あけましておめでとうございます。お正月休みには、たっぷり映画を楽しみたいという方が多いのではないでしょうか。そんな映画好きなみなさんへ、2019年注目のメジャー洋画をどどんとご紹介したいと思います。2月24日(現地時間)に開催されるアカデミー賞授賞式に向けて、米国ではノミネートが有力視される話題作が年末に続々と公開されました。ちなみにノミネート発表は1月22日になります。WOWOWの映画情報番組『週刊ハリウッドエクスプレス』(毎週土曜朝11:30~)の飯塚克味ディレクターに、賞レースに絡んでいる注目作、気になる話題作について語ってもらいました。
──番組の収録・編集で忙しいところ、すみません。ハリウッドの最新情報に詳しい飯塚ディレクターに、日本でも話題になりそうなオススメ作品を教えてもらえればと思います。
飯塚克味(以下、飯塚) 仕事に追われてなかなか本編を観ることができずにいるんですが、僕で話せる範囲でよかったら(笑)。アカデミー賞ノミネート間違いないのは、日本でも公開が始まったレディー・ガガ主演作『アリー/スター誕生』ですね。米国では初週1位にはなれなかったものの、高いアベレージで動員を続け、米国内だけで興収2億ドルを超えています。レディー・ガガはテレビドラマ『アメリカン・ホラー・ストーリー:ホテル』(16)でゴールデングローブ賞テレビドラマ部門女優賞をすでに受賞していますが、ネームバリューのある彼女ならアカデミー賞にノミネートされるだけで大変なニュースになるでしょう。
──監督を兼任しているブラッドリー・クーパーも、ステージシーンでがんばっていますね。
飯塚 ブラッドリー・クーパーはもともと監督志望だったけれど、『ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い』(09)でブレイクし、イケメン俳優として有名になってしまった人です。ロン・ハワードと境遇が似ていますね。ロン・ハワードも『アメリカン・グラフィティ』(73)などに俳優として出ていたんですが、“B級映画の帝王”ロジャー・コーマンのお陰で『バニシングIN TURBO』(77)を主演と兼ねる形で監督させてもらった。多分、ブラッドリー・クーパーも出演を兼ねることを条件に、監督をやらせてもらったんじゃないかと思います。『スター誕生』というタイトルですが、実は『スター没落』でもあるんです。女は輝き、手を貸した男は逆に落ち目になっていく。なぜか米国人はこの物語が大好きで、映画化されるのは『栄光のハリウッド』(32)も含めると今回で5度目なんです。
■今年の賞レースの大本命はこれだ!!
──KKKに潜入捜査する黒人刑事を主人公にした実録映画『ブラック・クランズマン』は賞レースで本命視されていますね。
飯塚 スパイク・リー監督はここ何本か日本での劇場未公開が続きましたが、『ブラック・クランズマン』は期待できそうです。2016年のアカデミー賞で白人俳優ばかりがノミネートされていたことを、スパイク・リーはツイッター上で批判し、翌年はアメリカンアフリカ系の俳優たちが大挙ノミネートされました。彼の発言の影響が大きかったと思います。今年のアカデミー賞はさらにすごいことになりそうです。スパイク・リーはパームスプリングス国際映画祭で生涯功労賞を受賞することが決まっており、アカデミー会員たちも彼のことを無視できないはず。また、2018年はライアン・クーグラー監督の『ブラックパンサー』が全米で7億ドルという驚異的な大ヒットを記録しました。単なるヒーローアクションものと思われがちな『ブラックパンサー』ですが、アフリカ系アメリカ人映画批評家協会の最優秀作品賞に選ばれるなど、賞レースにも絡んでいます。主人公が最後にスピーチする「愚か者は壁を作るが、賢き者は橋を架ける」という台詞は、米国人の胸に刺さったようです。『ブラックパンサー』は日本で考えられている以上に、米国では大きな作品となっています。アフリカ系の監督や俳優たちが今年のアカデミー賞を席巻しそうです。
──人種差別を題材にした『グリーン ブック』もアカデミー賞で有力視されています。監督のピーター・ファレリーって、もしかして……。
飯塚 そうです、ファレリー兄弟のお兄ちゃんのほうです(笑)。まさか『ジム・キャリーはMr.ダマー』(94)を撮った監督がアカデミー賞の有力候補になるなんて、誰も考えなかったでしょう。同姓同名の別人かと思いますよね(笑)。人種差別が残っていた1960年代の物語ですが、ピーター・ファレリーの笑いのセンスはそう変わってないんじゃないかなぁ。でもヴィゴ・モーテンセン、マハーシャラ・アリといった演技派俳優が出演しているので、ピーター・ファレリーも彼らとコミュニケーションを図りながら、バランスの取れた作品になっていると思います。米国では11月末に公開され、興収的にはまだまだな感じですが、アカデミー賞にノミネートされたら大きく伸びるでしょうね。
