです。上映館数が多いとか、宣伝をたくさんするとか、そこが基準になっています。我々のように規模が小さいと、“BLというジャンルの作品”になってしまい、前向きに進めてくれるところが少ないんですよ。
――なるほど。では、テレビ局や芸能事務所がBL作品を承諾しにくい理由は、「男同士の恋愛描写があるから」ではない、ということでしょうか。
三木 そうです。台本に男性同士のキスシーンがあっても、役者たちは納得して演じますからね。『窮鼠はチーズの夢を見る』は男性同士の恋愛を描いているけれど、それ以前に、実績のある行定勲監督の作品だから、「なんか世界に通用しそう!」と思わせる力がある。男性同士の恋愛をテーマにしながらも、“BL作品”の枠組みを超えているから、映画化できたんじゃないでしょうか。……じゃあ、大きな映画会社にBLの企画を通せばいいのかというと、それもまた難しい。
――それは一体なぜでしょうか?
三木 大手の映画会社には、BLに魅力を感じる人や、作品としてやりたいと思う人が少ないんだと思います。一般的じゃないと思っているから、わからないプロデューサ―が多いなと感じます。一般的だと思わせるには、やっぱり「○○賞受賞」とか、監督・脚本家のネームバリューは大きいです。
例えば、日本で06年に公開された洋画『ブロークバック・マウンテン』も男性同士の恋愛を描いていますが、作品として素晴らしく、ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞、アカデミー賞で監督賞などを受賞しましたよね。このころまだ日本では、男性同士の恋愛を描いた作品は少なかったと思いますが、受賞をきっかけに「見てみよう」と思った人は多かったはずです。でも逆に言えば、賞を取らなかったら、どんなに内容がよくても“BL作品”で終わっていたかもしれない。結局、日本人って賞の権威とか、ヒット作を生み出した監督・脚本家に弱いじゃないですか(笑)。
――おっしゃる通り、「○○賞を取ったんだから面白いだろう」とか思っちゃいます(笑)。とはいえ、三木さんがBL映画を手がけていた約10年前と比べると、BL作品を映像化することに対するハードルが下がったような印象を受けますが、実際はそうでもないのでしょうか。
三木 確かに、市民権は得ました。当時、BL映画の出演者は2.5次元俳優が主でしたが、昔は2.5次元舞台自体、『ミュージカル「テニスの王子様」』くらいしかなくて、コアなファンだけのものでしたよね。それが今は2.5次元舞台の公演が増え、俳優のファン層も広がり、客がたくさんついていることを知った制作者が「2.5次元の舞台を作りたい」と思うようになった。なので、10年前よりも2.5次元俳優が出演する作品自体の注目度が上がったとは感じます。でも、それはそれ、これはこれ。“BL”を題材にした映画やドラマとなると、やはりまだまだ難しいです。
――公開規模の大小以外にも、ネックになることがあるのでしょうか。
三木 『おっさんずラブ』見てましたか? 僕は面白く見てましたけど、吉田鋼太郎さん演じる“部長”のキャラクターがバラエティ要素を含んでいたことで、あそこまで多くの人に受け入れられ、人気が出たと思うんです。「こうすればテレビでもBLできるのか」と得心しましたね。しかし、男性同士の恋愛をバラエティ要素ナシで、“王道”の恋愛ドラマにしようとすると、どこもやりたがらないという……。
実は『タクミくんシリーズ』のドラマ化を、以前某局に提案したんです。『タクミくんシリーズ』をご存知の方はわかると思いますが、『おっさんずラブ』とはちょっと方向が違って、“ド王道”の学園恋愛物語なんですよ。原作は根強い人気があるし、キャラクターも魅力的だし、すでにしっかりファンもついているし、絶対にドラマ化するべきだと思っています。
余談ですが、『タクミくんシリーズ』を映画化した時、ファンの方たちが本当に熱くて驚きました。公開当時、「タクミくんファン 九州支部」と名乗る30人くらいのファンが、手紙入りの分厚いアルバムを私宛に送ってくれて。中には「1万本見た映画の中で、一番よかった」なんて書いてあるんです。「そんなわけあるか!」と思うけど(笑)、とてもうれしかったですね。これだけ熱い作品なのに、テレビ局的には「倫理的にしんどい」らしく、ドラマ化を断られたんです。
――同性愛に対して倫理を問うとは……言葉を失います。
三木 「男性同士の恋愛モノは、いくら内容が深くても、倫理的にちょっと……」ってね。要するに、テレビ局には「恋愛は男女でするべきだ!」みたいな、古い固定観念が残っているんですよね。
――でも、今年1月クールには“デリヘル”を題材にしたドラマ『フルーツ宅急便』(テレビ東京)が放送されていました。これも「倫理的にしんどい」とツッコまれそうな題材ですが……。
三木 『フルーツ宅急便』はデルヘルを題材にしていても、監督が映画『凶悪』(13年)の白石和彌さんと、映画『横道世之介』(13年)の沖田修一さんなんですよね。彼らが監督で、濱田岳さんが主演という要素は、やはり強い。だから『タクミくんシリーズ』も、旬の監督や俳優をキャスティングできれば、状況は変わってくるはずなんです。脚本家も同様に、例えば「宮藤官九郎さんを連れてきました!」となれば、局上層部は彼が濃厚なBL作品を書いたとしても、「クドカンは知ってる! OK!」となっちゃうでしょうね。
(番田アミ)
■後編へ続く