4月からNHKのBSプレミアムでシーズン2が放送される『THIS IS US 36歳、これから』。家族愛、人間のつながりがテーマの一見地味なファミリードラマだが、アメリカでは大ヒットしている。
物語の主人公は、シーズン1で36歳の誕生日を迎える“三つ子”。ケヴィンとケイトは血のつながった兄妹、ランダルは捨て子でケヴィンとケイトが生まれた病院に保護されたのだが、三つ子の一人を死産で失い、悲しみに暮れるジャックとレベッカ夫婦に見いだされ、引き取られた。3人は男気のあるジャックと、家庭を平和にするための努力を惜しまないレベッカから、無償の愛を注がれ育つ。
ドラマは、「3人が36歳になり、ミッドライフ・クライシス(中年の危機)に足を踏み入れた現在」と「36年前に3人がこの世に生を受け育った過去」、「3人が生まれる前の遠い昔」を何度も行き来しながら、家族、人生、幸せとは何なのかを視聴者に問いかけながら進んでいく。
昨年2月に放送されたシーズン2第14話の視聴数は、昨年アメリカで放送されたドラマのエピソードの中で最多を記録。シビアな評価で知られるレビューサイト「Rotten Tomatoes」でも、シーズン1・2は91%、シーズン3は94%と、高く評価されている。なぜ『THIS IS US 36歳、これから』は、ここまで全米から愛されているのか? その魅力をひもといてみたい。
魅力1)「THIS IS US、これは私たち」と思えるキャラクター
このドラマの最大の魅力は、キャラクターの苦悩がとてもリアルで、深く共感できるという点だ。
肥満を克服しようと努力しているケイトは、体形コンプレックスから自信を持てずにいる。また、美しく、プロポーションも良い母親と自分を比べてしまい、大人になっても母親に八つ当たりしてしまう。優しい彼ができても、細見でファッショナブルな元カノと自分を比べるなど、どうしても自分に自信が持てない。そう、ケイトは私たちそのものなのだ。
俳優のケヴィンは人気コメディに主演していたが、道化師扱いされることに嫌気が差し、撮影中にブチ切れて番組を降板。長身イケメンがゆえに、中身を見てもらえずにいると悩んでいる。さらに小さい頃から人の意見を気にしてしまう癖があるため、あらゆる場面で決断がなかなか下せない。おまけに、「両親は、自分より養子のランダルばかりを愛してきた」と思い込み、愛に飢えている。
そのランダルは超エリートで、高級住宅街に住み、美しい妻・かわいい娘たちに恵まれているが、どこか満たされない。育ての両親からは実子と分け隔てなく愛され、才能を伸ばすべく私立の小学校にも通わせてもらってきた。そのため、「期待に応える」ことを美徳としている。その結果、異常なまでの完璧主義者へと成長。過剰なストレスから一時的に目が見えなくなることもあるが、人の力は借りずに自分で克服。白人コミュニティで育ってきた彼は、人種差別されても気に留めず、軽く流すすべを身につけており、もやもやした気持ちを自分一人で抱え込む。
三つ子のキャラクターは、見た目も性格も見事なまでにバラバラ。決して視聴者の人生と重なりやすいわけではないが、彼らの悩みの種が丁寧に描かれ、どのキャラクターの気持ちにも寄り添うことができるのだ。
三つ子と同じ誕生日の父親ジャックは、母親が父親から日常的に暴力やモラハラを受けるすさんだ家庭で育ったため、自分は温かい家庭を築き、良き夫、良き父親でありたいと努力する。深酒するという問題も抱えているが、アルコール依存症だった父親のようにはならないと、家族を第一に考えて断酒を決意する。
母親レベッカも、過干渉の実母を反面教師にしている。専業主婦として大奮闘してきたが、子どもたちが10代になると「子どもから必要とされていない」と感じるようになり、自分の価値を見いだせなくなる。もう一度、歌手としての夢を追いかけたいと行動に移すが、ジャックに猛反対され、夫婦関係はぎくしゃくしてしまう。
理想の夫婦/親であるジャックとレベッカだが、描かれているのはきれいごとだけではない。愛する人のために、仕事や親との関係においてどれだけ妥協をしなければならないのか、犠牲を払わなければならないのかもリアルに描かれており、深く共感できるのだ。
ランダルが探偵を通して見つけ、交流を持つようになった実父ウィリアムは、耐えられない悲しみのせいで薬物に手を出し、人間関係も壊れ、後悔の多い日々を送ってきた。しかし、彼はそれもまた人生だと受け入れている。ウィリアムの物語にはホロリとさせられるとともに、人生における「後悔」をこれ以上増やさないためにはどうすればよいのか、考える機会を与えてくれる。
