週刊誌「SPA!」2018年12月25日号(扶桑社)が、「ヤレるギャラ飲み」特集内で「ヤレる女子大学生RANKING」として、ギャラ飲み(男性が女性に謝礼を支払う飲み会)の後に性交渉に発展しやすいとする大学を実名で掲載した。オンライン署名収集サイト「Change.org」で「女性を軽視した出版を取り下げて謝って下さい」という署名運動が起こり、目標の5万人を突破。2019年1月9日、ランク付けされた5大学が扶桑社に抗議文を送り、同日「週刊SPA!」犬飼孝司編集長は謝罪文を発表。また、同14日には、編集部で署名活動を行った大学生ら4人と話し合いが行われた。ネット上では、こうした一連の抗議や対話に賛同する者が多かった一方で、主に男性から「女性も『抱かれたい男/抱かれたくない男ランキング』を笑いながら読んでるだろう」といった反応がみられたのも事実。女性も“男性の性を商品化”しているのか、それに鈍感になっているのではないかといった葛藤を抱えている人もいるのではないだろうか。
今回、ジェンダー論を研究する東京大学大学院 総合文化研究科 教授・瀬地山角氏に取材を行い、「ヤレる女子大学生RANKING」と抗議運動、そしてそれに伴うネットの議論をどのように見たか、話を聞くことに。内容は、昨年末東大で開催された『彼女は頭が悪いから』(姫野カオルコ著、文藝春秋)ブックトークでの“炎上”にも発展した。
「性的同意」について要望を出したことが見事だった
――まず「ヤレる女子大学生RANKING」についてどのように思われましたか。
瀬地山角氏(以下、瀬地山) 調査としてなってない、ランキングの是非以前にまったく意味がない妄想の産物だということが明らかです。しかも、このランキングに挙げられて喜ぶ人はいません。選ばれた人が不愉快に感じるという点が一番問題。「美人ランキング」「結婚したいランキング」といった肯定的なものであれば、それがいいかどうかは別にして、ここまで問題にならなかったかもしれません。しかも当該大学に所属する多数の学生が迷惑を被る。二重、三重に論外ですね。
――女子学生が抗議、署名活動を行ったことについてはどうでしょうか。
瀬地山 署名サイトを使うことで、「ヤレる女子大学生RANKING」に抗議の声を上げるハードルを上手に下げ、編集部との対話まで持ち込んだ。見事だと思いました。特に編集部との対話で「セックスを扱うときは性的同意についても触れてほしい」という要望まで入れたことが最も評価すべき点です。本学(東京大学)の学生が起こした強制わいせつ事件(2016年)、強制性交事件(18年)も含めて、性的同意が日本社会のなかで担保されていないことが大きな問題。「ヤレる女子大生RANKING」は、性的同意を無視しています。女子学生にとって、こんな目線で男性が飲み会に来るとしたら恐怖を感じると思います。
――その後、「SPA!」3月12日号では、「SEXしたい!の新常識」という特集が組まれ、「性的同意」についても取り上げられています。一方で、ウェブメディア「felice」の「恋愛四季報」や、「SPA!」の「合コン四季報」など、女性が男性の年収や合コン満足度を評価している企画もあり、一部の男性を中心に「それはいいのか」といった意見が出ています。
瀬地山 私はこの件が、「男性の性を商品化」している事例だとは考えていません。バブル期の「三高」がそうであるように、相手がある基準でモノ化され、ランク付けされる。それ全体を悪だというのは無理です。“値踏み”は男性も女性も行っているでしょう。ただ、「この合コンはいい男性が集まる」というものであれば、選ばれた当人にとって肯定的な企画として受け取れるかもしれません。ですが「ヤレる女子大学生RANKING」は、上位だろうが下位だろうが肯定的に受け取れないものではないでしょうか。「ヤレる」という表現自体が、女性の主体性と尊厳を完全に無視しており、さらに目の前の個人どころか、大学ごとひとくくりにされたら、とてつもない迷惑です。
――男性も女性も、それぞれ自身が帰属するものへの差別や蔑視には敏感に反応しますが、それ以外には鈍感な面があるように思ってしまいます。
