
「自由に恋愛したいのなら、芸能人を辞めるべきです」――ジャニーズやAKB48など、アイドルの熱愛スキャンダルが巻き起こるたびに、ファンの間で“拡散”される言葉をご存じだろうか。2015年、芸能リポーター・井上公造氏が、トークアプリ「755」で、一般ユーザーからの「芸能人も1人の人なんだから恋愛してもいいと思うんですけどね」というコメントに返信した言葉で、以下がその全文である。
「それは違います。自由に恋愛したいのなら、芸能人を辞めるべきです。彼ら、彼女らは、自分自身が商品です。恋愛しても構わないタイミング、年齢、キャリア、様々な条件があります。その分、一般人より高い収入を得ているのです。それでも、人を好きになるのが人間です。だったら、バレないように努力しないと!ファンによって支えられている以上、企業努力は必要不可欠です」
応援しているアイドルの熱愛が発覚したファンたちは、井上氏の言葉をTwitterなどに投稿・拡散することで、自分の気持ちを代弁してもらっているのかもしれない。
ここ最近も、アイドルたちの熱愛スキャンダルは後を絶たないが、今回、井上氏本人に、あらためてこの“名言”についてインタビューを行った。自身の発言がアイドルファンの間で長く支持されていることは「まったく知りませんでした」と驚く井上氏に、この言葉に込められた思いや意図、また芸能スキャンダルに対する考えを語ってもらった。
井上氏いわく、「自由に恋愛したいのなら、芸能人を辞めるべきです」といった旨の発言は、「以前からテレビでも言っている」とのこと。「755」では、広く“芸能人”としたものの、「僕はどちらかと言えば、“アイドル”を対象にして言っています」と語る。
「当然のことながら、『アイドルは人間』であり、僕は『人間を辞めろ』とは言っていませんし、また基本的人権の観点から『恋愛は自由にしていい』とも思っています。けれども芸能人は“その人本人が商品”なわけで、アイドルは特にそのウエイトが大きいんです。ファンがアイドルのコンサートや舞台に行ったり、CDを買ったりするのには、『あなたのことが大好き』『付き合いたい』『あわよくば結婚したい』といった“疑似恋愛”の要素が含まれています。また、ジャニーズであればJr.時代から、AKBであれば研修生の頃から応援し続けることで“アイドルを育てる”という要素もありますよね」
その人の“演技”や“音楽”が好きである以前に、その人自身のことが好き――確かに、アイドルファンはそういった側面が大きいだろう。だからこそ、ファンは熱愛報道に失望し、また一部の事務所が人気低下を避けるために“恋愛禁止”をルール化するわけだが、井上氏は、「それでもアイドルが人を好きになってしまうことはある」とあらためて強調した上で、こう持論を述べる。
「アイドルが恋愛をするというのは、“ルール上やってはいけないこと”であり、それをやるのであれば、バレないよう、エネルギーとお金を注がなくてはいけません。例えば、アイドルが恋人とホテルに泊まるとします。一緒にホテルを訪れ、同じ部屋に泊まるのは、もうその時点でダメだと思います。別々にチェックイン・チェックアウトする、コネクティングルーム(それぞれ独立した部屋だが、必要に応じて続き部屋になる部屋。廊下に出なくても行き来できるのが特徴)を使用するといった努力が必要。部屋の中までは、撮影されませんからね。コネクティングルームは、富裕層の人がお手伝いさんを連れて宿泊する際などに使われる部屋だけに、宿泊料も高額なのですが、バレないためには、こういったところにお金を遣わなくてはいけないのです」
また外食をする際は「入り口が複数あるお店を選び、時間をズラして入店・退店する」、同棲する際も「同じマンションだが別々の部屋を借りる」などのバレない工夫をする、すなわち企業努力をしなければいけないという井上氏。つまり、「完璧に“言い逃れがきく”ようにしなければいけません。でも、みんなそういった努力を怠っているから、すぐバレてしまう。しかもバレた上でさらに嘘をつくから、二重三重に大変なことになるんです。アイドルがどういったものかを知ってアイドルになったんだったら、自分の商品価値を下げることをする、また『そうは言っても……』などと反論するのは、やはりいけないことだと思います」。
「アイドルは恋愛を隠さなければいけない」という価値観は今に始まったことではないが、最近は「かなりゆるくなってきている」という。
「昭和時代のアイドルは、『平凡』や『明星』といったアイドル雑誌で、『ファーストキスの相手は……隣の家のワンちゃんと』なんて言っていましたから。おニャン子クラブも、ステージ上での発言は、全て秋元康さんが台本を書いていたそうですが、AKBは、自分の言葉で話しますし、異性に関するトークもしますよね。そこだけ見てもアイドルはかなり変わったと思います。ただ、かつて“恋愛なんてしていません”と言っていた元アイドルたちが、今になって『あの当時恋愛してました』と明かすことはよくあるんです。やっぱりみんな恋愛してるんですよ(笑)。アイドルは選ばれしカッコいい、可愛いモテる人たちですし、若ければそりゃあ恋愛もしたいのは当然ですよ。でもみんなバレないように頑張っていたんです」
