2017年、陸上男子100mで、日本人初の9秒台を達成した東洋大学(当時)の桐生祥秀。彼の功績をテーマにした舞台『マキシマムスピード~限界突破!!~』が、1月29日から築地本願寺プティストホールで幕開けとなった。
本作品の主人公は、9秒台に最も近い男と呼ばれる東新大学陸上部の桐原秀明(仲野温)。桐原は、トレーナーと練習方法をめぐって対立し、スランプに陥る。あらゆることの見直しが図られ、スパイクの開発を行うことに。桐原サイドから「裸足で走っているようなスパイク」という注文を受けたスポーツメーカーは、社運を賭けて一大開発に取り組む。スパイクのテストランナーに、世界選手権銅メダリストの元スプリンター・為永清司(佐川大樹)を招聘しようとするが、為永は過去に桐原のコーチと対立したことがあり、テストランナーを断ってしまう。スパイク開発も難航し、なかなかスランプから抜け出せないまま、桐原はライバルの多山修二(大川慶吾)や山坂要太(阿部悠真)たちに次々と抜かれていき、オリンピック選考会で決定的な敗北を喫する。そんなどん底から、少しずつ「昔の自分を取り戻す」ことで、桐原はスランプから抜け出し、そして運命のレースを迎えるが……。
陸上を通じて、見る人に勇気を与える感動の物語だという本作品。そのメインキャストで9秒台に最も近い男・桐原秀明選手を演じる仲野温さん、ライバルの多山修二選手を演じる大川慶吾さん、山坂要太選手を演じる阿部悠真さん、そして、世界陸上元銅メダリストの為永清司を演じる佐川大樹さんから、本作品にまつわるお話を伺った。
――皆さん、『マキシマムスピード』を、どのような作品として受けとっていますか?
仲野温さん(以下、仲野) 「全員が頑張ってる作品」ですね。、陸上というテーマのもと、主人公をはじめとした各キャラクターたちがそれぞれの目標のために頑張っているだけじゃなくて、そのキャラクターを演じる役者の一人ひとりも、演技に対してひたむきに頑張っています。
とにかく必死感みたいなものが全編に充満してます。セリフだけじゃ表現できない感情を役者としてどう表すかというのが課題かなと思っていて、走るシーンもたくさんありますし、時に挑戦的だったり時に古典的だったりと、さまざまな手法を試みています。観劇された方々が、いい刺激を受けたり勇気づけられたりするような温かくておもしろい作品になっていると思いますよ!
大川慶吾さん(以下、大川) 陸上競技がストーリーのベースになっていて、かつ試合のシーンもあるので、一見、「ナンバーワンを競い合う」といった物語なのかなと思いきや、実は「オンリーワンを目指す」話だなと思っています。劇中には「それぞれの金メダル」といったセリフも出てきますし。
温ちゃんが言うみたいに、観客の方にとって、いい刺激になったり、温かみを感じてもらえる作品ですし、間違いなく「明日への活力」を得られる作品になっていると思います。特に、「頑張ってるけど、なかなか結果が出せない」という苦しさに直面している人に、この作品を見てほしいです。必ず何かしらのヒントを得られると思います。人によっては「忘れていた感覚」を取り戻せるかもしれません。
阿部悠真さん(以下、阿部) 最近の作品の中では、ここまで「純粋に挑戦すること」をテーマにした作品は珍しいんじゃないかと思います。全てのキャラクターたちが正々堂々と勝負する姿が描かれています。また、登場人物たち全員に一つひとつ見せ場が用意されているんです。みんなのパワーがひとつになっているのを実感できる作品だと思います。
佐川大樹さん(以下、佐川) 物語としては、3つの主軸があります。「100mで9秒台を出すこと」「選手以外の人々の夢」「スポーツマンシップ」ですね。どの視点から観劇しても楽しめる作品になっているはずです。

――それぞれのキャラクター作り、役作りで工夫した点はありますか?