瀬地山 東大には「女子学生向けの住まい支援」(家賃補助)制度がありますが、あれを「逆差別だ」という男性がいます。しかし、女子には「浪人させない」「東京に出さない」という差別がいまだにあり、男性が履いている下駄の高さに気づいていないんですね。女性専用車両も「逆差別だ」と言う男性がいる。性犯罪の恐ろしさを知らないから、そんな暢気なことが言えるのです。背後には明らかな性差別があり、それを少しでも是正するための制度だということを知ってほしいと思います。
――女性差別/蔑視に当たるCMが問題視されるなど、Twitterではたびたびジェンダーに関する議論が白熱しています。しかし、そういった女性の声に、男性が反論するなど、「女性VS男性」という炎上の構図になることがしばしばあり、議論が平行線となるケースも多いようです。どういった議論のあり方がいいのでしょうか。
瀬地山 Twitterの文字制限は140字。それでは、きちんとした議論ができません。それに、引用や2次引用で広がるので、数が多いように感じられますが、言論空間の全てではない。「Twitter=世論」ではありません。「#MeToo」のように匿名の力を活かして議論を立ち上げることができるようになったことは高く評価しています。一方でネット空間は広告も含めてターゲット・マーケティングが進んでおり、自分にとって関心がある、好ましいニュースばかりが並ぶようになっている。つまり、自分を相対化する意見に触れる可能性すらなくなるように誘導されるので、世論形成がゆがんでいくのです。今後も、その傾向は強まっていくと思いますね。そうならないためには、反論と、反論に対する反論を併記し、論点を整理して議論する必要があると感じています。
――先ほど、東大生の強制わいせつ事件の話が出ましたが、「ヤレる女子大生RANKING」が炎上した際、この事件を思い出す人も多かったようです。被害者はインカレサークルの飲み会に参加した女子学生で、東大生や東大大学院生ら3人が逮捕されました。犯行現場は加害者の1人の自宅マンションだったことから、「女子学生も、東大生に近寄りたいという下心があった」「マンションまでついて行った女子学生も悪い」など、被害者に批判的な意見が、男性側、女性側からも出ていました。
瀬地山 それは典型的なセカンドレイプです。男性・女性の属性だけで意見が全て決まるわけではありませんから、女性のなかにも「ついていった方も悪い」と言う人もいるでしょう。私たちは「それは違う」ということを断固言っていかなければなりません。誘いについて行こうがなんだろうが、「If it’s NOT yes, it’s NO!」……これは「明示的なイエスでない限りノー」という意味であり、それを無視したらその瞬間に犯罪となります。刑法がそのように運用されている、もしくは運用されなければならないわけです。言い換えれば「相手がノーと言わなかった」というのは、「性犯罪ではない」という言い訳にはならないのです。しかも、一度「イエス」と言っても、全て「イエス」ではありません。最後の瞬間でも「ノー」と言えば立件しなければなりません。東大では、性犯罪の防止策を取ってきたつもりでしたが、事件が立て続けに起きたということは、つまり「機能していなかった」ということ。ですので今回の4月の新入生ガイダンスでは性犯罪防止について取り扱うようにと、私が働きかけました。
――2018年12月12日、東大生による強制わいせつ事件をモチーフにした小説『彼女は頭が悪いから』のブックトークが、東大で開かれました。
※参考記事:東大新聞オンライン「姫野カオルコ『 彼女は頭が悪いから』ブックトーク」レポート ~「モヤモヤ」とともに振り返る~」(2019年2月5日)
瀬地山 私が批判された件ですね。
――先生が、同作における「東大男子の描き方」について抗議したことについて、「なぜそこにこだわる必要があるのか」と疑問の声が出ていました。
瀬地山 私の悪かった点は「東大は性犯罪防止の取り組みを強化しなければならない。今後、新入生全員に伝える仕組みを構築する必要がある。それは我々が責任を持って行うべきことであり、遅きに失したが、そうした取り組みを始めている」ときちんと伝えなかったことだと思っています。その前の準備作業の一つとして、同作のファクトチェックを始めたら、「ファクトチェックだけをしている」ように受け取られてしまいました。ゼミ生とも「ダメ出しの会」をやり、批判してもらいました。
