連日メディア等で、LGBTQ等性的マイノリティの皆さんが注目されています。多くの当事者の方もカミングアウトし、様々な知識が共有されつつあります。
ですが一方で、LGBTQとセットで語られることもある「インターセックス/性分化疾患」について正確な知識を持っている人はまだ少なく、社会に向けて発信しようとする当事者の方も数えるほどしかいらっしゃいません。
性分化疾患はここ15年の間に、生物学的知見も進歩し、迷信ではない現実の当事者の状況も明らかになっています。そして実は、現実のDSDsを持つ子どもたちや人々は、むしろ切実に女性・男性であることが大多数で、「男でも女でもない中性の人」といったステレオタイプな偏見が、当事者家族の社会的孤立や自殺企図率を高める原因にもなっているのです。
申し遅れました。いわゆるインターセックス/性分化疾患、現在では「DSDs(ディーエスディーズ):Differences of sex development:体の性の様々な発達」と呼ばれる体の状態を持つ子どもと家族のための情報サイト「ネクスDSDジャパン」を主催している、ヨ・ヘイルと申します。日本や海外の各種DSDs患者家族会・サポートグループと連携し、DSDsの正確で支援的な知識の啓発を行ってきています。
この記事では、DSDsについてのできるだけ新しく正確な基礎情報を、Q&A形式でご紹介していきましょう。以下のような流れでお話をしていきます。
・DSDs:体の性の様々な発達ってなに?
・DSDsとインターセックス、どっちがいいの?
・DSDsにはどのような体の状態がありますか?
・LGBTQ等性的マイノリティの人々との関係は?
・トランスジェンダーの人とはどう違うの?
・まとめ:性を、人を大切にするとはどういうことか?
Q.DSDs:体の性の様々な発達ってなに?
DSDsとは、「染色体や性腺、もしくは解剖学的に、体の性の発達が先天的に非定型的である状態」を指す用語です。
「人間の体の性のつくり」(外性器の大きさ・形や、性腺(卵巣・精巣など)の種類、女性の膣・子宮の有無、X・Y染色体の構成)については、「こうでなくては女性/男性の体とは言えない」という固定観念があります。DSDsは、この固定観念とは生まれつき一部異なる体の状態を指します。
DSDsの人がどのくらいいるかというと、どこまでをDSDsに含めるかによって異なってきます。最大限では1.7%とも言われていますが、性教育や人権の先進国オランダの国家機関の調査で示されている全人口の約0.5%という数字が妥当なところでしょう。
Q.DSDsとインターセックス、どっちがいいの?
まず、英語ではHermaphrodite、日本語では「両性具有・半陰陽」といった「男でも女でもない性別」を連想させる用語は、医学的にも人権支援の上でも、当事者の心を傷つけるものとして世界的に使われなくなっています。
医学的には日本では「性分化疾患」、欧米の政治運動では「インターセックス」とも呼ばれています。ですが日本で「インター”セックス”」という用語は「性行為」を連想させるため、大多数の当事者家族は忌避されています。ここでは中立的に「DSDs(体の性の様々な発達)」という略称を使っていきましょう。
「DSDs」は、ただの包括用語に過ぎず、約30種類(大きく分けると8つほどのグループ)ほどの体の状態があります。DSDsは、いわばASEAN(東南アジア諸国連合)のようなものでしかありません。インドネシアの人に「あなたはASEAN人ですか?」とは聞かないことと同じです。欧米の政治運動や、DSDを持ちかつLGBTQ等性的マイノリティの人を除けば、「インターセックス」や「性分化疾患」等を自身のアイデンティティとしてアピールすることはありません。また、国の違いと同じく、あるDSDの人の話を他のDSDにそのまま適用できないことも理解する必要があります。
Q.DSDsにはどのような体の状態がありますか?
