
昨今、男性地下アイドルの“過激なファンサービス”が注目を集めている。ライブ会場に訪れたファンとアイドルがハグをしたり、指越しにキスをしたりと、「粘膜の接触以外はOK」とされているグループは少なくない。彼らのファンはその過剰なサービスを求め、1人で月に数十万円、数百万を消費することも珍しくないという。しかし、このようなビジネスモデルは、今後も“安泰”でいられるのだろうか。モノを売らずにサービスを売るアイドルの未来について、外資系戦略コンサルタントでアイドルビジネスのアドバイザーも務めるCuteStrategy氏に分析、寄稿いただいた。
男性地下アイドルグループの誕生と、現在の状況
2005年に東京・秋葉原の小劇場で生まれた「AKB48」は、「会いに行けるアイドル」としてファンとメンバーの距離を縮め、これまでの女性アイドル像を大きく覆した。さらに、CDを購入したファンが、次回シングル曲の歌唱メンバーを投票で決める「選抜総選挙」というセンセーショナルなイベントがテレビで放送され、一般認知されるように。「SKE48」「NMB48」といったファミリーグループの展開も、一時的なブームではなく、持続的に活動できる基盤を作り、“地下”から芸能界全体に大きな変化をもたらすほどの女性アイドルグループに成長した。
そんなAKB48の成功に続けとばかりに、2,000~3,000組とも言われる女性アイドルグループが全国各地に誕生。音楽・映像制作ソフトの低コスト化による初期投資の低さと、「モノの消費」から「経験の消費」へと変化する時代の流れを受け、「アイドル戦国時代」と呼ばれるブームが生まれた。しかし、16年ごろよりその勢いは収束し始め、「乃木坂46」「欅坂46」といった一部人気グループを除き、徐々にライブ会場が小規模化。戦国時代に生まれた多くのグループが、解散する憂き目に遭う。
一方、男性アイドルグループも、ジャニーズ事務所による独占状態を切り崩そうと、AKB48の戦略やビジネスモデルを参考にし、「会いに行けるアイドル」をコンセプトとした接触サービスや、SNSなどのWebメディアを活用するグループが増加。10年代初めには、大手芸能事務所から「超特急」「DISH//」、名古屋のご当地アイドルとして「BOYS AND MEN」などが誕生し、ジャニーズに一極化していた男性アイドル市場を動かした。
しかし18年、ジャニーズ事務所の若手グループ「King&Prince」が、デビューシングル「シンデレラガール」を初週57.7万枚売り上げたのに対し、超特急は結成5年目の17年にリリースしたシングル「超ネバギバDANCE」は、初週7.3万枚という結果だった。BOYS AND MENはここ最近、シングルを10万枚以上安定的に売り上げているものの、やはり初週ランキングではジャニーズグループに第1位を奪われる現状だ。
10年代初めにデビューしたジャニーズ以外の男性アイドルが伸び悩む中、10~15年には新たな男性アイドルも多く誕生。しかし、前述した通り、ジャニーズ以上の人気を誇る男性アイドルグループを生み出すことは難しく、必然的に、ジャニーズ以外の男性アイドルファンも増えにくい。そのため、多くの男性アイドルは、キャパシティ200~300人程度の小規模なライブハウスなどを活動の主体としており、“地下アイドル化”している現状がある。
男性地下アイドルが収益の柱としているのは、ジャニーズアイドルが絶対にやらない、“チェキ券”などを用いた接触サービスの提供だ。このような手法は、大手芸能事務所の男性アイドルと争わない代わりに、同じような地下男性アイドルと対抗することになる。数多のグループが存在する激しい競争環境の中にあっては、音楽の質やパフォーマンス、ビジュアル的な面ではなく、「いかにファンが満足するサービスを提供するか」が重要になってくる。その結果、冒頭で述べたような、ハグ・指越しのキスなどの、過激なファンサービスが生まれることになるわけだ。
ファンの多くは、メンバーからのファンサービスを受けるため、1,000円~3,000円の“チェキ券”を購入している。このチェキ券を買えば買うだけ、長い時間お目当てのメンバーと会話やふれあいが楽しめるという仕組みだ。実はこのやり方、ビジネスモデルとしては非常に効率がいい。その理由としては、CDやグッズを販売すると原価が掛かり、さらに在庫を抱えるため、小規模な市場ではリスクが大きい。しかし、モノを売らずにサービスだけを売るとなれば、会場とメンバーのスケジュールだけ押さえておけばよいため、もっとも素早く、かつ高い利益を生む販売方法と言える。
男性地下アイドルが陥る2つのジレンマ
