菅田将暉主演ドラマ『3年A組―今から皆さんは、人質です―』(日本テレビ系)の最終回が3月10日に放送された。視聴率は15.4%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と、大幅に上昇。今期もっとも注目されたドラマだと言っても過言でないだろう。
最終回では校舎の屋上で、菅田将暉がカメラ目線で演説。『3年A組―今から皆さんは、人質です―』は視聴者である我々に、明確にメッセージを送ろうとするドラマだった。ではそのメッセージとは何だったか。以下、ネタバレになるが紐解きたい。
徐々に成長していく生徒たち
卒業式を10日後に控えた私立魁皇高校3年A組で、担任の美術教師・柊一颯(菅田)が29人の生徒たちを人質に立てこもるところから始まったこのドラマは、展開が早く、状況は二転三転した。
一颯は当初、生徒たちに、学校のヒロイン的存在だった女生徒・景山澪奈(上白石萌歌)が亡くなった“理由”を導き出し答えるよう指示。「不正解の場合誰か一人に死んでもらう」と脅していた。
しかし実際は、不正解だったとしても一颯は生徒を殺さず、生徒たちは徐々に一颯に信頼を寄せ、成長していく。
“ネット上の反応”こそがこの作品の肝
水泳部のエースで将来を渇望されていた澪奈は、フェイク動画が拡散したことによってドーピングの噂が出回り、誹謗中傷に苦しんでいた。3年A組の生徒たちの中にも、何らかの形でフェイク動画に関わっていた者が複数おり、そのひとつひとつが明るみになる度に、一颯は生徒たちに熱く語りかけた。
中盤、澪奈や元恋人の文香(土村芳)を貶めるフェイク動画を作らせていた教師・武智大和(田辺誠一)の悪事が暴かれた。状況が変わるとネット上の反応も変わる。そのドラマ内での“ネット上の反応”こそがこの作品の肝だったのかもしれない。
ある動画のみを根拠に、武智は澪奈殺しの犯人扱いされていたが、動画に映っているのが実は武智ではなく一颯だと判明するや否や、今度は一颯が殺人犯呼ばわりされるように。証拠もないのに、だ。だが、ネットユーザーを混乱させたその動画は、澪奈の死とは無関係な一颯が作ったフェイク動画だった。
第9話で一颯は3年A組の生徒たちに、立てこもり事件を起こした「3つの理由」を説明していた。この時点では、一颯はネット上で澪奈殺しの犯人と目され、叩かれまくっている。生徒たちへの説明を終えた一颯は、人質となった刑事の郡司(椎名桔平)を連れて屋上へ出て、警察の銃弾に胸を撃たれる。
だが実は防弾チョッキをつけており、一颯は生きていた。「明日の朝8時にSNS『マインドボイス』のライブ中継を使って、皆さんにすべての真相をお話します。もし邪魔をしたらこの校舎をすべて爆破します。真実がどこにあるのか、Let’s think!」と宣言する。この時点でもまだ、ネット上では一颯への罵詈雑言が凄まじい。
澪奈を殺した本当の犯人はSNS「マインドボイス」
そして3月10日、朝8時を迎えると、宣言通り一颯は屋上にて、SNS「マインドボイス」でライブ中継を決行した。一颯の演説は校内放送でも聞こえるようになっている。
まず、最初に澪奈が転落したビルから一颯が出てくる動画についてのネタばらしだ。「俺が作ったフェイク動画だ。景山澪奈の自殺とは何の関係もない」と種明かしをすると、ネット上は混乱。しかし一颯を叩く書き込みは途切れない。一颯はこう言う。
<混乱してるね~。なのに貶すことは忘れない、これだよ、これ! これが俺が立てこもった最大の理由だよ>
一颯が立てこもった最大の理由。9話で音声処理がされ話題になった場面だ。それは、「SNSによる暴力を世に知らしめること」だった。「フェイク動画を作って状況を二転三転させることで、いかに自分たちが不確かな情報に踊らされているかを自覚させる」ためである。