ここでは判明時期等「出生時」「思春期前後」「染色体」の3つにわけて、代表的な体の状態を説明しましょう。
(1)生まれた時に判明するDSDs
赤ちゃんが生まれた時、たいていは外性器の形で性別が判明します。しかし約0.02%の確率で、外性器の形や大きさ、おしっこが出てくる尿道口の位置等が、一般的とされる女の子・男の子のものとは少し違っていて、性別の判定にしかるべき検査が必要になる女の子・男の子もいます。
代表的なのは、ホルモン異常によってクリトリスが大きくなって生まれる女の子です。このホルモン異常は命にかかわる疾患であるため、日本では赤ちゃんが全員受ける検査の対象にもなっています。
他にも、尿道下裂の男の子、膣口や尿道口・肛門が分化せずに生まれる女の子、部分型アンドロゲン不応症・混合性性腺異形成・卵精巣性DSDの一部など、さまざまなDSDsがあります。
ここで大切なのは、遺伝子検査等の大きな発展もあって、現在では女の子か男の子かの判定がしかるべき検査で行われていることです。また、DSDsを持つ人々で後に性別変更する人も、まだ検査がしっかりしていなかった時代を含めても、約2~3%と言われています。
支援団体も、DSDsを持って生まれた赤ちゃんの男女の性別判定には反対していません。しかるべき検査で男女の判定をして、性別違和がある場合には対応をするように求めているのですが、社会では今でも「どちらでもない性で育てることを求めている」という誤解・偏見が根強く残っています。
(2)思春期前後に判明するDSDs
この時期で代表的なものは、初潮が無い等で判明するアンドロゲン不応症(AIS)の女の子です。子宮と膣がなく、染色体がXYで性腺が精巣であることが分かり、大多数の女の子は大きな衝撃を受けます。そのため、現在、専門の医療機関では、患者家族の皆さんへの説明は、細心の注意を持って行われています。
一般的には精巣は男性に多いホルモンのテストステロンを作ります。ですがAISの女の子の場合、体の細胞がテストステロンには反応せず、女の子に生まれ・育つのです。過剰なテストステロンはエストロゲンに変換されます。そのため、現在DSDsの領域では、このような女の子の性腺は、男性に特有の精巣ではなく、エストロゲンを作る「機能」を持つ性腺と見なされています。
思春期前後に判明するDSDsには、他にも、染色体はXXで、膣と子宮が生まれつき無かったことが分かるMRKH症候群の女の子もいます。
AISやMRKH症候群の女の子・女性がもっとも悲しむのは、生物学的なつながりがある赤ちゃんを産めないという不妊の事実です。MRKH症候群の女性の場合、性腺は卵巣で卵子が作られていますので、現在世界各国で子宮移植が実施され、赤ちゃんも生まれています。
(3)X・Y染色体バリエーション
学校では、「男性の染色体はXY、女性の染色体はXX」と習っていると思います。しかしこれは、基礎的な知識に過ぎません。確かに大多数の男性の体の染色体はXY、大多数の女性の体の染色体はXXですが、XXY染色体の場合は男の子に生まれ育ちます。Xが1つ(ターナー症候群)の女の子は女の子に生まれ育ちますし、XXYY染色体の人は男の子に生まれ育ちます。XYY染色体の男の子、XXX染色体の女の子もいます。
実は女性・男性の体の違いを決めるのは、X・Y染色体の数ではなく、Y染色体の有無、より厳密に言えば、通常はY染色体上にあるSRY遺伝子の存在なのです。1990年にSRY遺伝子が発見されてから現在までに、胎児期からの体の性の発達には、恐らく約100個以上の遺伝子が関係しているだろうと言われています。生物学は既に、染色体の数ではなく、遺伝子の時代になっているのです。
Q.LGBTQ等性的マイノリティの人々との関係って?
まず、LGB(レズビアン・ゲイ・バイセクシャル)は、同性愛・両性愛など、どういう人に愛情を感じるかという「性的指向」を表し、T(トランスジェンダー)、Q(ジェンダークィア:日本ではXジェンダー)は、その人の性自認(出生時に割り振られたのとは異なる性自認、あるいは男でも女でもないという性自認)を表すものです(LGBTの基礎知識については、遠藤まめたさんのこちらの記事を参照してください)。
一方DSDsは、性自認や性的指向ではなく、あくまで外性器の大きさ・形や、性腺の種類、染色体の構成、女性の子宮の有無など、「これが『普通の』女性の体・男性の体」とする固定観念とは一部異なる「体の性のつくり」を表す概念です。
そしてDSDsを持つ人々の大多数は、自身をLGBT等性的マイノリティの皆さんの一員とは考えていません。これは、DSDsを持つ人々の体験が、LGBTQの皆さんのような内発的なものではなく、むしろ事故やガンで子宮や卵巣を失った女性などの外的なトラウマ体験に近いということも理由のひとつでしょう。そういう人が自分を性的マイノリティと考えないのと同じなのです。
さらにDSDsを持つ人々の大多数は、自分が女性・男性であることにほとんど全く疑いを持ったことがなく、むしろ自分の体が完全な女性・男性と見られないのではないか?と不安に思っています。LGBTQ等性的マイノリティの皆さんの「男性・女性に分ける社会に疑問を投げかける」といった流れとは、実は全く逆という状況がほとんどなのです。
ただし、もちろん、DSDsを持つマイノリティの人々にも、様々なマイノリティの人がいるのと同様、LGBT等性的マイノリティやその支援者の人々はいらっしゃいます。 ですが、メディアやLGBTQの皆さんの前に登場するDSDsを持つ人々は、その中でも性的マイノリティの人々に限られてしまい、センセーショナリズムも相まって、更にステレオタイプなイメージを広めている状況があります。(性的マイノリティの皆さんの「オネエ問題」に近いかもしれません)。その背後には、社会的偏見にじっと耐えている、多くの当事者家族の皆さんがいるのです。
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DSDsを持つ当事者の皆さんの思いを通り越して、性的マイノリティの一員に加える事は、例えば国と国との関係で考えるといいでしょう。それぞれの国には「主権」というものがあり、周りの都合で勝手に組み入れることはできないのです。LGBTQ等性的マイノリティの皆さんとDSDsを持つ人々との関係は、互いが互いの理解者となることが大切になってくるでしょう。
Q.トランスジェンダーの人とはどう違うの?
