“紀州のドン・ファン”の哀しすぎる晩節……55歳年下妻の「夜の告白」と浮上する「自殺説」

今週の注目記事・第1位
「紀州のドン・ファンが本誌に語っていた“秘密”」(「週刊朝日」6/22号)
「新妻Sさん『夜の供述調書』」(「フライデー」6/29号)
「ドン・ファン怪死 家政婦の元夫を直撃&22歳妻の嘘を暴く」(「週刊文春」6/21号)

同・第2位
「新幹線殺人犯実父(52)語る『息子を捨てた理由』」(「週刊文春」6/21号)

同・第3位
「立派だったね、梅田耕太郎さん(享年38)」(「週刊現代」6/30号)

同・第4位
「五輪が危うい『小池百合子都知事』の『学歴詐称』騒動」(「週刊新潮」6/21号)

同・第5位「米朝首脳会談のウラで『消費税15%』背信の“日米合意”」(「週刊ポスト」6/29号)

同・第6位
「裏千家“大番頭”の『ワイロ授受』写真」(「週刊文春」6/21号)

同・第7位
「トヨタとソフトバンクが合併する日」(「週刊現代」6/30号)

同・第8位
「日大事業部『900億円』を操るアメフト部OBの黒幕」(「週刊文春」6/21号)

同・第9位
「巨人の一軍捕手が美女2人呼んで『全裸パーティ』」(「フライデー」6/29号)

同・第10位
「名医に聞いた『わが家の「常備薬」』」(「週刊現代」6/30号)

同・第11位
「『人間性も仕事も全然…俺はビートたけしを認めない!』」(「女性自身」6/26号)

同・第12位
「NEWS小山・加藤・手越と未成年ファンと“乱倫な日常”動画」(「週刊文春」6/21号)

同・第13位
「『大谷翔平』右ひじにメスで蒸し返される『二刀流批判』」(「週刊新潮」6/21号)

同・第14位
「EDを招く薬111種全実名」(「週刊ポスト」6/29号)

同・第15位
「ビタミンDでがんリスクが25%低下」(「週刊文春」6/21号)

【巻末付録】現代とポストのSEXYグラビアの勝者はどっちだ!

 大阪、京都で大きな地震が起こった。大阪は震度6弱というから阪神淡路大震災に次ぐ大地震である。

 まだ余震があるというが、熊本大地震の時は2度目のほうが大きかった。日曜日にも関東地方でやや大きな地震があったが、巨大地震発生はいよいよ近づいてきていると思わざるを得ない。遅まきながら、自分の寝ている部屋の片づけを始めた。

 さて、文春からいこう。文春によるとビタミンDを摂るだけでがんのリスクが25%低下するという。それもアンキモやイクラを食べずとも、お天道様の下を15分か20分歩くだけでビタミンDが生成されるというのである。日焼けが嫌な女性は、日陰の端っこで日光浴すればいいそうだ。やってみて損はない。

 このところと現代とポストは薬の話が多い。ポストは「飲んだら勃たない「降圧剤」「胃薬」「鎮痛剤」111種の実名を挙げている。

 これは日本性機能学会が発行している「ED診療ガイドライン」によるそうである。

 この中に、高血圧の薬、アムロジピンというのがある。これは降圧効果が強く、ED薬にも血圧を下げる作用があるため、原則的に併用は禁止されているそうだ。

 私はこの薬を長年飲んでいる。だからダメなのかと、なんとなく納得。このほかにも高コレステロール治療薬、鎮痛剤、うつや不眠症、胃薬にも勃起を妨げるものが数多くあるそうである。

 気になる方は読んでみたらいかがか。

 サッカーW杯が開幕したが、誰にいわせても、日本代表に望みはないようだ。その一番の理由を本田圭佑の「劣化」だという人が多いようだ。

 新潮で釜本邦茂日本サッカー協会顧問は、「いまの本田はW杯のような高いレベルの試合では通用しません」とにべもない。だが本田を評価している西野朗監督は「本田と無理心中するつもりなんじゃないですか」(釜本)。

 本田以上に心配なのは大谷翔平の故障である。右肘内側側副靭帯損傷で、これは「肘の側副靭帯の部分断裂だから、非常にまずいケガですよね」と新潮で大リーグ研究家の友成那智氏は顔をしかめる。

 いまはPRP(多血小板血漿)療法をやり、3週間後に判断するということだが、「治ってもしばらくは本調子になりません。今シーズンは投手としては無理だと思います」(友成)。

 こうなるとやはり二刀流は無理だったという批判が蒸し返される。だが辛口の張本勲氏も、肘だから走ることはできるから、下半身を鍛えろとエールを送る。「100年に一人の逸材」(張本)なのだから。

 先週、未成年に飲酒をさせていたことを文春に報じられ、「NEWS」の小山慶一郎が一定期間の活動停止、その場にいた加藤シゲアキには厳重注意という処分が、ジャニーズ事務所から下された。

 今週はやはり「NEWS」の手越祐也が、昨年12月下旬、六本木のバーで未成年と飲酒していた疑惑を報じている。

 手越といた女性2人は当時19歳と17歳の未成年だったという。文春の取材に両事務所の対応が全く違った。17歳の女性のいた事務所は、本人たちは一滴も飲んでいないといっているので信じるしかないが、18歳未満で深夜に出歩くことは都条例に反すると、あっさりクビにしてしまったのだ。

 ジャニーズ側は当然のことながら「ご指摘のような事実は確認されていない」と突っぱねた。

 文春によると、こうしたタレント連中に女を紹介する「女衒」のような芸能事務所社長や実業家というのがいるそうだが、ジャニーズは一度その実態を調べてみたらどうだろうか。

 次は女性自身から。

「なんであんな人があんなに買われるようになったのか。それはもちろん監督として外国でヘンに認められるようになっちゃったからなんだけど、そんなにすごい人物なのかと思う。まあ、個人の趣味だから大きな声では言えない話なんですけどね。僕はハッキリ言って嫌いです」

 発言の主は脚本家の倉本聰氏(83)。嫌いだという相手はビートたけし。日刊ゲンダイの連載『ドラマへの遺言』で話したことを、女性自身が取り上げている。私も同感である。

 以前にも書いたが、テレビのたけしの出ている番組を見ていても、滑舌が悪くて、私などは聞き取れない。

 映画監督や俳優としてのたけしも、私は買わない。少し評価するのはポストの連載コラムである。

 小説も意外に読める。この男は、やはり活字人間なのだ。直木賞でも目指して小説に本格的に取り組んだら、今のお寒いエンターテインメント小説の分野なら、ひょっとするかもしれない。

 先週に続いて現代は、医者がどんな薬を「常備薬」にしているのかを特集している。

 先週とあまり変わりはないが、風邪の初期には葛根湯エキス顆粒A、胃腸の調子が悪いときはガスター10か大正漢方胃腸薬、腹痛には正露丸がいいという。

 疲れ目の目薬はサンテメディカル12、水虫には1,000円程度で買えるラミシールATクリームがいいそうだ。

 虫刺されなどには、ベトネベートN軟膏AS。冬場の乾燥性皮膚治療薬にはウレパールプラスローション10だそうである。

 ところで先週の水曜日に、有楽町の外国特派員協会で第2回の大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞の授賞式があった。

 受賞者の森功さんに誘われ、久しぶりに出てみたが、懐かしい顔ぶればかりで、同窓会のようであった。

 読者賞の受賞者は元読売新聞の清武英利氏。主催者としてあいさつしたノンフィクション作家の後藤正治氏、坪内祐三氏、作家の江上剛氏、講談社の常務になった渡瀬昌彦さん、個人事務所を始めた加藤晴之さん、山口正臣さんなどと話す。

 森さんの『悪だくみ』(文芸春秋)は、加計学園問題を追ったノンフィクションだが、まだ進行中のものにノンフィクション賞を与えるというのは、私は寡聞にして知らない。

 だが、いいではないか。低迷するノンフィクションを盛り上げるためには、こうした話題作があっていいと思う。

 ところで、最近は大リーグの野球しか見ないが、かつての球界の盟主・巨人の凋落は目を覆いたくなる。

 グラウンドで精彩がないのに、夜の呑み会では仲間たちとバカ騒ぎをして、しばしば顰蹙を買うのだから、なおさら始末が悪い。

 フライデーは、6月11日未明、捕手の河野元貴(27)と、河野の後輩でプロ4年目の篠原慎平(28)が、知人たちと全裸パーティーを開いていたと報じている。

 しかも、その時のバカ騒ぎを動画に撮り、自分のインスタグラムの承認制アカウントに堂々とアップしていたというのだから、大バカ者である。

 巨人軍は2人を謹慎処分にしたが、もっと重い処分にしないとまた次のバカが出てくるのは間違いない。

 さて、日大アメフト部の不祥事で、次々に「伏魔殿」の闇が暴露されてきている。中でも外部委託業務などを一手に担う「日本大学事業部」が、田中理事長たちのカネを産む打ち出の小槌である。

 そこを牛耳るのがアメフト部OBの井ノ口忠男(61)という人物だというのは、多くの週刊誌で報じられている。今回文春は、年間10億円ともいわれる日大の広報予算の大半を握っている井ノ口氏の実姉が経営する広告会社に焦点を当てている。

 看過しがたいのは、宣伝・広報にカネをつぎ込んで、日大の広報は慢性的な予算不足に陥っているが、「そのため今年度から“広報関係業務共同化”の名目のもと、日大の学生から一人二千円、日大グループの高校生は五百円、中学生は三百円を目安に、いわば“人頭税”という形で広報予算を徴収し始めた」(文春)というのである。

 国や地方からの補助金、学生たちの授業料で甘い汁を吸ってきた「黒幕たち」を、このまま放置しておいていいわけはない。日大生よ立ちあがれ!

 このところ、自動車産業の黄昏を云々する本がよく出されている。田中道昭氏というマージングポイント代表が書いた『2022年の次世代自動車産業』(PHPビジネス新書)も、その一冊である。

 その田中氏とソフトバンクの社長室長だった嶋聡氏が現代で、トヨタとソフトバンクが合併する日について語り合っている。

 ここでは、田中氏のこの言葉だけを紹介しておこう。

「田中 ライドシェア(相乗り=筆者注)の会社は航空、鉄道、クルマ、自転車までをすべてITでくっつけようとしている。そうなるとその後は、アマゾンのような生活サービスや保険のような金融もくっついてくる。やがて自転車から飛行機まで月額料金1万円ですべて乗り放題なんてサービスも出てくるでしょう。
 次世代の自動車産業でもトヨタが覇権を握ろうとするなら、このライドシェアに自ら参入しようとするくらいの気構えが必要です。いやトヨタは日本の産業や雇用を守るという使命も背負っている会社なのですから、それ以上のグランドデザインを描かなくてはならない」

 こうなる前に、まだまだやるべきことはある。

 自動運転車の安全性だってまだ確立されていない。90年代、これからはあっという間にIT時代が来て、紙の本などなくなるといっていたのはマイクロソフトであった。

 それから20年経っても、デジタル書籍は紙の本や雑誌を追い抜けない。

 IT至上主義者のいうことなんぞ、話三分の一と思って聞いていればいい。

 ソフトバンクの孫正義の「野望」にやすやすと乗ると、バカを見るのはトヨタのほうであろう。私はそう考えている。

 文春が、茶道の裏千家に、組織を私物化し私腹を肥やしている人間がいると報じている。

 事務方のトップで事務総長のA氏と匿名にはなっているが、目前の袱紗の前でニヤリとしている写真(目線は入っている)が掲載されているから、その世界ではすぐわかる人物なのであろう。

 家元の十六代千宗室に信頼され、「家元宛の手紙を勝手に確認したり、決済印を勝手に押印したり、専横を極めています」(裏千家職員)と、“裏の支配者”になっているというのである。

 最上位の資格を取得する際には、家元の推薦が必要だが、この十数年、A氏がこの推薦の権限を握り、会員に対して、A氏が推薦する代わりに自分にも家元に収める挨拶料と同額を払えと要求しているというのだ。

 こうした家元制度のところではよく聞かれる「醜聞」だが、こうした話が出ること自体、裏千家・千宗室家元の恥ではないのか。

 トランプと金正恩の首脳会談の成否が喧しい。私は、圧倒的に金正恩の優勢勝ちだと思っている。

 時期もやり方も明言せずに「非核化」を認めさせた金に、トランプは早速、米韓軍事演習を止めると明言した。

 トランプにとって、金正恩と会って話しただけで、あとは良きに計らえで十分なのであろう。

 おそらく金は、朝鮮戦争が終結したら平壌にトランプタワーを作りたいとでもいったのではないか。

 そうすれば、アメリカは少なくとも、トランプが在任中は北を爆撃することができなくなる。

 そんな動きに大慌てしているのが安倍首相である。トランプが拉致問題を金に話したといい、金側は、拉致問題は解決済みといわなかったと報じられると、これこそ国民にモリ・カケ問題を忘れさせる好機だと、日朝会談に前のめりになってしまった。

 後先を考えない男である。拉致問題では、お互いに詰めなくてはならない問題が山積している。

 金正恩に会えたはいいが、残念ながらその人たちは今はもういないといわれたら、どうするつもりなのだろう。

 物事は、トランプのように拙速では事を仕損じるのだ。

 その上、ポストによると、トランプは、拉致問題をいったのだからと、これからの非核化についての資金援助を求められているだけではなく、原則防衛費はGDPの約1%から、NATO諸国並みの2%に倍増し、アメリカから戦闘機や空母を買えと要求されているというのである。

 日本はアメリカのATMなのだ。トランプのポチである安倍は、それに異を唱えることもできずに、唯々諾々と従うと、来年消費税を10%に上げても足りず、すぐ15%にするのではないかとポストは見ている。

 それに、たとえ15%に上げることを決めても、それを実施し、アメリカに莫大なカネを払うのは自分ではなく、次の政権だ。

 野党も、メディアも、ここで一度立ち止まって、安倍政権がやってきたことをじっくり検証してみる時期である。

 嘘と誤魔化しの政権運営は、もっときちっとした形で徹底的に批判されなければならない。

 戦後最悪の政権であることを、国民にハッキリわからせるにはどうしたらいいのか。衆知を集めて真剣に考えるときは今しかない。

 今、一人の嘘つき女を新潮が批判している。小池百合子都知事の「学歴詐欺」についてであるが、もともとの出所は今月の文藝春秋だ。ノンフィクション・ライターの石井妙子氏が、小池の売り物である「カイロ大学を首席で卒業」が偽りだと、当時同居していた女性に証言させているのである。

 カイロ大学側は昔から、メディアの問い合わせに「小池は卒業している」と答えているが、これを読む限り、父親が当時、かなり情報相などの要人に食い込んでおり、なんらかの“配慮”があったのではないかと思わせるものがある。

 新潮は説明責任を果たせという。首席というのは大いに疑問だが、カイロ大学が卒業しているという以上、小池がこれについて説明するとは思えない。

 だが、質問された小池は、卒業したことは間違いないが、首席というのは……と口を濁した。

 語るに落ちたのではあるが、これをもって知事から引き下ろすことができるかというと、無理であろう。

 さて、6月9日、東海道新幹線東京発大阪行き「のぞみ265号」車内で無差別乗客殺傷事件が起きた。

 女性2人にいきなり襲いかかり、凶行を阻止しようとした会社員・梅田耕太郎さん(38)が、ナイフで十数カ所を刺されて死亡した。

 逮捕されたのは小島一朗容疑者(22)で、犯行後、「むしゃくしゃしてやった。誰でもよかった」と話しているという。

 小島のことは後で触れるとして、女性2人を助けようとして、刺されて亡くなってしまった梅田さんに、日本中から同情と、その勇気を称える声が上がっている。

 現代によれば、梅田さんは地元の小学校始まって以来の秀才といわれ、神奈川県の名門栄光学園を出て、東京大学の工学部に入学したそうである。

 がり勉ではなく高校時代はスポーツにも熱心で、大学でもテニスサークルの活動にも熱を入れていたという。

 その上、子どものころから正義感をもった人間だったと、小学校の頃を知る人間は語っている。

 父親は日本経済新聞の元取締役だったそうだ。東大を出て、大学院に進み、博士課程の特別研究員になっている。

 研究者として将来を嘱望され、プラズマ核融合での成果もあげているそうである。

 その後、京セラからSABIC、そしてBASFジャパンへと職場を移るが、謙虚で経歴をひけらかすこともなかったという。

 結婚した夫人は関西だったので、週末、関西に行っていたが、「一緒に暮らしたい」と同僚に話していたそうである。

 事件の日も、夫人が待つ兵庫に帰る途中だったという。

 栄光学園の教育理念は「Men for others」というそうだ。見ず知らずの他人を助けるために危険を顧みず、殺人者に立ち向かった梅田さんは、この理念を見事に実践したのである。

 惜しい人をなくした、そう思う。

 さて、では殺人者のほうはどんな人間なのか。文春によると、小島は両親、特に父親と折り合いが悪く、公立中学に進学するが、やがて不登校になってしまったそうだ。

 中二の時、新学期なので新しい水筒が欲しいといわれ、姉には新しい水筒、彼には貰い物の水筒を渡したら、夜中に、両親の部屋に押し入って来て、包丁や金槌を投げつけてきたことがあったと、父親が話している。

