inliving.(いんりびんぐ)というショートボブの美女をご存じだろうか?
彼女は昨年5月から活動しているユーチューバーだ。動画では一人暮らしをする彼女が料理をしたり、買ったものを紹介する姿が淡々と記録されている。
こう書くと、ほかのユーチューバーと何が違うのか? と思われるかもしれないが、この“淡々”が尋常ではないのだ。
ユーチューバーの番組には、ひとつの型がある。10分の動画ならば、自己紹介した後、画面にはデカデカと派手なテロップを出して「○○をやってみた」と紹介し、会話の行間を編集で切り詰めて、内容を簡潔に見せる。そうやって、テレビのバラエティ番組の見せ方を極限まで圧縮したような映像をコンスタントに量産していくのだ。
時間は短く内容はシンプル、無駄は省略してキャッチーに。ファストフードのような「うまい、やすい、はやい」刺激的な映像である。
一方、inliving.の動画は、同じことをやっていても、ゆったりとした雰囲気が漂っている。最初の挨拶こそ、両手を広げて「こんばんわーinliving.です」などとユーチューバーのように(小さな声で)言うが、その後はウェアラブルカメラで撮影した映像を淡々と見せていく。テロップも端っこにおしゃれな文字で小さく出ているだけ。声を張り上げることもなく、淡々と進行していく。
その淡々とした感じが新鮮で、彼女の周囲だけ別の時間が流れているかのよう。まるで良質な短編映画を見ているようだ。
実は彼女、昨年までは“りりか”という名で女優として活動していた。現在24歳。2015年から芸能事務所に所属し、モデル・女優として活躍した。広末涼子や能年玲奈(のん)のようなショートカットの美少女で、華奢な体が中性的な色気を発しており、透明感のあるビジュアルと憂いのある表情が印象的だった。
メジャー作品への出演こそなかったが、『退屈な日々にさようならを』(16年/今泉力哉)や『花に嵐』(17年/岩切一空監督)といったインディペンデント系の映画や、インスタグラムで配信された縦長映像のWEBドラマ『それでも告白するみどりちゃん』、深夜ドラマなどに多数出演。CMにも出ていた。
女優としてはブレーク寸前という感じだったのだが、昨年末に事務所を退社し、芸能界を引退した。
女優としてのりりかは透明感があり、とてもさわやかで魅力的だった。同時に、目を離すとふわっと消えてしまいそうなはかなさがあり、どんなに笑顔で笑っていても拭い去ることのできない翳のようなものも見え隠れした。
そんな女優時代の彼女の魅力が余すところなく発揮されていたのが、映画『花に嵐』だろう。物語は岩切監督自身が演じる大学生の“ぼく”が、大学の映画サークルで借りたカメラで自分の映像日記を撮影していたところ、りりか演じる謎の少女と知り合う。彼女は“ぼく”に、未完で終わっている「ある学生映画」の続きを撮ってほしいと頼む。“ぼく”は彼女に翻弄される形で次々と無茶な撮影を要求されるのだが、その姿がフェイクドキュメンタリーテイストで展開され、どこまでがフィクションでどこからが現実かわからない虚実入り混じった展開となっていく。
りりかが演じる少女は、いわばミューズ(芸術の女神)なのだが、被写体としての彼女はとても魅力的で、岩切監督でなくても、彼女と一緒なら「何か新しい作品が撮れるのではないか?」と期待させる魔力がある。だからこそ、数々のクリエイターに愛され、短期間で彼女はカルト的な人気を博したのだ。
実はりりかは、芸能活動をする以前から知る人ぞ知る存在で、画像投稿ブログのTumblrに写真を多数投稿していた。その写真もinliving.と同様、どこかのアパートで暮らす彼女の日常生活を撮影したものだったのだが、どの写真も妙な生活感があって色っぽく、まるで恋人が撮影したプライベート写真を、盗み見しているようだった。
これらの写真はセルフポートレートではなく、何人かのカメラマンの撮影したものだったが、思うに、りりかの魅力は自撮りではなく他者が撮影した時にこそ発揮される。つまり、カメラマンや映画監督といったクリエイターの目線を通した時に、クリエイターのイメージを媒介して彼女の輪郭が浮かび上がるのだ。
inliving.も、りりかとカメラマン・末永光の共同プロジェクトである。りりかと末永は以前に「♯きょうのねぐせ展」という個展を行っている。細かい説明はないが、おそらくこのinliving.も、動画を入り口にした新しい表現なのだろう。
彼女のHPには動画だけでなく、洋服や好きな本が紹介されているのだが、一つひとつの記事がコラムとして読み応えがある。彼女の好きなものを通して一つの世界観を提示しており、inliving.自体が2人の作品なのだとよくわかる。
HPには2019年6月28日というカレンダーがあり、「あと3か月です。」という表示がある。その日に何が起きるのか? 今からドキドキしている。
●なりま・れいいち
1976年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。
◆「女優の花道」過去記事はこちらから◆








――ところで、これだけ何度も東京に来てたら、そろそろ慣れてきてもいいんじゃないかと思うんですが。