■イーストウッドとアカデミー賞との関係
──製作費6,000万ドルを投じた大作『ファースト・マン』(日本では2月8日公開)は、米国での興収は奮わなかったようですね。
飯塚 『ラ・ラ・ランド』(16)のデイミアン・チャゼル監督とライアン・ゴズリングが再びタッグを組んだ注目作ですが、ゴールデングローブ賞では助演女優賞と作曲賞の2部門にノミネートされただけでした。月面に初めて立った英雄ニール・アームストロング船長の伝記映画に対し、アカデミー賞がどう対応するのか気になるところです。宇宙飛行士たちを主人公にした実録ものといえば、名作『ライトスタッフ』(83)があるので、どうしても比較してしまいますよね。配給のユニバーサルは作品内容には自信を持っているらしく、日本での試写はIMAXシアターで行なっています。アカデミー賞の結果次第では、日本で化ける可能性のある作品だと思います。
──クリント・イーストウッドの主演&監督作『運び屋』が公開されるのも2019年の大きなニュース。
飯塚 88歳になるイーストウッドが、実在した麻薬の運び屋を演じるという大注目作です。米国では年末に公開され、イーストウッド主演作としては歴代2位、監督作としては3位という好スタートを切っています。個人的にも、とても楽しみにしている作品ですが、これはアカデミー賞には絡まないんじゃないかと思います。『ミリオンダラー・ベイビー』(04)で作品賞・監督賞などを受賞して以降、アカデミー賞ではイーストウッド作品は選考の対象から外れています。イーストウッドほどの存在になると、アカデミー賞にノミネートされましたが受賞はできませんでした……というわけにはいきませんからね(笑)。今では誰もが名監督・名優として認めるイーストウッドですが、かつてはオラウータンと共演した『ダーティファイター』(78)や続編『ダーティファイター 燃えよ鉄拳』(80)なんて、おかしな映画に主演しています。それもまた、彼の魅力。イーストウッド映画を観て育った世代には、『運び屋』は見逃せません。
■大ヒット作『ボヘラプ』の監督はどうなった?
──ジェームズ・キャメロン製作の『アリータ:バトル・エンジェル』は正月映画として世界公開される予定だったのが、2月22日(金)に公開延期。日本のSF漫画『銃夢』が原作ですが、仕上がりが心配です。
飯塚 予告編の公開以降、ヒロインの眼の大きさばかりが話題になっています。いくらヒロインがアクロバティックな動きを見せても、「アニメでしょ」と思われてしまいますよね。ロバート・ロドリゲス監督がこちらの想像を上回るサプライズを用意していることを期待しましょう(笑)。米国では『アリータ』の正月公開が間に合わなかったことで、20世紀フォックスが『デッドプール2』をR指定からPG13に再編集したものを急遽上映するなど、対応に苦慮したようです。日本では『ボヘミアン・ラプソディ』が大ヒットしているので、逆にお正月のスクリーンが空いてラッキーでした。『ボヘラプ』の日本での熱狂ぶりはすごく、日本での興収75億円を射程距離に置いています。世界的に見ても、日本での『ボヘラプ』人気はすごいことになっています。
──日本で大絶賛されている『ボヘラプ』ですが、ブライアン・シンガー監督について触れたニュースはあまり聞かないんですが……。
飯塚 ブライアン・シンガーは監督としてクレジットは残っていますが、撮影途中で降板して、俳優でもあるデクスター・フレッチャーが残り2週間分を撮って完成させています。トラブルを起こしたブライアン・シンガーは、ディズニー配給になる『X-MEN』シリーズからも外されるでしょう。ディズニーはゴシップを嫌いますから。ディズニーといえば、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』(14)のジェームズ・ガン監督を過去のツイッター上の暴言を理由に、『ガーディアンズ』シリーズから降板させたことも話題になりました。マーベルユニバースである『ガーディアンズ』を降ろされたジェームズ・ガンですが、ライバルであるDCコミックの『スーサイド・スクワット』(16)の続編の脚本に起用され、監督も務めることになりそうです。まるで笑い話のようですが、『ガーディアンズ』のキャストの中には『スーサイド・スクワッド』に出たがっているジェームズ・ガン支持派が少なくないようですね。転んでもただでは起きないところは、さすがジェームズ・ガンです(笑)。
■ハリウッドの新トレンドは、Jホラーの影響?
──ダリオ・アルジェント監督が撮ったカルトホラー『サスペリア』(77)のリメイク版が、日本では1月25日(金)から公開されます。これって米国では劇場公開されたんでしょうか?