 これが決定的になり、母親が「父親との相性が悪くて困っている」と、自分が勤めている自立支援NPOに相談し、そこで預かってもらう。中学、定時制高校、職業訓練所に通い、在学中に取得した電気修理技師の資格を活かして、埼玉県の機械修理工場に就職し、独り暮らしを始めた。

 NPOの三輪憲功氏は、手のかからない子で、成績はオール5で4年かかるところを3年で卒業し、他人とトラブルを起こしたこともないと話す。

 機械修理会社の社員も、理解力が高く、人間関係も特に問題はなかったといっている。しかし翌年、小島は退社してしまう。

 再び実家で引き籠り状態になり、家出を繰り返すようになる。その後、社会復帰を目指して昨年11月から障害者支援施設で働き始めるが、1カ月もしないうちに「ホームレスになりたい」という理由で来なくなってしまう。

 昨年末から「自殺をする」といって家を出て、野宿をしながら長野県内を転々としていたそうだ。そして6月9日に凶行に及ぶのである。

 メディアの取材に、父親は息子のことを「一朗君」といって波紋を呼んだ。文春にも、「じゃあどういう言葉が正しいんですか。(記者から)『お父さん』と言われると、最初に出ちゃうのが『生物学上の生みの親』なんですよ」と答えている。

 虐待やネグレクトがあったのかという質問には、

「虐待はありえない。この(夫婦の寝室で暴れた)とき、うちの子がお巡りさんに『虐待を受けている』と言ったんですよ。でも、アザとかケガはないから(警察も信じなかった)。その日が、僕が決断した日ですよ。(息子への)教育を放棄した。彼のやりたいことをやらせましょう。外の空気を吸って自立を証明しろ、と」

 以来、法事などを含めて4回しか会っていないという。「親子関係はない」「父親のことは嫌いだったと思いますよ」「取材を受けることが僕の贖罪です」と、時折笑顔を見せながら父親は話したそうである。

 特異な親子関係といってもいいのかもしれないが、実は、息子は5歳の頃に児童保育所から発達障害ではないかと指摘されていたのだ。

 アスペルガー症候群は発達障害のひとつで、神戸連続殺傷事件を起こした少年Aなど、凶悪犯罪を起こす少年たちに多いなどと巷間いわれている。

 だが、私の友人で、この問題に詳しい草薙厚子氏は『となりの少年少女A』(河出書房新社)で、発達障害の少年少女が犯罪を起こす率は少なく、かえって被害者になる可能性のほうが高いと書いている。

 発達障害というのは「早期発見」と「早期治療」が重要で、家族だけで解決が難しい場合は、専門機関に相談しケアが必要。しかし、児童精神科医の数は全国でも60名程度で、主要大学にすら、こうした分野を担う講座が常設されていないという。

 小島容疑者の父親も、病名を聞いたのは息子が高校生のとき、妻から聞いたが、「なんて病気なの?」と聞いただけで終わっているようである。

 私が聞いているところでは、発達障害の人は優秀な人が多いそうだが、集団生活がなかなか難しい人も多いようだ。だが最近では、企業でも発達障害の人を積極的に受け入れ、活用するところが増えてきている。

 小島容疑者も成績はよかったそうだ。もし、両親が早期に、医師やそうした機関と相談して息子をケアしていれば、このような事件を起こすに至らなかったのではないだろうか。

 今週の第1位も、やはりこの事件である。先週も書いたように、紀州のドン・ファンこと野崎幸助氏「怪死事件」は、やはり解決まで長引きそうである。

 50億円ともいわれる遺産。結婚して数か月の55歳年下の妻。月に10日ぐらい東京から通っているという60代の家政婦には、覚せい剤で逮捕されたことがある前夫がいる。

 野崎氏が亡くなる前には、彼が可愛がっていた愛犬が突然死んでいるのだが、覚せい剤で殺された可能性もあると、警察が遺体を掘り起こして調べている。

 さまざまな登場人物。「死ぬまでSEXすることが生き甲斐」と豪語していた野崎氏の話題性。

 多くのミステリーファンを巻き込み、謎が謎を呼び、日本中が注目しているが、真犯人は誰なのか、何のために殺したのか、今夜も眠れない。

 文春は、家政婦の前夫にインタビューしている。このX氏、和歌山県警の殺人課の刑事がきたことを認めている。

 社会部記者は、室内外に設置されている約40個の防犯カメラの解析が終わり、妻と家政婦以外の第三者の侵入や覚せい剤混入は考えられないと、捜査幹部はいっているそうだ。だが、捜査は長期化し、夏までかかるだろうともいっているそうである。

 現代の記者は、Sに改めて事件のことを聞いた。

 もちろん彼女は「自分はやっていない」といい、この家は誰でも簡単に出入りできたと、第三者の可能性を示唆しているのだ。

 防犯カメラについては、

「去年、強盗が入ったときも防犯カメラがうまく作動していなかった。GW中も社長の愛人らしき人たちが何人も出入りしていたし、知らないおばさんが家にいて『新しい家政婦です』って名乗られることもあった」

 このへんは、捜査を取材している記者とは見方が違っている。

 37億円ともいわれる相続についても、「正直そんなにないと思う、会社の経理の人も、赤字があるので整理したとしても10億円ぐらいじゃないかといっていた」とSが話している。

 ここでの注目点は、Sが、野崎との夫婦生活は、「夫婦関係というよりも介護」という感じだったと語っていることである。

 紀州のドン・ファンと謳われ、死ぬまでSEXの代表のように自著でも豪語していた野崎氏だが、どうやらその実態は「粉飾」されていたようである。

 週刊朝日オンラインでは、Sの「介護」の実態をこう書いている。

 通夜に出席した親族はこういっている。

「幸助は脳梗塞を2回やり、よちよち歩きの状態でそう先は長くない。身体障害者の手帳も持っており、覚せい剤なんかやるワケない」

 脳梗塞は1度目は軽いときもあるが、2度目は助かっても重い障害が残ることが多い。私の友人のノンフィクションライターも、2度目で手術して、リハビリを続けているが、身体も口も思うようにはならない。

 野崎氏の会社の従業員もこう語る。

「社長は病気のせいで年中、大も小もオムツに漏らす。オムツで吸収しきれなくなり、床やお風呂にこぼすこともあった。そのたび、家政婦や従業員に掃除させた。車を運転していても、ブーって漏らす。だから2階の社長の寝室は臭いがひどく、奥さんは『あんな部屋上がりたくない』『車で漏らして臭かった』と毛嫌いしていた。奥さんは次第に社長と住むのを嫌がり、月100万円の小遣いをもらうと、モデルの仕事が入ったと東京にさっさと帰っていた」

 自著に、バイアグラなんか飲まないでも日に3回は新妻とできると書いていたのは、どうやら彼の“願望”だったようである。

 フライデーのインタビューでもSは、「(野崎氏と)セックスは1回もしていない」と話している。

「昨年末に出会い、2月に入籍しましたが、結婚前からセックスはしたことがありません。社長の名誉のために言いますが、オンナ好きだったことは間違いありません。
 でも私が出会った頃にはもう、社長はできなくなっていたんです。もちろん、ベッドに呼ばれることは何度も何度かありました。ただそれも、『手を握っていて』とか『一緒に寝て』とか『ほっぺにチューして』と言われるだけで、セックスを求められたことはありません。
 一度だけ、『抜いて欲しい』と頼まれたことがあったので、『頑張るね』と言って手でしたことがあるんですが、それでもダメで、『社長、やっぱり歳だよ』と言ったら『そうか』と」

 哀しい話ではないか。身につまされて涙が出る。

 こうしたことを含めて、ここへきてにわかに「自殺」ではないのかという見方もささやかれているようである。

 女とSEXすることだけが生き甲斐だった男が、自分の意のままにならない萎びたムスコをじっと見て、生きていても仕方がないと自ら死を選んだのではないかというのだ。

 今は、注射一本打てば24時間勃起し続けるED薬もあるそうだが、日に3回がノルマ、SEXするために稼いできた男にとって、そんなものまで使ってSEXするのは、これまでの自分の人生を全否定するようなものだったのかもしれない。

 警察は、何十本もあるビール瓶を調べて、覚せい剤が付着していないかと調べているそうである。

 殺人、それも妻と家政婦に絞り込んでいるそうだ。

 意外に単純な事件なのか、それとも二重三重に伏線が張られている複雑な事件なのか。

 全面解決には、まだまだ時間がかかりそうである。

【巻末付録】

 まずは現代から。巻頭は「独占掲載 女優・原節子の『秘蔵写真』」。もちろんヘア・ヌードではない。

 少しバタくさいが美人である。あの頃の監督の小津安二郎、俳優の佐野周二、みないい男である。

 先日、北鎌倉へ遊びに行った。作家・立原正秋の住んでいた梶原という地を、化粧(けわい)坂を登って、行ってみた。

 立原が時々顔を出したそば屋で、往時を知っているおばあさんから立原の話を聞いた。

 小津の映画なら、このそば屋のおかみは原節子だろうな。北鎌倉は今でも、原節子がひょっこり顔を出しそうな、そんな雰囲気が至る所にある。

 後半は「挑発ランジェリー 板野友美」。可愛い子である。「人気アイドルグループ『夢見るアドレセンス』メンバー 京佳」。袋とじは「現役アイドルがうっかり『素人ナンパAV』出演 衝撃映像を“顔出し”徹底検証」。この子は、国民的アイドルにいて、今は一流ファッションモデル誌のモデルとして活躍している、あの子ではないかと検証したというのである。

 それも間違いなく本人だそうだ。私にはまったくわからないが、そのファッション雑誌のグラビアを一緒に付けてくれればいいのに。

 ポストは、前半、「『“独り飯”が寂しいです』ユン・チェヨン」「河合奈保子」。もちろんヘア・ヌードではない。

 後半は「垂涎のヒップライン 窪真理」。お天気お姉さんとして愛され、今は女優だそうだ。

 袋とじは「VRエロ動画入門」。最近はバーチャルリアリティのエロ動画が簡単に見られるらしい。

 だけどゴーグルをつけて、AVを見てというのは、なんだかめんどくさい気がするのだが。

 これを見ながら外を歩いたら、どうなるのかね。

 まあいい。今週も決定打に欠けて、引き分け。
(文=元木昌彦)

“紀州のドン・ファン”の哀しすぎる晩節……55歳年下妻の「夜の告白」と浮上する「自殺説」

今週の注目記事・第1位
「紀州のドン・ファンが本誌に語っていた“秘密”」(「週刊朝日」6/22号)
「新妻Sさん『夜の供述調書』」(「フライデー」6/29号)
「ドン・ファン怪死 家政婦の元夫を直撃&22歳妻の嘘を暴く」(「週刊文春」6/21号)

同・第2位
「新幹線殺人犯実父(52)語る『息子を捨てた理由』」(「週刊文春」6/21号)

同・第3位
「立派だったね、梅田耕太郎さん(享年38)」(「週刊現代」6/30号)

同・第4位
「五輪が危うい『小池百合子都知事』の『学歴詐称』騒動」(「週刊新潮」6/21号)

同・第5位「米朝首脳会談のウラで『消費税15%』背信の“日米合意”」(「週刊ポスト」6/29号)

同・第6位
「裏千家“大番頭”の『ワイロ授受』写真」(「週刊文春」6/21号)

同・第7位
「トヨタとソフトバンクが合併する日」(「週刊現代」6/30号)

同・第8位
「日大事業部『900億円』を操るアメフト部OBの黒幕」(「週刊文春」6/21号)

同・第9位
「巨人の一軍捕手が美女2人呼んで『全裸パーティ』」(「フライデー」6/29号)

同・第10位
「名医に聞いた『わが家の「常備薬」』」(「週刊現代」6/30号)

同・第11位
「『人間性も仕事も全然…俺はビートたけしを認めない!』」(「女性自身」6/26号)

同・第12位
「NEWS小山・加藤・手越と未成年ファンと“乱倫な日常”動画」(「週刊文春」6/21号)

同・第13位
「『大谷翔平』右ひじにメスで蒸し返される『二刀流批判』」(「週刊新潮」6/21号)

同・第14位
「EDを招く薬111種全実名」(「週刊ポスト」6/29号)

同・第15位
「ビタミンDでがんリスクが25%低下」(「週刊文春」6/21号)

【巻末付録】現代とポストのSEXYグラビアの勝者はどっちだ!

 大阪、京都で大きな地震が起こった。大阪は震度6弱というから阪神淡路大震災に次ぐ大地震である。

 まだ余震があるというが、熊本大地震の時は2度目のほうが大きかった。日曜日にも関東地方でやや大きな地震があったが、巨大地震発生はいよいよ近づいてきていると思わざるを得ない。遅まきながら、自分の寝ている部屋の片づけを始めた。

 さて、文春からいこう。文春によるとビタミンDを摂るだけでがんのリスクが25%低下するという。それもアンキモやイクラを食べずとも、お天道様の下を15分か20分歩くだけでビタミンDが生成されるというのである。日焼けが嫌な女性は、日陰の端っこで日光浴すればいいそうだ。やってみて損はない。

 このところと現代とポストは薬の話が多い。ポストは「飲んだら勃たない「降圧剤」「胃薬」「鎮痛剤」111種の実名を挙げている。

 これは日本性機能学会が発行している「ED診療ガイドライン」によるそうである。

 この中に、高血圧の薬、アムロジピンというのがある。これは降圧効果が強く、ED薬にも血圧を下げる作用があるため、原則的に併用は禁止されているそうだ。

 私はこの薬を長年飲んでいる。だからダメなのかと、なんとなく納得。このほかにも高コレステロール治療薬、鎮痛剤、うつや不眠症、胃薬にも勃起を妨げるものが数多くあるそうである。

 気になる方は読んでみたらいかがか。

 サッカーW杯が開幕したが、誰にいわせても、日本代表に望みはないようだ。その一番の理由を本田圭佑の「劣化」だという人が多いようだ。

 新潮で釜本邦茂日本サッカー協会顧問は、「いまの本田はW杯のような高いレベルの試合では通用しません」とにべもない。だが本田を評価している西野朗監督は「本田と無理心中するつもりなんじゃないですか」(釜本)。

 本田以上に心配なのは大谷翔平の故障である。右肘内側側副靭帯損傷で、これは「肘の側副靭帯の部分断裂だから、非常にまずいケガですよね」と新潮で大リーグ研究家の友成那智氏は顔をしかめる。

 いまはPRP(多血小板血漿)療法をやり、3週間後に判断するということだが、「治ってもしばらくは本調子になりません。今シーズンは投手としては無理だと思います」(友成)。

 こうなるとやはり二刀流は無理だったという批判が蒸し返される。だが辛口の張本勲氏も、肘だから走ることはできるから、下半身を鍛えろとエールを送る。「100年に一人の逸材」(張本)なのだから。

 先週、未成年に飲酒をさせていたことを文春に報じられ、「NEWS」の小山慶一郎が一定期間の活動停止、その場にいた加藤シゲアキには厳重注意という処分が、ジャニーズ事務所から下された。

 今週はやはり「NEWS」の手越祐也が、昨年12月下旬、六本木のバーで未成年と飲酒していた疑惑を報じている。

 手越といた女性2人は当時19歳と17歳の未成年だったという。文春の取材に両事務所の対応が全く違った。17歳の女性のいた事務所は、本人たちは一滴も飲んでいないといっているので信じるしかないが、18歳未満で深夜に出歩くことは都条例に反すると、あっさりクビにしてしまったのだ。

 ジャニーズ側は当然のことながら「ご指摘のような事実は確認されていない」と突っぱねた。

 文春によると、こうしたタレント連中に女を紹介する「女衒」のような芸能事務所社長や実業家というのがいるそうだが、ジャニーズは一度その実態を調べてみたらどうだろうか。

 次は女性自身から。

「なんであんな人があんなに買われるようになったのか。それはもちろん監督として外国でヘンに認められるようになっちゃったからなんだけど、そんなにすごい人物なのかと思う。まあ、個人の趣味だから大きな声では言えない話なんですけどね。僕はハッキリ言って嫌いです」

 発言の主は脚本家の倉本聰氏(83)。嫌いだという相手はビートたけし。日刊ゲンダイの連載『ドラマへの遺言』で話したことを、女性自身が取り上げている。私も同感である。

 以前にも書いたが、テレビのたけしの出ている番組を見ていても、滑舌が悪くて、私などは聞き取れない。

 映画監督や俳優としてのたけしも、私は買わない。少し評価するのはポストの連載コラムである。

 小説も意外に読める。この男は、やはり活字人間なのだ。直木賞でも目指して小説に本格的に取り組んだら、今のお寒いエンターテインメント小説の分野なら、ひょっとするかもしれない。