かつて、当時モーニング娘。のリーダーだった矢口真里と藤本美貴は、熱愛スキャンダルの責任を取る形でグループを脱退したが、最近のアイドルでは特にお咎めナシのケースも少なくない。しかし、ここで気になるのが、アイドルの熱愛スキャンダルを“暴く側”の存在だ。ネット上でも、井上氏の「バレないように努力しないと」という発言に対し、「芸能リポーターが熱愛を暴くから悪い!」といった声も少なくないのだ。
「どの分野にも言えるのですが、報じる人がいるからこそ、その分野に興味を持つ人が生まれるんです。芸能リポーターは、芸能人の恋愛を暴くだけが仕事ではなく、例えば『万引き家族』が『カンヌ国際映画祭』でパルム・ドールを受賞した背景であるとか、西城秀樹さんのような偉大なスターが亡くなった際に『こういう方でした』と話すなど、いろいろあります。その中に、恋愛や不倫もある……ということなんです。『恋愛や不倫は知りたくないから報じるな』と言う人がいるかもしれませんが、一方でそこに興味を持つ人もいます。そもそも取材とは、取材対象者の仕事面での活躍だけでなく、その人となりにも肉薄することであり、『芸能リポーターが報じるから悪い』というのは、筋違いだと思います」
井上氏は、古くから業界に身を置く芸能プロダクションの社長に「井上、最近お前たちは優しすぎるぞ!」などと発破をかけられることもあるという。
「スーパースターというのは、たくさんのスキャンダルを乗り越えることで、人間としての厚みが出て、さらに成長する……マドンナやマイケル・ジャクソン、日本で言えば、松田聖子さんや大竹しのぶさんもそうですよね。その社長は『だから、もっとどんどんお前らは追及すべきなんだ』『潰れる奴は所詮その程度、それを乗り越えてこそ本物のスーパースターが生まれる』『最近、スーパースターが生まれないのは、お前らが優しすぎるからだ!』なんて言っていましたよ」
かつてアイドルに、「お前らに見つかったら俺らの負け。でもお前らに見つからないように遊んでやる!」と宣戦布告されたこともあるという井上氏。そんな“豪快”とも言えるプロダクションやタレントの話を聞いていると、昨今ネットでよく言われる「事務所は、自社タレントの熱愛スキャンダルもみ消す」といったウワサの真偽が気になるところだが……。
「これは僕に限った話ですが、事務所から『このネタやらないでくれ』と言われたことってないんです。ただ、『子どもの受験があるから、今はやめてほしい』『CMの契約のタイミングが1カ月後にあるから、そこまで待ってくれ』とお願いされることはありましたが、『一切やらないでくれ』と言われた記憶は、僕のやってきた中ではない。僕の知らないところでそういったことがないとは言い切れないですけどね。テレビなので、結局、僕らの方から『このネタをやります』というわけではない面もありますし」
長年、芸能リポーターとして活動し、数多くのタレント、芸能プロダクション関係者と直接顔を合わせて話を聞いてきた井上氏。芸能ニュースを報じる側として、今こんなことを思っているという。
「過去を遡るのはよくない、ということです。独身時代に不倫スキャンダルを起こしたものの、別の人と結婚して、今はお子さんがいらっしゃるという方がいますが、過去の不倫を掘り返して今あらためて報じることで、お子さんが学校でいじめられたら、誰が責任を取るんだろう……と感じることがあります。それこそ僕は、過去に誰と誰が付き合っていたかなんて山のように知っていますが(笑)、『たとえ10知っていたとしても、10報じる必要はあるのか?』『伝えていい/伝えるべきニュースと、伝えない方がいい/伝えるべきでないニュースもある』といったことを考えてから、報じようと思っています。これはあくまで“僕のやり方”ですけどね」
このように、世間や本人、その周囲への影響を考えた上で、さまざまな芸能ニュースを報じてきた井上氏。だからこそ、「自由に恋愛したいのなら、芸能人を辞めるべきです」というアイドルのプロ意識を真摯に問う言葉が、ファンの心を打った……ということなのかもしれない。
井上公造(いのうえ・こうぞう)
1956年、福岡市に生まれる。西南学院大学商学部を卒業後、フリーライター、竹書房編集長を経て、サンケイ新聞社に入社。サンケイスポーツ文化社会部記者として、事件・芸能取材を担当する。86年、芸能リポーターに転身。98年には「有限会社メディアボックス」(現在「株式会社KOZOクリエイターズ」)を設立した。現在、日本テレビ『スッキリ』、読売テレビ『情報ライブ ミヤネ屋』『上沼・高田のクギズケ!』、朝日放送『おはよう朝日です』『キャスト』などにレギュラー出演。芸能ジャーナリズムで幅広く活躍すると同時に、番組企画、芸能情報配信サービスなども精力的に行っている。

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