しかし、このような“高利益率”の身体的な接触サービスが収益の柱となる場合、男性地下アイドルは2つのジレンマに陥ると推測される。1つは、人気の獲得とファンのサービスの満足度が反比例してしまうことである。接触サービスはデジタル情報のようにコピーできないため、必ず物理的・時間的な制約が生じる。つまり、人気が出てファンが増えれば増えるほど、そのサービスはより簡易に、より短時間になるため、今までのファンサービスに満足していた既存ファンの満足度が下がり、結果的にファン離れを起こす可能性が高まるのだ。
そしてもう1つは、利益率低下のジレンマである。先ほど述べた通り、高利益率の身体的な接触サービスを提供するには、物理的・時間的な制約がある。ならば、収益の柱を「接触サービス」から「ライブ活動のチケット収入」「CD・DVD・写真集等の販売」などにシフトしていけばいいと思われるが、そのためにはまず制作費用が必要となり、同時に在庫を抱えるリスクも生まれるため、必然的に利益率は下がってしまう。利益率が下がれば、メンバーやスタッフへ支払われるギャラが減り、最悪の場合、グループが存続できなくなるかもしれない。
そのため、利益の減少を招くアクションに躊躇し、より大勢のファンを獲得する行動に移りづらくなってしまう。これら2つのジレンマを抱えてしまうと、中~大規模ライブ会場に達する人気の獲得が難しくなり、“地下”でしか活動できない男性アイドルが増える。その結果、さらなる過剰な接触サービスにつながっていくのだ。
現在、男性地下アイドルにとって、最も理想的なサクセスストーリーは、小規模会場でのライブや、SNSでの発信がネットで注目を浴び、マスメディアに進出してファンを大きく増やし、大規模会場でのライブ活動を実施することであろう。しかし、そのストーリーを実現するために彼らの行く手を妨げる大きな存在が、本来競合するはずがない“ジャニーズ”である。
テレビ、映画、雑誌などのマスメディアを活動の主体にしたジャニーズは、TOKIOや嵐など、一般的な認知度と人気を誇るグループのメディア出演を交渉カードに、若手グループのメンバーをマスメディアに出演させる、いわゆる“バーター出演”を利用して、認知度と人気を継承していく流れを作った。しかし、近年のWebメディアの台頭は、ジャニーズの独占状態を脅かすこととなる。
ジャニーズの人気を支える10~20代や、消費を支える30代以降の女性が、スマートフォンを起点としたWebへのアクセスからメディア消費をするようになる一方、ジャニーズはマスメディア中心の戦略を変えず、ネット上には顔写真すら使用していなかった。その結果、若手グループの一般知名度を著しく下げてしまった。
いよいよ危機感を持ったのか、Webメディアへの露出を実質的に“禁止”してきたジャニーズも、昨年ようやくネットニュースでの写真使用を解禁し、動画サイト「YouTube」にチャンネルを開設するなど、マスメディア以外にも露出するように。しかしこれらの動きは、ジャニーズ唯一の未開の地だったWebメディア戦略にシフトする男性アイドルにとって、新規ファンの獲得を一層難しくしたと言えるだろう。
ネット時代だから出現した、意外な競争相手
男性地下アイドルの競争相手は、ジャニーズや中堅男性アイドルグループだけではない。実は最も大きな脅威となるのが、「東海オンエア」や「Fischer’s」など、男性グループで活動するYouTuberである。彼らは女性ファンを中心に、数百万人ものチャンネル登録者=ファンを有し、Webメディアを巧みに活用している。最近では、18年6月~19年1月に「Fischer’s」がイベントを開催し、Zeppダイバーシティ東京を2日間満員にしただけでなく、大阪、福岡、札幌でもキャパシティ最大2,000~3,000人の中規模会場を埋めている。
彼らYouTuberの収益は、その膨大なチャンネル再生回数から生まれる動画サイトの広告料や、企業とのタイアップに依存しているため、前述した男性地下アイドルが陥る2つのジレンマに悩まされることもない。つまり、マスメディアはジャニーズ、WebメディアはYouTuberによって、大きなアピールの場をふさがれている状態なのだ。接触サービスに依存することでジレンマを抱える男性地下アイドルに待ち受けているのは、明るい未来ではなく、男性地下アイドル同士で数少ないファンを奪い合う、“レッドオーシャン”なのである。
■CuteStrategy
京都大学・大学院を卒業後に、外資系戦略コンサルティングファームへ。 企業や政府、自治体などのグローバルリサーチ、事業戦略立案に携わる。激務のプロジェクトに苦悩している中、アイドルに一命を救われてから一転アイドルオタクに。経営学的観点からエンタメ業界を分析する視点が好評で、多くのメディアで紹介されている。
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