 先週に続いて現代は、医者がどんな薬を「常備薬」にしているのかを特集している。

 先週とあまり変わりはないが、風邪の初期には葛根湯エキス顆粒A、胃腸の調子が悪いときはガスター10か大正漢方胃腸薬、腹痛には正露丸がいいという。

 疲れ目の目薬はサンテメディカル12、水虫には1,000円程度で買えるラミシールATクリームがいいそうだ。

 虫刺されなどには、ベトネベートN軟膏AS。冬場の乾燥性皮膚治療薬にはウレパールプラスローション10だそうである。

 ところで先週の水曜日に、有楽町の外国特派員協会で第2回の大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞の授賞式があった。

 受賞者の森功さんに誘われ、久しぶりに出てみたが、懐かしい顔ぶればかりで、同窓会のようであった。

 読者賞の受賞者は元読売新聞の清武英利氏。主催者としてあいさつしたノンフィクション作家の後藤正治氏、坪内祐三氏、作家の江上剛氏、講談社の常務になった渡瀬昌彦さん、個人事務所を始めた加藤晴之さん、山口正臣さんなどと話す。

 森さんの『悪だくみ』(文芸春秋)は、加計学園問題を追ったノンフィクションだが、まだ進行中のものにノンフィクション賞を与えるというのは、私は寡聞にして知らない。

 だが、いいではないか。低迷するノンフィクションを盛り上げるためには、こうした話題作があっていいと思う。

 ところで、最近は大リーグの野球しか見ないが、かつての球界の盟主・巨人の凋落は目を覆いたくなる。

 グラウンドで精彩がないのに、夜の呑み会では仲間たちとバカ騒ぎをして、しばしば顰蹙を買うのだから、なおさら始末が悪い。

 フライデーは、6月11日未明、捕手の河野元貴(27)と、河野の後輩でプロ4年目の篠原慎平(28)が、知人たちと全裸パーティーを開いていたと報じている。

 しかも、その時のバカ騒ぎを動画に撮り、自分のインスタグラムの承認制アカウントに堂々とアップしていたというのだから、大バカ者である。

 巨人軍は2人を謹慎処分にしたが、もっと重い処分にしないとまた次のバカが出てくるのは間違いない。

 さて、日大アメフト部の不祥事で、次々に「伏魔殿」の闇が暴露されてきている。中でも外部委託業務などを一手に担う「日本大学事業部」が、田中理事長たちのカネを産む打ち出の小槌である。

 そこを牛耳るのがアメフト部OBの井ノ口忠男(61)という人物だというのは、多くの週刊誌で報じられている。今回文春は、年間10億円ともいわれる日大の広報予算の大半を握っている井ノ口氏の実姉が経営する広告会社に焦点を当てている。

 看過しがたいのは、宣伝・広報にカネをつぎ込んで、日大の広報は慢性的な予算不足に陥っているが、「そのため今年度から“広報関係業務共同化”の名目のもと、日大の学生から一人二千円、日大グループの高校生は五百円、中学生は三百円を目安に、いわば“人頭税”という形で広報予算を徴収し始めた」(文春)というのである。

 国や地方からの補助金、学生たちの授業料で甘い汁を吸ってきた「黒幕たち」を、このまま放置しておいていいわけはない。日大生よ立ちあがれ!

 このところ、自動車産業の黄昏を云々する本がよく出されている。田中道昭氏というマージングポイント代表が書いた『2022年の次世代自動車産業』(PHPビジネス新書)も、その一冊である。

 その田中氏とソフトバンクの社長室長だった嶋聡氏が現代で、トヨタとソフトバンクが合併する日について語り合っている。

 ここでは、田中氏のこの言葉だけを紹介しておこう。

「田中 ライドシェア(相乗り=筆者注)の会社は航空、鉄道、クルマ、自転車までをすべてITでくっつけようとしている。そうなるとその後は、アマゾンのような生活サービスや保険のような金融もくっついてくる。やがて自転車から飛行機まで月額料金1万円ですべて乗り放題なんてサービスも出てくるでしょう。
 次世代の自動車産業でもトヨタが覇権を握ろうとするなら、このライドシェアに自ら参入しようとするくらいの気構えが必要です。いやトヨタは日本の産業や雇用を守るという使命も背負っている会社なのですから、それ以上のグランドデザインを描かなくてはならない」

 こうなる前に、まだまだやるべきことはある。

 自動運転車の安全性だってまだ確立されていない。90年代、これからはあっという間にIT時代が来て、紙の本などなくなるといっていたのはマイクロソフトであった。

 それから20年経っても、デジタル書籍は紙の本や雑誌を追い抜けない。

 IT至上主義者のいうことなんぞ、話三分の一と思って聞いていればいい。

 ソフトバンクの孫正義の「野望」にやすやすと乗ると、バカを見るのはトヨタのほうであろう。私はそう考えている。

 文春が、茶道の裏千家に、組織を私物化し私腹を肥やしている人間がいると報じている。

 事務方のトップで事務総長のA氏と匿名にはなっているが、目前の袱紗の前でニヤリとしている写真(目線は入っている)が掲載されているから、その世界ではすぐわかる人物なのであろう。

 家元の十六代千宗室に信頼され、「家元宛の手紙を勝手に確認したり、決済印を勝手に押印したり、専横を極めています」(裏千家職員)と、“裏の支配者”になっているというのである。

 最上位の資格を取得する際には、家元の推薦が必要だが、この十数年、A氏がこの推薦の権限を握り、会員に対して、A氏が推薦する代わりに自分にも家元に収める挨拶料と同額を払えと要求しているというのだ。

 こうした家元制度のところではよく聞かれる「醜聞」だが、こうした話が出ること自体、裏千家・千宗室家元の恥ではないのか。

 トランプと金正恩の首脳会談の成否が喧しい。私は、圧倒的に金正恩の優勢勝ちだと思っている。

 時期もやり方も明言せずに「非核化」を認めさせた金に、トランプは早速、米韓軍事演習を止めると明言した。

 トランプにとって、金正恩と会って話しただけで、あとは良きに計らえで十分なのであろう。

 おそらく金は、朝鮮戦争が終結したら平壌にトランプタワーを作りたいとでもいったのではないか。

 そうすれば、アメリカは少なくとも、トランプが在任中は北を爆撃することができなくなる。

 そんな動きに大慌てしているのが安倍首相である。トランプが拉致問題を金に話したといい、金側は、拉致問題は解決済みといわなかったと報じられると、これこそ国民にモリ・カケ問題を忘れさせる好機だと、日朝会談に前のめりになってしまった。

 後先を考えない男である。拉致問題では、お互いに詰めなくてはならない問題が山積している。

 金正恩に会えたはいいが、残念ながらその人たちは今はもういないといわれたら、どうするつもりなのだろう。

 物事は、トランプのように拙速では事を仕損じるのだ。

 その上、ポストによると、トランプは、拉致問題をいったのだからと、これからの非核化についての資金援助を求められているだけではなく、原則防衛費はGDPの約1%から、NATO諸国並みの2%に倍増し、アメリカから戦闘機や空母を買えと要求されているというのである。

 日本はアメリカのATMなのだ。トランプのポチである安倍は、それに異を唱えることもできずに、唯々諾々と従うと、来年消費税を10%に上げても足りず、すぐ15%にするのではないかとポストは見ている。

 それに、たとえ15%に上げることを決めても、それを実施し、アメリカに莫大なカネを払うのは自分ではなく、次の政権だ。

 野党も、メディアも、ここで一度立ち止まって、安倍政権がやってきたことをじっくり検証してみる時期である。

 嘘と誤魔化しの政権運営は、もっときちっとした形で徹底的に批判されなければならない。

 戦後最悪の政権であることを、国民にハッキリわからせるにはどうしたらいいのか。衆知を集めて真剣に考えるときは今しかない。

 今、一人の嘘つき女を新潮が批判している。小池百合子都知事の「学歴詐欺」についてであるが、もともとの出所は今月の文藝春秋だ。ノンフィクション・ライターの石井妙子氏が、小池の売り物である「カイロ大学を首席で卒業」が偽りだと、当時同居していた女性に証言させているのである。

 カイロ大学側は昔から、メディアの問い合わせに「小池は卒業している」と答えているが、これを読む限り、父親が当時、かなり情報相などの要人に食い込んでおり、なんらかの“配慮”があったのではないかと思わせるものがある。

 新潮は説明責任を果たせという。首席というのは大いに疑問だが、カイロ大学が卒業しているという以上、小池がこれについて説明するとは思えない。

 だが、質問された小池は、卒業したことは間違いないが、首席というのは……と口を濁した。

 語るに落ちたのではあるが、これをもって知事から引き下ろすことができるかというと、無理であろう。

 さて、6月9日、東海道新幹線東京発大阪行き「のぞみ265号」車内で無差別乗客殺傷事件が起きた。

 女性2人にいきなり襲いかかり、凶行を阻止しようとした会社員・梅田耕太郎さん(38)が、ナイフで十数カ所を刺されて死亡した。

 逮捕されたのは小島一朗容疑者(22)で、犯行後、「むしゃくしゃしてやった。誰でもよかった」と話しているという。

 小島のことは後で触れるとして、女性2人を助けようとして、刺されて亡くなってしまった梅田さんに、日本中から同情と、その勇気を称える声が上がっている。

 現代によれば、梅田さんは地元の小学校始まって以来の秀才といわれ、神奈川県の名門栄光学園を出て、東京大学の工学部に入学したそうである。

 がり勉ではなく高校時代はスポーツにも熱心で、大学でもテニスサークルの活動にも熱を入れていたという。

 その上、子どものころから正義感をもった人間だったと、小学校の頃を知る人間は語っている。

 父親は日本経済新聞の元取締役だったそうだ。東大を出て、大学院に進み、博士課程の特別研究員になっている。

 研究者として将来を嘱望され、プラズマ核融合での成果もあげているそうである。

 その後、京セラからSABIC、そしてBASFジャパンへと職場を移るが、謙虚で経歴をひけらかすこともなかったという。

 結婚した夫人は関西だったので、週末、関西に行っていたが、「一緒に暮らしたい」と同僚に話していたそうである。

 事件の日も、夫人が待つ兵庫に帰る途中だったという。

 栄光学園の教育理念は「Men for others」というそうだ。見ず知らずの他人を助けるために危険を顧みず、殺人者に立ち向かった梅田さんは、この理念を見事に実践したのである。

 惜しい人をなくした、そう思う。

 さて、では殺人者のほうはどんな人間なのか。文春によると、小島は両親、特に父親と折り合いが悪く、公立中学に進学するが、やがて不登校になってしまったそうだ。

 中二の時、新学期なので新しい水筒が欲しいといわれ、姉には新しい水筒、彼には貰い物の水筒を渡したら、夜中に、両親の部屋に押し入って来て、包丁や金槌を投げつけてきたことがあったと、父親が話している。

 これが決定的になり、母親が「父親との相性が悪くて困っている」と、自分が勤めている自立支援NPOに相談し、そこで預かってもらう。中学、定時制高校、職業訓練所に通い、在学中に取得した電気修理技師の資格を活かして、埼玉県の機械修理工場に就職し、独り暮らしを始めた。

 NPOの三輪憲功氏は、手のかからない子で、成績はオール5で4年かかるところを3年で卒業し、他人とトラブルを起こしたこともないと話す。

 機械修理会社の社員も、理解力が高く、人間関係も特に問題はなかったといっている。しかし翌年、小島は退社してしまう。

 再び実家で引き籠り状態になり、家出を繰り返すようになる。その後、社会復帰を目指して昨年11月から障害者支援施設で働き始めるが、1カ月もしないうちに「ホームレスになりたい」という理由で来なくなってしまう。

 昨年末から「自殺をする」といって家を出て、野宿をしながら長野県内を転々としていたそうだ。そして6月9日に凶行に及ぶのである。

 メディアの取材に、父親は息子のことを「一朗君」といって波紋を呼んだ。文春にも、「じゃあどういう言葉が正しいんですか。(記者から)『お父さん』と言われると、最初に出ちゃうのが『生物学上の生みの親』なんですよ」と答えている。

 虐待やネグレクトがあったのかという質問には、

「虐待はありえない。この(夫婦の寝室で暴れた)とき、うちの子がお巡りさんに『虐待を受けている』と言ったんですよ。でも、アザとかケガはないから(警察も信じなかった)。その日が、僕が決断した日ですよ。(息子への)教育を放棄した。彼のやりたいことをやらせましょう。外の空気を吸って自立を証明しろ、と」

 以来、法事などを含めて4回しか会っていないという。「親子関係はない」「父親のことは嫌いだったと思いますよ」「取材を受けることが僕の贖罪です」と、時折笑顔を見せながら父親は話したそうである。

 特異な親子関係といってもいいのかもしれないが、実は、息子は5歳の頃に児童保育所から発達障害ではないかと指摘されていたのだ。

 アスペルガー症候群は発達障害のひとつで、神戸連続殺傷事件を起こした少年Aなど、凶悪犯罪を起こす少年たちに多いなどと巷間いわれている。

 だが、私の友人で、この問題に詳しい草薙厚子氏は『となりの少年少女A』(河出書房新社)で、発達障害の少年少女が犯罪を起こす率は少なく、かえって被害者になる可能性のほうが高いと書いている。

 発達障害というのは「早期発見」と「早期治療」が重要で、家族だけで解決が難しい場合は、専門機関に相談しケアが必要。しかし、児童精神科医の数は全国でも60名程度で、主要大学にすら、こうした分野を担う講座が常設されていないという。

 小島容疑者の父親も、病名を聞いたのは息子が高校生のとき、妻から聞いたが、「なんて病気なの?」と聞いただけで終わっているようである。

 私が聞いているところでは、発達障害の人は優秀な人が多いそうだが、集団生活がなかなか難しい人も多いようだ。だが最近では、企業でも発達障害の人を積極的に受け入れ、活用するところが増えてきている。

 小島容疑者も成績はよかったそうだ。もし、両親が早期に、医師やそうした機関と相談して息子をケアしていれば、このような事件を起こすに至らなかったのではないだろうか。

 今週の第1位も、やはりこの事件である。先週も書いたように、紀州のドン・ファンこと野崎幸助氏「怪死事件」は、やはり解決まで長引きそうである。

 50億円ともいわれる遺産。結婚して数か月の55歳年下の妻。月に10日ぐらい東京から通っているという60代の家政婦には、覚せい剤で逮捕されたことがある前夫がいる。

 野崎氏が亡くなる前には、彼が可愛がっていた愛犬が突然死んでいるのだが、覚せい剤で殺された可能性もあると、警察が遺体を掘り起こして調べている。

 さまざまな登場人物。「死ぬまでSEXすることが生き甲斐」と豪語していた野崎氏の話題性。

 多くのミステリーファンを巻き込み、謎が謎を呼び、日本中が注目しているが、真犯人は誰なのか、何のために殺したのか、今夜も眠れない。

 文春は、家政婦の前夫にインタビューしている。このX氏、和歌山県警の殺人課の刑事がきたことを認めている。

 社会部記者は、室内外に設置されている約40個の防犯カメラの解析が終わり、妻と家政婦以外の第三者の侵入や覚せい剤混入は考えられないと、捜査幹部はいっているそうだ。だが、捜査は長期化し、夏までかかるだろうともいっているそうである。

 現代の記者は、Sに改めて事件のことを聞いた。

 もちろん彼女は「自分はやっていない」といい、この家は誰でも簡単に出入りできたと、第三者の可能性を示唆しているのだ。

 防犯カメラについては、

「去年、強盗が入ったときも防犯カメラがうまく作動していなかった。GW中も社長の愛人らしき人たちが何人も出入りしていたし、知らないおばさんが家にいて『新しい家政婦です』って名乗られることもあった」

 このへんは、捜査を取材している記者とは見方が違っている。

 37億円ともいわれる相続についても、「正直そんなにないと思う、会社の経理の人も、赤字があるので整理したとしても10億円ぐらいじゃないかといっていた」とSが話している。

 ここでの注目点は、Sが、野崎との夫婦生活は、「夫婦関係というよりも介護」という感じだったと語っていることである。

 紀州のドン・ファンと謳われ、死ぬまでSEXの代表のように自著でも豪語していた野崎氏だが、どうやらその実態は「粉飾」されていたようである。

 週刊朝日オンラインでは、Sの「介護」の実態をこう書いている。

 通夜に出席した親族はこういっている。

「幸助は脳梗塞を2回やり、よちよち歩きの状態でそう先は長くない。身体障害者の手帳も持っており、覚せい剤なんかやるワケない」

 脳梗塞は1度目は軽いときもあるが、2度目は助かっても重い障害が残ることが多い。私の友人のノンフィクションライターも、2度目で手術して、リハビリを続けているが、身体も口も思うようにはならない。

 野崎氏の会社の従業員もこう語る。

「社長は病気のせいで年中、大も小もオムツに漏らす。オムツで吸収しきれなくなり、床やお風呂にこぼすこともあった。そのたび、家政婦や従業員に掃除させた。車を運転していても、ブーって漏らす。だから2階の社長の寝室は臭いがひどく、奥さんは『あんな部屋上がりたくない』『車で漏らして臭かった』と毛嫌いしていた。奥さんは次第に社長と住むのを嫌がり、月100万円の小遣いをもらうと、モデルの仕事が入ったと東京にさっさと帰っていた」

