「じゃないほう芸人」というカテゴリーがある。「じゃないほう」と言いながら、彼らに対するニーズもしっかり存在する現在のテレビ界。なんだかんだ、バイきんぐの西村瑞樹やハライチの岩井勇気は好事家から熱い視線を浴びているわけで。「名は体を表わさず」とでも言うべきか。
いや、お笑い芸人という職業は決して甘くない。相方の村本大輔が語学の勉強で海外へ行っていた期間、月収が3万円に落ち込んだと告白したのはウーマンラッシュアワーの中川パラダイスだ。今でも格差が深刻なお笑いコンビはしっかり存在しているということ。
■安田大サーカスのメンバーだと間違われるあらぽん
6月20日深夜に放送された『運命のひと押し~ここで印鑑を押しますか?~』(テレビ朝日系)に出演したのは、ANZEN漫才のあらぽん。残酷なことを言うと、彼こそが本当の意味で「じゃないほう」である。
みやぞんの人気者っぷりについては、言うまでもない。『世界の果てまでイッテQ!』(日本テレビ系)の準レギュラーに収まり、今年の『24時間テレビ 愛は地球を救う』(同)ではチャリティランナーを務めることも決定している。
一方のあらぽんは、残念ながら知名度がない。番組が街行く人に「この人を知っていますか?」とアンケートを採ったところ「1人だと名前が出てこない」「安田大サーカスの人?」と、誰も名前を言い当てられないのだ。
ちなみに、この番組のコンセプトは以下。
「“人生を左右する運命の決断”を前に悩む人に寄り添い、最後の決断=『印鑑を押すのか? 押さないのか?』を判断する瞬間まで、一部始終をお見せする新感覚バラエティー」
今回、あらぽんは13年の交際を経て昨年10月に結婚した一般人女性と共にスタジオへ登場。この妻は、夫に対し「『みやぞんじゃないほう』って言われてほしくない!」と不安と憤りを抱えているようだ。彼女は「みやぞんがいなくても、ピンで舞台に立てるようなネタを作ります!」と書かれた念書を持参して来ており、これに判を押して奮起する夫の挽回を願っている。
■「じゃないほう芸人」どころか「いないほう芸人」
あらぽんは冷静だった。自身の現状をしっかりと認識している。
「地方に営業に行くと、誰とも目が合わない」
「台本に名前がない、台本にいない。局のトイレに行っても、ずっとセンサーが反応しない時があるんですよ。機械にすら、いないと思われている」
「最近まで『いないほう芸人』でしたね。『じゃないほう』の一個下には『いないほう芸人』っていうのがあるんですよ」
妻の現状認識もシビアだ。
妻「今、みやぞんに気を使って、隣でただ笑ってる人みたいになってる(笑)」
あらぽん「フィギュアね。スマイルフィギュア。横で笑ってるだけになっちゃう。いつも、それは言われるんです」
ANZEN漫才としてコンビで出演する際、「みやぞんの良さを引き出してください」「サポートしてください」というスタンスを求められることが多いという。みやぞんとは1歳の頃からの幼なじみのはずなのに、今ではコンビ格差が広がる一方である。ならば、やはり妻の言う通り、ピンのネタを磨くしかないか?
「漫才とかコンビでネタをやる時はすごい楽しいですけど、その考えは今まで持ったことがなかったんですよ。ピンで(ネタを)やるっていう。それは知らない世界ですよね」
ここで、あらぽんが活路を見いだしたのは「ひょうたん」だった。
「僕、毎年ひょうたんを育ててるんです。昔から好きで。ひょうたんを使った何かならできるかもしれないです」
あらぽんにスイッチが入った。熱くなったら止まらない。周囲のリアクションに構わず、マニアックなトークを放ち続けていく。
「ひょうたんのフォルムは丸を2個重ねてる。なんでその形を選んだのか? っていうのがあるじゃないですか。いろんな形が世の中にあるのに、ひょうたんはその形を選んでいる」
さらに、こんなことまで言いだした。
「ひょうたんにはオスとメスがあると思うんですよ。僕はなんとなくわかるんですけども」
スタジオに自作のひょうたんを持ってきたあらぽんは、それを手に持ちながら「この子はオスなんですけど」と断言、持論を展開した。
「この子は虫にやられることが多いんです。傷だらけで。美人な女の子たちがいるところを守ってるんですよ、きっと。ひょうたんはいっぱいなるのに、こいつだけに虫が殺到するんです。この子は傷だらけだけなんですけど、この裏にいる子たちはみんなきれいなんです。裏にいるのは女の子ですね。全部、『美人ちゃん』って呼んでるんですけど」
彼に注目したことがなかっただけに、まったく知らなかった。彼は、自分の世界を持っていた。
■ひょうたんのピン芸は「最低限笑える」レベル!
実はあらぽんのひょうたん、芸能界でプチブレーク中である。彼は自作のひょうたんを、今までに黒柳徹子と明石家さんまに渡したことがあるという。
「さんまさんはサッカーのマンチェスターというチームが好きなんで、全部真っ赤に塗って、白と黒でサッカーボールのひもを編んであげるっていう。黒柳さんには、ピンクが好きだったんでピンクのひもを編んであげて。で、象みたいな形のものがあったんですよ。『エレファント君』って名前を付けてたんですけど、エレファント君にピンクをあしらって、鈴を付けてあげて」
ついには群馬に畑を借り、1メートル以上のひょうたん作りに励んでいるという。
そんなあらぽん、妻が持参したピン活動を要求する念書へ勇ましく判を押している。彼は今後、「いないほう芸人」を返上すべく“ひょうたんネタ”に活路を見いだすようだ。
「なんとなく、自分の中で想像はできました。ひょうたん使っていいんだったら。ひょうたんって歌と同じで『最低限笑える』というレベル。歌は『最低限聴ける』じゃないですか? スベったとかないじゃないから」
彼の中で、ひょうたんネタに対する確信とある種の担保が出来上がっているよう。「マニアックなことが好きなので、そういうのを語れる人になりたい」と、あらぽんは将来への展望を語っていた。
(文=寺西ジャジューカ)