
(前編はこちら)
前編では、配偶者の介護をする妻、夫に、小室哲哉氏の引退をめぐる「介護と不倫」についてインタビューを行った。後編では、介護の現場をよく知る介護のプロの意見も聞いてみよう。
「つらさを共感してくれるとついフラっと行ってしまうのは当然」
ケアマネ・落合さんの場合
落合和歌子さん(仮名・52)は、訪問介護に長く携わり、今はケアマネジャーとして働いている。
――小室氏の引退劇をどう思いますか?
落合さん(以下、落合) 会見は見たくないし、聞きたくない。「週刊文春」(文藝春秋)はやりすぎですよ。彼らは、重い介護状態やコミュニケーションの取れない人の介護がどれだけ大変かを全然わかっていない。KEIKOさんは高次脳機能障害(※)だと聞いています。まだ若いのに、夫婦としてのコミュニケーションもできないわけですよね。そういう方の取材をすること自体おかしい。許せない。
――世の中では小室氏への同情論も多いようですが。
落合 同情する気持ちはよくわかります。今、高齢者が増えたし、認知症の人も増えて、介護の大変さをわかっている人が増えたからではないかと思います。同情論が多いというのは、高齢社会からすると自然な流れでしょうね。
――配偶者の介護をしている人が、異性に救いを求めるケースは珍しくないのでしょうか。
落合 小室さんの不倫相手は看護師なんですよね。看護とか介護福祉の世界の人は、相手に「共感」するのが基本中の基本。特に看護師だったら、医療についても詳しい。自分を受け止めてくれるうえに、介護で困っていることや疑問に思っていることへのアドバイスもしてくれるとなると、小室さんにとっては大きな救いになったのではないでしょうか。つい、フラッとしてしまうのは当然。入院患者が看護師さんと結婚する例はよくありますが、それと似たような心理状態だと思います。
もっとも、その看護師の女性に小室さんが言い寄ってきたときに――小室さんが言い寄ったのかはわかりませんが、そうだったとしたら、彼女はプロなんだから抑えるべきだったし、なんで断らなかったんだろうとは思います。相手はお客さまなんだから。もし不倫がいけないことだとしたら、ですが。私は全然いいと思っていますけどね。
――小室氏が言ったような「コミュニケーションが取れないことの精神的疲弊」についてはどう思いますか?
落合 高次脳機能障害の方に関わった経験はありませんが、認知症もコミュニケーションを取るのが難しい病気です。暴力を振るわれたり、暴言を吐かれたりしたのに、相手は全て忘れているし、それを指摘することもできない。先が見えないんです。それも、そういう状態が毎日続く。自分が懸命に相手に尽くしていても、まったく伝わらない。それは介護者にとって、ものすごいストレスだと思います。だから、小室さんの言葉はよくわかる。少なくともKEIKOさんの介護を放り出すことなく、毎日家に帰っているのだとしたら、救いも求めたくなるだろうと思いますね。
――小室氏は、不倫騒動のケジメとして引退を発表しました。今後は、おそらくこれまで以上に介護に専念すると考えられますが、一般の人が介護で仕事を辞めることについてどう思いますか?
落合 私は、利用者さんのご家族がフルタイムで働いていらっしゃる場合、緊急以外の連絡は土日にするように心がけています。ご家族でなければできないことはたくさんありますが、それもケアマネの考え方次第の部分もある。ケアマネによっては、勤務先に頻繁に連絡が来ることもあるでしょう。「私は絶対に仕事を辞めない。介護はできない」と宣言している方がいらっしゃいますが、その方のように「できない」と公言できれば、周りの人の行動や利用できる社会資源も変わってきます。
といっても、そういう方がいるとほかの家族にしわ寄せがいってしまうのも事実。そのご家族の場合は、子どもさんが「介護できない」というので、90代のお父さんが1人で奥様の介護をすることになっていて、それもどうかと思うのですが……。とにかく、「できない」と言えない人は、1人で抱え込んだ結果、勤務先に迷惑をかけることに耐えきれなくなって辞めることになってしまう。せめて兄弟で分担できれば、負担は2分の1、3分の1になるのですが。私たちの側もご家族を大切にしないといけないと自戒しています。
※高次脳機能障害
脳外傷、脳血管障害(くも膜下出血、脳梗塞など)、脳腫瘍などが原因で起きる認知障害や社会的行動障害。認知障害の症状としては、記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害の症状としては、固執性、感情コントロールや欲求コントロールの低下、依存性や退行がある。
八木美也子さん(仮名・50)は、訪問看護師、高齢者施設などの経験があり、今は脳卒中患者のリハビリ病棟に勤務している。看護師は、小室氏をどう見ているのだろうか。
――小室氏の引退会見をどのように見ましたか?
八木さん(以下、八木) 不倫報道にはまったく興味がなかったんですが、今回取材のためにインターネットなどで調べてみました。KEIKOさんが罹ったくも膜下出血は、脳卒中の中では重症で亡くなる人も多いんです。ネットなどで見た限りでは、KEIKOさんは体のマヒも残っていなくて動けているようだから、くも膜下出血にしては症状が軽い方かなと思いました。それでも、高次脳機能障害ということなので、それまでのKEIKOさんとは別人になっていると思います。基本的人格は変わらないとはいえ、そんな状態のKEIKOさんを小室さんは6年間も介護していたわけだから、偉い。よくやっていると思いますね。
――小室氏が介護に悩んでいたことを初めて知った人も多いようですが、世間の反応についてはどう感じましたか?