 自著に、バイアグラなんか飲まないでも日に3回は新妻とできると書いていたのは、どうやら彼の“願望”だったようである。

 フライデーのインタビューでもSは、「(野崎氏と)セックスは1回もしていない」と話している。

「昨年末に出会い、2月に入籍しましたが、結婚前からセックスはしたことがありません。社長の名誉のために言いますが、オンナ好きだったことは間違いありません。
 でも私が出会った頃にはもう、社長はできなくなっていたんです。もちろん、ベッドに呼ばれることは何度も何度かありました。ただそれも、『手を握っていて』とか『一緒に寝て』とか『ほっぺにチューして』と言われるだけで、セックスを求められたことはありません。
 一度だけ、『抜いて欲しい』と頼まれたことがあったので、『頑張るね』と言って手でしたことがあるんですが、それでもダメで、『社長、やっぱり歳だよ』と言ったら『そうか』と」

 哀しい話ではないか。身につまされて涙が出る。

 こうしたことを含めて、ここへきてにわかに「自殺」ではないのかという見方もささやかれているようである。

 女とSEXすることだけが生き甲斐だった男が、自分の意のままにならない萎びたムスコをじっと見て、生きていても仕方がないと自ら死を選んだのではないかというのだ。

 今は、注射一本打てば24時間勃起し続けるED薬もあるそうだが、日に3回がノルマ、SEXするために稼いできた男にとって、そんなものまで使ってSEXするのは、これまでの自分の人生を全否定するようなものだったのかもしれない。

 警察は、何十本もあるビール瓶を調べて、覚せい剤が付着していないかと調べているそうである。

 殺人、それも妻と家政婦に絞り込んでいるそうだ。

 意外に単純な事件なのか、それとも二重三重に伏線が張られている複雑な事件なのか。

 全面解決には、まだまだ時間がかかりそうである。

【巻末付録】

 まずは現代から。巻頭は「独占掲載 女優・原節子の『秘蔵写真』」。もちろんヘア・ヌードではない。

 少しバタくさいが美人である。あの頃の監督の小津安二郎、俳優の佐野周二、みないい男である。

 先日、北鎌倉へ遊びに行った。作家・立原正秋の住んでいた梶原という地を、化粧(けわい)坂を登って、行ってみた。

 立原が時々顔を出したそば屋で、往時を知っているおばあさんから立原の話を聞いた。

 小津の映画なら、このそば屋のおかみは原節子だろうな。北鎌倉は今でも、原節子がひょっこり顔を出しそうな、そんな雰囲気が至る所にある。

 後半は「挑発ランジェリー 板野友美」。可愛い子である。「人気アイドルグループ『夢見るアドレセンス』メンバー 京佳」。袋とじは「現役アイドルがうっかり『素人ナンパAV』出演 衝撃映像を“顔出し”徹底検証」。この子は、国民的アイドルにいて、今は一流ファッションモデル誌のモデルとして活躍している、あの子ではないかと検証したというのである。

 それも間違いなく本人だそうだ。私にはまったくわからないが、そのファッション雑誌のグラビアを一緒に付けてくれればいいのに。

 ポストは、前半、「『“独り飯”が寂しいです』ユン・チェヨン」「河合奈保子」。もちろんヘア・ヌードではない。

 後半は「垂涎のヒップライン 窪真理」。お天気お姉さんとして愛され、今は女優だそうだ。

 袋とじは「VRエロ動画入門」。最近はバーチャルリアリティのエロ動画が簡単に見られるらしい。

 だけどゴーグルをつけて、AVを見てというのは、なんだかめんどくさい気がするのだが。

 これを見ながら外を歩いたら、どうなるのかね。

 まあいい。今週も決定打に欠けて、引き分け。
(文=元木昌彦)

少年期は「万引き」どころじゃなかった“キング・オブ・アウトロー”瓜田純士に映画『万引き家族』を見せたら……?

“キング・オブ・アウトロー”こと瓜田純士(38)が森羅万象を批評する不定期連載。今回の議題は、第71回カンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールに輝いた是枝裕和監督の『万引き家族』だ。少年期は万引きよりも悪いことを山ほどしてきたが、近年は家族の絆と社会的規範をことさら重んじる瓜田。果たしてこの映画にどんな反応を見せるのか?

 新宿の映画館のロビーに妻同伴で現れた瓜田が、いきり立っている。どうやら夫婦ゲンカの真っ最中のようだ。

「このバカ女が! てめえが男だったら蹴り飛ばしているところだぞ!」

 何があったのかを尋ねてみると……。

「チャリでここまで来る最中、俺は新宿育ちだから安全かつ最短のルートを知っているって言ってんのに、嫁が見当違いな道をズンズン先に行っちゃうんですよ。ちょっと待て! と言っても止まってくれないから頭に来て」

 妻も負けていない。記者を盾にしながら、涙目になってこう反撃する。

「純士が鈍臭いねん! この運動音痴のバカ旦那を、私の代わりにシバいたってください!」

 万引き家族ならぬドン引き家族と化した瓜田夫妻をどうにかこうにかなだめつつ、急いで劇場内へ送り込む。私語厳禁の場内で2時間ほど映画の世界に没頭させれば、きっと両者の怒りも収まるだろうという期待を込めて……。

 以下は、上映終了後のインタビューである。

 * * *

――いかがでしたか?

瓜田純士(以下、純士) いやぁ、衝撃的でした。このところ、いろんな映画を褒めてばかりいたから、今回はけなしてやろうと思ったんですけど、文句のつけようがないわ。すごい映画でした。

瓜田麗子(以下、麗子) 一言でまとめると、「アカン!」。最高の意味でもアカンかったし、やっていることのデタラメさもアカンかったし、切なすぎるという意味でもアカンかった。もっと早い段階で軌道修正して、もっといい環境におったら……アカン! 思い出したらまた泣けてきた(と言ってハンカチで目頭を拭う)。

純士 この映画の家族は、共依存で成り立っているんですよ。貧困という問題も絡んで、ものすごくいびつな共依存になっていた。結果、法を犯さざるを得ない部分もあったけど、見えない絆みたいなものに依存しつつ、家族が成り立っていたじゃないですか。そこが刺さりました。他人事じゃないな、と。

――他人事じゃない?

純士 はい。瓜田家に置き換えてもわかることなんで。ウチも、他の家とは明らかに違うんですよ。でも、他の家がどうであれ、ウチらが共有している暗黙のルールみたいなものがあって。この映画の家族と瓜田家の違いは、法を犯しているか、いないか、だけ。一歩間違えたらウチだってこうなってもおかしくないと思っているから、他人事じゃないんですよ。もし俺が法を犯すようなことがあったとしても、ウチらは普通に夫婦のままでいると思う。そういう絶対的な揺るぎない絆が、リリー(・フランキー)さんと安藤サクラの間にもあったから共感できたし、泣けました。

――なるほど。

純士 リリーさんは、貧困が生んだ、一つの大黒柱。やっていることはセコイんだけど、絶対の大黒柱なんですよ。それに気に入られたくて一人前になろうとする子どもたちが、気の毒なんだけどいじらしくて、たまらなかったですね。

麗子 リリーの生い立ちまでは描かれていなかったけど、彼もきっとネグレクトで育ったんやろうな。だから不器用で、浅はかで。

純士 リリーさんの「万引き以外に教えられることがない」みたいなセリフが強烈だったね。工事現場でもろくすっぽ役に立たないポンコツだけど、本当はいろんなことを子どもに教えてあげたいという父性を持っている。でも、学がないから、それをできないというね。ド底辺エレジーだわ、これは。

麗子 そんなリリーやけども、家族との間に絆はあんねんな。

純士 それってすごく重要なこと。血が繋がっていても心が繋がっていない家族って、世の中にいっぱいいるじゃないですか。帰るべき家に帰ることが不幸の始まりだったりするという。

麗子 つい先日、目黒で女児虐待死事件があったばかりやろ。それと映画がダブってもうて、涙が止まらへんかったわ。

純士 ネタバレになるからストーリーについてはあまり触れられないけど、まあとにかく衝撃的な作品でした。

――役者陣の演技はいかがだったでしょう?

麗子 「きれい」とか「格好いい」で一切売っていない点がよかったわ。

純士 軍人の格好をしているのに髪型をセットしているような映画が多い中、今回は「100裸」で来た。そこがすごい。

麗子 安藤は実際、すっぴんの体当たり演技やったんちゃう? エッチのときだけやろ、化粧をしていたんは。

純士 あの濡れ場は最高だったなぁ。「どうしたんだ、化粧なんかして」とリリーさんが言って、目の前の女房を抱きたいんだけど、照れ臭いからそうめんを食っている。セリフはあまりないんだけど、両者の思いが手に取るようにわかる、すごい間合いだったね。

麗子 安藤は、泣いたらめっさきれいやし。

純士 リリーさんの演技も、神がかっていたよね。

麗子 リリーは、あの痩せ方がええねん。こんなオッサン、下町におるおる、思ったわ。

純士 なで肩で、髪の毛が薄くて、釣具の上州屋で買ったような服を着て(笑)。あの貧相な見た目で、「寒ぃ。雪降りそうだな」と言われたら、こっちまで寒くなるという。肩の力が抜けた素のべらんめえ口調とか、ヤバくなったらへどもど言い訳しながらすぐ逃げようとするところとかも、生まれながらの小悪党って感じで最高だったわ。

麗子 子役の2人も、よかったな。

純士 お兄ちゃんに認められたくて、妹がちっちゃい手で不器用に頑張っていたり、そんな妹をかばうためにお兄ちゃんが体を張ってオトリになったりして、どっちも健気だったよね。お兄ちゃんが、父ちゃんの愛情を何度も確かめる場面も切なかったわ。

――女優陣はいかがでしたか?

純士 樹木希林の達観した感じも、松岡茉優の影ある感じも超よかったですよ。「今日なんかいいことあったの?」「その彼はイケメンなの?」「おしゃべりな男はダメよねぇ」なんて厨房にいる女どもが楽しげに語り合っている脇で、リリーさんがバレバレの手品を子どもたちに教えているシーンなんかは、どの家庭にもある幸福な一瞬って感じで微笑ましかったけど、こんな生活いつまでも続けられるわけないだろと思うと悲しくもなったね。

――そのほか、好きなシーンは?

純士 みんなでドタバタしながら子どもの水着を万引きするシーンですね。俺、十代の頃、団地とかの養生をしに行くバイトをしていて、いろんな世帯を玄関越しに覗く機会があったんですよ。「この狭さで、この人数。いったいどうやって暮らしているんだ?」と思うような家庭が結構あったんだけど、そんときの光景を思い出しました。わちゃわちゃしていて貧乏臭いんだけど、どこか楽しげな東京イーストサイドの光景。

麗子 貧乏メシも、うまそうやったな。

純士 そうそう。カレーうどんにコロッケをのっけて食うと、めちゃめちゃ美味しいんだよ。

麗子 純士は、富士そばでいつもそうしているもんな。やっぱ幸せってお金ちゃうな。愛やねん。

純士 でも世間はそういう家族のことをああ見るんだ、というのも見せたかったんだと思うよ。監督は。

麗子 こんな家族、もしニュースで見たら引くもんなぁ。

純士 でもあの人たちが笑顔で暮らしていたのはまぎれもない事実だという。いやぁ、考えさせられる映画でした。

――不満点は?

純士 強いて言うなら、一点だけ。これは好みの問題だろうけど、いくらなんでもあの唐突な終わり方はないかな、と思いました。断ち切りたいけど断ち切れず、バスの窓を開けてしまって「父ちゃん!」と叫んでしまう。俺だったらそこでオシマイにしたかな。

麗子 議論や想像の余地を残すために、あえてああいう終わり方にしたんやと思うで。ああだこうだ、見終わったあとに話せるやん。

純士 話はもう終わりでいいでしょう。それよりも早く家に帰りたい。最近、セブン(瓜田家の飼い猫)が反抗期だから、もうちょっと厳しめの教育をしなくちゃいけないのかなと思い始めていたんだけど、この映画を見て考えを改めました。帰ったら、セブンを思い切り抱きしめてやろうと思います。

 * * *

 口論しながら現れたときはどうなることかと思ったが、自転車で仲良く並走しながら家路につく瓜田夫婦を見送り、ホッと一安心したのだった。
(取材・文=岡林敬太、撮影=おひよ)

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木村拓哉&工藤静香の娘Koki,、本当にキムタク似? Dr.高須幹弥が両者の要素を診断!

【第65回】「高須幹弥センセイ、Koki,にオーラを感じますか?」
 女性ファッション誌「ELLE JAPON」(ハースト婦人画報社)7月号で注目の新人モデルとして表紙を飾り、鮮烈なデビューを果たしたKoki,。木村拓哉と工藤静香の次女ということが判明してからは、「キムタクと瓜二つ」「オーラがスゴイ」など、その容姿が話題となっている。しかし一方で、「キムタクと静香の子っていうバリューがなければ普通の子」との声も。高須クリニック名古屋院院長の高須幹弥先生、プロの目から見たら、Koki,の顔ってどうなんでしょうか?

Koki,は「運のいい」顔
 Koki,さんの顔を、パーツごとに見ていきましょう。

 まず、目は、全体的にあまり大きくなく、横幅もそれほどないところや、広すぎない二重の幅が、木村さんにそっくりです。鼻から口にかけての人中のカタチや、エラや頬骨が突出していないきれいな輪郭、肌が浅黒いところも、木村さん譲りですね。中でも、口は一番木村さんに似ているんじゃないかな。木村さんもKoki,さんも、口角の下がったへの字口。そのせいで、笑っていないと不愛想に見られるところもそっくりだと思います。不愛想に見られるのは少しかわいそうですが、ミステリアスな魅力になることもあるので、欠点とまでは言えないでしょう。

 鼻も、鼻っ柱がグッと奥に引っ込んでいるところは木村さんと同じですね。ただ、Koki,さんは鼻先のやや大きいダンゴ鼻。静香さんは鼻先が細いので、ここはどちらにも似ていないかな。あと、顎の長さもどちらにも似ていないです。遺伝は必ずしも両親のどちらかから受け継がれるわけではなく、祖父母や遠い祖先のカタチが突然出てくることもあるので、ダンゴ鼻や顎の長さは、もしかしたら隔世遺伝などかもしれませんね。

 パーツの配置も木村さんに近く、Koki,さんの顔の9割は木村さん似。静香さんの顔に近いパーツは見当たりません。強いて言うなら、おでこの広さと丸みが静香さん譲りといえるかな。木村さんのおでこは狭くて平らなので、ここは静香さんに似てよかったと思います。

 ちなみに、静香さんは面長で、中顔面と下顔面の長い馬面です。頬骨も横に張っているし、顎が長いし、口元が出ていることで鼻の下も長く見え、間延びした印象なので、どれも遺伝しなくてラッキーだったと思いますよ。遺伝って本当に運ですから。しかも、静香さんは笑うと歯茎が見えるガミースマイルなんですよね。ガミ―スマイルは静香さんの最大の欠点だし、遺伝しやすい特徴のため、似なくて本当によかったです。Koki,さんの顔は、両親のいいところだけを受け継いだ運のいい顔といえると思います。

オーラが見えるのはキムタクファンだけ
 ただ、顔立ち的には特別かわいいわけではありません。不愛想な印象や肌の浅黒さがネックになっていますし、ビジュアルだけなら同年代でもKoki,さんよりかわいい女性はたくさんいますよね。「オーラがある」といわれているようですが、それも「キムタクと静香の子」という先入観から、木村さんやSMAPのファンだった人がそう見えているだけではないでしょうか。もし両親の名前を伏せてデビューしていたら、これほど見た目が注目されることはなかったと思いますよ。

 また、モデルとして活動していくとのことですが、モデルの世界もかなり厳しく、成功するのは一握り。多くのモデルさんが、テレビ番組に出るなどモデル以外の活動もしていますよね。Koki,さんも、身長170センチとスタイル的には向いているものの、ビジュアルは武器にならないので、両親の力に頼らずモデル1本でやっていくなら、かなり突出した才能も必要だと思います。

 なお、顔面の成長は、女性の場合、16歳くらいで止まるといわれています。ただ、最近は成長のスタートが早まっているので、13歳くらいで身長も顔面の成長も止まる女性もいます。Koki,さんは現在15歳ということなので、今後大きく顔が変化することはないでしょう。

高須幹弥(たかす・みきや)
美容外科「高須クリニック」名古屋院・院長。オールマイティーに美容外科治療を担当し、全国から患者が集まる。美容整形について真摯につづられたブログが好評。
・公式ブログ

嵐・二宮和也『ブラックペアン』ラスト3話だけ見とけば大丈夫だったんじゃないか疑惑が……

 最終回直前の第9話を迎え、視聴率16.2%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と、今回も好調だった日曜劇場『ブラックペアン』(TBS系)。“天才外科医”渡海征司郎(二宮和也)は、今日も元気に他人が失敗した手術に横入りし、見事に患者の命を救いました。

 単話ごとで見れば、いつもテンションが高くて見応えのある同ドラマ。その反面、連ドラとしてのお話のつながりやキャラクターの整合性は無茶苦茶で、追いかけるのがかなりしんどいわけですが、もうあと2話なのでね、一旦リセットして楽しみましょう。振り返ります。

前回までのレビューはこちらから

■うーん、面白かった!