仲野 僕の演じる桐原は、陸上選手としてスランプに陥るシーンがあります。自分自身も、役者としてスランプを何度も経験していて、この役をいただいた時、「絶対この役をやり遂げたい」って思いました。苦しい時やつらい時ほど、その人間がよく見えるって言うじゃないですか。だから自分の経験と向き合いながら、「この役を生きる」ことを心がけました。設定が自分の実年齢よりも年上なんですが、背伸びしないというか、無理しないで素直にキャラクターを表現できる領域を探しながら、役作りを行いましたね。
大川 全登場人物の中で、自分が演じる「多山修二」だけが、やや異色のキャラクターになんです。ほかのキャラクターたちとの違いをみせる工夫が求められたので、自分の役だけでなく、ほかの役者さんが演じるキャラクターも分析し、自分なりの演技プランを立てて稽古をしました。それから多山は、「残されたものは努力しかない」という強い考えの持ち主でして、それなら自分も、ストイックに「努力」の意味を考えなければとも思ったんです。全身から強いメッセージを放出できるような演技を目指そうという目標もありました。
稽古休みの日には、実際に陸上競技場に行ってトラックを走ってみたり、ジムで筋トレもしたり……。ちなみに自分が筋トレをしていたら、みんなも筋トレをやりだして……筋トレの輪が役者たちの間で広まりました(笑)。
阿部 山坂は、陸上短距離界のエリート的な役柄。一つひとつのセリフに、彼の歩んできた足跡やそれにまつわるいろんな感情が凝縮されているので、それをどう表現するのかが、自分なりのテーマでした。アドリブや勢いまかせでやる芝居よりも、すべての所作に表現的意味を持たせて演じられるように稽古を重ねましたね。それは、どんなに小さなリアクションでも、です。陸上というものを、単なるスポーツとしてとらえるだけでなく「生きがい」とか「人生そのもの」であると感じられるようになりたいと思って、いろいろ考えながら役作りに挑んでみました。
佐川 為永は、登場人物の中で、一番挫折を経験している役柄です。そういう人間的経験を積んだ役を自分が演じるにあたって、誰かの真似事をするよりも、とにかく自分自身を追い込んで、平常心を保てない状態にすべきだと思い、そうしてみました。一言で言ってしまえば、「疑似体験」かもしれませが、稽古期間中に、まるで本当に挫折をしたかのように、つらくなったり、悔しくなったりした気持ちは、本物だと思います。こうやって養った感覚でする芝居は、嘘にはならないんじゃないかな(笑)。また為永は、挫折から「這い上がる」という役柄でもあるんです。先ほど言ったように、自分を追い込んだところから、いかにして平常心を取り戻し、希望を持てる精神状態にまで持っていくかを考え、実践していました。

――稽古中の楽しかったことや大変だったことは?
仲野 とにかくみんなで走ってます! こんなに走った稽古は、生まれて初めてでしたよ(笑)。陸上競技の経験者を稽古場に招いて、ミニハードルの特訓をしたり、フォームの研究もやりましたね。それが楽しくもあり、そして大変だったという。まず、「練習」の練習をして、それができるようになってから、初めてちゃんとした「練習」をして……という稽古だったので、クリアしなきゃならない課題がたくさんありました。(距離にして走ったのは)トータルで100キロ以上だと思います。普通の演劇の稽古ではこんなに走りませんから、マジでトレーニングしてましたね(笑)。
大川 どちらかと言うと、大変な目にばかり遭う稽古の方が、役柄的には合っているのかもしれないんですけど……稽古中は和やかでした(笑)。出演者の中には、同じ事務所の人や、前々から知っている先輩もいたりしたので、すごく穏やかなコミュニケーションを取れましたね。稽古中、役に入っている時と素にならなきゃならない時に、オンオフを切り替えなければいけないのは、大変だったかもしれません。芝居中は、相手がたとえお世話になっている先輩だとしても、歯向かわなきゃならない時もあるんですが、休憩中はやっぱり気を使いたいわけじゃないですか(笑)。ただ、ワザとそのオンオフスイッチを間違えて、みんなに笑ってもらうのは、逆に楽しかったですね (笑)。本当に、出演者のみなさんと仲良くできてうれしく思っています。稽古には、芝居パートだけじゃなくて走ったり筋トレしたりっていうトレーニングパートもありましたから、初めての共演者同士でもすぐに打ち解けて、盛り上がれましたね。
