「自分の声が好き」という人は多くないはずだ。声が小さい/大きい/こもる/聞き返される/居酒屋で店員を呼んでも振り向いてもらえないなど、声に関する悩みを抱えている人は少なくない。一方で、身なりは多くの人が気を使うわりに、声をなんとかしようと気を使う人は少ない。だからこそ、声を効果的に使うことができれば、日常生活にとって大きな武器になるはずだ。
様々な人が抱える声の問題とその解決法を、東京品川にあるボイス&メンタルトレーニングスクール『アマートムジカ』を運営する堀澤麻衣子氏、司拓也氏に話を聞いた。
■宇多田ヒカルは、しゃべるときになぜ声が「こもる」?
――ボイススクールに通う人は、どういった方が多いのでしょうか。
司拓也氏(以下、司) 男女比は半々で、年代は10~80代までと様々です。職業は会社員の方が一番多いですね。アナウンサー、役者さん、声優さんや、その志願者といった「プロおよびプロ志願者」の方は全体の5%ほどで、ほとんどが一般の方です。
堀澤麻衣子氏(以下、堀澤) 以前は30~40代の方が多かったのですが、最近は20代の方が増えましたね。就活の前に受けられる方も増えました。
――スクールに通う一般の方は、どういった声の悩みを抱えているのでしょうか。
司 声が小さい、喉が痛くなる、声がこもる、聞き返される、滑舌が悪い、声の音量のコントロールができない、早口になる、吃音などですね。声が「こもる」ことで悩まれている方は多いです。
――「声がこもる」とはどういう状態なのでしょうか。
司 「声が大きい」の反対は「声が小さい」という音量の問題です。一方、「声が通る」の反対は「声がこもる」という質的な問題になります。声が大きすぎると、場合によっては嫌悪感を持たれますが、声が通り過ぎることで嫌悪感を抱かれることはまずありません。
――こもっている声でイメージしやすい著名人の方はいますか?
司 モデルの栗原類さんはこもっていますね。表情を変えずにボソボソと喋りますよね。
堀澤 キャラクターですけれど、『クレヨンしんちゃん』のしんちゃんもこもっています。
――不思議なのが、歌手の宇多田ヒカルさんです。歌っているときは感じさせないのに、歌番組などでのトークを聞くと、しゃべり声がこもっている印象を受けます。
堀澤 たしかに以前の宇多田さんの声もこもっている印象を与える話し方をされてますね。宇多田さんは頬から上の表情があまり動かないんです。しゃべるときに使っているのが、頬から下の口の周りだけなんですよね。
――明らかに無表情の栗原さんと違い、宇多田さんは笑顔でしゃべっていた印象を受けますが……?
堀澤 宇多田さんの場合、目は笑っているけれど、もしかすると心から笑っていなかったのかもしれませんね。本当に笑っているときは目だけでなく、頬の上、顔全体の筋肉が動きますから。
「緊張」していたり、「相手に気持ちを悟られたくない」という気持ちが強い場合、頬から上の筋肉が動かなくなります。宇多田さんは歌では表情豊かであるのに、ある一時期、感情を出されるのが苦手だったのかもしれません。休養され、結婚、出産されてからはずいぶん暖かく優しい印象の話し方に変わりました。
宇多田さんに限らず、「目は笑っていても頬の上は動いていない」という人は、若い女性でもよく見かけます。
――そうした方が可愛く見えるから(本気で笑うと可愛くなくなるから)という理由からなのでしょうね。
堀澤 ただ、頬より上の顔を使わず、表情が乏しいまま口だけで話そうとすると、ボソボソと、こもりがちなしゃべり方になったり、喉を閉めて高音でしゃべろうとするので逆に耳についたり、不自然な声になったりしてしまうんです。
――口先ではなく、顔全体を使って話すことが大切なんですね。
堀澤 「顔全体」を超え、頭蓋骨の中で声を響かせるというイメージでいるとさらにいい声が出ますよ。そうするには、息の吸い方、吐き方だけを変えるだけ。それだけで、本当の自分自身の魅力的な声にあっという間に変わります。
今はメールやSNSでのコミュニケーションが増え、しゃべることの絶対量が昔よりは減っていますよね。その結果表情が乏しく、口だけしか使えずに話す人が増えています。口をあけずにしゃべる親御さんに育てられたお子さんは、親を見て、真似をして話しますから、声に関しては以前よりどんどん退化していると感じます。
■歌うときと話すときのボイストレーニングで鍛えるポイントは異なる
――しゃべるときはこもっていても、宇多田さんは歌うときはまったくそう感じさせませんよね。
堀澤 はい。歌のときは思い切り息を吸わないといけないのと、音程をとるために、自然と頬骨が上がり顔全体が動くんです。
――歌のボイストレーニングと、話すためのボイストレーニングは必ずしも一致していないんですね。
堀澤 はい。スクールでも歌のコースと話し声のコースは分けています。ただ一部は共通しており、正しい発声の基本は、息を吸って吐くことです。歌のトレーニングでは、喉をあけてたくさん息を吸って吐けるようにトレーニングをします。そうすることにより声が小さくて悩んでいた人が、歌のトレーニングで呼吸が上手になり、気がついたら、しゃべり声も改善されていたということはよくあります。
ただ、話す声をよくするには「メンタル的な要素」が大きいんです。「自分に自信がない」という気持ちが強い人にそのままの素の声を出してもらう際には、ボイストレーニングにプラスして「メンタルアドバイス」という別のアプローチをすることで声が良くなっていきます。

■居酒屋で店員を呼んでいるのにさっぱり振り向いてもらえない問題
――賑やかな居酒屋で、店員さんに「すみませーん!」と本人にしてみれば大きな声で叫んでいるのに店員さんがさっぱり気づかない人っていますよね。
司 はい。それが「大きいのに通らない声」です。一方で、声量は大したことがないのに、店員さんがすぐ気づく声もあります。これが通る声と通らない声の違いです。
――声をどうしたら通せるのでしょうか?
司 通らない声の人は空間に声が拡散しているんです。一方、通る声の人は一点から声が出ている。スクールでは、口全体で声を出すのでなく、上の歯の前歯と歯茎の間に1ミリ以下の小さな穴があいていて、その一点から声を高速で出すように、と指導しています。
堀澤 さらに、声の目的地ですね。後ろを向いている店員さんを呼びたいなら、「店員さんの後頭部の下の首の骨が出っ張っているあたり」を的にして、発声しましょう。
――目標は頭じゃなく、首なんですね。
堀澤 はい。正しい発声法を用いて、声の目的地を首にしてみてください。
――声を散漫に空間に広げようとせず、始点と目的地の、声の道を作ることが大切なんですね。
* * *
次回は引き続き堀澤氏、司氏に、「声がこもる」「声が小さい」に並ぶ声の悩み、「声がデカい」の解消法について聞いていく。
(文/石徹白未亜[http://itoshiromia.com/])

「アマートムジカ」ホームページ:http://amatomusica.com/
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