 毎度、ストーリーの進行に必要な誰かが心臓病で倒れるのが“お約束”ですが、今回は東城大の医局の重鎮・佐伯教授(内野聖陽)がそのお役目を引き受けることに。なんでも、今までになく難しい症例だそうで、こんな難しい手術ができるのは、“神の手”佐伯教授本人を除けば、渡海しかいないそうです。

 しかし、これも“お約束”なんですが、渡海はいつだって最初から手術に参加させてはもらえません。なんやかんや理由を付けてチームから外される渡海ですが、こちらもいつものように不測の事態に備えて予習に余念がありません。今回はどうやら、最新医療ロボ「カエサル」を使った手術になりそうなので、取扱説明書を熟読するなど持ち前の生真面目さで手術に備えます。態度は悪いけど、ホントに真面目な子です。

 当初、カエサルでの手術を執刀するのは佐伯教授の直属の部下・黒崎准教授(橋本さとし)の予定でしたが、こちらは準備段階であっさり挫折。カエサルでの手術経験は豊富だけど、東城大にとって裏切り者である高階講師(小泉孝太郎)に頭を下げて、協力を求めます。高階は高階でいろいろあって、古巣の名門・帝華大に絶望していたので、執刀を快諾。準備を進めます。さぁ、あと1週間かけて準備をするぞ! と思っていたら、佐伯教授の容態が急変。緊急オペになりますが、“お約束”で結局、手術中に「助けて、渡海くん!」状態に。

 さあヒーロー見参。ですが、今回の渡海は一味違います。オペ室にジャジャーン! と乗り込むのではなく、医局に鎮座していたカエサルのシミュレーターに陣取り、オペ室内の本体を遠隔操作。さらに、オペ室のカエサルの前に座って手持ち無沙汰の高階も遠隔操作しながら、見事に手術を成功させます。高階とカエサルが「鉄人28号」で、渡海が金田正太郎という配置ですね。見どころは、渡海の声をイヤホンで聞きながら、そのままの言葉でオペ台の周辺にいる助手に指示を伝える高階の「言葉の乱暴さ」です。ふだんは上品な高階が乱暴な言葉で指示を出し続け、上司である黒崎たちが素直に従うという構図。「目の前の命を守る」が何よりも優先されている様子が、緊迫感を持って描かれます。まあ第1話からそうですが、こういうシーンの演出は、ホントに強いです。引き込まれちゃう。

 次回の最終回は、渡海自ら命を救った佐伯教授とブラックペアンをめぐる因縁がすべて明らかにされるのでしょう。ここまで、この本筋については説明不足の感が否めませんが、ここまできたらどうやって収めるのか見届けたいと思います。

■顔面ドアップ演出の真骨頂

 福澤克夫監督と福澤組による日曜劇場の名物となっているのが、テンションマックスな人物がドアップで力の入ったセリフを滔々と述べるシーンです。今回は、そんな顔面ドアップ演出が目白押しでした。

 まずは小泉孝太郎。本来の上司である帝華大・西崎教授(市川猿之助)に「苦悶からの正論ぶちかまし」をドアップで繰り広げます。受ける猿之助も、さすがの顔面力でカウンターアタック。必要以上の性格の悪さで、視聴者の不快感を煽ります。この不快すぎる猿之助が、高階のキャラ立てに効力を発揮。ここまでフラフラしていた高階権太という人物の輪郭が、はっきりと浮き上がりました。それにしても小泉孝太郎って、同じ福澤組の『下町ロケット』(同)あたりから、見事に化けましたねー。この第9話のMVPは間違いなく孝太郎だと思います。

 加えて、ナース2人の顔面芸も光りました。こちらは2人とも恐怖の象徴として顔面ドアップメンバーに加わりましたが、もともと影のある怖い人として登場した猫田(趣里)はまだしも、ほんわかおばさんだった藤原師長(神野三鈴)の鉄仮面ぶりには目を見張りました。顔が怖いのもそうなんですが、でかいんですよね、この人。Wikipediaによると168センチだそうです。そら迫力出るわ。

■竹内涼真、渾身の泣きとオリジナル要素の回収

 今、もっとも性格がよさそうに泣く俳優(当社調べ)の竹内涼真。このドラマで演じた研修医・世良は前半に無駄泣きが多く「もっと! もっと竹内渾身の泣きを!」と思っていましたが、ようやく出ました。どちらかといえば悪い方の役回りだった「日本外科ジャーナル」の池永編集長(加藤浩次)を相手に見せてくれました。

「僕なんて、なんの役にも立たない!」

「でも、目の前にある命をあきらめられない!」

「僕も医者でありたいんです!」

 その純真な土下座で、見事池永編集長の心を動かし、佐伯教授の命をつないで見せました。

 ところでこの池永編集長と専門誌「日本外科ジャーナル」の周辺は、ドラマの完全なオリジナル要素となっています。この雑誌に論文を載せて「インパクトファクター」なるインパクトのファクター数値を積み重ねることで、外科医は学会の理事長になれるのだそうです。

 このドラマでは、いかに池永編集長を懐柔し、自分の論文を雑誌に載せることで理事長選を有利に戦うか、というのが、物語の縦糸として設置されていました。それを争うことで佐伯教授と西崎教授、ひいては東城大と帝華大の対立構造を浮き彫りにしてきたわけです。

 この原作への追加要素には、対立がはっきりして見やすくなるメリットがあった反面、特に佐伯教授が「論文も大切、患者も、まあ大切」というどっちつかずな性格になってしまうデメリットがありました。しかし、今回の世良と池永の対話によって論文の存在が佐伯教授の命を救うファクターになったことで、これまでの対立軸が実に美しく消化されました。原作をはみ出して広げた風呂敷は、ちゃんと自分たちで畳むという、ドラマ側の物語に対するマナー意識みたいなものが感じられて気持ちよかったです。

■いわずもがな、ニノはキュートなんだけど

 今回は孝太郎と竹内涼真に大きな見せ場が振られていたので言いそびれていましたが、ニノはあいかわらずキュートでした。懸命に悪態をつきつつ、オペ室への入室を禁じられるとおとなしく「遠隔操作」という代替策を考え、必死に勉強して患者を救う様子など、健気すぎて涙が出ます。

 次回、いよいよ最終回ですが、気になるのが、このニノ演じる渡海征司郎の完璧超人かつ善良人間っぷりです。手術手技はもちろん、状況判断や人心掌握についても完全にノーミスを貫いていますし、何もかもが渡海の思うままに進んでいます。

 これ、全部ネタ振りというか、渡海をドン底に落とすためにあえてスーパーマンとして描いてきたのだとしたら、そして原作にあったようなニュアンスで、物語そのものが渡海をその物語世界の外側へ突き放すのだとしたら、なかなかダイナミックな作劇だなぁと思うし、そういう方向に期待しているというのが今の正直な感触です。

 ダークヒーローの美学みたいなものを、ドラマがどう解釈するのか。この渡海も、半分はテレビ局が勝手に作ったイメージですから、マナーを持って落とし込んでほしいと思います。なんか原作のネタバレするのもアレなので曖昧なことしか書けなくなってしまいましたが、要するに今回は面白かったし、全体的に見てもまあ面白かったし、序盤から中盤にかけて整合性を無視しながら強引にリピートし続けたシナリオも、最終回へのネタ振りとして強烈に作用するならオールオッケーになっちゃうけど、どうなるんだろ! ってことです。逆に言えば、これお話を理解するだけならラスト3話だけ見とけば大丈夫だったんじゃない? という気もしますが、それを言ってしまっては身もふたもないわな。
(文=どらまっ子AKIちゃん)

嵐・二宮和也『ブラックペアン』ラスト3話だけ見とけば大丈夫だったんじゃないか疑惑が……

 最終回直前の第9話を迎え、視聴率16.2%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と、今回も好調だった日曜劇場『ブラックペアン』(TBS系)。“天才外科医”渡海征司郎(二宮和也)は、今日も元気に他人が失敗した手術に横入りし、見事に患者の命を救いました。

 単話ごとで見れば、いつもテンションが高くて見応えのある同ドラマ。その反面、連ドラとしてのお話のつながりやキャラクターの整合性は無茶苦茶で、追いかけるのがかなりしんどいわけですが、もうあと2話なのでね、一旦リセットして楽しみましょう。振り返ります。

前回までのレビューはこちらから

■うーん、面白かった!

 毎度、ストーリーの進行に必要な誰かが心臓病で倒れるのが“お約束”ですが、今回は東城大の医局の重鎮・佐伯教授(内野聖陽)がそのお役目を引き受けることに。なんでも、今までになく難しい症例だそうで、こんな難しい手術ができるのは、“神の手”佐伯教授本人を除けば、渡海しかいないそうです。

 しかし、これも“お約束”なんですが、渡海はいつだって最初から手術に参加させてはもらえません。なんやかんや理由を付けてチームから外される渡海ですが、こちらもいつものように不測の事態に備えて予習に余念がありません。今回はどうやら、最新医療ロボ「カエサル」を使った手術になりそうなので、取扱説明書を熟読するなど持ち前の生真面目さで手術に備えます。態度は悪いけど、ホントに真面目な子です。

 当初、カエサルでの手術を執刀するのは佐伯教授の直属の部下・黒崎准教授(橋本さとし)の予定でしたが、こちらは準備段階であっさり挫折。カエサルでの手術経験は豊富だけど、東城大にとって裏切り者である高階講師(小泉孝太郎)に頭を下げて、協力を求めます。高階は高階でいろいろあって、古巣の名門・帝華大に絶望していたので、執刀を快諾。準備を進めます。さぁ、あと1週間かけて準備をするぞ! と思っていたら、佐伯教授の容態が急変。緊急オペになりますが、“お約束”で結局、手術中に「助けて、渡海くん!」状態に。

 さあヒーロー見参。ですが、今回の渡海は一味違います。オペ室にジャジャーン! と乗り込むのではなく、医局に鎮座していたカエサルのシミュレーターに陣取り、オペ室内の本体を遠隔操作。さらに、オペ室のカエサルの前に座って手持ち無沙汰の高階も遠隔操作しながら、見事に手術を成功させます。高階とカエサルが「鉄人28号」で、渡海が金田正太郎という配置ですね。見どころは、渡海の声をイヤホンで聞きながら、そのままの言葉でオペ台の周辺にいる助手に指示を伝える高階の「言葉の乱暴さ」です。ふだんは上品な高階が乱暴な言葉で指示を出し続け、上司である黒崎たちが素直に従うという構図。「目の前の命を守る」が何よりも優先されている様子が、緊迫感を持って描かれます。まあ第1話からそうですが、こういうシーンの演出は、ホントに強いです。引き込まれちゃう。

 次回の最終回は、渡海自ら命を救った佐伯教授とブラックペアンをめぐる因縁がすべて明らかにされるのでしょう。ここまで、この本筋については説明不足の感が否めませんが、ここまできたらどうやって収めるのか見届けたいと思います。

■顔面ドアップ演出の真骨頂

 福澤克夫監督と福澤組による日曜劇場の名物となっているのが、テンションマックスな人物がドアップで力の入ったセリフを滔々と述べるシーンです。今回は、そんな顔面ドアップ演出が目白押しでした。

 まずは小泉孝太郎。本来の上司である帝華大・西崎教授(市川猿之助)に「苦悶からの正論ぶちかまし」をドアップで繰り広げます。受ける猿之助も、さすがの顔面力でカウンターアタック。必要以上の性格の悪さで、視聴者の不快感を煽ります。この不快すぎる猿之助が、高階のキャラ立てに効力を発揮。ここまでフラフラしていた高階権太という人物の輪郭が、はっきりと浮き上がりました。それにしても小泉孝太郎って、同じ福澤組の『下町ロケット』(同)あたりから、見事に化けましたねー。この第9話のMVPは間違いなく孝太郎だと思います。

 加えて、ナース2人の顔面芸も光りました。こちらは2人とも恐怖の象徴として顔面ドアップメンバーに加わりましたが、もともと影のある怖い人として登場した猫田(趣里)はまだしも、ほんわかおばさんだった藤原師長(神野三鈴)の鉄仮面ぶりには目を見張りました。顔が怖いのもそうなんですが、でかいんですよね、この人。Wikipediaによると168センチだそうです。そら迫力出るわ。

■竹内涼真、渾身の泣きとオリジナル要素の回収

 今、もっとも性格がよさそうに泣く俳優(当社調べ)の竹内涼真。このドラマで演じた研修医・世良は前半に無駄泣きが多く「もっと! もっと竹内渾身の泣きを!」と思っていましたが、ようやく出ました。どちらかといえば悪い方の役回りだった「日本外科ジャーナル」の池永編集長(加藤浩次)を相手に見せてくれました。

「僕なんて、なんの役にも立たない!」

「でも、目の前にある命をあきらめられない!」

「僕も医者でありたいんです!」

 その純真な土下座で、見事池永編集長の心を動かし、佐伯教授の命をつないで見せました。

 ところでこの池永編集長と専門誌「日本外科ジャーナル」の周辺は、ドラマの完全なオリジナル要素となっています。この雑誌に論文を載せて「インパクトファクター」なるインパクトのファクター数値を積み重ねることで、外科医は学会の理事長になれるのだそうです。

 このドラマでは、いかに池永編集長を懐柔し、自分の論文を雑誌に載せることで理事長選を有利に戦うか、というのが、物語の縦糸として設置されていました。それを争うことで佐伯教授と西崎教授、ひいては東城大と帝華大の対立構造を浮き彫りにしてきたわけです。

 この原作への追加要素には、対立がはっきりして見やすくなるメリットがあった反面、特に佐伯教授が「論文も大切、患者も、まあ大切」というどっちつかずな性格になってしまうデメリットがありました。しかし、今回の世良と池永の対話によって論文の存在が佐伯教授の命を救うファクターになったことで、これまでの対立軸が実に美しく消化されました。原作をはみ出して広げた風呂敷は、ちゃんと自分たちで畳むという、ドラマ側の物語に対するマナー意識みたいなものが感じられて気持ちよかったです。

■いわずもがな、ニノはキュートなんだけど

 今回は孝太郎と竹内涼真に大きな見せ場が振られていたので言いそびれていましたが、ニノはあいかわらずキュートでした。懸命に悪態をつきつつ、オペ室への入室を禁じられるとおとなしく「遠隔操作」という代替策を考え、必死に勉強して患者を救う様子など、健気すぎて涙が出ます。

 次回、いよいよ最終回ですが、気になるのが、このニノ演じる渡海征司郎の完璧超人かつ善良人間っぷりです。手術手技はもちろん、状況判断や人心掌握についても完全にノーミスを貫いていますし、何もかもが渡海の思うままに進んでいます。

 これ、全部ネタ振りというか、渡海をドン底に落とすためにあえてスーパーマンとして描いてきたのだとしたら、そして原作にあったようなニュアンスで、物語そのものが渡海をその物語世界の外側へ突き放すのだとしたら、なかなかダイナミックな作劇だなぁと思うし、そういう方向に期待しているというのが今の正直な感触です。

 ダークヒーローの美学みたいなものを、ドラマがどう解釈するのか。この渡海も、半分はテレビ局が勝手に作ったイメージですから、マナーを持って落とし込んでほしいと思います。なんか原作のネタバレするのもアレなので曖昧なことしか書けなくなってしまいましたが、要するに今回は面白かったし、全体的に見てもまあ面白かったし、序盤から中盤にかけて整合性を無視しながら強引にリピートし続けたシナリオも、最終回へのネタ振りとして強烈に作用するならオールオッケーになっちゃうけど、どうなるんだろ! ってことです。逆に言えば、これお話を理解するだけならラスト3話だけ見とけば大丈夫だったんじゃない? という気もしますが、それを言ってしまっては身もふたもないわな。
(文=どらまっ子AKIちゃん)

映画評論家・町山智浩が“最前線の映画”を語る! 「淀川長治さんのような映画人生は難しい」前編

 政治から文学、コミック、アートに至るまでの豊富な知識と鋭い分析力で人気の映画評論家・町山智浩氏。今年2月に発売された著書『「最前線の映画」を読む』(インターナショナル新書)をベースにしたトーク番組「町山智浩が暴く『最前線の映画』の暗号」が、6月下旬から「BS10スターチャンネル」で無料放送されることが決まった。さらに7月には『ブレードランナー2049』『ダンケルク』(ともに17)、『沈黙-サイレンス-』(16)といった『「最前線の映画」を読む』で取り上げた新作洋画12本が、町山氏の解説つきで同局にてオンエアされることに。番組収録では紹介しきれなかったネタや「♯Me Too」運動で揺れるハリウッドの最新情勢について、町山氏に語ってもらった。

──ハリウッド映画を中心にヒット作&話題作12本を町山さんがセレクトし、各映画の前解説&後解説する「BS10スターチャンネル」の特集企画。淀川長治さんが解説を務めた『日曜洋画劇場』(テレビ朝日系)を思わせます。