<1日目、お前たちは俺を生徒殺しの殺人犯としてネットで叩いた。2日目、3日目、4日目と次々に増えていく犠牲者の情報にお前たちは俺を凶悪犯としてネットで盛り上がった。 5日目、俺が誰も殺していないことや教師が標的だったことを知ると、今度は俺をヒーローとしてネットで称えた。6日目、武智の犯行を匂わせたらネットで武智に疑いを向けた。7日目、フェイク動画に映った人物を武智と断定してネットで追い詰めた。8日目、証拠もないのに武智をネットで徹底的に糾弾した。9日目、俺が新犯人だとわかるや否や矛先を俺に変えてネットで叩きまくった。そして今日10日目、すべてが嘘だと知った。
お前たちは、この10日間でどれだけ自分の意見を変えた? 信憑性のない情報を頼りにどれだけ心ない言葉をネットで浴びせた? 俺はそんなお前らの、愚かな行動をあぶり出すために、この事件を引き起こしたんだよ>
一颯がこの話をしている最中にも中傷は書き込まれる。
<関係ねえじゃねえんだよ! これを娯楽としか思っていない、あんたに言ってるんだよ! おい、そこの、周りに流されて意見を合わせることしかできない、お前に言ってんだよ! お前ら景山の何を知ってたんだよ? 何にも知らねえだろ? 会ったことねえだろ、話したこともねえだろ! 大して知りもしないのになんであんなに叩けるんだよ。 うざい、キモイ、死ね。よくもまあそんなゲスなワードがポンポン出てくるもんだわ恥ずかしい。それだよそれ! そのお前の自覚のない悪意が、影山澪奈を殺したんだよ!>
<お前らネットの、何千何万という悪にまみれたナイフで何度も何度も刺されて、景山澪奈の心は殺されたんだよ!>
これも9話で音声処理がされていたが、澪奈を殺した本当の犯人はSNS「マインドボイス」であると、一颯は考えている。澪奈はフェイク動画を流された後「マインドボイス」で受けた誹謗中傷の数々に耐えかねて、命を絶った……というのが一颯の理解だ。
悪質なフェイク動画が澪奈を苦しめたことに違いはないが、それはいわば“一時災害”に過ぎず、すぐに「間違いだった」と理解してもらえていたら、澪奈の心が病むことはなかった。ネットの誹謗中傷、罵詈雑言という“二次災害”によって澪奈は幻覚や幻聴を感じるようになり、心配する家族や友達に対してさえ「みんなが私の悪口を言っているように思えて」、苦しんでいた。
澪奈の親友であるクラスメイト・さくら(永野芽郁)は、「私が澪奈を殺した」と罪悪感に苛まれている。実は澪奈が亡くなった日、澪奈と一緒にビルの屋上に入っていったのは、武智でもなく一颯でもなく、さくらだった。さくらは澪奈の味方になれなかったことを謝りたくて、澪奈を呼び出したのだ。
しかし、さくらのスマートフォンが鳴ると、“二次災害”に苦しみ幻覚や幻聴を感じていた澪奈は、「やめて!」「何でそんなこと言うの!」「何で私を責めるの!」と狼狽。「わかってる、さくらは味方だって。でもダメなの。皆が敵に見えて、そんな風に思う自分が嫌で、たまらなく嫌で、だからもう無理なんだ」と言い残して、屋上から飛び降りてしまった。友達さえも「敵」に見えてしまうようになった澪奈の孤独や苦しみはどれほどのものだっただろうか。
一颯は「みんないい顔してるな、卒業おめでとう!」と言い残し連行される
一颯の演説配信は、続く。
<あのフェイク動画を鵜呑みにしたお前たちが、誹謗中傷を浴びせた“二次災害”こそが、景山を死に追いやった原因なんだよ!>
<景山は泣きながら俺に訴えていたよ、『助けてくれ』って。彼女の気持ちがわかるか? お前らが浴びせた言葉の暴力が、彼女の心を壊したんだぞ!>
<お前たちが、景山の命を奪ったんだ。お前も、お前も、お前も! 今まで散々正義感を振りかざしてきたくせに分が悪くなった途端に子どものように責任転嫁を始める。自分を正当化するのに必死だな。つまんねえ生き方してんじゃねえんだよ! 見苦しいんだよ! ふざけてんのはお前らだろうが! お前ら一度だって真剣だったことあんのか! あ? 逃げてんじゃねえぞ! 自分の親や、友達に面と向かって言えない言葉を見ず知らずの他人にぶつけんなよ。お前のストレス発散で他人の心をえぐるなよ、わかるだろ、俺の言いたいこと、お前らそこまでバカじゃなえだろ! 気づいてくれ……>