阿部 「挑戦」というのが一つのテーマにもなっている作品なので、稽古の時から、みんなの挑戦魂が炸裂していて、すごく熱気に満ち溢れた稽古場でした。もちろん、大変な面もあるんですけど、役者としてはやっぱり楽しいですね。熱気ある稽古はありがたい限りでした。SNSにも、稽古中のことを投稿していました。実は稽古場に専属のカメラマンさんがいたので、稽古場写真をたくさん撮っていただいたんですよ。自分もカメラをお借りして撮らせてもらったりして、すごく楽しかった。自分たちのスマホでも撮ってましたけどね。
佐川 日を追うごとに、各人がいろいろな演技プランを持ち寄って話し合えたのが楽しかったです。稽古が終わって、次の日にみんなと稽古場で顔を合わせると、また新しいアイデアが出て、それをみんなで話し合い、どう合わせていくかと検討していく……みたいな。日に日にどんどんよくなっていくので、稽古していても、役を演じる実感がわいたというか、充実した稽古だったなぁと思います。さっき慶吾くんが言っていたみたいに、いつの間にか、筋トレの輪が広がって、気がついたらみんなで筋トレやってたり、慶吾くんが陸上競技場に行ったのを知って、後からみんなも追いかけて一緒に走ったり……結構、肉体的にも鍛えられましたね。(筋トレをやった回数は)各部位で200回はやってますね。

――この作品の見どころを教えてください。
仲野 陸上の100m走は個人競技ですが、一人の選手の周りには、トレーナーや仲間たちがいて、それぞれがそれぞれの立場で支え合いながら共通の目標に向かっています。この作品でも「人の支え合い」「仲間同士のサポート」がよく描かれています。ズバリ、これが、この作品の見どころでもあり魅力でもあると思います。それぞれが、想いと能力を出し合って、目標を達成することは尊い! 一人でも多くの方に、この作品を見てもらえたら有り難いと思います。
大川 役者としては、この役は「これまでにない役」なんです。「大川史上初の長ゼリフ」にも挑んでいますので、ぜひ多くの方に見てもらいたいですね。作品的にも、明日への活力、勇気を得られるストーリーとなっているので、何度見ても感動すると思います。ぜひ何度も見てほしいです。
阿部 この作品が一つのキッカケとなって、皆さんが陸上競技に興味を持ってもらえたらいいなと思います。陸上の楽しさや奥深さを知ってもらえれば、「2020年東京オリンピック」も、より有意義に見られるのではないでしょうか。また、本作品では、主人公のスパイク作りの苦労話もあって、今村聡さん演じるモーサテ商事の「小山田主任」や大迫洸太郎さん演じる「大迫社員」たちの奮闘ぶりも見どころです。どうぞよろしくお願いします!
佐川 ストーリーが進むにつれて、自分が演じる「為永」と、主人公「桐原」との関係がどんどん濃くなって面白くなっていくのが見どころですかね。最後まで楽しめる作品になっていますので、皆さまぜひ劇場に足を運んでみてください。
仲野温
『花のち晴れ ~花男Nextseason~』(TBS系)にてドラマデビュー。その後もテレビ、CM、映画などで活躍。
大川慶吾
『渡る世間は鬼ばかり』(TBS系)にてドラマデビュー。その後、映画『新宿スワン』『新宿スワン2』などのほか、バラエティーやCM等にも出演。
阿部悠真
男性アイドルユニット「ZEN THE HOLLYWOOD」のメンバーとして注目を浴びる。音楽活動だけでなく、テレビや舞台などにも多数出演。
佐川大樹
「第24回ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト」ベスト30。舞台『ミュージカル・テニスの王子様3rdシーズン』等で人気を博す。
舞台『マキシマムスピード~限界突破!!~』
陸上競技100m短距離走で日本人初9秒台達成を記念して制作された舞台。選手の苦労、また選手を取り巻く人間模様が描かれたオリジナルのスポーツ根性ヒューマンドラマ。演出:田中優紀、脚本:藤原良
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