町山 淀川さんが亡くなって、もう20年ですか。僕が子どもの頃、テレビでは洋画が毎日のようにオンエアされ、なかでも淀川さんが解説する『日曜洋画劇場』は楽しみでした。淀川さんの解説を聞くことで、映画の見方をいろいろと教わりました。そんな番組を僕もやってみたいなと思っていたんです。

──前解説に加え、後解説もあるのがポイントですね。

町山 淀川さんの後解説を聞いて、目から鱗が落ちることが度々ありました。でも、今の映画媒体ではネタバレに繋がるような解説はできなくなっています。その映画のテーマ性について掘り下げた解説をすると、ネタバレだと怒り出す人たちが多いわけです。パンフレットでなら許されるけど、雑誌で映画の核心部分に触れるような記事を書くとまぁ怒り出しますね。「ネタバレしやがって!」と。「映画秘宝」(洋泉社)でも、秘宝読者から「秘宝は買ったけど、(ネタバレ記事は)読まなかった」とか言われてしまう(苦笑)。昔、西部劇『シェーン』の名台詞「シェーン、カムバック!」を使ったCMがありましたけど、あのCMも今だったら「映画のラストシーンを使うなんて!」と大炎上するでしょうね(笑)。

■映画は観れば観るほど、面白みが増す

──『ブレードランナー』(82)の続編『ブレードランナー2049』は日本でもかなりの話題になりましたが、一度観ただけでは理解するのが難しいストーリーでした。『「最前線の映画」を読む』では、ウラジミール・ナボコフの小説『青白い炎』がこの難解な物語を解くヒントだと指摘されています。

町山 『ブレードランナー2049』を普通に観て、ロシアからの亡命作家ナボコフが関係するとは、なかなか気づきませんよね。僕も気づきませんでした(笑)。たまたまなんです。『ブレードランナー2049』が米国で公開された頃、『ブレードランナー』と『ブレードランナー2049』の脚本を書いたハンプトン・ファンチャーのドキュメンタリー映画が上映されていて、それで知ったんです。売れない俳優だったファンチャーは、SF小説『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』の映画化権をもらいに原作者のフィリップ・K・ディックを訪ねたところ、ディックはファンチャーが同伴していた恋人のことを気に入って、映画化をOKしたんです。そして、ファンチャーの前の奥さんが、ナボコフの小説を映画化した『ロリータ』(62)の主演女優スー・リオンでした。スー・リオンを通して、ナボコフとディックは繋がるんです。

──『ブレードランナー2049』で任務を終えたライアン・ゴズリングが、心理チェックを受ける際の「高く白い噴水……」というフレーズ。あれは『青白い炎』からの一節なんですね。

町山 何度観ても、あの「高く白い噴水……」の意味だけはどうしても分からなくて、それでググってみたんです。「High 、White、Fountain」と。一発で、ナボコフの『青白い炎』だと分かりました(笑)。『青白い炎』は有名詩人の長編詩に、その詩人のストーカー的な評論家が前書きと膨大な注釈を付け足したパロディ構造の作品です。つまり、リドリー・スコット監督が撮った『ブレードランナー』を、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督が撮った『ブレードランナー2049』は独自注釈してみせた映画なんです。『ブレードランナー』でルトガー・ハウアーが死ぬシーンで流れる音楽が、『ブレードランナー2049』でも最後に流れますし、同じことが繰り返されています。『青白い炎』を持ち出すことで、『ブレードランナー2049』の構造を仄めかしているんだと思います。

──『ブレードランナー』では、ハリソン・フォードは人間なのか、それともレプリカントかという大きな謎が残されていました。『ブレードランナー2049』で年老いたハリソン・フォードを見て、「あっ、やっぱり人間だったんだ」と思ったんですが……。

町山 ハリソン・フォードが人間かレプリカントかという謎は、『ブレードランナー2049』でもはっきりさせていません。ハリソン・フォードは人間にしては強すぎます。レプリカントであるライアン・ゴズリングをボコボコにしてしまいますからね(笑)。謎はあえて謎のまま残し、オリジナルの世界観をもう一度楽しもうというのが『ブレードランナー2049』だと言えるでしょうね。

──『ラースと、その彼女』(07)でラブドールと暮らすナイーブな青年を演じたライアン・ゴズリングが主演、エロティック・ホラー『ノックノック』(15)のアナ・デ・アルマスがヒロインという配役も、『ブレードランナー2049』の面白さじゃないでしょうか。

町山 映画って、たくさん観れば観るほど、また違った楽しみ方が増えていきます。人気俳優の過去に出演した作品のイメージを活かしたタイプキャストはハリウッド作品ではよく使われていますが、以前は日本映画でも多かったんです。三船敏郎と志村喬は黒澤明監督の『酔いどれ天使』(48)以降よく共演していますが、黒澤作品ではいつも志村喬が師匠、三船敏郎が弟子役。私生活でも2人は師弟関係でした。そういうタイプキャストは多かった。山本圭が出てくると、だいたい左翼の学生、藤田進は軍人役です(笑)。俳優が出てきただけで、観客はどんな役かだいたい分かったので、いちいち説明しなくてもよかったわけです。映画って、観れば観るだけ面白さが増していくものなんです。

──ドゥニ監督が撮ったもう一本のSF映画『メッセージ』は、地球に現われた宇宙人の言語を、言語学者のエイミー・アダムスが解読する物語。地味なSFですが、米国では1億ドル越えのヒット作。

町山 『メッセージ』は大々ヒットとは言えませんが、難しい内容ながら興行的に成功した作品です。SF推しではなく、シングルマザーの物語として推したのが良かったんでしょうね。僕の個人的な考えなんですが、17世紀の哲学者ライプニッツが唱えた「予定調和論」を知っておくと、『メッセージ』はより楽しめると思います。最近のSFはどれもパラレル・ワールドという考え方が常識になっていますが、ライプニッツが唱えた「予定調和論」は古くは古代ギリシア時代から「運命論」としてずっとあったもの。昔ながらの運命論、決定論を持ち出してきたところが、逆に『メッセージ』は新鮮だったんでしょう。

──『メッセージ』の原作は、テッド・チャンの短編小説『あなたの人生の物語』。新しい言語を学ぶことで、新しい世界観を身に付けるという哲学的な内容でした。

町山 言語によって、新しい能力が開発されるという物語は、けっこうSF小説には多いんです。サミュエル・R・ディレイニーの『バベル17』などがそうですね。時間を自由に行き来するというアイデアは、カート・ヴォネガットの『スローターハウス5』が元ネタだと言われていますが、テッド・チャンは「光の屈折」が『メッセージ』を書く上でいちばんのモチーフだったと語っています。光は空気から水に入るときに屈折しますがが、光の経路は最速のルートを辿るわけです。光はそのルートを事前に知っているように思える。そのことがヒントになったそうです。原作にあったこの部分は、映画ではうまく省いています。でも、映像化しにくい物語をよく映画にしたなと思いますよ。

■ノーランは“第二のスピルバーグ”にはなれない!?

──低予算ホラー映画『ドント・ブリーズ』(16)をはじめ、かつて自動車産業で栄えた街デトロイトは、米国映画では特殊な舞台としてよく取り上げられています。

町山 米国を代表する大都市だったデトロイトですが、完全におかしな所になってしまっているんです。実際にデトロイトまで行ってみたところ、すごいことになっていました。市の財政が破綻したため、街の中心部でも街灯が灯されていない状態。道路の信号さえ点いていないので、夜は完全な真っ暗闇なんです。『ドント・ブリーズ』の中でも言われていますが、警官の数が少ないので、事件が起きてから現場にパトカーが到着するまで1時間近くかかってしまう。発砲事件が起きても誰も助けてくれないし、犯人は警察が来るまでに逃げてしまう。消防署員も不足しているため、街のあちこちで火事が起きて、焼け跡だらけになっています。『ドント・ブリーズ』を撮ったフェデ・アルバレス監督は南米のウルグアイ出身なんですが、子どもの頃に未来のデトロイトを舞台にした『ロボコップ』(87)を観て「デトロイト、すげー!」と思ったそうですが、リアルに怖い街になっていたわけです(笑)。

──キャスリン・ビグロー監督の『デトロイト』(17)やクリント・イーストウッド監督&主演作『グラン・トリノ』(08)もデトロイトが舞台でした。

町山 『ドント・ブリーズ』は、『グラン・トリノ』が元ネタになっています。『グラン・トリノ』はイーストウッド演じる頑固ジジイが街のチンピラたちを成敗する話でしたが、『ドント・ブリーズ』は逆にチンピラの視点から描いたわけです。チンピラたちが泥棒に入った家には、実はイーストウッドみたいな無敵なジジイがいたという落語みたいなお話ですね(笑)。

──同じくデトロイトを舞台にした『イット・フォローズ』(14)、人種問題を題材にした『ゲット・アウト』(17)など、最近のハリウッドは新しいタイプの低予算ホラー映画が次々と生まれていますね。

町山 米国映画は昔から、低予算ホラーから新しいムーブメントや新しい才能が生まれてきたという歴史があるんです。昨年亡くなった『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』(68)のジョージ・A・ロメロ、『悪魔のいけにえ』(74)のトビー・フーパーもそうですし、スティーブン・スピルバーグもデビュー作は『激突!』(71)という低予算のテレビ映画でした。主観映像で撮られた『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』(99)は大ブームになりました。低予算ホラーから偉大な監督が生まれ、映画の革命も起きているんです。まぁ、その中でもスピルバーグは別格でしょう。あそこまでの存在は、そうは生まれません。クリストファー・ノーランはスピルバーグになろうとしているけど、ノーランのあの頑固さではスピルバーグになれないでしょうね。

──ノーランの話題が出たところで、『ダンケルク』について。戦争大作かなと思って観たら、戦闘機がたった3機しか飛ばないことに驚いてしまいました。

町山 ノーランはCGが大嫌いなんです。そこがスピルバーグとの大きな違い。スピルバーグにはそういうこだわりはない。『ダンケルク』に戦闘機が3機しか出てこないのは、第二次世界大戦時のスピットファイア戦闘機で今も飛べるものが3機しかなかったらなんです。

──CGを使えば、簡単に増やせるのに。

町山 ノーランは徹底して、CGを使いません。ノーランって単にぶっ飛んでる人なんですよ(笑)。CGを使わないことが許されているのは、ノーラン作品はあまりお金を掛けてないから。『ダンケルク』は戦争大作に見えますが、かなりの低予算で撮っています。海辺にいる兵士たちは動いているのは人間ですが、後はみんな段ボール紙です(笑)。だからノーランの作品は「どうせCGだろう」じゃない、「これ、どうやって撮ったんだろう」という驚きがある。僕が『ダンケルク』の取材でノーランに会ったときは、ヒッチコック監督の『海外特派員』(40)で大型旅客機が沈むシーンはどのようにして撮られたのかを、延々と説明してくれました。『海外特派員』の旅客機が沈むシーンの撮り方はよく分かったけど、それあんたの作品じゃないよねと(笑)。ノーランはスピルバーグにはなれない。でも、とても面白い監督であることには間違いありません。
(インタビュー後編につづく/取材・文=長野辰次)

●町山智浩(まちやま・ともひろ)
1962年東京都生まれ。「宝島」「別冊宝島」などの編集を経て、95年に「映画秘宝」(洋泉社)を創刊。97年より米国に移住し、現在はカリフォルニア州バークレイ在住。「週刊文春」「月刊サイゾー」ほか連載多数。著書も『「最前線の映画」を読む』(インターナショナル新書)、『今のアメリカがわかる映画100本』(サイゾー社)ほか多数あり。

【特別番組】町山智浩スペシャルトーク「町山智浩が暴く『最前線の映画』の暗号」
6月下旬~7月中旬、BS10スターチャンネル「映画をもっと。」(毎日20時放送ほか)枠内、および7月1日(日)夕方5:40ほかインターバルにて無料放映。

【特集企画】町山智浩が暴く『最前線の映画』の暗号
7月3日(火)~16日(月)夜9時ほか、BS10スターチャンネルにて連日放送(全12作品)【※各映画の本編前と本編後に、町山氏による解説を合わせて放送します】

http://www.star-ch.jp/saizensen/

『ブレードランナー2049』~Kが追い求めた「噴水」~
『エイリアン:コヴェナント』~アンドロイドはオジマンディアスの夢を見る~
『ラ・ラ・ランド』~狂気が開ける扉~
『ドント・ブリーズ』~「8マイル」の真実~
『沈黙-サイレンス-』~三百六十年後の「ゆるし」~
『LOGAN/ローガン』~世界の終わりの西部劇~
『ベイビー・ドライバー』~なぜ彼はベイビーと名乗るのか~
『ダンケルク』~偽りのタイムリミット~
『ムーンライト』~「男らしさ」からの解放~
『ワンダーウーマン』~戦う『ローマの休日』~
『メッセージ』~宇宙からのライプニッツ~
『アイ・イン・ザ・スカイ』~ドローンという「レッサー・イーヴル」~

映画評論家・町山智浩が“最前線の映画”を語る! 「淀川長治さんのような映画人生は難しい」前編

 政治から文学、コミック、アートに至るまでの豊富な知識と鋭い分析力で人気の映画評論家・町山智浩氏。今年2月に発売された著書『「最前線の映画」を読む』(インターナショナル新書)をベースにしたトーク番組「町山智浩が暴く『最前線の映画』の暗号」が、6月下旬から「BS10スターチャンネル」で無料放送されることが決まった。さらに7月には『ブレードランナー2049』『ダンケルク』(ともに17)、『沈黙-サイレンス-』(16)といった『「最前線の映画」を読む』で取り上げた新作洋画12本が、町山氏の解説つきで同局にてオンエアされることに。番組収録では紹介しきれなかったネタや「♯Me Too」運動で揺れるハリウッドの最新情勢について、町山氏に語ってもらった。

──ハリウッド映画を中心にヒット作&話題作12本を町山さんがセレクトし、各映画の前解説&後解説する「BS10スターチャンネル」の特集企画。淀川長治さんが解説を務めた『日曜洋画劇場』(テレビ朝日系)を思わせます。

町山 淀川さんが亡くなって、もう20年ですか。僕が子どもの頃、テレビでは洋画が毎日のようにオンエアされ、なかでも淀川さんが解説する『日曜洋画劇場』は楽しみでした。淀川さんの解説を聞くことで、映画の見方をいろいろと教わりました。そんな番組を僕もやってみたいなと思っていたんです。

──前解説に加え、後解説もあるのがポイントですね。

町山 淀川さんの後解説を聞いて、目から鱗が落ちることが度々ありました。でも、今の映画媒体ではネタバレに繋がるような解説はできなくなっています。その映画のテーマ性について掘り下げた解説をすると、ネタバレだと怒り出す人たちが多いわけです。パンフレットでなら許されるけど、雑誌で映画の核心部分に触れるような記事を書くとまぁ怒り出しますね。「ネタバレしやがって!」と。「映画秘宝」(洋泉社)でも、秘宝読者から「秘宝は買ったけど、(ネタバレ記事は)読まなかった」とか言われてしまう(苦笑)。昔、西部劇『シェーン』の名台詞「シェーン、カムバック!」を使ったCMがありましたけど、あのCMも今だったら「映画のラストシーンを使うなんて!」と大炎上するでしょうね(笑)。

■映画は観れば観るほど、面白みが増す

──『ブレードランナー』(82)の続編『ブレードランナー2049』は日本でもかなりの話題になりましたが、一度観ただけでは理解するのが難しいストーリーでした。『「最前線の映画」を読む』では、ウラジミール・ナボコフの小説『青白い炎』がこの難解な物語を解くヒントだと指摘されています。

町山 『ブレードランナー2049』を普通に観て、ロシアからの亡命作家ナボコフが関係するとは、なかなか気づきませんよね。僕も気づきませんでした(笑)。たまたまなんです。『ブレードランナー2049』が米国で公開された頃、『ブレードランナー』と『ブレードランナー2049』の脚本を書いたハンプトン・ファンチャーのドキュメンタリー映画が上映されていて、それで知ったんです。売れない俳優だったファンチャーは、SF小説『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』の映画化権をもらいに原作者のフィリップ・K・ディックを訪ねたところ、ディックはファンチャーが同伴していた恋人のことを気に入って、映画化をOKしたんです。そして、ファンチャーの前の奥さんが、ナボコフの小説を映画化した『ロリータ』(62)の主演女優スー・リオンでした。スー・リオンを通して、ナボコフとディックは繋がるんです。

──『ブレードランナー2049』で任務を終えたライアン・ゴズリングが、心理チェックを受ける際の「高く白い噴水……」というフレーズ。あれは『青白い炎』からの一節なんですね。

