路上に捨てられた廃棄物が、価値の高いものに生まれ変わる。リサイクルやリユースのさらに上をいく“アップサイクル”という概念になるらしい。ドキュメンタリー映画『旅するダンボール』の主人公・島津冬樹氏は世界各国を旅して、様々な段ボールを拾い集めている。段ボールアーティストと呼ばれる島津氏の手によって、使い古しの段ボールは財布、名刺入れ、パスケースなどに変身していく。段ボールを集めては作り、さらにワークショップを開いて作り方を広める一連のプロジェクトは「Carton」と名付けられ、「Carton」の製品は世界各地で静かな人気を集めている。
都内乃木坂にある国立新美術館のスーベニアフロアへ行ってみた。海外の有名アーティストのグッズと共に、島津氏が作った段ボール製の長財布もオシャレにディスプレイされている。段ボールに印刷されたパッケージデザインがそのまま財布のアクセントとなっており、チープさと不思議な温かみを感じさせる。値段は1万円と安くはないが、海外からのツーリストが東京のお土産によく買って帰るそうだ。無価値の段ボールをブランド品に変えてしまうという発想が面白い。映画『旅するダンボール』は、段ボールに魅了された島津氏のユニークな人柄を映し出していく。
1987年神奈川県藤沢市で島津氏は生まれた。子どもの頃から収集癖があり、近くの海岸で拾ってきた貝殻で標本箱を自作した。キノコにも興味を持ち、手描きのキノコ図鑑も編纂している。モノを集めるという行為を楽しむのと同時に、標本箱や図鑑を作ることでその魅力を他の人と共有することにも喜びを見出していた。子どもの頃のそんな体験が、段ボールアーティストとしての原点となっているようだ。
多摩美術大学に進んだ島津氏は、学園祭のフリーマーケットで初めて段ボール製の手づくり財布を出品。定価500円の財布はすぐに売り切れた。段ボール製財布のユニークさは、就職活動でも効果を発揮する。大手広告代理店の役員面接日を間違えて大遅刻した島津氏だが、役員から気に入られてアートディレクターとして入社することになる。段ボール製財布と同様に、彼自身の気取らない純朴な人柄も、人を惹き付ける独特な魅力があるようだ。
超難関の人気企業にクリエイティブ職で就職できたにもかかわらず、島津氏はわずか3年で退職してしまう。その退職理由がまた彼らしい。「段ボールを集め、財布を作る時間がないから」。自分がやりたいことをやる。そんなシンプルさが段ボールアーティスト・島津冬樹のモットーだ。アウトドア用品のメーカーとコラボした野外イベントでは、段ボール製グッズと物々交換することで食べ物をゲットする。うれしそうな島津氏の顔をカメラはクローズアップする。段ボールアーティストは、貨幣経済のシステムにも束縛されずに生きている。彼は根っからの自由人だ。そんな彼がお金を収める財布づくりに情熱を注いでいるのもおかしい。矛盾さえも包み込んでしまう、大らかさが段ボールと段ボールアーティストにはある。
島津氏は海外でも財布づくりのワークショップを開き、惜しみなくそのノウハウを多くの人たちに広めている。まるで折り紙の鶴を折るように段ボールで財布を作り出す島津氏の手つきを見て、外国人たちは驚き、そして島津氏にアシストされて完成させた自前の財布を手にして大喜びする。段ボールでつくられた財布はきっと大切に使われることだろう。そんな一期一会な出逢いを、決して英語が堪能ではない段ボールアーティストは心から楽しんでいることをカメラは伝える。
段ボールをめぐるこの風変わりなドキュメンタリーは後半、意外なことに感動のドラマが待っている。国内の青果市場を物色していた島津氏は「徳之島フレッシュPOTATO」という段ボールと出逢ってしまった。手描きのレタリングとジャガイモを擬人化したユルキャラに、何とも言えない味わいがある。島津氏はこの段ボールに激しい愛情を感じ、どうしようもなくこの段ボールを作った人に会いたくなってしまう。
ジャガイモの生産地である鹿児島県徳之島に向かうつもりだった島津氏だが、調べてみると長崎県に出荷され、諫早市の選別工場で段ボールに詰められていることが分かった。長崎県にまで飛んだ島津氏は、この段ボールを作ったデザイナーは熊本県在住なことを知る。旅を続ける中でいろんな人たちと知り合い、さらに段ボール工場を見学した島津氏は、いよいよ憧れの段ボールデザイナーと対面することに。詳細はドキュメンタリー映画を観てもらいたいのだが、それは段ボールを愛する者同士の幸せな邂逅の瞬間となった。島津氏は「段ボールは温かい」という言葉を何度か口にするが、段ボールを作り、愛する人たちもまた同じように温かかったのである。
島津氏は日常生活に溢れた段ボールという鉱脈を見つけ、段ボールアーティストとして世界的に活躍することになった。『旅するダンボール』はそんな島津氏と出逢うことで、多くの人たちが段ボール愛に目覚めていく物語だ。本作を撮った岡島龍介監督もその一人らしい。カメラを持って島津氏を追い掛けるうちに、段ボールと島津氏の魅力に気づいていった。そして当の島津氏自身も、広がっていく段ボール愛に包まれていく。
映画を観ながら、ふと考える。もしかしたら段ボール以外にも、意外な鉱脈が日常生活の中に眠っているのかもしれないと。世間的には無価値なものを、世界にひとつしかない宝物に変えてしまう。そんな夢のようなドキュメンター映画は、現在日本各地を旅している真っ最中だ。
(文=長野辰次)

『旅するダンボール』
プロデューサー/汐巻裕子 監督・編集/岡島龍介 撮影/岡島龍介、サム・K・矢野 音楽/吉田大致 VFX/松元遼
出演/島津冬樹 ナレーション/マイケル・キダ
配給/ピクチャーズデプト 12月7日よりYEBISU GARDEN CINEMA、新宿ピカデリーほか全国順次公開中
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