3月1日、今年も大学新卒の就職活動が解禁された。この日、大手就活ナビサイト「リクナビ」や「マイナビ」もグランドオープン。企業へのエントリーが開始となり、就活戦線は本格的に火蓋を切った。
株式会社キャリアマートの調査によれば、今年(2020年卒)の就活ナビサイト(以下、ナビサイト)の登録学生数は、3月1日の時点で「リクナビ」732,498名(前年比106.7%)、「マイナビ」708,758名(前年比108.1%)。ここ数年間、ナビサイトの登録学生数は右肩上がりで、「リクナビ」や「マイナビ」は就活生にとって欠かせないインフラと化している。
株式会社リクルート(当時は株式会社大学広告)は、1962年に大学新卒者向けの求人情報誌「企業への招待」を創刊。1996年2月には、現「リクナビ」の前身であるウェブ就活情報サービス「RB on the NET」を開始させていた。また1995年12月には、株式会社マイナビ(当時の社名は株式会社毎日コミュニケーションズ)がインターネット情報サービス「Career Space」(現「マイナビ」)をスタートさせ、就活情報をインターネット上に一元化する。また、それまでハガキや電話だった学生と企業のやりとりも簡略化させた。
学生に無料でサービスを提供している「リクナビ」や「マイナビ」だが、もちろん慈善事業ではない。ナビサイトは営利的サービスであり、企業からの掲載費で収益を上げている。
たとえば、「リクナビ2020」の掲載料は30~50万円で、「マイナビ2020」は80万円から。写真掲載の有無やさまざまなオプションによって、追加料金が発生する。今年の掲載社数はリクナビが31,563社、マイナビが24,011社にも上ることを考えれば、いかにうまい商売であるか分かるだろう。
しかしここでひとつ強調したいのは、ナビサイトの“お客様”とはいったい誰なのか、ということだ。
「ナビサイトは、お金を落としてくれるクライアント、つまり企業にしか目線が向いておらず、学生のことを考えられていないことが、現在の就活システムにおける不幸のひとつでしょう」
こう話すのは、関東学院大学社会学部教授の新井克弥氏だ。新井氏はかつて、ライターとしてナビサイトに掲載する企業のページを執筆していたことがある。
「ナビサイトの求人広告欄は、あたかも客観的で中立の立場から企業情報を紹介しているように見えますが、それは建前です。ナビサイトは企業側から提供される資料やデータに基づいて記事を作成していますが、掲載料を頂いているわけですから、企業の都合の悪いことは書けません。むしろ、企業がお気に召すような文句を並べ立ててあるのです。“広告記事”では、企業の本質は分かりません」(新井氏)
さらに問題なのは、ナビサイトが学生のエントリー数まで企業に担保していることだ。ナビサイトは、学生のエントリー数を稼いでクライアントをつなぎとめるため、大量エントリーをけしかける。1枚のエントリーシートで何十社にも応募できる“一括エントリー”システムなどはその典型例だろう。
こうした歪なシステムの中で起こったのが、2014年の「リクナビ」の執行役員による謝罪だった。「リクナビ2015」では、学生のマイページには棒グラフが表示され、100社近いエントリーをしている「内定獲得した先輩」や「あなたと似た同期」とエントリー数を競わせられる仕様になっていた。「内定獲得した先輩に追いつく!」というボタンを押すと、自動的に複数企業のエントリーページへと飛ばされる。これが「学生にエントリーを煽っている」と批判を浴び、リクルートの執行役員が「東洋経済」11月29日号(東洋経済新報社)で謝罪するに至った。
「手当たり次第の企業にエントリーさせるようでは、学生に適した企業を“マッチング”するという、ナビサイトの本来の目的は失われています。そもそも、何十万人もの学生をいっせいに就職させるなんて、かなり杜撰なシステムであることは明らかですよね」(新井氏)
一方で、ナビサイトにはメリットもあるだろう。現在、売り手市場であることを鑑みても、ナビサイトに登録して穏当に就活を進めれば、いずれかの企業に内定をもらえる可能性は高い。
「学生にはナビサイトのベルトコンベアに乗って就活をすることで、とりあえず就を手にすることはできるかも知れません。これは一見すればメリットのようにも見えますが、逆に言えば学生の主体性の形成を奪っているということでもあるでしょう。エントリー至上主義であるナビサイトの“就職脅迫”によって、結果として学生と内定企業のミスマッチが起こり、新卒の離職率の増加にもつながってしまっているのです」(新井氏)
人材サービス大手の株式会社アデコが2018年に行った調査によれば、ここ30年間、新卒で就職した社会人の約3割が3年以内に退職しているという。退職理由も「自身の希望と業務内容のミスマッチ」と答えた割合は、約40%にものぼる。
転職が当たり前の社会になりつつあるが、新卒の離職率が異常に高いことは問題だろう。ナビサイトの営利主義による杜撰なマッチングが、学生の、ひいては日本の労働市場に深刻な影響を与えているということだ。
就活ルール撤廃で、ナビサイトはどう変わる?
現在、就活は大きな転換期に面している。経団連は2018年10月、「就活ルール」の廃止を発表した。21年4月入社以降、経団連は 新卒説明会や面接解禁日などルール策定に関わらない。混乱を避けるため、2022年春に入社(現大学1年生)までは現行の日程を維持するとしているが、今後、日本の就活の在り方が大きく変わっていくことは間違いないだろう。
通年採用が主流となっていけば、現行のナビサイトのシステムは崩壊するのではないだろうか。
「通年採用によって、これからはインターンシップの重要性がより高まってくると考えられます。ナビサイトもこれまでの管理システムを大きく変更することを余儀なくされますが、インターン制度にも介入してくることは必至です。今後も、ナビサイトが学生や企業、大学に対して就活のイニチアシブを握っていく可能性は高いでしょう」(新井氏)
学生の就職活動をビジネス化するようなナビサイトの在り方は問題だが、ナビサイトはすでに就活の“インフラ”と化してしまっているのだ。
しかしその一方で、従来の大量エントリー型の「リクナビ」や「マイナビ」のほかに、より丁寧で効率的な新サービスも登場している。企業からアプローチを受ける「逆求人採用」サイトや、長期インターンから内定を狙えるインターン専用のマッチングサイトなど、就活の手段も多様化が進んでいるのだ。
「しっかりと学生個人のことを見て、企業と学生とのマッチングに重点を置いた新規サービスが一般化すれば、現状の非効率的な『リクナビ』や『マイナビ』一辺倒のシステムは一気に崩壊する可能性もありますよね。情報産業ですので、栄枯盛衰が激しいのは当然のことなのです」(新井氏)
就活において絶対に思えるナビサイトも、じつは手段のひとつでしかないということを頭の片隅に入れておくといいだろう。学生は、「リクナビ」や「マイナビ」のビジネスに“利用される”のではなく、あくまでこちらが主導権を握って、サービスを“利用してやる”という意識を持つことが重要だ。
(今いくわ)