町山 何度観ても、あの「高く白い噴水……」の意味だけはどうしても分からなくて、それでググってみたんです。「High 、White、Fountain」と。一発で、ナボコフの『青白い炎』だと分かりました(笑)。『青白い炎』は有名詩人の長編詩に、その詩人のストーカー的な評論家が前書きと膨大な注釈を付け足したパロディ構造の作品です。つまり、リドリー・スコット監督が撮った『ブレードランナー』を、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督が撮った『ブレードランナー2049』は独自注釈してみせた映画なんです。『ブレードランナー』でルトガー・ハウアーが死ぬシーンで流れる音楽が、『ブレードランナー2049』でも最後に流れますし、同じことが繰り返されています。『青白い炎』を持ち出すことで、『ブレードランナー2049』の構造を仄めかしているんだと思います。

──『ブレードランナー』では、ハリソン・フォードは人間なのか、それともレプリカントかという大きな謎が残されていました。『ブレードランナー2049』で年老いたハリソン・フォードを見て、「あっ、やっぱり人間だったんだ」と思ったんですが……。

町山 ハリソン・フォードが人間かレプリカントかという謎は、『ブレードランナー2049』でもはっきりさせていません。ハリソン・フォードは人間にしては強すぎます。レプリカントであるライアン・ゴズリングをボコボコにしてしまいますからね(笑)。謎はあえて謎のまま残し、オリジナルの世界観をもう一度楽しもうというのが『ブレードランナー2049』だと言えるでしょうね。

──『ラースと、その彼女』(07)でラブドールと暮らすナイーブな青年を演じたライアン・ゴズリングが主演、エロティック・ホラー『ノックノック』(15)のアナ・デ・アルマスがヒロインという配役も、『ブレードランナー2049』の面白さじゃないでしょうか。

町山 映画って、たくさん観れば観るほど、また違った楽しみ方が増えていきます。人気俳優の過去に出演した作品のイメージを活かしたタイプキャストはハリウッド作品ではよく使われていますが、以前は日本映画でも多かったんです。三船敏郎と志村喬は黒澤明監督の『酔いどれ天使』(48)以降よく共演していますが、黒澤作品ではいつも志村喬が師匠、三船敏郎が弟子役。私生活でも2人は師弟関係でした。そういうタイプキャストは多かった。山本圭が出てくると、だいたい左翼の学生、藤田進は軍人役です(笑)。俳優が出てきただけで、観客はどんな役かだいたい分かったので、いちいち説明しなくてもよかったわけです。映画って、観れば観るだけ面白さが増していくものなんです。

──ドゥニ監督が撮ったもう一本のSF映画『メッセージ』は、地球に現われた宇宙人の言語を、言語学者のエイミー・アダムスが解読する物語。地味なSFですが、米国では1億ドル越えのヒット作。

町山 『メッセージ』は大々ヒットとは言えませんが、難しい内容ながら興行的に成功した作品です。SF推しではなく、シングルマザーの物語として推したのが良かったんでしょうね。僕の個人的な考えなんですが、17世紀の哲学者ライプニッツが唱えた「予定調和論」を知っておくと、『メッセージ』はより楽しめると思います。最近のSFはどれもパラレル・ワールドという考え方が常識になっていますが、ライプニッツが唱えた「予定調和論」は古くは古代ギリシア時代から「運命論」としてずっとあったもの。昔ながらの運命論、決定論を持ち出してきたところが、逆に『メッセージ』は新鮮だったんでしょう。

──『メッセージ』の原作は、テッド・チャンの短編小説『あなたの人生の物語』。新しい言語を学ぶことで、新しい世界観を身に付けるという哲学的な内容でした。

町山 言語によって、新しい能力が開発されるという物語は、けっこうSF小説には多いんです。サミュエル・R・ディレイニーの『バベル17』などがそうですね。時間を自由に行き来するというアイデアは、カート・ヴォネガットの『スローターハウス5』が元ネタだと言われていますが、テッド・チャンは「光の屈折」が『メッセージ』を書く上でいちばんのモチーフだったと語っています。光は空気から水に入るときに屈折しますがが、光の経路は最速のルートを辿るわけです。光はそのルートを事前に知っているように思える。そのことがヒントになったそうです。原作にあったこの部分は、映画ではうまく省いています。でも、映像化しにくい物語をよく映画にしたなと思いますよ。

■ノーランは“第二のスピルバーグ”にはなれない!?

──低予算ホラー映画『ドント・ブリーズ』(16)をはじめ、かつて自動車産業で栄えた街デトロイトは、米国映画では特殊な舞台としてよく取り上げられています。

町山 米国を代表する大都市だったデトロイトですが、完全におかしな所になってしまっているんです。実際にデトロイトまで行ってみたところ、すごいことになっていました。市の財政が破綻したため、街の中心部でも街灯が灯されていない状態。道路の信号さえ点いていないので、夜は完全な真っ暗闇なんです。『ドント・ブリーズ』の中でも言われていますが、警官の数が少ないので、事件が起きてから現場にパトカーが到着するまで1時間近くかかってしまう。発砲事件が起きても誰も助けてくれないし、犯人は警察が来るまでに逃げてしまう。消防署員も不足しているため、街のあちこちで火事が起きて、焼け跡だらけになっています。『ドント・ブリーズ』を撮ったフェデ・アルバレス監督は南米のウルグアイ出身なんですが、子どもの頃に未来のデトロイトを舞台にした『ロボコップ』(87)を観て「デトロイト、すげー!」と思ったそうですが、リアルに怖い街になっていたわけです(笑)。

──キャスリン・ビグロー監督の『デトロイト』(17)やクリント・イーストウッド監督&主演作『グラン・トリノ』(08)もデトロイトが舞台でした。

町山 『ドント・ブリーズ』は、『グラン・トリノ』が元ネタになっています。『グラン・トリノ』はイーストウッド演じる頑固ジジイが街のチンピラたちを成敗する話でしたが、『ドント・ブリーズ』は逆にチンピラの視点から描いたわけです。チンピラたちが泥棒に入った家には、実はイーストウッドみたいな無敵なジジイがいたという落語みたいなお話ですね(笑)。

──同じくデトロイトを舞台にした『イット・フォローズ』(14)、人種問題を題材にした『ゲット・アウト』(17)など、最近のハリウッドは新しいタイプの低予算ホラー映画が次々と生まれていますね。

町山 米国映画は昔から、低予算ホラーから新しいムーブメントや新しい才能が生まれてきたという歴史があるんです。昨年亡くなった『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』(68)のジョージ・A・ロメロ、『悪魔のいけにえ』(74)のトビー・フーパーもそうですし、スティーブン・スピルバーグもデビュー作は『激突!』(71)という低予算のテレビ映画でした。主観映像で撮られた『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』(99)は大ブームになりました。低予算ホラーから偉大な監督が生まれ、映画の革命も起きているんです。まぁ、その中でもスピルバーグは別格でしょう。あそこまでの存在は、そうは生まれません。クリストファー・ノーランはスピルバーグになろうとしているけど、ノーランのあの頑固さではスピルバーグになれないでしょうね。

──ノーランの話題が出たところで、『ダンケルク』について。戦争大作かなと思って観たら、戦闘機がたった3機しか飛ばないことに驚いてしまいました。

町山 ノーランはCGが大嫌いなんです。そこがスピルバーグとの大きな違い。スピルバーグにはそういうこだわりはない。『ダンケルク』に戦闘機が3機しか出てこないのは、第二次世界大戦時のスピットファイア戦闘機で今も飛べるものが3機しかなかったらなんです。

──CGを使えば、簡単に増やせるのに。

町山 ノーランは徹底して、CGを使いません。ノーランって単にぶっ飛んでる人なんですよ(笑)。CGを使わないことが許されているのは、ノーラン作品はあまりお金を掛けてないから。『ダンケルク』は戦争大作に見えますが、かなりの低予算で撮っています。海辺にいる兵士たちは動いているのは人間ですが、後はみんな段ボール紙です(笑)。だからノーランの作品は「どうせCGだろう」じゃない、「これ、どうやって撮ったんだろう」という驚きがある。僕が『ダンケルク』の取材でノーランに会ったときは、ヒッチコック監督の『海外特派員』(40)で大型旅客機が沈むシーンはどのようにして撮られたのかを、延々と説明してくれました。『海外特派員』の旅客機が沈むシーンの撮り方はよく分かったけど、それあんたの作品じゃないよねと(笑)。ノーランはスピルバーグにはなれない。でも、とても面白い監督であることには間違いありません。
(インタビュー後編につづく/取材・文=長野辰次)

●町山智浩(まちやま・ともひろ)
1962年東京都生まれ。「宝島」「別冊宝島」などの編集を経て、95年に「映画秘宝」(洋泉社)を創刊。97年より米国に移住し、現在はカリフォルニア州バークレイ在住。「週刊文春」「月刊サイゾー」ほか連載多数。著書も『「最前線の映画」を読む』(インターナショナル新書)、『今のアメリカがわかる映画100本』(サイゾー社)ほか多数あり。

【特別番組】町山智浩スペシャルトーク「町山智浩が暴く『最前線の映画』の暗号」
6月下旬~7月中旬、BS10スターチャンネル「映画をもっと。」(毎日20時放送ほか)枠内、および7月1日(日)夕方5:40ほかインターバルにて無料放映。

【特集企画】町山智浩が暴く『最前線の映画』の暗号
7月3日(火)~16日(月)夜9時ほか、BS10スターチャンネルにて連日放送(全12作品)【※各映画の本編前と本編後に、町山氏による解説を合わせて放送します】

http://www.star-ch.jp/saizensen/

『ブレードランナー2049』~Kが追い求めた「噴水」~
『エイリアン:コヴェナント』~アンドロイドはオジマンディアスの夢を見る~
『ラ・ラ・ランド』~狂気が開ける扉~
『ドント・ブリーズ』~「8マイル」の真実~
『沈黙-サイレンス-』~三百六十年後の「ゆるし」~
『LOGAN/ローガン』~世界の終わりの西部劇~
『ベイビー・ドライバー』~なぜ彼はベイビーと名乗るのか~
『ダンケルク』~偽りのタイムリミット~
『ムーンライト』~「男らしさ」からの解放~
『ワンダーウーマン』~戦う『ローマの休日』~
『メッセージ』~宇宙からのライプニッツ~
『アイ・イン・ザ・スカイ』~ドローンという「レッサー・イーヴル」~

眞子さま婚約騒動に見る、皇室の女性たちを苦しめる“伝統”

【歴史学者・小田部雄次氏インタビュー 中編】

 2018年5月25日、宮内庁は、秋篠宮家の長女・眞子内親王の結婚延期をめぐる一部週刊誌の報道に、天皇、皇后両陛下が心を痛めているとの声明を同庁ホームページで公開した。2017年末以降、眞子内親王の婚約者・小室圭氏の母親の400万円を超える借金トラブルが週刊誌やワイドショーで取り沙汰され、今年2月には宮内庁より2人の結婚延期が発表されたのは周知の通り。しかし、この結婚延期騒動を「小室家側に問題があった」で片付けてよいのだろうか?

 日本近現代史が専門の歴史学者で、近代以降の皇室の在り方にも詳しい小田部雄次・静岡福祉大学名誉教授の話をもとに、過去に起きた皇室の婚姻トラブルを参照しながら騒動の背景を全3回に分けて考察する。

***

 第1回では皇室における二大婚姻トラブルともいえる大正天皇の婚約破棄事件と、昭和天皇の「宮中某重大事件」を見てきたが、それ以外にも皇室にはさまざまな婚姻トラブルがあった。例えば、1920(大正9)年に大韓帝国(現・韓国)の皇太子・李垠(り・ぎん)の妃となった李方子(り・まさこ)女王の一件である。

韓国皇室に嫁いだ日本の女王

「李方子さんは、明治初期に新設された宮家の一つである梨本宮家の生まれで、皇太子裕仁親王(のちの昭和天皇)の妃候補でもあった。つまり久邇宮良子(のちの香淳皇后)さんのライバルだったのですが、方子さんの母親である梨本伊都子(いつこ)さんが鍋島家の生まれで、この鍋島家は豊臣秀吉による朝鮮出兵以来、韓国とつながりが深い家柄なんです。そこで、1910(明治43)年の日韓併合を受けて、韓国の皇室に日本の皇族女子を嫁がせるという話になり、方子さんに白羽の矢が立てられた」(小田部雄次氏、以下同)

 これは「内鮮一体」(朝鮮を差別せずに内地=日本本土と一体化しようというスローガン)のための政略結婚であり、方子女王にとってショックな出来事であったのはもちろん、韓国側も抵抗する案件であろう。なぜなら、韓国の皇室に日本人の血を入れられてしまうのだから。逆に、日本の皇室に韓国人(およびその他の外国人)の血を入れることはない。「内鮮一体」と謳いながら、そこには明らかな差別意識があった。

「方子さんは結婚後、夫と共に日本で暮らすことになり、1921(大正10)年に第一子の晋をもうけるのですが、翌年に親子3人で韓国を訪れたとき、晋が急死してしまうんです。これは、確証はありませんが、韓国の宮廷による毒殺ではないかともいわれています」

 実は、1919(大正8)年に、方子女王の夫になる李垠の父・李太王(高宗)が死去している。これには日本側の陰謀による毒殺説が残っており、同年の三・一運動の引き金にもなった。李晋の毒殺は、それに対する報復ではないかとも囁かれている。

「しかも方子さんは、日本が第二次世界大戦に負けた結果、王公族(大日本帝国により併合された旧大韓帝国皇室である李王家とその一族の日本における身分)の身分を失い、1952(昭和27)年発効のサンフランシスコ講和条約での日本の主権回復に伴い日本国籍も喪失します。かといって韓国へ帰ることもできず、1963(昭和38)年になってようやく朴正煕大統領の計らいによって夫と第二子・玖(きゅう)と共に帰国を果たします」

 皇族の女性であることと、大日本帝国の膨張主義が生んだ悲劇といえそうである。そして、李方子の夫・李垠の異母妹である徳恵翁主(とくけいおうしゅ ※「翁主」は李氏朝鮮における皇帝の側室所生の皇女の称号)もまた数奇な運命をたどっている。

「徳恵さんは、1925(大正14)年に12歳で渡日して学習院に入るのですが、そこでいじめに遭い、さらに1930(昭和5)年に母親を亡くしてから奇行や登校拒否が問題になり、早発性痴呆症(統合失調症)と診断されます。その翌年に、日韓融和の一環として、旧対馬藩主・宗家の当主である宗武志(たけゆき)に嫁いだんです」

 先述した通り、皇室に外国人の血を入れることはない。つまり外国人を皇后や親王妃として迎えることは決して許されないが、大名家などの華族クラスの妻であれば許容範囲であり、この徳恵翁主のケースは、日本から韓国へ嫁いだ李方子とは逆パターンの政略結婚といえる。

「2人の夫婦仲自体は良好だったようですが、徳恵さんは病状が悪化し、終戦直後に入院してしまいます。そして、1955(昭和30)年には、徳恵さんの実家からの要請で武志さんとの離婚が成立しています」

 さらに、李方子の妹である梨本宮家の規子女王も、不幸な婚姻トラブルに見舞われている。それは、山階鳥類研究所の創始者・山階芳麿王の兄である山階宮武彦王との間で起こった。

「武彦さんは海軍航空隊のパイロットで『空の宮様』とも呼ばれたのですが、1923(大正12)年の関東大震災で奥さんを亡くし、精神を病んで引きこもってしまった。それを指して、山階宮邸には“開かずの間”ができたといわれます。山階宮家は、そんな武彦さんの後妻として規子さんを迎えようとした。そこで、規子さん自身もそれを納得したうえで婚約したのですが、結局、結婚を申し出た山階宮家側からの意向で婚約は破棄されてしまいます。規子さんはその後、梨本宮家の遠縁の華族家に嫁ぎましたが、この婚約破棄は相当なショックだったことでしょう」

「男系男子」は本当に皇室の“伝統”か

 以上のように、皇族の結婚により公家や宮家の女子は振り回されてきたわけだが、特に戦後は、それに巻き込まれまいとする動きもあったという。

「例えば美智子さまと雅子さまは、民間からすっと皇室に入られたように見えるかもしれませんが、実はそこに至るまですったもんだがあったんです。宮内庁としては、今上天皇と皇太子の妃候補を旧宮家や華族から出したかったんです。事実、いずれも当初は旧宮家の北白川家の娘が候補に挙がりました。ただ、候補になると週刊誌が騒ぐし本人たちも息苦しいから、言葉は悪いですが、みんな逃げちゃったんです。特に今上天皇の妃探しのときは、『戦後のゴタゴタの中で皇室になんて入りたくない』といったことを雑誌で語る妃候補もいました」

 皇室に近い存在である旧宮家や公家の娘たちは、皇室に入ることの大変さを知っていたし、そこから逃げる術も知っていた。しかし、民間人は逃げきれない。民間人が皇室に入るということは、身分差が取り払われたという点で喜ばしいことだが、同時にそれは民間人に尋常ならざる覚悟を強いることでもあったのだ。

「美智子さまにしろ雅子さまにしろ、かなり辞退し続けたんですよ。宮中という世界に入るには、恋愛感情だけでは越えられない高いハードルがありますから。雅子さまはプロポーズのとき、皇太子殿下から『雅子さんのことは僕が一生全力でお守りしますから』と言われ、それに支えられて頑張ってらっしゃいますが、やはりご苦労もなさっている。美智子さまにしても、立派な皇后陛下になられているものの、1993(平成5)年に失声症になられたこともありました」