<いいか、マインドボイスは誰もが手軽に繋がれる便利なツールだ。気の合う友達を見つけて、いつでもどこでもコミュニケーションが取れる。人によっては心の拠り所になるだろう。それも大切だ、否定はしない。けど、その一方で、恐ろしい暴力装置にもなりえる>
<言葉は時として凶器になる。ナイフなんて非にならないくらい、重く鋭く心をえぐってくる>
<だから刻んでほしいんだよ! 右に倣って吐いた何気ない一言が相手を深く傷つけるかもしれない。独りよがりに偏った正義感が、束になることでいとも簡単に人の命を奪える かもしれないってことを! そこにいる君に! これを見ているあなたに! ひとりひとりの胸に刻んでほしいんだよ……。他人に同調するより、他人を貶すより、まずは自分を律して、磨いて、作っていくことが大切なんじゃないのか? ってか、そっちのほうが楽しいだろ! その目も、口も手も、誰かを傷つけるためにあるわけじゃない! 誰かと喜びをわかち会うために、誰かと幸せをかみしめるためにあるんじゃないのか? そうだろう! もっと人に優しくになろうぜ! もっと自分を大事にしようぜ!>
<俺の言葉がどれだけ届いているのか……。きっとほとんどの人間には痛くも痒くもないだろ。でも誰かひとりでいい。君ひとりでいい。感情に任せた言葉が、景山澪奈のような犠牲者を作るかもしれない。そう思って、踏みとどまってくれたら、俺が今ここに立ってる意味がある。そしていつかきっと、その1人が10人になって100人になって1000人になっていく。俺はそう信じてる! だからどうか、だからどうか、あなたに届いてほしい! 聞いてくれてありがとう。Let’s think……!>
メガネを外した一颯の「この瞬間を持って俺の授業は完結する」の言葉で、「マインドボイス」の配信は終了。器物損壊罪などの罪で現行犯逮捕された一颯は、この10日間で見違えるほどに成長した生徒たちに「みんないい顔してるな、卒業おめでとう!」と言い、連行されていった。
一颯の3回忌で集まった生徒たちが言うには、逮捕後も一颯は病気と闘い、一年生きられたようだ。
最後にさくらのモノローグが流れる。
<先生、あの事件で世の中が大きく変わったなんてことは全然なくて まるで 何もなかったように みんあ相変わらずせわしなく生きてて。でも、これだけはどうしても言いたくて あの10日間は私にとって青春でした 先生から色んなことを教わって学んで考えるようになって だから 私やクラスのみんなに届いたように誰かに伝わってほしい そう願っています 先生の思いが誰かに 誰かに>
プロデューサーの福井雄太氏と菅田将暉は何時間も話し合った
2月16日に配信された「まんたんWEB」のインタビューで、同作プロデューサーの福井雄太氏は、主演の菅田将暉と『今何を伝えたいのか』を何時間も話し合い、「お互いの思っていることをストレートに表現することから逃げないということ」を共有したと明かしている。
また、脚本を手がける武藤将吾氏とも「視聴者に『何を見せられたんだろう』と思われるようなドラマを作ろう」と企画したといい、出来上がった『3年A組』は確かにストレートかつ挑戦的な作品だった。
福田氏は「最後の最後に伝えようとしていることがある。10話見終わった時に『こういうドラマだったんだ』と分かるように作っている」とも語っていた。最後の最後に伝えたストレートで長い長いメッセージを、多くの視聴者が見届けた。受け止め方は千差万別だろうが、このドラマが「伝え切った」ことは確かだ。
クランクアップの際、菅田将暉は「これが遺作になっても悔いはない」と晴れやかだったという。この冷笑的な時代に菅田将暉らが投げた“石”は、小さな波紋を広げたはずだ。
なお、現在29人の生徒たちのスピンオフが、Huluで配信中だ。