日曜お昼の老舗番組『噂の!東京マガジン』(TBS系)内で放送されている「平成の常識 やって!TRY」に変化が起きているとツイッターを中心に話題となっている。
「やって!TRY」といえば、道行く10代〜20代の若い女性に料理をつくらせ、失敗する姿を舅・姑世代の視聴者が見て溜飲を下げるコンテンツとして長く放送されてきた。
近年では、「女性」のみを対象に企画を行い、また、失敗する姿をバカにすることで「女性は料理できなければダメ」という価値観を流布する企画趣旨に批判が集まりがちだった。「やって!TRY」が時代の空気感にそぐわないコンテンツになっていたことは紛れもない事実だろう。
そんな空気を察知したのか、3月3日放送回の「やって!TRY」は、これまでと明らかに違っていた。
生まれ変わった「やって!TRY」
この回では、東京タワーに観光に来た人たちを対象に「チャーハン」のお題が出された。
一番目の挑戦者は、東京で一人暮らしをする22歳の女子大学生。上京してきた母、妹とともに東京タワーを訪れており、母が不安そうな目で見つめるなか調理はスタートする。
母の心配をよそに彼女は難なく調理を終え、チャーハンが無事でき上がった。
見た目も完璧で、母は嬉しさを隠せない。さらに、味見をすると、<お母さんのよりおいしい。感動しちゃった。感動! チャーハンごときで。一人でお料理できるようになって感動しちゃった。なんにもできない子だったのに>と、東京で成長した娘に感動の涙を流すのであった。
二人目はホテルブライダルの専門学校に通う19歳の男性。男女混合グループのなかで仲間から指名された彼は<お客様のニーズの先読みじゃないですけど、欲しがるものを一歩先を考えてサービスする方が理想かなと思います>と理想のホテルマン像を語りながら調理。
しかし、<ばあちゃんがつくるチャーハンが味付けもおいしかったです>と、祖母の味付けを模してつくると宣言したチャーハンは、見た目は問題なくとも味付けがこしょうのみで仲間からは大不評。
<味があんまりない><病院食ぐらいでもいい>という評価に不満そうな彼は自分でもチャーハンを口に運んでみるが、そこですべてを察したらしく、<穴があるなら入りたい気分です>と、反省するのであった。
三人目は再び女性。祖母、母、弟と共に東京タワーに観光に来た22歳の大学生である。
彼女は春から新社会人になるが、母は<あんまり物事深く考えないで行動してるんじゃないかな>と、娘に対して手厳しい評価。彼女自身も<このままで通用するのはいまだけだよ>と怒られっぱなしであると語りながら料理を続ける。
結果的には、油を入れ過ぎたことにより、見た目も味も最悪なチャーハンが出来上がってしまった。
味見をした母は<ベーコンが多過ぎ。あと、ベチャッとなり過ぎ>と叱るが、そこで祖母が助け舟を出す。
一口食べた祖母は<私はね、おいしい>と好評価。そして、怒る母に対しても<ママだって若い頃はね……>と、昔から料理が出来ていたわけではないとフォローを入れるのだった。
そこまで言われて立つ瀬がなくなったのか、母はスタッフに対し、ご飯を追加して自分がつくり直していいか志願。娘の前でチャーハンのつくり方を実演するという珍しい展開になったのだった。
定型を脱したことで人間ドラマが浮き上がった「やって!TRY」
3人とも、これまでの「やって!TRY」の定型からは大きく外れている。
そもそも、これまで料理に成功した人がオンエアーされることはほぼなかったし、男性の参加者も珍しい。
3人目はいつも通りの失敗パターンだが、「これだから若い娘は……」というお小言を言いたがる中高年のニーズにそのまま乗っかるつくりにはなっていない。
新しい試みをしたことで、むしろ、3者3様のキャラクターやドラマがよく見えるようになった。どの参加者も「若い娘は料理もできないで何をやっているんだ」という結論に落とし込まれていたときよりも、格段に面白くなっているといえる。
こういった変化は先週2月24日放送分でも起きていた。
揚げ出し豆腐がテーマのこの回では、最初の2人こそいつも通りの「若い女の子が失敗する」「その姿に同行する友人や彼氏が呆れる」パターンだったが、3人目は普段から番組を見ているという21歳の男子大学生が自ら志願して挑戦。
結果的には失敗に終わり、一緒に来ていた彼女にも<思ってるのと違う>とつれなく言われてしまうが、本人は明るい表情で番組ナレーションの乱一世のモノマネをしながら<あ〜あ〜、やっちゃったよ〜>と、良いキャラを披露するのだった。
「やって!TRY」に対して疑問を呈する声は近年日増しに高まっていて、2019年1月6日付のニュースサイト「東洋経済ONLINE」では、作家・生活史研究家の阿古真理氏による寄稿「「女性の料理が笑われる」TBS番組への違和感 TBS「平成の常識・やって!TRY」は常識的か」を掲載し話題になった。
「やって!TRY」の変化は、「女性が料理をするのは当たり前だから、料理ができない女性は嘲笑の対象になる」という旧時代の価値観を強化する企画への批判を、制作サイドが真っ正面から受け止めた結果だろう。
「ポリコレのせいでバラエティ番組がつまらなくなった」は大ウソ!
今回の「やって!TRY」が意義深いのは、「バラエティ番組はポリティカル・コレクトネスやらコンプライアンスやらがうるさくなってから面白くなくなった」という、番組製作者からも視聴者からもしばしば出される意見が、まったくの的外れであることを教えてくれるということだ。
こういった意見が出るのは、番組をつくる方も観る方も、「使い尽くされて錆び付いた定型パターン以外を受け付けない、もしくは、受け付けようともしない」という思考停止状態に陥っているだけだからだ。
むしろ、ポリティカル・コレクトネスやコンプライアンスと向き合って、新しい時代に向けてアップデートすることで、表現の幅はより広がるし、深まりもする。
今回の「やって!TRY」はそれを証明した。
今回の出演者は、「料理もできないバカ娘」という代替可能な役割とは違い、その人本来の個性が浮き上がってきていた。また、家族や友人との関係も含め、「料理」を媒介にした「人間ドラマ」が描かれていた。
今回のような「やって!TRY」をつくるのは、定型でつくっていたときよりも格段に難しい作業になるかもしれない。素人出演者を鋳型にはめてきたこれまでとは180度違い、出演者や同行する人たちのキャラクターを活かすつくりになるからだ。
それを承知で「やって!TRY」をアップデートさせた『噂の!東京マガジン』のスタッフには拍手を送りたい。