 では、具体的に何が彼女たちを苦しめたのか。

「簡単にいえば、“伝統”ですよね。宮中に関わりを持つ人間は、それこそ神話の時代からの伝統を守ってきた人たちの子孫であり、例えば礼一つとっても、箸の上げ下げ一つとっても、いろいろな人がいろいろなことを言ってくる。姑・小姑が山ほどいる世界だと思えばわかりやすいでしょうか。だから雅子さまも当初は『喋りすぎるな』と怒られましたよね」

 戦後の新しい時代の文化に触れて育ち、また幼少時から海外経験も豊富だった雅子妃殿下にとって、宮中の作法や慣例などはおよそ時代錯誤に見えたはずである。しかし、それは守らなければならない伝統だった。そして、宮中の伝統の中で彼女を最も苦しめたのは、男系男子による皇位継承であろう。ただし、その伝統は明治期にいわば“後付け”で生まれたものにすぎない。

「男系男子の規定が初めて明文化されたのは、1889(明治22)年に大日本帝国憲法と同時に制定された旧皇室典範なんです。実際、江戸期にも2人の女性天皇がいましたし、時代をさかのぼれば推古天皇や斉明天皇など、計8人の女性天皇が存在します。ですから、近世以前には女性が天皇になってはいけないといった明文化されたルールなど存在せず、いわば“たまたま”男系男子による継承が続いたのだ、という言い方のほうが正確。では、なぜ長きにわたり男系継承が続いて、女性天皇が極端に少ないのかといえば、それは結局のところ、日本が一貫して男尊女卑社会だったから、ということに尽きるのではないでしょうか」

 逆にいえば、歴史的に日本における女性の社会的地位が高ければ、女性天皇ももっと簡単に誕生していたかもしれない。

政治が“回避”した「女性天皇」議論

 また、明治期までは側室があり、皇位継承者たる男子はたくさん生まれていたため、継承者問題を議論する必要もなかった。いささか乱暴な言い方かもしれないが、「天皇は男でも女でもいいけれど、男がいるなら男のほうがいい」という、明確な根拠のない男系推しが続いた結果なのだ。あるいは、あえて根拠を挙げるならば、小田部氏のいう通り女性蔑視の考え方であろう。

「相撲でいう『女は土俵に上がるな』に似ていますよね。女相撲が存在するのに、あたかも女人禁制がもとから存在したルール、伝統であるかのような言い方をされるという点で。あるいは、『過去の女性天皇だって、中継ぎに過ぎなかった』などと文句をつける学者もいますが、中継ぎだろうといたことには変わりませんし、それを言ったら中継ぎの男性天皇だってたくさんいましたからね」

 小田部氏によれば、天皇という職能上、女性で困ることはないという。

「『女性には生理があるから儀式ができない』などという男系論者がいますが、儀式には代拝というシステムがあって、代々の天皇たちも体調が悪いときなどは代役を立てていました。また『生理の血が“穢れ”である』というのも、伝統といえばそうではあるかもしれませんが、現代的な価値観でいえばある種の迷信に近いもの。それをいま声高に主張すれば、それこそ大問題になりますよね。私にいわせれば、それを変えて何が悪いのか、と。結局は、「男系であるべし」を主張するための、まさに“ためにする議論”でしかないのではないか、と」

 2017(平成29)年5月、今上天皇の生前退位を受け、共同通信社が世論調査で女性天皇の賛否を問うたところ、賛成は86パーセントだった。また、同時期に毎日新聞が実施した同様の世論調査でも賛成が68パーセントと高いパーセンテージを示している。にもかかわらず、なぜ女性天皇の議論が進まないのか。

「2006(平成18)年に秋篠宮家に悠仁親王が誕生し、当面の男系断絶が回避されて以降、女性天皇をめぐる議論は下火になりましたが、それから10年以上まったく進んでいないですよね。特に近年における議論停滞の一因は、現政権である自民党の、もっといえば安倍晋三首相の重要な支持基盤の一つが、女性天皇に反対する保守層だからでしょう。逆にいえば、もし仮に安倍首相が退陣すれば、女性天皇の議論が活発化する可能性は高い」

 保守を名乗るのであれば、天皇という存在の重要性は十分に理解しているはずだ。しかし、その保守層が「伝統」とやらに固執するあまり議論を停滞させ、先細っていく皇室を蔑ろにする結果を生んでいるというのは皮肉な話である。今上天皇の生前退位にしても、多くの国民が支持していたのにもかかわらず、安倍内閣は非協力的だったことも記憶に新しい。

 以上を踏まえ、次回は眞子内親王の結婚延期問題の背景に迫りたい。

(構成/須藤 輝)

小田部雄次(おたべ・ゆうじ)

1952年生まれの歴史学者で、静岡福祉大学名誉教授。専門は日本近現代史。皇室史、華族史などに詳しく、著書に『皇族―天皇家の近現代史』(中公新書)、『肖像で見る歴代天皇125代』 (角川新書)などがある

眞子さま婚約騒動に見る、皇室の女性たちを苦しめる“伝統”

【歴史学者・小田部雄次氏インタビュー 中編】

 2018年5月25日、宮内庁は、秋篠宮家の長女・眞子内親王の結婚延期をめぐる一部週刊誌の報道に、天皇、皇后両陛下が心を痛めているとの声明を同庁ホームページで公開した。2017年末以降、眞子内親王の婚約者・小室圭氏の母親の400万円を超える借金トラブルが週刊誌やワイドショーで取り沙汰され、今年2月には宮内庁より2人の結婚延期が発表されたのは周知の通り。しかし、この結婚延期騒動を「小室家側に問題があった」で片付けてよいのだろうか?

 日本近現代史が専門の歴史学者で、近代以降の皇室の在り方にも詳しい小田部雄次・静岡福祉大学名誉教授の話をもとに、過去に起きた皇室の婚姻トラブルを参照しながら騒動の背景を全3回に分けて考察する。

***

 第1回では皇室における二大婚姻トラブルともいえる大正天皇の婚約破棄事件と、昭和天皇の「宮中某重大事件」を見てきたが、それ以外にも皇室にはさまざまな婚姻トラブルがあった。例えば、1920(大正9)年に大韓帝国(現・韓国)の皇太子・李垠(り・ぎん)の妃となった李方子(り・まさこ)女王の一件である。

韓国皇室に嫁いだ日本の女王

「李方子さんは、明治初期に新設された宮家の一つである梨本宮家の生まれで、皇太子裕仁親王(のちの昭和天皇)の妃候補でもあった。つまり久邇宮良子(のちの香淳皇后)さんのライバルだったのですが、方子さんの母親である梨本伊都子(いつこ)さんが鍋島家の生まれで、この鍋島家は豊臣秀吉による朝鮮出兵以来、韓国とつながりが深い家柄なんです。そこで、1910(明治43)年の日韓併合を受けて、韓国の皇室に日本の皇族女子を嫁がせるという話になり、方子さんに白羽の矢が立てられた」(小田部雄次氏、以下同)

 これは「内鮮一体」(朝鮮を差別せずに内地=日本本土と一体化しようというスローガン)のための政略結婚であり、方子女王にとってショックな出来事であったのはもちろん、韓国側も抵抗する案件であろう。なぜなら、韓国の皇室に日本人の血を入れられてしまうのだから。逆に、日本の皇室に韓国人(およびその他の外国人)の血を入れることはない。「内鮮一体」と謳いながら、そこには明らかな差別意識があった。

「方子さんは結婚後、夫と共に日本で暮らすことになり、1921(大正10)年に第一子の晋をもうけるのですが、翌年に親子3人で韓国を訪れたとき、晋が急死してしまうんです。これは、確証はありませんが、韓国の宮廷による毒殺ではないかともいわれています」

 実は、1919(大正8)年に、方子女王の夫になる李垠の父・李太王(高宗)が死去している。これには日本側の陰謀による毒殺説が残っており、同年の三・一運動の引き金にもなった。李晋の毒殺は、それに対する報復ではないかとも囁かれている。

「しかも方子さんは、日本が第二次世界大戦に負けた結果、王公族(大日本帝国により併合された旧大韓帝国皇室である李王家とその一族の日本における身分)の身分を失い、1952(昭和27)年発効のサンフランシスコ講和条約での日本の主権回復に伴い日本国籍も喪失します。かといって韓国へ帰ることもできず、1963(昭和38)年になってようやく朴正煕大統領の計らいによって夫と第二子・玖(きゅう)と共に帰国を果たします」

 皇族の女性であることと、大日本帝国の膨張主義が生んだ悲劇といえそうである。そして、李方子の夫・李垠の異母妹である徳恵翁主(とくけいおうしゅ ※「翁主」は李氏朝鮮における皇帝の側室所生の皇女の称号)もまた数奇な運命をたどっている。

「徳恵さんは、1925(大正14)年に12歳で渡日して学習院に入るのですが、そこでいじめに遭い、さらに1930(昭和5)年に母親を亡くしてから奇行や登校拒否が問題になり、早発性痴呆症(統合失調症)と診断されます。その翌年に、日韓融和の一環として、旧対馬藩主・宗家の当主である宗武志(たけゆき)に嫁いだんです」

 先述した通り、皇室に外国人の血を入れることはない。つまり外国人を皇后や親王妃として迎えることは決して許されないが、大名家などの華族クラスの妻であれば許容範囲であり、この徳恵翁主のケースは、日本から韓国へ嫁いだ李方子とは逆パターンの政略結婚といえる。

「2人の夫婦仲自体は良好だったようですが、徳恵さんは病状が悪化し、終戦直後に入院してしまいます。そして、1955(昭和30)年には、徳恵さんの実家からの要請で武志さんとの離婚が成立しています」

 さらに、李方子の妹である梨本宮家の規子女王も、不幸な婚姻トラブルに見舞われている。それは、山階鳥類研究所の創始者・山階芳麿王の兄である山階宮武彦王との間で起こった。

「武彦さんは海軍航空隊のパイロットで『空の宮様』とも呼ばれたのですが、1923(大正12)年の関東大震災で奥さんを亡くし、精神を病んで引きこもってしまった。それを指して、山階宮邸には“開かずの間”ができたといわれます。山階宮家は、そんな武彦さんの後妻として規子さんを迎えようとした。そこで、規子さん自身もそれを納得したうえで婚約したのですが、結局、結婚を申し出た山階宮家側からの意向で婚約は破棄されてしまいます。規子さんはその後、梨本宮家の遠縁の華族家に嫁ぎましたが、この婚約破棄は相当なショックだったことでしょう」

「男系男子」は本当に皇室の“伝統”か

 以上のように、皇族の結婚により公家や宮家の女子は振り回されてきたわけだが、特に戦後は、それに巻き込まれまいとする動きもあったという。

「例えば美智子さまと雅子さまは、民間からすっと皇室に入られたように見えるかもしれませんが、実はそこに至るまですったもんだがあったんです。宮内庁としては、今上天皇と皇太子の妃候補を旧宮家や華族から出したかったんです。事実、いずれも当初は旧宮家の北白川家の娘が候補に挙がりました。ただ、候補になると週刊誌が騒ぐし本人たちも息苦しいから、言葉は悪いですが、みんな逃げちゃったんです。特に今上天皇の妃探しのときは、『戦後のゴタゴタの中で皇室になんて入りたくない』といったことを雑誌で語る妃候補もいました」

 皇室に近い存在である旧宮家や公家の娘たちは、皇室に入ることの大変さを知っていたし、そこから逃げる術も知っていた。しかし、民間人は逃げきれない。民間人が皇室に入るということは、身分差が取り払われたという点で喜ばしいことだが、同時にそれは民間人に尋常ならざる覚悟を強いることでもあったのだ。

「美智子さまにしろ雅子さまにしろ、かなり辞退し続けたんですよ。宮中という世界に入るには、恋愛感情だけでは越えられない高いハードルがありますから。雅子さまはプロポーズのとき、皇太子殿下から『雅子さんのことは僕が一生全力でお守りしますから』と言われ、それに支えられて頑張ってらっしゃいますが、やはりご苦労もなさっている。美智子さまにしても、立派な皇后陛下になられているものの、1993(平成5)年に失声症になられたこともありました」

 では、具体的に何が彼女たちを苦しめたのか。

「簡単にいえば、“伝統”ですよね。宮中に関わりを持つ人間は、それこそ神話の時代からの伝統を守ってきた人たちの子孫であり、例えば礼一つとっても、箸の上げ下げ一つとっても、いろいろな人がいろいろなことを言ってくる。姑・小姑が山ほどいる世界だと思えばわかりやすいでしょうか。だから雅子さまも当初は『喋りすぎるな』と怒られましたよね」

 戦後の新しい時代の文化に触れて育ち、また幼少時から海外経験も豊富だった雅子妃殿下にとって、宮中の作法や慣例などはおよそ時代錯誤に見えたはずである。しかし、それは守らなければならない伝統だった。そして、宮中の伝統の中で彼女を最も苦しめたのは、男系男子による皇位継承であろう。ただし、その伝統は明治期にいわば“後付け”で生まれたものにすぎない。

「男系男子の規定が初めて明文化されたのは、1889(明治22)年に大日本帝国憲法と同時に制定された旧皇室典範なんです。実際、江戸期にも2人の女性天皇がいましたし、時代をさかのぼれば推古天皇や斉明天皇など、計8人の女性天皇が存在します。ですから、近世以前には女性が天皇になってはいけないといった明文化されたルールなど存在せず、いわば“たまたま”男系男子による継承が続いたのだ、という言い方のほうが正確。では、なぜ長きにわたり男系継承が続いて、女性天皇が極端に少ないのかといえば、それは結局のところ、日本が一貫して男尊女卑社会だったから、ということに尽きるのではないでしょうか」

 逆にいえば、歴史的に日本における女性の社会的地位が高ければ、女性天皇ももっと簡単に誕生していたかもしれない。

政治が“回避”した「女性天皇」議論

 また、明治期までは側室があり、皇位継承者たる男子はたくさん生まれていたため、継承者問題を議論する必要もなかった。いささか乱暴な言い方かもしれないが、「天皇は男でも女でもいいけれど、男がいるなら男のほうがいい」という、明確な根拠のない男系推しが続いた結果なのだ。あるいは、あえて根拠を挙げるならば、小田部氏のいう通り女性蔑視の考え方であろう。

「相撲でいう『女は土俵に上がるな』に似ていますよね。女相撲が存在するのに、あたかも女人禁制がもとから存在したルール、伝統であるかのような言い方をされるという点で。あるいは、『過去の女性天皇だって、中継ぎに過ぎなかった』などと文句をつける学者もいますが、中継ぎだろうといたことには変わりませんし、それを言ったら中継ぎの男性天皇だってたくさんいましたからね」

 小田部氏によれば、天皇という職能上、女性で困ることはないという。

「『女性には生理があるから儀式ができない』などという男系論者がいますが、儀式には代拝というシステムがあって、代々の天皇たちも体調が悪いときなどは代役を立てていました。また『生理の血が“穢れ”である』というのも、伝統といえばそうではあるかもしれませんが、現代的な価値観でいえばある種の迷信に近いもの。それをいま声高に主張すれば、それこそ大問題になりますよね。私にいわせれば、それを変えて何が悪いのか、と。結局は、「男系であるべし」を主張するための、まさに“ためにする議論”でしかないのではないか、と」

 2017(平成29)年5月、今上天皇の生前退位を受け、共同通信社が世論調査で女性天皇の賛否を問うたところ、賛成は86パーセントだった。また、同時期に毎日新聞が実施した同様の世論調査でも賛成が68パーセントと高いパーセンテージを示している。にもかかわらず、なぜ女性天皇の議論が進まないのか。

「2006(平成18)年に秋篠宮家に悠仁親王が誕生し、当面の男系断絶が回避されて以降、女性天皇をめぐる議論は下火になりましたが、それから10年以上まったく進んでいないですよね。特に近年における議論停滞の一因は、現政権である自民党の、もっといえば安倍晋三首相の重要な支持基盤の一つが、女性天皇に反対する保守層だからでしょう。逆にいえば、もし仮に安倍首相が退陣すれば、女性天皇の議論が活発化する可能性は高い」

 保守を名乗るのであれば、天皇という存在の重要性は十分に理解しているはずだ。しかし、その保守層が「伝統」とやらに固執するあまり議論を停滞させ、先細っていく皇室を蔑ろにする結果を生んでいるというのは皮肉な話である。今上天皇の生前退位にしても、多くの国民が支持していたのにもかかわらず、安倍内閣は非協力的だったことも記憶に新しい。

 以上を踏まえ、次回は眞子内親王の結婚延期問題の背景に迫りたい。

(構成/須藤 輝)

小田部雄次(おたべ・ゆうじ)

1952年生まれの歴史学者で、静岡福祉大学名誉教授。専門は日本近現代史。皇室史、華族史などに詳しく、著書に『皇族―天皇家の近現代史』(中公新書)、『肖像で見る歴代天皇125代』 (角川新書)などがある