ウィリアムはランダルと再開を果たした時点で末期の胃がんを患っており、ジャックも現在のパートでは故人となっている。長年「父親の死の悲しみ」を封印していたケヴィンが、夫を亡くしたばかりの未亡人の前で「こうすればよかった」と号泣し、悲しみを吐き出すシーンもある。愛する人の死には、少なからぬ後悔が付きまとうこと、トラウマになることも丁寧に描かれており、愛する人の死、身内の死を経験したことがある人なら、自分と重ね合わさずにはいられなくなる。
魅力3)チャーミングなトビーというキャラクター
人生を描いた重厚な『THIS IS US』で、ギャグを飛ばしクスっとさせてくれるのが、人気キャラクターのトビーだ。彼は減量プログラムで一目惚れしたケイトに積極的にアプローチをかけ、閉ざされていたケイトの心を少しずつ開けていくのだが、その言動が最高だと視聴者から愛されるように。
減量プログラムに入っていたくらいなので彼は肥満体形なものの、卑屈になることなく、人生をエンジョイしたいタイプ。美男子でもお金持ちでもないが、明るい性格と、ウィットに飛んだ話術、そしてブラックな笑いのセンスでケイトを笑顔にさせてくれる。
パーティーを楽しめないケイトの手を引いてダンスを踊ったり、彼女の歌唱力に惚れ込み、歌うことを勧めたり。人前で歌うことを躊躇する彼女のために「叔母が住んでいる老人ホームでのミニリサイタルなら緊張しないだろう」とセッティングしたり。行動の裏に下心があることは認めるものの、無理強いはせず、紳士的であるため嫌な感じは全くしない。
さりげなくケイトを力づけてくれるトビーは、まさしく「理想の恋人」。ケイトへのサプライズも過剰ではなく、彼女が本当に喜ぶことをするあたりも、女性視聴者をときめかせている。
このドラマは現在と過去を行き来しながら進んでいくが、そうすることではっきりと見えてくるものがある。人間は生まれた瞬間から、自分の周りにいる人間に影響を受けながら育つということ。育った環境、関わった人たちすべてがその人の未来へとつながること。そして、大人になってからわかる親の愛情、ありがたみだ。
ジャックが子どもたちを団結させるために作った“かけ声”は、大人になった現代でもきょうだいの絆を確かめる時に使われている。プレッシャーに押しつぶされパニックに陥ったランダルの両頬を挟み、一緒に深呼吸することで落ち着かせる手法は、ジャックからケヴィンに自然に受け継がれている。ほかにもジャックが子どもたちを安心させるための仕草、言葉、一つ一つが大人になった子どもに引き継がれ、さらに次の世代にもつながっている。人は死んでもそこですべてが終わるわけではない。思い出はもちろんのこと、自分が影響を与えた人の中で生き続けることができると気づかせてくれるのだ。
魅力5)普遍的なテーマを丁寧に描いたテレビドラマの底力
Netflix、Amazon、Huluの三大ストリーミングサービスの作品が次々エミー賞にノミネートされ、もはやテレビドラマはストリーミングサービスを無視できない時代に。そのため、両者ともに視聴者の興味を引くような刺激的で話題性の強い作品を次々と制作するようになった。しかし、ここにきて「ドラマが疲れる」と感じる視聴者が増えてきた。「内容や描写がショッキングすぎてしんどい」「選択肢は増えたが、感動を呼び起こされることはなく、印象にも残らない」というのだ。
そんな中、『THIS IS US』はファミリードラマとして原点に戻り、脇役を含めた全キャラクターを丁寧に描き、家族、子育て、人との関わり合いという素朴なテーマを正直に描くことで、視聴者を「ほっとできるドラマ」「癒やされる」と、とりこにしたのだ。派手なシーンや刺激的なシーンはない。が、毎回小さなサプライズが用意されており、時系列がバラバラのため、謎解きのようなストーリー展開であることにハマる人が続出。ファミリードラマの枠を超えたと評されるようになった。
現在アメリカで放送中のシーズン3は視聴者の思いもよらぬ展開になっているが、ファミリードラマという軸はぶれていない。それが人気維持の秘訣だともいわれている。
堀川 樹里(ほりかわ・じゅり)
6歳で『空飛ぶ鉄腕美女ワンダーウーマン』にハマった筋金入りの海外ドラマ・ジャンキー。現在、フリーランスライターとして海外ドラマを中心に海外エンターテイメントに関する記事を公式サイトや雑誌等で執筆、翻訳。海外在住歴20年以上、豪州→中東→東南アジア→米国を経て、現在は2度目の台湾生活を満喫中。