新年を迎えると、料理教室や英会話といった習い事や、資格取得へ向けての勉強など、新しいことを始めだす人も多い。特にこの時期には、“正月太り”という言葉があるように、寒い時期の運動不足の解消を狙って“入会金無料”や、“体験レッスン無料”という謳い文句でスポーツジムの勧誘を目にする機会も増えるのではないだろうか。
いわゆる「ティップネス」や「スポーツオアシス」のような聞き慣れた有名フィットネスジムではなく、最近よく駅前で見かけるのが「24時間営業」のジムである。プールやスタジオなどがない省スペースながら、月額7,000円前後の価格で好きな時間に利用できる利便性が受けて、いま利用客が増加傾向にある。こうしたジムの中には、今年月に国内店舗が300店舗を突破という、驚異的な勢いで店舗数が増え続けているチェーン店も。そんな筋トレブームを支えているのが、実はアラサーに増加している“鍛えたがる女子”たちなのだという。
24時間営業ジムを利用しているという加奈子さん(仮名)は、「ジム通いを始めるまでは、1日に映画を3本もはしごするなど、元々はインドアの文化系女子でした。それに、食べ歩きが趣味だったため、ラーメンやカレーというような高カロリーの食事を仕事帰りに食べる習慣から、太りがちな食生活をしていたんです。でも、アラサーを過ぎると、ただ痩せるだけでは貧相な体になってしまうため、女性らしいメリハリのあるボディラインを目指してジム通いを始めました」という。
■いまや、女性にとって腹筋はステータス!?
“鍛えたがる女子”ブームを語る上で、インスタグラムをはじめとするSNSとの関連性も見逃すことはできない。自撮りした腹筋画像とともに、「#腹筋女子」というハッシュタグをつけてSNSに投稿する女子が存在し、昨年12月には、そこから派生した『#腹筋女子 お腹が割れたら人生変わった!』(著:山崎麻央、講談社)という本も出版されている。
この腹筋自撮りに限らず、いかに自分が筋トレに励んでいるかを投稿する女子も少なくないようで、前出の加奈子さんも、「筋トレを始めるまでは、食事や見に行った映画の感想などをSNSに上げていたのですが、今は週に半分くらいは筋トレ関係の投稿を行うようになりました」と語る。筋トレ関係の投稿は、「記録ログも兼ねている」といい、手帳などに書き込むような感覚でTwitterにツイートすると、ソート機能などを使いチェックイン回数を数えたりするのに便利なのだそう。このようにSNS上には、筋トレを文字化してモチベーションアップするタイプと、実際に鍛えている様子や、腹筋画像を挙げる画像派と二分化される。筋トレの記録ログをツイートするタイプは、元々は文化系や運動嫌いだったタイプの傾向があり、反対に“腹筋女子”は、これまでも自撮り画像や女子会の様子などをアップしていたアクティブなタイプのようだ。
確かに数年前も、芸能人が通うことで注目が集まった“加圧トレーニング”や、誰でも簡単にできるのがウリだった“体幹トレーニング”も女子の間ではやったが、それと違うのは、いまの“鍛えたがる女子”は、自分が鍛えている過程を隠さず周りにアピールしている点である。
その背景には、「『痩せている=美しい体』という発想が徐々に薄れ、筋肉質な女性がかっこいいという風潮が出てきたのでは」(加奈子さん)という。“腹筋”や“筋トレ”は1つのステータスとなりつつある。それを実証するかのように、タレントの中村アンや、女優の榮倉奈々、モデルのローラなど、女性のあこがれるタレントとして名前がよく挙がる人たちは、機会があればその美しい腹筋を披露している。 “かわいい”女性像より、“かっこいい”と周りから思われたいと考える女性が増えてきたのかもしれない。
勤務している会社が法人契約をしているスポーツジムに通っている愛子さん(仮名)は、痩せすぎの体形がコンプレックスだったという。たまたま、格闘技やプロレスを見に行くのが趣味だった職場の同僚に勧められ、一緒にスポーツ観戦をするようになってから、自分も鍛えるようになっていった。これまでは運動嫌いの無趣味で、仕事のあともまっすぐ家に帰るような生活だったが、「ジムでは、早帰りデーなどは同僚女性とジムで一緒になることもあり、成果を出さねばという気持ちになっていく」とのこと。周りにもジム通いが知れ渡っているので、「今日は〇〇を鍛えた!」というような、トレーニングでの成果をSNSに投稿するのも日課になりつつあるという。
愛子さんは「筋トレは、恋愛や仕事と違い、ある程度自己コントロールで、目標に近づけるのと、数字を可視化できるのが達成感を感じられていい」と話し、実際、
SNS上には、こうした“数字”を投稿するケースも散見される。例えば、インスタグラムやFacebookなどで、「Nike+ Training Club」アプリを使ったトレーニング内容や時間の投稿や、交通機関を使わずにランニングで移動した時間と経路をアップする画像などを見たことがないだろうか? 中には、「#筋トレ女子」や「#筋トレ中」というハッシュタグとともに、BMIや筋肉量を線グラフで表している画面キャプチャを載せる人もいるようである。真面目な女子ほど、筋トレというワークアウトにハマりやすいという面もあるのだろうか。
■もともとのジム愛用者からは苦言も
一方、筋トレや腹筋など自画撮りや、“数字”はアップしないものの、チェックイン機能を使ってジムにいることを投稿するなど、 “鍛えている”ことを匂わせる投稿も目につく。スタジオ内でのスマホ使用が禁止されているあるスポーツジムでは、それでもどうにかジムに来ているという写真を撮りたいのか、インスタ映えするプールのあるラウンジで、プロテインの入ったグラスを片手に撮影する女子もいるとか。
そんなブームに乗って増殖しだした“筋トレ女子”のマナーに対して、困り顔の利用客の声も聞こえてくる。3年前から、パーソナルトレーニングができるジムに週3回ペースで通っているアラフォー世代の由香里さん(仮名)は、「最近、にわかな筋トレ女子が増えて、有料で私物を置いておける月極の個人ロッカーの空きがないみたいなんですよ。中には1つの個人ロッカーを仲間内の3人で使っている人も見かけて、マナーが悪くて驚きました」と語る。このジムでは、初心者向けの講座を受けると無料でプロテインが飲めるため、正規会員ではなくスポット利用の会員の中には、プロテイン目的で何度も講座を受けるというツワモノもいるという。
彼女はマシントレーニングについても苦言を呈す。「使った後に、置いてあるタオルで椅子やマシンに着いた汗を拭いてから移動するというようなマナーを知らないんです。あとマシンを使っている人の目の前に立って、順番待ちしたり。そんな威圧的なことをされたら、気持ちよくトレーニングできないじゃないですか」。このように、マナーを学ぶことなく、あたかも“ファッション”としてといった具合に、筋トレを“アピールする”女子も中には存在しているようだ。
仕事では責任のあるポジションを任されつつあり、プレッシャーが絶えないといえるアラサー世代。恋愛においても、結婚問題や出産のリミットなど、悩みは尽きない。そんな公私ともに忙しいアラサー女子が、あらゆる方法で“鍛えている”というのをアピールする背景には、頑張っている自分をわかりやすい形で表現できるからかもしれないが、新たな“表現方法”が見つかったときには、ジムから女性が一斉に消えるなんてことも、なきにしもあらずなのではないだろうか。
(文=池守りぜね)