一方で「東大生の性犯罪を防止する」という観点から見たときに、あの小説はあまり役に立たないと今でも思っています。「東大生向けに書かれたものではない」「フィクションだ」といわれれば、それまでで、そこは作者のご判断でしょう。ただ東大の描き方についておかしなところが多く、東大生の一部はとても読み続けられないのです。少なくとも事前のゼミではそういう意見がたくさん出ました。まず女子学生の比率が間違っている。寮の描写も違う。「そんな細かいことどうでもいい」とおっしゃる方もいましたが、寮は一部屋13平米で、苦学生が寮費8,000円で入るところ。「あの苦学生の狭い空間を『広い』と言うのは、おかしい」という意見が出ました。単に広さの問題ではないのです。それだけなら、そんなにこだわりません。たぶん三鷹寮の学生は読めなくなるし、それ以上に「三鷹寮生=苦学生」という東大内の常識に反して、恵まれているように記述されているので、読み進められなくなる。大学の実名を出して書くのに、ネットで「東大 三鷹寮」で検索すれば間取りまですぐわかるような簡単なファクトチェックをしなくていいのかとは思いましたが、それは作者のご判断です。
――あらためて、先生が抱いた違和感について教えていただけますか。
瀬地山 まず違和感を持ったのは、当該加害者が「心がぴかぴかしてつるつる」と、挫折感がないように描かれている点。そんなことはあり得ない。入学したらいきなり英語の成績トップ10%だけ、特別なプログラムが用意されているし、期末試験の点数によって3~4年生の進学先の学部や学科が振り分けられるというかなり強烈な競争が起きる。ほとんどの学生は挫折感を味わいます。そこで学内でうまく行かないから、“外に向かって火を吹いた”んだと私は思っています。「東大生」という言葉が意味を持つのは東大の外に対してのみですから。学内ではそういう学生は「ちゃらい」と形容されます。18年にレイプ事件を起こした東大生は、ミスター東大のファイナリストでした。
「ちゃらい」を「つるつるぴかぴか」に置き換えるとリアリティから離れすぎているし、「ちゃらい」の背後にある屈折が描かれておらず読み続けられない。さらにそれ以上にリアリティから乖離しているのが、「理Ⅰに入ったら女子カードが2枚くる」という記述です。東大男子の一番の悩みはモテないこと。加えて理Ⅰは特に女子が少なく、一番女性から縁遠い科類なので、「女子カード2枚」はあり得ません。理Ⅰの学生はこれには相当違和感を持つでしょうし、読み進められなくなる学生が多くなります。作者が作り上げた、現実ではない別世界のようなものに映ってしまいます。犯罪を犯した肝心の理Ⅰに言葉が届かないのです。そして逆に圧倒的にモテないという前提があるから、自分に女性が寄ってくる空間のなかで暴走した。モテているということが、勉強ができないことの代償行為になるわけです。
――単純に、頭のいい男性が、自分より頭の悪い女性を見下して性犯罪に走った……だけではない側面があるということでしょうか。
瀬地山 「学歴の上下関係が男女関係に影響を与えた」という広い意味で、「東大」を使っているなら、それは「東大」に限った話ではないと思います。早稲田大学でも慶應義塾大学でも京都大学でも、大学名を聞いて「へえ、すごい」と言ってもらえる大学では起きる可能性がある。ただ東大固有に発現するメカニズムを考えるなら、少し別の捉え方をする必要があると思っています。東大は入学後も点数による序列化が明確に起きてしまい、それによって進学する学部・学科が変わってしまう大学です。入学後も成績や進学先が序列として意識されやすく、だからこそ外に対してしか、大学名が意味を持たないという現象が起きやすいと思っています。劣等感の反転です。
ある東大院生の女性が、周りの男性から仲間はずれにされるという話を聞きました。よく聞けば、その女性は他大出身で、修士から東大に入ったとのこと。大学院の試験は学部入試とはかなり違うので、「学外出身者」に対してそういう言動が出てしまうとしたら、やはり“外に向かって火を吹いている”ということになります。これも劣等感の反転です。
――瀬地山先生が、『彼女は頭が悪いから』に対して抱いた疑問は、「東大生の性犯罪防止に役立つのか」という視点で読んだ上でのものだったということがわかりました。
