3月に刊行されたコミック『失恋めし 京都・奈良・大阪・神戸編』(KADOKAWA)には、59の失恋物語と、そこに寄り添うメニューが描かれている。作者は、TOCANAで魔女修行漫画「かげのしょ」を連載中の木丸みさきさん。第23回コミックエッセイプチ大賞審査員特別賞「書店員賞」を受賞した大衆演劇漫画『わたしの舞台は舞台裏~大衆演劇裏方日記』(KADOKAWA)でデビューして以降、幅広いジャンルを手がけてきた。
新刊『失恋めし』は「関西ウォーカー」(KADOKAWA)の連載をまとめたもの。大阪、京都、奈良、兵庫・神戸と、関西に実在する飲食店を舞台に、老若男女、さまざまな世代の失恋模様が描かれている。
「執筆の依頼をいただいた際に、編集さんから『ヤケ食いの話はなしで』と言われていたこともあって、毎回失恋と食でどう話をひねるか、かなり悩みました。単に思い出の味に浸る話ではワンパターンになってしまうし、暗い話にもしたくなかった。意外性のある話になるように展開を考えるのは難しかったです」(木丸みさきさん、以下同)
さらに、実在する店を舞台にすることで、こんな悩みもあったそう。
「どこも関西では人気の、美味しい飲食店ばっかりだったんです。だから、その店で食事をしたことがきっかけで別れるとか、お店の印象が悪くなるような話にはしたくなくて。あ、もちろん人気店じゃなかったらいいってわけではないでんすけど(苦笑)。ただ、そもそも『失恋』というマイナスな状態から話が始まるので、毎回どう楽しいオチにするか、そこにどう共感してもらうか、しかもそれを2ページのショートストーリーでどうまとめるか、頭を使いました」
中には、木丸さん自身の体験談なども盛り込まれているのだろうか。
「エッセンスとしては、実体験を参考にした部分もありました。例えば大阪のハーブカフェ『SORA』さんの話は、『初めてのお店にひとりで入る』っていう主人公の女の子の不安が、自分の体験からきているものです。知らないお店に入ることって、不安と出会いの繰り返しじゃないですか。その気持ちを恋愛に絡めて描きたくて。
それから、大阪の熱帯魚バー『近藤熱帯魚店』さんを舞台にしたのは、彼氏と別れてから化粧が濃くなった、でも実はそのほうが本来の自分らしいっていう女の子の話。男性って、奇抜な髪型とか派手な服装が嫌いな人もけっこういるじゃないですか。私も、彼氏が嫌がるような派手な服とか髪色が好きだったことがあって、付き合ってる間は彼の好みに合わせておとなしくしてましたけど、別れたてまた自由にできると思ったら開放感があった、っていう体験をしたことがあったんです」
紹介されている飲食店59店には、すべて店舗情報やMAPが載っているのも、同書の魅力になっている。連載時には60店以上の飲食店を取材したというが、印象に残った店はあるのだろうか。
「どこも思い出深いですが、個人的には奈良の『茶粥ののんのん』さんが印象的でした。江戸時代の茅葺きをそのまま使っていて、お店のある建物自体が文化財としても重要なものなんです。取材時は真夏で、夏場に庭を眺めながらアツアツの茶粥を食べるのも、なんだか風情があって格別でした。しかもこのお店ではストーリーにも関係する、ちょっとラッキーな出会いもあったんですよ。誰に出会ったかは、秘密なんですけどね(笑)」
★試し読みは次ページにも!
関西というと、大阪、京都、兵庫、奈良と、それぞれの県民性の違いが面白おかしく取り上げられることも少なくない。これだけの店舗数を取材すると、飲食店にも、地域性を感じることはあったのだろうか。
「改めて読み返してみて気づいたことですけが、例えば大阪は商店街や繁華街など、賑やかな場所にあるお店を多く紹介していて、どこも安くて美味しくて気取ってなかった。京都や奈良はやっぱり和食が多くて、上賀茂神社の横にある今井食堂サバ煮だったり、龍安寺・西源院の湯豆腐だったり、清水寺の冷やし飴だったり、神社仏閣やその土地に所縁のあるお店が多く登場しました。それから神戸は独特な食文化があって、外国と日本の食のミックスが面白かったです。
そういう背景に引っ張られた部分もあったのか、大阪は下町的な人情話が多くなったし、失恋してもタダでは起きない主人公が多くなりました。京都奈良は神社仏閣や土地にちなんだ話が中心だったし、神戸はその非日常的な感じがにじみ出るようなひねった話が出てきたかなあと」
そんな関西の文化やさまざまな世代の恋模様を描いた本作について、木丸さんは改めて、「恋愛をしたことがあって、食べることが好きな人ならぜひ手にとってもらえたら」と話す。
「同棲して別れた彼氏より、一緒に飼っていたペットが恋しい! とか、自分はいつも人の失恋話を聞くばっかりだとか、好きになる男が筋肉バカだったり、音楽とか芸術とか趣味に走って『私、あんたの人生に関係ないやん!』ってツッコミたくなるような人を好きになってしまったりとか、とにかく、いろんな方向から失恋の話を切り取ったつもりです。
同時に、関西に住んでいる人なら、知ってるお店が舞台になっていて楽しんでもらえるでしょうし、そうじゃない方も、グルメガイドとしても面白く読んでいただけるんじゃないかと思います。私自身は失恋したら甘い物に走っちゃうんですけど、この取材を通して、そうじゃないお店もたくさん開拓することができました。お店と料理の雰囲気が伝わるように描いたので、ぜひ、ショートストーリーとあわせて楽しんでください」
GWに関西旅行を予定している人は、同書を片手に、その店で起こっているかもしれないさまざまな人間模様に思いを馳せながら、旅してみてはいかがだろうか?
■著者プロフィール
●木丸みさき
大阪生まれの大阪育ち、京都府在住。大阪の某大衆演劇場スタッフとして働いた経験をもとに、劇場で出会った役者やお客さんたちとの交流を描いた「わたしの舞台は舞台裏 大衆演劇裏方日記」でマンガ家デビュー。同作は、第23回コミックエッセイプチ大賞で「書店員賞」を受賞。

『失恋めし 失恋めし 京都・奈良・大阪・神戸編』(KADOKAWA/1,188円)
恋が終わった時、あの人を忘れさせてくれたもの、元気をくれたもの、あの味だった! 失恋をテーマに、1つの恋が終わった女性が街で初めて出会う店の味、友人に連れられて食べた懐かしの味など、おいしい食べ物を通じて元気をもらっていく1話完結の失恋×グルメコミック。登場するのは、
・ 京都「西源院(龍安寺内)」/心を穏やかにしてくれる精進料理の湯豆腐
・ 大阪「美味卯」/「好きなブランド卵で食べる優しい卵かけご飯
・ 京都「メゾン・ド・フルージュ」/一年中イチゴが食べられるイチゴ専門店の「イチゴミルフィーユ」
など、京都・奈良、大阪、兵庫・神戸に実在する59店。












