内藤剛志主演『警視庁・捜査一課長』(テレビ朝日系)は今回でseason3となる人気ドラマだ。捜査一課を束ねる大岩純一(内藤)が部下たちの指揮を執りながら事件を解決していく刑事ドラマなのだが、season3になって新登場したのが、安達祐実が演じる女刑事・谷中萌奈佳(やなか・もなか)だ。
谷中は幼少期から柔道の人気選手として活躍し、オリンピックで金メダルを期待される国民的スターだったが、メダルを獲ることなく引退。その後、義父の後を継いで警察官となり、広報課内に新設されたセルフブランディングルーム室長に就任、現役時代の知名度を生かす形で広報活動の仕事をしていた。劇中では彼女のポスターやメモ帳といったキャラクターグッズがたくさん登場するのだが、いうなれば警視庁のアイドル的存在である。
一人だけの部署に押し込まれて今までくすぶっていたのだが、刑事として捜査に参加することで新たな人生を歩んでいく。
演技が妙に生々しいのは、谷中のキャリアと、天才子役として国民的スターだった安達のキャリアが、重なるところが多いからだろう。
安達は現在36歳。2歳の時にモデルデビューして以降、子役としてキャリアを重ね、小林稔侍と共演した「ハウス食品・咖喱(カリー)工房」のCMで人気となり、「具が大きい」というセリフはその年の流行語となった。
1994年にはドラマ『家なき子』(日本テレビ系)で、主人公の小学生・相沢すずを演じる。母親の手術代と生活費のために靴磨きから万引まで、ありとあらゆる手段でお金を稼ごうとするすずの姿は、安達の子役離れした据わった目とすごみのある芝居で大きく注目された。「同情するなら金をくれ!」という決めゼリフも有名となり、高視聴率を獲得した。
ちなみに『警視庁・捜査一課長』で共演する内藤は、『家なき子』ではすずを苦しめる最低の父親を演じていた。
別のドラマで共演した2人をキャスティングして、過去作の雰囲気をにおわすドラマは少なくない。最近では『ロングバケーション』(フジテレビ系)で恋人役を演じた木村拓哉と山口智子が離婚した夫婦役を演じた『BG~身辺警護人~』(テレビ朝日系)が話題となったが、『家なき子』で激しく憎み合う親子だった内藤と安達が、刑事の上司と部下として事件に立ち向かう姿を見るのは、感慨深いものがある。
『家なき子』でブレークした安達は、その後も『ガラスの仮面』(同)等のドラマに出演し、女優として高い評価を獲得する一方、20代に入ると仕事が減っていく。
人気子役は成長すると“子役の壁”に直面する。
子役の壁には2種類ある。ひとつは肉体が成長することで、子役の頃のイメージとズレてしまうこと。もうひとつは逆で、年齢を重ねても子役時代の面影が残ってしまい、過去のイメージが強すぎて、大人の役が演じられなくなるということ。
安達の場合は後者だった。当時の事務所が4番手5番手の役では出さないという方針だったこともあり、女優としての仕事が減っていく。
20代の安達は、子役時代のイメージから脱却を図ろうとするものの、その糸口がつかめずにいた。転機となったのは30歳の時に出演した、東村アキコの漫画をドラマ化した『主に泣いてます』(フジテレビ系)だ。
本作で彼女が演じたのは、大学教授の妻・青山由紀子ことゆっこ。夫の愛人をなじる姿は壮絶で、漫画的でありながら狂気を感じさせる怪演だった。
本作以降、安達の演じる役柄は“少女おばさん”とでもいうような、彼女にしか演じられない独自の存在へと変わっていき、脇で印象的な存在感を見せる女優として再浮上していく。
最近、『しゃべくり007』(日本テレビ系)に出演した際には、セーラー服姿を披露してかわいいとSNSで話題になった。昨年放送された『女囚セブン』(テレビ朝日系)では無銭飲食で捕まった女囚を演じ、回想シーンでセーラー服を披露している。これも30代には見えないと評判になった。
20歳を過ぎても童顔で中学生にしか見えないグラビアアイドルが、合法ロリと呼ばれることがあるが、すでに二児の母である36歳の安達を言い表すのに、これ以上適切な言葉はないだろう。
『家なき子』の頃から、子役離れした大人っぽさが安達にはあり、それがすごみのある演技につながっていた。現在は逆に、30代でありながら、繊細な少女性が演技の中からにじみ出ている。
再ブレークを果たした安達は、子役時代を否定するのではなく、積極的に引き受けることで、“子役の壁”を見事、乗り越えたのだ。
最後に、そんな安達の魅力が一番あふれているコンテンツを紹介したい。オフィシャルフォトギャラリー(http://yumiadachi.com/)で発表している、夫の桑島智輝が撮影している写真だ。日常生活の何げない瞬間を切り取ったスナップ写真には生々しさと透明感があり、少女おばさんとしての安達の魅力が炸裂している。
(文=成馬零一)
●なりま・れいいち
1976年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。
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