瀬地山 あの場の発言だけで何もしなければ批判をされるのは当然です。ただ理Ⅰの学生に「この本読んで反省しろ」といってもあまり効果がないと私は考えます。理Ⅰのリアリティと乖離しすぎているからです。繰り返しますが、「東大生向けに書かれたものではない」「フィクションだ」といわれれば、「ごもっともです」と言うほかなく、それ自体に異を唱えるものではありません。ですから私は自分の仕事として、4月の新入生ガイダンスに性犯罪防止を入れるべく奔走したわけです。
3,000人を対象とするガイダンスというのは、一度には行えず、午前中計7教室に分かれて、複雑な履修制度から学生生活、保健センター、各種相談所などなどガチガチにスケジュールが入っており、そもそも新規の枠をもらうという案は相手にもされませんでした。なので、男女共同参画関連の枠に入れてもらうように働きかけ、なんとか担当の総長補佐や理事の理解と協力を得て、文案を練り……。時間はわずかですから、性犯罪の加害者となった東大生が複数いることを告げ、「明示的な合意がない性的行為は全て性犯罪」という性的同意の基本を繰り返して伝えました。構成員4万人弱の巨大な組織で、私が手を挙げて数カ月でできるのはここまでです。ただ私はあの本は肝心の理Ⅰに読み進められない学生がいるだろうと思い、違うアプローチをとったつもりです。ブックトークの場ではその説明をしなかったので、批判されたのは当然だと思います。これが私にとって現時点でできる、東大生による性犯罪の被害者となってしまった方々へのほんのわずかな罪滅ぼしです。次の性犯罪を絶対に起こさないための第一歩にしたいと思っています。
――大きな質問になりますが、性犯罪をなくすためにはどうすればいいのでしょうか。また、その背景にあるジェンダー問題にどう取り組むべきか、ご意見をお聞きしたいです。
瀬地山 問題が大きすぎて、どう答えてよいのかわかりませんが、私は、高校で教えるとしたら家庭科の先生になってみたいと思っているんです。現在、性教育は中学高校の保健体育の時間で教えていますが、本来は家庭科で教えるべきだと考えています。私はこれまで20校くらいの高校に行って講義をしていて、まず「性的同意のないセックス、コンドームを使わないセックスは、女性に対する暴力だ」と教えています。これを明言できる高校の先生がいない。「モーニングアフターピルには、ノルレボとプラノバールがあってノルレボの方が高いけど、ここでは絶対にケチらずに、ノルレボを使え。副作用と避妊の確率が違うから。でもこれは最後の手段で、手前でちゃんと避妊しろ」。「踏み込んだ性教育」なんて言われますが、当たり前の話です。
それから、望んでいない妊娠をすることが女性の心身とキャリアにとってどれほど恐ろしいことか、男女問わず理解しなくてはいけないと思います。その上で、次のように言います。「女子生徒のみなさんは1億円の当たりくじを持っています。第1子出産後、正社員を続けていればその後30年で1億円が間違いなく手に入ります。会社によっては2億円になるでしょう。当たりくじを現金化するのは男子生徒のみなさんの仕事です。総務省『社会生活基本調査』(16年)では、共働き夫婦が担う家事関連時間(家事に加え介護、看護、育児、買い物を含む)は週平均1日夫が46分に対し、妻は4時間54分。妻が正社員として働き続けられるよう家事を分担すべき。夫と妻の家事時間を足して2で割れば、約3時間。土日を含むので、十分に可能。この男の3時間の家事が女性のフルタイムでの就業を可能にする。女性の年収300万として、生涯で1億円。一日平均3時間なら、年間の男性の家事が約1000時間で、女性が300万稼げば、男性の家事の時給は3,000円となり、男性の残業代より高い。家事育児の分担は男性にとって極めて経済合理的なんです」と。今回、「ヤレる女子大学生RANKING」に大学名を挙げられてしまい、腹を立てている女子学生にも伝えたいです。「みなさんには2億円の価値があるのだ」と、自信を持ってほしいと思っています。
(取材・文=安楽由紀子)
瀬地山角(せちやま・かく)
1963年生まれ、奈良県出身。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了、学術博士。北海道大学文学部助手などを経て、1994年東京大学助教授。2009年より現職。この間に韓国のソウル大学に留学し、ハーバード大学、カリフォルニア大学バークレー校で客員研究員。専門はジェンダー論、主な著書に『お笑いジェンダー論』『ジェンダーとセクシュアリティで見る東アジア』『東アジアの家父長制』(いずれも勁草書房)など。