DSDsを持つ人々と、トランスジェンダー・性同一性障害、ジェンダークィア(Xジェンダー)の人々との混同は、今でも根強くあります。
たとえば、DSDsを持つ人々に対して「性自認は女性(男性)なんですね」と言うことは、一見配慮しているように見えますが、これは「あなたの身体は女性(男性)とは言えないけど、自分を女性(男性)と思っているので、女性(男性)と認めます」と言っているようなものになります。
支援団体も20年近く前から「ジェンダー(性別)の問題ではない」と言っているとおり、DSDsを性自認や性別(ジェンダー)の問題とはとらえていません。
また、自身の生まれの性別に違和感を感じる人の中で、何らかのDSDsが見つかる人というのはごく少数であることも分かっています。さらに、自身を「男でも女でもない」等の自認する人は、LGBTQの「Q:ジェンダークィア(日本ではXジェンダー)」の人々で、その大多数はDSDsを持つ人々ではありません。
DSDsの問題群を、すぐさま性自認や男性・女性というジェンダーの問題と受け取る意識の背後には、むしろ「これが『普通の』男性・女性の体だ。(それに合わなければ男性・女性とは言えない)」という社会的な固定観念・規範が働いていると言えるでしょう。
まとめ:性を、人を大切にするとはどういうことか?
AISを持つあるおばあちゃんは、もう50年ほど前、彼氏に「私は染色体がXYで子どもが産めない」と勇気を持って伝えました。彼氏の返答は、「僕が好きなのは君の染色体でも君の赤ちゃんでもない。君なんだ!」というものでした。
一方で、同じAISを持つある女性は、カウンセラーに自分の体の話を打ち明けたところ、「あなたは男でも女でもないと受け入れるべき」と無理強いされ、「私は女です!」と反発すると、逆に怒りをぶつけられました。
このふたつのエピソードを分けるものは何でしょう?
DSDsを持つ子どもたちや人々は、「男でも女でもない性別」というイメージが投影され、被差別対象や性的・耽溺的なファンタジーの対象となることがあります。また、男性・女性という枠組みを超える理念や理想を語るために、背後の人々がどのような思いをしているのかも顧みず、なかには当事者女性の全裸の写真を用いて、多様性のひとつとして言及されるなどということまであります。オリンピックで「性別疑惑」という汚名を着せられたキャスター・セメンヤさんは、自分の極めて私的な領域の話を暴露され、世界中の人々が、彼女の体の性のあり方に対して様々な「意見」を述べるということもありました。
想像してみてください。自分や自分のお子さんの「性器」について、自分の預かり知らないところで、「拒否的」であれ「好意的」であれ、様々な人々が様々な「意見」を述べあっているという状況を。
このような状況は「オブジェクティフィケーション(モノ化・自己目的化)」、あるいは「観客の問題」と呼ばれています。
理念や理想というものは、それがどれほどだけ高邁なものであっても、時に急進的になり、ひどい場合は現実の人々を抑圧し、否定しかねません。医療人類学者のアリス・ドレガーさんは、自分の理念を語るために、このような体の状態を持つ人々を引き合いに出す状況を、「生け贄」という強い言葉で表現されています。支援運動で大切にされているのは、その人ひとりひとりがどのように自分の人生を生きていくのか、あくまでその主体性であって、理念や理想ではないのです。
「性」という領域では、自他の区別が失われることが多くあります。しかし、自分の「欲望」と相手の「望み」との混同は、性的ハラスメントや痴漢・レイプ被害のように、相手の心を深く損なうことがあります。特にDSDsは、性の中でも「性器」という極めて私的な領域に関わる話です。その人の染色体や性器、性自認、性の理想の話ばかりに拘泥することなく、不断に「人間」を見失わない態度が必要になります。そうした態度の上で、正確な知識をアップデートしていく。そのための基礎知識として、この記事を参考にいただければと願います。
(ネクスDSDジャパン ヨ・ヘイル)