飯塚 『君の名前で僕を呼んで』(17)のルカ・グァダニーノ監督がリメイクした『サスペリア』はAmazonが出資した作品で、米国では2018年10月に限定公開されただけです。銀座シネパトスでひっそり上映されたみたいな感じですね(笑)。ホラーファンにとっては特別な作品なので、ひょっとしたら興収トップ10に入るかなと思っていたんですが、いかせん公開劇場数が少なすぎました。配信を前提に製作された作品なので、仕方ないのかもしれません。今後は劇場公開はなくて配信のみ、パッケージ化もされないという洋画が増えてくるかもしれません。日本にはオリジナル版『サスペリア』の熱狂的なファンが多いので、劇場公開で盛り上がってほしいですね。
──米国では『イット・フォローズ』(14)、『ドント・ブリーズ』(16)『ゲット・アウト』(17)など新感覚のホラー作品が人気を集めています。
飯塚 ホラーとサスペンスの中間みたいな作品が米国では当たっていますね。日本では11月に公開された『ヘレディタリー/継承』も、新しいタイプのホラーとしてかなり話題を集めました。『イット・フォローズ』や『ドント・ブリーズ』は出来がよかったし、『ゲット・アウト』は大ヒットし、アカデミー賞脚本賞まで受賞しています。ホラーなどのジャンル映画を低く見ていた認識が、米国人の中でもずいぶん変わってきているようです。
──不条理な物語『イット・フォローズ』などは、Jホラー映画の進化形のような印象を受けました。
飯塚 Jホラーの影響は確実にあるでしょう。Jホラーが種を蒔いて、海外で予想以上に大きな花を咲かせているような感じがしますよね。Jホラーブームの発火点となった鶴田法男監督は、現在は中国で撮った新作が公開待機中だそうです。内容はまだ明かせないそうですが、鶴田監督が恋愛ドラマを撮るとは思えないので、ホラーファンは期待しますよね(笑)。鶴田監督だけでなく、中国資本で映画を撮るホラー系の日本の監督はけっこういるようです。ホラー出身監督といえば、ジェームズ・ワン監督の『アクアマン』が日本では2月8日(金)に公開されます。低予算ホラー『ソウ』(04)でデビューしたワン監督が、『ワイルド・スピードSKY MISSION』(15)を経て、大作『アクアマン』を撮るなんて、感無量です。ワン監督がプロデュースしている『死霊館』『インシディアス』シリーズも面白さをキープしているので、『アクアマン』の出来映えも楽しみです。
■ホームシアター派に推したいSF官能ホラー
──オススメ映画はまだまだありそうですね。
飯塚 アカデミー賞絡みで挙げるなら、ヨルゴス・ランティモス監督のコスチュームもの『女王陛下のお気に入り』(日本では2月15日公開)もノミネートは固いでしょう。賞レース以外では、『トランスフォーマー』シリーズの最新作『バンブルビー』(日本では3月22日公開)が面白そうです。『トランスフォーマー』はシリーズが進むにつれてごちゃごちゃしてきましたが、これは少女とバンブルビーとのシンプルな友情ものなので、予告編を観た限りでは期待できそうです。ヒロイン役のヘイリー・スタインフィルドは作品選びがうまいので、脚本もきちんとしているんじゃないかと思います。『バンブルビー』にも出演しているジョン・シナ主演のコメディ『Blockers(原題)』は米国ではヒットしたんですが、日本での配給が決まっていないのが残念です。ハリウッド作品ではありませんが、僕が個人的に推しているのがスペイン・アルゼンチン合作映画『家(うち)へ帰ろう』。SKIPシティ国際Dシネマ映画祭コンペ部門の一次審査員をしている関係で毎年100本ほど海外からの応募作品を観ていますが、2018年の観客賞を受賞した『家へ帰ろう』は素晴しい作品です。日本では12月22日から公開が始まったばかりなので、劇場で感動体験をしたい方はぜひ足を運んでみてください。
──週刊誌「SPA!」(扶桑社)で「飯塚克味のボーナス・エイゾーに乾杯!」を連載されていた飯塚さんですが、最近のオススメのパッケージものは?
飯塚 11月にキングレコードからブルーレイとしてリリースされた『スペースバンパイア〈最終版〉』の特典インタビューがよかったですね。バンパイア役のマチルダ・メイの堂々としたヌード姿が強烈だった『スペースバンパイア』(85)ですが、本人へのインタビューによると当時のマチルダ・メイは脱ぐことは納得していたものの、どんな役か説明されないままカメラの前に立たされたそうなんです。そのことを恥じらいながら語る表情がいいんですよ(笑)。WOWOWの『週刊ハリウッドエクスプレス』の年明けは1月12日(土)午前10時30分、いつもよりちょっと早く始まるので、こちらもよろしくお願いします。
(取材・文=長野辰次)
●飯塚克味(いいづか・かつみ)
千葉県出身、日大芸術学部卒業。フリーの映像ディレクターとして、WOWOWの映画情報番組『週刊ハリウッドエクスプレス』の演出などを担当。映像ソフトライターとして「DVD&動画配信でーた」(KADOKAWA)などでも執筆中。