「遠藤憲一が俳優を引退して温泉で派遣の仲居をやっている」という設定のフェイクドキュメンタリー風人情ドラマ『さすらい温泉 遠藤憲一』(テレビ東京系)第9話。他人の恋路におせっかいなほど首をねじ込む健さんこと遠藤憲一。振り返りましょう。
(前回までのレビューはこちらから)
俳優を引退するのも想定内?
毎度恒例の遠藤のリアル知人へのインタビュー。
今回はいよいよ「遠藤が俳優を辞めようとしている」という核心にせまる質問をぶつける。
「え? それは本当の話ですか?」
「はい」
驚く30年来の友人・伊藤さんに、いけしゃあしゃあと答えるディレクター。
伊藤さんの反応から見るに、この時点では番組がフェイクドキュメンタリーであるとは伝えていない感じだ。
驚く伊藤さんの反応よりも、堂々と素人に嘘をつくディレクターのトーンにニヤついてしまう。
しかし、もっと驚くかと思われた伊藤さんだが、「あんまり驚かないかも、もしそうだったとしても。ていうのは……」。
気になるところでインタビューシーンは終了、次回へ持ち越し。気になります。
『金色夜叉』執筆の地でボディ書道
今回、健さんが訪れたのは静岡・修善寺。
(遠藤は仲居の時は中井田健一と名乗り、かつ健さんと呼ばれたがる。)
ここが夏目漱石や芥川龍之介ら、文人墨客に愛された地であるというのが今回のキモ。
目の前を流れる桂川で、井伏鱒二もよく釣りをしていたらしいし、今回働く新井旅館にも川端龍子や横山大観の書が飾られている。あちこちに作家や書家らの息吹を感じられるので、文学好きには二度美味しい温泉地だ。
そんな中あらわれた客人はギャル丸出しのなちょす(なちゅ)。
「てか鯉ってバカじゃね? ガンガン(餌)食うしヤベー」と、撮影のためとはいえ心配になるくらい錦鯉に餌をあげて喜んでる。ヨーロッパなら虐待になるレベル。
「けんけん」と呼ばれタジタジの健さんがだが、実は彼女は若き書道界のカリスマ。
夜中に女将(並木塔子)の肉体に筆で文字を書き「いや~ん先生、感じちゃううう」と、あえがせてしまうほどの大物。
なんだこれ? と思ったが、演じるなちゅは本物の書道7段。
以前レギュラー出演していた『恋のから騒ぎ』(日本テレビ系)では明石家さんまに「蕎麦屋の前」と呼ばれるほど信楽焼(たぬきのアレ)然とした風貌なのに、腕前は師範代クラス(事実、師範代である)だというから驚きだ。
「パラパラの角度で~」と鯉に餌を投げて騒いでいた姿からは、想像がつかない。
しかも今回披露したのは、ただの書道ではなく、なちゅが近年押してる「ボディ書道」。
女将の地肌(胸)に『金色夜叉』と書き殴ってある先週の予告でも異彩を放っていたシーンなのだが、なんと作者の尾崎紅葉が『金色夜叉』を執筆したのが、この宿。館主とも親交が深いとホームページにも記されている。
まさか120年後に同じ場所で「ボディ書道」の題材にされるとは、尾崎も夢にも思わなかっただろう。しかも、なちゅに。
というか撮影を許可した新井旅館がまず凄い。
今回のメインのマドンナはなちゅでも女将でもなく、宿泊客として一人でやって来た矢部グループの令嬢・矢部順子(阿部純子)。
特別室しか空いてないので若い女性1人で泊まるのは大変では……と断られかけるも「お金ならあります!」の痺れる一声で逗留決定。死ぬまでに一度は言ってみたい言葉。
実は財閥の会長である父親の決めた結婚から逃げて来た順子。
父親の部下に捕まり、連れ去られそうになるも、健さんの必殺「警察に電話をするフリ」でことなきを得る。さすが現役役者・遠藤憲一。
実際に警察を呼んだのか? という順子の問いに「呼んだフリです。ケータイ持ってないんで」と答えたのは哀愁があってよかった。
助けてくれた人の最初の個人情報が「今時ケータイ持ってない奴」という哀愁。
人力車もトランクから出て来たのか?
修善寺で、束の間の自由を満喫する順子と、そのお供する健さん。足湯やスマートボールを楽しむ伊豆版ローマの休日。先のことを忘れるように刹那的に今を楽しむ順子の姿が物悲しい。
小説家を目指すフリーターの彼氏との結婚を諦め、親の決めた相手と結婚するレールに乗りかかかろうとする順子。
しかし順子の本心を感じ取った健さんは、今回も例のごとく、なんでも出てくるトランクバッグを開ける。
今回、健さんが扮したのは車夫。人力車を引っ張り、街を駆ける、あの『はいからさんが通る』とかに出てくるやつ。
おそらくあのレトロな人力車もトランクから出てきたのだろう。物理的に無理とかそういう話は置いておこう。これはそういうドラマだからいいのだ。必要ならオスプレイでもトマホークでも、あのトランクから出てくるのだろう。そういうドラマだから。
なちゅや女将の協力もあり、父親の手下たちから順子を奪還した健さんは、彼氏の待つ教会へと順子を乗せて駆ける。
地下足袋履いた車夫姿が異様に似合う健さん。
今までの扮装の中でも傑出した似合い方。
車夫としてさまざまなお客と関わる人情ドラマもいいかもしれない。
実は順子は父親の巨大な力で、彼氏の小説家デビューを邪魔されるのを恐れて身を引こうとしていたのだが、健さんは文壇にパイプのある新井旅館に頼み、この彼氏の今後を守ってくれるよう根回ししておいた。
持つべきものはコネと縁故だ。
ボディ書道の下地にされて喘いでいたあの変態っぽい女将に、そんな力があるのか謎だが、現実世界では文壇に影響力があるのかも知れない。
今回は、なちゅが少ない出番ながらいいスパイスとして働き、地味になりがちなストーリーを引き締めていた。
バカだけど、ここ一番は頼れるムードメーカー的存在としてたまに出てきてほしい。
次回は山形・銀山温泉。
またなちゅが来て、開高健になぞらえ女体に「フィッシュ・オン」と書くのを楽しみにしています。
(文=柿田太郎)