八木 坂上忍さんが「会見で、小室さんがKEIKOさんの病状を詳細に明かしたのは、どうかと思う」みたいなことを言ったらしいですが、そんなことを言うなよと思います。介護の大変さがわからない人は、何もわかっていない。小室さん自身、ものすごく疲れているんだと思います。高次脳機能障害の方の介護は、それは大変ですよ。ガンなんかだと人格は変わらないので、高次脳機能障害の介護に比べれば全然ラク。先も見えないんです。良くなる人もいるけれど、それも年単位の話。高次脳機能障害という病気自体、まず一般の人はまったく知らないので、そのつらさは想像もつかない。私も長く看護師をやっていますが、脳卒中のリハビリ病棟に来て、初めてわかったくらいなんです。
――どういう障害が出るんですか?
八木 脳の侵された部位によって、症状は全然違います。集中力が極端になくなって、例えば食事をしていても周りの人をキョロキョロ見たりして、同じことができない。身体能力はあるのに、トイレで一連の手順に従って動作をすることができないとか、服の上下、前後がわからない。人の顔を理解する部位が侵されると、顔も認識できなくなる。一見普通に見えても、さまざまな障害が出るんです。
――KEIKOさんもそういう状態であるかもしれない、と。
八木 おそらくKEIKOさんも1日1人で過ごすことができないのではないかと思います。常に誰かが介助しないといけない。それに、身体マヒがなさそうに見えるので、身体機能があまり衰えていないとすると、デイサービスも使えないでしょう。そもそも自分が病気だということもわかっていないかもしれない。とにかく、これまでの人格の部品が欠け落ちたような、まったく違う人になって、見ているのもつらいと思いますし、手もかかる。その点、インスタグラムを見ると、KEIKOさんは服もきちんと着ているし、メイクもしている。自分でできなくなっていると思われるので、小室さんがやってあげているとか、誰かにやってもらっているとしても、少なくともちゃんと気配りはしてあげているのでしょうね。だから、小室さんはよく頑張っていると思いますよ。
――よくやっていたのに、別の女性に目がいったというのは?
八木 すごく孤独だったんだと思う。介護がものすごく大変なのにもかかわらず、一般的な介護をしている人とも、そのつらさを分かち合えない。ただ、小室さんの場合、異性じゃなくてもよかったんじゃないでしょうか。話を聞いてくれる人なら誰でもよかった。たまたまそれが女性で、看護師だったということで。
――身近で介護不倫を見聞きしたことはありますか?
八木 介護する側ではなくて、介護される側の男性が、リハビリのつらさから、不倫相手に連絡を取ったという例はありましたね。で、それが奥さんにバレて離婚。不倫相手も、そういう状態の男性を押し付けられてもいいことないと思ったんでしょう。不倫関係ではないと主張していて。おそらく彼は不倫相手からも捨てられると思う。なんとも悲しい話ですよね。
――介護をめぐる不倫には、男女差ってあるでしょうか。
八木 女性はご主人の面倒をよく見ているケースが多いように感じますね。というのも、女性は友人とかにグチったりしてうまく発散できている。高齢の配偶者や親の介護をしていて、思い余って殺してしまう、などというのはだいたい男性ですよね。コミュニケーションがヘタだし、1人で抱え込もうとする。そのうえ、ほかの人にわかってもらえないとなると、孤独感が強いと思います。だから、小室さんも弱っているときに助けてくれる人がいて、うれしかったんじゃないでしょうか。
――会見で小室氏は、「(引退によって)どれほど生活水準が下がるのか計り知れない」などとも言っていました。介護離職についてどう思いますか?
八木 訪問看護をしているとき、仕事を辞めてしまう男性が結構いました。多いのが、母親と二人暮らしをしている50代の独身の一人息子というパターンですね。デイサービスとか、ショートステイなどといった利用できる介護制度のことをよく知らない男性が多いので、思いつめて、「お母さんの介護は自分がやる」と言って辞めてしまうんです。親を病院に連れていくなどで仕事を休むことが増えると、職場に居づらくなるというのもあるのでしょう。介護休暇が取得できる会社ばかりとは限りませんから。
でも自分が辞めてしまったら、介護で引きこもり状態になってしまうし、収入が断たれるうえに退職金も年金も減ってしまう。介護はいつか終わるんです。お母さんのことよりも、自分のことを一番に考えていいんだよと言いたい。とにかく仕事は辞めてはいけません。自分が介護費用を稼いで、介護はプロに頼もうと強く言いたいです。
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介護経験者や当事者、介護のプロの話はどれも考えさせられるものだった。小室氏の不倫報道に対する捉え方はさまざまだったが、人格の変わってしまった家族の介護は想像以上につらいということははっきりわかる。小室氏は、介護に論点をすり替えたわけでもないし、たまたま介護と不倫が重なっただけでもなかったということなのだろう、おそらく。当人にも本当のところはよくわからないのかもしれないが。
介護のプロでも高次脳機能障害について知る人は少ない。八木さんも、「高次脳機能障害についてあまりに知られていないので、何らかの機会にその介護の大変さについて訴えたかった」と言っていた。小室氏の会見が問題提起となったことは確かだ。これがきっかけで、高次脳機能障害について世間の理解が少しでも進んでいけばいいと思う。
小室氏にも、KEIKO氏にも道が開けますように。