4月4日午後、京都・舞鶴市で行われた大相撲の春巡業で、多々見良三市長が土俵上で倒れるという事態が発生した。騒然とする空気の中、相撲協会の関係者とともに、医療関係者とみられる観客の女性が駆けつけて救命処置を行ったものの、その際に流れたアナウンスが、世間に波紋を広げている。
「女性は土俵から下りてください――男性がお上がりください」
土俵は古くから“女人禁制”。それゆえに行司はこうアナウンスをしたというが、ネット上では、「人命救助が第一なのに何言ってるんだ!」「人の命と伝統どっちが大事なんだ?」「女性差別でしかない」「いくらなんでもおかしい」などの非難が相次ぐことに。
これを受け、5日には相撲協会が正式に謝罪文を発表。「行司が動転して呼びかけたものでしたが、人命にかかわる状況には不適切な対応でした。深くお詫び申し上げます」と陳謝した。
しかし、ネット上では熱が冷めぬばかりか、「相撲の伝統はおかしい」「これが国技なんてあり得ない」「相撲ファン、特に女性ファンは目を覚ました方がいい」などといった、相撲、そしてファンバッシングにまで発展。
この一件を、 “スー女”と呼ばれる相撲好きの女性はどう見ているのだろうか? 相撲好きが高じて『スー女のみかた』(シンコ―ミュージック)という本を出版した、音楽ライターであり正真正銘のスー女・和田靜香氏にお話を伺った。
突然の“人の生死が関わる状況”だった
今回の件の発端となった“行司のアナウンス”。その場にいた観客によると、救命措置を行っている女性を見たお客さんの「女を上がらせていいのか!?」というようなヤジに対して、行司がうまく対応できず、気が動転してしまった結果、「女性は土俵から下りてください」とアナウンスしてしまったと考えられる。
その対応について一般人の反応は厳しく、「ああいうときにしっかり対応できないなんて行司失格」「いくらヤジを飛ばされたからって、『下りろ』なんて言うべきじゃなかった」という意見が多く見られた。和田さんはこのことについて、「もちろん、あのアナウンスは間違っていたと思います」と前置きした上で、冷静に語り始めた。
「相撲のことをあまり知らない方々からすると、“行司さん=50~60代くらいの格式ばったすごい人”みたいな想像されるのかもしれませんが、実はそんなことないんです。行司さんは中学を卒業して15歳くらいから入るんですよ。今回は本場所ではなく巡業だったし、もしかしたら若い行司さんが練習するためにアナウンスしていたかもしれません。そんな若い子が、経験したことないであろう“人の生死が関わる状況”で冷静に対応しろって、絶対無理な話ですよね」
今回、行司の年齢などは明らかにされていないようだが、調べてみると確かに「場内放送は十両格・幕下格・三段目格から10名が担当に選ばれ、うち2名がペアで行う」とある。9つある行司の階級的には下から数えた方が早い行司がアナウンスを担当することになっているようだ。
続けて和田氏は「あのアナウンスに関しては、協会側も『不適切な対応だった』と認めて謝っています。それで終わりでいいんじゃないかって思うんです。いまだに相撲を叩き続けている人を見ると、『ただ相撲叩きしたいだけなのでは?』って思っちゃいます」と語る。
また、市長が運ばれた後、土俵に大量の塩を撒かれた件に関しても、ネットでは「女性が上がったから、穢れたっていうの?」「女性を侮辱している」などの意見が見られたが、和田氏は「それは誤解なんです」と旗幟を鮮明にした。
「普段から、土俵でケガ人や病人がでたときは、ああやって塩を撒く風習があるんですよ。命を懸けて戦うわけだから、できるだけ清めようという思いがあってのことなんです。普段から相撲を見ていたらわかるはずなのに、皆いかに相撲をろくに見ず批判だけしてるのかって……悲しくなりました。あの行為は決して女性軽視ではないんです」
相撲ファンとそうではない人が対立
昨年末、大相撲の横綱・日馬富士の暴行事件があってからというもの、相撲は連日叩かれているような印象を受ける。和田氏によると「多くの相撲ファンは、『相撲はダメだ』と言われ続けて、もう心がボロボロ」だと訴える。
「何か叩きたいものがあれば、同調圧力のようにして、みんなで一斉に叩くのが今のSNS社会なのかなって。相撲に限らず、そのことについてよく知らなくても、まともに“ファクトチェック(=事実かどうか確認すること)”をしないまま批判だけしている印象です。実は真実じゃないことが、あたかも真実であるかのように拡散されるんです。これって怖いですよね」
ネット上では、相撲ファンが、「相撲好きな人であればわかるはず」と訴えている点に関して、「外野から見て異常だと思うところを受け入れないのはどうなのか?」といった指摘も出ている。ファンとそうではない人の間に大きな隔たりがある――そんな相撲の一面が垣間見えるが、和田氏はそこについても、「相撲の“あいまいさ”が、ファンではない人から攻撃されやすい理由なのではないか」と語る。
「相撲って、サッカーや野球などの“ザ・スポーツ”と違って、スポーツでもあり伝統芸能でもあり興行でもあり……非常にあいまいなんですね。白か黒か、敵か味方かって、きっちり分けることはできないものなんです。今は社会全体がそういう『自分がわかりづらいもの』『あやふやなもの』を排除したい傾向にあるというか……相撲叩きは、“あいまいなものを許せない風潮”の象徴なのかもしれません。だから叩かれやすい存在なんだと思います」
日本固有の宗教・神道に基づいている面もあり、神事としての側面も持つ相撲。それがゆえに、ほかのスポーツと比べて礼儀作法などが重視されており、文化的な側面もあることから、余計に厳しい目で見られているのかもしれない。
また、今回の件であらためて相撲協会のホームページを読んでみたという和田氏は、「定款にも観戦時のお願いにも、『土俵に女性を上げてはいけない』とは特に書かれてなかった。きっと、江戸時代から『女性は危ないので相撲場に入ってはいけない』というのが伝統としてずっと残っているってことですね」と女人禁制についても言及。
スー女として、“土俵は女人禁制”は変わってほしいと思うのだろうか? 和田氏いわく、「時代的に変わっていって女性も上がれるようになるなら構わないですが、今のこのガーガー言われているタイミングで同調圧力に負けて変わってほしくはないです。そういう感じで変わってしまったら、それこそ伝統なんてどんどん排除されてしまいそうで。理想としては、皆が忘れたころに『あれ? そういえば女性が土俵に上がってるな~』『あ~最近そうなったらしいよ~』くらいのニュアンスで、気が付いたら変わっているくらいがいいですね」とのこと。
なお、日本相撲協会の芝田山広報部長は、現時点では「(土俵に女性が上がれないという)大相撲の伝統を守る協会のスタンスは変わらない」とコメントしている。
“ツイ友(Twitter上での友達)”にも「相撲もうだめじゃん」などと言われて、「とても悲しい気持ちになった」という和田氏。黒か白かを決めたがる世間の同調圧力に飲まれてしまうのではなく、今一度自らでファクトチェックをし、相撲というものを考える目を持つべきかもしれない。
(ヨコシマリンコ)